説明

掘削用中空鋼ロッドとその製造方法

【課題】ステム部とねじ部との摩擦圧接による接合部近傍での硬度低下を効果的に抑制し、掘削用中空鋼ロッドの寿命を改善する。
【解決手段】ステム部12と、ステム部12に対して軸方向の端部に位置するめねじ部16とを有する掘削用中空鋼ロッド10を構成する鋼として質量%でC:0.20〜0.80%,Si:0.10〜0.50%,Mn:0.10〜1.00%,P:≦0.015%,S:≦0.050%,Cu:≦0.50%,Ni:0.50%未満,Cr:2.00〜5.00%,Mo:0.20〜0.80%,B:0.0002〜0.0050%,Ti:0.005〜0.050%,Al:0.005〜0.050%,N:≦0.050%,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有する鋼種を用いる。そしておねじ部14,めねじ部16の各おねじ18,めねじ20には高周波焼入れを予め施しておき、互いに別体をなすめねじ部16とステム部12とを摩擦圧接にて接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉱物採取,トンネル掘削等の用途に用いられる掘削用中空鋼ロッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物採取やトンネル掘削用等に用いられる掘削用中空鋼ロッド(以下単に掘削用ロッドとすることがある)は、一般に、ステム部とそのステム部に対して軸方向の各端部に位置するねじ部を有する形態をなしており、横断面中心部には全長に亘って軸方向に貫通した孔が形成されている。
【0003】
従来、この種掘削用ロッドとしては、ステム部に対して軸方向の一方の端部におねじ部を、他方の端部にめねじ部を備えたものや、ステム部に対して軸方向の一方の端部と他方の端部とに位置するねじ部が何れもおねじ部であるもの等が知られている。
【0004】
掘削用ロッドにおいて、ねじの部分は高い耐摩耗性の要求される部分であり、そこでこの種掘削用ロッドではねじに対して高強度化のための浸炭焼入処理や高周波焼入処理が施される。
【0005】
従来、掘削用ロッドの製造方法としては、最終の掘削用ロッドに対応した長さの長尺の中空棒鋼の端部を切削加工してねじを形成(ねじがめねじ部である場合には軸方向の端部を据込鍛造にて径を大きくした後にめねじ加工)した後、全体を浸炭焼入れしたり、ねじを部分的に高周波焼入れして高強度化し、ステム部及びねじ部を有する掘削用ロッドを継目の無い連続した一体構造で製造する方法が用いられていた。
【0006】
しかしながら掘削用ロッドは全長が数メートルもある長大なものであり、長尺の中空棒鋼に対してねじ加工したり、据込鍛造したりするには技術的な困難を伴う。
加えてねじ加工後において浸炭焼入処理や、高周波焼入処理等の熱処理を施す際に大型の浸炭焼入設備や高周波焼入設備が必要となる。
【0007】
掘削用ロッドの場合、熱処理による曲りを防ぐためには例えば4〜5メートルもある長尺の掘削用ロッドを吊るした状態で熱処理することが必要であり、高さの高い熱処理炉が必要となる。
また長尺であるためにこれを移動その他取扱いする際のハンドリング性の点でも問題がある。
【0008】
他の製造方法として、図2(イ)の模式図で示すようにステム部A,ねじ部Bをそれぞれ別体で別々の部品として製造しておいて、それらを摩擦圧接により接合し、一体化する方法が従来公知である。
この製造方法の場合、ねじ部用の短尺の材料に対してねじ加工することができ、その加工が容易であるとともに、ねじを高強度化するための熱処理も、上記の長尺の継目の無い連続した一体構造の材料に対して熱処理する場合のように大型の熱処理設備を必要としない等の利点が得られる。
【0009】
しかしながら一方でこの製造方法の場合、次のような特有の問題が生ずる。
摩擦圧接では、ステム部とねじ部とを軸方向に突き合せて圧力を加え、両者を相対回転させて摩擦熱により接合するが、このとき図2(ロ)に示すように接合部及び接合部周りは発熱により急激な温度上昇を生じ、特に接合部では1200℃を超える温度まで昇温する。
【0010】
摩擦圧接部はその後に空冷されて冷却され、接合の近傍部、詳しくは高温に温度上昇し且つ焼入温度までは達しなかった部分が、その後の冷却により高温焼戻しされた状態となって、その部分の硬度が低下してしまう(図2(ハ)参照)。即ち熱影響を受けていない部分よりも硬度が低くなってしまう。
【0011】
このように摩擦圧接によって別体をなすステム部とねじ部とを接合し、一体化する製造方法では、従来、ねじを浸炭焼入れ(又は炭窒化焼入れ)により高強度化したときの特性(硬度)を確保するために低Cr,高Niの材料が用いられているが、特にこの材料の場合摩擦圧接による接合の際に、上記の接合部の両側近傍部分の高度の低下の程度が大きく、強度的な弱点部となる低硬度部を生じてしまう。
この低硬度部は掘削用ロッド使用時において折損の起点となり、結果として掘削用ロッドの使用寿命を短くしてしまう。
【0012】
このような低硬度部が生じてこれが強度的な弱点部となるのを防ぐためには、接合後に全長に亘って浸炭焼入処理することが有効であるが、この場合、長尺の掘削用ロッドに対して熱処理を行うこととなるため、大型の熱処理設備が必要となって、上記の継目の無い連続した一体構造で掘削用ロッドを製造する場合と同様の問題を生じてしまう。
【0013】
尚、本発明に関連する先行技術として下記特許文献1,特許文献2,特許文献3に、摩擦圧接により生ずる低硬度部が強度的な弱点部となる問題を解決することを狙いとした技術が開示されている。
これら特許文献1〜3に記載のものは、何れも摩擦圧接後に浸炭等の熱処理を施すことを不要とすることを目的として、摩擦圧接時に接合部の近傍部分が大きく硬度低下するのを防ぐことを内容としたもので、この点について本願発明と目的とするところは共通しているが、これら特許文献に開示のものはねじに浸炭や炭窒化を施して高強度化するもので鋼組成が低Cr(Crが1.50%以下),高Ni(Niが0.5%以上)のものであり、本発明と異なった別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2000−503903号公報
【特許文献2】特表2000−513057号公報
【特許文献3】特表2001−502021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は以上のような事情を背景とし、ステム部とねじ部との摩擦圧接による接合部の近傍部での硬度低下を効果的に抑制し、従ってその硬度の低下した部分が強度的な弱点部となって掘削用中空鋼ロッドの寿命を大きく低下させる問題を解決し得る掘削用中空鋼ロッド及びその製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
而して請求項1は掘削用中空鋼ロッドに関するもので、ステム部と、該ステム部に対して軸方向の端部に位置するねじ部とを有する掘削用中空鋼ロッドであって、質量%でC:0.20〜0.80%,Si:0.10〜0.50%,Mn:0.10〜1.00%,P:≦0.015%,S:≦0.050%,Cu:≦0.50%,Ni:0.50%未満,Cr:2.00〜5.00%,Mo:0.20〜0.80%,B:0.0002〜0.0050%,Ti:0.005〜0.050%,Al:0.005〜0.050%,N:≦0.050%,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有する鋼で構成されており、前記ねじ部のねじには高周波焼入れが施されているとともに、互いに別体をなす該ねじ部と前記ステム部とが摩擦圧接にて接合されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2は中空鋼ロッドの製造方法に関するもので、ステム部と、該ステム部に対して軸方向の端部に位置するねじ部とを有する掘削用中空鋼ロッドの製造方法であって、前記ステム部及びねじ部を、質量%でC:0.20〜0.80%,Si:0.10〜0.50%,Mn:0.10〜1.00%,P:≦0.015%,S:≦0.050%,Cu:≦0.50%,Ni:0.50%未満,Cr:2.00〜5.00%,Mo:0.20〜0.80%,B:0.0002〜0.0050%,Ti:0.005〜0.050%,Al:0.005〜0.050%,N:≦0.050%,残部Fe及び不可避的不純物の化学組成を有する鋼で別体に構成し、前記ねじ部のねじに予め高周波焼入れを施した上で、該ねじ部と前記ステム部とを摩擦圧接にて互いに接合することを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0018】
以上のように本発明は、ロッド用の鋼として上記所定の化学組成のものを用い、そしてねじを高周波焼入れするとともに、別体をなすねじ部とステム部とを摩擦圧接にて接合して一体化し、掘削用中空鋼ロッドとする。
本発明では、ねじ部用の短尺の材料に対してねじ加工を施すことができるとともに、ねじの高強度化のための高周波焼入れを施すことができ、ステム部及び軸方向両端部のねじ部が継目の無い連続した一体構造をなす長尺の掘削用ロッドのための長尺の材料に対してねじ加工をする際の技術的な困難や、熱処理のための大型の熱処理設備を必要とする等の問題を解決し得て、ねじ加工を容易に行うことができるとともに、熱処理としての高周波焼入れも小型の設備で容易に行うことが可能となる。
【0019】
またステム部とねじ部とを摩擦圧接したときに、接合部の軸方向両側近傍部が加熱及びこれに続く冷却によって硬度が大きく低下するのを抑制し、大きく硬度低下して生じた低硬度部分が強度的な弱点部となって掘削用ロッドの折損の起点となり、そのことが寿命低下をもたらしてしまう問題を併せて解決することができる。
【0020】
浸炭焼入れによってねじを高強度化した上で、ステム部とねじ部とを摩擦圧接して一体化して成る従来の掘削用ロッドにあっては、上記のように低Cr,高Niの化学組成の鋼を用いているが、本発明では掘削用ロッドの鋼としてCrが2.00〜5.00%,Niが0.50%未満の高Cr,低Ni材を用い、またねじの高強度化のための熱処理として高周波焼入れを用いていることから、摩擦圧接による接合時に、接合部の近傍部が焼入温度に達しない温度まで昇温し、その後冷却されても、同部分においてCr(更にはMo)の炭化物析出による2次硬化、即ち炭化物の析出効果によって硬度低下が有効に抑制される。
従って本発明では、摩擦圧接により接合部の近傍部が大きく硬度低下し、そのことが掘削用ロッドの強度的な弱点部となってロッド寿命を短くしてしまうのを有効に改善することができる。
【0021】
尚本発明では、軸方向の両端部に位置するねじ部をそれぞれステム部と別体に製造した上でステム部と接合し、掘削用中空鋼ロッドとなすこともできるが、何れか一方のねじ部をステム部と一体に製造し、今一方のねじ部のみをステム部と別体に製造しておいて、これをステム部と摩擦圧接にて接合し、掘削用中空鋼ロッドとなすこともできる。
【0022】
次に本発明における鋼の各成分の添加理由及び添加量の限定理由につき以下に詳述する。
C:0.20〜0.80%
Cは鋼の硬さ,強度を高める働きを有する。Cの添加量が0.20%より少ないと所望の硬さ,強度が得られない。一方Cを0.80%を超えて過剰に添加すると靱延性を損なう。そこで本発明ではCの添加量を0.20〜0.80%の範囲内とする。
【0023】
Si:0.10〜0.50%
Siは脱酸剤として添加される。その効果を得るためには0.10%以上の含有量が必要である。但し0.50%を超えて過剰に含有すると靭性を劣化させるため、0.10〜0.50%の範囲内とする。
【0024】
Mn:0.10〜1.00%
Mnは鋼の脱酸に有効であるとともに焼入れ性を向上させ、熱処理後の硬さ,強度を得るために有効な元素である。
但し1.00%を超えて過剰に添加すると靭性を劣化させる。そこで本発明では添加量を0.10〜1.00%の範囲内とする。
【0025】
P:≦0.015%
Pは不純物成分としてのもので、粒界に偏析し、粒界の結合力を弱め、熱間加工性や靭性を劣化させるため、その含有量は少ない方が好ましい。但しその含有量の上限を0.015%よりも小さい値に規制すると精錬コストが増大するため、上限を0.015%とする。
【0026】
S:≦0.050%
Sもまた不純物成分としてのもので、粒界の結合力を弱め、熱間加工性や靭性を劣化させるため、その含有量は少ない方が好ましい。但し過度に上限を規制すると精錬コストが増大するため、上限を0.050%とする。
【0027】
Cu:≦0.50%
Cuは原材料に含まれる不純物の一つであり、多量に含有すると熱間加工性を劣化させる。しかし過度に上限を規制すると原材料コストの増大を招くため、上限は0.50%とする。
【0028】
Ni:0.50%未満
Niは焼入れ性を向上させ、熱処理後の硬さ,強度を得る上で有効な元素である。但し多量に含有させると原材料コストが増大するため、含有量を0.50%未満とする。
【0029】
Cr:2.00〜5.00%
Crは炭化物を形成し、硬さを高め且つ耐磨耗性を向上させる元素である。また摩擦圧接時には接合部の近傍部が高温に加熱されるため、同部分で高温焼戻しにより局部的な軟化が起り、ロッド折損の要因となるが、Crを添加することで焼戻し軟化抵抗により軟化が抑制され、ロッド折損が抑制できる。その効果を得るために添加量は2.00%以上とする。一方過剰に添加すると靭性が劣化させるため、上限は5.00%とする。
【0030】
Mo:0.20〜0.80%
Moは高温加熱時にMoCを生成して2次硬化により軟化を抑制し、摩擦圧接の際の接合部近傍の軟化抑制に効果がある。この効果を得るためには添加量の下限は0.20%とする。一方過剰に添加するとコスト増を招くとともに熱間加工性も低下させる。そこで、上限は0.80%とする。
【0031】
B:0.0002〜0.0050%
Bは熱間加工性や焼入れ性の向上に有効な元素である。その効果を得るために下限を0.0002%とする。一方0.0050%より多く添加しても効果は飽和し、また過剰添加はコスト増を招くため、添加量の上限を0.0050%とする。
【0032】
Ti:0.005〜0.050%
Tiは、Nと優先的に結合してTiNを生成し、BとNとの結合によるBN生成を抑制して、B添加による上記の効果を確保する働きを有する。そのために本発明では0.005%以上含有させる。但し0.050%を超えて多量に含有させるとTiNの粗大化が起り、そこを起点とした疲労破壊を引き起す。そこで本発明では含有量を0.005〜0.050%の範囲内とする。
【0033】
Al:0.005〜0.050%
Alは鋼の脱酸に有効な元素であり、またAlはBに優先してNと結合し、BがBNとなって上記の効果を失うのを防止する働きを有する。
その効果を得るためには0.005%以上の添加が必要である。
但し0.050%を超えて過剰に添加すると靭性を劣化させるため、その含有量の範囲を0.005〜0.050%の範囲内とする。
【0034】
N:≦0.050%
Nは不純物成分としてのもので、Bと結合しBNを生成することでBの効果を妨げる。Bの効果を得るために本発明ではN含有量を0.050%以下に規制する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態の製造方法にて製造した掘削用ロッド及び試験片の採取位置と硬さ最小値の測定方法を示した図である。
【図2】摩擦圧接をしたときの接合部及びその周辺部の温度分布及び硬さの分布を模式的に表した本発明の背景説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に本発明の実施形態を以下に説明する。
表1に示す化学成分の鋼を60トン真空炉で溶解し、取鍋精錬(LF)及び真空脱ガス(RH)を行った後に分塊圧延し、ビレットを製造した。
更に、ビレットの中心部に孔明け加工(BTA加工)を施した後に、中心部に芯金材を挿入した状態で圧延し、φ52mm,φ74mmの2つの形状の中空丸棒を得た。
【0037】
φ52mmの中空丸棒については、端部におねじ加工を施して図1(イ)に示すおねじ18を備えたおねじ部14とステム部12とを一体に有する部材となし、おねじ18のみを高周波焼入れした。
【0038】
一方φ74mmの丸棒については、切断後にめねじ加工を施してめねじ20を備えためねじ部16となし、めねじ20に対して高周波焼入れを施した。
その後、おねじ部14とステム部12とを一体に有する上記の部材と、めねじ部16とを摩擦圧接により接合し、図1に示す形状の掘削用ロッド10を製造した。
【0039】
尚図1の掘削用ロッド10において、おねじ部14の軸方向長L=150mm,ステム部12の軸方向長L=3510mm,めねじ部16の軸方向長L=180mmである。
またおねじ18の外径はφ50.8mmで、その軸方向長L=93mm,めねじ20の内径はφ50.8mmで、軸方向長L=75mmである。
【0040】
また比較例(表1中の比較例A)として、従来用いられている鋼種を用い、熱処理として浸炭焼入れをした他は上記と同様の方法にて掘削用ロッド10を製造した。
ここで高周波焼入処理,浸炭焼入処理,摩擦圧接等については以下の条件にて行った。
<高周波焼入処理>
周波数:30kHz,電力:270kW,回転数:200rpm,加熱時間:6秒,冷却:水冷
<浸炭焼入処理>
浸炭方式:ガス浸炭法
(a)浸炭
温度:940℃,時間:4時間,カーボンポテンシャル:1.1%
(b)拡散
温度:940℃,時間:4時間,カーボンポテンシャル:0.8%
(c)焼入れ
温度:870℃,時間:30分,冷却:ファン冷却
<摩擦圧接>
回転数:870rpm,圧接圧力:12kgf/mm,より代:4.0mm
【0041】
以上のようにして製造した掘削用ロッド10について、表層硬さ,中心部硬さ,硬さ最小値,衝撃値の各特性を以下のようにして評価した。
<表層硬さ,中心部硬さ>
図1(ロ)に示すように、摩擦圧接部を含むように硬さ試験片S1を採取し、焼入れの入った接合部の表層,肉厚の中心部の硬さを測定した。
硬さ測定はJIS Z2244のビッカース硬さ試験−試験方法に準拠して行った。測定はn=3にて行い、その平均値をもって評価した。
【0042】
<硬さ最小値(最低硬さ)>
ここで硬さ最小値は、摩擦圧接部の近傍部で一番硬さの低い部分の硬さを指し、焼戻し効果によって硬さが低下した部分が該当する場合が多い。
上記中心部硬さ測定と同じようにして試験片S1の肉厚の中心部の硬さを図1(ハ)に示しているように長さ方向に1mm間隔で測定し、硬さの最小値(最低硬さ)を調べた。
ここでも硬さ測定はJIS Z2244 ビッカース硬さ試験−試験方法に準拠して行い、n=3で測定してその平均値をもって評価した。
【0043】
<衝撃値測定>
図1(ロ)に示しているように、摩擦圧接部を含むように肉厚中心部から衝撃試験用の試験片S2を採取し、Vノッチ試験片の吸収エネルギーを調査した。
試験はJIS Z2242 金属材料のシャルピー試験方法に準拠し、Vノッチ試験片での吸収エネルギーを測定した。測定はn=3で行い、その平均値をもって評価した。
これらの結果が表2に示してある。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
尚、表2における表層0.5mm硬さの値は590HV以上を目標とし、中心部硬さは300HV以上を、硬さ最小値は300HV以上を、衝撃値は15J/cm以上をそれぞれ目標値として評価を行った。
表2に示しているように、Cr含有量が1.31%で本発明の下限値である2.00%よりも低く、またNi含有量が2.75%で本発明の上限値である0.50%よりも高い鋼種を用いた比較例Aでは、摩擦圧接時における接合部の近傍部の硬さ低下が大きい。
【0047】
C含有量が0.17%で本発明の下限値である0.20%よりも低い比較例Bでは表層硬さが低く、逆に0.95%と本発明の上限値の0.80%よりも高い比較例Cでは衝撃値が低い。
Mn含有量が0.05%で本発明の下限値の0.10%よりも低い比較例Dでは硬さ最小値,衝撃値ともに低く、逆に1.21%と本発明の上限値の1.00%よりも高い比較例Eでは衝撃値が低い。
【0048】
Cr含有量が1.78%で本発明の下限値である2.00%よりも低い比較例Fでは、摩擦圧接時の際にCr炭化物の析出による2次硬化が十分に得られないために、硬さ最小値が低い。
逆にCr含有量が5.31%と本発明の上限値である5.00%よりも高い比較例Gでは、衝撃値が低くなっている。
【0049】
Mo含有量が0.14%で、本発明の下限値である0.20%よりも低い比較例Hでは硬さ最小値が低く、逆にMo含有量が0.92%で、本発明の上限値である0.80%よりも高い比較例Iでは衝撃値が低くなっている。
【0050】
次にB含有量が本発明の下限値よりも低い比較例Jでは、圧延時の割れで製品製造ができなかった。
またB含有量が本発明の上限値よりも高い比較例Kでは、衝撃値が低くなっている。
【0051】
これに対し本発明例のものは表層硬さ,中心部硬さ,硬さ最小値,衝撃値等の各特性が何れも良好な値を示している。
つまり本発明に従えば、摩擦圧接で接合を行った場合であっても、その後に全体を熱処理することなく、各特性を一体構造で掘削用ロッドを製造した場合と同程度の良好な特性となすことができ、従って一体構造で製造した場合とほぼ同様の掘削用ロッドの寿命が期待できる。
【0052】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明においては軸方向の各端部のねじ部が何れもおねじ部である掘削用ロッド,逆に両端部のねじ部がめねじ部である掘削用ロッドに対して適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 掘削用ロッド
12 ステム部
14 おねじ部
16 めねじ部
18 おねじ
20 めねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム部と、該ステム部に対して軸方向の端部に位置するねじ部とを有する掘削用中空鋼ロッドであって、
質量%で
C:0.20〜0.80%
Si:0.10〜0.50%
Mn:0.10〜1.00%
P:≦0.015%
S:≦0.050%
Cu:≦0.50%
Ni:0.50%未満
Cr:2.00〜5.00%
Mo:0.20〜0.80%
B:0.0002〜0.0050%
Ti:0.005〜0.050%
Al:0.005〜0.050%
N:≦0.050%
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有する鋼で構成されており、
前記ねじ部のねじには高周波焼入れが施されているとともに、互いに別体をなす該ねじ部と前記ステム部とが摩擦圧接にて接合されていることを特徴とする掘削用中空鋼ロッド。
【請求項2】
ステム部と、該ステム部に対して軸方向の端部に位置するねじ部とを有する掘削用中空鋼ロッドの製造方法であって、
前記ステム部及びねじ部を
質量%で
C:0.20〜0.80%
Si:0.10〜0.50%
Mn:0.10〜1.00%
P:≦0.015%
S:≦0.050%
Cu:≦0.50%
Ni:0.50%未満
Cr:2.00〜5.00%
Mo:0.20〜0.80%
B:0.0002〜0.0050%
Ti:0.005〜0.050%
Al:0.005〜0.050%
N:≦0.050%
残部Fe及び不可避的不純物の化学組成を有する鋼で別体に構成し、
前記ねじ部のねじに予め高周波焼入れを施した上で、該ねじ部と前記ステム部とを摩擦圧接にて互いに接合することを特徴とする掘削用中空鋼ロッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172344(P2012−172344A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33941(P2011−33941)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】