説明

探傷装置及びこの探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法

【課題】検出コイルと探傷対象物との距離を一定に保つことにより、検出コイルと探傷対象物との接触を回避するとともに、検出精度を向上させた探傷装置、及びこの探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法を提供する。
【解決手段】探傷装置70は、交流電流が供給されることにより、交流磁界を発生させる励磁コイル74と、この交流磁界を検出する検出コイル75と、励磁コイル74及び検出コイル75を収容する筒状のケース73とを備えている。そして、ケース73の収容部には、探傷対象面であるかしめ部60の外周部62の端面62aに接触する突起部77が設けられ、突起部77が端面62aに接触することにより、励磁コイル74と端面62aとの間隙の大きさが設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
交流電流が供給されることにより、交流磁界を発生させる励磁コイルと、この交流磁界を検出する検出コイルと、励磁コイル及び検出コイルを収容する筒状のケースとを備えるとともに、探傷対象物の探傷面を探傷する探傷装置、及びこの探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記探傷装置は、探傷対象物である金属製品の表面に置いた励磁コイルに交流電流を与えて、金属製品の表面近傍に渦電流を発生させ、その表面の傷の存在、形状、寸法等に起因する渦電流の変化を検出コイルにより検出し、傷の存在、形状、寸法等を測定している。この検出コイルは、励磁コイルが生成する渦電流の変化を検出するため、探傷対象物である金属製品の表面に近接させている。これにより、例えば、金属製品の表面に傷が存在したときの渦電流の変化量が大きくなり、検出コイルは傷の存在を高精度に測定することができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−232775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、探傷装置は、車両用軸受装置の傷の存在の有無を測定することを目的として用いられる場合がある。この車両用軸受装置の構成の種類の一つとして、回転体と玉軸受の内輪とが全周かしめ(揺動かしめ)により固定されたものがある。そして、探傷装置は、回転体を回転させながら、その回転体と内輪とのかしめ部分の傷の存在を測定する。
【0004】
しかしながら、このような揺動かしめによってかしめられた回転体と内輪とのかしめ部分は、全周にわたり均一の形状をしていることが少なく、回転周方向において波形状のような凹凸が形成される場合が多い。このような場合において、励磁コイルを上記かしめ部分の表面に近接させると、かしめ部分の表面の凹凸によって、励磁コイルとかしめ部分の表面とが接触する可能性がある。さらに、かしめ部分の表面の凹凸により、励磁コイルとかしめ部分の表面との距離が異なってしまう。したがって、この距離の差によって、励磁コイルにより生じる渦電流が変化するため、検出コイルが検出する電圧値が変化してしまう場合がある。その結果、検出コイルの電圧の変化が傷に起因しているか否かの判別が困難となる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、励磁コイルと探傷対象物との距離を一定に保つことにより、励磁コイルと探傷対象物との接触を回避するとともに、検出精度を向上させた探傷装置、及びこの探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、交流電流が供給されることにより、交流磁界を発生させる励磁コイルと、前記交流磁界を検出する検出コイルと、前記励磁コイル及び前記検出コイルを収容する筒状のケースとを備えるとともに、探傷対象物の探傷対象面を探傷する探傷装置において、前記ケースには、前記探傷対象面に接触することにより、前記励磁コイルと前記探傷対象面との間隙の大きさを設定する間隙設定部が設けられることを要旨とする。
【0007】
この発明によれば、間隙設定部が探傷対象面に接触することにより、機械的に励磁コイルと探傷対象面との間隙の大きさを設定することが可能となる。これにより、探傷装置と探傷対象面とが相対的に移動することによって、探傷対象面と励磁コイルとの位置が変化したとしても、探傷対象面と励磁コイルとの接触を回避することができる。その上、間隙設定部により、励磁コイルと探傷対象面との間隙を一定に保つことができるため、探傷装置と探傷対象面との相対的移動に伴う探傷対象面と励磁コイルとの間隙との変化を抑制することができる。したがって、励磁コイルと探傷対象面との間隙の変化に起因する渦電流の変化を抑制することができるため、探傷装置の検出精度を向上させることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の探傷装置において、当該探傷装置は、円筒形状の軸部及び該軸部にかしめにより固定される内輪を有する回転体と、該回転体を外囲する円筒形状の固定体と、前記回転体と前記固定体との間に配置される転動体とを備えた車両用軸受装置の前記軸部と前記内輪とのかしめ部に前記間隙設定部を接触させて該かしめ部の探傷を行うことを要旨とする。
【0009】
この発明によれば、かしめ部が周方向において凹凸の変化のある形状であったとしても、探傷装置は、間隙設定部を接触させた状態にて探傷を行うため、励磁コイルとかしめ部との間隙をかしめ部の周方向の全周に亘り一定に保つことができる。したがって、探傷装置の検出精度を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の探傷装置において、前記かしめ部の径方向の外側の部位は、径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の車体側に傾斜する傾斜面が設けられ、前記ケースは、前記励磁コイル及び前記検出コイルを収容する収容部を有し、前記収容部は、前記傾斜面と平行に設けられるとともに、前記収容部には、前記間隙設定部が設けられ、前記励磁コイルは、前記傾斜面と平行に配置されることを要旨とする。
【0011】
この発明によれば、かしめ部の径方向の外側の部位が、径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の車体側に傾斜する傾斜面が形成されたとしても、探傷装置のケースの収容部が傾斜面と平行に設けられた上、収容部には間隙設定部が設けられることにより、収容部とかしめ部との間隙を一定に保つことができる。そして、収容部に収容された励磁コイルは、傾斜面と平行であるため、励磁コイルとかしめ部との間隙を間隙設定部により一定に保つことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の探傷装置において、前記ケースは、前記収容部と連続する筒部を有し、前記筒部は、軸方向に沿って、前記収容部から車体側に向かい延びる形状であることを要旨とする。
【0013】
この発明によれば、筒部が軸方向に沿って延びる形状であることにより、筒部と固定体との接触を防ぐことができる。したがって、かしめ部から固定体までの径方向の間隙が小さい場合においても、探傷装置をかしめ部に配置することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の探傷装置において、前記かしめ部は、径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の車体側に傾斜する傾斜面が設けられる外周部と、該外周部より径方向の内側に設けられる内周部とを有し、前記ケースに収容される前記励磁コイルは、前記外周部の前記傾斜面に対して平行に配置される第1励磁コイルと、前記内周部の軸方向の端面に対して平行に配置される第2励磁コイルとにより構成され、前記検出コイルは、前記第1励磁コイルの交流磁界を検出する第1検出コイルと、前記第2励磁コイルの交流磁界を検出する第2検出コイルとにより構成されることを要旨とする。
【0015】
この発明によれば、探傷装置の励磁コイルである第1励磁コイル及び第2励磁コイルが外周部及び内周部にそれぞれ平行に配置されるため、かしめ部の内周部及び外周部を同時に渦電流を生じさせることができる。その上、第1励磁コイル及び第2励磁コイルにそれぞれ直交する第1検出コイル及び第2検出コイルを有しているため、かしめ部の内周部及び外周部の渦電流の変化を同時に検出することができる。したがって、本発明の探傷装置は、かしめ部の内周部及び外周部を同時に検査することができる。その結果、探傷装置によって、かしめ部の内周部及び外周部を検査する場合、かしめ部の検査工程を簡略化することができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法において、当該車両用軸受装置は、円筒形状の軸部及び該軸部にかしめにより固定される内輪を有する回転体と、該回転体を外囲する円筒形状の固定体と、前記回転体と前記固定体との間に配置される転動体とを備え、前記軸部と前記内輪とをかしめにより組立てる第1工程と、前記探傷装置によって、前記軸部と前記内輪とがかしめられたかしめ部を探傷する第2工程とを備え、前記第2工程において、前記探傷装置は、前記かしめ部に前記ケースの前記間隙設定部を接触させることを要旨とする。
【0017】
この発明によれば、軸部と内輪とをかしめた後、そのかしめ部に間隙設定部を接触させた状態において、探傷装置がかしめ部の検査を行うことにより、軸部と内輪とのかしめ部の良品・不良品を選別する。これにより、励磁コイルとかしめ部との間隙をかしめ部の周方向の全周に亘り一定に保つことができる。したがって、探傷装置の検出精度を向上させることができる。その結果、車両用軸受装置のかしめ部の良品・不良品を正確に選別することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検出コイルと探傷対象物との距離を一定に保つことにより、検出コイルと探傷対象物との接触を回避するとともに、検出精度を向上させた探傷装置、及びこの探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1〜図5を参照して、本発明の探傷装置を車両用軸受装置の傷の存在を検査するための渦流探傷装置として具体化した第1の実施形態について説明する。
【0020】
まず、図1を参照して、探傷対象物である車両用軸受装置(以下、「軸受装置10」という。)の構成について説明する。以降では、軸受装置10の回転体20の回転中心軸Jに沿った方向を「軸方向」といい、軸受装置10の径方向を「径方向」といい、回転体20の回転周方向を「周方向」という。また、軸方向において、軸受装置10の内輪23側を「車体側」とし、軸受装置10の回転体20の基部21側を「車外側」とする。
【0021】
図1に示すように、軸受装置10は、車両の車輪に固定されるとともに、車輪とともに回転する回転体20と、ナックルを介して車両の車体に固定される固定体30と、回転体20と固定体30との間に配置されるとともに、固定体30に対する回転体20の回転を支持する複数の転動体40とにより構成されている。これら転動体40は、回転体20と固定体30との間に配置された保持器50によって保持されている。
【0022】
回転体20には、車輪に固定される基部21と、この基部21から軸方向の上側に延設される軸部22とが設けられている。そして、軸部22の軸方向の上端部24には、転動体40と摺接する内輪23がかしめにより固定されている。
【0023】
固定体30は、軸部22を径方向に外囲する略円筒形状に形成されている。そして、固定体30には、ナックルが取り付けられるフランジ部31が設けられている。ここで、固定体30の軸方向の上端面32は、軸部22及び内輪23よりも軸方向の車体側まで延設されている。
【0024】
転動体40は、軸部22を径方向から外囲するように、周方向に離間して複数配置される。そして、転動体40は、基部21と軸部22との連結部25を外囲する転動体40の群と、内輪23を外囲する転動体40の群とにより構成される。そしてこれら転動体40の群は、それぞれ保持器50によって保持されている。以上の構成により、転動体40がそれぞれ回転体20と固定体30とに摺接することにより、回転体20は、転動体40によって固定体30に対して回転可能に支持されている。
【0025】
次に、図1及び図2を参照して、探傷対象面となる、軸部22と内輪23とのかしめ部分の構成について説明する。
図1に示すように、軸部22の軸方向の上端部24には、軸部22の径方向の中央部に設けられた底部27を有する円筒部26が設けられている。そして、円筒部26の外周面28には、段部28aが設けられている。そして、段部28aには、内輪23が当接した状態に配置されている。この段部28aに内輪23が当接した状態において、かしめ工具により、円筒部26の軸方向の端部29を径方向の外側に変形させることにより、かしめ部分であるかしめ部60が形成されている。また、図2に示すように、かしめ部60は、全周に亘り設けられている。ここで、このかしめ部60は、具体的には、揺動かしめにより形成されている。
【0026】
このかしめ部60には、段部28aの外周面28b(図1参照)より径方向の内側の部位である内周部61と、段部28aの外周面28bより径方向の外側の部位である外周部62とが設けられている。そして、内周部61の軸方向の端面61aは、径方向に略平行に設けられている。また、外周部62の軸方向の端面62aは、径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の下側に傾斜するように設けられている。
【0027】
次に、図3を参照して、渦流探傷装置70(以下、「探傷装置70」という。)の構成について説明する。
図3(a)に示すように、探傷装置70は、探傷対象物を検査するプローブ71と、このプローブ71を支持する支持部72とにより構成されている。そして、支持部72の移動に伴い、プローブ71は、探傷対象物に対する測定位置に設定される。また、以下、各構成について説明する。
【0028】
プローブ71は、支持部72に固定される略J字形状のケース73と、ケース73に収容される励磁コイル74と、励磁コイル74が発生させる交流磁界を検出する検出コイル75とにより構成されている。この励磁コイル74は、交流電流が通流されることにより、探傷対象物の表面に渦電流を発生させる。そして、検出コイル75は、交流磁界の変化に起因する渦電流の変化を検出して、探傷対象物の表面の傷の存在の有無を測定している。また、励磁コイル74及び検出コイル75は、それぞれ銅線を環状に巻回することにより形成されている。そして、検出コイル75は、励磁コイル74に対して直交するように配置されている。
【0029】
また、ケース73は、支持部72に支持されている筒部73aと、筒部73aに対して傾斜して延設されるとともに、励磁コイル74及び検出コイル75を収容する収容部73bとにより構成されている。また、収容部73bの探傷対象物に対向する円環形状の対向面76には、間隙設定部である半球形状の突起部77が設けられている。この突起部77は、対向面76から探傷対象物に向かい突出している。そして、探傷装置70での測定時において、突起部77は、探傷対象物の表面に接触する。これにより、探傷対象物の表面と励磁コイル74との間の間隙の大きさが設定される。また、図3(b)に示すように、突起部77は、収容部73bの周方向において、互いに180度離間した位置に2つ設けられている。
【0030】
支持部72には、プローブ71を支持する支持アーム78と、プローブ71を探傷対象物に向かい付勢する付勢手段であるコイルばね79とにより構成されている。コイルばね79は、プローブ71の筒部73aの端部73cに取り付けられている。また、コイルばね79は、突起部77が探傷対象物に当接した状態においても圧縮された状態を維持するように設定されている。
【0031】
次に、図4を参照して、探傷装置70による探傷対象面となる軸受装置10のかしめ部60の傷の存在の有無の検査構造及び傷の検出原理について説明する。
まず、図4(a)を参照して、探傷装置70によるかしめ部60の傷の存在の有無の検査構造について説明する。
【0032】
図4(a)に示すように、探傷装置70は、その対向面76が軸受装置10のかしめ部60の外周部62の端面62aに平行となるように配置される。そして、支持部72により、端面62aにプローブ71の突起部77が当接するようにプローブ71を軸方向に沿って移動させる。これにより、図4(b)に示すように、励磁コイル74と端面62aとの間の間隙DL(以下、「リフトオフDL」という。)が設定される。
【0033】
また、プローブ71の突起部77とかしめ部60の外周部62とが当接した状態において、コイルばね79により、突起部77は外周部62に向かい付勢される。これにより、突起部77と外周部62とは常に当接した状態を常に維持することができる。したがって、かしめ部60の形状により、リフトオフDLの大きさが変化することが抑制される。
【0034】
そして、プローブ71を周方向に対して固定した状態において、軸受装置10の回転体20を、回転中心軸Jを中心に回転させる。回転体20の回転に伴い、プローブ71は、かしめ部60の外周部62の端面62aを周方向に亘り検査する。
【0035】
次に、図4(b)を参照して、探傷装置70によるかしめ部60の傷の存在の有無の検出原理について説明する。
図4(b)に示すように、励磁コイル74に交流電流を通流されると、図4(b)中の矢印P1にて示すように、かしめ部60の端面62aに対して交差する方向に交流磁界を生じ、端面62aには、渦電流が生じる。端面62aに傷が存在しない場合には、図4(b)中の矢印P2にて示すように、端面62aに対して交差する方向に交流磁界が生じるため、検出コイル75と鎖交することがない。したがって、検出コイル75には、電流の変化を検出することがない。一方、端面62aに傷が存在する場合には、図4(b)中の矢印P3にて示すように、端面62aに対して平行な方向に交流磁界を生じるため、検出コイル75と鎖交する。したがって。検出コイル75には、交流磁界の変化に起因する電流の変化を検出する。以上により、検出コイル75の電流の変化により、傷の存在の検査が行われる。
【0036】
次に、図5を参照して、軸受装置10の製造方法について説明する。
図5に示すように、まず、ステップS1において、軸受装置10を組立てる。具体的には、揺動かしめにより、軸部22に内輪23を周方向の全周に亘りかしめる(即ち、かしめ部60を形成する:第1工程)。そして、転動体40を保持器50に保持した状態において、軸部22の周囲に配置した後、固定体30を軸部22に組み合わせる。
【0037】
次に、ステップS2において、探傷装置70により、かしめ部60の外周部62の傷の存在の有無を検査する(第2工程)。具体的には、軸受装置10のかしめ部60に近接するように探傷装置70を設置する。そして、探傷装置70の支持部72により、プローブ71を軸方向に移動させて、プローブ71の突起部77をかしめ部60の外周部62の端面62aに当接させる。これにより、リフトオフDLの大きさが設定される。次いで、軸受装置10の回転体20を回転させることにより、外周部62の端面62aの周方向の全周に亘り傷の有無を検査する。
【0038】
以上により、かしめ部60の外周部62の傷の有無を検査し、所定以上の幅及び深さの傷の存在が確認されたとき、その軸受装置10は、不良品として扱われる。そして、傷の存在がない場合、もしくは所定以下の幅及び深さの傷である場合、その軸受装置10は、良品として扱われる。これにより、探傷装置70により、軸受装置10の製品としての良品・不良品の選別がなされる。
【0039】
本実施形態の探傷装置70、及び軸受装置10の製造方法によれば、以下に示す効果を奏することができる。
(1)本実施形態の探傷装置70では、突起部77と探傷対象面であるかしめ部60の外周部62の端面62aとが接触することにより、機械的に第1励磁コイル84と端面62aとの間隙であるリフトオフDLの大きさを設定する構成である。この構成によれば、軸受装置10の回転体20を回転させることによって端面62aが周方向に移動した場合において、突起部77によって端面62aと対向面76との接触を回避することができる。即ち、端面62aは、その周方向において凹凸を有する形状となる場合があるが、突起部77が端面62aと接触することにより、端面62aの形状に沿って探傷装置70のプローブ71を移動させることが可能である。したがって、突起部77により、リフトオフDLの大きさを一定に保つことができ、端面62aと第1励磁コイル84との接触を回避することができる。また、回転体20を回転させたとしても、リフトオフDLの大きさを一定に保つことができるため、このリフトオフDLの変化に起因する渦電流の変化を抑制することができる。その結果、回転体20を回転させたとしても第1励磁コイル84による渦電流が安定しているため、探傷装置70の検出精度を向上させることができる。
【0040】
(2)特に、揺動かしめによりかしめ部60を形成する場合、かしめ部60が周方向において凹凸の変化のある形状である場合が多い。その点において、本実施形態の探傷装置70は、付勢手段であるコイルばね79によって突起部77をかしめ部60の外周部62の端面62aに常に接触させた状態にて、端面62aの傷の存在の有無の検査を行うため、リフトオフDLの大きさをかしめ部60の周方向の全周に亘り一定に保つことができる。
【0041】
(3)本実施形態では、軸受装置10のかしめ部60の外周部62の端面62aが径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の車外側に傾斜する傾斜面が形成された構成である。そして、探傷装置70のケース73の収容部73bが端面62aと平行に設けられた上、収容部73bには突起部77が設けられる構成である。この構成によれば、端面62aが上記傾斜面として形成されたとしても、リフトオフDLの大きさを一定に保つことができる。そして、収容部73bに収容された第1励磁コイル84は、端面62aと平行であるため、リフトオフDLの大きさを突起部77により一定に保つことができる。
【0042】
(4)本実施形態の探傷装置70では、ケース73の筒部73aが軸方向に沿って延びる形状である。これにより、筒部73aと固定体30との接触を防ぐことができる。したがって、かしめ部60の外周部62から固定体30までの径方向の間隙が小さい場合においても、探傷装置70をかしめ部60の外周部62に配置することができる。
【0043】
(5)本実施形態の軸受装置10の製造方法では、軸受装置10を組み立てた後、具体的には、軸部22と内輪23とをかしめることにより、かしめ部60を形成した後、そのかしめ部60の外周部62の端面62aに突起部77を接触させた状態において、探傷装置70が端面62aの検査を行う。これにより、リフトオフDLの大きさをかしめ部60の端面62aの周方向の全周に亘り一定に保つことができるため、探傷装置70によって端面62aの傷の存在の有無の検出精度を向上させることができる。その結果、軸受装置10のかしめ部60の良品・不良品を正確に選別することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
図6及び図7を参照して、本発明の探傷装置を車両用軸受装置の傷の存在を検査するための渦流探傷装置として具体化した第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1の実施形態と比較して、探傷装置80の形状を変更したのみであるため、軸受装置10の構造及び製造方法についての説明は省略する。
【0045】
図6(a)に示すように、探傷装置80は、探傷対象物であるかしめ部60(図1及び図2参照)を検査するプローブ81と、このプローブ81を支持する支持部82とにより構成されている。そして、支持部82の移動に伴い、プローブ81は、探傷対象物に対する測定位置に設定される。また、以下、各構成について説明する。
【0046】
プローブ81は、支持部82に固定される略I字状のケース83と、このケース83に収容される2つの第1励磁コイル84及び第2励磁コイル85と、第1励磁コイル84及び第2励磁コイル85の交流磁界をそれぞれ検出する第1検出コイル86及び第2検出コイル87とにより構成されている。ここで、第1励磁コイル84と第1検出コイル86とが互いに直交し、第2励磁コイル85と第2検出コイル87とが互いに直交する。そして、第1励磁コイル84及び第2励磁コイル85は、隣接して配置されている。また、ケース83において、かしめ部60(図1参照)との対向面88には、略円弧形状の第1対向面88aと、第1対向面88aに対して傾斜して形成される略円弧形状の第2対向面88bとが設けられている。そして、第1対向面88aの位置には、第1励磁コイル84と第1検出コイル86とが配置され、第2対向面88bの位置には、第2励磁コイル85と第2検出コイル87とが配置されている。そして、第1励磁コイル84は、第1対向面88aと平行に配置され、第2励磁コイル85は、第2対向面88bと平行に配置されている。即ち、第2励磁コイル85は、第1励磁コイル84に対して傾斜した状態にて配置されている。そして、第2検出コイル87は、第1検出コイル86に対して傾斜した状態にて配置されている。
【0047】
また、第1対向面88aには、間隙設定部である突起部89が設けられている。この突起部89は、かしめ部60の内周部61の端面61a(図1及び図2参照)に当接することにより、リフトオフの大きさを設定する。そして、図6(b)に示すように、突起部89は、第1対向面88aの周方向に180度離間した位置に2つ設けられている。
【0048】
支持部82は、プローブ81を支持する支持アーム90と、プローブ81を探傷対象物に向かい付勢する付勢手段であるコイルばね91とにより構成されている。支持アーム90は、ケース83に固定されている。そして、支持アーム90の軸方向への移動に伴い、プローブ81が軸方向への移動を行う。また、コイルばね91は、突起部89が探傷対象物に当接した状態においても圧縮された状態を維持するように設定されている。
【0049】
次に、図7を参照して、探傷装置80による軸受装置10の傷の存在の有無の測定構造について説明する。
図7(a)に示すように、探傷装置80は、かしめ部60に対向するように配置されている。そして、図7(b)に示すように、探傷装置80は、第1対向面88a及び第2対向面88bが軸受装置10における探傷対象面となるかしめ部60の内周部61の端面61a及び外周部62の端面62aにそれぞれ平行となるように配置される。そして、支持部72により、端面61aにプローブ81の突起部89が当接するようにプローブ81を軸方向に沿って移動させる。これにより、リフトオフである、第1励磁コイル84と端面61aとの間の間隙であるリフトオフDL1、及び第2励磁コイル85と端面62aとの間の間隙であるリフトオフDL2がそれぞれ設定される。そして、これらリフトオフDL1,DL2の大きさは、互いに等しくなるように設定される。
【0050】
また、プローブ81の突起部89とかしめ部60の外周部62とが当接した状態において、コイルばね91により、突起部89は外周部62に向かい付勢される。これにより、突起部89と外周部62とは常に当接した状態を維持することができる。
【0051】
そして、プローブ81を周方向に対して固定した状態において、軸受装置10の回転体20を、回転中心軸Jを中心に回転させる。回転体20の回転に伴い、プローブ81は、かしめ部60の内周部61の端面61a、及び外周部62の端面62aを周方向に亘り検査する。
【0052】
本実施形態の探傷装置80によれば、第1の実施形態の効果(1)〜(5)に加え、以下の効果を奏することができる。
(6)本実施形態の探傷装置80では、探傷装置70の第1励磁コイル84及び第2励磁コイル85がかしめ部60の外周部62及び内周部61にそれぞれ平行に配置される構成である。この構成によれば、かしめ部60の内周部61及び外周部62を同時に渦電流を生じさせることができる。その上、第1励磁コイル84及び第2励磁コイル85にそれぞれ直交する第1検出コイル86及び第2検出コイル87を有しているため、かしめ部60の内周部61及び外周部62の渦電流の変化を同時に検出することができる。したがって、本実施形態の探傷装置70は、かしめ部60の内周部61及び外周部62を同時に検査することができる。その結果、探傷装置70によって、かしめ部60の内周部61及び外周部62を検査する場合、かしめ部60の検査工程を簡略化することができる。
【0053】
(第3の実施形態)
図8及び図9を参照して、本発明の探傷装置を車両用軸受装置の傷の存在を検査するための渦流探傷装置として具体化した第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、第1の実施形態と比較して、探傷装置100の形状を変更したのみであるため、軸受装置10の構造及び製造方法についての説明は省略する。
【0054】
まず、図8を参照して、探傷装置100の構成について説明する。
図8(a)に示すように、探傷装置100は、探傷対象物であるかしめ部60(図1及び図2参照)を検査するプローブ101と、このプローブ101を支持する支持部102とにより構成されている。そして、支持部102の移動に伴い、プローブ101は、かしめ部60に対する測定位置に設定される。以下、各構成について説明する。
【0055】
プローブ101は、支持部102に固定される略L字形状のケース103と、ケース103に収容される励磁コイル104と検出コイル105とにより構成されている。また、励磁コイル104及び検出コイル105は、それぞれ銅線を環状に巻回することにより形成されている。そして、検出コイル105は、励磁コイル104に対して直交するように配置されている。
【0056】
また、ケース103は、支持部102に支持されている筒部103aと、筒部103aに対して垂直に延設されるとともに、励磁コイル104及び検出コイル105を収容する収容部103bとにより構成されている。また、収容部103bの探傷対象物に対向する円環形状の対向面106には、間隙設定部である半球形状の突起部107が設けられている。この突起部107は、対向面76から探傷対象物に向かい突出している。そして、探傷装置100での測定時において、突起部107は、探傷対象物の表面に接触する。そして、図8(b)に示すように、突起部107は、収容部103bの周方向において互いに180度離間した位置に2つ設けられている。
【0057】
支持部102には、プローブ101を支持する第1支持アーム108と、この第1支持アーム108を支持する第2支持アーム109とにより構成されている。この第1支持アーム108は、第2支持アーム109に対して回動可能に構成されている。
【0058】
次に、図9を参照して、探傷装置100の軸受装置10のかしめ部60を検査するための配置構造について説明する。
図9(a)に示すように、探傷装置100がかしめ部60の外周部62の端面62aの傷の存在の有無を検査する場合、第1支持アーム108及び第2支持アーム109によって、収容部103bの対向面106が端面62aと略平行となるようにケース103の筒部103aを軸方向に対して傾ける。そして、第2支持アーム109を軸方向に移動させることにより、端面62aに突起部107を接触させる。この状態において、回転体20を回転させることにより、探傷装置100が端面62aの周方向の全周に亘り検査を行う。
【0059】
また、図9(b)に示すように、探傷装置100がかしめ部60の内周部61の端面61aの傷の存在の有無を検査する場合、第1支持アーム108及び第2支持アーム109によって、収容部103bの対向面106が端面61aと略平行となるようにケース103の筒部103aを軸方向に対して傾ける。特にこの場合においては、筒部103aを軸方向に対して垂直となるように傾ける。そして、第2支持アーム109を軸方向に移動させることにより、端面61aに突起部107を接触させる。この状態において、回転体20を回転させることにより、探傷装置100が端面61aの周方向の全周に亘り検査を行う。以上の構成により、探傷装置100は、第1の実施形態の効果(1)〜(5)を奏することができる。
【0060】
(その他の実施形態)
本発明は、上記に例示した実施形態に限定されることなく、以下のように変更することができる。
【0061】
・第1の実施形態では、探傷装置70は、かしめ部60の外周部62のみの検査を行ったが、かしめ部60の傷の存在の有無の検査は、外周部62のみに限定されることはない。例えば、外周部62に加え、内周部61の端面61aの傷の存在の有無の検査を行ってもよい。
【0062】
・第1の実施形態〜第3の実施形態では、軸受装置10の組立後に、軸受装置10のかしめ部60を探傷装置70,80によって傷の存在の有無の検査を行うが、探傷装置70,80によるかしめ部60の傷の存在の有無の検査の順番は、これに限定されることはない。例えば、軸受装置10の軸部22と内輪23とをかしめることによりかしめ部60を形成した後に、探傷装置70,80によってかしめ部60の傷の存在の有無の検査を行ってもよい。
【0063】
・第1の実施形態及び第2の実施形態では、付勢手段として、コイルばね79,91を用いたが、付勢手段の種類はこれに限定されることはない。例えば、付勢手段としてケース73,83にソレノイドを取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の探傷装置を具体化した第1の実施形態について、探傷対象物となる車両用軸受装置を軸方向に沿った平面にて切った断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態の探傷装置について、探傷対象物となる車両用軸受装置を軸方向の車体側より見た平面構造を示す平面図。
【図3】(a)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置の側面構造を示す側面図。(b)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置の正面構造を示す正面図。
【図4】(a)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置と探傷対象物となる車両用軸受装置との配置構造を示す模式図。(b)同実施形態の探傷装置について、(a)の拡大構造を示す拡大図。
【図5】同実施形態の探傷装置について、同探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造工程を示すフローチャート。
【図6】(a)本発明の探傷装置を具体化した第2の実施形態について、同探傷装置の側面構造を示す側面図。(b)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置の正面構造を示す正面図。
【図7】(a)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置と探傷対象物となる車両用軸受装置との配置構造を示す模式図。(b)同実施形態の探傷装置について、(a)の拡大構造を示す拡大図。
【図8】(a)本発明の探傷装置を具体化した第3の実施形態について、同探傷装置の側面構造を示す側面図。(b)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置の正面構造を示す正面図。
【図9】(a)同実施形態の探傷装置について、同探傷装置と探傷対象物となる車両用軸受装置との配置構造を示す模式図。(b)同実施形態の探傷装置について、(a)の拡大構造を示す拡大図。
【符号の説明】
【0065】
10…軸受装置(車両用軸受装置)、20…回転体、21…基部、22…軸部、23…内輪、24…上端部、25…連結部、26…円筒部、27…底部、28…外周面、28a…段部、29…端部、30…固定体、31…フランジ部、32…上端面、40…転動体、50…保持器、60…かしめ部、61…内周部、61a…端面、62…外周部、62a…端面(傾斜面)、70…探傷装置、71…プローブ、72…支持部、73…ケース、73a…筒部、73b…収容部、73c…端部、74…励磁コイル、75…検出コイル、76…対向面、77…突起部(間隙設定部)、78…支持アーム、79…コイルばね、80…探傷装置、81…プローブ、82…支持部、83…ケース、84…第1励磁コイル、85…第2励磁コイル、86…第1検出コイル、87…第2検出コイル、88…対向面、88a…第1対向面、88b…第2対向面、89…突起部(間隙設定部)、90…支持アーム、91…コイルばね、100…探傷装置、101…プローブ、102…支持部、103…ケース、104…励磁コイル、105…検出コイル、106…対向面、107…突起部(間隙設定部)、108…第1支持アーム、109…第2支持アーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流が供給されることにより、交流磁界を発生させる励磁コイルと、前記交流磁界を検出する検出コイルと、前記励磁コイル及び前記検出コイルを収容する筒状のケースとを備えるとともに、探傷対象物の探傷対象面を探傷する探傷装置において、
前記ケースには、前記探傷対象面に接触することにより、前記励磁コイルと前記探傷対象面との間隙の大きさを設定する間隙設定部が設けられる
ことを特徴とする探傷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の探傷装置において、
当該探傷装置は、円筒形状の軸部及び該軸部にかしめにより固定される内輪を有する回転体と、該回転体を外囲する円筒形状の固定体と、前記回転体と前記固定体との間に配置される転動体とを備えた車両用軸受装置の前記軸部と前記内輪とのかしめ部に前記間隙設定部を接触させて該かしめ部の探傷を行う
ことを特徴とする探傷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の探傷装置において、
前記かしめ部の径方向の外側の部位は、径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の車体側に傾斜する傾斜面が設けられ、
前記ケースは、前記励磁コイル及び前記検出コイルを収容する収容部を有し、
前記収容部は、前記傾斜面と平行に設けられるとともに、前記収容部には、前記間隙設定部が設けられ、
前記励磁コイルは、前記傾斜面と平行に配置される
ことを特徴とする探傷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の探傷装置において、
前記ケースは、前記収容部と連続する筒部を有し、
前記筒部は、軸方向に沿って、前記収容部から車体側に向かい延びる形状である
ことを特徴とする探傷装置。
【請求項5】
請求項2に記載の探傷装置において、
前記かしめ部は、径方向の外側に向かうにつれて、軸方向の車体側に傾斜する傾斜面が設けられる外周部と、該外周部より径方向の内側に設けられる内周部とを有し、
前記ケースに収容される前記励磁コイルは、前記外周部の前記傾斜面に対して平行に配置される第1励磁コイルと、前記内周部の軸方向の端面に対して平行に配置される第2励磁コイルとにより構成され、
前記検出コイルは、前記第1励磁コイルの交流磁界を検出する第1検出コイルと、前記第2励磁コイルの交流磁界を検出する第2検出コイルとにより構成される
ことを特徴とする探傷装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の探傷装置を用いた車両用軸受装置の製造方法において、
当該車両用軸受装置は、円筒形状の軸部及び該軸部にかしめにより固定される内輪を有する回転体と、該回転体を外囲する円筒形状の固定体と、前記回転体と前記固定体との間に配置される転動体とを備え、
前記軸部と前記内輪とをかしめにより組立てる第1工程と、
前記探傷装置によって、前記軸部と前記内輪とがかしめられたかしめ部を探傷する第2工程とを備え、
前記第2工程において、
前記探傷装置は、前記かしめ部に前記ケースの前記間隙設定部を接触させる
ことを特徴とする車両用軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−151686(P2010−151686A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331476(P2008−331476)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】