説明

接合ユニットおよび木質構造システム

【課題】 木製構造物においてリユース性を確保しつつ耐力壁部材を取り付けることのできる接合ユニット。
【解決手段】 木製構造物において柱部材と横架部材とにより囲まれた空間に耐力壁部材を取り付ける接合ユニットは、耐力壁部材の偶部に固定的に取り付けられる第1係合部材と、第1係合部材に固定的に連結されて、柱部材および横架部材のうちの少なくとも一方の部材の隅部に押圧力をもって当接する第2係合部材とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合ユニットおよび木質構造システムに関する。さらに詳細には、本発明は、木質構造システムにおいて柱梁フレームに耐力壁部材を取り付ける接合ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の木質構造システムでは、図7に示すように、耐力壁部材としての筋違い部材71或いはパネル状の部材(不図示)が、柱部材72および横架部材(土台部材または梁部材)73に、接合金物74を介して取り付けられる。接合金物74は、釘やビスを用いて、木質部材71〜73に取り付けられる。本明細書において、「木質構造システム」とは、木質部材により構成された構造物であり、「木質部材」とは、いわゆるエンジニアリングウッド(合板、集成材など)からなる部材だけでなく天然木材からなる無垢の木製部材も含む広い概念である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の木質構造システムでは、釘やビスを打ち付けることにより耐力壁部材や柱・梁部材が傷むため、耐力壁部材のリユース(再利用)が困難である。すなわち、解体時に接合金物から釘やビスを取り外すと、釘やビスが打ち付けられていた耐力壁部材や柱・梁部材が傷んでしまう。釘やビスにより一旦傷んだ耐力壁部材や柱・梁部材を無理にリユースすると、接合金物による耐力壁部材や柱・梁部材の接合が不十分になる。その結果、構造物の安全性を確保するには、使用済みの耐力壁部材や柱・梁部材をリユースすることなく、新規に用意した耐力壁部材や柱・梁部材を使用する必要がある。
【0004】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、木質構造システムにおいてリユース性を確保しつつ耐力壁部材を取り付けることのできる接合ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の第1形態では、木質構造システムにおいて柱部材と横架部材とにより囲まれた空間に耐力壁部材を取り付ける接合ユニットであって、
前記耐力壁部材の隅部に固定的に取り付けられる第1係合部材と、
前記第1係合部材に固定的に連結されて、前記柱部材および前記横架部材のうちの少なくとも一方の部材の側面に押圧力をもって当接する第2係合部材とを備えていることを特徴とする接合ユニットを提供する。
【0006】
本発明の第2形態では、木質部材により構成された木質構造システムにおいて、
第1形態の接合ユニットを用いて、柱部材と横架部材とにより形成される空間に耐力壁部材が取り付けられていることを特徴とする木質構造システムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接合ユニットは、柱部材および横架部材のうちの少なくとも一方の部材の側面に押圧力をもって当接する係合方式にしたがって、柱部材と横架部材とにより囲まれた空間に耐力壁部材を係脱自在に取り付ける。その結果、解体時には耐力壁部材に釘やビスに起因する傷が残らないので、所要の品質を確保しつつ耐力壁部材をリユースすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかる木質構造システムの要部構成を概略的に示す図である。
【図2】本実施形態にかかる接合ユニットのXZ平面に沿った断面図である。
【図3】本実施形態の接合ユニットを+X方向に向かって見た側面図である。
【図4】本実施形態の接合ユニットを−Z方向に向かって見た側面図である。
【図5】本実施形態の接合ユニットを−X方向に向かって見た側面図である。
【図6】本実施形態の接合ユニットを+Z方向に向かって見た側面図である。
【図7】従来の木質構造システムにおける耐力壁部材の取付け形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる木質構造システムの要部構成を概略的に示す図である。本実施形態の木質構造システムでは、例えば木質パネルの形態を有する矩形状の耐力壁部材10が、鉛直方向に延びる一対の柱部材11,12と、水平方向に延びる一対の横架部材(土台部材(または梁部材)13および梁部材14)とにより囲まれた空間に、4つの接合ユニット1により取り付けられている。4つの接合ユニット1は、互いに同じ構成を有し、耐力壁部材10の四隅に固定的に取り付けられている。
【0010】
以下、図1において耐力壁部材10の左上の隅部に取り付けられた接合ユニット1に着目して、接合ユニット1の構成および作用について説明する。接合ユニット1は、図2に示すように、柱部材11の側面11a(図2では不図示:図1を参照)に対向する耐力壁部材10の端面10aに当接した状態で取り付けられるプレート2と、梁部材14の側面14a(図2では不図示:図1を参照)に対向する耐力壁部材10の端面10bに当接した状態で取り付けられるプレート3とを有する。
【0011】
図2では、図3〜図6も参照して接合ユニット1の構成の理解が容易になるように、図2の紙面において水平方向右向きにX軸を、図2の紙面に垂直な方向にY軸を、図2の紙面において鉛直方向上向きにZ軸を設定している。したがって、図2は、接合ユニット1のXZ平面に沿った断面図である。図3は接合ユニット1を+X方向に向かって見た側面図であり、図4は接合ユニット1を−Z方向に向かって見た側面図である。図5は接合ユニット1を−X方向に向かって見た側面図であり、図6は接合ユニット1を+Z方向に向かって見た側面図である。
【0012】
プレート2には、図3および図5に示すように、耐力壁部材10の隅部(すなわち耐力壁部材10の端面10a)に固定的に取り付ける際に用いられるビスまたは釘のための貫通孔2aが設けられている。同様に、プレート3には、図4および図6に示すように、耐力壁部材10の隅部(すなわち耐力壁部材10の端面10b)に固定的に取り付ける際に用いられるビスまたは釘のための貫通孔3aが設けられている。このように、一対のプレート2,3は、耐力壁部材10の隅部に固定的に取り付けられる第1係合部材を構成している。ここで、耐力壁部材10の「隅部」とは、隅部およびその近傍を含む広い概念である。また、横架部材としての梁部材14の「側面」とは、梁部材14の上面または下面を指している。
【0013】
接合ユニット1は、第1係合部材(2,3)に固定的に連結されて、柱部材11の側面11a(図1を参照)および梁部材14の側面14a(図1を参照)に押圧力をもって当接する第2係合部材(4,5,6)を有する。第2係合部材(4〜6)は、その本体4と、本体4に螺合して柱部材11の側面11aに当接する当接部5と、本体4に螺合して梁部材14の側面14aに当接する当接部6とを有する。
【0014】
第1係合部材を構成する一対のプレート2,3は、第2係合部材の本体4に溶接されている。あるいは、一対のプレート2,3と本体4とは一体的に成形されている。一対の当接部5と6とは、互いに同じ構成を有する。具体的に、当接部5,6の一端には例えば円形状の当接面5a,6a(図3および図4を参照)が設けられ、当接部5,6の他端には例えば六角形状(一般的には非円形状)の非貫通孔5b,6b(図5および図6を参照)が設けられている。
【0015】
本体4は、例えば壁面に垂直なY方向に沿って延びる筒状の形態を有し、その断面は中空四角形状である。本体4には、当接部5,6の六角形状の非貫通孔5b,6bに係合して当接部5,6を回転させる工具(例えば六角棒スパナ)のアクセスを許容する作業用の開口部4a,4b(図2、図5および図6を参照)が設けられている。換言すれば、本体4は、六角形状の非貫通孔5b,6bに係合して当接部5,6を回転させる六角棒スパナが使用可能な形態を有する。第2係合部材の本体の具体的な構成については、様々な形態が可能である。
【0016】
本実施形態では、柱部材11,12と横架部材13,14とにより囲まれた空間に対する耐力壁部材10の取付けに際して、耐力壁部材10に接合ユニット1を取り付ける。具体的には、プレート2,3に設けられた複数の貫通孔2a,3aを介してビスまたは釘を耐力壁部材10に打ち付けることにより、4つの接合ユニット1を耐力壁部材10の四隅に固定的に取り付ける。次いで、接合ユニット1が固定的に取り付けられた耐力壁部材10を、柱部材11,12と横架部材13,14とにより囲まれた空間に挿入し、耐力壁部材10を所要の位置に所要の姿勢で保持する。
【0017】
最後に、各接合ユニット1について、作業用の開口部4a,4bを介して当接部5,6の六角形状の非貫通孔5b,6bに六角棒スパナの先端を係合させ、非貫通孔5b,6bに係合した状態で六角棒スパナの手元部分を回動させることにより、当接面5a,6aが対応する柱部材11,12の側面および横架部材13,14の側面に押圧力をもって当接するまで当接部5,6を回転させる。こうして、接合ユニット1の作用により、柱部材11,12と横架部材13,14とにより囲まれた空間に、耐力壁部材10が係脱自在に取り付けられる。
【0018】
本実施形態にかかる木質構造システムの解体時には、六角棒スパナを利用して各接合ユニット1の当接部5,6を回転させることにより、当接面5a,6aを対応する柱部材11,12の側面および横架部材13,14の側面から離間させる。そして、接合ユニット1が固定的に取り付けられた耐力壁部材10を、柱部材11,12と横架部材13,14とにより囲まれた空間から取り外す。取り外された耐力壁部材10は、接合ユニット1が固定的に取り付けられた状態でリユースに供される。
【0019】
本実施形態では、耐力壁部材10に固定的に取り付けられた接合ユニット1において螺合により進退可能な当接部5,6の当接面5a,6aを、対応する柱部材11,12の側面および横架部材13,14の側面に押圧力をもって当接させることにより、柱部材11,12と横架部材13,14とにより囲まれた空間に耐力壁部材10が係脱自在に取り付けられる。すなわち、耐力壁部材10は、釘やビスを用いることなく、柱部材11,12および横架部材13,14に取り付けられる。
【0020】
したがって、解体時には、耐力壁部材10や柱・梁部材11,12,14に釘やビスに起因する傷が残らない。その結果、初期使用における品質とほぼ同等の品質を確保しつつ、耐力壁部材10や柱・梁部材11,12,14をリユースすることができる。そして、耐力壁部材10や柱・梁部材11,12,14を廃材にすることなくリユースすることにより、経済的な負荷、環境的な負荷などを低減することができる。すなわち、本実施形態にかかる接合ユニット1は、木質構造システムにおいてリユース性を確保しつつ耐力壁部材10や柱・梁部材11,12,14を取り付けることができる。
【0021】
なお、上述の説明では、当接部5,6の当接面5a,6aを、対応する柱部材11,12の側面および横架部材13,14の側面の双方に、押圧力をもって当接させている。しかしながら、これに限定されることなく、柱部材11,12および横架部材13,14のうちのいずれか一方の部材だけに、対応する当接面5aまたは6aを当接させても良い。
【0022】
また、上述の説明では、1つの接合ユニット1が、1つの当接部5(ひいては1つの当接面5a)と、1つの当接部6(ひいては1つの当接面6a)とを有する。しかしながら、これに限定されることなく、1つの接合ユニット1が、複数の当接部5(ひいては複数の当接面5a)および/または複数の当接部6(ひいては複数の当接面6a)を有する形態も可能である。
【0023】
また、上述の説明では、パネルの形態を有する耐力壁部材10の取付けを例にとって、本発明を説明している。しかしながら、パネルの形態に限定されることなく、例えば筋違い部材の形態を有する耐力壁部材の取付けに対しても同様に本発明を適用することができる。
【0024】
また、上述の説明では、当接部5,6の他端に六角形状の非貫通孔5b,6bを設けている。しかしながら、六角形状に限定されることなく、他の角形状、マイナス字形状、十字形状などの非円形状の非貫通孔を当接部の他端に設けることもできる。また、非貫通孔に限定されることなく、角形状、マイナス字形状、十字形状などの非円形状の貫通孔を当接部の他端に設けることもできる。
【0025】
また、上述の説明では、一対のプレート2,3にビスまたは釘のための貫通孔2a,3aを設け、ビスまたは釘により一対のプレート2,3を耐力壁部材10の隅部に固定的に取り付けている。しかしながら、一対のプレートに貫通孔を設けることなく、接着剤を用いて一対のプレートを耐力壁部材の隅部に固定的に取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0026】
1 接合ユニット
2,3 第1係合部材のプレート
4 第2係合部材の本体
5,6 第2係合部材の当接部
10 耐力壁部材
11,12 柱部材
13 土台部材(横架部材)
14 梁部材(横架部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質構造システムにおいて柱部材と横架部材とにより囲まれた空間に耐力壁部材を取り付ける接合ユニットであって、
前記耐力壁部材の隅部に固定的に取り付けられる第1係合部材と、
前記第1係合部材に固定的に連結されて、前記柱部材および前記横架部材のうちの少なくとも一方の部材の側面に押圧力をもって当接する第2係合部材とを備えていることを特徴とする接合ユニット。
【請求項2】
前記第2係合部材は、その本体と、該本体に螺合して前記少なくとも一方の部材の側面に当接する当接部とを有することを特徴とする請求項1に記載の接合ユニット。
【請求項3】
前記当接部の一端には当接面が設けられ、前記当接部の他端には非円形状の貫通孔または非貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の接合ユニット。
【請求項4】
前記当接面は、円形状であることを特徴とする請求項3に記載の接合ユニット。
【請求項5】
前記貫通孔または非貫通孔は、角形状、マイナス字形状、または十字形状であることを特徴とする請求項3または4に記載の接合ユニット。
【請求項6】
前記本体は、前記非貫通孔に係合して前記当接部を回転させる工具が使用可能な形態を有することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の接合ユニット。
【請求項7】
前記第2係合部材は、前記柱部材の側面に当接する第1の当接部と、前記横架部材の側面に当接する第2の当接部とを有することを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の接合ユニット。
【請求項8】
前記第1係合部材は、前記耐力壁部材の端面に当接した状態で取り付けられるプレートを有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の接合ユニット。
【請求項9】
前記第1係合部材は、前記柱部材の側面に対向する前記耐力壁部材の第1の端面に当接した状態で取り付けられる第1のプレートと、前記横架部材の側面に対向する前記耐力壁部材の第2の端面に当接した状態で取り付けられる第2のプレートとを有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の接合ユニット。
【請求項10】
前記プレートには、前記第1係合部材を前記耐力壁部材の隅部に固定的に取り付ける際に用いられるビスまたは釘のための貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項8または9に記載の接合ユニット。
【請求項11】
木質部材により構成された木質構造システムにおいて、
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の接合ユニットを用いて、柱部材と横架部材とにより形成される空間に耐力壁部材が取り付けられていることを特徴とする木質構造システム。
【請求項12】
前記耐力壁部材はパネルの形態または筋違い部材の形態を有することを特徴とする請求項11に記載の木質構造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108221(P2013−108221A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251599(P2011−251599)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】