排水機能付き矢板
【課題】地震時に地盤から排水経路部へ流入する間隙水を十分に排水でき、コスト的にも合理的な排水機能を備える矢板を提供する。
【解決手段】矢板1の基体に長手方向に沿って排水経路部2が設けられた排水機能付き矢板について、排水経路部2の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなるようにする。排水経路部2を構成する排水部材3として立体網状構造の樹脂体を使用する場合、排水部材2の上部位置における断面積が排水部材2の下部位置における断面積よりも大きくなるようにすることで、地震時において、水量が多くなる排水経路部2の上部においてもスムーズな水の流れが確保され、効率的な排水、およびそれによる地盤内の過剰間隙水圧の効率的な逸散が図れ、地盤の液状化を抑止することができる。
【解決手段】矢板1の基体に長手方向に沿って排水経路部2が設けられた排水機能付き矢板について、排水経路部2の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなるようにする。排水経路部2を構成する排水部材3として立体網状構造の樹脂体を使用する場合、排水部材2の上部位置における断面積が排水部材2の下部位置における断面積よりも大きくなるようにすることで、地震時において、水量が多くなる排水経路部2の上部においてもスムーズな水の流れが確保され、効率的な排水、およびそれによる地盤内の過剰間隙水圧の効率的な逸散が図れ、地盤の液状化を抑止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に液状化の発生が懸念される地盤に施工される壁体や護岸等に用いられる排水機能付き矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱な砂層地盤など地震時に液状化の発生が懸念される地盤上に構造物を構築する場合、もしくは既存の構造物に液状化対策を施す場合に対し、従来から各種工法が開発されている。
【0003】
例えば、地盤が液状化しないように地盤強度(密度)を増大させる締固め工法(サンドコンパクションパイル工法など)、薬液注入などによる地盤改良工法などが幅広く適用されている。
【0004】
しかし、これらの工法では周辺地盤をかなり広い領域にわたって対策する必要があるため、用地確保が必要なことや、確実に効果を発揮するためには構造物直下地盤を改良することが肝要である。
【0005】
既設構造物への適用を考えた場合、一旦、構造物を撤去し、地盤を改良した後に再び構造物を設置するか、構造物周辺地盤から構造物直下地盤の改良を施す必要がある。
【0006】
しかし、施工スペースの制限や、低騒音・低振動施工が求められるなど、適用の制限を受けることが考えられる。さらに、対策工法や地盤の改良範囲によっては多大な工期、工費が必要となり非合理的となることも考えられる。
【0007】
一方、ドレーン工法など地震時に発生する過剰間隙水圧の発生を低減し液状化を抑制する工法、鋼材などを用いて構造的に地盤の変形を抑制する工法、さらにはこれらの技術要素を組み合わせて、より合理的かつ効果的な対策を可能にする工法も開発されている。
【0008】
一例としては、矢板や杭、H型鋼のような鋼材に排水部材を取り付けた、排水機能を備える鋼(管)矢板、鋼管杭、H型鋼を地中に連続して打設し壁体を構築する工法が挙げられる。
【0009】
特許文献1には、矢板本体(基体)の長手方向に沿った所定区間に、多数の開口部と該開口部からの地盤の土砂の侵入を防ぐためのフィルタを備えた排水用部材を1条または複数条、少なくとも前記矢板本体の片面に設けたことを特徴とする排水機能付き鋼矢板が記載されている。
【0010】
このような排水機能を備える鋼材を用いる工法は、主として水路や共同溝、盛土といった線状構造物の両側に設置される場合や、建築物をはじめ各種施設を取り囲むように設置される場合が多い。
【0011】
これら構造物の周囲に壁体を構築することで、鋼材の強度・剛性に優れるといった特徴を活かして液状化した地盤の変形を抑制するとともに、鋼材に取り付けられた排水部材の効果により地震時に発生する過剰間隙水圧を低減し液状化が抑制され、構造物に生じる有害な変形や損傷が抑制されることが期待できる。
【0012】
矢板近傍の過剰間隙水圧の発生が抑制されると、矢板近傍の地盤強度が保持され鋼材自体の変形に抵抗する地盤からの反力が十分に期待でき、かつ鋼材に作用する地盤からの荷重が低減されるため、必要な鋼材の断面を低減することができコスト面での合理化も期待できる。
【0013】
また、このような排水機能を備える鋼材は、護岸や道路擁壁などの擁壁構造物の構築にも適用することが可能で、擁壁構造物背面の水を効果的に排水することで静水圧を低減し擁壁構造物の変形を抑制することが期待される。これにより、擁壁構造物に適用する鋼材の断面が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平02−225712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
排水部材などからなる排水経路部は、地震時に地盤から排水経路部に向かって排水される流量を十分に排水できるだけの断面積および排水能力を有する必要がある。排水経路部の断面積が地盤から排水経路部への流入量を排水するに不十分であると、矢板前面地盤の水圧消散能力が低下し、対策効果の低下が懸念される。
【0016】
一方で、排水経路部の断面積が大きければ、それだけ地盤へ打設する際の貫入抵抗が増え、施工コストが増加することが懸念されるとともに、また、それだけ材料コストなどが増加する。
【0017】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、地震時に地盤から排水経路部へ流入する間隙水を十分に排水でき、コスト的にも合理的な排水機能を備える矢板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、鋼矢板などの矢板の基体に長手方向に沿って排水経路部が設けられた排水機能付き矢板において、排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなるようにしたものである。
【0019】
排水機能付き矢板においては、後述するように、地震時には、地盤中の間隙水が排水経路部を通じて地表近くに排水されるが、排水経路部での水の垂直方向の流量は、上に行くほど大きくなる。
【0020】
本発明の排水機能付き矢板の場合、排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなっていることで、地震時において、水量が多くなる排水経路部の上部においてもスムーズな水の流れが確保され、効率的な排水、およびそれによる地盤内の過剰間隙水圧の効率的な逸散が図れ、地盤の液状化を抑止することができる。
【0021】
排水経路部は、矢板の基体の表面に、その長手方向に沿って、例えば格子状(立体網状)の構造の樹脂体などからなる排水部材を取り付けて形成するもの(その場合、排水部材の表面に土砂の侵入を防ぐためのネット状のフィルタや排水部材やフィルタを保護するための保護部材を配置する場合もある)や、鋼矢板の場合にはチャンネル(溝形鋼)に透水孔を形成したものを取り付けて形成するものなどがある。
【0022】
排水経路部における上部位置での水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなる具体的な形態の一つとしては、上部位置における排水経路部の断面積が下部位置における排水経路部の断面積よりも大きくなるようにすればよい。
【0023】
その場合、排水経路部の製作の容易性やコストなどを考慮し、排水経路部の断面積が連続的に変化するようにしてもよいし、複数段階に変化するようにしてもよい。
【0024】
また、例えば、排水経路部を上述の格子状(立体網状)の構造の樹脂体などで構成する場合には、排水部材の目の粗さを変化させることで、上部位置と下部位置における水の流れに対する抵抗を変えることができる。
【0025】
また、排水経路部の断面積の変化と、排水部材の目の粗さの変化を組み合わせることもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の排水機能付き矢板によれば、排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなっていることで、地震時において、水量が多くなる排水経路部の上部においてもスムーズな水の流れが確保され、効率的な排水、およびそれによる地盤内の過剰間隙水圧の効率的な逸散が図れ、地盤の液状化を抑止することができる。
【0027】
また、必要とされる排水能力に対し、排水経路部として用いられる材料の使用量も合理的に削減することができ、コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】排水経路部を備える従来の一般的な排水機能付き矢板で構成される壁体における地震時の排水の様子を概略的に示した鉛直断面図である。
【図2】排水機能付き矢板における排水経路部での水の垂直方向の流量が上に行くほど大きくなることをイメージ的に示した図である。
【図3】本発明の実施形態として、排水経路部構成する排水部材の上部位置での断面積が下部位置における断面積よりも大きい構造の例を3態様示したものであり、(a)は正面側から見た斜視図、(b)、(c)は側面側から見た断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態として、矢板の上部位置に位置する排水部材が下部位置の排水部材よりも疎な構造体である場合の例を示した正面側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は排水経路部を備える従来の一般的な排水機能付き矢板で構成される壁体における地震時の排水の様子を概略的に示したもので、地震時には地盤中の間隙水が排水経路部を通じて地表近くに排水される。
【0030】
言いかえると、間隙水がどの位置(深さ)から排水経路部に流入したとしても、その排水は地表近くでしかなされない。そのため、排水経路部での水の垂直方向の流量は、図2のイメージ図で表わされるように、上に行くほど大きい。
【0031】
したがって、効率的な排水の観点では、流水経路部内では上の方ほど(つまり地表面に近づくほど)水が流れやすくなっている構造が好ましい。
【0032】
以下、本発明に係る排水機能付き矢板の構造の具体的な実施形態を、例を挙げて説明する。
【0033】
図3は本発明の実施形態として、鋼矢板1の基体の長手方向に沿って設けられる排水経路部2を構成する排水部材3の断面積が上部位置と下部位置で異なっていて、上部位置での断面積が下部位置における断面積よりも大きい構造の例を3態様示したものである。
【0034】
排水経路部2を構成する排水部材3としては、例えば、格子状(立体網状)の構造の樹脂体を使用することができる。このような樹脂体の例としては、市販品である「エンドレンマット(登録商標)」、「エンドレンマット(登録商標)リブ型」、「モノドレン(登録商標)」、「もやい(登録商標)ドレーンマット」が挙げられる。
【0035】
このような樹脂製排水部材を使用する場合は、排水部材3の外側(特に地盤に面する側)がフィルタ4で覆われていて、樹脂体の内部(すなわち通水経路部2)に土砂が流入しにくいようになっているのが好ましい。
【0036】
上部位置での断面積が下部位置における断面積よりも大きい構造とするためには、上部位置での排水部材3を、下部位置の排水部材3よりも厚さおよびまたは幅の大きいものとすればよい(図3(a)、(b)参照)。
【0037】
あるいは、上部位置では複数の排水部材3を重ねたり並べたりして下部位置よりも通水経路部の断面積を大きくしてもよい(図3(c)参照)。
【0038】
後者の構造は同一断面形状の排水部材からでも得られ、この場合、準備する排水部材3のサイズのバリエーションが少なくて済むメリットがある。
【0039】
上部位置と下部位置の排水部材3どうしは、それぞれが樹脂体からなるものであれば、大型のステープラや針金を用いて接続することができる。これら相互の接続は必ずしも強固に固定される必要はなく、施工時にバラバラにならない程度で十分である。
【0040】
図3の構造では、排水部材3は鋼矢板1の中間位置1箇所で分割されているが、2箇所以上で分割されていてもよい。
【0041】
また、排水部材は、例えば特許文献1のような孔あきの溝型状(鋼材であれば溝型鋼)であってもよく、この場合は、溝形状の排水部材と矢板とで形成される空間が排水経路部となる。
【0042】
この構造では、異なる断面形状の排水部材の接続部においてその加工や接続作業(溶接等)が比較的煩雑になるが、排水部材自体は溝型鋼等の安価なものを用いることができる。
【0043】
図4は、矢板1の上部位置に位置する排水部材3bが下部位置の排水部材3aよりも疎な構造体であることで、矢板上部位置における垂直方向の水の流れを流れやすくした構造の例である。
【0044】
排水部材3a、3bが、例えば前述した格子状(立体網状)の構造の樹脂体の場合は、格子状(網状)の密度を変更して適正なものとすればよい。
【符号の説明】
【0045】
1…矢板、2…排水経路部、3…排水部材、3a…排水部材(密度大)、3b…排水部材(密度小)、4…フィルタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に液状化の発生が懸念される地盤に施工される壁体や護岸等に用いられる排水機能付き矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軟弱な砂層地盤など地震時に液状化の発生が懸念される地盤上に構造物を構築する場合、もしくは既存の構造物に液状化対策を施す場合に対し、従来から各種工法が開発されている。
【0003】
例えば、地盤が液状化しないように地盤強度(密度)を増大させる締固め工法(サンドコンパクションパイル工法など)、薬液注入などによる地盤改良工法などが幅広く適用されている。
【0004】
しかし、これらの工法では周辺地盤をかなり広い領域にわたって対策する必要があるため、用地確保が必要なことや、確実に効果を発揮するためには構造物直下地盤を改良することが肝要である。
【0005】
既設構造物への適用を考えた場合、一旦、構造物を撤去し、地盤を改良した後に再び構造物を設置するか、構造物周辺地盤から構造物直下地盤の改良を施す必要がある。
【0006】
しかし、施工スペースの制限や、低騒音・低振動施工が求められるなど、適用の制限を受けることが考えられる。さらに、対策工法や地盤の改良範囲によっては多大な工期、工費が必要となり非合理的となることも考えられる。
【0007】
一方、ドレーン工法など地震時に発生する過剰間隙水圧の発生を低減し液状化を抑制する工法、鋼材などを用いて構造的に地盤の変形を抑制する工法、さらにはこれらの技術要素を組み合わせて、より合理的かつ効果的な対策を可能にする工法も開発されている。
【0008】
一例としては、矢板や杭、H型鋼のような鋼材に排水部材を取り付けた、排水機能を備える鋼(管)矢板、鋼管杭、H型鋼を地中に連続して打設し壁体を構築する工法が挙げられる。
【0009】
特許文献1には、矢板本体(基体)の長手方向に沿った所定区間に、多数の開口部と該開口部からの地盤の土砂の侵入を防ぐためのフィルタを備えた排水用部材を1条または複数条、少なくとも前記矢板本体の片面に設けたことを特徴とする排水機能付き鋼矢板が記載されている。
【0010】
このような排水機能を備える鋼材を用いる工法は、主として水路や共同溝、盛土といった線状構造物の両側に設置される場合や、建築物をはじめ各種施設を取り囲むように設置される場合が多い。
【0011】
これら構造物の周囲に壁体を構築することで、鋼材の強度・剛性に優れるといった特徴を活かして液状化した地盤の変形を抑制するとともに、鋼材に取り付けられた排水部材の効果により地震時に発生する過剰間隙水圧を低減し液状化が抑制され、構造物に生じる有害な変形や損傷が抑制されることが期待できる。
【0012】
矢板近傍の過剰間隙水圧の発生が抑制されると、矢板近傍の地盤強度が保持され鋼材自体の変形に抵抗する地盤からの反力が十分に期待でき、かつ鋼材に作用する地盤からの荷重が低減されるため、必要な鋼材の断面を低減することができコスト面での合理化も期待できる。
【0013】
また、このような排水機能を備える鋼材は、護岸や道路擁壁などの擁壁構造物の構築にも適用することが可能で、擁壁構造物背面の水を効果的に排水することで静水圧を低減し擁壁構造物の変形を抑制することが期待される。これにより、擁壁構造物に適用する鋼材の断面が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平02−225712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
排水部材などからなる排水経路部は、地震時に地盤から排水経路部に向かって排水される流量を十分に排水できるだけの断面積および排水能力を有する必要がある。排水経路部の断面積が地盤から排水経路部への流入量を排水するに不十分であると、矢板前面地盤の水圧消散能力が低下し、対策効果の低下が懸念される。
【0016】
一方で、排水経路部の断面積が大きければ、それだけ地盤へ打設する際の貫入抵抗が増え、施工コストが増加することが懸念されるとともに、また、それだけ材料コストなどが増加する。
【0017】
本発明は、上述のような課題の解決を図ったものであり、地震時に地盤から排水経路部へ流入する間隙水を十分に排水でき、コスト的にも合理的な排水機能を備える矢板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、鋼矢板などの矢板の基体に長手方向に沿って排水経路部が設けられた排水機能付き矢板において、排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなるようにしたものである。
【0019】
排水機能付き矢板においては、後述するように、地震時には、地盤中の間隙水が排水経路部を通じて地表近くに排水されるが、排水経路部での水の垂直方向の流量は、上に行くほど大きくなる。
【0020】
本発明の排水機能付き矢板の場合、排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなっていることで、地震時において、水量が多くなる排水経路部の上部においてもスムーズな水の流れが確保され、効率的な排水、およびそれによる地盤内の過剰間隙水圧の効率的な逸散が図れ、地盤の液状化を抑止することができる。
【0021】
排水経路部は、矢板の基体の表面に、その長手方向に沿って、例えば格子状(立体網状)の構造の樹脂体などからなる排水部材を取り付けて形成するもの(その場合、排水部材の表面に土砂の侵入を防ぐためのネット状のフィルタや排水部材やフィルタを保護するための保護部材を配置する場合もある)や、鋼矢板の場合にはチャンネル(溝形鋼)に透水孔を形成したものを取り付けて形成するものなどがある。
【0022】
排水経路部における上部位置での水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなる具体的な形態の一つとしては、上部位置における排水経路部の断面積が下部位置における排水経路部の断面積よりも大きくなるようにすればよい。
【0023】
その場合、排水経路部の製作の容易性やコストなどを考慮し、排水経路部の断面積が連続的に変化するようにしてもよいし、複数段階に変化するようにしてもよい。
【0024】
また、例えば、排水経路部を上述の格子状(立体網状)の構造の樹脂体などで構成する場合には、排水部材の目の粗さを変化させることで、上部位置と下部位置における水の流れに対する抵抗を変えることができる。
【0025】
また、排水経路部の断面積の変化と、排水部材の目の粗さの変化を組み合わせることもできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の排水機能付き矢板によれば、排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さくなっていることで、地震時において、水量が多くなる排水経路部の上部においてもスムーズな水の流れが確保され、効率的な排水、およびそれによる地盤内の過剰間隙水圧の効率的な逸散が図れ、地盤の液状化を抑止することができる。
【0027】
また、必要とされる排水能力に対し、排水経路部として用いられる材料の使用量も合理的に削減することができ、コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】排水経路部を備える従来の一般的な排水機能付き矢板で構成される壁体における地震時の排水の様子を概略的に示した鉛直断面図である。
【図2】排水機能付き矢板における排水経路部での水の垂直方向の流量が上に行くほど大きくなることをイメージ的に示した図である。
【図3】本発明の実施形態として、排水経路部構成する排水部材の上部位置での断面積が下部位置における断面積よりも大きい構造の例を3態様示したものであり、(a)は正面側から見た斜視図、(b)、(c)は側面側から見た断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態として、矢板の上部位置に位置する排水部材が下部位置の排水部材よりも疎な構造体である場合の例を示した正面側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は排水経路部を備える従来の一般的な排水機能付き矢板で構成される壁体における地震時の排水の様子を概略的に示したもので、地震時には地盤中の間隙水が排水経路部を通じて地表近くに排水される。
【0030】
言いかえると、間隙水がどの位置(深さ)から排水経路部に流入したとしても、その排水は地表近くでしかなされない。そのため、排水経路部での水の垂直方向の流量は、図2のイメージ図で表わされるように、上に行くほど大きい。
【0031】
したがって、効率的な排水の観点では、流水経路部内では上の方ほど(つまり地表面に近づくほど)水が流れやすくなっている構造が好ましい。
【0032】
以下、本発明に係る排水機能付き矢板の構造の具体的な実施形態を、例を挙げて説明する。
【0033】
図3は本発明の実施形態として、鋼矢板1の基体の長手方向に沿って設けられる排水経路部2を構成する排水部材3の断面積が上部位置と下部位置で異なっていて、上部位置での断面積が下部位置における断面積よりも大きい構造の例を3態様示したものである。
【0034】
排水経路部2を構成する排水部材3としては、例えば、格子状(立体網状)の構造の樹脂体を使用することができる。このような樹脂体の例としては、市販品である「エンドレンマット(登録商標)」、「エンドレンマット(登録商標)リブ型」、「モノドレン(登録商標)」、「もやい(登録商標)ドレーンマット」が挙げられる。
【0035】
このような樹脂製排水部材を使用する場合は、排水部材3の外側(特に地盤に面する側)がフィルタ4で覆われていて、樹脂体の内部(すなわち通水経路部2)に土砂が流入しにくいようになっているのが好ましい。
【0036】
上部位置での断面積が下部位置における断面積よりも大きい構造とするためには、上部位置での排水部材3を、下部位置の排水部材3よりも厚さおよびまたは幅の大きいものとすればよい(図3(a)、(b)参照)。
【0037】
あるいは、上部位置では複数の排水部材3を重ねたり並べたりして下部位置よりも通水経路部の断面積を大きくしてもよい(図3(c)参照)。
【0038】
後者の構造は同一断面形状の排水部材からでも得られ、この場合、準備する排水部材3のサイズのバリエーションが少なくて済むメリットがある。
【0039】
上部位置と下部位置の排水部材3どうしは、それぞれが樹脂体からなるものであれば、大型のステープラや針金を用いて接続することができる。これら相互の接続は必ずしも強固に固定される必要はなく、施工時にバラバラにならない程度で十分である。
【0040】
図3の構造では、排水部材3は鋼矢板1の中間位置1箇所で分割されているが、2箇所以上で分割されていてもよい。
【0041】
また、排水部材は、例えば特許文献1のような孔あきの溝型状(鋼材であれば溝型鋼)であってもよく、この場合は、溝形状の排水部材と矢板とで形成される空間が排水経路部となる。
【0042】
この構造では、異なる断面形状の排水部材の接続部においてその加工や接続作業(溶接等)が比較的煩雑になるが、排水部材自体は溝型鋼等の安価なものを用いることができる。
【0043】
図4は、矢板1の上部位置に位置する排水部材3bが下部位置の排水部材3aよりも疎な構造体であることで、矢板上部位置における垂直方向の水の流れを流れやすくした構造の例である。
【0044】
排水部材3a、3bが、例えば前述した格子状(立体網状)の構造の樹脂体の場合は、格子状(網状)の密度を変更して適正なものとすればよい。
【符号の説明】
【0045】
1…矢板、2…排水経路部、3…排水部材、3a…排水部材(密度大)、3b…排水部材(密度小)、4…フィルタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矢板の基体に長手方向に沿って排水経路部が設けられた排水機能付き矢板において、前記排水経路部は、該排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さいことを特徴とする排水機能付き矢板。
【請求項2】
前記排水経路部は、該排水経路部の上部位置における断面積が該排水経路部の下部位置における断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の排水機能付き矢板。
【請求項1】
矢板の基体に長手方向に沿って排水経路部が設けられた排水機能付き矢板において、前記排水経路部は、該排水経路部の上部位置における水の流れに対する抵抗が下部位置における水の流れに対する抵抗よりも小さいことを特徴とする排水機能付き矢板。
【請求項2】
前記排水経路部は、該排水経路部の上部位置における断面積が該排水経路部の下部位置における断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の排水機能付き矢板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2013−91894(P2013−91894A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232582(P2011−232582)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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