説明

排熱回収システムを搭載した船舶の推進方法及び船舶

【課題】船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制することができる排熱回収システムを搭載した船舶の推進方法及びその推進方法が用いられる船舶を提供する。
【解決手段】内燃機関の出力によりプロペラを回転させる工程と、内燃機関から発生する排ガスによって電力を生成する工程と、電力を生成する工程により生じた余剰電力により電動機を駆動させることでプロペラの回転をアシストする工程と、を備えた船舶の推進方法であって、目標プロペラ回転数と実プロペラ回転数の偏差を基準燃料噴射量に換算する工程と、機関回転数、および電動機の出力から演算された機関出力に基づき、内燃機関への燃料噴射量の補正値を演算する工程26と、基準燃料噴射量から前記補正値を減算することで内燃機関に供給すべき補正燃料噴射量を算出する工程21bと、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と、該内燃機関に軸を介して連結される軸発電機とを具備する船舶の排熱回収システムを備えるとともに、船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制する船舶の推進方法、及びその推進方法が用いられる船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶用排熱回収システムとして、エンジンの排ガスを利用して排ガスエコノマイザーを設けて主機関で仕事が済んだ排ガスの熱量を熱交換させて蒸気タービンを駆動して発電するシステムや、エンジンに軸発電機を設けて該エンジンの出力で軸発電機を回して船内負荷電力の賄うシステムがある。このようなシステムは船舶の省エネ化技術として従来から提案されており、例えば特許文献1(特開2007−1339号公報)に開示される。特許文献1は、エンジンの排ガスを利用してガスタービンを駆動し、船内負荷電力の一部を賄うシステムである。
【0003】
前記ガスタービンを備える排熱回収システムでは、エンジン負荷に応じて蒸気タービン、ガスタービン、軸発電機などの電力配分を決めている。
図7に従来のガスタービンを備える排熱回収システムの構成を示す。図7で示す排熱回収システムは、船を推進させるエンジン51と、エンジン51で起動する軸発電機52と、エンジン51の出力によって回転するプロペラ53と、エンジン51に供給する空気を圧縮する過給機54と、過給機54からの空気を冷却する冷却器55と、軸発電機52と発電機58、補助発電機60で補われる船内電力61とで構成される。
【0004】
また、前記船舶は、排ガスエコノマイザー59を備えており、エンジン51から排出される排ガスを過給機54若しくはガスタービン56を介して排ガスエコノマイザー59へ供給し、該排ガスエコノマイザー59で発生した蒸気で蒸気タービン57を駆動させ、ガスタービン56の動力と一緒にあわせて発電機58を回す。
図7中の破線は蒸気と水のラインであり、蒸気タービン57の後段に設けられる復水器62で蒸気は水に戻され、この水を冷却器55の熱やエンジン51の壁を冷却する熱で温めた後、排ガスエコノマイザー59へ供給して蒸発させ蒸気を生成する。
【0005】
このような排熱回収システムを搭載した船舶の燃料噴射量制御について図8を用いて説明する。
図8において、プロペラ回転数指令が与えられると、その目標のプロペラ回転数は制御器41で燃料噴射量に換算され、エンジン1の燃料噴射装置42へ燃料噴射量の指令を与える。次いで、燃料噴射量に対応するエンジン出力に、軸発電機からのアシストトルクを加算し、船体抵抗を減算器した後、プロペラ回転数の計算43を行い、フィードバックしてプロペラ回転数目標値(操船者が指示したプロペラ回転数指令値)とプロペラ実出力値との差が減算器44にて計算され、その減算された補正値に基づいて、エンジンの燃料噴射量を制御することにより、プロペラ実出力値を目標のプロペラ回転数に近づかせることができ、船舶の推進応答性の向上を図っている。
【0006】
一方、船舶の転蛇応答性を向上される発明として、特許文献2(特開2008−126771号公報)が開示されている。特許文献2は、船尾に配設される船舶推進装置と、該船舶推進装置の推力を制御する制御手段と、前記船舶推進装置を転舵させるように電動アクチュエータによって駆動される舵取り装置と、操船者により操作され、操作量に応じた駆動信号を前記電動アクチュエータに与えるために前記電動アクチュエータに電気的に接続されたハンドルと、を備えた船舶用操舵装置であって、前記制御手段は、ハンドル操作に従った操舵状態を検出する操舵状態検出手段と、船舶の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記船舶推進装置の搭載数等の状態を認識する船舶推進装置状態認識手段と、前記電動アクチュエータの状態を検出する電動アクチュエータ状態検出手段との少なくとも一つを有し、該少なくとも一つの手段からの検知値に基づいて目標推力を演算する推力演算手段と、該推力演算手段が演算した目標推力に応じて前記船舶推進装置の推力を抑制する推力抑制手段と、を備えて構成している。
【0007】
しかしながら、特許文献2は船舶の転蛇応答性を向上させるものであって、船舶の推進応答性を向上させるためのものではなく、プロペラ回転数に対応するエンジン状態の制御については記載されていない。
エンジン出力はプロペラと船内電力の両方を加味して決定されるが、従来ではその両方を考慮してエンジン出力、すなわちエンジンの燃料噴射量が制御されていなかった。
また、エンジンの燃料噴射量は、単にプロペラの回転数が指令として操船者側から伝達されてそれに対して制御している。又必要に応じてエンジンの出力軸には発電機(軸発電機)が設けられている。そしてエンジンの軸で前記プロペラを回転させており、プロペラの回転数、即ちエンジンの回転数によって船速が原則的に決定されるが、波の状態等の外乱抵抗を加味して船速が最終的に決定される。しかし、従来の船速は、燃料噴射量を船舶の機関室で調整して、これを目的とする船速としているので、船速を見てエンジン制御することを行っていなかった。
【0008】
一方排熱回収システムを搭載した船舶では、ガスタービンや蒸気タービン、軸発電機等で船舶全体の電力を賄っているため、船内負荷が急激に減少してしまい、余剰電力が発生するときは、軸発電機が搭載されている船の場合は、軸発電機を電動機として使用し、余剰電力を消費させると共に、航行動力をアシストさせる。よって、船内負荷が急減して余剰電力が発生すると、軸発電機からのアシストトルクが外乱となり、一定速度で航行しようとする船舶が急加速してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−1339号公報
【特許文献2】特開2008−126771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制することができる排熱回収システムを搭載した船舶の推進方法及びその推進方法が用いられる船舶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制することができる排熱回収システムを搭載した船舶の推進方法を提供するために、
内燃機関を駆動する工程と、前記内燃機関の出力によりプロペラを回転させる工程と、前記内燃機関から発生する排ガスによって電力を生成する工程と、前記電力を生成する工程により生じた余剰電力により電動機を駆動させることでプロペラの回転をアシストする工程と、を備えた船舶の推進方法であって、目標プロペラ回転数と実プロペラ回転数の偏差を基準燃料噴射量に換算する工程と、機関回転数、および前記電動機の出力から演算された機関出力に基づき、前記内燃機関への燃料噴射量の補正値を演算する工程と、前記基準燃料噴射量から前記補正値を減算することで前記内燃機関に供給すべき補正燃料噴射量を算出する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
かかる発明によれば、目標プロペラ回転数と実プロペラ回転数の偏差を基準燃料噴射量に換算する工程により得られた基準燃料噴射量から、機関回転数、および前記電動機の出力から演算された機関出力に基づき、前記内燃機関への燃料噴射量の補正値を演算する工程より得られた補正値を減算して前記基準燃料噴射量を補正することにより、船内負荷の急減時による余剰電力に対応して燃料噴射量を補正することができるので、船内負荷の急減したときも目標の回転数となるように燃料噴射量を制御して船速の変動を応答良く抑制することができる。
【0013】
また、上述したような推進方法が用いられる船舶の発明として、内燃機関と、前記内燃機関の出力が伝達されるプロペラと、前記内燃機関から発生する排ガスによって駆動するガスタービン、及び前記排ガスから生成された蒸気によって駆動する蒸気タービンと、に接続された発電機と、前記内燃機関の出力軸に連結される電動機と、を備えた船舶において、
目標プロペラ回転数と実プロペラ回転数の偏差に基づいて基準燃料噴射量を換算する手段と、機関回転数、および前記電動機の出力から演算された機関出力に基づき、前記内燃機関への燃料噴射量の補正値を演算する手段と、前記基準燃料噴射量から前記補正値を減算することで前記内燃機関に供給すべき補正燃料噴射量を算出する手段と、を備えたことを特徴とする。
これにより、船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制することができる船舶を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制することができる推進方法及びその推進方法が用いられる船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用される排熱回収システムを搭載した船舶の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の船舶の燃料噴射量制御ロジックの制御要素を示すブロック図で、図1のコントロールユニット内に組み込まれている実施形態1である。
【図3】(a)のマップAは軸発電機の出力に相当する機関出力を演算することができるマップであり、横軸に軸発電機出力、縦軸に機関出力からなる2次元マップで示される。また(b)のマップBは機関回転数、機関出力に相当する燃料噴射量を演算することができる3次元マップである。
【図4】図1に示す判定回路に対応する電力余剰状態判定手段を示すブロック図である。
【図5】図1の船舶の燃料噴射量制御ロジックの制御要素を示すブロック図で、図1のコントロールユニット内に組み込まれている実施形態2である。
【図6】図1の船舶の燃料噴射量制御ロジックの制御要素を示すブロック図で、図1のコントロールユニット内に組み込まれている実施形態3である。
【図7】従来の排熱回収システムの構成を示す図1対応ブロック図である。
【図8】従来の船舶の燃料噴射量制御ロジックを示す図2対応ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【実施形態1】
【0017】
まず、実施形態1に係る船舶の燃料噴射量制御について、図1〜図4を用いて説明する。図1は、本発明が適用される排熱回収システムを搭載した船舶の概略構成を示すブロック図である。図1で示す排熱回収システムは、船を推進させるエンジン(内燃機関)1と、エンジン1の出力軸に連結されて駆動する軸発電機(電動機)2と、エンジン1の出力によって回転するプロペラ3と、エンジン1に供給する空気を圧縮する過給機4と、過給機4からの空気を冷却する冷却器5と、軸発電機2と発電機8、補助発電機10、及び軸発電機2と発電機8、補助発電機10でまかなわれる船内電力11とで構成される。尚、図面は船内電力の使用低下により、余剰電力がでている状態を示し、発電機8の一部の電力を余剰電力として軸発電機2に供給している状態を示す(太線で示す部分)。
【0018】
また、船舶は一般に排ガスエコノマイザー9を備えており、エンジン1から排出される排ガスを過給機4若しくはガスタービン6を介して排ガスエコノマイザー9へ供給し、該排ガスエコノマイザー9で発生した蒸気で蒸気タービン7を駆動させ、ガスタービン6の動力と一緒にあわせて発電機8を回す。
ここで排ガスエコノマイザーは船舶特有の装置で例えば船の煙突の中に取り付けられており、例えば煙突の中に密集した熱交換パイプを設置し、その中に水を通し、主駆動機関で仕事が済んだ排気ガスの熱量を熱交換させて、蒸気を発生させたり、水を加熱させたりする装置である。
元に戻り、図1中の破線は蒸気と水のラインであり、蒸気タービン7の後段に設けられる復水器12で蒸気は水に戻され、この水を冷却器5の熱やエンジン1の壁を冷却する熱で温めた後、排ガスエコノマイザー9へ供給して蒸発させ蒸気を生成する。
【0019】
このような排熱回収システムは、ガスタービン6や蒸気タービン7に連結させた発電機8、軸発電機2、補助発電機10で船舶全体の電力を賄っているため、船内負荷が急激に減少してしまい、余剰電力が発生するときは、図1のように発生する電力を軸発電機2へ供給し、前記軸発電機2を電動機として使用して余剰電力を消費させると共に、エンジン1の航行動力をアシストさせる。具体的には判定回路30において{(発電機8+軸発電機2+補助発電機10)−(船内要求電力+閾値)=余剰電力}の算出式で閾値以上の余剰電力が発生したか否かを判別し、閾値以上の余剰電力がでている場合は、軸発電機2に電力を供給し、電動機としてプロペラ出力のアシストを行う。
このことは余剰電力の有効利用ではあるが、一方ではこれにより、船内負荷が急減すると、軸発電機からのアシストトルクが外乱となり、一定速度で航行しようとする船舶が急加速してしまう問題がある。
そこで、本発明は、図2に示す制御を行っている。
【0020】
図2は、図1の船舶の燃料噴射量制御ロジックの制御要素を示すブロック図で、図1のコントロールユニット内に組み込まれている実施形態1である。図2において、船舶の操船者が要求するプロペラ回転速度によりプロペラ回転数指令が与えられると、その目標とする要求されたプロペラ回転数は制御器21の制御器本体21aで基準燃料噴射量に換算され、該換算された基準燃料噴射量を後記補正値に基づいて補正器21bで補正して、エンジン1の燃料噴射装置22のアクチュエータ27に前記補正された燃料噴射量と対応する指令値を与える。
【0021】
一方、船内負荷の急減により発生する余剰電力量を判定回路30で検知し、電力余剰状態であると判定されると後述する図3(a)に示すマップAより軸発電機の出力に相当する機関出力(ここで機関出力とはエンジン出力に電動機として機能する軸発電機よりの出力(アシストトルクという)を加えたものをいう。)を、図2に示す機関出力演算装置25で演算する。即ちマップAは軸発電機の出力に相当する機関出力を演算することができるマップであり、横軸に軸発電機出力、縦軸に機関出力からなる2次元マップであるから、軸発電機出力を入力することにより機関出力が容易に得られる。
そして、燃料噴射量補正値演算装置26でマップBによる機関回転数、機関出力に相当する燃料噴射量を演算する。具体的にはマップBは、マップAで求められる機関出力ごとに機関回転数を入力することにより、機関出力に相当する燃料噴射量の補正値を演算することができる。
この余剰電力によって求められる燃料噴射量の補正値を制御器本体21aから得られた基準燃料噴射量に対し、補正器21bで差し引き、該差し引いて補正を行った補正燃料噴射指令を燃料噴射装置22のアクチュエータ27に与える。このようにして、上述したフィードフォワード制御により最終的にエンジンに供給すべき燃料噴射量(補正燃料噴射量)を補正制御する。
なお、図2ではエンジン1として、燃料噴射量を機械的に制御するアクチュエータ(例えばラック式燃料噴射量調整器)を有する機械制御エンジンを用いているが、電子信号により燃料噴射量を制御する例えば電子ガバナ式の電子制御エンジンも好適に用いられる。
【0022】
次いで、エンジンに供給すべき補正燃料噴射量に対応するエンジン出力に、前記軸発電機からのアシストトルクを加算し、航行負荷(例えば、船体抵抗)を減算した後に機関(プロペラ)の回転数計算23を行い、フィードバックしてプロペラ回転数目標値とプロペラ実出力値との差が減算器24にて計算される。
【0023】
なお、上述した機関出力演算装置25と、燃料噴射量補正値演算装置26では、予め作成された図3(a)、(b)に示すマップA、マップBをそれぞれ用いて演算される。図3(a)のマップAは軸発電機2(図1参照)の出力に相当する機関出力を演算することができるマップであり、2次元マップで示される。また、図3(b)のマップBは機関回転数、機関出力に相当する燃料噴射量を演算することができるマップであり、3次元マップで示される。
このように、軸発電機の出力を直接検知することから、図3(a),(b)に示すマップA、マップBにより、燃料噴射量を演算することができる。なお、マップによる演算だけでなく、換算係数を用いた数式モデルにより逐次計算しても良い。
【0024】
また、図1に示す電力余剰状態の判定回路30は、図4に示す。
船内電力は、ガスタービン6や蒸気タービン7に連結させた発電機8、軸発電機2から得られる電力で船舶全体の電力を賄っている。尚、補助発電機10は一般にエンジン(主機)が停止した場合に駆動する。
判定回路30は、まず船内要求電力演算装置31で、船内の各電気機器の電圧と電流値とを検知することにより船内要求電力が演算される。一方、排熱回収システムを搭載した船舶では、図1に示すように発電機8と軸発電機2との和(必要に応じて補助発電機10も含めて)が電力供給量である。よって、発電機8と軸発電機2(必要に応じて補助発電機10)の出力の和(加算器33)から、船内要求電力を判定器30で前記減算器することにより余剰電力を求めることができる。そして、電力余剰状態判定器36で、求めた余剰電力と予め定めた閾値35とを比較し、該余剰電力が閾値を越えたときに電力余剰状態と判定する回路であり、該判定回路30で過剰電力と判断した場合に上述した図2に示す制御を開始する。
以上のことから、図4により余剰電力を検知して電力余剰状態であると判定された場合に目標のプロペラ回転数となるようにフィードフォワード制御を用いてエンジンの燃料噴射量を補正制御することにより、船内負荷の急減した場合でも船速の変動を抑制することができる。
【実施形態2】
【0025】
次に、実施形態2に係る船舶の燃料噴射量制御について、図5を用いて説明する。本実施形態における船舶の排熱回収システムの全体構成は図1に示すものと同様であるので、その構成についての説明は省略する。なお、実施形態2ではエンジン1として、燃料噴射を電子的に制御する電子ガバナ等により燃料噴射を行う電子制御エンジンを用いる。
【0026】
図5は、実施形態2に係る船舶の燃料噴射量制御ロジックを示すブロック図である。
図2との違いは対象が、図2は、燃料噴射両制御部が、機械的なアクチュエータであるのに対し、図5は燃料噴射を電子的に制御する電子ガバナ等により燃料噴射を行う電子制御エンジンを対象にしている。
図5において、船舶の操船者が要求するプロペラ回転速度によりプロペラ回転数指令が与えられると、その目標とする要求されたプロペラ回転数は制御器21の制御器本体(図2参照)で基準燃料噴射量に換算され、該換算された基準燃料噴射量を、図2と同様に機関出力演算装置26及び燃料噴射量補正値演算回路26にて演算された補正値に基づいて基準燃料噴射量を補正して、該補正された補正燃料噴射量に基づいて燃料噴射装置22の電子ガバナの開度制御を行う。この場合にエンジン1燃料噴射を電子的に制御する電子ガバナは電子制御であるため、前記制御器21で基準燃料噴射量と燃料噴射量補正値はいずれもAD変換してデジタル換算情報として計算され、補正燃料噴射量を得ることができる。
【0027】
以降は図2及び図1の実施例と同様であるが、図5を簡単に説明するに、船内負荷の急減により発生する余剰電力量を検知し、電力余剰状態であると判定されると機関出力演算装置25で軸発電機の出力に相当する機関出力を演算する。そして、燃料噴射量補正値演算装置26で機関回転数、機関出力に相当する燃料噴射量補正値を演算する。これらは実施形態1と同様に余剰電力を検知した後に、図3(a),(b)に示すマップA、マップBを用いて算出される。
フィードフォワード制御を用いて余剰電力によって求められる燃料噴射量補正値を制御器21へ入力することにより、プロペラ回転数制御により演算した燃料噴射量から減算器して燃料噴射量を補正し、エンジン1へ燃料噴射量の指令を与え、最終的にエンジンに供給すべき燃料噴射量を制御する。
次いで、軸発電機からのアシストトルクを加算し、船体抵抗などの航行負荷を減算した後に回転数計算23を行い、フィードバックしてプロペラ回転数目標値とプロペラ実出力値との差が減算器24にて計算される。
【0028】
このように、エンジンが電子制御エンジンの場合、実施形態1(図2参照)に示す制御ロジックでの実現も可能であるが、予め主機関のガバナである制御器21に余剰電力演算結果の燃料噴射情報を入力しても実現可能である。
よって、実施形態1と同様に、余剰電力を検知して電力余剰状態であると判定された場合に目標のプロペラ回転数となるようにフィードフォワード制御を用いてエンジンの燃料噴射量を制御し、船内負荷の急減した場合でも船速の変動を抑制することができるとともに、1本の信号でアクチュエータに送ることができるためシステムをより簡単に構成することができる。
【実施形態3】
【0029】
次に、実施形態3に係る船舶の燃料噴射量制御について、図6を用いて説明する。本実施形態における船舶の排熱回収システムの全体構成は図1に示すものであるので、実施形態2と同様にその構成についての説明は省略する。なお、実施形態3ではエンジン1として、燃料噴射を電子的に制御する電子制御エンジンを用いることは実施例2と同様である。
【0030】
実施形態3では、船舶の操船者が要求する船速となるように直接制御させており、その制御ロジックを図6に示す。
図6において図5との違いを説明するに、図中42は船の位置を求めるGPS、43は該GPSデータより船速実出力値を計算する船速計算部、41は操船者の指令に基づく船速目標値を設定する船速指令部、45は船速目標値と船速実出力値との差を計算する差分器で、該差分器よりの信号に基づいて、GPSで船速を検知して、該船速の変動を抑制して一定となるように、制御器21で演算補正された第1の補正燃料噴射量を更に補正し、船速の変動を加味した第2の補正燃料噴射量を演算する。
従って図6において、船舶の操船者より、要求するプロペラ回転速度及び船速の指令が与えられると、その要求されたプロペラ回転数及び船速は制御器21に前記第1及び第2の補正を行い、目標とする燃料噴射量に対応する信号に換算され、該補正された補正燃料噴射量に対応する信号に基づいて燃料噴射装置22の電子ガバナの開度制御を行う。
エンジン1は電子制御エンジンであるため、前記制御器21に燃料噴射量の換算情報やGPSなどで検知された船速を入れ込むことができる。
【0031】
尚、船内負荷の急減により発生する余剰電力量を検知し、電力余剰状態であると判定器30で判定されると機関出力演算装置25で軸発電機の出力に相当する機関出力を演算する。そして、燃料噴射量補正値演算装置26で機関回転数、機関出力に相当する燃料噴射量を演算する。これらは実施形態1と同様に余剰電力を検知した後に、図3(a),(b)に示すマップA、マップBを用いて算出される点は実施例1,2と同様であるが、本発明はフィードフォワード制御を用いて余剰電力によって求められる第1の燃料噴射量補正値と、船速の変動に基づいて演算した第2の燃料噴射量の補正値とから目標となる燃料噴射量を補正し、エンジン1の燃料噴射装置22へ補正された目標燃料噴射量の指令を与え、最終的にエンジンに供給すべき燃料噴射量を制御する。
【0032】
次いで、エンジンに供給すべき補正燃料噴射量に対応するエンジン出力に、軸発電機からのアシストトルクを加算し、船体抵抗などの航行負荷を減算器した後に回転数、船速計算28を行い、フィードバックしてプロペラ回転数目標値とプロペラ実出力値との差が減算器24にて計算される。また、同様に船速目標値と船速実出力値との差が計算される。すなわち、船速を検知して、該船速の変動を抑制して一定となるようにエンジンの回転数を制御するために燃料噴射量を制御する。
【0033】
よって、実施形態1、2と同様に、余剰電力を検知して電力余剰状態であると判定された場合に目標のプロペラ回転数となるようにフィードフォワード制御を用いてエンジンの燃料噴射量を制御し、船内負荷が急減した場合でも船速の変動を抑制することができる。また、別途検知した船速をみながらプロペラ回転速度を調整すべく燃料噴射量を調整した従来と異なり、検知した船速を制御器に取り込むことにより、船舶の操船者が要求する船速となるように船速を直接制御することが可能となる。
【0034】
なお図示しないが、実施形態1と同様の構成、すなわち余剰電力によって求められる燃料噴射量と、回転数と船速により演算した燃料噴射量とをアクチュエータに送り、余剰電力によって求められる燃料噴射量を、回転数と船速により演算した燃料噴射量から減算器して燃料噴射量を補正し、エンジン1へ燃料噴射量の指令を与え、最終的にエンジンに供給すべき燃料噴射量を制御する構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、船内負荷の急減時に対して船速の変動を応答良く抑制することができるので、排熱回収システムを搭載した船舶の制御装置及びその制御装置を備える船舶への適用に際して有益である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関を駆動する工程と、
前記内燃機関の出力によりプロペラを回転させる工程と、
前記内燃機関から発生する排ガスによって電力を生成する工程と、
前記電力を生成する工程により生じた余剰電力により電動機を駆動させることでプロペラの回転をアシストする工程と、を備えた船舶の推進方法であって、
目標プロペラ回転数と実プロペラ回転数の偏差を基準燃料噴射量に換算する工程と、
機関回転数、および前記電動機の出力から演算された機関出力に基づき、前記内燃機関への燃料噴射量の補正値を演算する工程と、
前記基準燃料噴射量から前記補正値を減算することで前記内燃機関に供給すべき補正燃料噴射量を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする船舶の推進方法。
【請求項2】
内燃機関と、
前記内燃機関の出力が伝達されるプロペラと、
前記内燃機関から発生する排ガスによって駆動するガスタービン、及び前記排ガスから生成された蒸気によって駆動する蒸気タービンと、に接続された発電機と、
前記内燃機関の出力軸に連結される電動機と、を備えた船舶において、
目標プロペラ回転数と実プロペラ回転数の偏差に基づいて基準燃料噴射量を換算する手段と、
機関回転数、および前記電動機の出力から演算された機関出力に基づき、前記内燃機関への燃料噴射量の補正値を演算する手段と、
前記基準燃料噴射量から前記補正値を減算することで前記内燃機関に供給すべき補正燃料噴射量を算出する手段と、
を備えたことを特徴とする船舶。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−14326(P2013−14326A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196670(P2012−196670)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2010−544061(P2010−544061)の分割
【原出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】