説明

掘削装置、壁杭施工方法、および壁杭

【課題】連続した拡幅部を有する壁杭を簡単に施工できる掘削装置、壁杭施工方法、および壁杭を提供すること。
【解決手段】掘削装置1は、鉛直方向を軸として回転するケリーバー16と、ケリーバー16の先端に取り付けられ、ケリーバー16の回転に伴って回転するとともに、径方向に開閉自在なバケット30と、長方形状の掘削孔の内部に設置され、ケリーバー16を軸支するとともに、掘削孔の内壁面を押圧してケリーバー16の位置を固定するスタビライザー50と、掘削孔の長手方向に沿ってケリーバー16を水平方向に移動可能な油圧ジャッキ48と、ケリーバー16が水平移動する際に、ケリーバー16の鉛直方向の姿勢を保持するケリーバー姿勢制御装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削装置、壁杭施工方法、および壁杭に関し、特に、連続した拡幅部を有する壁杭を簡単に施工できる掘削装置、壁杭施工方法、および壁杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の押込力および地震等の引抜力に対応するために、拡幅部を有する丸杭が用いられている。拡幅部を有する丸杭は、例えば、特許文献1に示すように、ブームの先端から鉛直下方へと延びて、この鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に径方向に開閉自在に取り付けられ、前記ケリーバーの回転に伴って回転するバケットとを備える回転式掘削装置を用いて、予め地盤に形成した掘削孔に、閉じた状態のバケットを挿入した後、バケットを開いた状態でケリーバーを回転させることにより施工される。また、特許文献2には、水平方向の抵抗力を向上させるために、連続した拡幅部を有する壁杭を構築する技術が開示されている。
【特許文献1】特公平6−13827号公報
【特許文献2】特開2003−213675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献2に示すような壁杭は、例えば、以下のようにして施工できる。まず、水平多軸掘削機等により連続壁用の略楕円形状の掘削孔を形成する。次に、特許文献1に示すような回転式掘削機を用いて、前記略楕円形状の掘削孔にバケットを挿入して拡幅部を形成した後、このバケットを持ち上げてから水平方向に移動し、この移動した箇所にバケットを下ろして前記同様に拡幅部を形成する。このような操作を繰り返して、連続した拡幅空間を有する壁杭用の掘削孔を構築する。最後に、この壁杭用の掘削孔にコンクリートを打設して、連続した拡幅部を有する壁杭を施工する。しかしながら、このような方法では、バケットを持ち上げてから水平移動させて位置決めし、そしてバケットを下ろして拡幅部を形成するという動作を繰り返す必要があるため、連続した拡幅部を有する壁杭の施工が非常に煩雑である。
【0004】
本発明の目的は、連続した拡幅部を有する壁杭を簡単に施工できる掘削装置、壁杭施工方法、および壁杭を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に取り付けられ、前記ケリーバーの回転に伴って回転するとともに、径方向に開閉自在なバケットとを備え、地盤に形成された長方形状の掘削孔に前記バケットを挿入して、水平方向に連続した拡幅部を有する壁杭を形成するための掘削装置であって、前記掘削孔の内部に設置され、前記ケリーバーを軸支するとともに、前記掘削孔の内壁面を押圧して前記ケリーバーの位置を固定するためのスタビライザーと、前記掘削孔の長手方向に沿って前記ケリーバーを水平移動させることが可能な移動装置と、前記移動装置によって前記ケリーバーが水平移動する際に、前記ケリーバーの鉛直方向の姿勢を保持するケリーバー姿勢制御装置とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明によれば、閉じた状態のバケットを掘削孔に挿入し、掘削孔の内壁面を押圧してスタビライザーの位置を固定した後、バケットを開いた状態でケリーバーを回転させて掘削孔の壁面に拡幅部を形成し、この状態で、ケリーバー姿勢制御装置によりケリーバーの鉛直方向の姿勢を保持しつつ、移動装置によりケリーバーを水平移動させ、水平方向に連続した拡幅空間を有する壁杭用掘削孔を形成する。そして、この壁杭用掘削孔にコンクリートを打設して、水平方向に連続した拡幅部を有する壁杭を施工する。このため、従来のように、バケットを上げ下げして水平移動させたり、位置決めしたりする必要がないから、水平方向に連続した拡幅部を有する壁杭を簡単に施工することができる。
【0007】
ここで、前記移動装置は、前記掘削孔内に設けられるとともに、シリンダと、このシリンダに対し前記掘削孔の長手方向に沿って水平に進退可能なロッドとを備え、前記スタビライザーは、前記シリンダまたは前記ロッドに取り付けられるとともに、前記ケリーバーを軸支する支持部材と、前記シリンダおよび前記ロッドの先端に取り付けられるとともに、前記ロッドの進退方向と直交する方向へ進退して、前記掘削孔の内壁面を押圧可能な押圧部材とを備える構成を採用できる。
【0008】
また、前記移動装置は、前記掘削孔内に設けられるとともに、前記掘削孔の長手方向に沿って水平走行可能なクローラーであり、前記スタビライザーは、前記クローラーに取り付けられるとともに、前記ケリーバーを軸支する支持部材と、前記クローラーに設けられ、前記クローラーの移動方向と直交する方向へ進退して、前記掘削孔の内壁面を押圧可能な押圧部材とを備える構成としてもよい。
【0009】
このような掘削装置において、前記掘削孔内に設置される固定枠を備え、前記押圧部材は、前記固定枠を介して、前記掘削孔の内壁面を押圧可能に構成されてもよい。
【0010】
また、前記移動装置は、前記掘削孔の周囲の地盤表面に取り付けられる架台と、この架台に対して、前記掘削孔の長手方向に沿って水平移動可能な基台とを備え、前記スタビライザーは、前記基台に取り付けられるとともに、前記掘削孔に挿入される反力部材と、前記ケリーバーを軸支するとともに、前記反力部材を押圧する支持部材とを備える構成としてもよい。
【0011】
本発明は、鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に取り付けられ、前記ケリーバーの回転に伴って回転するとともに、径方向に開閉自在なバケットと、前記ケリーバーを軸支するとともに、地盤に形成された長方形状の掘削孔の内部に設置され、かつ、前記掘削孔の内壁面を押圧して前記ケリーバーの位置を固定するスタビライザーと、前記ケリーバーの鉛直方向の姿勢を保持しつつ、前記掘削孔の長手方向に沿って水平移動可能な移動装置とを備える掘削装置を用いて、水平方向に連続した拡幅部を有する壁杭を施工する壁杭施工方法であって、前記掘削孔に、閉じた状態の前記バケットを挿入する工程と、前記掘削孔の内壁面を押圧して、前記スタビライザーの位置を固定する工程と、前記バケットを開いた状態で前記ケリーバーを回転させることにより、前記掘削孔の内壁面に拡幅空間を形成する工程と、前記拡幅空間を形成する工程を実施しながら、前記移動装置により前記ケリーバーを水平移動させて、水平方向に連続した拡幅空間を有する壁杭用掘削孔を形成する工程と、この連続した拡幅空間を有する壁杭用掘削孔の中にコンクリートを打設して、連続した拡幅部を有する壁杭を形成する工程とを備えることを特徴とする。また、本発明は、前記壁杭施工方法により施工された壁杭である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の掘削装置、壁杭施工方法、および壁杭によれば、連続した拡幅部を有する壁杭を簡単に施工できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る掘削装置を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る掘削装置1を模式的に示す側面図である。図1に示すように、掘削装置1は、地上を走行可能な走行体12と、走行体12から上方へと延び、起伏旋回可能なブーム14と、ブーム14の先端から鉛直下方へと延びて、この鉛直方向を軸として回転可能なケリーバー16と、ケリーバー16の下端部に取り付けられるバケット部20とを備えている。ケリーバー16は、一方向又は両方向に連続的に回転するように構成してもよいし、所定の角度範囲だけ正転、逆転できるような構成でもよい。
【0014】
図2は、バケット部20を示す正面図である。また、図3は、バケット部20を示す横断面図である。図2,図3に示すように、バケット部20は、ケリーバー16(図1)の先端に取り付けられる油圧シリンダ22と、油圧シリンダ22に対して上下方向に進退するロッド24と、油圧シリンダ22およびロッド24を収容する収容ケース26とを備えている。また、バケット部20は、収容ケース26の開口26Aから突出可能に構成され、ロッド24の先端に取り付けられる例えば2本の腕部28と、収容ケース26に対して開閉自在に構成され、各腕部28の先端が取り付けられた例えば2枚のバケット30とを備えている。なお、腕部28は、例えば、ロッド24を軸として対称となる位置に配置することができ、この場合には、バケット30も収容ケース26に対して対称となる位置に配置される。
【0015】
各バケット30は、例えば、角度θ1,θ2がそれぞれ略45°の台形状に形成されている。台形の各辺には、地盤Gを効率良く掘削するための凹凸が形成されている。また、図中右側のバケット30と、図中左側のバケット30とでは、凹凸が互いに逆になるように凹凸の形成位置をずらしており、両バケット30が一回転することにより凹部による削り残しのない綺麗な台形状の拡幅部が形成できるようになっている。なお、バケット30の形状は、台形状に限らず、三角形状等の他の形状としてもよく、所望する拡幅部の形状に応じて適宜変更すればよい。また、バケット30の数も2枚には限定されない。
【0016】
このようなバケット部20において、油圧シリンダ22からロッド24を図2中下方へと移動させると、ロッド24の先端に取り付けられた腕部28が収容ケース26の開口26Aから突出し、図3の実線で示すように、腕部28の先端に取り付けられたバケット30が収容ケース26の径方向へと開くことになる。一方、油圧シリンダ22側(図2中上方)へロッド24を移動させると、ロッド24の先端に取り付けられた腕部28が収容ケース26内に収容されて、図3の破線で示すように、腕部28の先端に取り付けられたバケット30が収容ケース26側へ閉じることになる。バケット部20は、ケリーバー16の回転に伴って回転し、この際、前述したようにバケット30を開くことにより、開いたバケット30で地盤を掘削して、拡幅部用の拡幅空間を形成することができる。
【0017】
なお、ケリーバー16が所定の角度範囲だけ正転、逆転する場合には、例えば、バケット30の一方だけを開いてケリーバー16を正転、逆転させることにより、バケット30も所定の角度範囲で正転、逆転するから、例えば、薄い壁杭の片面側のみに拡幅部を形成することも可能となる。
【0018】
図1に戻って、掘削装置1は、ケリーバー16とバケット部20との間に設けられ、ケリーバー16を水平方向に移動させるスタビライザー移動部40と、ケリーバー16が水平移動する際に、ケリーバー16の鉛直方向の姿勢を制御するケリーバー姿勢制御装置42とを備えている。ケリーバー姿勢制御装置42は、ケリーバー16の傾斜を測定する傾斜計44と、傾斜計44の測定結果に基づいて、走行体12の位置およびブーム14の姿勢を調整し、ケリーバー16の鉛直姿勢を制御する制御装置45とを備えている。
【0019】
図4は、スタビライザー移動部40を側方から見た縦断面図である。図5は、スタビライザー移動部40を正面から見た縦断面図である。図6は、スタビライザー移動部40の横断面図である。図6に示すように、スタビライザー移動部40は、地盤Gに形成された、同図中左右方向に延びる長方形状の掘削孔A内に設けられている。スタビライザー移動部40は、掘削孔A内に設置される固定枠46(図6)と、固定枠46内に設けられる移動装置としての複数の油圧ジャッキ48と、固定枠46内に設けられるスタビライザー50とを備えている。
【0020】
各油圧ジャッキ48は、シリンダ52と、シリンダ52に対して掘削孔Aの長手方向(図6中の左右方向)に沿って水平に進退可能なロッド54とを備えている。
スタビライザー50は、水平方向に隣合うシリンダ52の間に取り付けられ、ケリーバー16を軸支する支持部材56と、シリンダ52の基端52Aに取り付けられる基端側部材58と、ロッド54の先端54Aに取り付けられる先端側部材60とを備えている。
【0021】
基端側部材58は、シリンダ52の基端52Aに固定された枠体62(図5)と、枠体62内に取り付けられ、ロッド54の進退方向と直交する方向(図6中の上下方向)に進退する油圧ジャッキ64とを備えている。同様に、先端側部材60は、ロッド54の先端54Aに固定された枠体63と、枠体63内に取り付けられた、ロッド54の進退方向と直交する方向(図6中の上下方向)に進退する油圧ジャッキ65とを備えている。油圧ジャッキ64,65は、夫々、シリンダ64A,65Aと、シリンダ64A,65Aに対して進退可能なロッド64B,65Bと、シリンダ64A,65Aの基端およびロッド64B,65Bの先端にそれぞれ取り付けられ、固定枠46に当接する当接部材64C,65Cとを備えている。なお、油圧ジャッキ64,65が本発明の押圧部材に相当する。
【0022】
このような油圧ジャッキ64,65によれば、シリンダ64A,65Aからロッド64B、65Bを突出させて、当接部材64C,65Cで固定枠46を介して掘削孔Aの内壁面を強く押圧することにより、基端側部材58および先端側部材60を掘削孔A内に固定できる。従って、基端側部材58及び先端側部材60の両方の油圧ジャッキ64,65のロッド64B,65Bを突出させることにより、スタビライザー移動部40を掘削孔Aの任意の高さ位置に保持できる。
【0023】
また、油圧ジャッキ64のロッド64Bを突出させて先端側部材60の当接部材64Cにより固定枠46を強く押圧しつつ、油圧ジャッキ65のロッド65Bを後退させて基端側部材58の当接部材64Cによる押圧力を弱めた状態で、油圧ジャッキ48を伸張する向きに駆動すると、図5,図6の二点鎖線で示す位置から、シリンダ52に取り付けられたケリーバー16が図6中の左方向に水平移動し、最終的には、ケリーバー16が図5,図6の実線で示す位置まで移動可能である。
【0024】
この掘削装置1を用いて、連続した拡幅部を有する壁杭を施工する手順について説明する。図7は、連続した拡幅部を有する壁杭を施工する手順について説明するための模式図である。図7の(A)に示すように、例えば水平多軸掘削機等を用いて、地盤Gに長方形状の掘削孔Aを形成する。次に、掘削孔A内に固定枠46を取り付け、この固定枠46内に、図7(B)に示すように、ケリーバー16とともに、閉じた状態のバケット30を有するバケット部20を掘削孔A内に挿入する。
【0025】
次に、シリンダ64A,65Aから夫々ロッド64B,65Bを突出させて、基端側部材58および先端側部材60の当接部材64Cで掘削孔A内の固定枠46を押圧し、スタビライザー移動部40を掘削孔Aの所定の高さ位置に固定する。この場合、基端側部材58の当接部材64Cよる押圧力を比較的小さくしておき、当接部材64Cが固定枠46の表面に沿って移動できるようにしておく。
【0026】
次に、バケット30を開いた状態にしてケリーバー16を回転させ、このケリーバー16の回転によってバケット30が回転することにより、図7(C)に示すように、掘削孔Aの内壁面に拡幅空間102Aを形成する。次に、このように拡幅空間102Aを形成しながら、油圧ジャッキ48のロッド54をシリンダ52内へ移動させると、基端側部材58の当接部材64Cが固定枠46の表面を滑って、シリンダ52が水平移動する。これにより、シリンダ52に取り付けられたスタビライザー50の支持部材56も水平移動し、図7(D)に示すように、支持部材56に軸支されたケリーバー16も矢印Xに示すように水平移動する。ケリーバー16が水平移動する際には、ケリーバー16の傾斜を傾斜計44で測定し、その結果に基づいて制御装置45が走行体12の位置やブーム14の姿勢を調整することで、ケリーバー16の姿勢が常に鉛直方向に延びるように制御することができる。このようにして、図7(D)に示すような、連続した拡幅空間102Aを有する壁杭用掘削孔102を形成する。
【0027】
次に、上記のように拡幅空間102Aが形成された壁杭用掘削孔102からケリーバー16およびバケット部20を取り出す。そして、壁杭用掘削孔102の壁面の安定化処理を行った後、壁杭用掘削孔102に鉄筋籠(図示略)を挿入し、コンクリートを打設する。これにより、図8に示すような、両側面に連続した拡幅部100Aが形成された壁杭100を形成することができる。なお、図8の壁杭100の底部には、断面三角形状の拡底部101Bが形成されているが、この拡底部100Bは、前記掘削装置1のバケット30の形状を台形状から三角形状に変え、この三角形状のバケットを壁杭100の底部に設置して、前記拡幅空間102Aと同様の手順で施工できる。
【0028】
また、例えば、図9に示すように、片側面のみに連続した拡幅部101Aが形成された壁杭101を前記掘削装置1を用いて形成することも可能である。このような壁杭101は、ケリーバー16の回転を所定の角度範囲だけで行うようにしたり、また、回転中心となるケリーバー16の位置を、拡幅部101Aを形成する側へと偏心させ、この偏心した位置でケリーバー16を回転させることにより、施工することができる。なお、図9の壁杭101にも、前記壁杭100と同様に、底部に断面三角形状の拡底部101Bが形成されており、この場合も、拡幅部100Aと同様に施工すればよい。
【0029】
以上説明した掘削装置1によれば、従来のように、バケット30を上げ下げして水平移動させたり、位置決めしたりする必要がないので、水平方向に連続した拡幅部100Aを有する壁杭100を簡単に施工できる。また、掘削孔A内に固定枠46を設けたので、掘削孔Aの壁面の硬さや状態の影響を受けることなく、スタビライザー移動部40を所定の高さ位置に確実に固定できる。
【0030】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る掘削装置2について説明する。本実施形態の掘削装置2は、第1実施形態の掘削装置1とは、スタビライザー移動部の構成が相違しており、以下、この相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同様または相当する構成部品には、同じ符号を付して、その説明を省略または簡略化する。
【0031】
図10は、第2実施形態に係るスタビライザー移動部70を側方から見た縦断面図である。図11は、スタビライザー移動部70を正面から見た縦断面図である。図12は、スタビライザー移動部70の横断面図である。図10〜図12に示すように、スタビライザー移動部70は、長方形状の掘削孔A内に設けられる移動装置としてのクローラー72と、クローラー72を収容するケース74と、スタビライザー80とを備えている。
【0032】
図12に示すように、クローラー72は、複数の車輪76と、これらの車輪76の周りに取り付けられたベルト78とを備え、車輪76の回転によってベルト78が回転し、ベルト78とケース74の内側面とが噛合して、クローラー72がケース74内を水平移動する。
【0033】
スタビライザー80は、車輪76の間に取り付けられ、クローラー72とともに水平移動可能な支持部材82と、ケース74からの掘削孔Aの内壁面側へ突出するように取り付けられた複数の押圧部材84とを備えている。支持部材82は、ケリーバー16を軸支する部材である。各押圧部材84は、掘削孔Aの内壁面に当接する当接部86と、当接部86を進退させるロッド88とを備え、当接部86は、クローラー72の移動方向に直交する方向(図12中の上下方向)に進退し、掘削孔Aの内壁面を押圧可能である。
【0034】
このような掘削装置2のスタビライザー移動部70では、押圧部材84のロッド88を内壁面側に移動させて当接部86で内壁面を押圧して、ケース74を掘削孔Aの所定位置に固定しておき、この状態で、車輪76を回転させることにより、ベルト78とケース74の内側面とが噛合し、クローラー72がケース74内を水平移動する。この際、クローラー72には、ケリーバー16を軸支する支持部材82が取り付けられているため、ケリーバー16を回転させてバケット30を回転させつつ、ケリーバー16を水平移動させることができる。
【0035】
このような掘削装置2によれば、第1実施形態と同様の手順を行うことにより、水平方向に連続した拡幅部100Aを有する壁杭100を簡単に施工することができる。また、クローラー72がケース74内を移動する構成としたので、掘削孔Aの内壁面を移動する場合に比べて、内壁面の硬さや状態等の影響を受けることがなく、スタビライザー移動部70を所定の高さ位置に確実に固定できる。
【0036】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る掘削装置3について説明する。本実施形態の掘削装置3は、第2実施形態の掘削装置2とは、スタビライザー移動部70を構成するクローラー72の構成が相違しており、この相違点を中心に説明する。図13は、第3実施形態に係るスタビライザー移動部90を示す横断面図である。図13に示すように、スタビライザー移動部90は、掘削孔A内に設けられる移動装置92と、移動装置92を収容するケース74と、スタビライザー80とを備えている。
【0037】
移動装置92は、ケリーバー16を軸支する支持部材82が取り付けられた基台94と、基台94に取り付けられた駆動モータ96と、駆動モータ96に連動する輪列98と、輪列98と噛み合うともに、ケース74の内側面に取り付けられたラック99とを備えている。このようなスタビライザー移動部90では、駆動モータ96の回転で輪列98が回転すると、輪列98と噛み合うラック99に沿って基台94が水平移動する。このような掘削装置3によれば、前記掘削装置2と同様にして、水平方向に連続した拡幅部100Aを有する壁杭100を簡単に施工することができる。
【0038】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る掘削装置4について説明する。本実施形態の掘削装置4は、前記各実施形態の掘削装置1〜3とは、スタビライザー移動部の構成が相違しており、以下、このような相違点を中心に説明する。図14は、第4実施形態に係るスタビライザー移動部200を正面から見た縦断面図である。図15は、スタビライザー移動部200の平面図である。図14,図15に示すように、スタビライザー移動部200は、長方形状の掘削孔Aの周囲の地盤Gの表面G1に設けられる移動装置210と、掘削孔A内に設けられるスタビライザー230とを備えている。
【0039】
移動装置210は、地盤Gの表面G1上に取り付けられるH型鋼等の架台212と、基台214と、架台212に対して掘削孔Aの長手方向(図13中の左右方向)に沿って基台214を水平移動させる移動装置本体216とを備えている。移動装置本体216は、基台214の下面に取り付けられるピニオン218と、架台212の上面に設けられ、ピニオン218と噛み合うラック220と、基台214に取り付けられ、ピニオン218を回転させるモータ222とを備えている。このような移動装置210では、モータ222の回転でピニオン218が回転すると、ピニオン218と噛み合うラック220に沿って、基台214が水平移動する。
【0040】
スタビライザー230は、基台214に取り付けられるとともに、掘削孔Aに鉛直方向に挿入される反力部材224と、ケリーバー16を軸支する支持部材226と、反力部材224から支持部材226側へ突出するように反力部材224に取り付けられ、支持部材226を案内する案内部材228とを備えている。支持部材226は、案内部材228を押圧することにより自身の位置を固定している。
【0041】
このような掘削装置4では、基台214に設けられるとともに、案内部材228が取り付けられた反力部材224を掘削孔A内に挿入し、架台212に対して水平移動できるように、移動装置本体216を介して基台214を設置する。この状態で、掘削孔A内に、ケリーバー16とともに、バケット30および支持部材226を挿入し、支持部材226で案内部材228を押圧して位置を固定する。このようにしてスタビライザー移動部200を固定した後は、第1実施形態と同様に、ケリーバー16を回転させてバケット30で拡幅部を形成しつつ、基台214を移動させることにより、水平方向に連続した拡幅部100Aを有する壁杭100を簡単に施工できる。
【0042】
なお、本発明は、前記各実施形態には限定されない。例えば、第1実施形態では、ケリーバー16を軸支する支持部材56をシリンダ52に取り付けたが、ロッド54に取り付けてもよい。また、第1実施形態では、掘削孔A内に固定枠46を設けていたが、特に設けなくてもよい。第1実施形態では、固定枠46を介して内壁面を押圧するための押圧部材として油圧ジャッキ64を採用したが、これには限定されない。
【0043】
前記第2実施形態では、クローラー72がケース74内を移動するように構成したが、掘削孔Aの内壁面を移動するような構成としてもよい。また、前記第2,第3実施形態では、押圧部材84で掘削孔Aの内壁面を直接押圧する構成としたが、掘削孔Aの内壁面に前記第1実施形態のような固定枠を設けて、この固定枠を介して掘削孔Aの内壁面を押圧する構成としてもよい。
【0044】
前記第4実施形態では、移動装置210を、ラック220とピニオン218とが噛み合うことにより、基台214を水平移動させる構成としたが、油圧ジャッキや、クローラーを用いて移動させる構成としてもよい。
【0045】
また、前記各実施形態では、壁杭の水平方向に連続した拡幅部を形成するようにしたが、例えば、バケット30を上方へと持ち上げるようなブーム14の操作等を行うことにより、鉛直方向に連続した拡幅部を形成してもよい。
【0046】
なお、施工する壁杭は、図8,図9に示す形状のものに限定されない。例えば、図16は、本発明の第1変形例に係る、拡幅部301が形成された壁杭300を模式的に示す斜視図である。図16に示すように、壁杭300は、片側にのみ拡幅部301が形成されている。拡幅部301は、縦断面が縦方向に長い台形状であり、水平方向に沿って連続して形成されている。このような拡幅部301は、縦方向に長い台形状のバケット30が適用された前記掘削装置1〜4を用いて、前記各実施形態と同様の手順で施工可能である。なお、図16では、片側のみに拡幅部301を形成しているが、両側に形成してもよい。
【0047】
また、図17は、本発明の第2変形例に係る、拡幅部401が形成された壁杭400を模式的に示す斜視図である。図17に示すように、壁杭400は、片側にのみ拡幅部401が形成されている。拡幅部401は、縦断面が縦方向に長い台形状に形成され、水平方向に沿って間隔を置いて複数形成されている。このような拡幅部401は、縦方向に長い台形状のバケット30を適用した前記掘削装置1〜4を用いて、まず、1つ目の各幅部401用の拡幅空間を形成した後、バケット30を閉じた状態でケリーバー16を水平移動させ、再度、バケット30を開いて2つ目の各幅部401用の拡幅空間を形成する。これにより、拡幅部401が間隔を置いて形成された壁杭400を施工できる。なお、図17では、片側のみに拡幅部401を形成しているが、両側に形成してもよい。
【0048】
図18は、本発明の第3変形例に係る、拡幅部501が形成された壁杭500を模式的に示す斜視図である。図18に示すように、壁杭500は、片側にのみ拡幅部501が形成されている。このような拡幅部501は、図9に示す拡幅部101Bと同様の、縦断面三角形状に形成されている。このような拡幅部501は、前述したように、三角形状のバケット30が適用された前記掘削装置1〜4を用いて、前記各実施形態と同様の手順で施工可能である。なお、図18では、片側のみに拡幅部501を形成しているが、両側に形成してもよい。
【0049】
図19は、本発明の第4変形例に係る、拡幅部601が形成された壁杭600を模式的に示す斜視図である。図19に示すように、壁杭600は、片側にのみ拡幅部601が形成されている。拡幅部601は、縦断面三角形状に形成され、水平方向に沿って間隔を置いて複数形成されている。このような拡幅部601は、三角形状のバケット30を適用した前記掘削装置1〜4を用いて、まず、1つ目の各幅部601用の拡幅空間を形成した後、バケット30を閉じた状態でケリーバー16を水平移動させ、再度、バケット30を開いて2つ目の各幅部601用の拡幅空間を形成する。これにより、拡幅部601が間隔を置いて形成された壁杭600を施工できる。なお、図19では、片側のみに拡幅部601を形成しているが、両側に形成してもよい。
以上のような形状の壁杭に限らず、任意の形状のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る掘削装置を模式的に示す側面図である。
【図2】前記掘削装置を構成するバケット部を示す正面図である。
【図3】前記バケット部を示す横断面図である。
【図4】前記掘削装置を構成するスタビライザー移動部を側方から見た縦断面図である。
【図5】前記スタビライザー移動部を正面から見た縦断面図である。
【図6】前記スタビライザー移動部の横断面図である。
【図7】拡幅部を有する壁杭を施工する手順について説明するための模式図である。
【図8】両側面に連続した拡幅部が形成された壁杭を模式的に示す斜視図である。
【図9】片側面のみに連続した拡幅部が形成された壁杭を模式的に示す斜視図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る掘削装置を構成するスタビライザー移動部を側方から見た縦断面図である。
【図11】前記第2実施形態に係るスタビライザー移動部を正面から見た縦断面図である。
【図12】前記第2実施形態に係るスタビライザー移動部の横断面図である。
【図13】本発明の第3実施形態に係るスタビライザー移動部を示す横断面図である。
【図14】本発明の第4実施形態に係るスタビライザー移動部を正面から見た縦断面図である。
【図15】前記第4実施形態に係るスタビライザー移動部の平面図である。
【図16】本発明の第1変形例に係る、拡幅部が形成された壁杭を模式的に示す斜視図である。
【図17】本発明の第2変形例に係る、拡幅部が形成された壁杭を模式的に示す斜視図である。
【図18】本発明の第3変形例に係る、拡幅部が形成された壁杭を模式的に示す斜視図である。
【図19】本発明の第4変形例に係る、拡幅部が形成された壁杭を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1〜4 掘削装置
16 ケリーバー
30 バケット
42 ケリーバー姿勢制御装置
46 固定枠
48 油圧ジャッキ(移動装置)
50,80,230 スタビライザー
52 シリンダ
54 ロッド
64,65 油圧ジャッキ(押圧部材)
72 クローラー(移動装置)
82 支持部材
84 押圧部材
92,210 移動装置
100,101 壁杭
100A,101A 拡幅部
102 壁杭用掘削孔
102A 拡幅空間
212 架台
214 基台
224 反力部材
226 支持部材
A 掘削孔
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に取り付けられ、前記ケリーバーの回転に伴って回転するとともに、径方向に開閉自在なバケットとを備え、地盤に形成された長方形状の掘削孔に前記バケットを挿入して、水平方向に連続した拡幅部を有する壁杭を形成するための掘削装置であって、
前記掘削孔の内部に設置され、前記ケリーバーを軸支するとともに、前記掘削孔の内壁面を押圧して前記ケリーバーの位置を固定するためのスタビライザーと、
前記掘削孔の長手方向に沿って、前記ケリーバーを水平移動させることが可能な移動装置と、
前記移動装置によって前記ケリーバーが水平移動する際に、前記ケリーバーの鉛直方向の姿勢を保持するケリーバー姿勢制御装置とを備えることを特徴とする掘削装置。
【請求項2】
請求項1に記載の掘削装置において、
前記移動装置は、前記掘削孔内に設けられるとともに、シリンダと、このシリンダに対し前記掘削孔の長手方向に沿って水平に進退可能なロッドとを備え、
前記スタビライザーは、前記シリンダまたは前記ロッドに取り付けられるとともに、前記ケリーバーを軸支する支持部材と、前記シリンダおよび前記ロッドの先端に取り付けられるとともに、前記ロッドの進退方向と直交する方向へ進退して、前記掘削孔の内壁面を押圧可能な押圧部材とを備えることを特徴とする掘削装置。
【請求項3】
請求項1に記載の掘削装置において、
前記移動装置は、前記掘削孔内に設けられるとともに、前記掘削孔の長手方向に沿って水平走行可能なクローラーであり、
前記スタビライザーは、前記クローラーに取り付けられるとともに、前記ケリーバーを軸支する支持部材と、前記クローラーに設けられ、前記クローラーの移動方向と直交する方向へ進退して、前記掘削孔の内壁面を押圧可能な押圧部材とを備えることを特徴とする掘削装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の掘削装置において、
前記掘削孔内に設置される固定枠を備え、
前記押圧部材は、前記固定枠を介して、前記掘削孔の内壁面を押圧可能に構成されていることを特徴とする掘削装置。
【請求項5】
請求項1に記載の掘削装置において、
前記移動装置は、前記掘削孔の周囲の地盤表面に取り付けられる架台と、この架台に対して、前記掘削孔の長手方向に沿って水平移動可能な基台とを備え、
前記スタビライザーは、前記基台に取り付けられるとともに、前記掘削孔に挿入される反力部材と、前記ケリーバーを軸支するとともに、前記反力部材を押圧する支持部材とを備えることを特徴とする掘削装置。
【請求項6】
鉛直方向を軸として回転するケリーバーと、このケリーバーの先端に取り付けられ、前記ケリーバーの回転に伴って回転するとともに、径方向に開閉自在なバケットと、前記ケリーバーを軸支するとともに、地盤に形成された長方形状の掘削孔の内部に設置され、かつ、前記掘削孔の内壁面を押圧して前記ケリーバーの位置を固定するスタビライザーと、前記ケリーバーの鉛直方向の姿勢を保持しつつ、前記掘削孔の長手方向に沿って水平移動可能な移動装置とを備える掘削装置を用いて、水平方向に連続した拡幅部を有する壁杭を施工する壁杭施工方法であって、
前記掘削孔に、閉じた状態の前記バケットを挿入する工程と、
前記掘削孔の内壁面を押圧して、前記スタビライザーの位置を固定する工程と、
前記バケットを開いた状態で前記ケリーバーを回転させることにより、前記掘削孔の内壁面に拡幅空間を形成する工程と、
前記拡幅空間を形成する工程を実施しながら、前記移動装置により前記ケリーバーを水平移動させて、水平方向に連続した拡幅空間を有する壁杭用掘削孔を形成する工程と、
この連続した拡幅空間を有する壁杭用掘削孔の中にコンクリートを打設して、連続した拡幅部を有する壁杭を形成する工程とを備えることを特徴とする壁杭施工方法。
【請求項7】
請求項6に記載の壁杭施工方法により施工された壁杭。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2006−45779(P2006−45779A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224141(P2004−224141)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】