説明

接合体の形成方法および接合体

【課題】2つの基材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができるとともに、使用後にはこれら基材同士を効率よく剥離することができる接合体の形成方法、および、2つの基材同士が高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の接合体の形成方法は、第1の基板(基材)21および第2の基板(基材)22上に、それぞれ、化学的気相成膜法を用いて、銅と有機成分とで構成され、前記銅の含有率が90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜31、32を形成する工程と、接合膜31、32同士が対向するようにして、第1の基板21および第2の基板22同士を接触させた状態で、第1の基板21および第2の基板22間に圧縮力を付与して、接合膜31、32同士を結着させることにより接合体を得る工程とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体の形成方法および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)して接合体を得る際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、一般的に、接合する部材の材質によらず、優れた接着性を示すものである。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
【0003】
例えば、このような接合体を、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)に適用した場合、液滴吐出ヘッドは、樹脂材料、金属材料およびシリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより組み立てられている。
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化(固化)させることにより、部材同士を接着する。
【0004】
ところが、このような接着剤を用いた接合では、以下のような問題がある。
・接着強度が低い
・寸法精度が低い
・硬化時間が長いため、接着に長時間を要する
また、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程の高コスト化・複雑化を招いている。
【0005】
一方、接着剤を用いない接合体の形成方法として、固体接合による方法がある。
固体接合は、接着剤等の中間層が介在することなく、部材同士を直接接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような固体接合によれば、接着剤のような中間層を用いないので、寸法精度の高い接合体を得ることができる。
【0006】
しかしながら、固体接合には、以下のような問題がある。
・接合される部材の材質に制約がある
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
このような問題を受け、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合し得る接合体の形成方法が求められている。
さらに、かかる接合体の形成方法で得られた接合体は、環境問題の観点から、使用後の接合体をリサイクルに供することが求められるが、この接合体のリサイクル率を向上させるためには、各部材同士を効率よく剥離し得る接合体の形成方法で接合しておく必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、2つの基材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができるとともに、使用後にはこれら基材同士を効率よく剥離することができる接合体の形成方法、および、2つの基材同士が高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合体の形成方法は、第1の基材および第2の基材上に、それぞれ、化学的気相成膜法を用いて、銅と有機成分とで構成され、前記銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜を形成する工程と、
前記接合膜同士が対向するようにして、前記第1の基材および第2の基材同士を接触させた状態で、前記第1の基材および第2の基材間に圧縮力を付与して、前記接合膜同士を結着させることにより接合体を得る工程とを有することを特徴とする。
これにより、被着体に対して、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができるとともに、使用後にはこれら基材同士を効率よく剥離することができる接合体を形成することができる。
【0010】
本発明の接合体の形成方法では、前記接合膜を形成する工程において、前記接合膜は、その表面粗さRa(JIS B 0601に規定)が1〜30nmとなるように形成されることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材に形成された各接合膜の表面同士が接触する接触面積の増大を図ることができる。
【0011】
本発明の接合体の形成方法では、前記接合体を得る工程において、前記第1の基材および第2の基材間に付与する圧縮力は、1〜100MPaであることが好ましい。
かかる範囲内に設定すれば、接合膜同士を確実に結着させることができる。
本発明の接合体の形成方法では、前記接合体を得る工程において、前記圧縮力を付与する時間は、5〜180分であることが好ましい。
かかる範囲内に設定すれば、接合膜同士を確実に結着させることができる。
【0012】
本発明の接合体の形成方法では、前記接合体を得る工程において、前記接合膜を加熱することが好ましい。
これにより、結着する前の接合膜に加熱エネルギーが付与されて、各接合膜に圧縮力を付与することによる接合膜同士の結着がより円滑に行われることとなる。
本発明の接合体の形成方法では、前記接合膜を加熱する温度は、90〜200℃であることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜同士をより円滑に結着させることができる。
【0013】
本発明の接合体の形成方法では、前記接合体を得る工程において、前記第1の基材および第2の基材間に付与する圧縮力の大きさを50[MPa]とし、前記圧縮力を付与する時間をY[分]とし、前記接合膜を加熱する温度をT[K]とし、前記銅の含有率をX[at.%]とし、気体定数をR[J/(mol・K)]としたとき、1/Y≧1.43×10exp[−6.60×10−2(100−X)−82×10/RT]なる関係を満足するよう設定することが好ましい。
これにより、各基材上に設けられた接合膜同士が結着された接合膜を介して第1の基材と第2の基材とが接合された接合体を確実に得ることができる。
本発明の接合体の形成方法では、前記接合体を得る工程において、前記圧縮力の付与は、大気雰囲気中で行われることが好ましい。
これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、圧縮力の付与をより簡単に行うことができる。
【0014】
本発明の接合体の形成方法では、前記接合膜は、有機金属材料を原材料として用いる有機金属化学気相成膜法により成膜されることが好ましい。
有機金属化学気相成膜法を用いれば、銅と有機成分とで構成され、膜中に含まれる銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜を、膜を形成する際の条件を適宜設定するという比較的簡単な操作で確実に形成することができる。
【0015】
本発明の接合体の形成方法では、前記有機金属材料は、金属錯体であることが好ましい。
有機金属材料として金属錯体を用いれば、接合膜を成膜する際の条件を適宜設定することにより、有機金属材料に含まれる有機物の一部を、接合膜を構成する有機成分として、所望の量で比較的容易に残存させることができる。
【0016】
本発明の接合体の形成方法では、前記有機成分は、前記有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存したものであることが好ましい。
有機物の一部が、接合膜を構成する有機成分として残存すると、接合膜中に含まれる銅原子に活性サイトを確実に存在させることができ、その結果、接合膜同士の結着がより円滑に行われるようになると推察される。
本発明の接合体の形成方法では、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、第1の基材と第2の基材とが接合された接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
【0017】
本発明の接合体の形成方法では、前記第1の基材および第2の基材は、それぞれ、板状をなしていることが好ましい。
これにより、基材が撓み易くなり、基材は、対向する基材がたとえ応力等で変形したとしても、その変形した形状に沿って十分に変形可能なものとなるため、これらの密着性がより高くなる。また、基材が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和することができる。
【0018】
本発明の接合体の形成方法では、前記第1の基材および第2の基材の少なくとも前記接合膜を形成する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、表面処理を施さなくても、十分な接合強度が得られる。
本発明の接合体の形成方法では、前記第1の基材および第2の基材の前記接合膜を備える面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、各基材の表面を清浄化および活性化し、接合膜と各基材との接合強度を高めることができる。
本発明の接合体の形成方法では、前記表面処理は、プラズマ処理であることが好ましい。
これにより、接合膜を形成するために、各基材の表面を特に最適化することができる。
【0019】
本発明の接合体の形成方法では、前記第1の基材および第2の基材と、前記第1の基材および第2の基材に設けられた各前記接合膜との間に、それぞれ、中間層が介挿されていることが好ましい。
これにより、信頼性の高い接合体を形成することができる。
本発明の接合体の形成方法では、前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、各基材と接合膜との間の接合強度を特に高めることができる。
本発明の接合体は、本発明の接合体の形成方法により形成されたことを特徴とする。
これにより、第1の基材と第2の基材とが高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の接合体の形成方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合体の形成方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】銅と有機成分とで構成される接合膜を形成する際に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。
【図4】接合膜同士が結着する際の温度と時間との関係を示したグラフである。
【図5】本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図6】図5に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図7】図5に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【図8】本発明の接合体を適用して得られた配線基板を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の接合体の形成方法および接合体を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明の接合体の形成方法について説明する。
<接合体の形成方法>
本発明の接合体の形成方法は、第1の基材(部材)および第2の基材(部材)上に、それぞれ、化学的気相成膜法を用いて、銅と有機成分とで構成され、前記銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜を形成する工程と、前記接合膜同士が対向するようにして、前記第1の基材および第2の基材同士を接触させた状態で、前記第1の基材および第2の基材同士に圧縮力を付与して、前記接合膜同士を結着させることにより接合体を得る工程とを有するものである。
かかる工程により、各基材に形成された接合膜同士を結着させることができ、この結着された接合膜により第1の基材および第2の基材が接合された接合体を得ることができる。
【0022】
このような本発明の接合体の形成方法は、第1の基材と第2の基材とを、高い寸法精度で強固に、かつ効率よく接合することができる。そして、かかる接合体の形成方法を用いて接合体を形成することにより、2つの基材同士が高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体を得ることができる。さらに、本発明の接合体の形成方法で得られた接合体は、使用後には、後述するような方法を用いて、各基材同士を効率よく剥離することができるため、基材毎に分別してリサイクルに供することができる。その結果、接合体のリサイクル率の向上を図ることができる。
【0023】
以下、本発明の接合体の形成方法の各工程、および、かかる接合体の形成方法で形成された接合体について説明する。
図1および図2は、本発明の接合体の形成方法を説明するための図(縦断面図)、図3は、銅と有機成分とで構成される接合膜を形成する際に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図、図4は、接合膜同士が結着する際の温度と時間との関係を示したグラフである。なお、以下の説明では、図1、図2および図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0024】
[1]まず、第1の基板(基材)21および第2の基板(基材)22を用意し、これら第1の基板21および第2の基板22上に、それぞれ、化学的気相成膜法を用いて、銅と有機成分とで構成され、前記銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜31、32を形成する(図1(a)参照)。
なお、以下の説明では、「第1の基板21および第2の基板22」を総称して「基板2」と言い、2つの「接合膜31、32」、および、2つの「接合膜31、32」が結着(一体化)したものを総称して「接合膜3」と言うこともある。
【0025】
基板21および基板22は、接合膜3を介して互いに接合して接合体5を得るためのものであり、結着させる前の接合膜31、32を支持する程度の剛性を有するものであれば、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
具体的には、基板2の構成材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0026】
また、基板2は、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
また、基板(基材)2の形状は、接合膜3を支持する面を有するような形状であればよく、本実施形態のような板状のものに限定されない。すなわち、基材の形状は、例えば、塊状(ブロック状)や、棒状等であってもよい。
【0027】
なお、図1(a)に示すように、基板2が板状をなしていることから、基板2が撓み易くなり、基板2は、対向する基板2がたとえ応力等で変形したとしても、その変形した形状に沿って十分に変形可能なものとなるため、これら第1の基板21および第2の基板22間の密着性がより高くなる。また、基板2と接合膜3との密着性が高くなるとともに、基板2が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和することができる。
この場合、基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。
【0028】
本発明では、接合膜31、32は、次工程[2]において、第1の基板21および第2の基板22の間に位置し、これらの接合膜31、32が結着することにより、第1の基板21および第2の基板22同士の接合を担うものである。
かかる接合膜31、32は、ともに、化学的気相成膜法を用いて成膜されたものであり、その構成材料が銅と有機成分とで構成され、膜中に含まれる銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満となっているものである。このような接合膜31、32は、互いに接触した状態で、圧縮力が付与されると、これら接合膜31、32同士が結着(一体化)するものであることから、この結着した接合膜3を介して、第1の基板21および第2の基板22同士を高い寸法精度で強固に効率よく接合することができる。
【0029】
また、接合膜3は、銅の含有率が90at.%以上となっており、流動性を有さない固体状をなしている。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、接合膜3で第1の基板21および第2の基板22同士が接合された接合体5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0030】
さらに、本発明では、この銅と有機成分とで構成される接合膜3は、その膜中での銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満となっている。すなわち、膜中での有機成分の含有率が1at.%よりも大きく、かつ10at.%以下となっている。
かかる範囲内の銅および有機成分を含む構成とすることにより、後述するように、低温での接合膜31、32同士の結着を実現させることとができるとともに、第1の基板21および第2の基板22同士の接合膜3を介した接合を確実に高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0031】
また、銅の含有率がかかる範囲内となっていることから、接合膜3は、銅の優れた導電性および熱伝導性特性を維持しつつ、後述する接合体において、接合膜3を配線基板が備える配線や端子、および、熱伝導性を必要とする部材同士の接合等に好適に適用することができる。
具体的には、接合膜3は、抵抗率が1×10−3Ω・cm以下であるのが好ましく、1×10−6Ω・cm以下であるのがより好ましい。また、熱伝導率が50W・m−1・K−1以上であるのが好ましく、200W・m−1・K−1以上であるのがより好ましい。
【0032】
かかる構成の接合膜3は、基板2上に化学的気相成膜法(CVD法)を用いて成膜されるが、この化学的気相成膜法としては、特に限定されず、例えば、有機金属化学気相成膜法(以下、「MOCVD法」と省略することもある。)、熱CVD法、光CVD法、RFプラズマCVD法、ECRプラズマCVD法のようなプラズマCVD法、および、レーザーCVD法等が挙げられるが、これらの中でも、特に、有機金属材料を原材料として用いるMOCVD法を用いるのが好ましい。MOCVD法を用いれば、上述したような銅と有機成分とで構成され、膜中に含まれる銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜3を、膜を形成する際の条件を適宜設定するという比較的簡単な操作で、基板2上に確実に形成することができる。
【0033】
以下、原材料として有機金属材料を用いるMOCVD法を用いて、基板2上に、銅で構成される接合膜3を形成する場合を一例に説明する。
まず、MOCVD法を用いて接合膜3を成膜する方法の説明に先立って、接合膜3を成膜する際に用いられる成膜装置200について説明する。
図3に示す成膜装置200は、有機金属化学気相成膜法による接合膜3の形成をチャンバー211内で行えるように構成されている。
【0034】
具体的には、成膜装置200は、チャンバー(真空チャンバー)211と、このチャンバー211内に設置され、基板2(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)212と、チャンバー211内に、気化または霧化した有機金属材料を供給する有機金属材料供給手段260と、チャンバー211内を低還元性雰囲気下とするためのガスを供給するガス供給手段270と、チャンバー211内の排気をして圧力を制御する排気手段230と、基板ホルダー212を加熱する加熱手段(図示せず)とを有している。
【0035】
基板ホルダー212は、本実施形態では、チャンバー211の底部に取り付けられている。この基板ホルダー212は、モータの作動により回動可能となっている。これにより、基板2上に接合膜を均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
また、基板ホルダー212の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができるシャッター221が配設されている。このシャッター221は、基板2および接合膜3が不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
【0036】
有機金属材料供給手段260は、チャンバー211に接続されている。この有機金属材料供給手段260は、固形状の有機金属材料を貯留する貯留槽262と、気化または霧化した有機金属材料をチャンバー211内に送気するキャリアガスを貯留するガスボンベ265と、キャリアガスと気化または霧化した有機金属材料をチャンバー211内に導くガス供給ライン261と、ガス供給ライン261の途中に設けられたポンプ264およびバルブ263とで構成されている。かかる構成の有機金属材料供給手段260では、貯留槽262は、加熱手段を有しており、この加熱手段の作動により固形状の有機金属材料を加熱して気化し得るようになっている。そのため、バルブ263を開放した状態で、ポンプ264を作動させて、キャリアガスをガスボンベ265から貯留槽262に供給すると、このキャリアガスとともに気化または霧化した有機金属材料が、供給ライン261内を通過してチャンバー211内に供給されるようになっている。
なお、キャリアガスとしては、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガス等が好適に用いられる。
【0037】
また、本実施形態では、ガス供給手段270がチャンバー211に接続されている。ガス供給手段270は、チャンバー211内を低還元性雰囲気下とするためのガスを貯留するガスボンベ275と、前記低還元性雰囲気下とするためのガスをチャンバー211内に導くガス供給ライン271と、ガス供給ライン271の途中に設けられたポンプ274およびバルブ273とで構成されている。かかる構成のガス供給手段270では、バルブ273を開放した状態で、ポンプ274を作動させると、前記低還元性雰囲気下とするためのガスが、ガスボンベ275から、供給ライン271を介して、チャンバー211内に供給されるようになっている。ガス供給手段270をかかる構成とすることにより、チャンバー211内を有機金属材料に対して確実に低還元な雰囲気とすることができる。その結果、有機金属材料を原材料としてMOCVD法を用いて接合膜3を成膜する際に、有機金属材料に含まれる有機成分の少なくとも一部を残存させた状態で接合膜3が成膜される。
チャンバー211内を低還元性雰囲気下とするためのガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素ガスおよびヘリウム、アルゴン、キセノンのような希ガス等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
なお、有機金属材料として、後述する2,4−ペンタジオネート−銅(II)や[Cu(hfac)(VTMS)]、ビス(2,6−ジメチル−2−(トリメチルシリロキシ)−3,5−ヘプタジオナト)銅(II)(Cu(sopd))等のように分子構造中に酸素原子を含有するものを用いる場合には、低還元性雰囲気下とするためのガスに、水素ガスを添加するのが好ましい。これにより、酸素原子に対する還元性を向上させることができ、接合膜3に過度の酸素原子が残存することなく、接合膜3を成膜することができる。その結果、この接合膜3は、膜中における金属酸化物の存在率が低いものとなり、優れた導電性を発揮することとなる。
また、キャリアガスとして前述した窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガスのうちの少なくとも1種を用いる場合には、このキャリアガスに低還元性雰囲気下とするためのガスとしての機能をも発揮させることができる。
また、排気手段230は、ポンプ232と、ポンプ232とチャンバー211とを連通する排気ライン231と、排気ライン231の途中に設けられたバルブ233とで構成されており、チャンバー211内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
【0039】
以上のような構成の成膜装置200を用いてMOCVD法により、以下のようにして基板2上に接合膜3を形成する。
[1−1] まず、基板2を用意する。そして、この基板2を成膜装置200のチャンバー211内に搬入し、基板ホルダー212に装着(セット)する。
なお、基板21と基板22とは、基板ホルダー212に同時に装着して、それぞれの第1の基板21および第2の基板22上に、一括して接合膜31、32を成膜するようにしてもよいし、基板ホルダー212に別々に装着して、それぞれの第1の基板21および第2の基板22上に、分割して接合膜31、32を成膜するようにしてもよい。
【0040】
[1−2] 次に、排気手段230を動作させ、すなわちポンプ232を作動させた状態でバルブ233を開くことにより、チャンバー211内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、次工程[1−3]において接合膜3を成膜する際に、好ましくは1×10−3〜5×10Torr程度、より好ましくは1〜1×10Torr程度となるように設定する。
【0041】
また、ガス供給手段270を動作させ、すなわちポンプ274を作動させた状態でバルブ273を開くことにより、チャンバー211内に、低還元性雰囲気下とするためのガスを供給して、チャンバー211内を低還元性雰囲気下とする。ここで、低還元性雰囲気下とするためのガスに、水素ガスが添加されている場合には、水素ガス分圧がチャンバー211内の圧力の40〜60%程度となるように水素ガスを添加するのが好ましい。
【0042】
さらに、このとき、加熱手段を動作させ、基板ホルダー212を加熱する。基板ホルダー212の温度は、接合膜(純銅膜)3を形成する際に用いる原材料の種類によっても若干異なるが、80〜300℃程度で有るのが好ましく、100〜275℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、後述する有機金属材料を用いて、銅と有機成分とで構成され、膜中に含まれる銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜3を確実に成膜することができる。
【0043】
[1−3] 次に、シャッター221を開いた状態にする。
そして、固形状の有機金属材料を貯留された貯留槽262が備える加熱手段を動作させることにより、有機金属材料を気化させた状態で、ポンプ264を動作させるとともに、バルブ263を開くことにより、気化または霧化した有機金属材料をキャリアガスとともにチャンバー211内に導入する。
【0044】
このように、前記工程[1−2]で基板ホルダー212が加熱された状態で、チャンバー211内に、気化または霧化した有機金属材料を供給すると、基板2上で有機金属材料が加熱されることにより、有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存した状態で還元されて、銅と有機成分とで構成され、膜中に含まれる銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜3を基板2上に形成することができる。
【0045】
このようなMOCVD法により、銅で構成される接合膜3を形成するために用いられる、有機金属材料としては、例えば、2,4−ペンタジオネート−銅(II)、ビス(2,6−ジメチル−2−(トリメチルシリロキシ)−3,5−ヘプタジオナト)銅(II)(Cu(sopd);C2446CuOSi)、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(hfac)(VTMS)]、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(hfac)(MHY)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(pfac)(VTMS)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(pfac)(MHY)]のような金属錯体等が挙げられる。有機金属材料としては、上述したような金属錯体を用いれば、接合膜3を成膜する際の条件を適宜設定することにより、有機金属材料に含まれる有機物の一部を、所望の量で比較的容易に残存させることができる。すなわち、膜中に含まれる銅の含有率を原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満の範囲内に比較的容易に設定することができる。
【0046】
なお、かかる有機金属材料を用いて、銅で構成される接合膜3を形成すると、上述のように、膜中に存在する有機成分として、有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存することとなる。このような有機物の一部が残存する構成とすることにより、後述する接合膜31、32が結着するメカニズムで説明するような、銅原子に活性サイトを確実に存在させることができるようになると推察される。その結果、後工程[2]で説明するような条件で接合膜31、32同士を確実に結着させることができる。
【0047】
気化または霧化した有機金属材料の供給量は、0.1〜10g/分程度であるのが好ましく、0.5〜2g/分程度であるのがより好ましい。これにより、均一な膜厚で、かつ、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、接合膜3を確実に成膜することができる。
以上のようにして、銅と有機成分とで構成され、膜中に含まれる銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜3を基板2上に形成することができる。
【0048】
また、成膜される接合膜31、32の平均厚さは、1〜500nm程度であるのが好ましく、20〜400nm程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の基板21および第2の基板22同士が接合膜3を介して接合された接合体5の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体5の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0049】
さらに、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜3にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、第1の基板21および第2の基板22の接合面(接合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜3を被着させることができる。その結果、接合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、各第1の基板21および第2の基板22上に形成された接合膜31、32同士が対向するように接触させた際に、接合膜31、32同士の密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、前記範囲内で接合膜3の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0050】
また、接合膜31、32の表面粗さRa(JIS B 0601に規定)は、特に限定されないが、1〜30nm程度であるのが好ましく、5〜15nm程度であるのがより好ましい。これにより、次工程[2]において、圧縮力を付与して、接合膜31、32の表面同士が接近する際に、互いが接触する接触面積の増大を図ることができ、ひいては、互いの表面に存在する活性サイト同士が結合したものの結合数の増大を図ることができる。
【0051】
また、基板2の少なくとも接合膜3を形成すべき領域には、基板2の構成材料に応じて、接合膜3を形成する前に、あらかじめ、基板2と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、基板2の接合膜3を形成すべき領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。これにより、接合膜3と基板2との接合強度を高めることができる。
【0052】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜3を形成するために、基板2の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す基板2が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、基板2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基板2の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0053】
このような材料で構成された基板2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基板2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、基板2上に強固に接合された接合膜3を形成することができる。
なお、この場合、基板2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3を形成すべき領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0054】
また、表面処理に代えて、基板2の少なくとも接合膜3を形成すべき領域には、あらかじめ、中間層を形成するようにしてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、特に限定されるものではないが、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能、接合膜3を成膜する際に接合膜3の膜成長を促進する機能(シード層)、接合膜3を保護する機能(バリア層)等を有するものが好ましい。このような中間層を介して基板2と接合膜3とを接合することになり、その結果、信頼性の高い接合体を得ることができる。
【0055】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、タングステン、銅およびその合金等の金属系材料、金属酸化物、金属窒化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各種材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、基板2と接合膜3との間の接合強度を特に高めることができる。
【0056】
[2]次に、各第1の基板21および第2の基板22に設けられた接合膜31、32同士が対向するようにして(図1(b)参照)、第1の基板21および第2の基板22同士を接触させる(図1(c)参照)。そして、この状態で、第1の基板21および第2の基板22同士に圧縮力を付与する(図2(d)参照)。これにより、接合膜31、32同士が結着(一体化)することになり、結着された接合膜3を介して、第1の基板21および第2の基板22同士が接合された接合体5(本発明の接合体)を得ることができる(図2(e)参照)。
【0057】
このようにして得られた接合体5では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、第1の基板21および第2の基板22同士が接合されている。このため、接合体5は短時間で形成することができ、かつ、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0058】
なお、本発明では、第1の基板21および第2の基板22同士を接触させた状態、図1(c)の状態では、基板21と基板22との間は接合されていないので、基板21の基板22に対する相対位置を調整することができる。これにより、基板21と基板22とを重ね合わせた後、これらの位置を容易に微調整することができる。その結果、第1の基板21および第2の基板22同士を接合させる位置の精度をより高めることができる。
【0059】
また、かかる接合体の形成方法を用いて接合体5を得るようにすれば、後に詳述するが、接合膜3が1at.%よりも大きく、10at.%以下の範囲内で有機成分を含有することにより、接合膜が1at.%の有機成分を含有する場合のように主として銅で構成される場合と比較して、接合膜3を加熱する温度を若干高く設定する必要があるが、この加熱する温度を200℃以下に設定することができ、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の基板21および第2の基板22をも、接合に供することができる。
【0060】
さらに、本発明では、接合膜3を介して第1の基板21および第2の基板22同士を接合しているため、第1の基板21および第2の基板22の構成材料に制約がないという利点があり、第1の基板21および第2の基板22の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、固体接合では、接合膜を介していないため、第1の基板21および第2の基板22同士の間の熱膨張率に大きな差がある場合、その差に基づく応力が接合界面に集中し易く、剥離等が生じるおそれがあったが、接合体5では、結着された接合膜3により応力の集中が緩和されることから、剥離の発生を的確に抑制または防止することができる。
【0061】
なお、第1の基板21および第2の基板22の構成材料は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよいが、第1の基板21および第2の基板22の各熱膨張率は、ほぼ等しいものを選択するのが好ましい。第1の基板21および第2の基板22同士の熱膨張率がほぼ等しければ、接合膜3を介して第1の基板21および第2の基板22同士を接合した際に、接合膜3に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体5において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
また、第1の基板21および第2の基板22の各熱膨張率が互いに異なる場合であっても、第1の基板21および第2の基板22に圧縮力を付与する際の条件を以下のように最適化するのが好ましい。これにより、第1の基板21および第2の基板22同士を、接合膜3を介して高い寸法精度で強固に接合することができる。
【0062】
すなわち、第1の基板21および第2の基板22の熱膨張率が互いに異なっている場合には、圧縮力の付与は、できるだけ低温下で行うのが好ましい。圧縮力の付与を低温下で行うことにより、接合膜3に生じる応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、第1の基板21および第2の基板22同士の熱膨張率の差にもよるが、第1の基板21および第2の基板22の温度が25〜50℃程度である状態下で、第1の基板21および第2の基板22同士を貼り合わせるのが好ましく、25〜40℃程度である状態下で貼り合わせるのがより好ましい。このような温度範囲であれば、第1の基板21および第2の基板22同士の熱膨張率の差がある程度大きくても、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、得られる接合体5における反りや剥離等の発生を確実に抑制または防止することができる。
【0063】
また、この場合、具体的な第1の基板21および第2の基板22同士の間の熱膨張係数の差が、5×10−5/K以上あるような場合には、上記のようにして、できるだけ低温下で接合を行うことが特に推奨される。
さらに、第1の基板21および第2の基板22同士は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、第1の基板21および第2の基板22同士をより強固に接合することができる。
【0064】
また、第1の基板21および第2の基板22のうち、少なくとも一方の基板は、その構成材料が樹脂材料で構成されているのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、第1の基板21および第2の基板22同士を結着された接合膜3を介して接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、接合強度の高い接合体5を得ることができる。
【0065】
このようにして得られた接合体5は、第1の基板21および第2の基板22の構成材料によっても異なるが、第1の基板21および第2の基板22同士間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する接合体5は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、後述のように、接合体5を用いて、例えば液滴吐出ヘッドを構成した場合、耐久性に優れた液滴吐出ヘッドが得られる。
【0066】
ここで、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力の大きさは、形成される接合体5、すなわち基板2および接合膜3が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ大きい方が好ましい。これにより、接合膜3を加熱する温度等の他の条件を一定とした場合、この圧縮力の大きさに対応して接合体5における接合強度を高めることができる。
【0067】
なお、この圧縮力の大きさは、第1の基板21および第2の基板22の構成材料や厚さ、圧縮力を付与する時間、および、接合膜3の温度等に応じて、適宜設定されるが、具体的には、1〜100MPa程度であるのが好ましく、5〜50MPa程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の圧縮力を付与することにより、接合膜31、32同士を確実に結着させることができる。なお、この圧縮力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の基板21および第2の基板22構成材料によっては、これらの第1の基板21および第2の基板22に損傷等が生じるおそれがある。
【0068】
また、圧縮力を付与する時間は、加圧する際の圧縮力の大きさ、接合膜3の温度等に応じて適宜設定される。例えば、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力が大きいほど、圧縮力を付与する時間を短くしても接合膜31、32同士を結着させることができるため、圧縮力を付与する時間が短く設定されるが、具体的には、好ましくは5〜180分程度、より好ましくは10〜80分程度に設定される。かかる範囲内に設定すれば、接合膜31、32同士を確実に結着させることができる。
さらに、圧縮力を付与する際には、接合膜31、32を加熱するのが好ましい。これにより、接合膜31、32の双方に加熱エネルギーが付与されて、接合膜31、32に圧縮力を付与することによる接合膜31、32同士の結着がより円滑に行われることとなる。
【0069】
接合膜31、32を加熱する温度は、室温より高く、基板2の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは90〜200℃程度とされ、より好ましくは150〜180℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、基板2が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合膜31、32同士をより円滑に結着させることができ、接合強度を確実に高めることができる。すなわち、低温下での接合膜31、32同士の結着をより促進させることができ、接合強度を確実に高めることができる。
【0070】
以上のように、接合膜31、32同士を結着させた接合膜3を介して第1の基板21と第2の基板22とが接合された接合体5を確実に得るには、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力の大きさ、圧縮力を付与する時間および接合膜31、32を加熱する温度を、適宜設定する必要がある。また、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力の大きさ、圧縮力を付与する時間および接合膜31、32を加熱する温度の関係は、接合膜3中に含まれる有機成分の含有量すなわち銅の含有量に応じても変化するため、銅の含有量も併せて適宜設定する必要がある。
【0071】
かかる点に、本発明者は着目し、検討を重ねた結果、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力の大きさを50[MPa]に設定し、圧縮力を付与する時間をY[分]とし、接合膜31、32を加熱する温度をT[K]とし、接合膜3中における銅の含有率をX[at.%]とし、気体定数をR[J/(mol・K)]としたとき、下記式1なる関係を満足するように、T、XおよびYを設定すればよいことを見出した。
1/Y≧1.43×10exp[−6.60×10−2(100−X)−82×10/RT] …… 式1
かかる関係を満足させることにより、接合膜31、32同士を、より円滑に結着させることができ、結着された接合膜3により第1の基板21および第2の基板22同士が接合された接合体5をより確実に得ることができる。
【0072】
ここで、前記式1なる関係を満足するように設定することにより、接合膜31、32同士を結着させることができるのは、以下のような本発明者の検討結果に基づくものである。
すなわち、接合膜3中の銅の含有率が99at.%であるときの、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力の大きさを50[MPa]に設定した場合における、接合膜31、32同士が結着されるまでの圧縮力を付与する時間と、接合膜31、32を加熱する温度との関係を検討した。その結果、図4に示すような接合仮想曲線A上に位置するように、圧縮力を付与する時間および接合膜31、32を加熱する温度を設定することにより、接合膜31、32同士を結着させることができることが判ってきた。すなわち、圧縮力を付与する時間および接合膜31、32を加熱する温度が、図4中の●印のような位置となっているときに接合膜31、32同士が結着する。そのため、この接合仮想曲線Aを境界として接合領域と非接合領域とに分かれる、接合膜3中の銅の含有率が99at.%であるときの接合可能境界線Aであることが判ってきた。
【0073】
また、接合膜3中の銅の含有率が90at.%であるときの、第1の基板21および第2の基板22同士に付与する圧縮力の大きさを50[MPa]に設定した場合について、上記と同様に、接合膜31、32同士が結着されるまでの圧縮力を付与する時間と、接合膜31、32を加熱する温度との関係を検討した。その結果、図4中の○印(結着可能)のような位置となったときに接合膜31、32同士が結着することから、図4に示すような接合仮想曲線Bが、この曲線を境界として接合領域と非接合領域とに分かれる、接合膜3中の銅の含有率が90at.%であるときの接合可能境界線Bであることが判ってきた。
【0074】
以上のことから、図4中で右上がりの斜線が引かれている領域が、接合膜3中の銅の含有率が99at.%であるときの接合領域であり、この領域に位置するように、圧縮力を付与する時間および接合膜31、32を加熱する温度を設定すれば、接合膜31、32同士を確実に結着することができ、図4中で左上がりの斜線が引かれている領域が、接合膜3中の銅の含有率が90at.%であるときの接合領域であり、この領域に位置するように、圧縮力を付与する時間および接合膜31、32を加熱する温度を設定すれば、接合膜31、32同士を確実に結着することができることが判った。
【0075】
さらに、接合膜3中の銅の含有量が少なくなる、換言すれば、有機成分の含有量が多くなるにしたがって、図4に示すように、接合可能境界線が、圧縮力を付与する時間を同一にした場合、高温側にシフトすることが判った。
なお、かかる検討において、第1の基板21と第2の基板22とが、接合膜3を介して接合されているか否かの判定は、第1の基板21および第2の基板22同士間で剥離が生じていない場合に、接合されていると判定することとした。
【0076】
そこで、本発明者は、さらに検討を重ね、以下のような仮説を立てた。すなわち、図4中の接合仮想曲線A、Bがそれぞれ温度依存性を示すことから、接合膜31、32同士が結着する際には、これらが結着する接合面において何らかの化学反応が生じており、さらに、この化学反応がアレニウス型のものであると仮定した。
ここで、アレニウスの式は、速度定数をk、活性化エネルギーをEa、気体定数をR、頻度因子をAとしたとき、下記式2で表わされるため、かかる式に近似するように、接合仮想曲線A、Bをそれぞれカーブフィッティングしたところ、接合仮想曲線A、Bの活性化エネルギーEaを、ともに、82×10(J/mol)に近似し得ることが判った。
k=A・exp(−Ea/RT) ……式2
【0077】
そして、上記のように、有機成分(不純物)の含有量が多くなるにしたがって、圧縮力を付与する時間を同一にした場合、接合可能境界線が高温側にシフトするため、頻度因子Aが有機成分の含有量(銅の含有量)と相関関係があると仮定したところ、頻度因子Aと接合膜3中の銅の含有率X(at.%)との関係式を下記式3で表わすことができた。
A=1.43×10exp[−6.60×10−2(100−X)] ……式3
【0078】
これらのように活性化エネルギーEaおよび頻度因子Aが求められたことから、図4中の接合仮想曲線A、Bを、下記式4に示すような銅の含有量をパラメータとして含む1つの式で表わせ得ることを、本発明者は見出した。
1/Y≧1.43×10exp[−6.60×10−2(100−X)−82×10/RT] …… 式4
そのため、上記式1の関係を満足すれば、接合膜3中における銅の含有率C[at.%]が90at.%以上、99at.%未満の間で変化したとしても、圧縮力を付与する時間Y[分]および接合膜31、32を加熱する温度T[K]を接合領域に位置するように設定することができ、接合膜31、32同士を確実に結着し得る。
【0079】
なお、図4に示すように、例えば、加熱する温度を150℃(423K)とし、圧縮力を付与する時間Bを20分とし、銅の含有率C[at.%]を90at.%したとき、接合領域に位置していることから、接合膜31、32同士が結着して、第1の基板21および第2の基板22同士が接合膜3を介して接合されるが、その接合強度は、図中の矢印で示すように、温度Aおよび時間Bの少なくとも一方を大きくすることにより増大することとなる。
【0080】
また、本工程において、接合膜31、32が結着されるのは、以下に示すようなメカニズムによるものと推察される。
接合膜31、32同士に圧縮力を付与すると、まず、接合膜31、32の表面同士がより接近する。
ここで、本発明では、接合膜31、32は、前述したように、化学的気相成膜法を用いて成膜された、銅と有機成分とで構成される膜であり、膜中に有機成分が存在することに起因して、銅原子にダングリングボンド(未結合手)のような活性サイトがランダム(不規則)に存在していると推察される。
【0081】
そのため、接合膜31、32の表面同士がより接近すると、各接合膜31、32の表面付近に存在するダングリングボンド同士が結合する。
この結合は、各接合膜31、32が備えるダングリングボンドが互いに絡み合うように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成されるため、各接合膜31、32を構成する銅原子が互いに直接接合することとなり、接合膜31、32同士が結着するものと推察される。
【0082】
なお、膜中の有機成分の含有量が増加するのに従って、接合可能境界線が高温側にシフトするのは、次のような理由によるものと考えられる。すなわち、膜中に有機成分が存在することで膜中にダングリングボンドが生じることとなるが、膜中の有機成分の含有量が大きくなるにしたがって、このダングリングボンドに有機成分が結合することとなる。そのため、ダングリングボンド同士を互いに絡み合うように結合させるには、まず、この有機成分を膜中から脱離させた後に、これらダングリングボンド同士を結合させる必要があるため、接合可能境界線が高温側にシフトしたものと考えられる。
【0083】
ところで、本発明において、接合膜3中に含まれる銅の含有率を90at.%以上、99at.%未満の範囲内、換言すれば、有機成分の含有率を1at.%よりも大きく、10at.%以下の範囲内としたのは、以下のような理由によるものである。
すなわち、接合膜3中には、銅と有機成分とが含まれているが、この有機成分が多くなると、後述する接合体の剥離方法において、基板21、22毎に分別してリサイクルに供する際に、接合膜3に付与する剥離用エネルギーを小さくしても、この接合膜3内にへき開を生じさせることができ、接合体5のリサイクル率の向上を図ることができる。
【0084】
しかしながら、接合膜3中において、有機成分の割合が多くなると、図4に示したように、接合膜31、32同士を結着させて基板21、22同士を接合する際における、温度T、時間Yさらには基板21、22同士の間に付与する圧縮力を大きくする必要があり、基板21、22の構成材料によっては、その変質・劣化や、接合体5を得る際の製造コストの増大を招くおそれがある。
【0085】
このように、接合膜3中に多くの有機成分が含まれることにより生じるデメリットを的確に防止または抑制しつつ、接合膜3中に有機成分が含まれることにより得られるメリットを確実に得ることを目的に、有機成分の含有率を1at.%よりも大きく、10at.%以下の範囲内、換言すれば、銅の含有率を90at.%以上、99at.%未満の範囲内となるように設定した。
【0086】
なお、第1の基板21および第2の基板22に対する圧縮力の付与は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、中でも、特に、大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、圧縮力の付与をより簡単に行うことができる。
【0087】
以上のような本発明の接合体の形成方法を用いて得られた接合体は、環境問題の観点から、使用後に、リサイクルに供されることが求められ、接合体のリサイクル率を向上させるために、各基材を分別してリサイクルに供されるのが好ましい。このような状況において、本発明では、この接合体の接合膜に剥離用エネルギーを付与する接合体の剥離方法を用いて基材毎に分別することができる。
【0088】
すなわち、接合体5が備える接合膜3に剥離用エネルギーを付与すると、銅と有機成分とで構成される接合膜3中における分子結合の一部が切断されることとなり、その結果として、接合膜3内にへき開が生じて、第1の基板21から第2の基板22を剥離することができ、第1の基板21および第2の基板22をそれぞれ分別してリサイクルに供することができる。
【0089】
ここで、剥離用エネルギーを付与することにより、接合膜3にへき開が生じるメカニズムとしては、次のようなことが考えられる。ここで、接合膜3に剥離用エネルギーを付与すると、接合膜3は銅と有機物で構成されるため、例えば、膜中に存在するCu−CH結合が切断され、雰囲気中の水分子等と反応することにより、例えば、メタンが発生する。このメタンは、気体(メタンガス)として存在し、大きな体積を占有することから、気体が発生した部分で、接合膜3が押し上げられる。その結果、Cu−Cu結合も切断され、最終的に接合膜3内にへき開が生じるものと推察される。
剥離用エネルギーを付与する際の雰囲気は、雰囲気中に水分子が含まれていればよく、特に限定されないが、大気雰囲気であるのが好ましい。大気雰囲気であれば、特に装置を必要とせず、雰囲気中に十分な量の水分子が含まれていることから、接合膜3内にへき開を確実に生じさせることができる。
【0090】
また、接合膜3に付与する剥離用エネルギーは、いかなる方法を用いての付与するものであってもよく、接合膜3にエネルギー線を照射する方法、接合膜3を加熱する方法、接合膜3に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、接合膜3をプラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、接合膜3をオゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。中でも、第1の基板21および第2の基板22の少なくとも一方がエネルギー線透過性を有する場合、接合膜3に剥離用エネルギーを付与する方法として、特に、接合膜3にエネルギー線を照射する方法を用いるのが好ましい。かかる方法は、接合膜3に対して比較的簡単に、かつ選択的に剥離用エネルギーを付与することができるので、接合膜3により確実にへき開を生じさせることができる。また、第1の基板21および第2の基板22の双方がエネルギー線透過性を有しない場合、接合膜3に剥離用エネルギーを付与する方法として、接合膜3を加熱する方法が好適に用いられる。
【0091】
エネルギー線としては、特に限定されないが、特に、紫外線、レーザ光のような光であるのが好ましい。これにより、第1の基板21および第2の基板22に変質・劣化が生じるのを防止しつつ、接合膜3にへき開を確実に生じさせることができる。
紫外線の波長は、好ましくは126〜300nm程度、より好ましくは126〜200nm程度とされる。
【0092】
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜3の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜3との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3内にへき開が生じる程度の時間に設定される。具体的には、紫外線の光量、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、10〜180分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
【0093】
また、接合膜3を加熱する場合、接合体5を加熱する際の温度は、好ましくは100〜400℃程度とされ、より好ましくは150〜300℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、第1の基材および第2の基材が熱によって変質・劣化するのを的確に抑制または防止しつつ、接合膜3にへき開を確実に生じさせることができる。
また、加熱時間は、接合膜3内にへき開が生じる程度の時間に設定される。具体的には、加熱する温度、接合膜3の構成材料等に応じて若干異なるものの、10〜180分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
【0094】
以上のように、接合膜3に剥離用エネルギーを付与するという容易な方法で、第1の基板21から第2の基板22を効率よく剥離することができる。そのため、基板21、22同士が異なる材料で構成される場合であったとしても、基板21、22毎に分別して再利用に供することができるため、接合体5のリサイクル率を確実に向上させることができる。
【0095】
さらに、上記で説明した本発明の接合体の形成方法は、種々の基材(部材)同士を接合するのに用いることができる。
このような接合体の形成方法により接合される部材としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサ、加速度センサのようなセンサ部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子用部品、燃料電池用部品等が挙げられる。
【0096】
<液滴吐出ヘッド>
ここでは、本発明の接合体の形成方法により形成された接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図5は、本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図6は、図5に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図7は、図5に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図5は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0097】
図5に示すインクジェット式記録ヘッド10は、図7に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図7に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
【0098】
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
【0099】
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
【0100】
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
【0101】
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0102】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0103】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
【0104】
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0105】
以下、ヘッド10について、図5および図6を参照しつつ詳述する。
ヘッド10は、ノズル板11と、インク室基板12と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0106】
ノズル板11は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板11には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0107】
ノズル板11には、インク室基板12が固着(固定)されている。
このインク室基板12は、ノズル板11、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
【0108】
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
インク室基板12を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
【0109】
一方、インク室基板12のノズル板11と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板12と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0110】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板11が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板11の縁部を支持する。
【0111】
以上のような、ノズル板11とインク室基板12との接合、インク室基板12と振動板13との接合、およびノズル板11と基体16とを接合する際に、少なくとも1箇所において本発明の接合体の形成方法が適用されている。
換言すれば、ノズル板11とインク室基板12との接合体、インク室基板12と振動板13との接合体、およびノズル板11と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合体が適用されている。
【0112】
このようなヘッド10は、接合部の接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
【0113】
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0114】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0115】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0116】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成(いわゆる、「バブルジェット方式」(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0117】
かかる構成のヘッド10において、ノズル板11には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0118】
<配線基板>
さらに、本発明の接合体を配線基板に適用した場合の実施形態について説明する。
図8は、本発明の接合体を適用して得られた配線基板を示す斜視図である。
図8に示す配線基板410は、絶縁基板413と、絶縁基板413上に配設された電極412と、リード414と、リード414の一端に、電極412と対向するように設けられた電極415とを有する。
【0119】
そして、電極412の上面と、電極415の下面とには、それぞれ接合膜3が形成されている。これら電極412と電極415とは、前述の本発明の接合体の形成方法によって、貼り合わせることにより結着された接合膜3を介して接合されている。これにより、電極412、415間は、1層の接合膜3によって強固に接合されることになり、各電極412、415間の層間剥離等が確実に防止されるとともに、信頼性の高い配線基板410が得られる。
【0120】
また、接合膜3は、銅で構成されることから各電極412、415間を導通する配線としての機能をも担う。
また、接合膜3は、前述したように、その厚さを高い精度で容易に制御することができる。これにより、配線基板410は、より寸法精度の高いものとなり、各電極412、415間の導電性も容易に制御することができる。
【0121】
以上、本発明の接合体の形成方法および接合体を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合体の形成方法は、前記実施形態のうち、任意の1つまたは2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
また、本発明の接合体の形成方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、前記実施形態では、2つの基板を接合する場合について説明しているが、これに限らず、3つ以上の基板を接合する場合に、本発明の接合体の形成方法を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0122】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合体の製造
(実施例1)
まず、基板として、それぞれ、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板、および、縦20mm×横10mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意した。
次いで、各基板の表面に、熱酸化処理を施して100nmの熱酸化膜を形成し、さらにこの熱酸化膜上にスパッタ法を用いて20nmのチタン薄膜を形成して、表面処理を行った。
【0123】
次に、表面処理を行った各基板を、それぞれ、図3に示す成膜装置200のチャンバー211内に収納し、原材料をビス(2,6−ジメチル−2−(トリメチルシリロキシ)−3,5−ヘプタジオナト)銅(II)(Cu(sopd))とし、MOCVD法を用いて、平均厚さ100nmの銅と有機成分とで構成される接合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0124】
<成膜条件>
・チャンバー内の雰囲気 :窒素ガス + 水素ガス
・有機金属材料(原材料) :Cu(sopd)
・霧化した有機金属材料の流量 :1g/min
・キャリアガス :窒素ガス
・成膜時のチャンバー内の圧力 :20Torr
・成膜時の水素分圧 :14Torr
・基板ホルダーの温度 :270℃
・処理時間 :10分
以上のようにして成膜された接合膜は、銅で構成されており、2次イオン質量分析法(SIMS法)を用いて、銅の純度を測定したところ、98at.%であった。
かかる工程を経て、各単結晶シリコン基板上に、それぞれ、銅と有機成分とで構成される接合膜を形成した。
【0125】
次に、各単結晶シリコン基板がそれぞれ備える接合膜同士が互いに接触するように、単結晶シリコン基板同士を重ね合わせた。
次に、この状態で、これらの基板同士に、50MPaの圧縮力を付与しつつ、175℃で接合膜を加熱し、圧縮力の付与を5分間維持して、各基板に形成された接合膜同士を結着させることにより、前記式1を満足する条件下で、結着された接合膜を介して各基板が接合された接合体を得た。
【0126】
(実施例2〜7)
圧縮力の付与を維持する時間および接合膜を加熱する温度を、それぞれ表1に示す条件に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
なお、これらの条件は、いずれも、前記式1を満足するものであった。
【0127】
(実施例8)
各基板上に、銅と有機成分とで構成される接合膜を成膜する際の成膜条件を以下に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
<成膜条件>
・チャンバー内の雰囲気 :窒素ガス + 水素ガス
・有機金属材料(原材料) :Cu(sopd)
・霧化した有機金属材料の流量 :1g/min
・キャリアガス :窒素ガス
・成膜時のチャンバー内の圧力 :15Torr
・成膜時の水素分圧 : 8Torr
・基板ホルダーの温度 :270℃
・処理時間 :10分
以上のようにして成膜された接合膜は、銅で構成されており、2次イオン質量分析法(SIMS法)を用いて、銅の純度を測定したところ、90at.%であった。
(実施例9〜16)
圧縮力の付与を維持する時間および接合膜を加熱する温度を、それぞれ表1に示す条件に変更した以外は、前記実施例8と同様にして接合体を得た。
なお、これらの条件は、いずれも、前記式1を満足するものであった。
【0128】
(比較例1〜5)
圧縮力の付与を維持する時間および接合膜を加熱する温度を、それぞれ表1に示す条件に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
なお、これらの条件は、いずれも、前記式1を満足しないものであった。
(比較例6〜12)
圧縮力の付与を維持する時間および接合膜を加熱する温度を、それぞれ表1に示す条件に変更した以外は、前記実施例8と同様にして接合体を得た。
なお、これらの条件は、いずれも、前記式1を満足しないものであった。
【0129】
2.接合体の評価
2.1 剥離の有無の評価
各実施例および各比較例で得られた接合体について、それぞれ、接合膜同士間での剥離の有無を確認した。そして、接合膜同士間での剥離の有無にしたがって以下のように評価した。
<剥離の有無の評価基準>
○:接合膜同士間で剥離が認められない
×:接合膜同士間で剥離が認められる
【0130】
2.2 抵抗率の評価
各実施例および各比較例で得られた接合体について、縦方向の端部に、それぞれ、電極を設け、電極同士間の抵抗率を測定することにより、接合体の抵抗率を求めた。そして、測定した抵抗率を以下の基準にしたがって評価した。
<抵抗率の評価基準>
◎: 1×10−5Ω・cm未満
○: 1×10−5Ω・cm以上、 1×10−3Ω・cm未満
△: 1×10−3Ω・cm以上、 1×10−1Ω・cm未満
×: 1×10−1Ω・cm以上
以上、2.1〜2.2の各評価結果を表1に示す。
【0131】
【表1】

【0132】
表1から明らかなように、各比較例で得られた接合体では、いずれも、接合膜同士間での剥離が認められたが、これに対して、各実施例で得られた接合体では、いずれも接合膜同士間での剥離が認められなかった。
また、各実施例で得られた接合体では、各比較例で得られた接合体と比較して、抵抗率が低く、優れた導電体特性を示した。
【符号の説明】
【0133】
2……基板 21……第1の基板 22……第2の基板 3、31、32……接合膜 5……接合体 200……成膜装置 211……チャンバー 212……基板ホルダー 221……シャッター 230……排気手段 231……排気ライン 232……ポンプ 233……バルブ 260……有機金属材料供給手段 261……ガス供給ライン 262……貯留槽 263……バルブ 264……ポンプ 265……ガスボンベ 270……ガス供給手段 271……ガス供給ライン 273……バルブ 274……ポンプ 275……ガスボンベ 10……インクジェット式記録ヘッド 11……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 12……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙 410……配線基板 412……電極 413……絶縁基板 414……リード 415……電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材および第2の基材上に、それぞれ、化学的気相成膜法を用いて、銅と有機成分とで構成され、前記銅の含有率が原子比で90at.%以上でかつ99at.%未満である接合膜を形成する工程と、
前記接合膜同士が対向するようにして、前記第1の基材および第2の基材同士を接触させた状態で、前記第1の基材および第2の基材間に圧縮力を付与して、前記接合膜同士を結着させることにより接合体を得る工程とを有することを特徴とする接合体の形成方法。
【請求項2】
前記接合膜を形成する工程において、前記接合膜は、その表面粗さRa(JIS B 0601に規定)が1〜30nmとなるように形成される請求項1に記載の接合体の形成方法。
【請求項3】
前記接合体を得る工程において、前記第1の基材および第2の基材間に付与する圧縮力は、1〜100MPaである請求項1または2に記載の接合体の形成方法。
【請求項4】
前記接合体を得る工程において、前記圧縮力を付与する時間は、5〜180分である請求項1ないし3のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項5】
前記接合体を得る工程において、前記接合膜を加熱する請求項1ないし4のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項6】
前記接合膜を加熱する温度は、90〜200℃である請求項5に記載の接合体の形成方法。
【請求項7】
前記接合体を得る工程において、前記第1の基材および第2の基材間に付与する圧縮力の大きさを50[MPa]とし、前記圧縮力を付与する時間をY[分]とし、前記接合膜を加熱する温度をT[K]とし、前記銅の含有率をX[at.%]とし、気体定数をR[J/(mol・K)]としたとき、1/Y≧1.43×10exp[−6.60×10−2(100−X)−82×10/RT]なる関係を満足するよう設定する請求項5または6に記載の接合体の形成方法。
【請求項8】
前記接合体を得る工程において、前記圧縮力の付与は、大気雰囲気中で行われる請求項1ないし7のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項9】
前記接合膜は、有機金属材料を原材料として用いる有機金属化学気相成膜法により成膜される請求項1ないし8のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項10】
前記有機金属材料は、金属錯体である請求項9に記載の接合体の形成方法。
【請求項11】
前記有機成分は、前記有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存したものである請求項9または10に記載の接合体の形成方法。
【請求項12】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし11のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項13】
前記第1の基材および第2の基材は、それぞれ、板状をなしている請求項1ないし12のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項14】
前記第1の基材および第2の基材の少なくとも前記接合膜を形成する部分は、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されている請求項1ないし13のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項15】
前記第1の基材および第2の基材の前記接合膜を備える面には、あらかじめ、前記接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし14のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項16】
前記表面処理は、プラズマ処理である請求項15に記載の接合体の形成方法。
【請求項17】
前記第1の基材および第2の基材と、前記第1の基材および第2の基材に設けられた各前記接合膜との間に、それぞれ、中間層が介挿されている請求項1ないし16のいずれかに記載の接合体の形成方法。
【請求項18】
前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されている請求項17に記載の接合体の形成方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかに記載の接合体の形成方法により形成されたことを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131674(P2010−131674A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293509(P2009−293509)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2008−13202(P2008−13202)の分割
【原出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】