説明

採便器具

【課題】
便を検体とする検査において、固形便又は水様便のどちらの便であっても所定量の便を容易に採取することができ、しかも手を汚す可能性が少なく、採取した便を検査に供するために抽出液等に便を分散する際または他の容器に便を移す際に便が残りにくく、採取した便がほとんど全て利用でき、また、成型しやすく安価な素材を使用でき製造コストがかからず、使用感のよい採便器具を提供すること。
【解決手段】
10cm以上の長さを有する長尺状のスティック部と、該スティック部の一端に設けら
れる採便用の綿球と、該スティック部の他端に設けられる採便用のへらと、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便の検査等を行うために便のサンプルを採取するための採便器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、採便用の器具としては様々な種類のものが公知である。例えば、試験管状をし反応試薬が収納された測定容器と、管状をし上下の開口部にシール材が貼着されその内部に試薬が封入されて成る試薬容器とにより構成され、測定容器の上部開口部に試薬容器を嵌装させて成ることを特徴とする検体検査用器具、の発明が提案されている(特許文献1)。また、綿球を先端に備えた採取部支持スティック部と、前記採取部支持スティック部の基端側を支持したキャップと、有底で筒状となっていて先端の口元部が前記キャップで閉塞される容器と、前記容器内の底部に収容された保存培地とを有する検体採取器具セット、の発明が提案されている(特許文献2)。さらに、糞便を懸濁させる液体を収容する容器本体と、該容器本体の一端に連設する蓋体と、前記容器本体と蓋体との内部空間を区分する分離手段と、該分離手段に形成された貫通孔と、該貫通孔に嵌挿される糞便採取棒とを具備し、該糞便採取棒は、糞便採取棒本体と、該糞便採取棒本体の先端若しくは先端付近に設けられた多数の毛を有する糞便採取部とを有することを特徴とする糞便採取用具、の発明が提案されている(特許文献3)。
なお、発明者はこれらの公知技術よりも優れた採便器具を発明し、すでに特許出願している(特許文献4)。
【0003】
しかしながら、特許文献1〜3の採便用の器具では、先端に綿球又は毛を備えているものの、このような綿球又は毛を使用する場合、便が水様便であれば好適に採取することができるが、便が固形便であれば少量しか採取することができず、検査に不都合が生じやすい傾向にあった。しかしながら、先端を固形便を採取するために好適な形状にすると、逆に水様便のほうがうまく採取できなくなるという問題がある。
【0004】
このように、従来の採便器具にあっては、水様便と固形便との両方に対して好適に採便できるものは存在しなかった。とくに便の検査においてはサンプルの量はなるべく一定量を採取することが好ましいため、便の状態に関係なく所定量の便を採取できる採便器具が望まれていた。
【0005】
また、採便する際には便が手に付着するリスクがあり、とくに便中に感染性の病原体の存在が疑われるような場合には、便が手に付着することには心理的な抵抗がある。このため、可及的にこのようなリスクが少ない採便器具が待望されていた。
【0006】
発明者の先願の発明(特許文献4)は、以上のような課題を解決するものではあるが、採便用にスプーンを使用しているため、採取した便を検査に供するために抽出液等に分散する際または他の容器に移す際に、スプーンのくぼみの部分に便が残りやすく、便の性状によっては採取した便のすべてが利用できない場合があり、このため可及的に採取した便のすべてが利用できる技術が望まれていた。また、先願発明はスプーンの形状に成形することが容易とはいえず、成形技術の点から素材が限られていたため、より成型しやすくコストが安価な素材を利用できる技術が待望されていた。
【0007】
【特許文献1】特開2000−346838号公報
【特許文献2】特開2000−342591号公報
【特許文献3】特開平8−285845号公報
【特許文献4】特開2009−133704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、便を検体とする検査において、固形便又は水様便のどちらの便であっても所定量の便を容易に採取することができ、しかも手を汚す可能性が少なく、採取した便を検査に供するために抽出液等に便を分散する際または他の容器に便を移す際に便が残りにくく、採取した便がほとんど全て利用でき、また、成型しやすく安価な素材を使用でき製造コストがかからず、使用感のよい採便器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決する本発明は、10cm以上の長さを有する長尺状のスティック部と、該スティック部の一端に設けられる採便用の綿球と、該スティック部の他端に設けられる採便用のへらと、を備えたことを特徴とする採便器具、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の採便器具によれば、固形便又は水様便のどちらの便であっても所定量の便を容易に採取することができ、しかも手を汚す可能性が少ない状況で採取できる。従って、便を検体とする検査を行う検査担当者の負担を軽減することができる。特に胃腸炎等に罹患している患者を対象とする場合などにあっては、患者によって便の状態がさまざまであり、しかも便に感染性の細菌が含まれている可能性も考えられるため、所定量の便を容易に採取することができるとともに便が手に付着するリスクが少ない本発明の採便器具は好適である。
【0011】
さらに、採取した便を検査に供するために抽出液等に便を分散する際、または他の容器に便を移す際に、器具に便が残りにくいため、採取した便のほとんど全てを利用でき、より正確な量を検査に供することができる。また使用感が良い。さらにへらの形状はスプーン形状よりも成型し易いため、検査に最適な素材や、コストの安価な素材を利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の採便器具は、長尺状のスティック部を有している。スティック部の材質としては、例えば紙、プラスチック、木等が採用可能である。スティック部の太さについても手に持ちやすい太さであればいかなる太さでもよい。また、スティック部の太さは端から端まで一定である必要はなくスティック部の中央部だけが両端部よりも太めに形成されていてもよい。スティック部の断面形状は丸、楕円、四角、三角、その他の多角形など自由な形状を選択することができるが、持ちやすい形状であることが好ましい。
【0013】
スティック部の長さは10cm以上あることが必要である。この長さは、後述する綿球やへらの長さは含まずに手で握ることができる長尺状の部分の長さのことである。
【0014】
仮にスティック部の長さが10cm未満であると、採便する際に手に付着しやすくなるため、本発明の効果を享受することが難しくなる。従って、スティック部の長さは10cm以上であることが必要なのである。なお、このように長いスティック部を有していれば、採取した便を試験管に移す際にも、試験管にスティック部を挿入した状態で試験管から十分な長さのスティック部がはみ出すことになり、検査する者は試験管に手を触れる可能性が少ない状況で便を試験管に移すことが可能である。
【0015】
なお、スティック部が長すぎると逆に取り扱いが不便になるため、スティック部の長さは20cm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明はこのようなスティック部の一端に採便用の綿球を設けたことを特徴とする。綿球の材質は繊維質であればよく、レーヨン他の合成繊維等、どのようなものであってもよいが、コスト及び入手のしやすさを考慮すると「綿」がもっとも望ましい。
【0017】
綿球の形状及び大きさは、直径が6mmで長さが10mmの楕円形であることが好ましいが、円形であってもよく、偏平状、紡錘状、皿状、スプーン状、先端がとがった形状、球状に巻きつけた形状、段々をつけた形状など、適宜の形状と大きさとを選択することができる。綿球の形状及び大きさは、基本的には、採取するべき便の量によって調節することが好ましい。すなわち、使用する繊維の量を調整することにより吸収量をある程度調節することが可能である。このような綿球は、主として便の状態が水様便である場合に好適に用いられる。
【0018】
また本発明はスティック部の他端に採便用のへらを設けたことも特徴としている。ここに「へら」とは、スプーンのようなくぼみがなく、平板状の部材である。このようにへらを採用すれば、へらの大きさ(平面部分の面積)を調整することによって便の採取量をある程度制御できる利点がある。また、スプーンのくぼみをなくすことにより、採取した便を、抽出液等に分散する際または他の容器に移す際に、採取した便がへらに残りにくく、ほとんど全ての便が利用できる利点がある。また、便を抽出液等に分散する際に採便器具をそのまま攪拌器具として利用した場合、くぼみがないため一度分散した便が再度付着しにくいという利点がある。さらに、へらはくぼみがなく、スプーン形状よりも成型しやすいため、採便器具の素材としてより広範囲な素材を利用することができる。
【0019】
へらはとくに便の状態が固形便である場合に好適に用いられる。もちろん採取するべき便の量によってへらの大きさ、形状も選択される。へらの形状は、円・楕円・長方形・正方形・台形・扇形等の各種の形状を選択することができる。なお、このようなへらは、スティック部と一体に形成してもよい。
【0020】
以上のような本発明の採便器具は、便の状態が水様便であれば一端の綿球を使用して採便し、便の状態が固形便であれば他端のへらを使用して採便する。このように本発明の採便器具は1本でさまざまな便に対応することができる。しかも常にほぼ一定量の便を採取することが可能である。またスティック部の長さが10cm以上あるため、採便の際に手が便に接触することを効果的に抑止され、使用する者にとって安心感がある。
【0021】
次に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の一実施例の採便器具を示す図である。図1(A)は、本発明の一実施例の採便器具の全体の斜視図であり、図1(B)は本発明の一実施例の部分拡大図である。
【0023】
図1(A)において、採便器具1は、長尺状のスティック部2を有している。このスティック部2の材質はプラスチックであり、断面の形状は円であり、断面の直径は3mmである。本実施例ではスティック部2の長さLは13.5cmである。
【0024】
スティック部2の一端には綿球3が設けられている。綿球3は楕円球状であり、材質は綿であり、直径は6mmで長さは10mmである。
【0025】
スティック部の他端にはへら4が設けられている。このへら4はスティック部1と一体的にあらかじめ形成されており、スティック部2と同一の材質である。へら4は平板状であり、平板状の平面部分4aにて便を採取する。便をすくう平面部分4aの面積は21mmであり、一度に100mg程度の固形便を採取する場合に好適に用いられる。
【0026】
図1(B)は本発明の一実施例の部分拡大図であり、図1(A)のへら4を拡大して示した図である。図(B)において、(B−1)はへら4の平面部分4aの方向から見た図である。すなわち図1(A)の矢印Xの方向からみた図である。また(B−2)は、へら4の平面部分4aと垂直の方向(へら4の辺の方向)から見た図である。すなわち図1(A)の矢印Yの方向からみた図である。
【0027】
図1(B)の(B−1)のように、へら4の全体は楕円形の形状であるが、(B−2)のように辺の方向から見るとスプーンのようなくぼみがない、平板状である。
【0028】
以上の実施例1の採便器具1を使用する場合は、スティック部2の中央付近を手でにぎり、便の状態が水様便であれば綿球3を便に接触させて適量の便を採取する。便の状態が固形便であればへら4によって便を適量すくいとって採取する。むろんスティック部2を持つ場合は、持つ場所はスティック部2の中央付近に限られるわけではなく、採便する側の端部の逆の端部を持ってもよい。
【0029】
便を採取した後は、別途の容器に入った抽出液にそのまま綿球3又はへら4を浸漬し、便を抽出液に分散させ、次の検査工程に移す。
以上の一連の操作の中で、本発明の採便器具1は、スティック部2の長さLが十分な長さを有しているので、スティック部2を握っている手が便に接触するリスクが軽減される。
【実施例2】
【0030】
図2は、本発明の他の実施例の採便器具を示す図である。図2の(A−1)、(B−1)、(C−1)、および(D−1)は、図1(B)における(B−1)と同様にへらを平面の方向から見た図であり、図2の(A−2)、(B−2)、(C−2)、および(D−2)は、図1(B)における(B−2)と同様にへらを辺の方向から見た図である。
【0031】
図2(A−1)および(A−2)は、本発明の他の実施例のひとつであるへら5を示すものであり、(A−1)のように平面部分5aの方向から見るとへら5は円形である。しかし(A−2)のように辺の方向から見ると、へら5は平板状であってスプーンのようなくぼみはない。
【0032】
図2(B−1)および(B−2)は、本発明の他の実施例のひとつであるへら6を示すものであり、(B−1)のように平面部分6aの方向から見るとへら6は正方形である。しかし(B−2)のように辺の方向から見ると、へら6は平板状であってスプーンのようなくぼみはない。
【0033】
図2(C−1)および(C−2)は、本発明の他の実施例のひとつであるへら7を示すものであり、(C−1)のように平面部分7aの方向から見るとへら7は長方形である。しかし(C−2)のように辺の方向から見ると、へら7は平板状であってスプーンのようなくぼみはない。
【0034】
図2(D−1)および(D−2)は、本発明の他の実施例のひとつであるへら8を示すものであり、(D−1)のように平面部分8aの方向から見るとへら8は台形である。しかし(D−2)のように辺の方向から見ると、へら8は平板状であってスプーンのようなくぼみはない。なお、へら8の変形例としては、へら8の先端部8bを円弧状に形成し、へら8の全体を扇形に形成したものを例示することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の採便器具によれば、便を検体とする検査において、固形便又は水様便どちらの便であっても所定量の便を容易に採取することができ、しかも手を汚す可能性が少ない状況で採取できる。特に胃腸炎等の患者を対象とする場合は、便の状態がさまざまであり、また便に感染性の細菌が含まれている可能性があることから、さまざまな便に対応できかつ便が手に付着するリスクが少ない本発明の採便器具は特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例の採便器具を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例の採便器具を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1・・・本発明の採便器具
2・・・スティック部
3・・・綿球
4・・・へら
4a・・・平面部分
5、6、7、8・・・へら
5a、6a、7a、8a・・・平面部分
8b・・・先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10cm以上の長さを有する長尺状のスティック部と、該スティック部の一端に設けられる採便用の綿球と、該スティック部の他端に設けられる採便用のへらと、を備えたことを特徴とする採便器具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−88186(P2012−88186A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235417(P2010−235417)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】