説明

探査方法

【課題】非破壊で地盤に形成された改良体の分布を評価する。
【解決手段】まず、地盤改良を行う前に、地盤改良を行う対象エリアの周波数領域電磁探査を行い(ステップS1)、次に、磁性体を混入したセメント系材料を地盤に注入して地盤改良を行い(ステップS3,S4)、次に、この対象エリアの周波数領域電磁探査を行う(ステップS4)。そして、地盤改良前の改良前電磁探査結果と地盤改良後の改良後電磁探査結果との差分に基づいて改良体の分布を評価する(ステップS5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良を行うために地盤に注入したセメント系材料の改良体を探査する探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、セメント系材料を地盤に注入することにより地盤を改良する地盤改良工法として、地盤改良注入工法、機械攪拌及び高圧噴射攪拌工法、空洞・空隙充填工法などが知られている。地盤改良注入工法は、地盤に貫入した注入ロッドの先端からセメント系材料を噴出させるとともに注入ロッドを順次引き上げることで、地盤に略球形の連なる改良体を形成する工法である。機械攪拌及び高圧噴射攪拌工法は、地盤に貫入した注入ロッドの先端からセメント系材料を高圧噴射するとともに注入ロッドを回転させながら引き上げることで、地盤に略円柱状の改良体を形成する工法である。空洞・空隙充填工法は、地盤に形成された空洞や空隙にセメント系材料を注入することで、空洞や空隙を改良体で充填する工法である。
【0003】
しかしながら、これらの改良体は地盤に形成されているため、地盤改良が適切に行われているか否かを目視により評価することができない。
【0004】
そこで、特許文献1では、グラウト注入孔に蛍光物質を混入したグラウト材を注入し、このグラウト注入孔の周囲に形成したボーリング孔から発光光線を照射してグラウトに混入された蛍光物質を発光させることで、改良体の充填状況を評価する方法が考えられている。また、特許文献2では、グラウト注入孔の周囲に複数のボーリング孔を形成し、このボーリング孔から弾性波を送受振することで、改良体の充填状況を評価する方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3309891号公報
【特許文献2】特開2007−009512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載された方法では、グラウト注入孔の周辺にボーリング孔を形成する必要があるため、非破壊で地盤に形成された改良体の分布を評価することができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、非破壊で地盤に形成された改良体の分布を評価することができる探査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る探査方法は、地盤に注入したセメント系材料の改良体を探査する探査方法であって、セメント系材料を地盤に注入して改良体を形成する地盤改良工程と、地盤改良工程が行われる前の地盤を電磁探査して改良前の電磁探査結果を取得する改良前電磁探査工程と、地盤改良工程が行われた後の地盤を電磁探査して改良後の電磁探査結果を取得する改良後電磁探査工程と、改良前の電磁探査結果と改良後の電磁探査結果との差分に基づいて地盤の改良を評価する評価工程と、を有する。
【0009】
本発明に係る探査方法によれば、セメント系材料を地盤に注入することで、地盤改良工程の前後で地盤の帯磁率が変化するため、地盤改良工程前後に非破壊探査である電磁探査を行い、その電磁探査結果の差分を求めることで、地盤に形成された改良体の位置を特定することができる。これにより、地盤の掘削等を行わなくても、非破壊で地盤に形成された改良体の分布を評価することができる。
【0010】
この場合、地盤改良工程の前に、セメント系材料に磁性体を混入する混入工程を有することが好ましい。このように、磁性体を混入させたセメント系材料を地盤に注入することで、改良体が形成された地盤において、地盤改良工程の前後で帯磁率を大きく変化させることができる。これにより、地盤に形成された改良体の位置をより明確に特定することができる。
【0011】
そして、改良体の帯磁率を地盤改良工程が行われる前の地盤の帯磁率よりも高くすることが好ましい。このように、改良体の帯磁率を高くすることで、改良体が形成された位置の電磁探査結果が改良前と改良後とで大きく変わるため、改良体の位置をより明確に特定することができる。
【0012】
また、電磁探査は、周波数領域電磁探査であることが好ましく、また、改良前電磁探査工程及び改良後電磁探査工程では、同相成分の電磁探査結果を取得することが好ましい。このようにすることで、改良体の位置をより明確に特定することができる。
【0013】
また、磁性体は、粒径が0.3mm以下であることが好ましい。このように、磁性体の粒径を0.3mm以下とすることで、セメント系材料との混合性及び拡散性が向上し、セメント系材料の中で磁性体が沈殿するのを抑止できるとともに、地盤に貫入してセメント系材料を吐出させる注入ロッド内で磁性体が詰まるのを抑止することができる。
【0014】
また、磁性体は、電気炉酸化スラグ細骨材であることが好ましい。このように、磁性体に電気炉酸化スラグ細骨材を用いることで、コストの増大を抑制することができる。また、電気炉酸化スラグの水硬性により、改良体の強度を長期にわたって大きく発現させることができるとともに、改良体の大きな支持力を得ることができる。しかも、改良体の単位容積質量が大きくなるため、ヤング係数が増大して改良体の収縮を抑制することができ、また、電気炉酸化スラグの剪断抵抗角が大きいことから、改良体の剪断抵抗を増大させることができる。
【0015】
ところで、本発明者は、単位面積あたりのセメント系材料における電気炉酸化スラグの含有量と改良体の帯磁率との関係について鋭意研究を行ったところ、両者は特定の比例関係にあるとの知見に至った。
【0016】
そこで、上記の地盤改良工程では、1mの改良体における電気炉酸化スラグ細骨材の含有量をx、改良体の帯磁率をy、とした場合に、y=0.0002x+0.0032の関係式に基づいて電気炉酸化スラグ細骨材の混入量を求めることが好ましい。このような関係式に基づいてセメント系材料に対する電気炉酸化スラグ細骨材の混入量を求めることで、改良体の帯磁率を調節することができるため、地盤改良工程を行う前の地盤の帯磁率よりも改良体の帯磁率が常に高くなるように、電気炉酸化スラグの混入量を求めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非破壊で地盤に形成された改良体の分布を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る探査方法を示した工程図である。
【図2】電磁探査装置の概略構成図である。
【図3】電気炉酸化スラグ含有量と帯磁率との関係図である。
【図4】改良体である供試体の埋設状態を示した図である。
【図5】供試体の帯磁率を示した図である。
【図6】実施例1である同相成分の周波数領域電磁探査結果を示す図である。
【図7】実施例2である異相成分の周波数領域電磁探査結果を示す図である。
【図8】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明に係る探査方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、全図中、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0020】
本実施形態に係る探査方法は、地盤改良注入工法、機械攪拌及び高圧噴射攪拌工法、空洞・空隙充填工法などの、セメント系材料を地盤に注入することにより地盤を改良する地盤改良工法に適用されて、地盤に形成されるセメント系材料の改良体の分布を評価する方法である。
【0021】
図1は、実施形態に係る探査方法を示した工程図である。図1に示すように、本実施形態に係る探査方法では、まず、地盤改良を行おうとする地盤の対象エリアに対して地表から周波数領域電磁探査を行う(ステップS1:改良前電磁探査工程)。なお、電磁探査は、発生した一次磁場に対する電磁応答である二次磁場の大きさを検出することで地盤状態を検出するものである。そして、周波数領域電磁探査は、この電磁応答を周波数の関数として扱うものであり、電磁波の周波数を変えることで地盤状況を検出する地盤深度を変えることができる。なお、本実施形態では、地盤深度が10m程度までの領域を計測対象とする。
【0022】
ここで、図2を参照して、周波数領域電磁探査を行う電磁探査装置1の一例について説明する。図2は、電磁探査装置の概略構成図である。図2に示すように、電磁探査装置1は、一次磁場を発生する励磁コイルが設けられた送信部2と、一次磁場に対する電磁応答による二次磁場を受信する受信コイルが設けられた受信部3と、送信部2と受信部3とを所定間隔で連結する連結棒4と、連結棒4の両端に連結されたストラップ5と、を備える。すなわち、電磁探査装置1は、送信部2の励磁コイルで一次磁場を発生させると、地盤の磁性体が電磁応答して二次磁場が発生するため、受信部3の受信コイルで二次磁場を検出し、一次磁場に対する二次磁場の比から、地盤状況を検出するものである。
【0023】
そして、ステップS1の改良前電磁探査工程では、電磁探査装置1を持った作業者が、送信部2と受信部とを水平に保持した状態で、対象エリア上の測線に沿って歩行することで、地表から対象エリアの周波数領域電磁探査を行う。そして、周波数領域電磁探査の結果である同相成分の改良前電磁探査結果を取得し、保存しておく。なお、改良前電磁探査結果は、例えば、電磁探査装置1により発生された一次磁場に対する二次磁場の大きさを百万分率(ppm)で表したものである。
【0024】
次に、地盤に注入するセメント系材料に磁性体を混入させて、セメント系材料の帯磁率を、地盤にセメント系材料を注入する前の対象エリアの帯磁率よりも高くする(ステップS2:磁性体混入工程)。このセメント系材料に混入させる磁性体は、金属粉や黒鉛粉など様々な物質を用いることが可能であるが、コストなどの観点から電気炉酸化スラグ細骨材を用いることが好ましい。
【0025】
地盤にセメント系材料を注入する前の対象エリアの帯磁率は、様々な方法により求めることができる。例えば、一般的な地盤の帯磁率(0.01未満)を採用してもよく、実際に対象エリアの土砂の帯磁率を計測することにより求めてもよい。なお、地盤の帯磁率を計測する場合は、後述する地盤改良工程で掘削する土砂の帯磁率を計測することが好ましい。
【0026】
ところで、上述したように、本発明者が、単位面積あたりのセメント系材料における電気炉酸化スラグの混入量と改良体の帯磁率との関係を実験により調査したところ、図3に示すようになった。図3は、電気炉酸化スラグ含有量と帯磁率との関係図であり、調査結果を△印でプロットしている。なお、領域Aは、一般的な地盤の帯磁率の範囲を示している。図3に示すように、△印のプロットを分析すると、1mの改良体における電気炉酸化スラグの含有量xと、改良体の帯磁率yとは、
y=0.0002x+0.0032 …(1)
の比例関係にあることが分かった。
【0027】
そこで、ステップS2の磁性体混入工程において電気炉酸化スラグ細骨材をセメント系材料に混入させる場合は、(1)式を用いて、セメント系材料の帯磁率が、地盤にセメント系材料を注入する前の対象エリアの帯磁率よりも高くなるように、電気炉酸化スラグ細骨材の混入量を決定する。例えば、図3の領域Aに示すように、一般的な地盤の帯磁率の範囲は0.01未満である。このため、ステップS2の磁性体混入工程では、セメント系材料の帯磁率が、一般的な地盤の帯磁率よりも十分に高い0.02以上となるように、電気炉酸化スラグ細骨材の混入量を100kg/m以上とすることが好ましい。
【0028】
また、セメント系材料に混入する磁性体は、セメント系材料との混合性や分散性の観点から、粒径の小さいものが好ましい。具体的には、粒径が0mmよりも大きく0.5mm以下の範囲内であることが好ましく、粒径が0mmよりも大きく0.3mm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0029】
次に、磁性体が混入されたセメント系材料を地盤に注入することで対象エリアの地盤を改良する(ステップS3:地盤改良工程)。
【0030】
ここで、地盤改良工法として、地盤改良注入工法、機械攪拌及び高圧噴射攪拌工法、空洞・空隙充填工法を行う場合の、地盤改良工程の手順について説明する。
【0031】
地盤改良注入工法では、まず、対象エリアをボーリングして注入孔を形成する。そして、この注入孔にセメント系材料を注入するための注入ロッドを挿入して、注入ロッドの先端からセメント系材料を吐出する。すると、注入ロッドの先端を中心にセメント系材料が地盤に浸透しながら略球形に広がる。そして、所定量のセメント系材料を吐出すると、注入ロッドを所定高さだけ引き上げて、再度、注入ロッドの先端からセメント系材料を吐出する。その後、注入ロッドの引き上げとセメント系材料の吐出を複数回繰り返すと、セメント系材料の吐出を停止して注入ロッドを注入孔から抜き去り、セメント系材料が固化するまで放置する。これにより、地盤には、セメント系材料の改良体が、注入孔に沿って連なる櫛団子状に形成される。
【0032】
機械攪拌工法では、まず、対象エリアに、攪拌翼が取り付けられた注入ロッドを貫入する。そして、注入ロッドの先端からセメント系材料を吐出し、注入ロッドを回転させながら徐々に引き上げる。すると、攪拌翼の回転により注入ロッドの先端から吐出されたセメント系材料と地盤の土砂が攪拌される。その後、注入ロッドが所定高さまで引き上げられると、セメント系材料の吐出を停止して注入ロッドを注入孔から抜き去り、セメント系材料が固化するまで放置する。これにより、地盤には、セメント系材料の改良体が、注入孔を軸とした略円筒状に形成される。
【0033】
高圧噴射攪拌工法では、まず、対象エリアをボーリングして注入孔を形成する。そして、この注入孔にセメント系材料を注入するための注入ロッドを挿入すると、注入ロッドの先端からセメント系材料を水平方向に高圧で噴射し、注入ロッドを回転させながら徐々に引き上げる。すると、注入ロッドの先端から噴射されたセメント系材料と地盤の土砂とが攪拌される。その後、注入ロッドが所定高さまで引き上げられると、セメント系材料の吐出を停止して注入ロッドを注入孔から抜き去り、セメント系材料が固化するまで放置する。これにより、地盤には、セメント系材料の改良体が、注入孔を軸とした略円筒状に形成される。
【0034】
空洞・空隙充填工法では、まず、対象エリアをボーリングして空洞・空隙に貫通する注入孔を形成する。そして、この注入孔にセメント系材料を注入するための注入ロッドを挿入すると、注入ロッドの先端からセメント系材料を吐出する。すると、空洞・空隙にセメント系材料が充填される。そして、所定量のセメント系材料を吐出すると、セメント系材料の吐出を停止して注入ロッドを注入孔から抜き去り、セメント系材料が固化するまで放置する。これにより、地盤には、空洞・空隙を埋めるセメント系材料の改良体が形成される。
【0035】
次に、対象エリアに対して地表から周波数領域電磁探査を行う(ステップS4:改良後電磁探査工程)。なお、ステップS4の改良後電磁探査工程で行う周波数領域電磁探査は、ステップS1の改良前電磁探査工程で行う周波数領域電磁探査と同様であり、図2に示す電磁探査装置1を持った作業者が、送信部2と受信部とを水平に保持した状態で、対象エリア上の測線に沿って歩行することで、地表から対象エリアの周波数領域電磁探査を行う。そして、この周波数領域電磁探査の結果である同相成分の改良後電磁探査結果を取得し、保存しておく。なお、改良後電磁探査結果は、改良前電磁探査結果と同様に、例えば、電磁探査装置1により発生された一次磁場に対する二次磁場の大きさを百万分率(ppm)で表したものである。
【0036】
次に、ステップS1の改良前電磁探査工程で保存した改良前周波数電磁探査結果と、ステップS4の改良後電磁探査工程で保存した改良後周波数電磁探査結果との差分に基づいて、対象エリアの地盤に形成された改良体の分布を評価する(ステップS5:評価工程)。具体的に説明すると、まず、改良前周波数電磁探査結果と改良後周波数電磁探査結果の差分を算出し、この算出した差分をコンタ図に表示する。すると、磁性体が混入されたセメント系材料の改良体が形成された位置では、このセメント系材料を注入する前よりも帯磁率が増大しているため、改良前周波数電磁探査結果と改良後周波数電磁探査結果の差分が顕著に現れる。そこで、このコンタ図から改良体が形成されている位置を判断することで、対象エリアの地盤に形成された改良体の分布を評価することができる。
【0037】
このように、本実施形態に係る探査方法によれば、地盤に注入するセメント系材料に磁性体を混入することで、地盤改良工程の前後で地盤の帯磁率を大きく変化させることができるため、地盤改良工程前後に非破壊探査である周波数領域電磁探査を行い、その電磁探査結果の差分を求めることで、地盤に形成された改良体の位置を特定することができる。特に、地盤には様々な帯磁率を有する土砂が存在するため、改良前周波数電磁探査結果又は改良後周波数電磁探査結果のみでは、改良体が形成された位置を特定し難い場合もあるが、このように、改良前周波数電磁探査結果と改良後周波数電磁探査結果の差分を求めることで、地盤に形成された改良体の位置を特定し易くすることができる。
【0038】
また、磁性体の混入により、改良体の帯磁率を地盤改良工程が行われる前の地盤の帯磁率よりも高くすることで、改良体の位置をより明確に特定することができる。
【0039】
また、磁性体の粒径を0.3mm以下とすることで、セメント系材料との混合性及び拡散性が向上し、磁性体が沈殿するのを抑止できるとともに、注入ロッド内で磁性体が詰まるのを抑止することができる。
【0040】
また、磁性体として電気炉酸化スラグ細骨材をセメント系材料に混入させることで、電気炉酸化スラグを混入しない通常の改良体と比較した場合に、電気炉酸化スラグの水硬性により、改良体の強度を長期にわたって大きく発現させることができるとともに、改良体の大きな支持力を得ることができる。しかも、改良体の単位容積質量が大きくなるため、ヤング係数が増大して改良体の収縮を抑制することができ、また、電気炉酸化スラグの剪断抵抗角が大きいことから、改良体の剪断抵抗を増大させることができる。
【0041】
また、上記(1)式に基づいてセメント系材料に対する電気炉酸化スラグ細骨材の混入量を求めることで、改良体の帯磁率を調節することができるため、地盤改良工程を行う前の地盤の帯磁率よりも改良体の帯磁率が常に高くなるように、電気炉酸化スラグの混入量を求めることができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、電磁探査として周波数領域電磁探査を行うものとして説明したが、地盤改良工程の前後で電磁探査結果に差分が生じれば如何なる探査を行うものとしてもよく、例えば、時間領域電磁探査を行うものとしてもよい。また、上記実施形態では、同相成分の周波数領域電磁探査結果を用いるものとして説明したが、異相成分の周波数領域電磁探査結果を用いるものとしても良い。
【0043】
また、上記実施形態では、セメント系材料に磁性体を混入させるものとして説明したが、セメント系材料の帯磁率が、地盤にセメント系材料を注入する前の対象エリアの帯磁率と異なれば、特にセメント系材料に磁性体を混入しなくてもよい。
【実施例】
【0044】
(実施例1及び実施例2)
実施例1及び実施例2では、セメントの供試体を改良体の代わりに地盤に埋設し、周波数領域電磁探査を行って改良前電磁探査結果と改良後電磁探査結果とを取得し、これらの差分を観察した。なお、周波数領域電磁探査は、応用地質株式会社が販売する米国GSSI社の電磁法探査装置(Profiler EMP-400)を用いた。そして、実施例1では、周波数領域電磁探査で電磁探査結果の同相成分を利用し、実施例2では、周波数領域電磁探査で電磁探査結果の90°ずれた異相成分を利用した。以下、詳しく説明する。
【0045】
図4は、改良体である供試体の埋設状態を示した図、図5は、供試体の帯磁率を示した図、図6は、実施例1である同相成分の周波数領域電磁探査結果を示す図、図7は、実施例2である異相成分の周波数領域電磁探査結果を示す図である。
【0046】
図4及び図5に示すように、まず、セメント系材料の改良体としとて、直径1.0m、高さ0.3mの円柱状の供試体を5体(供試体α1〜α5)製造した。具体的には、以下の通りである。供試体α1は、磁性体を混入せずにセメントのみで製造することで、帯磁率を一般的な地盤の帯磁率よりも低い0.0031とした。供試体α2は、粒径が0〜0.3mmの範囲内の電気炉酸化スラグ細骨材を混入させ、帯磁率を0.41とした。供試体α3、供試体α4及び供試体α5は、粒径が0〜0.3mmの範囲内の電気炉酸化スラグ細骨材を混入させ、帯磁率を0.18とした。
【0047】
次に、電磁探査装置1を持った作業者が、送信部2と受信部とを水平に保持した状態で、対象エリアB上の測線Dに沿って歩行し、地表から対象エリアBの周波数領域電磁探査を行い、この周波数領域電磁探査の結果である同相成分(In Phase)の改良前電磁探査結果(実施例1)と、位相が90°ずれた異相成分(Quadrature)の改良前電磁探査結果(実施例2)とを取得した。この改良前電磁探査結果は、一次磁場に対する二次磁場の大きさを百万分率(ppm)で表したものであり、同相成分の改良前電磁探査結果を図6(a)のコンタ図に示し、異相成分の改良前電磁探査結果を図7(a)のコンタ図に示す。なお、対象エリアB上の測線Dは、対象エリアBの長手方向に平行な複数の直線とし、各直線の間隔を1mとした。
【0048】
次に、縦10m×横20mの地盤を地盤改良が行われる対象エリアBとし、この対象エリアBに供試体α1、供試体α2、供試体α3、供試体α4及び供試体α5を、直線状に2m間隔で埋設した。具体的には、以下の通りである。供試体α1は、対象エリアBに縦2.0m×横1.4mの埋設孔C1を掘り、この埋設孔C1に供試体α1の天面の深度が1.0mとなるように埋設した。供試体α2は、対象エリアBに縦2.0m×横1.4mの埋設孔C2を掘り、この埋設孔C2に供試体α2の天面の深度が1.0mとなるように埋設した。供試体α3は、対象エリアBに縦2.0m×横1.4mの埋設孔C3を掘り、この埋設孔C3に供試体α3の天面の深度が1.0mとなるように埋設した。供試体α4は、対象エリアBに縦5.0m×横1.4mの埋設孔C4を掘り、この埋設孔C4に供試体α4の天面の深度が2.0mとなるように埋設した。供試体α5は、対象エリアBに縦2.0m×横1.4mの埋設孔C5を掘り、この埋設孔C5に供試体α5の天面の深度が0.5mとなるように埋設した。このように、供試体α1、供試体α2及び供試体α3は、埋設深度を同一条件とし、帯磁率のみを異なる条件とした。また、供試体α3、供試体α4及び供試体α5は、帯磁率を同一条件とし、埋設深度を異なる条件とした。
【0049】
次に、供試体α1〜α5を埋設して埋設孔C1〜C5に掘削した土砂を埋め戻した後、電磁探査装置1を持った作業者が、送信部2と受信部とを水平に保持した状態で、対象エリアB上の測線Dに沿って歩行し、地表から対象エリアBの周波数領域電磁探査を行い、この周波数領域電磁探査の結果である同相成分の改良後電磁探査結果(実施例1)と、90°位相がずれた異相成分の改良後電磁探査結果(実施例2)とを取得した。この改良後電磁探査結果は、一次磁場に対する二次磁場の大きさを百万分率(ppm)で表したものであり、同相成分の改良後電磁探査結果を図6(b)のコンタ図に示し、異相成分の改良後電磁探査結果を図7(b)のコンタ図に示す。
【0050】
そして、供試体の埋設後に探査した改良後電磁探査結果から供試体の埋設前に探査した改良前電磁探査結果を差し引いた差分を求めた。同相成分の改良前電磁探査結果と改良後電磁探査結果との差分(実施例1)を図6(c)のコンタ図に示し、異相成分の改良前電磁探査結果と改良後電磁探査結果との差分(実施例2)を図7(c)のコンタ図に示す。
【0051】
図6(c)のコンタ図を観察すると、実施例1では、同相成分の改良前電磁探査結果と改良後電磁探査結果との差分を求めることで、全ての供試体α1〜α5の特徴が顕著に現れることが分かる。これにより、同相成分の改良前電磁探査結果と改良後電磁探査結果との差分に基づいて、供試体の位置を十分に特定可能であることが分かった。
【0052】
また、帯磁率が等しい供試体α3〜α5を比べると、埋設深度が1.0mの供試体α3に比べ、埋設深度が0.5mの浅い供試体α5は差分が大きく現れ、埋設深度が2.0mの深い供試体α4は差分が小さく現れていることが分かる。これにより、帯磁率を等しくすることで、供試体間における埋設深度の深浅を判断することができることが分かった。
【0053】
また、埋設深度が等しい供試体α1〜α3を比べると、帯磁率が0.18の供試体α3に比べ、帯磁率が0.41の供試体α2は差分が大きく現れ、帯磁率が0.0031の供試体α1は差分が小さく現れていることが分かる。これにより、埋設深度が同じであれば、供試体の帯磁率を大きくすることで、供試体の位置が特定し易くなることが分かった。
【0054】
一方、実施例1と実施例2とを比較すると、異相成分の電磁探査結果を用いた実施例2よりも、同相成分の電磁探査結果を用いた実施例1の方が、差分が明確に表れていることが分かる。これにより、異相成分の電磁探査結果を用いても供試体の位置を特定することが可能であるが、同相成分の電磁探査結果を用いた方が供試体に位置をより明確に特定できることが分かった。
【0055】
次に、様々な種類の探査を行う比較例1〜8と実施例1とを対比して、供試体を検出することができるか否かを評価した。
【0056】
(比較例1)
比較例1は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、時間領域電磁探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0057】
(比較例2)
比較例2は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、磁気探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0058】
(比較例3)
比較例3は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、IP探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0059】
(比較例4)
比較例4は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、比抵抗探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0060】
(比較例5)
比較例5は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、屈折法探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0061】
(比較例6)
比較例6は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、表面波探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0062】
(比較例7)
比較例7は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、重力探査により、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0063】
(比較例8)
比較例8は、実施例1と同じ条件で供試体α1〜α5を地盤の対象エリアBに埋設し、地中レーダーにより、供試体を埋設する前の改良前探査結果と供試体を埋設した後の改良後探査結果とを取得し、これらの差分をコンタ図で示した。
【0064】
そして、実施例1及び比較例1〜8のコンタ図を観察して、供試体α1〜α5の検出有無と、その差分と帯磁率及び深度との相関とについて評価した。この評価結果を図8に示す。
【0065】
図8に示すように、実施例1では、上述した通り、供試体を検出することができるとともに、帯磁率及び深度との相関が明確に現れたが、比較例1は、供試体を検出することができたものの帯磁率及び深度との相関が不明瞭になり、比較例2〜比較例8は、殆ど供試体を検出することができなかった。これにより、周波数領域電磁探査法により同相成分の電磁探査結果の差分を用いることで、他の探査法と比べて、供試体(改良体)が検出しやすくなるとともに、その差分に供試体(改良体)の帯磁率及び深度との相関が表れやすくなることが分かった。
【符号の説明】
【0066】
1…電磁探査装置、2…送信部、3…受信部、4…連結棒、5…ストラップ、α1〜α5…供試体、B…対象エリア、C1〜C5…埋設孔、D…測線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に注入したセメント系材料の改良体を探査する探査方法であって、
前記セメント系材料を地盤に注入して前記改良体を形成する地盤改良工程と、
前記地盤改良工程が行われる前の地盤を電磁探査して改良前の電磁探査結果を取得する改良前電磁探査工程と、
前記地盤改良工程が行われた後の地盤を電磁探査して改良後の電磁探査結果を取得する改良後電磁探査工程と、
前記改良前の電磁探査結果と前記改良後の電磁探査結果との差分に基づいて地盤の改良を評価する評価工程と、
を有する、探査方法。
【請求項2】
前記地盤改良工程の前に、前記セメント系材料に磁性体を混入する混入工程を有する、請求項1に記載の探査方法。
【請求項3】
前記混入工程では、前記改良体の帯磁率を前記地盤改良工程が行われる前の地盤の帯磁率よりも高くする、請求項2に記載の探査方法。
【請求項4】
前記電磁探査は、周波数領域電磁探査である、請求項1〜3の何れか1項に記載の探査方法。
【請求項5】
前記改良前電磁探査工程及び前記改良後電磁探査工程では、同相成分の電磁探査結果を取得する、請求項4に記載の探査方法。
【請求項6】
前記磁性体は、粒径が0.3mm以下である、請求項2〜5の何れか1項に記載の探査方法。
【請求項7】
前記磁性体は、電気炉酸化スラグ細骨材である、請求項6に記載の探査方法。
【請求項8】
前記地盤改良工程では、
1mの改良体における前記電気炉酸化スラグ細骨材の含有量をx、
改良体の帯磁率をy、とした場合に、
y=0.0002x+0.0032
の関係式に基づいて前記電気炉酸化スラグ細骨材の混入量を求める、
請求項7に記載の探査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127913(P2012−127913A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281815(P2010−281815)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】