説明

排水処理装置

【課題】ディッチにおける反応速度の向上を図ることができる排水処理装置を提供する。
【解決手段】排水処理装置は、原水流入経路18、循環液出口経路16、循環流発生手段12及び酸素供給手段(散気装置13)を備え、好気域14と無酸素域15とを形成した無終端水路(ディッチ11)と、循環液出口経路15から流出した循環液を固液分離する固液分離手段(最終沈殿池17)とを備え、循環液中に生物固定担体を投入し、循環流発生手段は、軸線を鉛直方向に向けた回転円筒体12aと、回転円筒体の外周に突設した撹拌羽根12bとを備え、酸素供給手段は、直径が50μm以下の微細気泡を発生する微細気泡発生器を備え、循環液出口経路は、生物固定担体の流出を防止するスクリーン16aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置に関し、詳しくは、無終端水路を用いた生物学的排水処理方法によって窒素及びリンの除去を含む排水の浄化処理を行う排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的な排水処理を行う方法として、オキシデーションディッチ法が広く知られている。このオキシデーションディッチ法は、無端状に形成したディッチ(無終端水路)内の水を循環させながら一部で曝気することにより、ディッチ内に好気域と無酸素域とを形成し、有機物の分解だけでなく、好気域での硝化反応と無酸素域での脱窒反応とによって窒素分も除去するようにしている。また、ディッチの上流側に嫌気槽を設けることにより、リンを除去することも可能である。
【0003】
オキシデーションディッチ法は、大規模処理場に比べて日間変動が大きい小規模処理場に適しているが、日間変動によってディッチ内における負荷が大きく変動するため、負荷に応じてディッチ内の流速や酸素供給量(曝気量)を調節し、前記好気域と無酸素域とのバランスを適正に保つことが重要となる。このため、好気域の上流側と下流側との適当な位置に溶存酸素計(DO計)をそれぞれ設置し、各DO計の測定値(DO値)に基づいて循環液の流速及び酸素の供給量をそれぞれ調節することにより、いわゆる二点DO制御によって好気域と無酸素域とのバランスを適正に保つようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−52804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載された処理を適用することにより、負荷変動があっても常に一定の好気域及び無酸素域を形成することができ、処理水中のアンモニア濃度や硝酸態窒素濃度を最小とすることができる。しかし、小規模で低負荷の場合や流路長が極端に短い場合には、酸素消費速度が低くなって十分な無酸素域を形成することが困難になるおそれがある。また、原水流入量が多い場合には、ディッチの後段に設けられている固液分離手段、例えば沈殿槽の負荷が増大するため、沈殿槽の容量を大きくしたり、沈殿槽を増設したりする必要が生じる。
【0006】
一方、ディッチ内に生物固定担体を投入することによって ディッチ内の微生物量を多く保って反応速度を向上させるとともに沈殿池に流入する汚泥量を減少させて沈殿池の負荷を軽減することが可能である。しかしながら、一般的なディッチに設けられている機械式エアレーション装置や撹拌装置は、撹拌羽根で循環液を高速撹拌するため、撹拌羽根の高速撹拌によって生じる大きな剪断力によって生物固定担体が損傷したり、生物固定担体から微生物が剥離したりしてしまうため、生物固定担体を投入した効果を十分に上げることができず、実用化には至っていない。
【0007】
そこで本発明は、生物固定担体を使用して反応速度を向上させることによって十分な無酸素域を形成することができ、後段の固液分離手段の負荷を増大させることもなく、生物固定担体の損傷や微生物の剥離を抑制して処理効率を大幅に向上させることができる排水処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の排水処理装置は、原水流入部及び循環液出口経路を備えるとともに循環流発生手段及び酸素供給手段を備え、前記酸素供給手段の下流側に好気域を、該好気域の終端から前記酸素供給手段に至る無酸素域をそれぞれ形成した無終端水路と、前記循環液出口経路から流出した循環液の固液分離を行う固液分離手段とを備えた排水処理装置において、前記無終端水路内を循環する循環液中に、該循環液中に浮遊する生物固定担体を投入するとともに、前記循環流発生手段は、軸線を鉛直方向に向けた回転円筒体と、該回転円筒体の外周に突設した複数の撹拌羽根とを備え、前記酸素供給手段は、直径が1mm以下の微細気泡を発生する微細気泡発生器を備え、前記循環液出口経路は、前記生物固定担体の流出を防止するスクリーンを備えていることを特徴としている。
【0009】
さらに、本発明の排水処理装置は、前記好気域における上流側と下流側とにそれぞれ設けられて循環液中の溶存酸素濃度を測定する上流側溶存酸素計及び下流側溶存酸素計と、前記上流側溶存酸素計で測定した上流側溶存酸素濃度とあらかじめ設定された上流側酸素濃度目標値とに基づいて前記酸素供給手段による酸素の供給量を制御する酸素供給量制御手段と、前記下流側溶存酸素計で測定した下流側溶存酸素濃度とあらかじめ設定された下流側酸素濃度目標値とに基づいて前記循環流発生手段による循環液の流速を制御する流速制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
また、前記循環液中のアンモニアの濃度及び硝酸の濃度をそれぞれ測定するアンモニア/硝酸濃度測定手段を設けるとともに、該アンモニア/硝酸濃度測定手段で測定したアンモニア濃度及び硝酸濃度の少なくともいずれか一方の濃度に基づいて前記上流側酸素濃度目標値及び前記下流側酸素濃度目標値を調節する目標値調節手段を備えているを特徴とし、加えて、前記原水流入部の上流に、原水の嫌気処理を行ってリンを除去する嫌気槽を設けるとともに、前記固液分離手段で分離した汚泥を前記嫌気槽に返送して原水に混合する返送汚泥経路を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の排水処理装置によれば、循環液中に生物固定担体を投入することによって好気域での酸素消費速度が向上し、十分な長さの無酸素域を形成することができる。また、循環液中の微生物を生物固定担体に付着させることにより、循環液中に浮遊する微生物(浮遊微生物)の濃度を低くすることができ、全体としての微生物濃度を高く保持しながら、浮遊微生物の濃度を低くできるので、循環液における生物反応処理効率を向上させながら、後段の固液分離手段の負荷を低減して固液分離効率の向上も図ることができる。さらに、軸線を鉛直方向に向けた円筒体の外周に複数の撹拌羽根を有する循環流発生手段を使用することにより、生物固定担体の損傷や微生物の剥離を抑制することができ、微細気泡発生器を備えた酸素供給手段を用いることにより、生物固定担体同士の激しい衝突による生物固定担体の損傷や微生物の剥離を防止できる。
【0012】
また、好気域における上流側と下流側とにおける各溶存酸素濃度に応じて酸素供給手段による酸素の供給量や循環流発生手段による循環液の流速を制御することにより、流入負荷が変動しても無終端水路内に一定の好気域と無酸素域とを確実に形成することができる。さらに、無酸素域の上流部に設けた原水流入部上流に嫌気槽を設けることにより、原水中のリンを効率よく除去することができる。加えて、循環液中のアンモニアの濃度や硝酸の濃度に基づいて上流側酸素濃度目標値や下流側酸素濃度目標値を調節することにより、アンモニア性窒素や硝酸性窒素の濃度を適正な濃度に制御することができ、好気域と無酸素域との比率をアンモニア濃度や硝酸濃度に応じて最適な比率に制御することができ、処理効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の排水処理装置の一形態例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本形態例に示す排水処理装置は、生物学的排水処理方法によって窒素の除去を含む排水の浄化処理を行うディッチ11に循環流発生手段である一組の循環流発生手段12と酸素供給手段である散気装置13とを設け、ディッチ11内に矢印Fで示す方向の循環流を形成することにより、散気装置13から所定の距離までの間に好気域14を、この好気域14の終端から散気装置13までの間に無酸素域15をそれぞれ所定のバランスで形成するとともに、好気域14と無酸素域15とを循環する循環液中に、該循環液中に浮遊する生物固定担体を投入している。
【0015】
好気域14の下流部には、循環液出口経路である循環液出口経路16を介して最終沈殿池17が設けられ、無酸素域15の上流部には、原水流入部である原水流入経路18が設けられるとともに、該原水流入経路18の途中には嫌気槽19が設けられている。さらに、最終沈殿池17には、分離した上澄み水が流出する処理水流出経路20と、沈降分離した汚泥を嫌気槽19に返送する返送汚泥経路21と、汚泥の一部を余剰汚泥として抜き取る汚泥抜出経路22とが設けられており、前記嫌気槽19は、該嫌気槽19に流入した原水と前記返送汚泥経路21から返送された汚泥とを混合して嫌気状態に所定時間保持して嫌気処理を行う。また、循環液出口経路16への流入部には、生物固定担体がディッチ11内から循環液出口経路16に流出することを防止するためのスクリーン16aが設けられている。
【0016】
前記一組の循環流発生手段12は、ディッチ11内を仕切る隔壁11aの両端部にそれぞれ配置されており、軸線を鉛直方向に向けた回転円筒体12aと、該回転円筒体12aの外周に突設した複数の撹拌羽根12bとを備えた縦軸形水流発生装置であって、軸線を中心として回転円筒体12aをモータで所定回転数で回転させることにより、複数の撹拌羽根12bがディッチ11内に前記循環流を形成する。このような縦軸形の循環流発生手段12は、複数の撹拌羽根12bの全体で水、即ち循環液を下流側に押し出すことで水流(循環流)を発生することができるので、回転円筒体12aを毎分10〜20回転程度の低速で回転させることによってディッチ11内に適当な流速の循環流を形成することができるとともに、回転速度がゆっくりで撹拌羽根12bによる剪断力が小さいため、生物固定担体が損傷したり、微生物が生物固定担体から剥離したりすることを抑えることができる。
【0017】
また、前記散気装置13は、直径が1mm以下の微細気泡を発生する微細気泡発生器を備えている。直径が1mm程度の微細気泡は、水中での上昇速度が十分に低いことから、酸素溶解効率が高く、少量の散気で十分な酸素供給を行えるとともに、従来の粗大気泡のような鉛直方向の旋回流を発生させることがないため、生物固定担体同士が激しく衝突して損傷したり、微生物が剥離したりすることがなくなる。
【0018】
循環液中に投入する生物固定担体は、ディッチ11内で沈降せず、かつ、完全に浮上せずに循環液の全体に均一に分散して浮遊するように、微生物が適度に付着した状態で比重が1前後になるものが選定される。特に、ディッチ11内を循環する循環液では、複数の生物反応、例えば、有機物の酸化、アンモニア態窒素の硝化、硝酸態窒素の脱窒が同時に進行するため、これらの反応に寄与する微生物を複合的に保持する必要があることから、生物固定担体としては、微生物が付着しやすい材質からなる適当な大きさの物体を使用し、系内に存在する各種の微生物が担体上に付着して増殖する結合型微生物保持担体を使用することが好ましい。さらに、結合型微生物保持担体の場合は、担体の表面及び内部で溶存酸素濃度に勾配が生じるため、担体の表面では主として好気性菌、例えば硝化菌が優先し、内部では通性嫌気性菌、例えば脱窒菌がそれぞれ優先した状態となる。
【0019】
これにより、生物固定担体に付着した大量の微生物と循環液とが、好気域14と無酸素域15とで効率よくかつ効果的に接触し、処理効率の向上が図れる。また、生物固定担体の直径が数mm程度のもの選定することにより、前記スクリーン16aとして比較的目の粗いものを用いることができ、しかも、スクリーン16aのディッチ11側の面は、循環液が常時所定の流速で流れているため、目詰まりが発生することはほとんどなく、特に、循環液の流れ方向に平行な方向のスリットでスクリーン16aを形成することにより、目詰まりの発生をより確実に防止できる。
【0020】
このように、ディッチ11内を循環する循環液中に生物固定担体を投入することによって処理効率の大幅な向上を図ることができる。また、円筒体12aの外周に複数の撹拌羽根12bを設けた循環流発生手段12によって循環流を形成することにより、生物固定担体の損傷や微生物の剥離を抑制することができるさらに、微細気泡発生器を備えた酸素供給手段を用いることにより、酸素溶解効率の向上が図れるとともに、生物固定担体同士が激しく衝突することがなくなるので、生物固定担体の損傷や生物固定担体からの微生物の剥離を防止することができる。
【0021】
さらに、本形態例に示す排水処理装置では、ディッチ11内の前記好気域14における循環液流れ方向上流側と下流側とには、循環液中の溶存酸素濃度を測定する上流側溶存酸素計23と、下流側溶存酸素計24とがそれぞれ設けられるとともに、ディッチ11内の適宜な位置、好ましくは、循環液出口経路16の近傍には、循環液中のアンモニア(アンモニア性窒素)及び硝酸(硝酸性窒素)の濃度を測定するアンモニア/硝酸濃度測定手段25が設けられている。
【0022】
さらに、前記上流側溶存酸素計23で測定した上流側溶存酸素濃度に基づいて前記散気装置13による酸素の供給量を制御する酸素供給量制御手段26と、前記下流側溶存酸素計24で測定した下流側溶存酸素濃度に基づいて前記一組の循環流発生手段12による循環液の流速を制御する流速制御手段27と、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定したアンモニア濃度及び硝酸濃度に基づいて前記酸素供給量制御手段26の上流側酸素濃度目標値及び前記流速制御手段27の下流側酸素濃度目標値を調節する目標値制御手段28とが設けられている。
【0023】
原水流入経路18から嫌気槽19に流入した原水は、最終沈殿池17から返送汚泥経路21を通って返送された汚泥と混合した混合液となり、嫌気槽19で嫌気状態に保持された後、ディッチ11の無酸素域15に流入して循環液に合流し、無酸素域15で無酸素状態に保持されることによって硝酸性窒素の脱窒が行われ、循環液中から窒素が除去される。
【0024】
循環液は、散気装置13を通過する際に、ブロワBから圧送されて微細気泡発生器から循環液中に供給された空気からなる微細気泡と接触し、液中に酸素を取り込んで好気性状態となり、好気域14を流れながら有機物の分解やアンモニア性窒素の硝化が行われ、循環液中から有機物及びアンモニア性窒素が除去される。
【0025】
好気域14の終端部を流れる循環液の一部は、循環液出口経路16を通って最終沈殿池17に抜き出され、最終沈殿池17で循環液の固液分離が行われる。最終沈殿池17で分離した上澄み液は、処理水流出経路20から放流され、沈殿した汚泥の一部は、汚泥抜出経路22から余剰汚泥として抜き取られ、残りの汚泥は、返送汚泥経路21を通って前記嫌気槽19に返送される。また、最終沈殿池17に抜き出されなかった循環液は、溶存酸素の減少によって無酸素状態となり、無酸素域15の上流部分で嫌気槽19からの前記混合液と合流してディッチ11内を循環する。
【0026】
前記酸素供給量制御手段26は、測定した上流側溶存酸素濃度があらかじめ設定した上流側酸素濃度目標値となるように前記散気装置13による酸素(空気)の供給量を制御する。例えば、流入原水の負荷の変動により、上流側溶存酸素濃度が上流側酸素濃度目標値として設定された適正範囲を下回った場合は、酸素不足状態であるから、散気装置13による散気量を増大させて上流側溶存酸素濃度が適正範囲に入るように制御し、適正範囲を上回った場合は、酸素過剰状態であるから、散気装置13による散気量を減少させて上流側溶存酸素濃度が適正範囲に入るように制御する。
【0027】
また、前記流速制御手段27は、測定した下流側溶存酸素濃度があらかじめ設定した下流側酸素濃度目標値となるように前記循環流発生手段12の回転速度を制御する。例えば、流入原水の負荷の変動により、下流側溶存酸素計24で測定した下流側溶存酸素濃度が下流側酸素濃度目標値として設定された適正範囲を超えて高濃度になった場合は、循環流発生手段12を減速して循環液の流速を低下させることにより、下流側溶存酸素濃度が適正範囲に入るように制御し、下流側溶存酸素濃度が適正範囲を下回って低濃度になった場合は、循環流発生手段12を増速して循環液の流速を上昇させることにより、下流側溶存酸素濃度が適正範囲に入るように制御する。
【0028】
そして、前記目標値制御手段28は、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定したアンモニア濃度があらかじめ設定したアンモニア濃度下限値を下回るときには、前記上流側酸素濃度目標値及び前記下流側酸素濃度目標値の少なくともいずれか一方、好ましくは双方を低い値に調節し、測定したアンモニア濃度が前記アンモニア濃度上限値を上回るときには、前記上流側酸素濃度目標値及び前記下流側酸素濃度目標値の少なくともいずれか一方、好ましくは双方を高い値に調節する。
【0029】
すなわち、目標値制御手段28は、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定したディッチ11内の循環液のアンモニア濃度がアンモニア濃度下限値を下回るときには、酸素供給量制御手段26の上流側酸素濃度目標値を、該上流側酸素濃度目標値よりも低い溶存酸素濃度とした上流側低酸素濃度目標値に下げたり、前記流速制御手段27の下流側酸素濃度目標値を、該下流側酸素濃度目標値よりも低い溶存酸素濃度とした下流側低酸素濃度目標値に下げたりする。
【0030】
これにより、酸素供給量制御手段26は、上流側溶存酸素計23で測定した上流側溶存酸素濃度が、前記上流側低酸素濃度目標値として設定された適正範囲を上回っていると判断したときには、散気装置13による散気量を減少させて上流側溶存酸素濃度が上流側低酸素濃度目標値の適正範囲に入るように制御する。
【0031】
同様に、流速制御手段27においても、下流側溶存酸素計24で測定した下流側溶存酸素濃度が下流側低酸素濃度目標値として設定された適正範囲を上回っていると判断したときには、循環流発生手段12を減速して循環液の流速を低下させることにより、下流側溶存酸素濃度が下流側低酸素濃度目標値の適正範囲に入るように制御する。
【0032】
このように、酸素供給量制御手段26の上流側酸素濃度目標値及び流速制御手段27の下流側酸素濃度目標値の少なくともいずれか一方を低酸素目標値に下げて制御することにより、ディッチ11内の循環液における溶存酸素濃度が全体的に低く制御されることになり、好気域14の領域が減少して無酸素域15の領域が増大する。これにより、硝化菌によるアンモニアの酸化作用が抑制されて循環液のアンモニア濃度が徐々に上昇する。また、過剰な溶存酸素によって硝化菌が自己酸化分解することを防止できるとともに、散気装置13及び循環流発生手段12の消費動力を低減することができる。
【0033】
逆に、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定したディッチ11内の循環液のアンモニア濃度がアンモニア濃度上限値を上回るときには、酸素供給量制御手段26の上流側酸素濃度目標値を、該上流側酸素濃度目標値よりも高い溶存酸素濃度とした上流側高酸素濃度目標値に上げたり、前記流速制御手段27の下流側酸素濃度目標値を、該下流側酸素濃度目標値よりも高い溶存酸素濃度とした下流側高酸素濃度目標値に上げたりする。
【0034】
これにより、酸素供給量制御手段26は、測定した上流側溶存酸素濃度が上流側酸素濃度目標値として設定された適正範囲を下回ったと判断したときには、散気装置13による散気量を増加させて上流側溶存酸素濃度が上流側高酸素濃度目標値の適正範囲に入るように制御する。同様に、流速制御手段27においても、測定した下流側溶存酸素濃度が下流側高酸素濃度目標値として設定された適正範囲を下回ったと判断したときには、循環流発生手段12を増速して循環液の流速を上昇させることにより、下流側溶存酸素濃度が下流側高酸素濃度目標値の適正範囲に入るように制御する。
【0035】
このように、酸素供給量制御手段26の上流側酸素濃度目標値及び流速制御手段27の下流側酸素濃度目標値の少なくともいずれか一方を高酸素濃度目標値に上げて制御することにより、ディッチ11内の循環液における溶存酸素濃度が全体的に高く制御されることになり、好気域14の領域が増大して無酸素域15の領域が減少する。これにより、硝化菌によるアンモニアの酸化作用が促進され、アンモニアが亜硝酸や硝酸に変化することで循環液のアンモニア濃度が徐々に低下する。
【0036】
いずれの制御の場合も、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定したアンモニア濃度が、アンモニア濃度下限値以上になったり、アンモニア濃度上限値以下になったりした場合は、前記上流側酸素濃度目標値及び前記下流側酸素濃度目標値をあらかじめ設定した元の目標値に戻すことにより、あらかじめ設定された通常の制御を行うことができ、効率よく排水処理を行うことができる。
【0037】
さらに、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定したアンモニア濃度が、アンモニア濃度下限値以上、アンモニア濃度上限値以下であって、アンモニア濃度が適正な範囲に入っている場合でも、アンモニア/硝酸濃度測定手段25で測定した硝酸濃度があらかじめ設定した硝酸濃度上限値を上回るときには、前記上流側酸素濃度目標値及び前記下流側酸素濃度目標値の少なくともいずれか一方を低酸素濃度目標値に調節する。これにより、前記同様に、散気装置13による散気量が減少したり、循環流発生手段12が減速したりすることで無酸素域15の領域が増大し、無酸素域15における脱窒反応が促進され、徐々に硝酸濃度が低下する。この場合も、硝酸濃度が硝酸濃度上限値以下になったら上流側高酸素濃度目標値及び下流側高酸素濃度目標値を元の目標値に戻す。
【0038】
このように、循環液中のアンモニア濃度をアンモニア濃度下限値とアンモニア濃度上限値との間の一定の濃度範囲に制御するとともに、循環液中硝酸濃度を硝酸濃度上限値以下に制御するために、アンモニア濃度及び硝酸濃度に基づいて酸素供給量制御手段26の上流側酸素濃度目標値及び流速制御手段27の下流側酸素濃度目標値をそれぞれ調節するようにしているので、酸素供給量制御手段26と流速制御手段27とによってディッチ11内の溶存酸素濃度を確実に制御することができ、好気域14と無酸素域15との比率をアンモニア濃度や硝酸濃度に応じて最適な比率に制御することができる。
【0039】
すなわち、従来のように、測定した硝酸性窒素濃度とアンモニア性窒素濃度とに基づいてこれらの濃度を直接的に制御する場合に比べて、好気域14と無酸素域15とのバランスが大きく崩れたりすることがないので、ディッチ11から最終沈殿池17に抜き出される循環液の状態も安定し、循環液中に含まれる窒素分の濃度も安定し、排水処理効率の向上を図れるとともに、消費動力の低減も図ることができる。
【0040】
さらに、放流水中のアンモニア濃度を極力低く抑える必要がある場合には、前記アンモニア濃度上限値を低くするだけで確実な制御を行うことが可能であり、同様に、放流水中の硝酸濃度を極力低く抑える必要がある場合には、前記硝酸濃度上限値を低くするだけで確実な制御を行うことが可能である。また、放流水中の窒素分を極力低く抑える必要がある場合には、アンモニア濃度と硝酸濃度との和を全窒素濃度として演算し、あらかじめ設定したアンモニア濃度と硝酸濃度との比率に基づいて上流側酸素濃度目標値及び下流側酸素濃度目標値をそれぞれ調節することで全窒素濃度が最小となるように制御することも可能であり、全窒素濃度が規制値以下となる条件で好気域14の領域を小さくすることにより、酸素供給手段である散気装置13のブロワB及び循環流発生手段である循環流発生手段12の駆動源であるモータの消費電力を削減することができる。
【0041】
したがって、周長が極めて短く、好気域14と無酸素域15とのバランスをとりにくい小規模なディッチ11においても、循環液中に生物固定担体を投入することによって適正なバランスで好気域14と無酸素域15とを形成できる。また、寒冷地における低水温での処理では、硝化菌の増殖速度が他の細菌に比べて極端に低下するため、生物学的窒素除去、特に硝化反応が進みにくくなるが、生物固定担体を投入することにより、汚泥濃度や滞留時間などの運転条件に関係なく、硝化菌を担体表面に確実に付着させて半永久的に保持させておくことができるので、硝化菌の固形物滞留時間(SRT)を長くとることができる。また、低水温下では、微生物全般の活性が低くなって酸素消費速度が低下するが、生物固定担体の投入によって微生物量を増加させることができるので、酸素消費速度を高く保持することができ、無酸素域15を確実に形成することができる。
【0042】
さらに、原水流入経路18の途中に返送汚泥と原水とを混合して嫌気状態に所定時間保持する嫌気槽19を設けることにより、微生物による有機物の摂取とリンの放出とが行われ、ディッチ11の好気域14における好気性処理で放出量以上のリンを微生物が過剰摂取することにより、生物学的に水中からリンを除去することができる。このとき、生物リン除去プロセスにおいては、汚泥中に生物濃縮したりんを余剰汚泥の形で引き抜く必要があり、単に汚泥の引き抜き量を増加させると固形物滞留時間(SRT)が短くなって生物学的窒素除去に悪影響を及ぼすが、前述のように生物固定担体に大量の硝化菌を保持しておくことができるので、汚泥の引き抜き量を増加させても生物学的窒素除去を確実に行うことができ、汚泥の引き抜き量を増加させてリンの除去も確実に行うことができる。
【0043】
また、循環液中の微生物の大部分を生物固定担体に保持させることにより、系内の液中に浮遊する浮遊微生物濃度を低くすることができ、系全体の微生物量を維持又は増大させながら、浮遊微生物濃度の低下によって最終沈殿池17における固液分離効率を向上させることができる。これにより、ディッチ11における生物反応処理効率の向上と、最終沈殿池17における固液分離効率の向上とを両立させることができ、排水処理装置全体における処理効率の向上による装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0044】
さらに、好気域14の上流側及び下流側の酸素濃度に応じて循環流発生手段12や散気装置13を制御することにより、負荷が大きく変動しても、好気域14と無酸素域15とのバランスを適正化することができるとともに、生物リン除去の阻害要因である硝酸をディッチ11内でゼロ近くまで除去できるので、嫌気槽19における処理効率を更に向上させることができる。また、アンモニア/硝酸濃度に応じて酸素濃度を調節することにより、窒素の除去効率を向上させることができる。
【0045】
なお、酸素供給量制御手段や目標値制御手段における制御用の上限値や下限値、目標値は、複数段階設定することが可能であり、目標値を二段階以上で上下することもでき、目標値に対する適正範囲の幅も任意に設定することができ、アンモニア濃度の測定値に対して上流側酸素濃度目標値及び下流側酸素濃度目標値をそれぞれ連続的に変化させることも可能である。また、アンモニア/硝酸濃度測定手段は、アンモニアイオン及び硝酸イオンを1本のセンサーで同時に測定可能なものを用いることが好ましいが、アンモニア用、硝酸用をそれぞれ用いることもできる。さらに、原水の状態やディッチの構成によっては、アンモニア/硝酸濃度に応じた目標値制御を省略することができ、好気域の酸素濃度に応じた酸素供給量制御を省略することも可能であり、嫌気槽を省略することもできる。また、固液分離手段の形式も任意である。
【符号の説明】
【0046】
11…ディッチ、11a…隔壁、12…循環流発生手段、12a…回転円筒体、12b…撹拌羽根、13…散気装置、14…好気域、15…無酸素域、16…循環液出口経路、16a…スクリーン、17…最終沈殿池、18…原水流入経路、19…嫌気槽、20…処理水流出経路、21…返送汚泥経路、22…汚泥抜出経路、23…上流側溶存酸素計、24…下流側溶存酸素計、25…アンモニア/硝酸濃度測定手段、26…酸素供給量制御手段、27…流速制御手段、28…目標値制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水流入部及び循環液出口経路を備えるとともに循環流発生手段及び酸素供給手段を備え、前記酸素供給手段の下流側に好気域を、該好気域の終端から前記酸素供給手段に至る無酸素域をそれぞれ形成した無終端水路と、前記循環液出口経路から流出した循環液の固液分離を行う固液分離手段とを備えた排水処理装置において、前記無終端水路内を循環する循環液中に、該循環液中に浮遊する生物固定担体を投入するとともに、前記循環流発生手段は、軸線を鉛直方向に向けた回転円筒体と、該回転円筒体の外周に突設した複数の撹拌羽根とを備え、前記酸素供給手段は、直径がmm以下の微細気泡を発生する微細気泡発生器を備え、前記循環液出口経路は、前記生物固定担体の流出を防止するスクリーンを備えていることを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記好気域における上流側と下流側とにそれぞれ設けられて循環液中の溶存酸素濃度を測定する上流側溶存酸素計及び下流側溶存酸素計と、前記上流側溶存酸素計で測定した上流側溶存酸素濃度とあらかじめ設定された上流側酸素濃度目標値とに基づいて前記酸素供給手段による酸素の供給量を制御する酸素供給量制御手段と、前記下流側溶存酸素計で測定した下流側溶存酸素濃度とあらかじめ設定された下流側酸素濃度目標値とに基づいて前記循環流発生手段による循環液の流速を制御する流速制御手段とを備えていることを特徴とする請求項1記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記循環液中のアンモニアの濃度及び硝酸の濃度をそれぞれ測定するアンモニア/硝酸濃度測定手段を設けるとともに、該アンモニア/硝酸濃度測定手段で測定したアンモニア濃度及び硝酸濃度の少なくともいずれか一方の濃度に基づいて前記上流側酸素濃度目標値及び前記下流側酸素濃度目標値を調節する目標値調節手段を備えているを特徴とする請求項2記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記原水流入部の上流に、原水の嫌気処理を行う嫌気槽を設けるとともに、前記固液分離手段で分離した汚泥を前記嫌気槽に返送して原水に混合する返送汚泥経路を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の排水処理装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−103185(P2013−103185A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249470(P2011−249470)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【Fターム(参考)】