説明

採水器

【課題】採取した地下水を他の容器に移し替える手間を省き、地下水がこぼれてしまうことを抑えた簡易な構造の採水器を提供する。
【解決手段】ワイヤー3により地下水に吊り下げられ、内部に地下水が導入される容器11と、容器11内部に収納され、容器内に導入された水を貯留する採水容器12と、地下水の水位を計測する水位計13とを備え、採水容器12を容器11に固定する固定ネジ18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採水器に関し、特に、水面近傍の水を採取する場合に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を緩和するために様々な取り組みがなされている。例えば省エネルギー化や、二酸化炭素の排出を抑制することなどが行われている。このような取り組みの一つとして、工場や発電所等から排出される二酸化炭素を回収し、地下の帯水層などに貯留する方法が提案されている。
【0003】
このとき、地下に貯留された二酸化炭素は、地下の帯水層で酸性の二酸化炭素溶解溶液となり、長期間、地下に二酸化炭素溶解溶液が貯留されると、地下資源や地上の人間の生活圏に影響を及ぼす虞がある。このため、地下に貯留される大量の二酸化炭素が地下環境に及ぼす影響を評価・検討する必要がある。
【0004】
そこで、ボーリングで地面を掘削して掘削孔を形成し、その掘削孔に溜まった地下水を採取し、その水がどのような状態や成分であるかを分析することで二酸化炭素がどの程度漏れ出しているかを把握することができる。
【0005】
掘削孔から地下水を採取する際には、北原式採水器やバンドーン採水器などを始め、各種採水器が使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1及び特許文献2に記載の採水器は、水を収納する容器の上部と下部に、水の出入口が設けられており、この水の出入口には、水流に応じてこの出入口を開閉する弁体が取り付けられている。このような採水器は、ワイヤーなどで吊り下げられて掘削孔の地下水中に沈められ、弁体が開いて、容器内部が水で満たされる。そして、弁体が出入口を塞ぎ、容器内に水が密閉された状態で地上に引き上げられ、地下水が容器内に採取される。
【0006】
しかしながら、このような採水器は、あくまで採水のためのものであるので、採取した地下水は他の容器に移す必要があるが、水の出入口は弁体等で塞がれているため、この弁体が開放した状態を維持しつつ、他の容器に移さなければならないという煩わしさがある。
【0007】
更に、採水器を地下水から引き上げる際に、弁体が開いてしまうと地下水がこぼれてしまうという問題がある。例えば、ワイヤーを巻き上げて地中深くから採水器を引き上げる際の振動などで弁体が開き、採水器内の地下水がこぼれてしまうこともあるし、地上に引き上げたあとも、安定した場所に配置するまでに地下水がこぼれてしまうこともある。特に、採水器の上部・下部に水の出入口があるため、弁体が開いてしまえば、採取した地下水が一気に流れ出てしまう。
【0008】
なお、弁体の開閉を確実に行うための機構を採水器に設けることも考えられるが、このような機構を設けると採水器が複雑化してしまうし、機構によっては採水器が大型化し、直径数十センチメートル程度の小さな掘削孔に適用し難いという問題が生じてしまう。
【0009】
このような問題は、二酸化炭素の地下貯留による影響を調査する場合に限らず、種々の調査目的で地下水を採取する場合にも同様に存在し、また、ボーリングによる掘削孔からの地下水の採取に限らず、水を採取する一般的な場合についても同様に存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭64−50341号公報
【特許文献2】特開平8−220084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術に鑑み、採取した地下水を他の容器に移し替える手間を省き、地下水がこぼれてしまうことを抑えた簡易な構造の採水器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、索条により水中に吊り下げられ、内部に水が導入される容器と、前記容器内部に収納され、前記容器内に導入された水を貯留する採水容器とを備えることを特徴とする採水器にある。
【0013】
かかる第1の態様では、容器の内部に採水容器が収納された二重構造を有し、採水容器で水を採取するようになっている。このため、水を採水して地上に引き上げた後、採水容器を取り出せば、他の容器に地下水を移すことなくそのまま採水容器の水を分析等のために利用できる。また、この採水容器の取り出し、水を分析する一連の作業の際には、従来の採水器のように弁体が開いた状態を維持し、他の容器に地下水を移す、というような煩わしい作業も無いため、円滑に水の採取、分析を行うことができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する採水器において、前記容器に設けられた水位計を更に備えることを特徴とする採水器にある。
【0015】
かかる第2の態様では、水の採取と同時に、水の水位を取得することできる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載する採水器において、前記採水容器は、前記容器に固定されていることを特徴とする採水器にある。
【0017】
かかる第3の態様では、採水容器が容器に固定されているので、採水器を引き上げるときなどに衝撃があっても、採水容器が傾いたり倒れたりすることはない。これにより採水容器から水がこぼれてしまうことが防止され、採水容器内に水を確実に貯留することができる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載する採水器において、前記容器は、長尺の円筒状に形成され、前記容器には、その一端側に着脱自在な蓋部材が取り付けられると共に、水中から引き上げる方向側の一端部に当該容器の内部空間である収納部と外部とを連通する採水孔が設けられ、前記採水容器は、開口部を有し、前記容器の径よりも小さい径で長尺状に形成されると共に、当該開口部が前記採水孔側に向けられた状態で前記収納部に収納されていることを特徴とする採水器にある。
【0019】
かかる第4の態様では、容器と採水容器とは、ともに長尺状の部材であるため、採水容器が傾こうとしても容器の内面で規制される。このため、採水容器が傾いてその内部に貯留された地下水がこぼれてしまうことが抑止される。
【0020】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載する採水器において、前記容器には、その中心側に突出する突出部が設けられ、前記採水孔は、前記容器の中心部に向かい前記突出部を貫通して設けられており、前記蓋部材には、前記容器の収納部内と外部とを連通するネジ孔が設けられると共に、このネジ孔を介して前記収納部内に収納された前記採水容器の一端側を押圧するように固定ネジが取り付けられ、前記採水容器は、前記固定ネジと前記突出部とにより挟持されて固定されていることを特徴とする採水器にある。
【0021】
かかる第5の態様では、採水容器は固定ネジに押圧されて突出部に当接する。そして採水孔は、突出部に設けられているので、採水器が水中に投下されると、採水孔を通じて、突出部に当接した採水容器に直接的に水が導入される。これにより収納部に余分な水が入らず、必要最小限の水を採取できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、採取した地下水を他の容器に移し替える手間を省き、地下水がこぼれてしまうことを抑えた簡易な構造の採水器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態1に係る採水器の利用形態の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る採水器の平面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る採水器の分解斜視図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る採水器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0025】
〈実施形態1〉
図1は、本発明の実施形態1に係る採水器の利用形態の一例を示す図である。図示するように、地面にはボーリングにより掘削孔1が形成されており、この掘削孔1内に地下水2が溜まっている。採水器10は、ワイヤー3により地下水2の水面近傍にまで吊り下げられ、水面近傍の水を採取した後、ワイヤー3を介して地上に引き上げられ、採水器10内部の地下水が分析に用いられる。
【0026】
図2は本発明の実施形態1に係る採水器の平面図、図3は採水器の分解斜視図、図4は採水器の断面図である。これらの図に示すように、採水器10は、内部に水が導入される容器11と、容器11内に収納された採水容器12と、水位計13とを備えている。
【0027】
容器11は、内部に採水容器12を収納し得る長尺の円筒部材である。容器11の一端側には、蓋部材14が着脱自在に取り付けられている。本実施形態では、容器11と蓋部材14とはねじ山が設けられており、螺合するようになっている。また、容器11の他端側には、水位計13が取り付けられ、止め具15により固定されている。容器11の両端のそれぞれに蓋部材14と水位計13が取り付けられることで、容器11の内部に採水容器12を収納する空間である収納部16が形成されている。
【0028】
容器11の内側には、中心方向に突出する突出部17が設けられている。また、容器11内の採水容器12を固定するための固定ネジ18が蓋部材14に螺合している。この固定ネジ18を回動して採水容器12側に進行させると、採水容器12が押圧され、採水容器12の開口部19が突出部17に当接し、採水容器12が突出部17と固定ネジ18に挟持された状態で固定される。このように採水容器12が容器11に固定されているので、採水器10を引き上げるときなどに衝撃があっても、採水容器12が傾いたり倒れたりすることはない。これにより採水容器12から収納部16などに地下水2がこぼれてしまうことが防止され、採水容器12内に地下水2を確実に貯留することができる。
【0029】
なお、採水容器12を容器11に固定する手段としては、固定ネジ18で固定する場合に限られない。例えば、本実施形態のように、容器11の内面と採水容器12の外面との隙間を極力小さくすることで採水容器12を固定したのと同等の効果を得ることができる。採水容器12が傾こうとしても容器11の内面で規制されるからである。
【0030】
容器11の突出部17には、容器11の中心に向かい、突出部17を貫通し、容器11の外部と収納部16とを連通する採水孔20が設けられている。このため、採水器10が水中に投下されると、採水孔20を通じて、突出部17に当接した採水容器12に直接的に地下水2が導入される。
【0031】
採水容器12は、一端に開口部19を有し、容器11内に導入された水を貯留する長尺の容器である。本実施形態では、開口部19が突出部17に当接しているため、採水孔20からの地下水2が直接的に採水容器に貯留されるようになっている。
【0032】
また、固定ネジ18と蓋部材14とを容器11から外せば、採水容器12は、容器11の収納部16に容易に出し入れが可能となっている。このため、地下水2を貯留した採水容器12を取り出して、他の容器に地下水2を移すことなくそのまま、地下水2を分析などの目的に利用できる。
【0033】
なお、採水容器12は、必ずしも、突出部17と固定ネジ18とで挟持固定されている必要はない。すなわち採水容器12の開口部19が突出部17に当接していない場合であっても、収納部16全体に地下水2が導入され、その地下水2の一部が採水容器12内に貯留されるからである。
【0034】
更に、開口部19は、必ずしも、採水器10が水中から引き上げられる方向(図2の上方向)に向いて収納部16に収納されている必要はない。この場合、採水器10を水中に投下しても、採水容器12内に空気があるため採水容器12内に地下水2が導入されないが、採水器10を地上に引き上げ、採水器10を上下反転させれば、収納部16内の地下水2が採水容器12に貯留され得るからである。
【0035】
水位計13は、地下水2の水位を計測するためのものである。具体的には、水位計13は、その一端側に、容器11の収納部16に連通する空間である計測部21が設けられており、その計測部21に端子22が2つ設けられている。これらの端子22には導線23が接続され、導線23はワイヤー3と共に地上にまで導かれている。
【0036】
採水器10が地下水2に着水すると、採水孔20を介して計測部21内にも地下水2が進水する。すると、2つの端子22は地下水2を介して短絡するので、地上では、2つの端子22が短絡したことを検出すれば、採水器10が着水したことが分かる。このとき、ワイヤー3を掘削孔1に吊り下げた長さを計測することで地下水2の水位L(図1参照)を得ることができる。
【0037】
このような水位計13により、採水と同時に地下水2の水位Lを得ることができ、採水作業と水位計測作業を合理化できる。
【0038】
なお、容器11、採水容器12はアクリルから形成されているが、特に材質は限定されず、例えばSUSなどを用いることもできる。
【0039】
以上に説明した採水器10は、容器11の内部に採水容器12が収納された二重構造を有し、採水容器12で地下水2を採取するようになっている。このため、地下水2を採水して地上に引き上げた後、蓋部材14を外し、採水容器12を取り出せば、他の容器に地下水を移すことなくそのまま採水容器12の地下水2を分析等のために利用できる。また、容器11からの採水容器12の取り出し、地下水2を分析する一連の作業の際には、従来の採水器のように弁体が開いた状態を維持し、他の容器に地下水を移す、というような煩わしい作業も無いため、円滑に地下水2の採取、分析を行うことができる。
【0040】
また、本発明に係る採水器10は、採水孔20を弁体で開閉する構成とはなっていないので、採水器10の引き上げ時の衝撃では、採水孔20からわずかに水がこぼれる程度であり、水質分析には十分な量の地下水2を採取できる。
【0041】
さらに、本発明は、採水孔20の開閉を確実に行うための機構を必要としないので、簡易な構成とすることができ、また、これにより製造コストを低減できる。
【0042】
なお、本実施形態では、地下水2の採取の目的として、二酸化炭素の地中貯留を実施した際における二酸化炭素が環境に与える影響を評価する場合について説明したが、もちろんこれに限定されるものではない。例えば、地下水の水質汚染の状況を調査する場合にも適用できる。その他にも、高レベル廃棄物を地中に埋めて処分するに際し、廃棄する適切な場所を選定するために地下水を採取する目的にも採水器10を利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、種々の調査目的のために水を採取し、この水の分析等を行う産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 掘削孔
2 地下水
3 ワイヤー
10 採水器
11 容器
12 採水容器
13 水位計
14 蓋部材
15 止め具
16 収納部
17 突出部
18 固定ネジ
19 開口部
20 採水孔
21 計測部
22 端子
23 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
索条により水中に吊り下げられ、内部に水が導入される容器と、
前記容器内部に収納され、前記容器内に導入された水を貯留する採水容器とを備える
ことを特徴とする採水器。
【請求項2】
請求項1に記載する採水器において、
前記容器に設けられた水位計を更に備える
ことを特徴とする採水器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する採水器において、
前記採水容器は、前記容器に固定されている
ことを特徴とする採水器。
【請求項4】
請求項1に記載する採水器において、
前記容器は、長尺の円筒状に形成され、
前記容器には、その一端側に着脱自在な蓋部材が取り付けられると共に、水中から引き上げる方向側の一端部に当該容器の内部空間である収納部と外部とを連通する採水孔が設けられ、
前記採水容器は、開口部を有し、前記容器の径よりも小さい径で長尺状に形成されると共に、当該開口部が前記採水孔側に向けられた状態で前記収納部に収納されている
ことを特徴とする採水器。
【請求項5】
請求項4に記載する採水器において、
前記容器には、その中心側に突出する突出部が設けられ、
前記採水孔は、前記容器の中心部に向かい前記突出部を貫通して設けられており、
前記蓋部材には、前記容器の収納部内と外部とを連通するネジ孔が設けられると共に、このネジ孔を介して前記収納部内に収納された前記採水容器の一端側を押圧するように固定ネジが取り付けられ、
前記採水容器は、前記固定ネジと前記突出部とにより挟持されて固定されている
ことを特徴とする採水器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−190625(P2010−190625A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33237(P2009−33237)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】