説明

採血処置の訓練用の疑似足底

【課題】足底からの採血処置の訓練用の疑似足底を提供すること。
【解決手段】本発明は、少なくとも踵部11を有する採血処置の訓練用の疑似足底10である。本発明による疑似足底10は、疑似血液が充填される疑似血管要素21と、疑似血管要素の表面を覆う疑似皮膚層30(31、32)と、疑似血管要素21の裏側を支える弾性要素22と、を備える。疑似皮膚層30(31、32)は、踵部11の中央領域では厚みが増大されている一方、採血処置の予定領域では厚みが1.2乃至1.5mmとなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足底からの採血処置、特には新生児の足底からの採血処置の訓練用の疑似足底に関する。
【背景技術】
【0002】
新生児の足底からの採血処置は、現在、医師のみが行うことができる医療行為である。具体的には、足底表面から1.2乃至1.5mm(推奨は、1.3乃至1.4mm)の位置に正確に注射針が挿入されて、採血処置が行われる。
【0003】
当該採血処置の訓練用の疑似足底は、これまで開発されていない。しかしながら、将来的には看護師が当該採血処置を行うことが認可される可能性があるため、そのような時代には看護学校等にて当該採血処置を訓練させるための疑似足底の開発が望まれる。
【0004】
一方、手首部からの採血処置の訓練用の疑似手腕は、特許文献1(特開2006−317570号公報)等から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−317570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に着目し、これを有効に解決すべく創案されたものである。本発明の目的は、足底からの採血処置の訓練用の疑似足底を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、少なくとも踵部を有する採血処置の訓練用の疑似足底であって、疑似血液が充填される疑似血管要素と、前記疑似血管要素の表面を覆う疑似皮膚層と、前記疑似血管要素の裏側を支える弾性要素と、を備え、前記疑似皮膚層は、踵部の中央領域では厚みが増大されている一方、採血処置の予定領域では厚みが1.2乃至1.5mmとなっていることを特徴とする採血処置の訓練用の疑似足底である。
【0008】
本発明によれば、踵部の中央領域の厚みが増大されているために、実際の足底と同様の触感ないし質感を得ることができる一方、採血処置の予定領域の疑似皮膚層の厚みは1.2乃1.5mmとなっているため、採血処置のシミュレーションの程度も高い。また、疑似血管要素の裏側が弾性要素で支持されているため、訓練が繰り返されても、擬似血管要素が奥側に退行する(へたる)ことが効果的に防止される。
【0009】
好ましくは、前記疑似血管要素は、綿材(コットン)で形成されている。本件発明者の検討実験によれば、疑似血液で充填された綿材は、注射針挿入時に注射針に作用する疑似血液の表面張力という観点で、実際の血管と極めて近い特性を有する。本件発明者の検討実験によれば、綿材(綿花)の他に、綿生地、絹、絹綿、海綿、パルプ、高分子量ポリマー、高吸収性ポリマー、ナイロン繊維、ポリエステル、羊毛、フェルト、アルパカ毛、和紙等も、ある程度好適に利用可能であるが、綿材が最も好適である。
【0010】
一方、前記弾性要素は、好ましくは、スポンジ材で形成されている。スポンジ材とは、ナイロンスポンジ、ゴムスポンジ、樹脂スポンジ等のいずれでもよい。本件発明者の検討実験によれば、スポンジ材の他に、発砲ウレタン、発泡性シリコン(フォームシリコン)、発泡性ラテックス(フォームラテックス)、発砲ポリウレタンフォーム等も、ある程度好適に利用可能であるが、スポンジ材が最も好適である。
【0011】
弾性要素としてスポンジ材を利用する場合には、スポンジ材が多孔性であることを利用して、当該スポンジ材を介して疑似血管要素に疑似血液を充填させる態様を採用可能である。具体的には、疑似血管要素に疑似血液を供給するための疑似血液供給路が、スポンジ材を通るような経路として形成され得る。
【0012】
また、好ましくは、前記擬似足底は、下方足首部と、当該下方足首部から更に上方に延びる環状のカバー部と、を有しており、疑似血液供給管を有する疑似上方足首が、前記下方足首部と連結可能となっており、前記環状のカバー部が、前記疑似上方足首の周囲に密着するようになっている。この場合、疑似血液供給装置は、疑似上方足首の疑似血液供給管に接続すれば良いため、配置の自由度が増す一方、擬似足底と疑似上方足首とが疑似血液の漏洩無く結合されるため、採血処置の訓練場所が汚染されるおそれもない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、踵部の中央領域の厚みが増大されているために、実際の足底と同様の触感ないし質感を得ることができる一方、採血処置の予定領域の疑似皮膚層の厚みは1.2乃至1.5mmとなっているため、採血処置の真正度が高い。また、疑似血管要素の裏側が弾性要素で支持されているため、訓練が繰り返されても、擬似血管要素が奥側に退行する(へたる)ことが効果的に防止されている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態の採血処置の訓練用の擬似足底を備えた新生児人形を示す概略図である。
【図2】図1の擬似足底の構成を示す概略斜視図である。
【図3】図1の擬似足底を疑似上方足首から取り外した状態を示す概略斜視図である。
【図4】図3の擬似足底のIV−IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面を参照して、本発明の一実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施の形態の採血処置の訓練用の擬似足底10を備えた新生児人形100を示す概略図である。
【0017】
図1に示すように、新生児人形100の右足の足底に相当する部位が、擬似足底10として構成されている。そして、図1に示すように、本実施の形態の擬似足底10は、踵部11と、足指部12と、下方足首部13と、下方足首部13から更に上方に延びる環状のカバー部14と、を有している。
【0018】
一方、新生児人形100の一部として構成された疑似上方足首50には、疑似血液供給管51が内蔵されている。疑似血液供給管51は、ひさの裏に対応する部位の辺りから外部に露出している。そして、環状のカバー部14が、疑似上方足首50の周囲に密着していて、これにより、疑似血液の漏洩が無いように擬似足底10と疑似上方足首50とが結合されている。疑似血液供給管51の外部露出部には、追加の疑似血液充填時に、疑似血液供給装置(不図示)が接続されるようになっている。
【0019】
続いて、図2は、図1の擬似足底10の概略斜視図であり、図3は、図1の擬似足底10を疑似上方足首50から取り外した状態を示す概略斜視図であり、図4は、図3の擬似足底10のIV−IV線断面図である。
【0020】
図2乃至図4に示すように、本実施の形態の擬似足底10は、疑似血液が充填される疑似血管要素としての綿材(コットン)21と、当該綿材21の裏側(奥側)を支える弾性要素としてのスポンジ材22と、を備えている。本実施の形態では、約5mmの厚みを有する平坦なスポンジ材22を、やはり約5mmの厚みの綿材21が覆っている。すなわち、スポンジ材22の外側(足裏面側)のみならず、スポンジ材22の横側及び内側をも綿材21が覆っている。スポンジ材22は、平面視では、長径20mm・短径10mm程度の略長円形状である。
【0021】
疑似血管要素としての綿材21の更に外側は、疑似皮膚層30に覆われている。疑似皮膚層30は、本実施の形態では、図4に示すように、内部層31と、外部シリコン層32と、の2層構造となっている。
【0022】
図4に示すように、外部シリコン層32は、本実施の形態の擬似足底10の最外層を構成し、エアブラシ(吹き付け工程)によって、厚み1.2mm〜1.5mmで形成されている。外部シリコン層32は、通常は、液体状のシリコンを溶剤で薄めたものを用いて形成される。エアブラシの他に、刷毛や各種ブラシが用いられてもよい。図4に示す通り、本実施の形態の擬似足底10における採血処置の予定領域は、踵部11の両側部のL領域及びR領域であるが、これらL領域及びR領域においては、内部層31は設けられず、外部シリコン層32のみが設けられている。
【0023】
一方、踵部11及び下方足首部13では、実際の足底ないし足首と同様の触感ないし質感を得るべく、図4に示す通り、肉厚に所望形状に整形された内部層31が設けられている。内部層31は、外部シリコン層32と同様に、シリコン基材から形成されることが一般的であるが、他の材料から形成されてもよい。
【0024】
また、本実施の形態では、スポンジ材22を介して綿材21に疑似血液を追加的に充填可能であるように、疑似血液供給路40が形成されている。具体的には、スポンジ材22の上方に綿材21ないし内部シリコン層31で覆われない区域が円形孔部として設けられ、当該円形孔部が疑似血液供給路40を構成している。そして、疑似上方足首50の疑似血液供給管51に連通するプラスチック製の結合管(ルアージョイント)52が、当該疑似血液供給路40に挿入されて結合されている。
【0025】
次に、以上のような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。
【0026】
訓練実施者は、利手において採血処置用の注射針を把持し、本実施の形態の擬似足底10の踵部11を利手とは逆側の手によって把持する。そして、注射針を採血処置の予定領域(R領域またはL領域:図4参照)に挿入する。注射針は、1.2mm乃至1.5mmの深さだけ挿入されると、疑似血管要素としての綿材21に到達する。すると、疑似血液の表面張力により、綿材21から注射針の方に擬似血液が吸い上げられて採血される。所定量の採血が行われた後、注射針は抜き取られる。
【0027】
ここで、踵部11の中央領域の厚みが内部層31の存在によって実際の足同様となっているために、訓練者は実際の足底と同様の触感ないし質感を得ることができる。一方、採血処置の予定領域においては、疑似皮膚層としての外部シリコン層32の厚みが1.2乃至1.5mmとなっているため、採血処置の模擬(シミュレーション)の程度も高い。
【0028】
注射針が抜き取られた後は、注射針の痕孔を修復するべく、シリコン用テープが粘着されるか、シリコン用セメダインで埋戻(接着)されることが好ましい。このようなメンテナンスにより、本実施の形態の擬似足底10は、ある程度繰り返して利用することができる。
【0029】
ここで、繰り返しの採血処置の訓練によって、擬似血管要素としての綿材21が奥側に退行する(へたる)ことも想定され得るが、綿材21の内側がスポンジ材22によって弾性的に支持されているため、注射針による押圧力の負荷は効果的に逃がされる。従って、採血処置の訓練が繰り返されても、擬似血管要素としての綿材21が奥側に退行したり、不所望に偏在してしまうということが抑制される。
【0030】
綿材21に充填された疑似血液が採血処置の継続によって不足になった場合には、疑似上方足首50の疑似血液供給管51に疑似血液供給装置(不図示)が接続されて、適宜に疑似血液が補充される。供給される疑似血液は、疑似血液供給管51、結合管52、疑似血液供給路40、スポンジ材21を介して、綿材21に至る。
【0031】
擬似足底10に何らかの不具合が発生した場合には、環状のカバー部14を下方側に折り返すことによって、図3に示すように、擬似足底10は容易に疑似上方足首50から取り外すことができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、踵部11の中央領域の厚みが内部層31の存在によって実際の足同様となっているために、訓練者は実際の足底と同様の触感ないし質感を得ることができる。一方、採血処置の予定領域においては、疑似皮膚層としての外部シリコン層32の厚みが1.2乃1.5mmとなっているため、採血処置の模擬(シミュレーション)の程度が高い。
【0033】
また、綿材21の内側がスポンジ材22によって弾性的に支持されているため、注射針による押圧力の負荷が効果的に逃がされ、擬似血管要素としての綿材21が奥側に退行したり、不所望に偏在してしまうということが抑制される。
【符号の説明】
【0034】
10 擬似足底
11 踵部
12 足指部
13 下方足首部
14 環状のカバー部
21 綿材(擬似血管要素)
22 スポンジ材(弾性要素)
30 擬似皮膚層
31 内部層
32 外部シリコン層
40 疑似血液供給路
50 疑似上方足首
51 疑似血液供給管
52 結合管(ルアージョイント)
100 新生児人形

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも踵部を有する採血処置の訓練用の疑似足底であって、
疑似血液が充填される疑似血管要素と、
前記疑似血管要素の表面を覆う疑似皮膚層と、
前記疑似血管要素の裏側を支える弾性要素と、
を備え、
前記疑似皮膚層は、踵部の中央領域では厚みが増大されている一方、採血処置の予定領域では厚みが1.2乃至1.5mmとなっている
ことを特徴とする採血処置の訓練用の疑似足底。
【請求項2】
前記疑似血管要素は、綿材で形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の採血処置の訓練用の疑似足底。
【請求項3】
前記弾性要素は、スポンジ材で形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の採血処置の訓練用の疑似足底。
【請求項4】
前記スポンジ材を介して前記疑似血管要素に疑似血液を充填可能であるように、疑似血液供給路が形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の採血処置の訓練用の疑似足底。
【請求項5】
前記擬似足底は、下方足首部と、当該下方足首部から更に上方に延びる環状のカバー部と、を更に有しており、
疑似血液供給管を内蔵する疑似上方足首が、前記下方足首部と連結可能となっており、
前記環状のカバー部が、前記疑似上方足首の周囲に密着するようになっている
ことを特徴とする請求項4に記載の採血処置の訓練用の疑似足底。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104900(P2013−104900A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246625(P2011−246625)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【出願人】(511273090)
【出願人】(510148083)
【出願人】(511273322)一般社団法人 メディカルアテンダントフェデレーション (1)
【出願人】(511273333)ベイシック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】