説明

掘進機

【課題】 推進工法による掘進途中で障害物に遭遇した際、その撤去作業のためにカッター及び駆動部を一体で一時的に推進管内へ引き戻し、再度元の位置へ据え付けを可能とする掘進機において、従来技術のコピーカッター方式での掘進中の油圧回路の油漏れや衝撃による油圧シリンダーの変形等による引き戻し機能の不安を確実に解消し、掘削・攪拌・混合を均一に行わせて掘進速度を向上できるようにする。
【解決手段】 複数のカッター5は自転軸5aから複数方向に伸びる片の先端にビット5bを取り付けた構造とし、その自転公転時に対称の向きとなる位置位相において各カッター5を推進管7の内径より内側となる寸法及び形状に形成し、各カッター5の自転軸5aの中心からビット5bの先端までの長さを掘進機外殻2の外側まで余掘りできる長さに形成し、駆動装置4の外径を推進管7の内径より小径に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法による掘進途中で障害物に遭遇した際、地表より立坑を設置することなく、掘進機内よりその撤去作業のためにカッター及び駆動部を一体で一時的に推進管内へ引き戻し、再度元の位置へ据え付けを可能とする掘進機に関する。
【背景技術】
【0002】
推進工法やシールド工法は、都市トンネルの非開削技術として数多くの実績を有している。特に、管路埋設工事に関しては都市部では地上の占用が難しく、近接建造物や地中埋設管の輻輳化により開削工法が不可能と考えられ、非開削技術が非常に有効な施工技術である。そのためには、既設インフラの位置確認やその調査が重要であるが、過去の工事による完成書類の不備や施工条件及びその箇所の変更(埋設位置や高さ)を示した変更書類の管理がおろそかとなり、これらの不備が掘進開始後の試験掘削で発見される場合や、発見されないまま掘進が継続されて掘進途中での既設インフラとの接触で事故やトラブルが発生する場合もある。
【0003】
そのような地中におけるトラブルが発生した場合の対策としては、以下のような手段が講じられる。
a)現在掘進中の掘進機を停止させ、とりあえず掘進機を回収する立坑をその場に設置し、掘進機を回収して工事を中止する(路上・地表面からの処理)。
b)支障物件となる既設埋設物を切り回し、接触する既設埋設物を立坑設置か、掘進機のカッターで無理矢理破砕し、撤去した後に掘進を再開する(路上・地表面からの処理)。
c)下水道等の自然流下方式では一定勾配であるために不可能であるが、インフラの目的が水道・電力・通信、その他勾配に関係がない都市トンネルの場合は、掘進機をある程度後方へ引き戻し、平面曲線や縦断曲線を伴って既設埋設物の左右もしくは上方や下方に迂回して掘進を続ける。この場合、引き戻す箇所の空隙充填工や地盤改良工が必要となり、地盤を陥没させないために様々な補助工法が活用される(路上及び掘進機内の双方からの対策工が必要)。
【0004】
また、新しい施工法としては、掘進機の前方の地山を自立させる手段(切羽限定圧気工法、薬液注入工法等)を機内から施し、地山の自立を確保して地下水の侵入を防止し、掘進機外殻をそのまま残置し、駆動部やカッターを一体のまま後方へ引き戻し、掘進機外殻内から前方の切羽を開放して人力にて障害物を物理的・機械的に撤去し、その後、駆動部やカッターを掘進機外殻内に再挿入して掘進を再開させる掘進機構造や手順が考えられる。
【0005】
この施工法に対する現状の技術としては、DAPPI工法やバルクヘッド(隔壁)の一部の点検窓を開放する施工法が存在するが、機械的な仕様から比較的小規模の掘削トンネルには活用が難しい。特に、バルクヘッドの開放方式では、駆動ギヤと隔壁が一体となっている掘進機が一般的であるため、ギヤやモーターが縮小化され、掘進時の掘削能力の低下や掘進機が強度不足となりやすい。また、一般的な掘進機は余掘り(オーバーカット)するためにカッター部が掘進機外殻の外側まで達する長さに製作されているから、カッター部を掘進機の内部へ引き戻す際にカッターを縮めない限り掘進機外殻と干渉して引き戻しが困難である。
【0006】
その対策として、十字状のカッター部のスポークに油圧シリンダーを挿入して伸縮自在にしたコピーカッター方式(例えば特許文献1参照)があるが、掘進中の油圧回路の油漏れや衝撃による油圧シリンダーの変形等が発生しやすく、伸縮寸法も限度があるのが実状である。また、コピーカッター方式は外周と内周の周速度が異なるから、掘削・攪拌・混合が不均一となり、流動化された土砂の形成が遅れて掘進速度が低下する場合がある。このように、推進工法における途中での掘進機前面の切羽の開放は、地盤改良効果の是非によっては安全性の確保に問題を残し、事故が発生する可能性が高く、設計管路を計画通り地中に埋設することは困難が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−208550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、前記コピーカッター方式での掘進中の油圧回路の油漏れや衝撃による油圧シリンダーの変形等による引き戻し機能の不安を確実に解消し、掘削・攪拌・混合を均一に行わせて掘進速度を向上できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) 掘進機外殻の前方に地山を掘削する複数のカッターを設け、その各カッターを駆動する掘進機外殻内に設けた駆動装置を掘進機外殻に対して脱着可能に取り付け、掘進機外殻の後端に一定の厚みを有するコンクリート製の推進管を複数接続して最後尾を元押しし、駆動装置でカッターを回転させて地山を掘削しながら推進管を地中に埋入して管路を構築する掘進機において、前記各カッターを駆動装置の前面に備えた回転盤の偏心位置に軸支して自転公転可能にし、その各カッターは自転軸から複数方向に伸びる片の先端にビットを取り付けた構造で、その各カッターが自転公転時に対称の向きとなる位置位相において各カッターを推進管の内径より内側となる寸法及び形状に形成し、且つ各カッターの自転軸中心からビット先端までの長さを掘進機外殻の外側まで余掘りできる長さに形成し、さらに駆動装置の外径を推進管の内径より小径に形成したことを特徴とする、掘進機
2) カッターが、自転軸から左右に伸びる左右片と自転軸から下方に伸びる下片を備えた略T字形状で、その自転軸の中心から各ビットの先端までの距離がそれぞれ同じである、前記1)記載の掘進機
3) カッターの自転軸の中心位置が、余掘り径と掘進機の中心との間の中間よりやや外側である、前記1)又は2)記載の掘進機
4) 掘進機外殻の内面に推進管の内径より縮径した胴管を取り付け、その胴管内に駆動装置を移動可能に挿入した、前記1)〜3)いずれか記載の掘進機
にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の前記1)〜3)記載の構成によれば、掘進時はカッターの自転公転で掘進機外殻の外側まで地山を余掘りし、テールボイド層を形成することで推進時の地山との摩擦抵抗を低減する。障害物の撤去等でカッターや駆動部を一時的に引き戻す際は、各カッターの下片同士が近接した対称の向きとなる位置位相で駆動装置を停止させることで、各カッターが推進管のコンクリートの内面より内側に格納された状態となり、推進管のコンクリートと接触することなくカッターや駆動部を一体のまま推進管内を通じて後方へ引き戻すことができる。
【0011】
このように、カッターの動作は自転公転のみで伸縮等の動作は無いから、従来技術のコピーカッター方式のように掘進時の油圧回路の油漏れや衝撃による油圧シリンダーの変形等がなく、安定した掘進を長期に渡って継続できる。また、カッターの自転公転により地山が一定の周速度で均一に掘削されるから、従来技術のコピーカッター方式と比較して大きなトルク機能を有することが可能となり、掘削・攪拌・混合の効果が高く、掘進速度を向上できる。
【0012】
また、本発明の前記4)記載の構成によれば、駆動装置の掘進機外殻内での移動は内側に設置した胴管によってガイドされるから、掘進機外殻内から推進管内まで円滑に引き戻すことができる。また、再挿入時も駆動装置は推進管内から掘進機外殻内へ円滑に移動でき、さらに隔壁の開口部にズレなく容易に再据え付けできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の掘進機の縦断面図である。
【図2】実施例のカッターを格納した掘進機の正面図である。
【図3】実施例の他の例のカッターを格納した掘進機の正面図である。
【図4】実施例のカッターによる余掘りを示す掘進機の正面図である。
【図5】実施例のカッターの自転公転を示す説明図である。
【図6】実施例のカッターの回転軌跡を示す説明図である。
【図7】実施例のカッターの引き戻しを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を実施例と図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例】
【0015】
図1は実施例の掘進機の縦断面図、図2は実施例のカッターを格納した掘進機の正面図、図3は実施例の他の例のカッターを格納した掘進機の正面図、図4は実施例のカッターによる余掘りを示す掘進機の正面図、図5は実施例のカッターの自転公転を示す説明図、図6は実施例のカッターの回転軌跡を示す説明図、図7は実施例のカッターの引き戻しを示す説明図である。
【0016】
図中、1は掘進機、2は掘進機外殻、2aは隔壁、2bは胴管、2cはシール材、3は方向修正ジャッキ、4は駆動装置、4aは回転盤、5はカッター、5aは自転軸、5bはビット、6は排土装置、6aは排土口、7は推進管である。
【0017】
図1に示すように、掘進機外殻2は断面円形で、分割した前後の内面に方向修正ジャッキ3を取り付けて方向修正を可能にし、その掘進機外殻2の隔壁2aの開口部に対して駆動装置4をボルト(図示せず)で内側から脱着可能に取り付けている。駆動装置4は前面に回転盤4aを有し、その回転盤4aの偏心位置に2体のカッター5を対向して軸支し、駆動装置4で回転盤4aと各カッター5を駆動すると、各カッター5が時計回りに自転公転するようになっている。
【0018】
回転盤4aの中央部は排土口6aを開口し、その排土口6aに排土装置6を取り付けて駆動装置4を貫通している。この排土装置6と駆動装置4と各カッター5は一体化している。掘進機外殻2の内面に推進管7の内径より少し縮径した胴管2bを取り付け、その内面に土砂を遮断するシール材2cを複数設置し、その胴管2b内に駆動装置4を移動可能に挿入して隔壁2aの開口部に脱着可能に取り付けている。この胴管2bは、推進管7内への駆動装置4の引き戻し及び掘進機外殻2内への再挿入を円滑にするガイドとなるものである。駆動装置4の外径は推進管7の内径よりやや小径に形成している。推進管7は一定の厚みを有する鉄筋コンクリート製である。
【0019】
カッター5は、自転軸5aから左右に伸びる左右片と自転軸5aから下方に伸びる下片の先端にビット5bを取り付け、左右片の外端を緩やかな山形に起伏させた略T字形状である。例えば、φ1000mm呼び径の推進管7を埋設する場合、図2に示すように、各カッター5の下片同士が近接した対称の向きとなる位置位相において、回転盤4aの中心から前記起伏の先端までの長さL及び左右端までの長さLを475mmに形成し、自転軸5aの中心から各ビット5bの先端までの長さaをそれぞれ同じ長さに形成している。推進管7の内側半径rは500mmである。これにより、この位置位相で各カッター5を停止させると、推進管7の内面より内側に格納されるようになっている。図3に示すカッター5は実施例の他の例で、左右の下片が斜めに伸びる異形となっている点が異なるのみで、左右片の外端の起伏や回転盤4aの中心から前記起伏の先端までの長さL及び左右端までの長さL、自転軸5aの中心から各ビット5bの先端までの長さは実施例のカッター5と同じである。
【0020】
また、図4に示すように、カッター5の左右のビット5bの先端間の長さLを640mmに形成し、自転軸5aの中心から下片のビット5bの先端までの長さLを320mmに形成し、自転軸5aの中心位置(公転半径)を余掘りのラインと掘進機1の中心との間の中間より10mmほど外側にしている。掘進機外殻2の外側半径Rは600mmである。これにより、各カッター5が自転公転すると、先端のビット5bが掘進機外殻2の外側まで達して余掘りするようになっている。以上のように、どのような管呼び径寸法であっても、その内径以下にカッター5が停止、収納できる構造となっている。
【0021】
本実施例では、掘進機外殻2の後端に推進管7を複数接続し、その推進管列の最後尾を元押しして地中を掘進しながら管路を構築する。各カッター5は、図5,6に示すように自転公転しながら地山を掘進機外殻2の外側まで掘削し、掘削された土砂は排土口6aから取り込まれて排土装置6で後方へ搬送される。この余掘り(テールボイド層)により推進時の地山との摩擦抵抗を低減する。また、自転公転により地山が一定の周速度で均一に掘削され、従来技術のコピーカッター方式によりカッターを縮径する方法と比較して掘削・攪拌・混合の効果が高くなり、掘進速度を向上できる。
【0022】
なお、図6に示す回転軌跡は一例であって、カッター5の自転公転比により回転軌跡の形状は変化する。例えば、公転1回転に対して自転4回転の場合、自転回転数(4回転)×ビット5bの個数(3個)×カッター5の軸数(2軸)=24箇所余掘りすることになる(90°面で6箇所)。よって、自転公転比を大きくする(自転速度を速くするか又は公転速度を遅くする)ほど公転1回転当りの掘削箇所の数が増加し、より円形に近い形状に余掘りできる。硬質地盤では自転速度が速いと掘削され難いため、公転速度を遅くする。
【0023】
ここで、掘進中に障害物が発見された場合、図2,3に示すように、各カッター5の下片同士が近接した対称の向きとなる位置位相でカッター5及び駆動装置4を停止する。そして、掘進機1の前方の地山に対して切羽限定圧気工法や薬液注入工法等を機内から施し、地山の自立を確保して地下水の侵入を防止する。なお、駆動装置4は、カッター5が自動的に前記の位置位相で停止するように制御できるものが望ましい。
【0024】
この状態で方向修正ジャッキ3及び推進管7の内径以下に存在する装置や備品を全て先に取り外し、続いて駆動装置4とカッター5と排土装置6を掘進機外殻2から取り外して後方へ引き戻し、掘進機外殻2を地中に残置する(図7参照)。このとき、カッター5は推進管7のコンクリートの内面より内側に格納された状態で且つ駆動装置4の外径が推進管7の内径より小径であるから、推進管7のコンクリートと接触することなく一体のまま後方へ引き戻すことができる。しかも、駆動装置4の掘進機外殻2内での移動は胴管2bによってガイドされ、推進管7内まで円滑に引き戻すことができる。
【0025】
その後、前方の切羽を開放して障害物を物理的・機械的に撤去し、引き戻した駆動装置4とカッター5と排土装置6を掘進機外殻2内に再挿入して取り付け(必要に応じてカッター5のビット5bを機内で交換しておく)、続いて方向修正ジャッキ3を取り付け、掘進を再開させる。この再挿入時も、駆動装置4は胴管2bによってガイドされ、推進管7内から掘進機外殻2内へ円滑に移動でき、さらに隔壁2aの開口部にズレなく容易に再据え付けできる。このように、カッター5の動作は自転公転のみで伸縮等の動作は無いから、従来技術のコピーカッター方式のように掘進時の油圧回路の油漏れや衝撃による油圧シリンダーの変形等がなく、掘削トルクを向上でき、安定した掘進を長期に渡って継続できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の技術は、地上の占用が難しく、近接建造物や地中埋設管の輻輳化により開削工法が困難な都市トンネルの工事に有用である。
【符号の説明】
【0027】
1 掘進機
2 掘進機外殻
2a 隔壁
2b 胴管
2c シール材
3 方向修正ジャッキ
4 駆動装置
4a 回転盤
5 カッター
5a 自転軸
5b ビット
6 排土装置
6a 排土口
7 推進管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機外殻の前方に地山を掘削する複数のカッターを設け、その各カッターを駆動する掘進機外殻内に設けた駆動装置を掘進機外殻に対して脱着可能に取り付け、掘進機外殻の後端に一定の厚みを有するコンクリート製の推進管を複数接続して最後尾を元押しし、駆動装置でカッターを回転させて地山を掘削しながら推進管を地中に埋入して管路を構築する掘進機において、前記各カッターを駆動装置の前面に備えた回転盤の偏心位置に軸支して自転公転可能にし、その各カッターは自転軸から複数方向に伸びる片の先端にビットを取り付けた構造で、その各カッターが自転公転時に対称の向きとなる位置位相において各カッターを推進管の内径より内側となる寸法及び形状に形成し、且つ各カッターの自転軸中心からビット先端までの長さを掘進機外殻の外側まで余掘りできる長さに形成し、さらに駆動装置の外径を推進管の内径より小径に形成したことを特徴とする、掘進機。
【請求項2】
カッターが、自転軸から左右に伸びる左右片と自転軸から下方に伸びる下片を備えた略T字形状で、その自転軸の中心から各ビットの先端までの距離がそれぞれ同じである、請求項1記載の掘進機。
【請求項3】
カッターの自転軸の中心位置が、余掘り径と掘進機の中心との間の中間よりやや外側である、請求項1又は2記載の掘進機。
【請求項4】
掘進機外殻の内面に推進管の内径より縮径した胴管を取り付け、その胴管内に駆動装置を移動可能に挿入した、請求項1〜3いずれか記載の掘進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−107464(P2012−107464A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258571(P2010−258571)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(599111965)株式会社アルファシビルエンジニアリング (32)
【出願人】(505229391)ボーディング株式会社 (19)
【Fターム(参考)】