説明

掘削土留工における3次元計測システム

【課題】 掘削土留工の挙動を面的に評価できる土留壁の変位計測手法を用いることにより、構造物全体の挙動を把握するとともに、変位の原因を捉え易くする掘削土留工における3次元計測システムを提供することを目的とする。
【解決手段】
掘削土留工における3次元計測システムにおいて、土留壁10の面に配置される複数の高感度センサー11〜16と、この複数の高感度センサー11〜16の間を補完するように配置される複数の低感度センサー21〜80と、前記高感度センサー11〜16及び前記低感度センサー21〜80からの計測データを処理するデータ処理装置Aと、このデータ処理装置Aに接続される表示装置Bとを備え、前記土留壁10の面全体の変位データを計測し、前記土留壁10の面的な挙動を把握する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削土留工における3次元計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道や道路の函体等の地下構造物や構造物基礎等を構築する際、掘削土留工を行うことが多い(下記非特許文献1参照)。
図4はかかる従来の掘削土留工の模式図である。
この図において、101は地盤、102は地下構造物、103は掘削土留工としての土留壁である。
【0003】
鉄道近接工事においてこのような掘削土留工を行う場合、軌道の管理基準値から土留壁103の変位の制限値が定められている場合が多く、設計計算の段階で変位がこの制限値内に収まるように土留工が設計される。しかし、実際の現場においては、想定外の応力による変位への対応や鉄道の安全輸送の観点から、掘削土留工の計測を行うことが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「地下水流動保全工法」,2002年6月,地下水流動保全工法に関する研究委員会,巻末資料
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の掘削土留工の計測では、トータルステーションによる土留頭部の変位計測や、傾斜計による変位の計測を行っている。しかしながら、いずれも定点計測のため、点あるいは線的な計測データしか得られず、面的な構造物である土留壁全体のうちある一部分のみの計測となる。そのため、局所的なデータとなり土留壁の全体的な挙動が把握できず、変位の原因となる事象を捉え難いといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、これまで、点・線的なデータが中心であった土留壁の計測管理に対して、面的な評価ができる計測手法を用いることにより、構造物全体の挙動を把握でき変位の原因を捉え易くする、掘削土留工における3次元計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕掘削土留工における3次元計測システムにおいて、土留壁の面に配置される複数の高感度センサーと、この複数の高感度センサーの間を補完するように配置される複数の低感度センサーと、前記高感度センサー及び前記低感度センサーからの計測データを処理するデータ処理装置と、該データ処理装置に接続される表示装置とを備え、前記土留壁の面全体の変位データを計測し、前記土留壁の面的な挙動を把握することを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の掘削土留工における3次元計測システムにおいて、前記高感度センサー及び前記低感度センサーがを備え、前記土留壁の面全体の変位データを計測し、前記土留壁の面的な挙動を把握することを特徴とする。
〔3〕上記〔2〕記載の掘削土留工における3次元計測システムにおいて、前記表示装置に土留壁の面全体の変位データを3次元で可視化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、土留壁の変位の状態を正確に計測することができ、その計測データから得られた情報を3次元で可視化することにより、掘削土留工に変位が発生した際の状況把握を迅速に行うことができるとともに対策工の効率化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る土留壁の面的な挙動の例を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示す土留壁の面的な挙動を計測するためのセンサーの配置を示す図である。
【図3】本発明に係る土留壁の変位を3次元で可視化した例を示す図である。
【図4】従来の掘削土留工の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の掘削土留工における3次元計測システムは、土留壁の面に配置される複数の高感度センサーと、この複数の高感度センサーの間を補完するように配置される複数の低感度センサーと、前記高感度センサー及び前記低感度センサーからの計測データを処理するデータ処理装置と、このデータ処理装置に接続される表示装置とを備え、前記土留壁の面全体の変位データを計測し、前記土留壁の面的な挙動を把握する。
【0012】
なお、本発明においては、一般的に言えることであるが、高感度センサーは高価であり、低感度センサーは高感度センサーに比べると安価なものである。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明に係る土留壁の面的な挙動の例を示す図であり、図1(a)は土留壁の横方向(X軸方向)の面的な挙動の例を示しており、図1(b)は土留壁の縦方向(Y軸方向)の面的な挙動の例を示している。
図1(a)に示す土留壁1は横方向に波を打ったように変位しており、図1(b)に示す土留壁2は縦方向に弓状に変位している。
【0014】
図2は本発明の実施例を示す土留壁の面的な挙動を計測するためのセンサーの配置を示す図である。
この図において、10は土留壁、11〜16はその土留壁10に配置される高価な高感度センサー(以下、単に高感度センサーという)、21〜24は高感度センサー11と12との間に配置される、高感度センサーに比べると安価な低感度センサー(以下、単に低感度センサーという、25〜28は高感度センサー12と13との間に配置される低感度センサー、29〜50は横方向の第2,3列目に配置される低感度センサー、51〜54は高感度センサー14と15との間に配置される低感度センサー、55〜58は高感度センサー15と16との間に配置される低感度センサー、59〜80は横方向の第5,6列目に配置される低感度センサーである。なお、高感度センサーや低感度センサーとしては例えば、変位計や傾斜計を用いることができる。
【0015】
このように、土留壁10の面全体に土留壁10の変位を計測するための高感度センサー11〜16及び低感度センサー21〜80を配置するように構成したので、これまで点・線的なデータの検出が中心であった土留壁の計測管理に対して、土留壁全体の挙動を面的に正確に把握できるようになり、変位の状態とその発生原因を容易に捉えることができるとともに、構造物全体の挙動も把握することができる。また、高感度センサーと低感度センサーを組み合わせて配置することにより、コストを抑えて計測を行うことができる。
【0016】
なお、高感度センサーと低感度センサーの配置(組み合わせ)パターンは、図2に示される例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜組み合わせを変更することができる。
図3は本発明に係る土留壁の変位を3次元で可視化した例を示す図である。
この図において、土留壁81に配置された各種のセンサー(変位計又は傾斜計)82で計測した変位のデータをデータ処理装置83に取り込み、それらのデータを土留壁81の面に対応させた表示装置84にプロットし、変位した土留壁の映像85として可視化する。
【0017】
このように、高感度センサーとそれらの間を補完するように配置される低感度センサーによる各計測データから得られた情報を、図3に示すように3次元で可視化することにより、掘削土留工としての土留壁に変位が発生した際の状況把握を迅速化し、対策工の効率化を図ることができる。
また、低感度センサーを設置することにより、3次元挙動を把握するのみでなく、非接触型計測(デジタルカメラやGPS,トータルステーション)からのデータと高感度センサー(高価)センサにより得られたデータの組合わせにより、3次元挙動を可視化することができる。
【0018】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の掘削土留工における3次元計測システムは、掘削土留工の挙動を面的に評価するための土留壁の変位計測手法として利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
1,2,10,81 土留壁
11〜16 高感度センサー(高価)
21〜80 低感度センサー(安価)
82 センサー
A,83 データ処理装置
B,84 表示装置
85 変位した土留壁の映像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留壁の面に配置される複数の高感度センサーと、該複数の高感度センサーの間を補完するように配置される複数の低感度センサーと、前記高感度センサー及び前記低感度センサーからの計測データを処理するデータ処理装置と、該データ処理装置に接続される表示装置とを備え、前記土留壁の面全体の変位データを計測し、前記土留壁の面的な挙動を把握することを特徴とする掘削土留工における3次元計測システム。
【請求項2】
請求項1記載の掘削土留工における3次元計測システムにおいて、前記高感度センサー及び前記低感度センサーが変位計又は傾斜計であることを特徴とする掘削土留工における3次元計測システム。
【請求項3】
請求項2記載の掘削土留工における3次元計測システムにおいて、前記表示装置に土留壁の面全体の変位データを3次元で可視化することを特徴とする掘削土留工における3次元計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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