説明

採血管ホルダー

【課題】 本発明は、採取血液を減圧採血管7に注入する際に、減圧採血管7の内壁に穿刺針9の先端を近接させて血液を壁面に沿わせて静かに流し込むことにより溶血(血球成分の破壊)を防ぐことを目的とする。
【解決手段】 針刺し事故を防止するために穿刺針9を内部に支持した採血管ホルダー1において、穿刺針9の方向に対し、平行に形成した平行側壁6aと、所定角度を有するように形成した傾斜側壁6bとを含むことを特徴とし、減圧採血管7を採血管ホルダー1の最奥まで挿入して傾斜側壁6bに衝合したときに、穿刺針9の先端が減圧採血管7の内壁に近接するよう傾斜側壁6bを形成したことを特徴とする採血管ホルダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採取血液を減圧採血管(真空採血管、陰圧試験管、スピイツ)に注入する際に用いる採血管ホルダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液検査等において、人体内に刺入した採血針に接続された穿刺針(減圧採血管のゴム栓部に刺入する注射針)から、又は注射器に装着された穿刺針から血液を減圧採血管に分注するときは、作業者の針刺し事故を防止するため、筒状の採血管ホルダーを穿刺針に嵌挿して穿刺針を覆う安全策を施してから穿刺針を減圧採血管のゴム栓部に刺入していた。最近では、減圧採血管のゴム栓部への穿刺針の刺入操作が安定し、より安全に使用できるよう、穿刺針・採血針・採血管ホルダーが一体形成された針一体型採血管ホルダー(逆止弁、穿刺針を包着するゴム弾性体等を有する)、又は穿刺針の基端部に採血管ホルダーを係合(固定装着)して用いる採血管ホルダーが発明されている。(特許文献1、2参照)、
【0003】
上記穿刺針を採血管ホルダーに固定又は係合して用いる採血管ホルダーは、穿刺針の針部の方向を中心軸として円筒状に穿刺針を囲うものであり、そのため該ホルダー(円筒)内に減圧採血管を挿入すると、穿刺針が該採血管の頭部のゴム栓部の中心部から該採血管の側壁に対して平行に刺入され、穿刺針の先端が該採血管の内壁のどの部分からも離れたところに位置した。
【0004】
したがって減圧採血管内に流れ込んだ血液(検体)は滴下して内壁に当るため、減圧採血管の陰圧(負圧)等により血液が勢いよく流れ込んだ場合に血液中の血球成分が壊れて溶血するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−081844号公報
【特許文献2】特願2006−061390号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、減圧採血管の内壁に穿刺針の先端を近接させて血液を壁面に沿わせて静かに流し込むことにより溶血を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、
第1に、採取血液を減圧採血管に注入する際に、穿刺針を採血管ホルダー内に支持した採血管ホルダーにおいて、
穿刺針の針部の方向に対し、平行に形成した平行側壁と、所定角度を有するように形成した傾斜側壁とを含むことを特徴とする採血管ホルダー、
第2に、上記減圧採血管を上記採血管ホルダーに上記傾斜側壁に平行に挿入したとき、該減圧採血管のゴム栓部を貫通した上記穿刺針の先端が該減圧採血管の内壁に近接するよう形成したことを特徴とする上記第1に記載の採血管ホルダー
によって構成される。
【0008】
このように構成すると、減圧採血管を採血管ホルダーの平行側壁に沿って挿入して傾斜側壁に押し当てて衝合することにより、穿刺針の先端が減圧採血管の内壁に近接した状態となり血液が内壁を静かに伝い流れる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、採血管ホルダーを用いて減圧採血管に血液を注入するときの溶血を抑制する効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
採血管ホルダーには、採血針との関係において、採血針と穿刺針とを採血管ホルダーに直接固定形成又は係合したもの(図4)、採血針と穿刺針とをカテーテルで接続し、その穿刺針を採血管ホルダーに固定形成又は係合したもの(図3(ロ))、注射器に嵌合した採血針(穿刺針と兼用)又は採血針を分注用穿刺針と交換した穿刺針を採血管ホルダーに係合したもの(図1)があり、これらのいずれにおいても本発明に係る採血管ホルダーが適用でき得る。
【0011】
図1(イ)(ロ)(ハ)(ニ)は、上記の注射器から減圧採血管に血液を分注する場合の本発明に係る採血管ホルダーの実施形態を示した縦断面図であり、採血管ホルダーに穿刺針の基端部のネジ部を螺入して係合する例を示す。
【0012】
採血管ホルダー1は、透明又は半透明の樹脂等で形成され、穿刺針を係合(固定装着)する底部(底壁)2と、減圧採血管7を挿入する開口部5、及び底部2の端部から開口部5まで伸びた側壁6により構成され、側壁6は平行側壁6aと傾斜側壁6bとを含むように形成する。
【0013】
底部2は、その中央部に外側に向かって突起部3を設け、この突起部3には雌ネジ孔4を開孔し、この雌ネジ孔4に、穿刺針9の基端部に設けた雄ネジ部10を螺入して係合できるように構成する。
【0014】
減圧採血管7は円筒形の試験管状の容器の頭部にゴム栓を嵌結して、内部を滅菌かつ真空に保ったものであり、採血管ホルダー1の底部2の形状も円形に形成するのが自然であり、底部2の直径は減圧採血管7の直径よりやや大きく形成するものとする。
【0015】
また、採血管ホルダー1の開口部5は長孔状に形成し、この長孔形状の両端の半円形の直径、及び2つの半円形間の開口部の矩形の短辺の長さは、減圧採血管7の直径よりやや大きく形成するものとする。
【0016】
平行側壁6aは、底部2に係合された穿刺針9の針部と平行に形成されている。
【0017】
傾斜側壁6bは、穿刺針9の針部に対し鋭角を持つように形成され、この鋭角は、針部の長さに適合して決定するものとする。
【0018】
採血管ホルダー1の縦断面を見ると台形をなしており(図1、図2)、採血管ホルダー1の開口部5を下にして作業台に置いたときに、注射器12を垂直に立てて穿刺針9と採血管ホルダー1とを係合できるように突起部3と雌ネジ孔4の形状を形成すると、作業が容易になるため好ましい。
【0019】
次に、本発明に係る採血管ホルダー1を用いて、血液を注射器12から減圧採血管7に分注する作業動作を説明する。
【0020】
図1(イ)に示すように、注射器12には、採取した血液がシリンダー14内に貯蔵されているものとし、注射器12に嵌合した穿刺針9の基端部には雄ネジ部10が形成され、採血管ホルダー1の底部2の突起部3には雌ネジ孔4が開孔されている。
【0021】
図1(ロ)に示すように、穿刺針9を採血管ホルダー1の雌ネジ孔4から挿入し、穿刺針9の雄ネジ部10を雌ネジ孔4に螺入して係合する。
【0022】
次に図1(ハ)に示すように、減圧採血管7を、頭部のゴム栓部8の一端を採血管ホルダー1の平行側壁6aに当てながら採血管ホルダー1に挿入していき、穿刺針の先端11がゴム栓部8の中心部に当った後は圧入して採血管ホルダー1の最奥まで挿入し、減圧採血管7を傾斜側壁6bに押し当てて衝合する。
【0023】
減圧採血管7を採血管ホルダー1に挿入するときは、ゴム栓部の中心部に穿刺針9を刺入するため、減圧採血管7を傾斜側壁6bに対してほぼ平行を保ちながら(平行側壁6aに対して傾きを持たせながら)挿入・圧入することが好ましいが(図1(ハ))、減圧採血管7を平行側壁6aに平行に接触させながら挿入してもゴム栓8のほぼ中心部に穿刺針9を刺入することができ、減圧採血管7を最奥まで圧入後にすばやく傾斜側壁6bに押し当てて衝合してもよい。尚、ゴム栓部8の中心部に穿刺針9を刺入するのは、ゴム栓部8の中心部から外れると針が刺入しにくいからである。
【0024】
前述の減圧採血管7を傾斜側壁6bに衝合したとき、穿刺針の先端11が減圧採血管7の内壁に近接しており、減圧採血管7の陰圧による自然吸引力により流入した血液は減圧採血管7の壁面を伝って静かに流れる。(図1(ニ))
【0025】
注射器等で採取した血液は、血管外に出ると血液凝固が始まるため、血液粘度状態又は穿刺針(採血針)の内径又は減圧採血管の陰圧状態若しくはこれらの相関によって、血液が勢いよく流入した際に血液に気泡が発生することがあり、気泡が発生した場合は溶血が起きる可能性が高くなる。前述したように血液が穿刺針の先端11から減圧採血管7の壁面を伝って静かに流入させる方法は、このような気泡の発生を防いで分注を迅速に行うためのものである。
【0026】
減圧採血管7に規定量の血液が流入したら、採血管ホルダー1から減圧採血管7を引き抜く。複数の減圧採血管に分注する場合は、上記の分注動作を繰り返す。
【0027】
分注が終了し血液がなくなった注射器は、注射器ノズルと穿刺針9の注入口との嵌合を解除して取り外し、減圧採血管7も採血管ホルダー1から取り出す。穿刺針9は、採血管ホルダー1に係合されたままの状態で針刺し事故を起こさずに安全に廃棄することができる。
【0028】
図2(イ)(ロ)は、特許文献2に開示された分注用安全穿刺針16を採血管ホルダー1に係合した場合の例である。穿刺針16は、溶血を防ぐため、内径が細い採血針と取り替えて使用するためのものであり、穿刺針からの血液の漏れを防止するために穿刺針の針部がラバースリーブ24で被覆されている。該穿刺針16においても本発明に係る採血管ホルダー1を使用することができ得る。
【0029】
図3(イ)に示すように、前述の雌ネジ孔4と雄ネジ部10に代えて、穿刺針の基端部に逆止係合部(凹部)17を設けた穿刺針9’と、採血管ホルダーの底部に穿設した透孔内に発条19の力によって対向方向に押し出される2つの拡縮材(爪)18を設けた採血管ホルダー1’を得ることもできる。このように構成すると、挿入した穿刺針9’の逆止係合部17を上記拡縮材18で逆止状態で係合することができる。一旦挿入して拡縮材18の爪がかかった穿刺針9’は、ピンセット状の器具がなれば採血管ホルダー1’から取り外すことができず、分注が終了した後は穿刺針9’が採血管ホルダー1’に係合(装着)されたまま廃棄される。
【0030】
図3(ロ)は、穿刺針9’の他、カテーテルを接続した翼状針において、基端部に逆止係合部17を設けた翼状針20の例であり、図3(イ)に示した拡縮材18を有する採血管ホルダー1’に係合することができる。
【0031】
図4は、特許文献1に開示された針一体型採血管ホルダーに本発明を適用した例である。採血管ホルダー1”には、採血針と穿刺針が一体に形成された一体針23が固定され、穿刺針の針部の被覆用としてラバースリーブ24が装着されている。この針一体型採血管ホルダーにおいても本発明に係る傾斜側壁6bを設けることで、穿刺針の先端が減圧採血管の内壁に近接して血液が壁面に沿って流れ込むように構成できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係る採血管ホルダー1又は1’又は1”を用いると、穿刺針の先端11が減圧採血管7の内壁に近接することにより、流入した血液が減圧採血管7の壁面に沿って流入し、血球成分を壊す溶血を起こしにくい。
【0033】
また、上記採血管ホルダーは、針刺し事故を防止するための安全器具であり、当該採血管ホルダーを使用することによって取り扱いが煩雑になることなく、傾斜側壁6bに減圧採血管7を衝合するだけであるため、採血管の本数が多くすばやく分注する必要があるときも安全かつ迅速に分注動作を行うことが可能である。このため医療機関等において患者からの血液の採取時又は採取した血液の分注時に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の採血管ホルダーを用いて血液を注射器から減圧採血管に分注する様子を示した縦断面図である。 (イ)図は採血管ホルダーに穿刺針を挿入する前の状態の縦断面図である。 (ロ)図は雄ネジ部と雌ネジ孔との螺着状態の縦断面図である。 (ハ)図は採血管ホルダーに減圧採血管を挿入するときの縦断面図である。 (ニ)図は穿刺針の先端が減圧採血管の内壁に近接した状態の縦断面図である。
【図2】(イ)(ロ)図は分注用安全穿刺針に同上ホルダーを装着した縦断面図である。 (ハ)図は分注用安全穿刺針の拡大縦断面図である。
【図3】(イ)図は穿刺針を拡縮材によって逆止係合する構造の採血管ホルダーと穿刺針の縦断面図である。 (ロ)図は上記拡縮材によって逆止係合される翼状針の拡大側面図である。
【図4】本発明を適用した針一体型採血管ホルダーの縦断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1、1’、1” 採血管ホルダー
2 底部(底壁)
3 突起部
4 雌ネジ孔
5 開口部
6 側壁
6a 平行側壁
6b 傾斜側壁
7 減圧採血管(真空採血管)
8 ゴム栓部
9、9’ 穿刺針
10 雄ネジ部
11 穿刺針の先端
12 注射器
13 ノズル
14 シリンダー
15 手動摺動杵
16 分注用安全穿刺針
17 逆止係合部
18 拡縮材
19 発条
20 翼状針
21 翼状板
22 カテーテル
23 一体針
24 被覆用ラバースリーブ
25 プロテクター


【特許請求の範囲】
【請求項1】
採取血液を減圧採血管に注入する際に用いる、穿刺針を採血管ホルダー内に支持した採血管ホルダーにおいて、
穿刺針の針部の方向に対し、平行に形成した平行側壁と、所定角度を有するように形成した傾斜側壁とを含むように構成したことを特徴とする採血管ホルダー。
【請求項2】
上記減圧採血管を上記採血管ホルダーの上記傾斜側壁に平行に挿入したとき、該減圧採血管のゴム栓部を貫通した上記穿刺針の先端が該減圧採血管の内壁に近接するよう形成したことを特徴とする請求項1記載の採血管ホルダー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−307063(P2007−307063A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138041(P2006−138041)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(506070523)
【Fターム(参考)】