説明

排水処理装置及び排水処理方法

【課題】蓚酸及びアルミニウムを含有する排水を十分に浄化できる排水処理装置及び排水処理方法を提供する。
【解決手段】蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に紫外線を照射する紫外線照射手段(18)を有する第1蓚酸分解槽(3)と、光触媒(30)と、少なくとも前記光触媒(30)に紫外線を照射する紫外線照射手段(19)とを有する第2反蓚酸分解応槽(7)と、前記第1蓚酸分解槽(3)の前記排水を前記第2蓚酸分解槽(7)に供給する供給手段(12)と、アルミニウムを除去可能なイオン交換樹脂を有するイオン交換手段(46)とを備えたことを特徴とする排水処理装置(1)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水を十分に浄化できる排水処理装置、及び排水処理方法に関する。更に詳細には、本発明は、蓚酸アルマイト処理された物の洗浄に用いられた洗浄排水(廃液)を洗浄水として再利用できる程度にまで浄化できる排水処理装置、及び排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓚酸アルマイト処理された金属物品の洗浄に用いられた洗浄排水には、主として、蓚酸等の有機酸(有機物)とアルミニウムイオン等の金属類が含まれている。その洗浄排水の浄化処理は、凝集沈殿法を用いるのが一般的である。具体的には、洗浄排水中の金属類をアルカリにより中和して、沈殿させて除去した後、その上澄みを適当なpHに調整して河川に放流する。この場合、大量の洗浄排水を河川に放流しているので、環境への負荷が高い。そのため、洗浄排水の再利用が求められている。
【0003】
凝集沈殿法の他にも種々の方法が検討されているが、問題点が多い。例えば、逆浸透膜(RO膜)法では、常時濃縮された廃棄すべき洗浄排水が発生する。イオン交換法では、イオン負荷が高い場合には、定期的にイオン交換樹脂の再生を行わなければならず、その再生処理により濃縮された廃棄すべき洗浄排水が定期的に発生する。そのため、逆浸透膜法においてもイオン交換法においても、凝集沈殿法と組合さなければならず、洗浄排水の処理が非常に大掛かりなシステムとなる。
【0004】
近年、紫外線照射ランプからの紫外線を光触媒に照射して、光触媒と被処理流体を接触させ、光触媒反応により被処理流体中の有害物質等の分解を行う有害物質含有排水の浄化方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1においては、シリカ成分を主体とする酸化物相(第1相)とシリカ以外の金属酸化物相(第2相)との複合酸化物相からなり、光触媒機能を有するシリカ基複合酸化物繊維の不織布を用いたことを特徴とする処理流体と光触媒との接触効率に優れた浄化装置が提案されている。
【0006】
特許文献2においては、過酸化物が含有される排水の処理装置であって、排水に含まれる過酸化物を分解するための光触媒と紫外線光源とを有する光触媒槽と、光触媒槽からの処理水に残存する過酸化物を分解する下向流式の活性炭塔とを含む排水の処理装置が提案されている。
【0007】
特許文献3においては、紫外線を用いて被処理水中に含まれる有機物を酸化分解処理する紫外線酸化装置であって、紫外線を照射する紫外線照射手段と、紫外線を被処理水に照射して有機物の酸化分解を行うための少なくとも1つの反応部と、光触媒を担持せしめた光触媒フィルターと、被処理水を光触媒フィルターに透過させる流路と、を備えることを特徴とする紫外線酸化装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−175333号公報
【特許文献2】特開2006−289283号公報
【特許文献3】特開2009−018282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの排水処理装置によっては、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水の十分な浄化が困難であって、更なる改善が必要とされている。そこで本発明は、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水を十分に浄化できる排水処理装置及び排水処理方法を提供することを目的とする。特に、蓚酸アルマイト処理された物の洗浄に用いられた洗浄排水を浄化して、洗浄水として再使用できる程度にまで排水を浄化できる排水処理装置及び排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に光触媒存在下で紫外線を照射して蓚酸を分解し、その排水をイオン交換処理してアルミニウムを除去することにより、排水を十分に浄化できることを見出した。すなわち、本発明は、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に光触媒存在下で紫外線を照射して蓚酸を分解する蓚酸分解工程と、蓚酸分解工程後の排水をイオン交換処理してアルミニウムを除去するイオン交換処理工程とを備えることを特徴とする排水処理方法である。
【0011】
また、本発明は、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に紫外線を照射する紫外線照射手段と、光触媒とを有する蓚酸分解槽と、アルミニウムを除去可能なイオン交換樹脂を有するイオン交換手段とを備えたことを特徴とする排水処理装置である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、蓚酸及びアルミニウムを含有する排水を十分に浄化できる排水処理装置及び排水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る排水処理装置の概念断面図である。
【図2】光触媒カートリッジの概念図である。
【図3】実施形態に係る工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る排水処理装置の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。排水処理装置1は、蓚酸とアルミニウムを含有した排水に紫外線を照射可能な第1蓚酸分解槽3と、酸化チタンを表面に有する光触媒や排水に紫外線を照射させる第2蓚酸分解槽7と、排水中の固形物を除去する濾過装置40と、排水中のアルミニウムをイオン交換により除去するイオン交換装置46とを備えている。
【0015】
第1蓚酸分解槽3は、直方体状に形成された流動槽20と、流動槽20の底面の上流側(図1の左側)と底面の下流側(図1の右側)を連通する循環路10、11とを備えており、この流通路10と11の間にポンプ5が設けられている。流動槽20の上流側の側面には、排水流入口16が形成され、下流側の側面には、第2蓚酸分解槽7と連通する連通路12の上流側と接続する排水流出口17が形成されており、図示しないポンプによって排水流入口16から排水流出口17に排水が流動するように構成されている。また、ポンプ5によって流動槽20内の排水が循環路10、11を介して流動槽20内を循環するように、すなわち排水が流動槽20→循環路11→循環路10→流動槽20と循環するように構成されている。さらに、流動槽20内には、流動槽20内の排水に紫外線を照射させる紫外線ランプ18と、その排水に酸素を注入する空気注入部22が配置されている。
【0016】
紫外線ランプ18は、上下方向に5本、流動方向に7列、合計35本が、その長手方向が流動方向に対して垂直で、かつ流動槽20の底面と平行となるように配置されている。紫外線ランプ18の外表面には、円柱状に形成されたカバー部材が設けられ、カバー部材は、250〜260nmだけでなく、180〜190nmのピーク波長を透過する材質からなる。このカバー部材の材質としては、例えば、合成石英が挙げられる。一般的な低圧水銀ランプは、本来、185nmと254nmの2つの波長を有するが、通常のカバー部材の素材であるガラスが短波長の紫外線を透過しないため、254nmの波長のみを照射する。本実施形態に係る排水処理装置において、紫外線ランプ18は、上述のようにカバー部材の素材を特殊なものとすることによって、180〜190nmと250〜260nmにピーク波長を有する紫外線を照射可能にしている。紫外線照射ランプ18から照射される紫外線は、180〜190nm、好ましくは185nmにピーク波長を有し、かつ、250〜260nm、好ましくは254nmにピーク波長を有する。なお、本実施形態において、紫外線照射ランプ18のカバー部材は、円柱状に形成したが、それに限定されない。紫外線照射ランプ18の数は、排水に含まれる蓚酸の量等に応じて決定される。
【0017】
空気注入部22は、流動槽20の底面に最も近い紫外線ランプ18の紫外線ランプ間に配置され、紫外線ランプ18の長手方向のほぼ全域に亘って空気を注入できるように構成されている。空気注入部22は、第1蓚酸分解槽3の下部からエアレーション方式でバブリング可能な装置である。空気供給量は、排水200L/minに対して、200〜500L/minであることが好ましく、350L/minであることがさらに好ましい。バブリングした水中の溶存酸素量は、飽和率で50〜100%であることが好ましい。また、この空気注入部22とともに、又はそれに代えてマイクロバブル発生装置を用いて空気を供給してもよい。一般にマイクロバブルの発生方法として、加圧溶解式、エジェクタ式、キャビテーション式、及び旋回式があるが、マイクロバブルの発生方法としては、加圧溶解式、及びエジェクタ式が好ましい。マイクロバブルの特性は生成した気泡の直径と生成量に左右されるため、比較的大量かつ微細な気泡を生成できる加圧溶解式の発生方法が特に好ましい。発生したマイクロバブルの直径は30μm以下であることが好ましい。マイクロバブル発生装置でマイクロバブルを発生した水中の溶存酸素量は飽和率で80〜150%であることが好ましい。マイクロバブルの自己加圧効果によって溶存酸素の飽和量以上の酸素を溶存させることができる。
【0018】
第2蓚酸分解槽7は、直方体状に形成された流動槽28と、流動槽28の底面の上流側と下流側の底面を連通する循環路32と、を備えている。流動槽28の上流側の側面には、連通路12の下流側と接続する排水流入口25が形成され、流動槽28の下流側の側面には、排水流出口26が形成されており、図示しないポンプによって排水流入口25から排出流出口26に排水が流動するように構成されている。流動槽28内には、光触媒及び流動槽28内の排水に紫外線を照射させる紫外線ランプ19と、その排水に酸素を注入する空気注入部23と、酸化チタンを表面に有する光触媒を有する平板状の光触媒カートリッジ30とが配置されている。
【0019】
紫外線ランプ19は、光触媒カートリッジ30に光を照射するように、上下方向に5本、流動方向に3列、合計15本が、その長手方向が流動方向に対して垂直で、かつ流動槽28の底面と平行となるように配置されている。紫外線ランプ19は、第1蓚酸分解槽3で用いられた紫外線ランプ18と同じものを用いることができる。空気注入部23は、流動槽28の底面に最も近い紫外線ランプ19の紫外線ランプ間に配置され、紫外線ランプ19の長手方向のほぼ全域に亘って空気を注入できるように構成されている。空気注入部23は、第1蓚酸分解槽3で用いられた空気注入部22と同じものを用いることができる。平板状の光触媒カートリッジ30は、その面が排水の流動方向に対して垂直に交わるとともに、その間に紫外線ランプ19を挟むように一対配置されており、流動槽28の流動方向に対して垂直な面全域に至るように構成されている。本実施態様に係る排水処理装置1においては一対のみ配置したが、処理能力等に応じて複数配置してもよい。また、本実施態様に係る排水処理装置において、光触媒カートリッジ30は、このように排水の流動方向に対して垂直に交わるように配置したが、流動する排水が効率よく各平板状不織布34を通過すればよく、例えば、斜めに配置してもよい。光触媒カートリッジ30を斜めに配置する場合、流動方向に対して10°前後、傾いて設置されることが好ましく、5°前後であることがさらに好ましい。
【0020】
光触媒カートリッジ30は、光触媒繊維を用いて平板状に形成された平板状不織布34と一対の金網36とからなり、図2に示されるように平板状不織布34が一対のステンレス製の金網36によって挟持されている。このように金網36をサポート材として用いてカートリッジ状にすることにより、光触媒機能が劣化した平板状不織布34を容易に取り換えることができる。
【0021】
次に、光触媒繊維からなる平板状不織布34の好ましい例について説明する。光触媒繊維は、シリカ成分を主体とする酸化物相(以下、第1相という。)とTiを含む金属酸化物相(以下、第2相という。)との複合酸化物であるシリカ基複合酸化物繊維からなることが好ましい。
【0022】
第1相は、シリカ成分を主体とする酸化物相であり、非晶質であっても結晶質であってもよく、またシリカと固溶体あるいは共融点化合物を形成し得る金属元素あるいは金属酸化物を含有してもよい。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)としては、例えば、チタン等が挙げられる。シリカと固溶体を形成し得る金属酸化物の金属元素(B)としては、例えば、アルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、及び鉄等が挙げられる。
【0023】
第1相は、シリカ基複合酸化物繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。シリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の存在割合は40〜98重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。
【0024】
一方、第2相は、Tiを含む金属酸化物相であり、光触媒機能を発現させる上で重要な役割を演じるものである。金属酸化物を構成する金属としては、Tiが挙げられる。この金属酸化物は、単体でもよいし、その共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等でもよい。第2相は、シリカ基複合酸化物繊維の表層相を形成しており、シリカ基複合酸化物繊維の第2相の存在割合は、金属酸化物の種類により異なるが、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することがさらに好ましい。第2相のTiを含む金属酸化物の結晶粒径は15nm以下が好ましく、特に10nm以下が好ましい。
【0025】
第2相に含まれる金属酸化物のTiの存在割合は、シリカ基複合酸化物繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは表層から5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでもよい。尚、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する金属酸化物と第2相を構成する金属酸化物全体、即ちシリカ基複合酸化物繊維全体に対する第1相の金属酸化物及び第2相の金属酸化物の重量%を示している。
【0026】
上記光触媒繊維の表面は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、インジウム(In)及びスズ(Sn)のうち少なくとも1以上の金属が担持されているのが好ましい。
【0027】
上記のような傾斜構造を有する光触媒繊維は、既知の方法によって製造することができ、例えばWO2009/63737号公報に記載の方法に基づいて製造することができる。
【0028】
第1蓚酸分解槽3と第2蓚酸分解槽7とは、連通路12によって連通している。連通路12には、バルブ14が設けられており、バルブの閉口状態とすることにより、第1蓚酸分解槽3と第2蓚酸槽7をそれぞれ独立させた系とすることができる。本実施形態に係る排水処理装置1において、バルブ14は、ゲートバルブ、グローブバルブ、ボールバルブ、バタフライバルブ、ニードルバルブ、ストップバルブ、及びチェックバルブなどを用いることができ、ボールバルブを用いることが好ましい。また、バルブ14は、任意の時間で開閉できる機能を有することが好ましく、このようなバルブとして、電磁バルブや電動バルブが好ましい。開閉のタイミングは、第1蓚酸分解槽3内の紫外線吸収率で制御することが好ましく、特に波長254nmの吸収率が10%以下になった時にバルブの開閉を行うことが好ましい。
【0029】
第1蓚酸分解槽3の上端近傍の上流側と第2蓚酸分解槽7の上端近傍の下流側とは、槽間循環路52により連通しており、槽間循環路52のそれぞれの先端部は、それぞれの槽の排水中に延在している。槽間循環路52には、排水を第2蓚酸分解槽2から第1蓚酸分解槽3へと循環可能なポンプ54が配置されている。
【0030】
濾過装置40は、排水中の懸濁物質を除去可能なものであれば特に制限は無いが、例えばマイクロフィルターが用いられる。第2蓚酸分解槽7と濾過装置40とは、流通路42によって連通している。流通路42には、バルブ44が設けられており、バルブ44を閉口状態とすることにより、第2蓚酸分解槽7と濾過装置40とをそれぞれ独立させた系とすることができる。バルブ44としては、前述のバルブ14と同じものが挙げられる。
【0031】
イオン交換装置46は、アルミニウムイオンを除去することが可能な粒状のイオン交換樹脂が充填されている。濾過装置40とイオン交換装置46とは流通路48によって連通している。イオン交換装置46の下流側には、排出口50が形成され、処理された排水を排出できるように構成されている。
【0032】
次に、図3に示す工程図を用いて本実施形態に係る排水処理方法を詳細に説明する。本実施形態に係る排水処理方法は、蓚酸及びアルミニウムを含有した排水に紫外線を照射する第1蓚酸分解工程と、第1蓚酸分解工程により処理された排水を酸化チタンを表面に有する光触媒に接触させ、前記光触媒に紫外線を照射する第2蓚酸分解工程と、第2蓚酸分解処理工程により処理された排水中に含まれる固形物を除去する濾過処理工程と、濾過処理工程により処理された排水中に含まれるアルミニウムイオンを除去するイオン交換処理工程とを備える。
【0033】
(第1蓚酸分解工程)
まず、バルブ14を閉口状態とし、次いで、図示しないポンプを稼働することによって、蓚酸及びアルミニウムを含んだ排水を排水流入口16から第1蓚酸分解槽3内に流入させる。この際、バルブ14が閉口状態であるので、第1蓚酸分解槽3内に流入した排水は、第2蓚酸分解槽7に流入することはない。この流入と同時に紫外線ランプ18及び空気注入部22を稼働することによって、排水に紫外線を照射するとともに空気を供給し、これにより排水中の蓚酸が酸化分解される。空気は、紫外線ランプ18を稼働する前から供給してもよい。このとき、ポンプ5を稼動させることにより、流動槽20内の排水が循環路10、11を介して流動槽20内を循環することで蓚酸の分解が効率良く行われる。蓚酸が分解するにしたがって排水の紫外線吸収率は徐々に低下する。このとき、排水中に含まれる有機物の種類によっては分解過程において紫外線を吸収する中間体が生成する場合があり、一時的に紫外線吸収率が高くなる場合もあるが、分解が進むにしたがって紫外線吸収率は低下する。所定の紫外線吸収率になった後、バルブ14を開口状態とし、第1蓚酸分解槽3と第2蓚酸分解槽7とを連通状態とするとともに、図示しないポンプを稼働して、第1蓚酸分解槽3内の排水を第2蓚酸分解槽7に供給する。本実施形態に係る排水処理装置においては、このように紫外線吸収率が光触媒の機能発現上において問題無い程度まで低減された状態で、排水が第2蓚酸分解槽7に供給される。排水が第2蓚酸槽7に供給された後、バルブ14を閉口状態とする。その後、第1蓚酸分解槽3内に新たな排水を流入して、前述した第1蓚酸分解工程を再度同様に行い、これと同時に、後述の第2蓚酸分解工程を行う。
【0034】
(第2蓚酸分解工程)
次に、第1蓚酸工程によって処理された排水が第2蓚酸分解槽7に流入すると同時に、紫外線ランプ19及び空気注入部23を稼働することによって、排水及び光触媒カートリッジ30に紫外線を照射するとともに、排水中に空気を供給する。また、図示しないポンプ等によって流動槽28の排水流出口26側の底面から連通路12側の底面へのびる循環路32によって排水を循環させ、排水と光触媒カートリッジ30との接触効率を高める。このとき、バルブ44が閉口状態であるので、第2蓚酸分解槽7内に流入した排水は、濾過処理装置40に流入することはない。これらにより、排水中の蓚酸が酸化分解される。空気は、紫外線ランプ19を稼働する前から供給してもよい。紫外線ランプ19は、波長180〜190nmと250〜260nmにピーク波長を有する短波長紫外線ランプを用いている。一般的に、このような短波長紫外線ランプによる蓚酸の分解機構としては、180〜190nmの紫外線によって水中に溶存する酸素が酸化されOHラジカルが発生し、この発生したOHラジカルによって水中の蓚酸が分解される。すなわち、蓚酸の分解は水中のOHラジカルの発生量に支配されることから、常に空気を供給することで水中の溶存酸素量を高い状態で維持することができ、分解効果を高く維持することができる。
【0035】
通常、酸化チタン光触媒を利用した排水処理装置においては、紫外線ランプは、波長351nmのブラックライト蛍光ランプ又は波長254nmの殺菌ランプが用いられる。酸化チタン光触媒は、387nm以下の波長であれば励起することができ、又これらのランプは製品として入手しやすいためである。本実施形態に係る排水処理装置1においては、従来用いられなかった紫外線を利用し、さらに高い分解効率を得ることができる。すなわち、本実施形態に係る排水処理装置1においては、光触媒繊維からなる平板状不織布34と、180〜190nmと250〜260nmとにピーク波長を有する紫外線を照射する紫外線ランプ19とを有する。このため、250〜260nmの紫外線を平板状不織布34に照射することにより光触媒を励起し、180〜190nmの紫外線によりOHラジカルを発生させ排水中の蓚酸を直接分解することができ、分解効果を高く維持することができる。この際、第1蓚酸分解工程により、排水中の紫外線吸収率が光触媒機能発現上問題無い程度まで低減されているので、第2蓚酸分解槽7において、効率的に分解を行うことができる。
【0036】
平板状不織布上の平均紫外線強度は、1〜10mW/cmであることが好ましく、さらに2〜8mW/cmの範囲であることが好ましい。平板状不織布表面での紫外線強度が1〜10mW/cmであると、2つの紫外線成分による水処理を高効率に行うことができる。このような範囲にするには、紫外線ランプと平板状不織布との距離等を適当な範囲になるようにすればよい。ここで、平均紫外線強度は、不織布表面の中央部から端部までの複数個所の紫外線強度を測定し、それらの値を平均して平均紫外線強度とすることができる。
【0037】
第2蓚酸分解槽7で処理された排水は、必要に応じて、ポンプ54を稼働させて、槽間循環路52を介して第1蓚酸分解槽に送られる。これにより、さらに蓚酸等の分解率を高めることができる。
【0038】
(濾過処理工程)
蓚酸が十分に分解されたら、バルブ44を開き、流通路26から排水を図示しないポンプによって濾過処理装置40へと供給する。これによって、排水中の固形物を除去する。イオン交換処理前に濾過処理を行うとイオン交換樹脂への負担を小さくできるので好ましい。
【0039】
(イオン交換処理工程)
固形物が濾過された排水は、供給路48を介してイオン交換装置46に供給される。ここで、イオン交換樹脂によりアルミニウムイオンが除去される。処理された排水は、排出口50から取り出され、排水処理が完了する。
【0040】
本発明に係る排水処理方法及び排水処理装置によれば、排水の浄化が十分に行えるので、従来のように系外に処理した排水を廃棄することなく、排水の再利用が可能となる。特に、排水として蓚酸アルマイト処理された物の洗浄に用いられた洗浄排水を用いた場合、洗浄水として再利用できる程度にまで浄化できるので、系外に排水を廃棄しないいわゆるクローズドシステムを提供することが可能になる。
【実施例】
【0041】
以下に本願発明についての実施例を挙げて更に具体的に本願発明を説明するが、それらの実施例によって本願発明が何ら限定されるものではない。
【0042】
(製造例1)
先ず、実施例に用いられる平板状不織布として酸化チタン/シリカ繊維を製造した。すなわち、5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0043】
ポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシチタン64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシチタンを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0044】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させた後、ガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1200℃の空気中で1時間焼成を行い、酸化チタン/シリカ繊維不織布を得た。
【0045】
得られた酸化チタン/シリカ繊維不織布をパラジウム濃度2.5ppmのパラジウムメッキ液(パラデックス:田中貴金属(株)製)内に浸漬し、波長が351nmの紫外線を4mW/cmの強度で4時間照射した。照射後、繊維を取り出し、水洗、さらに乾燥を行うことによって、製造例1に係るパラジウム担持酸化チタン/シリカ繊維不織布を得た。重量測定の結果から、パラジウム担持量は、0.05重量%であった。
【0046】
(実施例1)
製造例1で得られたパラジウム担持酸化チタン/シリカ繊維からなる不織布を用いて、図2に示される平板状不織布を含む光触媒カートリッジを作成し、図1に示される排水処理装置を作成した。用いた紫外線ランプは、ヘレウス株式会社製NIQ/107XL(出力:200W)であり、カバー部材としては合成石英が使用されている。出力は200Wであり、この紫外線ランプを第1蓚酸分解槽で5本×7列の35本、第2蓚酸分解槽で5本×3列の15本使用した。紫外線ランプから放射される波長は、254nmと185nmの両方である。第1蓚酸分解槽における紫外線ランプ間の距離は70mmとし、また第2蓚酸分解槽では紫外線ランプと光触媒カートリッジの距離は45mmとし、紫外線ランプ間の距離は135mmとした。濾過装置としては、3M製リキッドカートリッジフィルター742Bを用いた。イオン交換装置に用いられたイオン交換樹脂は、日本電工製のNDミニクロパックCR−150G,A塔を用いた。
【0047】
排水は、蓚酸及びアルミニウムイオンをイオン交換水で溶解し、アルミニウムイオンを30ppm含む250ppmの蓚酸水溶液とした。また、第1蓚酸分解槽では空気注入部から計300L/minの空気エアレーションを発生させ、一方、第2反応槽では空気注入部から計200L/minの空気エアレーションを発生させた。さらに第1反応槽では、図示しないマイクロバブル発生装置からマイクロバブルを5L/minで発生させた。
【0048】
前記排水300Lを前記排水処理装置を用いて167L/minで循環処理を行った。第1蓚酸分解槽で27パス処理を行い、処理された排水をバルブを開放して第2蓚酸分解槽に送液し、次いで第2蓚酸分解槽で27パス処理を行った。なお、前記排水処理装置では、300Lの排水を167L/minで循環処理しており、1.8分で全溶液300Lが処理される。この処理時間を便宜上、1パスと定義する。つまり、第1蓚酸分解槽で27パス処理を行うと処理時間は50分かかり、第2蓚酸分解槽で27パス処理を行うと第2蓚酸分解槽のみで処理時間は50分かかり、処理全体で100分を要する。この処理液を濾過装置に供給した後、イオン交換樹脂に8L/minの流速で通水し実施例1に係る処理液を得た。実施例1に係る処理液は、蓚酸濃度0.2ppm以下、アルミニウム濃度0.1ppm以下、導電率3μS/cmであった。実施例1に係る処理液は、蓚酸アルマイトの洗浄水として利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 排水処理装置
3 第1蓚酸分解槽
7 第2蓚酸分解槽
18 紫外線ランプ
19 紫外線ランプ
30 光触媒カートリッジ
40 濾過装置
46 イオン交換装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に光触媒存在下で紫外線を照射して蓚酸を分解する蓚酸分解工程と、
蓚酸分解工程後の排水をイオン交換処理してアルミニウムを除去するイオン交換処理工程と
を備えることを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記蓚酸分解工程は、
蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に紫外線を照射して前記蓚酸を分解する第1蓚酸分解工程と、
前記第1蓚酸分解工程で処理された排水に光触媒を接触させ、前記光触媒に紫外線を照射することにより、排水中に残存する前記蓚酸を分解する第2蓚酸分解工程と
を備えることを特徴とする請求項1記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記第2蓚酸分解処理工程で処理された排水の一部を前記第1蓚酸分解処理工程に戻し、前記第1蓚酸分解工程と前記第2蓚酸分解工程とを同時に行うことを特徴とする請求項2記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記光触媒は、酸化チタンを表面に有する光触媒繊維の不織布であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記イオン交換処理工程の前に、前記蓚酸分解工程後の排水中に含まれる固形分を除去する濾過処理工程を備えることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の排水処理方法。
【請求項6】
蓚酸及びアルミニウムを含有する排水は、蓚酸アルマイト処理されたものの洗浄排水であり、前記アルマイト処理されたものの洗浄は、前記イオン処理工程後の処理液を用いることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の排水処理方法。
【請求項7】
蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に紫外線を照射する紫外線照射手段と、光触媒とを有する蓚酸分解槽と、
アルミニウムを除去可能なイオン交換樹脂を有するイオン交換手段と
を備えたことを特徴とする排水処理装置。
【請求項8】
前記蓚酸分解槽は、
蓚酸及びアルミニウムを含有する排水に紫外線を照射する紫外線照射手段を有する第1蓚酸分解槽と、
光触媒と、少なくとも前記光触媒に紫外線を照射する紫外線照射手段とを有する第2蓚酸分解槽と、
前記第1蓚酸分解槽の前記排水を前記第2蓚酸分解槽に供給する供給手段と
を備えることを特徴とする請求項7記載の排水処理装置。
【請求項9】
前記第2蓚酸分解槽で処理された排水の一部を前記第1蓚酸分解槽に戻すことが可能な循環手段を備えたことを特徴とする請求項8記載の排水処理装置。
【請求項10】
前記光触媒は、酸化チタンを表面に有する光触媒繊維の不織布であることを特徴とする請求項7乃至9いずれか記載の排水処理装置。
【請求項11】
前記蓚酸分解槽で処理された排水中の固形分を濾過して除去する濾過手段をさらに備えたことを特徴とする請求項7乃至10記載の排水処理装置。
【請求項12】
蓚酸及びアルミニウムを含有する排水は、蓚酸アルマイト処理されたものの洗浄排水であり、前記アルマイト処理されたものの洗浄は、前記イオン交換手段により処理された処理液を用いることを特徴とする請求項7乃至11いずれか記載の排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−212579(P2011−212579A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82932(P2010−82932)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】