説明

探針および磁気力顕微鏡

【課題】従来に比べ保磁力の大きい探針および磁気力顕微鏡を提供する。
【解決手段】先鋭部40を有する探針2において、前記先鋭部40にイプシロン型酸化鉄系化合物を含む磁性体42が設けられていることを特徴とする。イプシロン型酸化鉄系化合物は、保磁力が20kOe程度であるので、従来に比べ格段と保磁力の大きい探針2を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探針および磁気力顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)は、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning
Probe Microscope)における代表的な顕微鏡の一つであり、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic
Force Microscope)で使用されるカンチレバーに磁性膜、例えば、Co−Prのスパッタリング膜を被覆した探針を用いて、試料表面の磁気情報を得ている(例えば、特許文献1)。この磁気力顕微鏡では、試料に対し強度、方向の異なる外部磁場を印加することにより、磁化過程、磁化反転過程などを観察することができる。
【0003】
また、探針としては、カンチレバーにカーボンナノチューブを固定し、当該カーボンナノチューブの先端に機能性物質をコーティングしたカーボンナノチューブプローブが開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−218213号公報
【特許文献2】特開2009−58488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
探針は、保磁力が小さいと試料および外部磁場の影響を受け、試料および外部磁場の大きさによっては磁化が反転してしまう。したがって、観察の条件や観察対象が、探針の保磁力によって制限されることになる。従来、保磁力が10kOe程度の探針が開示されているが、さらなる保磁力の向上が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、上記した問題点に鑑み、従来に比べ保磁力の大きい探針および磁気力顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る探針は、先鋭部を有する探針において、前記先鋭部にイプシロン型酸化鉄系化合物を含む磁性体が設けられていることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係る探針は、前記磁性体が、ロッド状に形成されており、両端部が互いに異なる磁極を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係る探針は、前記ロッド状に形成された磁性体が、塊状に固着していることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に係る磁気力顕微鏡は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の探針を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1によれば、先鋭部にイプシロン型酸化鉄系化合物で構成された磁性体が設けられていることにより、従来に比べ格段と保磁力の大きい探針を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る磁気力顕微鏡の全体構成を模式的に示す構成図である。
【図2】本実施形態に係る探針の構成を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係る磁性体を撮影した磁気力顕微鏡写真であり、(A)は形状像、(B)は磁気像である。
【図4】本実施形態に係る交流電気泳動法を用いた磁性体カートリッジの製造装置の概略構成図である。
【図5】本実施形態に係る磁性体カートリッジの構成を示す斜視図である。
【図6】本実施形態に係る探針の製造工程(転移処理工程)を示す斜視図である。
【図7】本実施形態に係る探針の製造工程(転移処理工程)を示す模式図である。
【図8】本実施形態に係る探針の製造工程(固着処理工程)を示す模式図であり、(A)はカーボン被膜を形成した状態、(B)はナイフエッジを下方に静的に移動させた状態を示す図である。
【図9】実施例に係る探針の構成を示すSEM画像である。
【図10】図9に示す探針の先鋭部を拡大したSEM画像である。
【図11】実施例に係る探針の磁化特性を測定した結果を示すグラフである。
【図12】比較例に係る非磁性Si探針の構成を示すSEM画像である。
【図13】実施例に係る探針を用いて測定したMFM像である。
【図14】比較例に係る非磁性Si探針を用いて測定したMFM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.全体構成
(磁気力顕微鏡)
図1に示すように、本実施形態に係る磁気力顕微鏡1は、探針の構成に特徴を有し、当該探針を除く他の構成は、公知の構成を適用することができる。また、本実施形態に係る磁気力顕微鏡1は、以下に示す形態に限定されるものではない。
【0014】
本図に示す磁気力顕微鏡1は、一端側に探針2が設けられたカンチレバー4と、試料6を支持するステージ8と、ステージ8を移動させるステージ移動部10と、カンチレバー4の一端の変位を検出する変位検出部12と、カンチレバー4を振動させる励振部14と、外部磁場印加部16とを備える。ステージ8は、ステージ移動部10により、試料6を試料6表面に平行なX−Y方向、および試料6表面に対し垂直なZ方向に、移動可能に構成されている。また、磁気力顕微鏡1は、全体の動作の統括的制御や情報処理を行う制御部11と、入力部13とを備える。
【0015】
試料6は、磁区構造を有する部材であって、特に限定されないが、例えば、ハードディスクや磁気テープ等の磁気記録媒体や電子線リソグラフィー等の技術により作成された微細な磁性パターンなどを挙げることができる。なお、磁区とは、磁気モーメントが一方向に揃っている小さな領域をいう。
【0016】
カンチレバー4は、他端が励振部14に支持されており、一端が自由端となっている。このカンチレバー4の一端側に設けられた探針2は、ステージ8に保持された試料6上に配置されている。
【0017】
励振部14は、例えばピエゾ素子で構成され、探針駆動部18に接続されている。この励振部14は、探針駆動部18から供給される高周波交流信号からなる駆動信号により駆動され、カンチレバー4をZ方向に振動させる。これにより、探針2は、試料6の表面上でZ方向に振動する。
【0018】
変位検出部12は、カンチレバー4の一端の背面にレーザ光を照射する照射部20と、カンチレバー4の一端の背面で反射された反射光を検出する検出部22とを有し、いわゆる光てこ方式によりカンチレバーの変位を計測する。照射部20は、照射駆動部24によって駆動され、所定強度のレーザ光をカンチレバー4の一端に向かって照射する。検出部22は、反射光を検出すると検出信号を生成し、当該検出信号を検出信号処理部26へ出力する。実際上、検出信号は、ノイズが除去された状態で出力される。
【0019】
検出信号処理部26は、探針駆動部18から供給される駆動信号と、検出部22から出力される検出信号が入力される。検出信号処理部26は、検出信号から駆動信号を除去して磁気強度信号を生成する。
【0020】
外部磁場印加部16は、電磁石28と、電源部30とで構成され、電源部30から供給される電流によって、ステージ8上の試料6に対しXY方向の外部磁場を発生させる。
【0021】
なお、磁気力顕微鏡1は、表面が凹凸を有する試料6を観察する場合、磁気力の観察を行う磁気探査に前記表面形状が影響しないよう、磁気探査を行う前に前記表面形状を観察する。この場合、磁気力顕微鏡1は、試料6と探針2の間に作用する作用力、例えば原子間力の変動によって生じるカンチレバー4の変位を上記変位検出部12で検出する。この場合、検出信号処理部26は、試料6の表面の凹凸に対応した表面形状信号を生成し、表面形状解析部32に出力する。表面形状解析部32は、表面形状信号をZ方向の凹凸信号に変換し、メモリ35に記憶する。この凹凸信号は、磁気探査において、ステージ移動部10に出力される。ステージ移動部10は、凹凸信号に基づき、ステージ8をZ方向に移動させる。これにより、磁気力顕微鏡1は、表面形状に合わせてステージ8上の試料6をZ方向に移動させることにより、試料6の表面形状の影響を受けずに磁気探査を行うことができる。
【0022】
画像処理部34は、検出信号処理部26から出力された磁気強度信号に基づき、磁性の違いを明暗で表した画像データを生成し、当該画像データをメモリ36に記憶し、および/または画像データに基づく陰影画像を表示部38に表示させる。
【0023】
(探針)
図2に示すように、探針2は、カンチレバー4の自由端である一端に形成された先鋭部40と、当該先鋭部40に設けられた磁性体42とを有する。本実施形態の場合、磁性体42は、ロッド状に形成されており、基端部44において先鋭部40の先端部分に固着され、先端部46が先鋭部40の先端から延出している。
【0024】
磁性体42は、一般式:ε−Fe、または、ε−Feの前記Fe3+イオンサイトの一部が、異なる少なくとも1種類の元素と置換されたイプシロン型酸化鉄系化合物で構成されている。つまり、一般式:ε−AFe2−xと表記される(但し、Aは、Feを除く元素である。)イプシロン型酸化鉄系化合物である。尚、上述の式に記載された元素以外であっても、製造上の不純物等の成分や化合物の含有は許容される。Aとしては、Al,Ga,Inなどから選択される少なくとも1種の元素を挙げることができる。尚、xは、0≦x≦2の範囲であればよい。
【0025】
この磁性体42は、図3に示すように、それ自体が棒磁石として構成されており、両端が互いに異なる磁極を有する。この磁性体42の保磁力は、およそ室温で20kOe程度であることが確認されている。磁性体42の両端部の磁極は特に限定されないが、本実施形態では、説明の便宜上、基端部44の磁極をS極とし、先端部46の磁極をN極となるように配置して磁性体42を先鋭部40に固着した場合について説明する。
【0026】
2.製造方法
(磁性体の製造方法)
本実施形態に係る磁性体42は、例えば、以下のように逆ミセル法およびゾルーゲル法を組み合わせて製造することができる。なお、製造方法は特に限定されない。
【0027】
具体的には、先ず始めにn−オクタンを油相とする溶液の水相に界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶解することによりミセル溶液を作製する。
【0028】
次いで、このミセル溶液に、硝酸鉄(III)を溶解すると共に、これに加えてカルシウムイオンを溶解することにより原料溶液を作製する。
【0029】
ここで原料溶液を作製する工程において、ミセル溶液に適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Caなど)の硝酸塩を溶解させる。このアルカリ土類金属は、形状制御剤として機能し、適量、例えば8wt%以下を溶解させることにより、単相のε−Fe粒子をロッド状の形状にすることができる。
【0030】
また、原料溶液の作製とは別に、n−オクタンを油相とする溶液の水相に界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶解したミセル溶液に、アンモニア水溶液等の中和剤を混合して中和剤溶液を作製する。
【0031】
次いで、逆ミセル法によって、原料溶液と中和剤溶液とを攪拌混合することにより混合溶液を作製する。これにより混合溶液内において水酸化鉄系化合物粒子の沈殿反応を進行させる。
【0032】
次いで、混合溶液に対して、シラン化合物の溶液を適宜添加することで、ゾル−ゲル法により水酸化鉄系化合物粒子の表面にシリカによる被覆を施す。このような反応は混合溶液内で行われ、混合溶液内では、ナノオーダーの微細な水酸化鉄系化合物粒子の表面において加水分解が起こり、表面がシリカで被覆された水酸化鉄系化合物粒子(以下、これをシリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子と呼ぶ)を作製できる。
【0033】
次いで、この製造方法では、シリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子を作製した後、シリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子を混合溶液から分離して、これにより得られた沈殿物を回収して洗浄、乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700〜1300℃、好ましくは900〜1200℃、さらに好ましくは950〜1150℃の温度範囲で熱処理(焼成)する。この熱処理によりシリカコーティング内で酸化反応が進行して、微細なε−Fe粒子に変化する。この場合、適量のアルカリ土類金属が共存していることにより、ロッド状のε−Fe粒子に成長しやすくなる。上記製造方法によれば、太さ10〜100nm、長さ100〜2000nm程度のロッド状の磁性体42を製造することができる。
【0034】
すなわち、シリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子は、この酸化反応の際に、水酸化鉄系化合物粒子がシリカにより被覆されている点が、α−Feやγ−Feではなく、ε−Fe単相を生成するのに寄与していると考えられる。加えて、シリカによる被覆は、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。また、上述したように、適量の形状制御剤としてアルカリ土類金属が共存していることにより、ロッド状のε−Fe粒子が単相粒子に成長し易くなる。
【0035】
因みに、上述した製造工程において原料溶液を作製する際に、ミセル溶液にAを適量溶解させることにより、ε−Feと同じ結晶構造を有しながら、Fe3+イオンサイトの一部が置換されたε−AFe2−x粒子の単相粒子を生成できる。
【0036】
次いで、上述した製造工程によって作製した例えばε−Fe粒子からなる焼成処理して得た粉体を、NaOH水溶液中に添加して所定温度で所定時間攪拌した後、遠心分離装置により遠心分離処理を行う。これにより、例えばε−Fe粒子を被覆していたシリカを除去できる。
【0037】
(磁性体を先鋭部に取付ける方法)
磁性体42を先鋭部40に取付けるには、公知の方法(特開2009−58488号公報)を用いることができる。当該方法は、磁性体42をナイフエッジに付着させた磁性体カートリッジを製造する工程と、当該磁性体42を先鋭部40に転移させる転移処理工程と、磁性体42を先鋭部40に固着する固着工程とからなる。
【0038】
まず、磁性体カートリッジの製造方法について説明する。図4は交流電気泳動法を用いた磁性体カートリッジの製造装置48の概略構成図である。磁性体42(本図には図示しない)を分散させた電気泳動液51(例えば、イソプロピルアルコール)を、ホールスライドガラスと呼ばれるガラス基板56の表面に形成された凹部内に溜める。この電気泳動液51の中に一対のナイフエッジ52、53を対向させて配置し、交流電源58から交流電圧(例えば、5MHz、90V)を増幅器57を介して印加する。ナイフエッジ52、53は先端に先鋭な刃先54、55を有した構造をしている。ナイフエッジ52、53の両極間には不均一電場が作用する。電気泳動液51中では、磁性体42内に誘起された分極電荷が不均一電場を感じて泳動する。
【0039】
ナイフエッジ52、53は、例えば刃先54、55の幅が5mmで、刃先54、55の間隔が500μmとなるように配置してもよい。この交流電圧の印加により、図5に示すように、ナイフエッジ52(53)の刃先54(55)に、磁性体42が直交状に付着した磁性体カートリッジ60を製造することができる。
【0040】
次に、磁性体42の基端部44を先鋭部40に転移させる転移処理について説明する。図6に示すカンチレバー4と、当該カンチレバー4の一端側に形成された先鋭部40は、シリコンで形成されている。この先鋭部40に磁性体42が対向するように磁性体カートリッジ60が配置される。カンチレバー4および磁性体カートリッジ60は、XYZの3方向に移動可能に保持されている。カンチレバー4と磁性体カートリッジ60の位置を調節して磁性体42の基端部44を先鋭部40に当接させることにより、当該磁性体42を先鋭部40の先端部分に転移させる(図7)。これらの転移操作は電子顕微鏡室(図示しない)の中で拡大投影しながら行われる。
【0041】
次に、磁性体42を先鋭部40に転移させた後の、固着処理について説明する。固着処理は、コーティング被膜により先鋭部40表面に被覆固定する方法と、磁性体42の基端部44を電子ビーム照射または電流通電により先鋭部40表面に融着固定する方法とがある。
【0042】
まず、被覆固定について説明する。図8(A)に示すように、磁性体42の基端部44を先鋭部40に転移させて、磁性体42の先端部46を先鋭部40から延出させた状態において電子顕微鏡室内に設置する。電子顕微鏡室内に反応性のコーティングガスを微量導入し、磁性体42の基端部44に向けて電子ビームを照射する。これにより、当該コーティングガスを電子ビームにより分解して所望の物質によるコーティング膜62を形成することにより、磁性体42の基端部44を先鋭部40に固着する。また、コーティング膜62はCVD法やPVD(物理蒸着法)により形成してもよい。
【0043】
次いで、磁性体42の基端部44を先鋭部40に固定した後、図8(B)に示すように、ナイフエッジ52(53)を下方に静的に移動させる。この移動により刃先54(55)に付着していた磁性体42の先端部46が分離し、磁性体42の先端部46を先鋭部40から延出させた探針2が形成される。
【0044】
次に、融着固定について説明する。磁性体42の基端部44を先鋭部40に転移させて、磁性体42の先端部46を先鋭部40から延出させた付着状態(図7)において、ナイフエッジ52(53)とカンチレバー4の間に直流電源とスイッチからなる閉回路(図示しない)を形成する。スイッチをオンすることにより、直流電流をナイフエッジ52(53)とカンチレバー4の間に通電する。この通電により磁性体42の基端部44の一部が溶融して先鋭部40に固着される。
【0045】
磁性体42の基端部44を先鋭部40に融着固定した後、図8(B)の場合と同様に、ナイフエッジ52(53)を下方に静的に移動させる。この移動により刃先54(55)に付着していた磁性体42の先端部46が分離し、磁性体42の先端部46を先鋭部40から延出させた探針2が形成される。なお、磁性体42の基端部44に電子ビームを照射して融着することとしてもよい。
【0046】
3.作用および効果
上記のように構成された磁気力顕微鏡1において、ステージ8上に試料6を載置し、カンチレバー4を振動させながら、探針2を試料6表面上で走査させて、磁気探査を行う。
【0047】
すなわち、試料6の磁区から漏れ磁界が生じていなければ、磁区と探針2との間には、引力或いは斥力が生じない。そうすると、MFM応答は一定の信号となる。
【0048】
これに対して、磁区から漏れ磁界が生じている場合には、磁区と探針2との間に、引力或いは斥力が生じる。例えば、磁性体42が、基端部44の磁極をS極とし、先端部46の磁極をN極となるように配置して先鋭部40に固着されているので、磁区が先端部46の磁極と異なるS極であった場合には、磁区と先端部46の間に引力が生じる。一方、磁区が先端部46の磁極と同じN極であった場合には、磁区と先端部46の間に斥力が生じる。そうすると、引力または斥力に対応したMFM応答が得られる。
【0049】
すなわち、検出信号処理部26は、検出部22から出力される正弦波の検出信号と、探針駆動部18から供給される正弦波の駆動信号との位相を比較し、その位相差により磁区からの漏れ磁界に相当する磁気強度信号を生成する。
【0050】
本実施形態に係る磁気力顕微鏡1は、探針2の先鋭部40にイプシロン型酸化鉄系化合物で構成された磁性体42が設けられている。このイプシロン型酸化鉄系化合物は、保磁力が20kOe程度であるので、従来に比べ格段と保磁力の大きい探針2を提供することができる。したがって、当該探針2を備えた磁気力顕微鏡1は、従来に比べ、保磁力の高い試料6の磁気探査を行うことができるとともに、外部から20kOeより小さい強磁場を印加した状態での観察にも有効である。
【0051】
また、磁性体42は、両端部が互いに異なる磁極を有するロッド状に形成されており、基端部44において先鋭部40に固着され、先端部46がZ方向に延出している。これにより、当該探針2を備えた磁気力顕微鏡1は、磁性体42の先端部46のみを試料6の磁区と反応させることができるので、より微細で、かつ局所的な磁気探査を高精度に行うことができる。
【0052】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態では、磁性体42が基端部44の磁極をS極とし、先端部46の磁極をN極となるように配置して先鋭部40に固着した場合について説明について説明したが、本発明はこれに限らず、基端部44がN極、先端部46がS極であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、外部磁場印加部16は、ステージ8上の試料6に対しXY方向(面内方向)の外部磁場を発生させる場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ステージ8上の試料6に対しZ方向(垂直方向)の外部磁場を発生させるように構成してもよい。
【0055】
上記実施形態では、磁性体42は、ロッド状に形成されており、基端部44において先鋭部40の先端部分に固着され、先端部46が先鋭部40の先端から延出している場合について説明したが、本発明はこれに限られず、例えば、ロッド状に形成された磁性体42を先鋭部40の先端部分に塊状に固着されることとしてもよい。
【0056】
上記実施形態では、磁性体42を先鋭部40に取付ける方法として公知の方法を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、磁性体であるε−Fe粒子を含有する水分散液に先鋭部40を浸し、当該先鋭部40を乾燥することにより先鋭部40の先端部分に磁性体42が塊状に固着した探針を得ることができる。水分散液は、シリカが除去されたε−Fe粒子を塩酸水溶液にて撹拌し遠心分離した後、水で洗浄し、超音波処理を施して生成することができる。
【0057】
4.実施例
次に、実施例について説明する。本実施例では、図9および図10に示すように、先鋭部40の先端部分にロッド状に形成された磁性体42を塊状に固着した探針2を用いた。本実施例に係る探針2は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製(SI-DF40)の非磁性Si探針(探針長12.5μm、先鋭部先端の径>10nm)を用いた。探針2に磁性体42を固着するには、磁性体であるε−Fe粒子を含有する水分散液に先鋭部を浸し、当該先鋭部40を乾燥することにより先鋭部40の先端部分に磁性体42を塊状に固着した。
【0058】
水分散溶液の生成は、まず、シリカ除去後のε−Fe粒子を3wt%の塩酸水溶液中にて室温下で3時間撹拌した。次いで、遠心分離して水洗浄し、超音波処理により水分散させて生成した。本実施例に係る磁性体42の保磁力を測定したところ、図11に示す通り、20kOeであることが確認できた。
【0059】
比較例は、図12に示す通り、磁性体が固着されていないエスアイアイ・ナノテクノロジー社製(SI-DF40)の非磁性Si探針(探針長12.5μm、先鋭部先端の径>10nm)を用いた。
【0060】
上記探針を用いてハードディスク表面のMFM測定を行った結果を図13に示す。本図から、本実施例に係る磁性体42を先鋭部40に固着した探針2を用いることにより、MFM応答が得られることを確認できた。なお、比較例は、図14に示す通り、非磁性探針を用いていることにより、MFM応答は見られなかった。
【符号の説明】
【0061】
1 磁気力顕微鏡
2 探針
40 先鋭部
42 磁性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先鋭部を有する探針において、
前記先鋭部にイプシロン型酸化鉄系化合物を含む磁性体が設けられていることを特徴とする探針。
【請求項2】
前記磁性体が、ロッド状に形成されており、両端部が互いに異なる磁極を有することを特徴とする請求項1記載の探針。
【請求項3】
前記ロッド状に形成された磁性体が、塊状に固着していることを特徴とする請求項2記載の探針。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の探針を備えたことを特徴とする磁気力顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−145567(P2012−145567A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262329(P2011−262329)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、チーム型研究(CREST)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)