説明

接合フェライト

【構成】 単結晶フェライトと多結晶フェライトとがPd中間層を介して接合一体化されている接合フェライト。
【効果】 前記Pd中間層によって接合界面が制御され、多結晶フェライトの粒成長による界面の乱れやうねりが抑制され、しかも、十分な接合強度が確保され、剥離等が生ずることもない。さらに、磁気ヘッドの磁気コアとしたとき、摺動ノイズのバラツキを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、単結晶フェライトと多結晶フェライトが接合一体化されてなる接合フェライトに関するものであり、例えばビデオテープレコーダ等の磁気記録再生装置に搭載される磁気ヘッドのコア材として好適な接合フェライトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ビデオテープレコーダ(VTR)等の磁気ヘッド用のコア材として、出力が高く耐摩耗性が良好な単結晶フェライトが広く使用されている。しかし、単結晶フェライトを磁気コアとした磁気ヘッドは摺動ノイズが大きいため、C/N比が低下するという大きな欠点がある。そこで、近年、前記単結晶フェライトに替わり、フロントギャップ側に単結晶フェライト、バックギャップ側に多結晶フェライトを配設して構成される、所謂接合フェライトが用いられるようになっている。
【0003】前記接合フェライトを磁気コアとする磁気ヘッドは、単結晶フェライトを磁気コアとする磁気ヘッドと比較し、同等の出力及び耐摩耗性が得られ、かつ摺動ノイズがかなり低いため、C/N比が高いという特徴がある。そのため、前記磁気ヘッドは、高性能及び高信頼性が要求される業務用VTR、民生用高画質VTR等に使用されている。
【0004】ところで、上述した接合フェライトでは、前記単結晶フェライトと前記多結晶フェライトの良好な接合状態(例えば剥離等がなく十分な接合力等によって保持されている状態)が要求される。そのため、上記接合界面において充分な固相熱拡散を促す必要があることから、1200℃以上の高温度で処理されることが一般的である。
【0005】例えば、上記接合フェライトは、単結晶フェライト及び多結晶フェライトの突き合わせ面を鏡面仕上げし、この鏡面仕上げ面を対向して直接接触させ、数MPaで加圧しながら1200℃〜1250℃で加熱処理することにより製造されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところが、高温で加圧・加熱処理を行うと、図6に示すように、接合界面で多結晶フェライトの粒成長が起こり、単結晶フェライトが多結晶フェライトを侵食する形になり、接合界面には数μm〜数十μmの大きな乱れが生じてしまう。この結果、接合フェライトを磁気コアとした磁気ヘッドの摺動ノイズは、単結晶フェライトを磁気コアとした磁気ヘッドと比較し十分に低いものの、バラツキが大きくなるという問題が生じている。
【0007】そこで本発明は、かかる実情に鑑みて提案されたものであり、十分な接合力を確保することができ、しかも接合界面のうねりが小さい接合フェライトを提供することを目的とし、磁気ヘッドの磁気コアとしたときに摺動ノイズのバラツキを抑制することが可能な接合フェライトを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述の目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、Pd金属膜が接合界面のうねりを解消する上で有効であるとの知見を得た。本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであって、単結晶フェライトと多結晶フェライトとがPd中間層を介して接合一体化されていることを特徴とするものでる。
【0009】
【作用】単結晶フェライトと多結晶フェライトの接合界面にPd中間層を配した接合フェライトにおいては、前記Pd中間層によって接合界面が制御され、多結晶フェライトの粒成長による界面の乱れやうねりが抑制される。しかも、十分な接合強度が確保され、剥離等が生ずることもない。
【0010】
【実施例】以下、本発明を具体的な実験結果に基づいて説明する。
【0011】先ず、α−Fe2 3 52.5モル%、ZnO19.0モル%及びMnO28.5モル%組成の単結晶フェライト基板1をブリッジマン法により作製した。また、前記組成原料を混合、乾燥、仮焼、粉砕、再混合、乾燥、造粒及び成形した後、平衡酸素圧の下、1300℃で5時間焼結して多結晶フェライト基板2を作成した。
【0012】得られた単結晶フェライト基板1及び多結晶フェライト基板2を、図1に示すように、それぞれ縦30mm、横10mm、厚さ3mmの平板状に加工し、突き合わせ面(縦30mm×横10mm)に鏡面加工を施した。次に、上記単結晶フェライト基板1の鏡面加工面にマグネトロンスパッタ装置により、厚さ250nmのPd中間層3を成膜した。
【0013】その後、図2に示すように、前記単結晶フェライト基板1のPd成膜面と前記多結晶フェライト基板2の鏡面加工面とを突き合わせて、接触面の法線方向から圧力1MPaを加えながら、N2 雰囲気の下、1000℃で2時間熱処理を行い、Pd中間層3を配した接合フェライト4を得た。
【0014】このようにして得られた接合フェライト4の接合界面の顕微鏡観察を行った。その結果を図3に示す。
【0015】図3及び図6に示す接合フェライトの接合界面を比較して明らかなように、Pd中間層を配設した接合フェライト4の接合界面は非常に平坦であり乱れがない。
【0016】次に、良好な接合状態のPd中間層を介した接合フェライトを得るに好適なPd膜厚及び接合温度を検討した。
【0017】Pd膜厚10nm〜500nm並びに接合温度900℃〜1000℃と変化させ、他の条件及び作製方法は前述と同様にして接合フェライトを作製した。
【0018】得られた接合フェライトの接合界面の顕微鏡観察を行った。この結果を表1に示す。なお、表中○印は、接合界面に乱れがなく、接合不良もなかったことを示す。
【0019】
【表1】


【0020】この結果からも明らかなように、Pd中間層を介した接合フェライトは、前記図3に示す接合界面と同様に乱れ等なく非常に平坦であり、また、上記接合界面において剥がれ等の接合不良等はなかった。これによって、Pd中間層を配した接合フェライトでは、Pd膜厚が薄い場合でも加圧力を大きくすることにより、また接合温度が低い場合でも、良好な機械的性質を有する接合界面を形成することができた。
【0021】また、上記接合フェライトを磁気コアとする磁気ヘッドは、Pd膜厚500nmの場合に若干磁気劣下がみられた以外、良好な出力特性を示し、かつ摺動ノイズも低減されていた。したがって、Pd中間層の膜厚は、10〜200nmとすることが好ましいと考えられる。
【0022】次に、Pd中間層を配した接合フェライトの磁気特性を従来の接合フェライトと比較しながら確認した。
【0023】先ず、従来法により接合フェライトを作製し、さらに、前述した方法によりPd中間層を介した接合フェライトを作製した。得られた各接合フェライトにおいて、インピーダンスアナライザ及び直流磁化装置を用いて、透磁率μ’、磁化力12.3Oe時の磁束密度B10、残留磁束密度Br及び保磁力Hc を測定した。結果を表2に示す。なお、従来の接合フェライトを試料No.1、Pd中間層を介した接合フェライトを試料No.2とする。
【0024】
【表2】


【0025】Pd中間層を介した接合フェライトでは、透磁率μ’、磁束密度B10、残留磁束密度Br及び保磁力Hc とも、従来の、単結晶フェライトと多結晶フェライトを直接接触させ加圧・加熱処理した接合フェライトと比較して遜色のない良好な磁気特性が得られた。
【0026】このようなPd中間層を介した接合フェライトは、例えば、一対の磁気コア半体を突き合わせてなる磁気ヘッドに適用して好適なものである。以下、接合フェライトを磁気コアとする磁気ヘッド(以下、接合磁気ヘッドと称する。)の一構成例について図面を参照しながら説明する。
【0027】接合磁気ヘッドは、例えば、図4及び図5に示すように、磁気記録媒体(図示せず)との対向面に高飽和磁束密度を有する単結晶フェライト部12、22と、その背面側に高透磁率を有する多結晶フェライト部11、21とを配設してなるものであり、前記単結晶フェライト部12、22と前記多結晶フェライト部11、21間にPd中間層17を配した接合フェライトからなる磁気コア半体I、IIが、ギャップ膜(図示せず)を介して一体化されたものである。
【0028】なお、前記単結晶フェライト部12、22には、該単結晶フェライト部12、22当接面に磁気ギャップgが形成され、さらに、当該磁気ヘッドとテープとの当たり特性を確保するために、円筒状に研磨されたテープ摺動面15が形成されている。また、上記磁気ギャップg近傍には磁気記録媒体への書き込みに際してトラック幅を規制するためのトラック幅規制溝13、23が切り欠かれており、さらに、磁気テープに対する当たりを確保するために、該トラック幅規制溝13、23内に高融点ガラス等の非磁性材が充填されている。
【0029】また、一方の磁気コア半体IIには、磁気コア半体Iと突き合わされる対向面側にデプス長さDpを規制するとともにコイル導体を巻回するコイル巻線孔16が穿設されている。なお、上記コイル巻線孔16のフロントギャップ側の端部はPd中間層17位置とほぼ一致されており、磁気ギャップgが単結晶フェライト部12、22のみに構成されるように設定されている。
【0030】したがって、この磁気ヘッドにおいては、磁気記録媒体が摺接する側に単結晶フェライト部12、22、背面側に多結晶フェライト部11、21が配されていることにより、単結晶フェライトの良好な磁気記録特性や耐摩耗特性並びに多結晶フェライトによる摺動ノイズの低減効果が同時に得られる。
【0031】さらに、前記単結晶フェライト部12、22と前記多結晶フェライト部11、21の間にPd中間層17が配設されていることにより、接合界面のうねりに起因する摺動ノイズのバラツキが低減される。
【0032】
【発明の効果】以上の説明からも明らかなように、本発明に係る接合フェライトによれば、Pd中間層を介して単結晶フェライト及び多結晶フェライトが接合一体化されているので、前記単結晶フェライトと前記多結晶フェライトの接合界面に乱れ等がなく平坦な接合面が形成され、これによって、例えば磁気ヘッド用コア材料として良好な磁気特性が得られることはもとより、摺動ノイズのバラツキが効果的に抑えられる。
【0033】また、従来の接合フェライトのように、十分な接合力や良好な接合界面を得るために高温、高圧力等の厳しい処理条件を採用する必要がなく、加工性や生産性の点でも有利である。
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】Pd中間層が形成された単結晶フェライト基板と多結晶フェライト基板の突き合わせ工程を示す概略斜視図である。
【図2】単結晶フェライト基板と多結晶フェライト基板の接合一体化工程を示す概略斜視図である。
【図3】Pd中間層を配した接合フェライトの接合界面の顕微鏡観察像を示す模式図である。
【図4】接合磁気ヘッドの一構成例を示す斜視図である。
【図5】図4のA−A線における断面図である。
【図6】従来の接合フェライトの接合界面の顕微鏡観察像を示す模式図である。
【符号の説明】
1 ・・・・・ 単結晶フェライト基板
2 ・・・・・ 多結晶フェライト基板
3 ・・・・・ Pd中間層
4 ・・・・・ 接合フェライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】 単結晶フェライトと多結晶フェライトとがPd中間層を介して接合一体化されていることを特徴とする接合フェライト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−243035
【公開日】平成5年(1993)9月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−80319
【出願日】平成4年(1992)3月3日
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)