説明

掘削機構および掘進機

【課題】複数の掘削ブロックを連結して掘削機構を構成し、その場合であっても掘削手段の連結部において未掘削部が生ぜず、掘進効率に優れた掘削機構を提供する。また、このような掘削機構を備えた掘進機を提供する。
【解決手段】回転して土壌を掘削する掘削手段24を備える複数の掘削ブロック100が連結されてなり、駆動手段であるモータ30の駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段27と、掘削手段24を支持する支持部111、P、Qと、支持部111、P、Q又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビット25と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山、地盤等の被掘進対象(以下、まとめて「土壌」という)にトンネルや下水道等(以下「掘削坑」と総称する)を構築する際に使用される掘削機構および掘進機に関する。本発明に係る掘削機構および掘進機は、筒状の本掘削坑と該筒状の本掘削坑に沿って溝状の副掘削坑を同時に形成するのに好適であり、トンネル掘削の補助工法の一つである先受工におけるアーチシェルの構築にも適しているが、これらの用途に限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
道路トンネルや地下鉄トンネル等(以下「トンネル」と総称する)は、シールド掘進機によって形成されるものが大半を占め、その断面形状は略円形を呈している。
そのため、例えば地下鉄トンネルにおいて乗客昇降用プラットホーム等を形成する場合、断面略円形のトンネルの側方に向かって所定の空間を形成するために、シールド掘進機とは別個の掘削手段が必要とされる。
このような、断面略円形のトンネルの側方に向かって所定の空間を形成するための技術として以下に示す特許文献1〜5において種々のものが提案され、それぞれの提案の中において種々の掘削機構が開示されている。
【0003】
(i) 長手方向に沿って湾曲している細長い支持部材として形成されているアーチ部材を地中に順次貫入して横方向に連続させ、上記アーチ部材による曲面壁を上記地中に形成するとともに、上記曲面壁の内側に区画されている地盤を掘削して地下空間を構築することを特徴とするアーチ部材を用いた地下空間の施工方法(特許文献1参照)。
この地下空間の施工方法に用いられる掘削機構は、アーチ部材の先端に設けられ、掘削機外フレーム上に取り付けた軸受で掘削羽根回転軸を回転自在に支持する構造である。そして、この掘削羽根回転軸上には掘削羽根が取り付けられていて、掘削羽根駆動部を動作させて掘削羽根回転軸を回転させることにより、掘削羽根を回転させて地中を掘りながら推進する。
【0004】
(ii) 頂設導抗を先行掘削し、同頂設導抗から円弧状地下連続壁掘削機によって左右のアーチシェル部を構築し、前記頂設導抗内にコンクリートを打設して前記左右のアーチシェル部を結合し、トンネル掘削切羽前方にアーチシェルを構築することを特徴とするトンネル先受工におけるアーチシェルの構築方法(特許文献2参照)。
特許文献2に開示された掘削機構は、円弧状地下連続壁掘削機であり、円弧状のロッド先端に支持されたカッタ部によりアーチシェル部の掘削を行い、最終的に解体撤去される。この掘削機構では、掘削機にどのように掘削の駆動力が伝達されるかは明らかではない。
【0005】
(iii) また、岩盤部に上面が弓形で幅広の本トンネルを効率よく掘削する際に、弓形トンネルの掘削に使用される硬岩用弓形トンネル掘削機が提案されている(特許文献3参照)。
特許文献3に開示された掘削機構は、複数個が弓形に配置され、これを以って弓形トンネルの掘進を可能にするものである。個々の掘削手段は、円筒状シールドとその先端にカッタディスクとを備え、内部にカッタディスクの駆動モータと、カッタディスクの回転軸方向に円筒状シールドを伸縮駆動させるシールドジャックとを備える。従って、隣接する掘削手段間で掘削の駆動力の伝達は予定されていない。また、保守・管理等が必要な場合には、個々の掘削手段に対してこれを行うものと推察される。
【0006】
(iv) 特許文献4に開示された掘削機構は、カッタ駆動用油圧モータの主軸先端に取り付けられた内堀用カッタヘッドと、当該主軸の回転を伝達する機構により従動的に回転する外堀用カッタヘッドを備える。この掘削機構はアーチ状のスキンプレートに沿って走行することから、保守・管理等が必要な場合には、スキンプレートに沿って移動させて所定位置まで移動させて、これを行うものと推察される。
【0007】
(v) 特許文献5に開示された掘削機構は、全体として弧状断面の坑を掘削するように、複数個が平行リング運動を行うものである。個々の掘削機構は、シールドカッタとこれを回転駆動させるカッタ駆動部を備えているので、特許文献3に開示された掘削機構と同様に、隣接する掘削手段間で掘削の駆動力の伝達は予定されていない。また、保守・管理等が必要な場合には、個々の掘削手段に対してこれを行うものと推察される。
【0008】
【特許文献1】特開平4−24398号公報
【特許文献2】特開平5−18194号公報(2頁、図1)
【特許文献3】特許第3386197号公報(3〜4頁、図1)
【特許文献4】特開平8−260875号公報(2〜3頁、図4)
【特許文献5】特開2000−120398号公報(3〜4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のいずれの掘削機構も、少なくとも、掘削機能を有する構造単位要素を複数個備える構成ではなく、そのような構成であっても、掘削の駆動力が隣接する構造単位要素間で伝達可能に連結されていない。
掘削機能を有する構造単位要素毎の取扱いが可能であると、着脱、運搬その他の取扱いが容易であり、保守・管理も容易になる。また、土壌条件、施工条件等の掘削環境・条件に応じて掘削手段の種類を適宜選択して、または掘削手段が異なる構造単位要素を組み合わせて掘削機構を選択的に構成することも可能になる。
なお、構造単位要素間のインターフェイス部分(連結部の構造や連結メカニズムなど)を各構造単位要素において共通化すれば、インターフェイス部分以外について構造単位要素の設計の自由度は増えるという利点もある。
【0010】
このように、掘削機能を有する構造単位要素を複数個備え、掘削の駆動力が隣接する構造単位要素間で伝達可能に連結されている掘削機構は種々の利点を有している。
しかしながら、複数の掘削手段がそれぞれ回転駆動するとすれば、それぞれの連結部や連結部間の中間位置において、或いは掘削の駆動力を掘削手段間で伝達する連結手段の位置又はその近傍において当該掘削手段を支持する必要があり、その支持部や支持部近傍においては掘削手段による掘削が及ばず(掘削手段が届かず)、掘削されないまま残る土壌が部分的に残ってしまうことが考えられる(以下、この掘削されないままで残る土壌の部分を「未掘削部」という)。
このような未掘削部が生ずるとそれが掘進障害の原因や掘削機構の推進抵抗となり掘削効率を低下させることにもなる。推進抵抗が大きい場合には、掘削効率の低下に止まらず、掘進不能になることも考えられる。
このような問題は、掘進機構の設計上、隣接する掘削手段同士の間隔が広くならざるを得ない場合(例えば、隣接する掘削手段同士をユニバーサルジョイントのような継手を介して接続する必要がある場合、掘削機能を有する構造単位要素間で掘削の駆動力を掘削手段間で伝達する連結手段としてかかる継手を採用する必要がある場合など)や複数の掘削手段の全長が大きくせざるを得ない場合に顕在化しやすい。これらの場合、掘削手段の撓みを回避し、強度を維持する必要があり、そのためには掘削手段の連結部や連結手段を支える支持部を設けることが常套手段であるからである。
【0011】
そこで、本発明の課題は、複数の掘削手段がそれぞれ回転駆動するとすれば、それぞれの連結部や連結部間の中間位置において、或いは掘削の駆動力を掘削手段間で伝達する連結手段の位置又はその近傍において当該掘削手段を支持する支持部及びその近傍において未掘削部が生ぜず、掘進効率に優れた掘削機構を提供することを目的としている。
また、このような掘削機構を備えた掘進機を提供することを目的としている。
なお、上述の「掘削機能を有する構造単位要素」については、種々の称呼があり得るが、特定の機能を有し、構造的に画定できるモジュール、ユニット、ブロック又はカセットであると言える。本発明ではこれを「掘削ブロック」と統一的に呼ぶことにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係る掘削機構の第1の態様は、回転して土壌を掘削する複数の掘削手段と、該複数の掘削手段の連結部と、該連結部を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、を備えたことを特徴とするものである。
【0013】
(2)本発明に係る掘削機構の第2の態様は、回転して土壌を掘削する掘削手段を備える複数の掘削ブロックが連結されてなり、駆動手段であるモータの駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段と、該連結手段又は前記掘削手段を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、を備えたことを特徴とするものである。
なお、各掘削ブロックの全てまたは一部には掘削機構を推進させる推進機構を搭載するのが望ましい。また、貫入ビットは、前記連結手段の近傍に設置されていることが望ましい。
【0014】
(3)また、本発明に係る掘削機構の第3の態様は、上記(1)又は(2)に記載のものおいて、貫入ビットのビット先端位置は、掘削手段の掘削軌跡又は掘削包絡面よりも掘削方向手前になるように設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、本発明に係る掘削機構の第4の態様は、上記(1)乃至(3)の何れかに記載のものにおいて、掘削手段は、略円筒状の回転体にビットが取り付けられ、該回転体を円筒軸線回りに回転させる構造であることを特徴とするものである。
【0016】
(5)また、本発明に係る掘削機構の第5の態様は、上記(2)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、各掘削ブロックが互いに着脱可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
(6)また、本発明に係る掘進機の第6の態様は、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の掘削機構を一対備えることを特徴とするものである。
【0018】
(7)また、本発明に係る掘進機の第7の態様は、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の掘削機構を一対備え各掘削機構が掘進方向に沿って離隔して設置されていることを特徴とするものである。
【0019】
(8)また、本発明に係る掘進機の第8の態様は、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の掘削機構を備えた掘進機であって、該掘削機構の設置位置が変更可能に設置されていることを特徴とするものである。
【0020】
(9)また、本発明に係る掘進機の第9の態様は、掘進機土中に筒状の本掘削坑を形成する本掘削部と、該本掘削部の幅方向に延出して設置され、前記筒状の本掘削坑に沿って溝状の副掘削坑を形成する副掘削部とを有する土壌掘進機であって、
前記本掘削部が、筒状の本体部と、本体部の前端に設けられて土壌を掘削する本掘削手段と、前記本体部を掘進方向側に推進させる本ジャッキ手段とを具備し、
前記副掘削部が、回転して土壌を掘削する掘削手段を備える複数の掘削ブロックが連結され、駆動手段であるモータの駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段と、該連結手段又は前記掘削手段を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、連結された掘削ブロックを掘進方向に推進させる副ジャッキ手段を備えてなり、
前記掘削手段を駆動する掘削手段駆動源および前記副ジャッキ手段を駆動する副ジャッキ駆動源が前記本体部の内部に設置されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は以下の効果を奏する。
(イ)本発明に係る掘削機構は、回転して土壌を掘削する複数の掘削手段と、該複数の掘削手段の連結部と、該連結部を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、を備えたことにより、また、回転して土壌を掘削する掘削手段を備える複数の掘削ブロックが連結されてなり、駆動手段であるモータの駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段と、該連結手段又は前記掘削手段を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、を備えたことにより、支持部又はその近傍に発生し得る未掘削部を貫入ビットによって掘削することができ、掘進障害の原因を未然に除去でき、掘削機構の掘進抵抗を低減でき、掘進効率を高めることができる。
【0022】
(ロ)また、貫入ビットのビット先端位置は、掘削手段の掘削軌跡又は掘削前線を構成する包絡面(掘削包絡面)よりも掘削方向手前になるように設定したことにより、未掘削部を一定の高さを有する崩壊しやすい形状にすることができ、掘削機構の掘進抵抗をさらに低減できる。
【0023】
(ハ)また、掘削手段は、略円筒状の回転体にビットが取り付けられ、該回転体を円筒軸線回りに回転させる構造であることから、構造が単純化できる。
【0024】
(ニ)また、各掘削ブロックが互いに着脱可能に構成されていることから、掘削ブロックの着脱、運搬その他の取扱いや保守・管理が容易になる。
上記の掘削機構において、掘削ブロックの着脱を可能にする構造及び各掘削ブロックにおける掘削の駆動力が隣接する掘削ブロック間で伝達可能にする手段といった隣接する掘削ブロック間のインターフェイス部分を共通にすれば、掘削ブロックの製造、着脱、保守・管理は容易になり、地盤条件、施工条件などの掘削環境・条件に応じて掘削手段の種類を適宜選択して、または掘削手段が異なる構造単位要素を組み合わせて掘削機構を選択的に構成することが可能になる。共通規格のインターフェイス部分を採用する場合、その他の部分を設計する際の自由度も増加する。
【0025】
(ホ)掘削機構を一対備える掘進機によれば、一対の掘削孔を同時に構築することができる。
【0026】
(へ)上記掘削機構を一対備え、各掘進機構が掘進方向に沿って離隔して設置されている掘進機によれば、各掘削機構の保守・管理等に必要な作業空間が確保でき、掘削ブロック単位の着脱、運搬その他の取扱いや保守・管理もより容易になる。
すなわち、例えば、掘進機の幅方向左右に掘削機工が延出して設置されている場合を想定すると、掘進方向に向かって右側の掘削機構が、左側の掘削機構よりも後の位置に設置されている場合には、掘進機の内部において一方の掘削機構の保守・管理作業を行う際に作業個所が前後にずれるので、一方の掘削機構の部分が他方の掘削機工の物理的障害とならず、各掘削機工ごとに作業スペースを広く確保できるのである。
【0027】
(ト)上記掘削機構の設置位置が変更可能な掘進機によれば、複数の掘削孔を同一の掘進機により構築することができる。また、地下空間の目標領域内の任意位置に掘削孔を構築でき、また地下空間の目標領域内に複数の掘削孔を構築できるので、当該目標領域の強度を低下させ、その領域への事後の掘進を容易にすることができる。
【0028】
(チ)掘進機が、本掘削部と副掘削部とを有し、副掘削部が回転して土壌を掘削する掘削手段を備える複数の掘削ブロックが連結され、駆動手段であるモータの駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段と、該連結手段又は前記掘削手段を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、連結された掘削ブロックを掘進方向に推進させる副ジャッキ手段を備えてなることから、上記掘削機構に係る発明の効果を奏するとともに、トンネル合流部の掘削に際し、立坑の構築を必要としない。また、トンネル合流部の始端部および終端部の土中に、所定の作業スペースを設けるだけで、掘削ブロックが連結できる。
また、それぞれの掘削ブロックが、掘進方向側を掘削する副掘削手段と覆工材を押圧する副ジャッキ手段とを具備し、本掘削部と副掘削部とが、それぞれ並行して掘削および前進するから、掘進効率が向上する。
さらに、副掘削手段を駆動する副掘削手段駆動源および副ジャッキ手段を駆動する副ジャッキ駆動源が本体の内部にそれぞれ設置されるから、掘削ブロックが小型・軽量になる。このため、掘削ブロックの運搬および掘削ブロック同士の連結等の各種ハンドリングが容易かつ迅速になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[実施形態1]
<掘削機構>
図1は本発明の実施形態1に係る掘削機構の説明図である。
本実施の形態における掘削機構1は、図1に示すように、複数の掘削ブロック100a、100b・・、100hが着脱可能に連結されて、全体として正面視で略円弧状を呈している。なお、図1においては、途中の掘削ブロックが省略されている。
なお、以下の説明において、それぞれの掘削ブロックおよびその他の部分について共通する内容については、添え字「a、b、・・・h」を省略し、便宜上、最も先端側に配置されたものを「最先端掘削ブロック100a」、最も基端寄り(駆動手段が取付けられる側)に配置されたものを「根元掘削ブロック100h」と称呼する。なお、掘削ブロック100の数量は限定するものではなく、何れであってもよい。
【0030】
掘削ブロック間の着脱可能な連結は、隣接する掘削ブロック100の枠体110(後述)同士を接続または分離することにより実現されている。
例えば、隣接する枠体間に設けたボルト−ナットの螺合機構により、あるいは隣接する枠体同士を溶接により接続し、またはガウジング(又は場合によっては溶断)により分離することにより、これを着脱可能にすることができる。隣接する掘削ブロック同士を接続する際には、接続角を固定するための接合部材や継手部材を用いてもよい。
【0031】
<掘削ブロック>
図2〜図4は、本発明の実施形態1に係る掘削機構1の掘削ブロック100を概説する図であって、図2は正面視の断面図、図3は平面視の断面図、図4は側面視の断面図である。
図2〜図4に示されるように、掘削ブロック100は、箱状の枠体110と、枠体110内に設置されて土壌を掘削する掘削手段20と、掘削手段20によって掘削された掘削土砂を排泥する排泥手段70と、覆工材であるモルタルを輸送するモルタル輸送手段40mと、モルタルを掘進方向と反対の方向に押圧して前記掘削ブロックを掘進方向側に推進させるジャッキ手段50と、掘削機構の掘進時の姿勢を制御する姿勢制御手段90とを具備している。なお、本発明において、セメントやコンクリート等をモルタルと総称している。
以下、掘削ブロックを構成する構成要素を詳細に説明する。
【0032】
(枠体)
枠体110は、正面視略扇型の筒状の前胴113と、前胴113に案内されて前後方にスライドし、移動自在な筒状の後胴114と、後胴114の内面に沿って摺動自在なモルタル押出板115(以下「妻枠115」と称す)と、妻枠115に略平行して前胴113に固定された前板112と、前板112の幅方向中央又は幅方向の中間位置に固定されたブラケット111と、前胴113の一部を構成し、前板112の幅方向の両脇から突出した一対のブラケットP、Qと、ブラケット111、P、Q(以下、特にこれらを区別して記載する場合を除き、まとめて「ブラケット111」と表記する場合がある)にそれぞれ設置された図示しない軸受Bとを有している。なお、前板112の幅方向中央に固定されたブラケット111の数は、複数であっても構わない。
そして、モルタル輸送手段40mの一部を構成するモルタル輸送管41、排泥手段70の一部を構成する送泥管71が幅方向(図2において左右方向、図3において上下方向)に貫通している。
【0033】
(掘削手段)
図5〜図7は掘削手段20の説明図であり、図5は掘削手段20の正面図、図6は図5における矢視A−A線に沿う断面図、図7は掘削手段20の斜視図である。
掘削手段20は、円柱状の回転体21の周面に径方向に突出して複数のビット23が固定された回転カッタ24と、隣接する回転カッタ24の間に設けられた円弧状の貫入ビット25から構成されている。
【0034】
回転カッタ24は、幅方向においてブラケット111を中心として1対、厚さ方向において1対配置されており、一つの掘削ブロックに合計4本設けられている。幅方向において、ブラケット111を挟んだ両側の回転カッタ24、24はユニバーサルジョイントにより連結されており、屈曲しながらも回転動力が伝達されるように構成されている(図5参照)。
回転カッタ24の回転軸22は、ブラケット111に設置された軸受Bによって回転自在に支持されている。各回転軸22の一方の端部は、幅方向において隣接する別の掘削ブロック100が備える回転カッタ24の回転軸22の端部とユニバーサルジョイント27(図6参照)によって連結されている。各回転軸22の他方の端部も、幅方向において隣接する更に別の掘削ブロック100が備える回転カッタ24の回転軸22の端部とユニバーサルジョイント27によって連結されている。
根元掘削ブロック100hの回転軸22hは、回転伝達棒32によってモータ30に連結されている(図1参照)。
【0035】
上述のように、各掘削ブロック100において、回転軸22がユニバーサルジョイント27によって連結されているので、各回転軸の軸心は同一直線上にないにも拘らず、モータ30の回転力が隣接する掘削ブロック間において順次伝達される。
このため、掘削ブロック100には回転カッタ24を駆動するための掘削手段駆動源(たとえば、モータ等)を設置する必要がなく、また、本体回転力を伝達するための専用の動力伝達軸が不要であるから、各掘削ブロック100は軽量になっている。
【0036】
貫入ビット25は、図5および図7に示されるように、回転カッタ24の連結部にあるブラケット111に設置されている。貫入ビット25を設ける理由は以下の通りである。
回転カッタ24の連結部にはユニバーサルジョイント27または軸受が設置される。そのため、隣接する回転カッタ間には一定の隙間が生ずる。特に、図5に示されるように、隣接する回転カッタ24がユニバーサルジョイント27によって屈曲して連結される場合には、隙間が大きくなる。このような隙間の部分は土壌が掘削されず、未掘削部として残存することになる。未掘削部が残存すると、掘削機構1を推進するときの推進抵抗となり、掘削効率の低下となり、抵抗が大きい場合には掘進不能となる。このような掘削効率の低下や掘進不能状態を防止するためには、推進力の大きなジャッキが必要になり、その他の構造部の強化も必要となり、全体としてコストアップにつながる。
このような、掘削効率の低下等を防止するためには未掘削部が残存しないようにすることが必要となる。
そこで、本実施形態においては、回転カッタ24とは別に未掘削部を掘削するための手段として貫入ビット25を設けたのである。
【0037】
貫入ビット25は、全体形状が略半円弧状をしており、回転カッタ24を支持するブラケット111に取り付けられている。貫入ビット25はその幅方向中央部が山形に尖った形状をしている。貫入ビット25の中央部を尖らせることにより、土壌の未掘削部に抵抗少なく貫入させることができ、掘削効率の向上を図ることができる。なお、貫入ビット25の先端部の角度は90度以下にするのが望ましい。
【0038】
貫入ビット25の刃先の位置は、回転カッタ24のビット先端の回転軌跡よりも内側、すなわち掘進方向手前側になるように設定されている(図5、図6参照)。なお、ビット先端の回転軌跡は図中二点鎖線で示してある。他の図においても同様である。
貫入ビット25の刃先の位置を回転カッタ24のビット先端の回転軌跡よりも掘進方向手前側になるように設定して理由を、貫入ビット25の作用を説明する説明図である図8に基づいて説明する。
図8(a)は、回転カッタ24によって土壌が掘削され、未掘削部26に貫入ビット25の先端が当接している状態を示している。図8(b)は図8(a)の状態から掘削機構を推進させた状態を示しており、図8(b)における二点鎖線は図8(a)の状態における土壌の端面を示している。
【0039】
貫入ビット25の刃先の位置を回転カッタ24のビット先端の回転軌跡よりも内側になるように設定することにより、未掘削部26は一定の高さを有する円弧筋状体になる(図8(a)参照)。このような未掘削部26に対して、貫入ビット25の先端を当接させて掘進すると、図8(b)に示されるように、未掘削部26は矢印で示される横方向に崩れるのである。すなわち、貫入ビット25の刃先の位置を回転カッタ24のビット先端の回転軌跡よりも内側になるように設定することにより、貫入ビット25は一定の高さを有する円弧筋状部を崩すことになり、抵抗が少なくて済むのである。
なお、未掘削部26の両側には回転カッタ24が存在するが、図7から分かるように、回転カッタ24のビット間には隙間があるので、未掘削部26が崩れるための空間は存在する。
【0040】
なお、本実施の形態では貫入ビット25の刃先の位置を回転カッタ24のビット先端の回転軌跡又は掘削包絡面よりも内側になるように設定したことにより、上述のような効果を奏するが、貫入ビット25の刃先の位置を回転カッタ24のビット先端の回転軌跡と同位置、あるいは掘進方向前側の位置になるように設定しても、未掘削部26を無くするという効果を奏することはできる。
また、上述した例では、貫入ビット25を掘削ブロック100内において直列配置された掘削手段20の連結部のブラケット111であって、前板112の幅方向中央又は幅方向の中間位置に固定されたもののみに設置した例を示したが、隣接する掘削ブロック間での掘削手段20の連結部となる枠体110の端部(図3におけるP、Qの部分)の両方あるいは一方に設置するようにしてもよい。
【0041】
なお、以上の説明では、掘削ブロックが、合計4個の掘削手段(回転カッタ24)を備えるものとしたが(図5参照)、これに限定されるものではない。例えば、図5において、貫入ビット25の左右のそれぞれ上下一対の回転カッタ(合計2組、各組2個の回転カッタ)の部分を掘削ブロックとして設計してもよい。この場合、図5に示されているのは、隣接する一対の掘削ブロックであって、ユニバーサルジョイントを連結手段として、回転動力が一方の掘削ブロックから他方の掘削ブロックに伝達可能に接続された状態となる。そして、各掘削ブロックには前板112の幅方向中央又は幅方向の中間位置に固定されたブラケット111は存在せず、前板112の幅方向の両脇から突出した一対のブラケットP、Qのみが存在することになる。しかして、この場合には、貫入ビット25は、当該一対のブラケットP、Qの両方あるいは一方に設置される。
【0042】
また、以上の説明では、一つの掘削ブロックにおいて、前板112の幅方向中央又は幅方向の中間位置に固定されたブラケット111を挟んだ両側の回転カッタ24、24がユニバーサルジョイントにより連結されており、屈曲しながらも回転動力が伝達されるように構成されている場合について説明したが(図5参照)、掘削ブロックは、当該回転カッタ24、24が直線状に配置するが故に当該ユニバーサルジョイントを備えない構成であってもよい。この場合、当該回転カッタ24、24の間に配置し、両回転カッタが共有する回転軸の部分が、掘削手段の連結部に相当し、当該回転軸を支持する軸受B及び当該ブラケット111が、連結部を支持する支持部に相当することになる。このような構成、即ち一つの掘削ブロックにおいて、複数の回転カッタの回転軸が直線状に配置する構成であっても、隣接する掘削ブロック間における回転動力の伝達が必要な場合には、他の構成の掘削ブロックと同様に、当該隣接する掘削ブロック間に連結手段を設ける必要がある。そして、ブラケット111、P、Qの少なくとも一つに貫入ビット25を設ける。
【0043】
(モルタル輸送手段)
モルタル輸送手段40mは、掘削機構1の外側に設置された図示しないモルタル圧送機と、モルタル輸送管41と、モルタル輸送管41と妻枠115の貫通孔(図示しない)とを近接および離間自在に連通する図示しないモルタル供給管とを備えてなる。モルタル供給管にモルタル供給量を調整するための、モルタル供給量調整手段(たとえば、開度調整バルブ等)や、モルタル供給管内を洗浄するモルタル供給管洗浄手段を設置してもよい。
【0044】
(排泥手段)
排泥手段70は、枠体110を貫通する送泥管71と前板112の前面に用水を注ぐ送泥支管(図示しない)とを有し、根元掘削ブロック100hにおいて送泥管71の一方の端部に用水を送り込み、幅方向の所定位置の掘削ブロック100において、あるいは最先端掘削ブロック100aにおいて掘削坑内に当該用水を注ぎ込む。これにより、掘削された土壌を当該用水と混合させて泥状にし、その泥状混合物を根元掘削ブロック100h側に移動させ、排泥管(図示しない)を経由して排土する。
なお、掘削ブロック100の枠体110を貫通する排泥管71を設け、掘削ブロック100の前板112に、用水と掘削された土壌との混合物を受け入れる排泥支管を設け、該排泥支管および排泥管71を経由して該混合物を回収するようにしてもよい。
【0045】
図2乃至図4に示された掘削ブロック100においては、モルタル輸送管41、送泥管71が幅方向(図2において左右方向、図3において上下方向)に貫通している。このような状態は、幅方向において連通可能な一対の開口部を枠体110に設置することにより実現することができる。即ち、掘削ブロック100を継ぎ足す際、モルタル輸送管41、送泥管71が途中で切り離されてできる端部を、枠体110に設けた1対の開口部のうち一方の開口部を通過させ、更に他方の開口部を通過するように当該掘削ブロック100に対し相対移動させる。これにより、モルタル輸送管41、送泥管71が当該掘削ブロックの内部を幅方向に貫通した状態になる。必要な作業が終了した後は、モルタル輸送管41、送泥管71は再度接合され、通常の使用に供される。
なお、モルタル輸送管41、送泥管71に着脱自在な継手を予め、本掘削部の内部に位置するように取り付けておけば、上記の手順により作業は容易になる。
【0046】
(ジャッキ手段)
ジャッキ手段50は、枠体110内に収納され、前板112と妻枠115とを近接および離間自在に連結する第一ジャッキ51(以下「前進ジャッキ51」と称す)と、前板112と後胴114とを近接および離間自在に連結する第二ジャッキ52(以下「引き戻しジャッキ52」と称す)とを有している。
【0047】
(姿勢制御手段)
姿勢制御手段90は、前胴113に設置され、厚さ方向に進退自在な姿勢制御ソリ(橇)91と、姿勢制御ソリ(橇)91を進退させるアクチュエータ92とを有している。
したがって、姿勢制御ソリ(橇)91の進退量を調整することによって、掘削ブロック100の掘進方向を調整することができるから、所望の形態(姿勢および形状等)の掘削坑を形成することが可能になる。また、掘削ブロック100同士の連結部に異常な荷重が作用することを防止することが可能になる。
【0048】
<掘削機構の動作説明>
図9および図10は、本発明の実施形態1係る掘削機構の掘進要領を、工程を追って説明するため平面視の断面図である。
【0049】
初期状態では、掘削機構が所定の距離だけ掘進した状態にあり、後胴114の後端部と妻枠115の後面は位置「イ」(打設済みのモルタル面に同じ)に、回転カッタ24の前面は位置「ロ」に、それぞれ配置する(図9(a))。
【0050】
次に、引き戻しジャッキ52をフリー(非拘束状態)にして、回転カッタ24を回転しながら、前進ジャッキ51を伸ばす。すると、妻枠115は打設済みのモルタル100Mの前面(位置「イ」に同じ)を後方に向けて押し続けるから、後胴114の後端部は「イ」の位置のままであるが、回転カッタ24の前面は位置「ハ」にまで前進する(図9(b))。
この前進時に、図8で説明したように、貫入ビット25が土壌の未掘削部26を掘削する。
【0051】
引き戻しジャッキ52を伸ばしたままにして、後胴114の後端部を位置「イ」に残す。そして、妻枠115の後面にモルタルを供給しながら前進ジャッキ51を縮める。すなわち、妻枠115(位置「ニ」)と既に打設されているモルタル100M(位置「イ」)との間において、妻枠115の後面と後胴114の内面とによって形成された空間内に新たにモルタル100Nを供給する(図9(c))。
【0052】
次に、引き戻しジャッキ52を縮めながら(引き戻しながら)、前進ジャッキ51を伸ばす(図10(d))。このとき、妻枠115の後面に供給されたモルタルは掘削坑中に打設される。また、打設済みモルタル100Mと後胴114の後端部との間(図中「イ」と「ホ」の間)に隙間が形成されるから、妻枠115の後面に供給されたモルタル100Nは妻枠115の後方およびその周辺(掘削坑内に同じ)にも打設される。
【0053】
最終的に、後胴114の後端部と妻枠115の後面が「ト」の位置で揃うまで引き戻しジャッキ52を縮め、前進ジャッキ51を伸ばす。そして妻枠115の後面に供給したモルタル100Nの全量を掘削坑に打設する。すると、回転カッタ24が位置「ロ」ではなく位置「ハ」にあり、後胴114の後端部及び妻枠115の後面が位置「イ」ではなく位置「ト」にある点を除き、図9(a)に示した初期状態と概ね同じ状態になる(図10(e))。ただし、モルタル100Nの供給量よりも、モルタルが打設される掘削坑の容積の方が大きいから、「イ」から「ニ」までの距離は「イ」から「ト」までの距離より大きく、「ニ」から「ハ」までの距離は「ト」から「ハ」までの距離より小さくなり、また、前進ジャッキ51の全長は、妻枠115の後面にモルタル100Nを供給するとき(図9の(c))の方が、モルタル100Nの打設を終えたとき(初期状態に同じ、図9の(a)および図10の(e))よりも小さい。
【0054】
本実施の形態の掘削機構1を構成する掘削ブロック100においては、回転カッタ24の連結部に貫入ビット25を設けたことにより、回転カッタ24による未掘削部26を貫入ビット25で掘削でき、掘削機構を推進するときの推進抵抗を小さくできる。
また、本実施の形態では、貫入ビット25の刃先の位置を回転カッタ24のビット先端の回転軌跡よりも内側になるように設定したことにより、回転カッタ24による未掘削部26の貫入ビット25による掘削抵抗をより少なくでき、さらなる推進抵抗の低下を実現できる。
推進抵抗の低下を実現することで、掘削効率の向上、掘削機構を構成する推進ジャッキ等の小型化が可能となり、掘削機構1のコストダウンを実現できる。
【0055】
なお、上記の説明において、ユニバーサルジョイント27が本発明の駆動力を伝達する連結手段に相当するが、この連結手段は、隣接する掘削ブロック間において各掘削ブロックが備える掘削手段の駆動力の伝達を自在にする機能を発揮する手段や機構であれば足り、ユニバーサルジョイント27のような継手に限定されない。
また、本実施の形態においては、厚さ方向において隣接し対面する一対の掘削手段を示したが、本発明はこれに限定するものではなく、その数量や配置位置は何れであってもよい。
さらに、貫入ビット25の形状についても、本実施形態で示したものに限定されず、土壌における回転カッタ24によっては掘削されない部分を推進時に掘削できるものであればよい。
また、上記の例では覆工材の例としてモルタルを例に挙げたが、本発明においてはこれに限定されるものではなく、例えば、モルタルに代えてセグメントを用いてもよいし、あるいはモルタルとセグメントを共用してもよい。
【0056】
また、上記の回転カッタ24においては、回転体21の表面にビット23を設置するに際して、ビット列の先端の軌跡を幅方向に結ぶと直線になる例を示した。
しかし、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、ビット列の先端の軌跡を幅方向に結ぶと「樽」形状、すなわち、回転軸体21の中央で膨らみ端部で縮んでいるようにしてもよい。また、これとは逆にビット先端の軌跡を幅方向に結ぶと「鼓」形状、すなわち、回転体21の中央で縮まり端部で膨らんでいるようにしてもよい。
そして、上記の「樽」形状のものと「鼓」形状のものを正面視で上下に配置することにより、掘削ブロック100における掘削軌跡を正面視で略扇形にすることができる。このとき、掘削ブロック100の枠体110が正面視で略扇型のとき、該略扇型の曲率半径に同じ曲率半径に、「樽」形状の回転カッタの先端の軌跡と「鼓」形状の回転カッタの先端の軌跡とを形成しておけば、「樽」形状の回転カッタと「鼓」形状の回転カッタとによって形成される正面視の範囲が、枠体110の正面視形状に略同じになる。よって、枠体110の前端面の摩耗が抑えられ、掘進が容易になる。また、枠体110の形状により好適な掘削が実現するから、掘削ブロック100の姿勢をより所望の位置に保持することが容易になる。
【0057】
[実施形態2]
本実施の形態は、実施の形態1で説明した掘削機構1を副掘削部として搭載した掘進機に関するものである。
図11および図12は、本発明の実施形態2に係る掘進機の全体構成を概説するための断面図であって、図11は側面視、図12は正面視である。
図11および図12において、掘進機1000は、土壌に筒状の掘削坑(以下「主掘削坑」と称する)を形成する本掘削部1900、本掘削部1900に設置され、前記本掘削坑に沿って溝状の掘削坑(以下「副掘削坑」と称する)を形成する掘削機構1からなる副掘削部1100とを有する。なお、一対の副掘削部1100が図示されているが、本発明はその数量や設置位置を限定するもではない。
【0058】
なお、以下の説明において、掘進機1000が掘削しながら進む方向(図11において左側)を「前」、「前方」または「前側」と、これと反対の方向(図11において右側)を「後」、「後方」または「後側」と、前後方向の距離を「長さ」と称呼し、前後方向を「長さ方向」と称呼する場合がある。
また、副掘削部1100の本掘削部1900に近い方向(図12において左側)を「本体側」または「本体寄り」と、これと反対の方向(図12において右側)を「先端側」または「先端寄り」と、本体側から先端側にかけての距離を「幅」と称呼し、本体側から先端側への方向を「幅方向」と称呼する場合がある。
さらに、長さ方向と幅方向とが形成する面に略垂直の方向(図12において上下方向)を「厚さ方向」と称呼する。
【0059】
<本掘削部>
図11において、本掘削部1900は、スキンプレート911によって筒状に形成された本体910と、本体910の前方の端部に土壌を掘削して筒状の主掘削坑を創成する主掘削手段920(以下「カッタヘッド920」と称す)と、カッタヘッド920を回転駆動する主モータ930と、セグメント組み立て手段940(以下「セグメントエレクタ940」と称す)によって筒状に組み立てられたセグメント筒状体900Sを後方に押圧して本体910を前方に移動させる本ジャッキ手段950(以下「シールドジャッキ950」と称す)と、本体910の後方に筒状のテールシールプレート912が延設され、テールシールプレート912と押し出されたセグメント筒状体900Sとの隙間を止水する主止水手段960(以下「テールシール960」と称する場合がある)とを有している。
また、主掘削坑(図示しない)とセグメント筒状体900Sとの隙間に裏込材を注入する図示しない裏込材注入手段、掘削された土砂を排出するための図示しない主排土手段(以下「スクリューコンベア」と称する場合がある)が設置されている。
【0060】
本体910のスキンプレート911には開口した掘削ブロック貫通孔913が設けられ、掘削ブロック貫通孔913には、止水手段60が設置されている。
止水手段60は、掘削ブロック貫通孔913に沿って設置された止水外筒961と、止水外筒961に水密的に当接して傾動自在な止水板61とから形成されている。そして、止水板61の先端側(スキンプレート911の外面側に相当する)は根元掘削ブロック100hに連結されている。
一方、止水板61の本体側(スキンプレート911の内面側)はモータ支持体31(モータ30が設置されている)が固定され、根元掘削ブロック100hの回転カッタ24hは、回転伝達棒32によってモータ30に連結されている。
さらに、本体910のスキンプレート911には位置調整手段990が設置され、位置調整手段990の位置調整アーム991が、モータ支持体31に連結されている。
【0061】
したがって、掘進機1000において、トンネル分岐部の始端部の土壌中に所定スペースの作業基地を設け、掘削ブロック100を、セグメント環状体900Sの内部を経由して作業基地に運搬し、そこで相互に連結すれば副掘削部1100を形成することができる。また、トンネル分岐部の終端部の土壌中に所定スペースの作業基地を設け、そこで副掘削部1100を解体して、掘削ブロック100を、セグメント環状体900Sの内部を経由して運搬すれば、地上に回収することができる。
すなわち、掘進機1000は、立坑の構築を不要にするから、この点において、トンネル分岐部の形成位置の制約がなくなる。また、掘削手段20を駆動する駆動源が掘削ブロック100に設置されていないから、掘削ブロック100は軽量であって、運搬や相互の連結が容易である。よって、施工が迅速になり工期の短縮や施工コストの低減を図ることができる。
なお、位置調整手段990の設置を省略してもよい。
【0062】
<掘進機のバリエーション1>
図13は、本発明の実施形態2に係る他の態様の掘進機の全体構成を概説するための側面視の部分断面図である。
図13において、掘進機1001は、前記本掘削部1900と同様の本掘削部1901と、正面視で直線状の副掘削部1101とを有している。すなわち、副掘削部1101は、正面視で矩形の掘削ブロック101によって形成され、掘削ブロック101は正面視で矩形(連結面Zが平行に同じ)である点において、正面視で略扇型(従って連結面Zが非平行)である掘削ブロック100と相違し、その他において同一である。なお、掘削ブロック101には、回転カッタ24としてスクリュウカッタが設置された形態が図示されているが、本発明はこれに限定するものではない。
【0063】
掘削ブロック101が掘削ブロック100と同様に相互に連結自在である又は着脱可能に連結されているから、掘進機1001は掘進機1000と同様の作用効果を奏する。
また、この例のように副掘削部1101を構成する掘削機構が直線状であっても、回転カッタ24の連結部において軸受が存在するため、回転カッタ24のみでは未掘削部が生ずる。したがって、このような例であっても、貫入ビット25を設けることに意義がある。
なお、図13において、副掘削部1101が一箇所に設置された形態が図示されているが、本発明はこれに限定するものではなく、本掘削部1901に副掘削部1101を複数箇所設定してもよい。例えば、一対の副掘削部を、本掘削部1901を中心として幅方向の左右に設置してもよいし、本掘削部1901から幅方向の同じ向きに設置し、厚さ方向の上下において対向するように(図2における一対の副掘削部1100のように)してもよい。
【0064】
<掘進機のバリエーション2>
図14は、本発明の実施形態2に係る他の態様の掘進機の全体構成を概説するための側面視の部分断面図である。
図14において、掘進機1002は、前記本掘削部1900と同様の本掘削部1902と、正面視で本体に近い範囲が直線状で、先端側が円弧状を呈する副掘削部1102とを有している。すなわち、副掘削部1102を形成する掘削ブロック102は、それぞれの掘削ブロック102において、幅方向で対面して接する連結面Z同士が形成する角度が変更されている(一定でないに同じ)ものであって、この点において、正面視で略扇型(従って連結面Z同士が形成する角度が略同じ)である掘削ブロック100と相違し、その他において同一である。なお、掘削ブロック102には、回転カッタ24としてドラムカッタが設置された形態が図示されているが、本発明はこれに限定するものではない(これについては別途詳細に説明する)。
【0065】
掘削ブロック102は掘削ブロック100と同様に相互に連結自在である又は着脱可能に連結されるから、掘進機1002は掘進機1000と同様の作用効果を奏すると共に、正面視で複数の曲率半径を具備する副掘削坑を形成することを可能にする。
なお、図14において、副掘削部1102が1箇所に設置された形態が図示されているが、本発明はこれに限定するものではなく、本掘削部1902に副掘削部1102を複数箇所設定してもよい。例えば、一対の副掘削部を、本掘削部1902を中心として幅方向の左右に設置してもよいし、本掘削部1902から幅方向の同じ向きに設置し、厚さ方向の上下において対向するように(図12における一対の副掘削部1100のように)してもよい。
【0066】
<掘進制御>
図15は、本実施の形態に係る掘進機の動作制御を説明する制御フロー図である。以下、図15に基づいて、掘進機の動作制御を説明する。
掘進を開始した場合、本掘削部の本ジャッキ手段950及び副掘削部のジャッキ手段50の各伸長を監視し、計測した伸長量を比較する。伸長量に差がある場合には、その差と設定値とを比較し、設定値未満である場合には、本ジャッキ手段950及びジャッキ手段50の伸長を継続する。この場合、本掘削部及び副掘削部による掘削は継続される。他方、本ジャッキ手段950及びジャッキ手段50の伸長量の差が設定値以上である場合には、伸長量の大きいほうのジャッキ手段の伸長を停止する。そして、本ジャッキ手段950及びジャッキ手段50の各伸長の監視と、伸長量の計測と比較を継続する。以上の手順を両ジャッキ手段から計測された伸長量の差が零(ゼロ)又は所定領域になるまで繰り返す。ただし、伸長量の大きい方のジャッキ手段の伸長を既に停止している場合には、停止に要する手順はスキップして、これを行わないようにしてもよい。
【0067】
両ジャッキ手段から計測された伸長量の差が零(ゼロ)又は所定領域になった場合、両ジャッキ手段の伸長量が別の設定値に達したか否かを判断する。当該別の設定値に達していない場合には、それ以前に伸長量が大きかったがゆえに停止させていたジャッキ手段の伸長を再開する。そして、本ジャッキ手段950及びジャッキ手段50の各伸長の監視及び伸長量の計測と比較、伸長量の大きいほうのジャッキ手段の伸長停止という一連の動作を、繰り返す。両ジャッキ手段の伸長量が当該別の設定値に達した場合には、掘削を停止する。
【0068】
以上の制御フローにより、本掘削部と副掘削部との同期的な推進が可能になり、本発明に係る掘進機の安全な動作が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態1に係る掘削機構の説明図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る掘削ブロックを概説する正面視の断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る掘削ブロックを概説する平面視の断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る掘削ブロックを概説する側面視の断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る掘削手段の説明図である。
【図6】図5の矢視A−A断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る掘削手段の斜視図である。
【図8】本発明の実施形態1に係る掘削手段の作用の説明図である。
【図9】本発明の実施形態1に係る掘削機構の掘進要領工程を説明する断面図である。
【図10】本発明の実施形態1に係る掘削機構の掘進要領工程を説明する断面図である。
【図11】本発明の実施形態2に係る掘進機を概説する側面視の断面図である。
【図12】本発明の実施形態2に係る掘進機を概説する正面視の断面図である。
【図13】本発明の実施形態2に係る他の態様の掘進機を概説する側面視の部分断面図である。
【図14】本発明の実施形態2に係る他の態様の掘進機を概説する側面視の部分断面図である。
【図15】本発明の実施形態2に係る掘進機の動作制御を説明する制御フロー図である。
【符号の説明】
【0070】
1 掘削機構
20 掘削手段
24 回転カッタ
25 貫入ビット
27 ユニバーサルジョイント
30 モータ
100 掘削ブロック
110 枠体
111、P、Q ブラケット
1000 掘進機
1900 本掘削部
1100 副掘削部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転して土壌を掘削する複数の掘削手段と、該複数の掘削手段の連結部と、該連結部を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、を備えたことを特徴とする掘削機構。
【請求項2】
回転して土壌を掘削する掘削手段を備える複数の掘削ブロックが連結されてなり、駆動手段であるモータの駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段と、該連結手段又は前記掘削手段を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、を備えたことを特徴とする掘削機構。
【請求項3】
貫入ビットのビット先端位置は、掘削手段の掘削軌跡又は掘削包絡面よりも掘削方向手前になるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の掘削機構。
【請求項4】
掘削手段は、略円筒状の回転体にビットが取り付けられ、該回転体を円筒軸線回りに回転させる構造であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の掘削機構。
【請求項5】
各掘削ブロックが互いに着脱可能に構成されていることを特徴とする請求項2乃至4の何れか一項に記載の掘削機構。
【請求項6】
土中に筒状の本掘削坑を形成する本掘削部と、該本掘削部の幅方向に延出して設置され、前記筒状の本掘削坑に沿って溝状の副掘削坑を形成する副掘削部とを有する土壌掘進機であって、
前記本掘削部が、筒状の本体部と、本体部の前端に設けられて土壌を掘削する本掘削手段と、前記本体部を掘進方向側に推進させる本ジャッキ手段とを具備し、
前記副掘削部が、回転して土壌を掘削する掘削手段を備える複数の掘削ブロックが連結され、駆動手段であるモータの駆動力を互いに隣接する掘削手段に伝達する連結手段と、該連結手段又は前記掘削手段を支持する支持部と、該支持部又はその近傍の少なくとも一箇所に設置されて土壌に貫入して土壌を掘削する貫入ビットと、連結された掘削ブロックを掘進方向に推進させる副ジャッキ手段を備えてなり、
前記掘削手段を駆動する掘削手段駆動源および前記副ジャッキ手段を駆動する副ジャッキ駆動源が前記本体部の内部に設置されてなることを特徴とする掘進機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2007−321512(P2007−321512A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155444(P2006−155444)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(592093833)青山機工株式会社 (5)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】