説明

掘進機およびこれを用いた掘進装置

【課題】断面が長方形をした地中孔を掘削することのできる掘進機と、トンネル内での占有スペースが比較的小さく、トンネルシールド材への悪影響を最小限に抑制することのできる掘進装置と、を提供する。
【解決手段】掘進装置20は、トンネルTの底部付近に位置する壁面10に開設された発進坑口94から地山11に向かって、先端に掘進機を備えた推力伝達管が内挿された断面長方形の弧状短管を推進させ、地山11中に円弧状の地中梁12を形成する。トンネルT内の発進坑口94に臨む位置に配置された発進架台30は、発進坑口94から地山11に向かって推力伝達管を推進させる元押ジャッキ22と、地山11に向かって予め設定された曲率に沿って推力伝達管を推進させるガイドレールおよびガイドローラと、弧状短管を推力伝達管に対して一定姿勢に保つ保持手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に構築されたトンネルの拡幅工事あるいはトンネルの連結工事などにおいて使用される掘進機および掘進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のシールドトンネルあるいはNATM(New Austrian Tunneling Method)トンネルにおいて、トンネル途中の一部区間や上下単線トンネルの左右中間部の接続を行って車線数を増加させるなどのトンネル拡幅工事を行う場合、地山の崩落を防止するために、拡幅掘削工事に先行して地中梁(支保)を形成する必要がある。このようなトンネル拡幅工事に関しては、従来、様々な工法および装置が提案されているが、本願に関連するものとして、例えば、特許文献1記載の「シールド掘削孔の拡幅工法及びその装置」がある。
【0003】
特許文献1記載の拡幅工法は、シールド掘削孔内から、先端に可動シュウを備えた曲管と内管とを拡幅部分の周囲に向けて推進し、内管の先端部に取り付けられた掘削装置のビットを回転させるとともに、位置測定器で計測された推進位置情報に基づいて掘削装置を方向修正しながら掘進し、これと同時に、曲管を掘削孔に推進させて拡幅部分の周囲に埋設するものである。
【0004】
そして、埋設終了後は、曲管を残置した状態で内管を掘削装置とともに曲管から引き抜き、この曲管内に地盤改良用注入管を挿入して改良剤を注入することによって、拡幅部分の周囲の地盤を改良して拡幅作業が行われる。
【0005】
【特許文献1】特公平7−76507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の拡幅装置は、トンネル壁面における発進坑口と対向する部分に、内管フィード用シリンダおよび曲管フィード用シリンダの反力支持手段が設けられているため(特許文献1の図1参照)、占有スペースが広く、トンネル内の作業空間の狭隘化を招いている。
【0007】
また、特許文献1記載の拡幅工法において使用される曲管(円筒状ケーシング)および内管はいずれも断面が円形であるため、拡幅工事上必要な直径の円筒状ケーシングを採用しようとすると、図13(b)に示すように、トンネル壁面をシールドしているセグメント90の主桁91を切断して開設した円形の発進坑口に円筒状ケーシング93を挿入しなければならない。このため、トンネルシールド材の強度に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
そこで、図13(a)に示すように、セグメント90の主桁91等を切断する必要のない、断面が長方形をした発進坑口94から掘進し、断面が長方形の弧状短管52を挿入して地中梁を形成すれば、トンネルシールド材に対する悪影響を最小限に抑制することができる。しかしながら、特許文献1記載の発明において使用される掘進機(掘削装置)で形成される地中孔は断面が円形のものに限られているため、断面が長方形をした地中孔を掘削することは不可能である。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、断面が長方形をした地中孔を掘削することのできる掘進機と、トンネル内での占有スペースが比較的小さく、トンネルシールド材への悪影響を最小限に抑制することのできる掘進装置と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の掘進機は、
断面が長方形をした筒状ケーシングと、前記筒状ケーシング内に配置された油圧駆動モータと、前記油圧駆動モータで回転駆動された状態で前記筒状ケーシング内にその断面の長辺方向に並べて配置された二本の主軸と、前記筒状ケーシングが進入可能な地中坑を形成するため前記主軸で自転および公転するように駆動された状態で前記筒状ケーシングの正面に配置された複数のカッタビットと、を備え、
複数の前記カッタビットにより筒状ケーシングの長方形断面の隅角部まで掘削可能としたことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、断面が長方形のケーシングの正面に配置され、油圧駆動モータにより自転および公転駆動された複数のカッタビットで地山を掘削することが可能となるため、断面が長方形の地中孔を一面で同時に掘削することができる。また、油圧駆動モータおよび当該油圧駆動モータで回転駆動される上下二本の主軸は断面が長方形をしたケーシング内に配置されているため、比較的小型である。
【0012】
ここで、前記筒状ケーシング断面の短辺方向の長さをトンネル主桁等の配置間隔より小さくし、当該筒状ケーシングの断面係数を、前記筒状ケーシング断面の短辺方向の長さを直径とする円形断面を有する円筒状ケーシングより優位とすることが望ましい。このような構成とすれば、トンネル壁面をシールドしているセグメントの主桁を切断することなく発進坑口を開設して地山を掘進することが可能となるため、トンネルシールド材への悪影響を軽減することができる。
【0013】
また、前記主軸の回転によって駆動される遊星ギアで複数の前記カッタビットを駆動するようにすれば、複数のカッタビットを同時に自転および公転させることが可能となり、長方形断面の地中孔を全面掘削することができるため、比較的低い推進力と高い掘削精度を維持することができる。
【0014】
さらに、泥水注入口を有する注水経路を一方の前記主軸に設け、排泥口を有する排泥経路を他方の前記主軸内に設ければ、泥水注入口を有する注水経路、排泥口を有する排泥経路を筒状ケーシング内に別途設ける必要がなくなるため、駆動系部材や制御系部材などの配置に余裕が生じ、筒状ケーシング内の限られたスペースを有効活用することができる。
【0015】
一方、前記注水経路と連通する注水管と、前記排泥経路と連通する排泥管と、前記注水管と前記排泥管とを連通する副流管とを設け、前記注水管、前記排泥管および前記副流管にそれぞれ流量調整可能な開閉バルブを設けることもできる。このような構成とすれば、それぞれの開閉バルブの開度を調節することより、施工条件(水圧、地山の崩壊性、土粒子の構成など)に対応した適切な切羽圧力を保持することが可能となるため、掘進作業時の地山の崩壊を防止することができる。
【0016】
次に、本発明の掘進装置は、
前述した掘進機が内挿された断面長方形の弧状短管をトンネル壁面に開設された発進坑口から地山に向かって推進させ地山中に円弧状の地中梁を形成する掘進装置であって、
前記発進坑口から地山に向かって前記掘進機を推進させるため前記発進坑口に臨む位置に固定される引圧手段と、前記発進坑口から地山に向かって予め設定された曲率に沿って前記掘進機を推進させる誘導手段と、前記掘進機の後方に前記弧状短管を連結する挿入手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
このような構成とすれば、トンネル壁面における発進坑口と対向する部分のみに反力部材を設ける必要がなくなるため、トンネル内での掘進装置の占有スペースを小さくすることができる。また、引圧手段の反力に起因する荷重が、トンネル壁面の発進坑口と対向する部分のみに集中するのを回避することができるため、トンネルシールド材への悪影響を軽減することができる。さらに、トンネルシールド材のセグメントの主桁を切断する必要がなくなるように、弧状短管の断面形状を長方形としたことにより、既設のトンネルシールド材への悪影響を最小限に抑制することができる。
【0018】
この場合、前記引圧手段の推進力を前記掘進機に伝えるための推力伝達管を前記掘進機の後方に連結して前記弧状短管内に配置することが望ましい。このような構成とすれば、地山に残置される弧状短管(鋼管)に引圧手段の推進力が直接加わるのを回避することができるため、偏荷重による推進方向のズレやローリングの発生を防止することができる。また、過大荷重による弧状短管の変形や損傷も回避することができるため、高精度の地中梁を形成することができる。
【0019】
また、前記発進坑口に対する前記推力伝達管の推進角度を変更可能な角度調節手段を設ければ、掘進開始時は勿論、掘進作業中においても推力伝達管の推進角度を正確に調整、維持することが可能となるため、さらに高精度の地中梁を形成することができる。また、既に構築されたシールドトンネルの形状に的確に対応した推進角度に設定することができるため、汎用性も高まる。
【0020】
さらに、前記引圧手段を逆方向に用いて押圧手段とし、前記掘進機を前記発進坑口側に引き出し可能とすれば、掘進作業の完了後、発進坑口側に設置された引圧手段を逆方向に用い、押圧によって掘進機および推力伝達管などを発進坑口側に引き戻すことができるため、回収作業が容易となる。
【0021】
一方、前記引圧手段として、前記弧状短管の周囲に配置された複数のジャッキと、前記ジャッキのストロークをそれぞれ計測することで前記掘進機の位置、方向を確認可能な計測手段とを設けることもできる。このような構成とすれば、複数のジャッキのストロークをそれぞれの計測手段で計測することにより、弧状短管の推進方向を正確に把握することができ、さらに高精度の姿勢制御を行うことができるため、地中梁の精度向上に有効である。
【0022】
また、前記推力伝達管内をその長手方向に並行した二つの空間に区画し、一方の前記空間内に送泥管、排泥管、操作線および油圧ホースなどの掘進作業用の配管および配線を挿入し、他方の前記空間を当該推力伝達管の位置、方向を計測するための計測用空間とすることもできる。このような構成とすれば、推力伝達管内の二つの空間を有効利用することが可能となる。また、掘進作業完了後、発進坑口側から掘進機および推力伝達管などを引き戻す場合、送泥管、排泥管、操作線および油圧ホースをまとめて回収することができるため、回収作業も容易となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、断面が長方形をした地中孔を掘削することのできる掘進機と、トンネル内での占有スペースが比較的小さく、トンネルシールド材への悪影響を最小限に抑制することのできる掘進装置と、を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態である掘進装置を示す一部省略垂直断面図、図2は図1の一部拡大図、図3は図1に示す掘進装置を構成する推進架台の側面図、図4は図3に示す推進架台の平面図、図5は図3に示す推進架台の正面図、図6は図3に示す推進架台の背面図である。また、図7は図1に示す掘進装置を構成する掘進機、推力伝達管および弧状短管を示す垂直断面図、図8は図7に示す推力伝達管の背面図である。
【0025】
図1,図2,図7に示すように、掘進装置20は、トンネルTの底部付近に位置する壁面10に開設された発進坑口94から地山11に向かって、先端に掘進機50を備えた推力伝達管51および当該推力伝達管51が内挿された断面長方形の弧状短管52を推進させ、地山11中に円弧状の地中梁12を形成する装置である。掘進装置20においては、図3〜図6に示すような発進架台30が、トンネルT内の発進坑口94に臨む位置に配置されている。
【0026】
発進架台30は、発進坑口94から地山11に向かって推力伝達管51を推進させるための引圧手段である元押ジャッキ22と、発進坑口94から地山11に向かって予め設定された曲率Rに沿って推力伝達管51を推進させるための誘導手段であるガイドレール23およびガイドローラ24と、弧状短管52を推力伝達管51に対して一定姿勢に保つ保持手段であるサポートジャッキ25と、を備えている。図2に示すように、発進架台30の正面部は、発進坑口94の周囲のトンネル壁面10に、反力支持部21を介して係止され、発進架台30の背面部とトンネルTの壁面10との間には支持体29が配置されている。
【0027】
発進架台30は、トンネルTの壁面10に固定される基礎フレーム31と、基礎フレーム31の正面寄りの部分に設けられた水平支軸32に傾動可能に取り付けられた四角枠形状の保持フレーム33と、保持フレーム33の傾斜角度を変更するため基礎フレーム31と保持フレーム33とを連結する角度調節ネジ34と、を備えている。保持フレーム33の正面側には、弧状短管52の角隅部を着脱可能に把持する複数の外管把持ジャッキ35が配置され、保持フレーム33の内周には、弧状短管52の四つの外周面を滑動させるための複数のガイドローラ36が設けられている。
【0028】
元押ジャッキ22の先端部22aは保持フレーム33の背面側に軸支され、作動部22bは推力伝達管51を押圧するための内管押具27に連結されている。保持フレーム33の背面側には、推力伝達管51を着脱可能に把持するための複数のグリップジャッキ26が設けられ、サポートジャッキ25の先端部分には、弧状短管52を押圧するための外管押具28が設けられている。元押ジャッキ22が伸縮すると作動部22bがガイドローラ24に沿って往復移動し、これによって内管押具27、外管押具28およびサポートジャッキ25などが連動して移動する。ガイドレール23の後端部に螺合された調節ネジ37を回動させることにより、ガイドレール23の傾斜角度を変更することができる。
【0029】
また、推力伝達管51および弧状短管52の周囲に配置された複数の元押ジャッキ22には、それぞれのストロークを計測する計測手段(図示せず)が設けられている。従って、複数の元押ジャッキ22のストロークをそれぞれの計測手段で計測することにより、弧状短管52の推進方向を正確に把握することができ、高精度の姿勢制御を行うことができる。
【0030】
一方、図7に示すように、弧状短管52に内挿された推力伝達管51の先端に配置された掘進機50は、断面長方形の筒状ケーシング53内に配置された油圧駆動モータ54と、油圧駆動モータ54で回転駆動される上下二本の主軸55a,55bと、主軸55a,55bによってそれぞれ自転および公転駆動される複数のカッタビット56と、を備えている。主軸55aの先端部に泥水注入口を有する注水経路55axが主軸55a内に設けられ、主軸55bの先端部に排泥口を有する排泥経路55byが主軸55b内に設けられている。
【0031】
また、掘進機50の背面側の筒状ケーシング53内には、注水経路55axと連通する注水管60と、排泥経路55byと連通する排泥管61とが設けられ、注水管60および排泥管61にはそれぞれ流量調整可能な開閉バルブ60b,61bが設けられている。さらに、開閉バルブ60bの上流側に位置する注水管60と、開閉バルブ61bの下流側に位置する排泥管61とを連通する副流管62が設けられ、副流管62の途中に開閉バルブ62bが設けられている。開閉バルブ60b,61b,62bはエア圧で作動するゴムバルブを使用しているがこれに限定するものではない。
【0032】
図8に示すように、推力伝達管51は上下二本の円筒体51a,51bによって形成され、平行配置された円筒体51a,51bの両端部に長方形のフランジ51fが固着されている。隣接する推力伝達管51のフランジ51f同士をネジNで固定することにより、推力伝達管51を連結することができる。また、図7に示すように、推力伝達管51の外周には橇状をした複数のスライド部材51cが取り付けられている。これらのスライド部材51cは、推力伝達管51の外周面と弧状短管52の内周面との距離を一定に保持するとともに、弧状短管52の内周面に沿って推力伝達管51をスライドさせる際の滑動性を高めるための部材である。
【0033】
ここで、図9は図7に示す掘進機の正面図、図10は図7のA−A線における一部省略断面図、図11は図7のB−B線における一部省略断面図、図12は図7のC−C線における一部省略断面図である。
【0034】
図9に示すように、掘進機50の正面には、主軸55a,55bによって回転駆動されるカッタビット56がそれぞれ3個ずつ配置されている。複数のカッタビット56は、図10に示すように、主軸55a,55bでそれぞれ駆動される遊星ギア57によって回転駆動されている。従って、各カッタビット56はそれぞれの支軸56aを中心に回転(自転)しながら、主軸55a,55bの周りを回転(公転)する。また、図10に示すように、抜け検出センサ58が設けられている。
【0035】
また、図11に示すように、主軸55a,55bはそれぞれ、油圧駆動モータ54(図7参照)で回転するギア54aと歯合する二つのギア55ag,55bgによって回転駆動されている。さらに、図12に示すように、主軸55a,55bの背面側に油圧駆動モータ54が配置され、リターン位置検知センサ59が設けられている。
【0036】
次に、図13〜図20に基づいて、掘進装置20および掘進機50を用いた掘進工事の作業手順について説明する。図13は発進坑口付近のシールドトンネル壁面を示す図、図14〜図19は掘進架台の動作状態を示す図、図20は掘進作業終了直後の状態を示す垂直断面図である。
【0037】
図13(a)に示すように、トンネル壁面をシールドしているセグメント90の主桁91の間に長方形の発進坑口94を開設し、この発進坑口94に臨む位置に、図1,図2に示す掘進装置20を配置する。このとき、掘進装置20を構成する発進架台30の基礎フレーム31がセグメント90の一部に固定される。
【0038】
図14に示すように、先端に掘進機50を備えた推力伝達管51が内挿された弧状短管52を外管把持ジャッキ35で把持した後、図15に示すように、サポートジャッキ25を収縮させ、グリップジャッキ26で推力伝達管51を一定姿勢に保持する。そして、内管押具27と推力伝達管51とを固定するボルト(図示せず)を外す。
【0039】
次に、図16に示すように、元押ジャッキ22を伸展させ、新たな推力伝達管51をセットし、推力伝達管51と内管押具27とをボルト(図示せず)で固定する。このとき、弧状短管52は推力伝達管51のみによって支えられている。
【0040】
次に、図17に示すように、元押ジャッキ22を収縮させ、先行する推力伝達管51の基端部に新たな推力伝達管51の先端部を当接させた後、両者をボルト(図示せず)で固定する。そして、グリップジャッキ26を収縮させて、先行する推力伝達管51に対する把持力を開放する。
【0041】
次に、図18に示すように、サポートジャッキ25を伸展させ、先行する弧状短管52の基端部に新たな弧状短管52の先端部を当接させ、両者を仮付け溶接する。この後、外管把持ジャッキ35を収縮させて、先行する弧状短管52に対する把持力を開放する。
【0042】
次に、図19に示すように、元押ジャッキ22を収縮させて新たな推力伝達管51を地山に向かって推進させ、先行する弧状短管52と新たな弧状短管52との継ぎ目Sを保持フレーム33の正面側に露出させる。そして、継ぎ目Sに本溶接を施して両者を完全に溶着する。
【0043】
このような作業を反復すると、やがて図20に示すように、トンネルの壁面10の掘進終了口95に掘進機50が到達し、掘進作業が終了する。この後、元押ジャッキ22を押圧側に用いて、発進坑口94側から、順次、掘進機50および推力伝達管51を引き出せば、地山中に残置された複数の弧状短管52の連結体により円弧状の地中梁12が形成される。なお、前述した掘進作業中、図21に示すように、推力伝達管51内にジャイロコンパス80を配置しておけば、より正確な姿勢制御を行うことができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の掘進機50においては、断面が長方形の筒状ケーシング53の正面に配置され、油圧駆動モータ54で自転および公転駆動された複数のカッタビット56により、地山11に対し、断面が長方形の地中孔を隅角部まで一面で同時に掘削することができる。また、油圧駆動モータ54および当該油圧駆動モータ54で回転駆動される上下二本の主軸55a,55bは断面が長方形をした筒状ケーシング53内に配置されているため、比較的小型である。さらに、複数の主軸55a,55bによって駆動される複数の遊星ギア57で複数のカッタビット56を同時に自転および公転させることができるため、高い掘削効率が得られる。
【0045】
また、図13(a)に示すように、トンネルTの壁面10をシールドしているセグメントの主桁91等を切断することなく発進坑口94を開設して地山11を掘進することができるため、トンネルシールド材への悪影響を軽減することができる。
【0046】
また、注水経路55axが主軸55a内に設けられ、排泥経路55byが主軸55b内に設けられているため、注水経路および排泥経路を筒状ケーシング53内に別途設ける必要がなく、駆動系部材や制御系部材などの配置に余裕があり、筒状ケーシング53内の限られたスペースを有効活用することができる。
【0047】
一方、図7に示す開閉バルブ60b,61b,62bの開度を調節することより、施工条件(水圧、地山の崩壊性、土粒子の構成など)に対応した適切な切羽圧力を保持することができるため、掘進作業時の地山11の崩壊を防止することができる。
【0048】
また、本実施形態の掘進装置20を構成する発進架台30は、図2に示すように、反力支持部21と支持体29によって発進坑口94に臨む位置に固定されているため、トンネルTの壁面10における発進坑口94と対向する部分のみに反力部材を設ける必要がなく、トンネルT内での掘進装置20の占有スペースを小さくすることができる。また、引圧手段である元押ジャッキ22の反力に起因する荷重が、トンネルTの壁面10の発進坑口94と対向する部分のみに集中するのを回避することができるため、トンネルシールド材への悪影響を軽減することができる。
【0049】
さらに、弧状短管52の断面形状を長方形としたことにより、拡幅工事上必要な内径を有する弧状短管52を採用した場合でも、図13(a)に示すように、トンネルシールド材のセグメント90の主桁91等を切断する必要がなくなるため、トンネルシールド材への悪影響を最小限に抑制することができる。また、弧状短管52の断面の短辺方向の長さを主桁91の配置間隔より小さくすることにより、当該弧状短管52の断面係数を、弧状短管52断面の短辺方向の長さを直径とする円形断面を有する円筒状ケーシング96(図13(b)参照)より優位とすることができる。なお、円筒状ケーシングの断面係数を当該弧状短管52と同程度にしようとすれば、図13(b)に示す円筒状ケーシング93のように、セグメント90の主桁91等の切断が必要な直径となるため、トンネルシールド材へ悪影響を及ぼすこととなる。
【0050】
また、元押ジャッキ22の推進力を掘進機50に伝達するための推力伝達管51を掘進機50の背面側に連結して弧状短管52内に配置しているため、地山11に残置される弧状短管52に元押ジャッキ22の推進力が直接加わるのを回避することができる。このため、偏荷重による推進方向のズレやローリングの発生を防止することができる。また、過大荷重による弧状短管52の変形や損傷も回避することができるため、高精度の地中梁12を形成することができる。
【0051】
また、図3に示すように、発進架台30には、角度調節ネジ34および調節ネジ37が設けられているため、掘進開始時は勿論、掘進作業中においても推力伝達管51の推進角度を正確に調整、維持することができる。このため、高精度の地中梁12を形成することができる。また、既に構築されたシールドトンネルの形状に的確に対応した推進角度に設定することができるため、汎用性も良好である。
【0052】
さらに、発進架台30に設けられた元押ジャッキ22を押圧側に用いて推力伝達管51とともに掘進機50を発進坑口94側へ引き出すことができるため、掘進作業が完了した後、発進坑口94側に別の引圧手段を設けることなく、掘進機50および推力伝達管51などを発進坑口94側に引き戻すことができるため、回収作業も容易である。
【0053】
一方、図21は図7のD−D線における一部省略断面図であるが、同図に示すように、推力伝達管51は上下二本の円筒体51a,51bで形成されているため、二つの円筒体51a,51bの内部空間を有効利用することができる。例えば、本実施形態では、円筒体51a内にジャイロコンパス80を配置しているが、推進方向を計測する走行式の計測機(図示せず)を配置することもできる。また、円筒体51b内には、注水管60および排泥管61のほか、カッタ駆動用油圧ホース40,47、開閉バルブ用ホース41、ジェット用ホース42、油圧ドレンホース43、土圧センサ用送泥ホース44、カメラ線45、センサ線46が配置されている。
【0054】
従って、前述したように、掘進作業完了後、発進坑口94側へ掘進機50および推力伝達管51などを引き戻す場合、注水管60および排泥管61のほか、操作線(カメラ線45、センサ線46、)や油圧ホース(カッタ駆動用油圧ホース40、開閉バルブ用ホース41、ジェット用ホース42、油圧ドレンホース43、土圧センサ用送泥ホース44、カッタ駆動用油圧ホース47)をまとめて回収することができ、回収作業が容易である。
【0055】
次に、図22に基づいて、掘進機に関するその他の実施の形態について説明する。図22はその他の実施の形態である掘進機を示す垂直断面図である。なお、図22において図7に示す符号と同符号を付している部分は図7に示す掘進機50の構成部分と同じ構造、機能を有する部分であり、説明を省略する。
【0056】
図22に示すように、掘進機70は、断面長方形の二つの筒状ケーシング53a,53bを備え、掘進方向の前方に配置された筒状ケーシング53aと、後方に配置された筒状ケーシング53bとの間に複数のジャッキ71が配置されている。これらのジャッキ71は筒状ケーシング53a,53bの四隅部分に配置され、それぞれ独立して筒状ケーシング53a,53bの軸方向に伸縮可能である。また、筒状ケーシング53aの後端部に対向する筒状ケーシング53bの前端部に隔壁72が設けられている。
【0057】
掘進機70においては、複数のジャッキ71をそれぞれ伸縮させることにより、筒状ケーシング53aの前端部を上下左右に傾動させることができるため、掘進方向を細かく修正することができる。このため、掘進作業中においても掘進機70の掘進方向を正確に調整、維持することができ、高精度の地中梁12(図1参照)を形成する上で有効である。その他の部分の機能は図7に示す掘進機50と同様である。
【0058】
次に、図23〜図27に基づいて、本発明の実施の形態である掘進装置を用いたトンネル連結工事について説明する。図23は本発明の実施の形態である掘進装置を用いたトンネル連結工事の概略を示す模式図、図24は図23に示すトンネル連結工事の施工現場を示す模式図、図25〜図27は図23に示すトンネル連結工事の施工状態を示す模式図である。
【0059】
図23に示すように、並列して存在する二つのトンネルT1,T2のうちの一方のトンネルT2内の天井部側に掘進装置20および発進架台30を設置し、前述と同様の作業工程に従い、トンネルT2の壁面10bの天井部からトンネルT1の天井部に向かって掘進することにより地中梁12aを形成する。次に、トンネルT1の底部側に掘進装置20および発進架台30を設置し、トンネルT2の壁面10bの底部からトンネルT1の底部に向かって掘進することにより地中梁12bを形成する。そして、地中梁12a,12bの間におけるトンネルT1,T2の対向部分を除去して対向領域にある地山11(図24参照)を掘削し、底部補強構造73および天井部補強構造74を構築することにより、トンネルT1,T2を連結することができる。
【0060】
以下、図24〜図27に基づいて、トンネルT1,T2の連結工事の作業工程について説明する。図24に示すように、二つのトンネルT1,T2の連結工事を施工する場合、図25に示すように、トンネルT2内に形成された支持体75上に掘進装置20および発進架台30を設置する。そして、トンネルT2の壁面10bの天井部からトンネルT1の壁面10aの天井部に向かって掘進することにより地中梁12aを形成する。この後、トンネルT1の底部側に形成された支持体(図示せず)上に掘進装置20および発進架台30を設置し、トンネルT2の壁面10bの底部からトンネルT1の壁面10aの底部に向かって掘進することにより地中梁12bを形成する。
【0061】
次に、図26に示すように、トンネルT1,T2内にそれぞれ支持部材76,77を立設し、地中梁12a,12bの間におけるトンネルT1,T2の対向部分を除去して対向領域にある地山11を掘削する。そして、図27に示すように、底部補強構造73および天井部補強構造74を構築した後、支持部材76,77を撤収すれば、トンネルT1,T2の連結工事が完了する。このように掘進装置20は、並列して存在する二つのトンネルT1,T2の連結工事を施工することもできるため、汎用性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかる掘進機および掘進装置は、地中に構築されたトンネルの拡幅工事あるいはトンネルの連結工事などにおいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態である掘進装置を示す一部省略垂直断面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1に示す掘進装置を構成する推進架台の側面図である。
【図4】図3に示す推進架台の平面図である。
【図5】図3に示す推進架台の正面図である。
【図6】図3に示す推進架台の背面図である。
【図7】図1に示す掘進装置を構成する掘進機、推力伝達管および弧状短管を示す垂直断面図である。
【図8】図7に示す推力伝達管の背面図である。
【図9】図7に示す掘進機の正面図である。
【図10】図7のA−A線における一部省略断面図である。
【図11】図7のB−B線における一部省略断面図である。
【図12】図7のC−C線における一部省略断面図である。
【図13】発進坑口付近のシールドトンネル壁面を示す図である。
【図14】掘進架台の動作状態を示す図である。
【図15】掘進架台の動作状態を示す図である。
【図16】掘進架台の動作状態を示す図である。
【図17】掘進架台の動作状態を示す図である。
【図18】掘進架台の動作状態を示す図である。
【図19】掘進架台の動作状態を示す図である。
【図20】掘進作業終了直後の状態を示す垂直断面図である。
【図21】図7のD−D線における一部省略断面図である。
【図22】その他の実施の形態である掘進機を示す垂直断面図である。
【図23】本発明の実施の形態である掘進装置を用いたトンネル連結工事の概略を示す模式図である。
【図24】図23に示すトンネル連結工事の施工現場を示す模式図である。
【図25】図23に示すトンネル連結工事の施工状態を示す模式図である。
【図26】図23に示すトンネル連結工事の施工状態を示す模式図である。
【図27】図23に示すトンネル連結工事の施工状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
10,10a,10b 壁面
11 地山
12,12a,12b 地中梁
20 掘進装置
21 反力支持部
22 元押ジャッキ
22a 先端部
22b 作動部
23 ガイドレール
24,36 ガイドローラ
25 サポートジャッキ
26 グリップジャッキ
27 内管押具
28 外管押具
29,75 支持体
30 発進架台
31 基礎フレーム
32 水平支軸
33 保持フレーム
34 角度調節ネジ
35 外管把持ジャッキ
37 調節ネジ
40 カッタ駆動用油圧ホース
41 開閉バルブ用ホース
42 ジェット用ホース
43 油圧ドレンホース
44 土圧センサ用送泥ホース
45 カメラ線
46 センサ線
47 カッタ駆動用油圧ホース
50,70 掘進機
51 推力伝達管
51a,51b 円筒体
51c スライド部材
51f フランジ
52 弧状短管
53,53a,53b 筒状ケーシング
54 油圧駆動モータ
55a,55b 主軸
55ax 注水経路
55by 排泥経路
56 カッタビット
60 注水管
61 排泥管
62 副流管
60b,61b,62b 開閉バルブ
71 ジャッキ
72 隔壁
73 底部補強構造
74 天井部補強構造
76,77 支持部材
80 ジャイロコンパス
T,T1,T2 トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が長方形をした筒状ケーシングと、前記筒状ケーシング内に配置された油圧駆動モータと、前記油圧駆動モータで回転駆動された状態で前記筒状ケーシング内にその断面の長辺方向に並べて配置された二本の主軸と、前記筒状ケーシングが進入可能な地中坑を形成するため前記主軸で自転および公転するように駆動された状態で前記筒状ケーシングの正面に配置された複数のカッタビットと、を備え、
複数の前記カッタビットにより前記筒状ケーシングの長方形断面の隅角部まで掘削可能としたことを特徴とする掘進機。
【請求項2】
前記筒状ケーシング断面の短辺方向の長さをトンネル主桁等の配置間隔より小さくし、当該筒状ケーシングの断面係数を、前記筒状ケーシング断面の短辺方向の長さを直径とする円形断面を有する円筒状ケーシングより優位とすることを特徴とする請求項1記載の掘進機。
【請求項3】
前記主軸の回転によって駆動される遊星ギアで複数の前記カッタビットを駆動することを特徴とする請求項1または2記載の掘進機。
【請求項4】
泥水注入口を有する注水経路を一方の前記主軸内に設け、排泥口を有する排泥経路を他方の前記主軸内に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の掘進機。
【請求項5】
前記注水経路と連通する注水管と、前記排泥経路と連通する排泥管と、前記注水管と前記排泥管とを連通する副流管とを設け、前記注水管、前記排泥管および前記副流管にそれぞれ流量調整可能な開閉バルブを設けたことを特徴とする請求項4記載の掘進機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の掘進機が内挿された断面長方形の弧状短管をトンネル壁面に開設された発進坑口から地山に向かって推進させ地山中に円弧状の地中梁を形成する掘進装置であって、
前記発進坑口から地山に向かって前記掘進機を推進させるため前記発進坑口に臨む位置に固定される引圧手段と、前記発進坑口から地山に向かって予め設定された曲率に沿って前記掘進機を推進させる誘導手段と、前記掘進機の後方に前記弧状短管を連結する挿入手段と、を備えたことを特徴とする掘進装置。
【請求項7】
前記引圧手段の推進力を前記掘進機に伝えるための推力伝達管を前記掘進機の後方に連結して前記弧状短管内に配置することを特徴とする請求項6記載の掘進装置。
【請求項8】
前記発進坑口に対する前記推力伝達管の推進角度を変更可能な角度調節手段を設けたことを特徴とする請求項7記載の掘進装置。
【請求項9】
前記引圧手段を逆方向に用いて押圧手段とし、前記掘進機を前記発進坑口側に引き出し可能としたことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の掘進装置。
【請求項10】
前記引圧手段として、前記弧状短管の周囲に配置された複数のジャッキと、前記ジャッキのストロークをそれぞれ計測することで前記掘進機の位置、方向を確認可能な計測手段とを設けたこと特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の掘進装置。
【請求項11】
前記推力伝達管内をその長手方向に並行した二つの空間に区画し、一方の前記空間内に送泥管、排泥管、操作線および油圧ホースなどの掘進作業用の配管および配線を挿入し、他方の前記空間を当該推力伝達管の位置、方向を計測するための計測用空間とした請求項7〜10のいずれかに記載の掘進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2008−121356(P2008−121356A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308480(P2006−308480)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(599111965)株式会社アルファシビルエンジニアリング (32)
【Fターム(参考)】