説明

接合体

【課題】 鉛を実質的に含有しない接合材を用い、高温条件においても良好な機械的強度を保持可能な接合体及び半導体装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、金属材料の溶融温度が260℃以上であり、鉛及び金を主成分とした金属合金を代替する接合材料として、被接合部に物理蒸着法により形成されるSnと、前記Snより高融点を有する金属材料とからなる接合層を、他方の被接合部に接合することにより、300℃以上450℃以下の温度範囲において、良好な接合状態が確保でき、かつ高い高温強度を維持することを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電子機器の部品の接合に好適に用いられる接合体に関し、改善された耐熱性を有する接合体に関する。

【背景技術】
【0002】
ある物体とその物体よりも融点が低い物質を用いた接合技術であるはんだ接合技術は、古くから一般に使用されており、電子機器の接合においても、マイクロプロセッサ、メモリ、抵抗、及びコンデンサなどの半導体素子や電子部品と実装基板との接合をはじめとして幅広く用いられている。はんだ接合は、部品を基板に機械的に固定するだけでなく、導電性を有する金属をはんだに含有させることにより電気的にも接合する特長を有する。
【0003】
今日、パーソナルコンピュータ、携帯電話などに代表されるパーソナル機器の普及が急速に進むにつれ、電子部品の実装技術における接合材や接合方法の選択はますますその重要性が増大している。
【0004】
従来から、実用に極めて適しているところから、錫−鉛系共晶はんだが多用されてきた。しかし、錫−鉛系共晶はんだに含まれる鉛は、人体に対し有害であることから、鉛を含まない、いわゆる非鉛系はんだの開発が急務とされている。
【0005】
一方、現在半導体デバイスの中で例えばパワーデバイスの接合材としては、主に融点が183℃の低温系はんだ(Sn−Pb共晶はんだ)と、融点が約300℃程度の高温系はんだ(Pb−5Snはんだ)が多用されており、それぞれ工程に応じて使い分けられている。
【0006】
このうち、低温系はんだについては、錫−銀−銅系合金を中心としたものが実用化の段階に到達しており、今後数年で多くのセットメーカーで非鉛系共晶はんだの代替は完了することが予定されている。
【0007】
しかしながら、高温系はんだ、すなわち例えば260℃の高温条件下においても良好な機械的強度を保持する接合部を形成する接合材については、高鉛含有材料以外は金を主成分とした金基合金が挙げられるが、貴金属の金を使用するため、大幅な材料価格が上昇するため汎用的に使用するには、難しい材料である。また、鉛及び金以外の金属材料を主成分とした金属合金も、高温系はんだとして未だに実用化には至ってはいない。
【0008】
これまでに、鉛及び金以外の金属材料を主成分とし260℃の高温条件下においても良好な機械的強度を保持する接合部を形成する接合材のひとつとして、Zn系合金が候補として挙げられている(特許文献1、2参照)。この接合材料は、Zn元素から成る金属材料であるため、安価であり、環境にも配慮された接合材である。しかしながら、銅とのぬれ性が悪く、また、接合材料としても硬いため、実用化にまで至っていない。
【0009】
また、Snを主成分とするSn系合金を高温はんだ適用しようと試みられている(特許文献3、4参照)が、Sn系合金の場合、Cuなどの被接合材との接合性や硬さなどの加工性には優れるものの、低融点で液化が始まるため、高温はんだとしての耐熱性を満たすことは困難である。

【特許文献1】特開2004−237357号公報
【特許文献2】特開2001−121285号公報
【特許文献3】特開2003−364363号公報
【特許文献4】特開2001−284792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、実質的に鉛および金を含有しない接合材を用い、高温条件においてもなお良好な機械的強度を保持可能な接合部を短時間で形成可能とする接合方法、接合体、及び実質的に鉛を含有しない接合材を用い、高温条件にあっても半導体素子とリードフレームとの接合部が良好な機械的強度を保持することが可能とする接合方法、接合体、またその接合方法により製造される半導体装置を提供することを目的とするものである。

【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明は、第1の被接合部材と、Snと、前記Sn以上の融点を有する金属材料を含有し、前記Snが質量比で35%以上70%以下であって、かつ固相線温度が260℃以上である接合層と、第2の被接合部材とを有する接合体である。
【0012】
第2の本発明は、第1の被接合部材表面に、Snと、前記Sn以上の融点を有する金属材料であって、Snが35%以上70%以下の組成となる接合材を、薄膜形成法により形成し、次いで第2の被接合部材と接触させ、300℃以上450℃の温度条件で加熱し、必要であれば加圧して接合する方法である。
【0013】
前記接合によって得られる接合層は、その固相線温度が260℃以上であることが好ましい。

【発明の効果】
【0014】
本発明の接合体は、有害な鉛及び高価な金を実質的に使用せずとも十分な接合強度を有し、かつ高温条件においても機械的強度が維持可能である。
【0015】
本発明の接合方法によれば、300℃以上450℃以下の接合温度条件において、良好な接合状態を確保することが可能であり、有害な鉛及び高価な金を実質的に使用せず、かつ従来の高温系はんだと同等の接合時間で耐熱性が高い接合部が形成される。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[発明の原理]
本発明は、Snと、これより高融点の金属元素とからなる接合材を用いて、接合を行う際に、接合材を薄膜状で、被接合部材表面に付与することで、Snに添加する高融点金属の溶融温度より低い温度での接合を可能にするとともに、得られる接合層は高融点合金化するために耐熱性も向上するものである。
すなわち、接合材を構成する成分の内、低融点金属であるSnと、これより高融点の添加金属成分とが、薄膜内において相互に接触し、低融点金属の溶融温度以上に加熱することで、溶融した低融点金属に高融点金属が溶解して合金化することによって、高融点合金が形成されるものである。
【0017】
[第1の実施の形態:接合体]
接合体の概略断面図である図1に示すように、この実施の形態の接合体4は、第1の被接合部材1と、第2の被接合部材3が、Snと、前記Sn以上の融点を有する金属材料を含有し、前記Snが質量比で35%以上70%以下である接合層2によって接合されていることを特徴とするものである。
前記接合体において、前記接合層2が、固相線温度が260℃以上の材料からなっていることが好ましい。固相線温度が260℃を下回った場合には、本接合体が260℃以上に加熱されると、接合部が溶融し、高温強度が維持されないという不都合が生じる。
【0018】
本実施の形態の薄膜状の接合層は、Snからなる第1成分と、これに添加する金属材料からなるものである。添加される第2成分として、少なくとも第1成分金属元素より高融点金属元素を用いるものである。高融点金属元素として、具体的には、Ag,Cu,Ni,Au,Sb、Bi、Co、Alなどが上げられる。第2成分として用いられる元素は前述の元素から2種類以上を選択して用いてもよい。また、Snより低融点の元素が含まれる場合には接合層に対して数%以下が好ましい。
【0019】
本発明の接合層材料としては、AgCuSn系合金を用いることが好ましく、より具体的には、Ag22Cu25Sn53,Ag13Cu35Sn52,Ag13Cu40Sn47,Ag13Cu45Sn42などが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0020】
第2の被接合部材がCuなど高熱膨張材料の場合は、接合温度400℃以下で接合可能な接合材料を選択することが好ましい。また、第2の接合部材がFe−42Ni合金(以下42アロイと称する)などの低膨張材料の場合は、接合温度450℃以下で接合可能な接合材料を選択することが望ましい。また、第2の被接合部材が42アロイなどの低膨張材料の表面に高膨張材料のCuなどが被覆された場合でも、接合温度450℃以下で接合可能な接合材料を選択することが望ましい。上記接合温度以上で、接合すると、第1の被接合部材と第2の被接合部材の熱膨張係数の差による熱応力が増大し、接合ひずみが生じるため好ましくない。特に、第2の被接合部材にCu、Ag、Au、Sbを含有しない場合には、接合材のSnの質量比は50%以下であることが望ましい。
【0021】
また、この接合層には、第1の被接合部材及び第2の被接合部材の少なくとも一方の構成金属元素が溶解・拡散することにより生成した金属間化合物が存在していても良い。
【0022】
接合の条件によっては、接合体の断面図である図2に示すように、第1の被接合部材1および第2の被接合部材3と接合層7との界面に、Snと第1の被接合部材1の構成元素からなる金属間化合物層8およびSnと第2の被接合部材3の構成元素からなる金属間化合物層9が形成されることもある。このような接合体においても、本発明の効果を達成することができる。
【0023】
上記実施の形態の接合体は、以下に説明する接合方法によって製造することができる。
【0024】
[第2の実施の形態:接合方法]
以下本実施の形態である接合方法について説明する。
本実施の形態の接合方法は、第1の被接合部材の表面に、Snと、前記Snより高融点を有する金属材料とを含み、Snが35%以上70%以下含有される接合材を薄膜状に形成する工程と、
前記第1の被接合部材表面に形成された前記薄膜接合材と第2の被接合部材とを、300℃以上、より好ましくは350℃以上で加熱して密着させ、接合する工程を有する接合方法である。接合温度の上限温度は、第2の被接合部材により異なり、42アロイなどの低膨張材料を有する場合は、接合温度450℃以下で接合することを特徴とし、高膨張材料のみからなる場合は、接合温度400℃以下で接合することを特徴とする。
【0025】
この接合方法における接合工程において、第1の被接合部材、薄膜接合材と第2の被接合部材との加熱、および、これらの密着とは同時に行ってもよいし、いずれか一方を先行して行ってもよい。また、密着させるに当たり、加圧して行うこともできる。
接合工程において、加熱時間は、0.1秒以上が望ましく、特にピーク温度での加熱時間が0.5秒以上となるように加熱すればより好ましい。また、加熱時間は長くとも30秒以下でよく、ピーク温度での加熱時間が10秒以下となるように加熱すればよい。
はんだ付け工程は、大気中雰囲気で行ってもよいが、酸化されやすい金属を含む接合材を用いた場合には、窒素のような非酸化性雰囲気で加熱を行うことが好ましい。さらには、水素を含有した還元性雰囲気で加熱を行うことがなお好ましい。
【0026】
(接合材及び接合層)
本実施の形態の薄膜状の接合材は、第1の実施形態で示した接合層2で使用する接合材料を用いることができる。すなわち、Snからなる第1成分と、これに添加する金属元素からなる添加成分からなる接合材において、第2成分として、第1成分金属元素より高融点金属元素を用いるものである。第2成分として用いられる元素は前述の元素から2種類以上を選択して用いてもよい。
【0027】
前記接合材を第1の被接合部材表面に薄膜として形成する手段としては、物理的成膜法、特に、真空蒸着、イオンプレーティング、電子ビーム処理等を採用することができるが、このような物理的成膜法以外にも、めっき法や化学的成膜法を採用することもできる。
本実施の形態の接合材は、すべての成分を同時に薄膜状に成膜してもよいし、各成分を順次成膜してもよい。各成分を順次成膜する場合、単一元素の層を複数層に分けて成膜してもよい。具体的には、仮にA金属とB金属を成膜する場合、A層、B層、A層、B層のように、4層に分割して成膜することもできる。このような成膜法によれば、A金属とB金属の合金化が速やかに進行するので好ましい。
前記薄膜接合材の厚さは、1μm以上、50μm以下の範囲であることが望ましい。複数層にわたって薄膜化する場合、合計の膜厚を、上記範囲とすることが好ましい。金属層が1μmより薄い場合には、良好な接合性を確保することが困難となり、また、50μm以上の場合には、物理的成膜法によって接合層を形成する場合、製造効率を妨げる恐れがあるため、好ましくない。
【0028】
接合工程によって得られる接合層の材料は、上記接合材を構成する元素が合金化したものとなるが、接合層中には、第1の被接合部材及び第2の被接合部材の構成金属元素が溶解・拡散することにより形成した金属間化合物が存在していても良い。
接合層材料の固相線温度は、260℃以上であることが好ましい。液相線温度が260℃を超えると、接合部が溶融し、高温強度が維持されないという不都合が生じる。
【0029】
(被接合部材)
この実施形態では、第1の被接合部材及び第2の被接合部材は金属材料を使用することができる。使用する金属材料は用途に応じて選択可能で特に限定されないが、溶融したSnとの接合性が良好である材料であることが望ましい。具体的には、Au、Ni、Ag、Cu、Pd、Pt、Al、Ge、Be、Nb、Mn、あるいはこれらの合金などが、好ましい。
【0030】
(効果)
本実施の形態によれば、はんだ接合に高融点の合金材料を用いても極度に接合時間が増加することが無いため、接合体の製造効率の低下を招かない。例えば、実際の半導体装置の実装工程において鉛含有はんだを用いた現行の製造速度と同程度の製造速度に設定することを可能とし、製造効率を低減させることはない。
【0031】
また、本実施の形態の接合方法によれば、260℃以上の耐熱性を有する接合層が形成されるため、260℃の高温条件下においても接合層の耐熱性を維持することができ、高温系マウント材として求められる260℃において耐熱性があるという要求に十分応えることができる。また、接合材内部において、第1の被接合部材、または第2の被接合部材の構成元素が、接合層に固溶した相、または、接合層中の接合材構成元素と各被接合部材構成元素とで構成される金属間化合物相等が生成してよい。その結果として、高温条件下においても機械的強度の良好な接合体が短時間で得ることができる。
【0032】
本発明に係る接合体、接合方法は、はんだ接合を行うことができるいかなる分野で用いられてもよいが、特に製造プロセス、あるいは製品使用時に高温条件下に置かれる電子機器部品、半導体デバイス特にパワー系半導体デバイスにおける部品の接合に好適に用いられる。特に半導体素子とリードフレームとの接合に際しては特に好適に用いられる。
【0033】
[第3の実施の形態:接合方法の変形例]
上記第1の実施の形態においては、被接合部材の一方の表面に接合材を形成する例を示したが、接合材を第1の被接合部材および第2の被接合部材の双方の表面に形成してもよい。
この場合、2つの接合材は、同一組成の層であってもよいし、それぞれ異なる組成の層であってもよい。最終的にはんだ接合された後の接合層材料が、上記本発明の接合層の組成となるように、各層の組成を調整することによって、本発明のはんだ接合を形成することができる。
また、各基材表面に形成される薄膜の厚さは、それらの合計量が1μm以上、50μm以下の範囲となるよう、それぞれ設定することができる。
【0034】
[第4の実施の形態:接合方法の他の変形例]
この実施形態の接合方法は、第1の被接合部材および第2の被接合部材の少なくとも一方を、金属、セラミックス、あるいは半導体などからなる母材の表面にメタライズ層を形成したものとするものである。この方法は、上記はんだ接合に適さない材料を被接合部材として用いる場合に適している。
【0035】
前述のように、第1の被接合部材または第2の被接合部材が、金属、セラミックス、半導体等の材料からなる母材と、その表面に形成されたメタライズ層とからなっている。このメタライズ層は、Au、Ni、Ag、Cu、Pd、Pt、Al、Ge、Be、Nb、Mnまたはこれらの金属材料を用いた金属合金からなる群より選択される材料であることが好ましいが、用途に応じて選択可能であり特に限定されることはない。このメタライズ層は、単一材料の層であってもよいし、相互に異なる材料からなる複数のメタライズ層からなっていてもよい。母材表面にメタライズする手段としては、蒸着、スパッタリング、めっき処理や電子ビーム処理等の物理的あるいは化学的成膜法を採用することができる。
【0036】
メタライズ層の厚さ(平均厚さ)は、特に限定されるものではないが、0.1μm以上、500μm以下の範囲であることが望ましい。この厚さが、0.1μm以下であると、十分なはんだ接合強度が得られない。また、500μm以上のメタライズ層を形成するには、薄膜形成に長時間を要し、実用的ではない。
【0037】
本実施の形態においては、前記メタライズ層表面に、前記成膜法を適用して、接合材層を形成し、前記第1の実施の形態における方法と同様にして接合することができる。また、メタライズ層を備えていない接合部材表面に接合材層を形成し、メタライズ層を備えた基材と接合することもできる。
【0038】
[第5の実施の形態:上記接合技術を適用した半導体装置]
上記はんだ接合技術は、半導体装置の製造に適用することできる。
【0039】
以下、本発明を適用することができる半導体装置について、図面を用いて説明する。
図3は、本発明の接合技術を適用した半導体装置の一例を示す断面図である。この実施形態の半導体装置は、外部端子となるリード部37を有するリードフレーム34と、リードフレーム34表面に配置されている半導体素子36と、このリードフレーム34と半導体素子36との間で両者を接合している接合層35と、これらを包囲する封止樹脂32とを有している。
リードフレーム34は、42アロイなどの低熱膨張材料、銅など高熱膨張材料の金属の表面に、例えば銀めっきおよび銅めっきなどが施されていてもよい。本実施の形態の半導体装置としては、例えばダイオード、トランジスタ、コンデンサ、サイリスタ等を挙げることができる。
【0040】
上記本実施の形態の半導体装置においては、半導体素子表面を、Au、Ni、Ag、Cu、Pd、Pt及びAl、またはこれらの金属材料を用いた金属合金からなる群より選択される材料を用いた金属薄膜でメタライズし、この半導体素子の金属薄膜がメタライズされた面と、前記半導体素子を載置する金属リードフレームとを、Snと、これらより融点の高い金属元素とからなる接合材によって接合するものである。
【0041】
前記半導体装置において、前記金属フレームは、Au、Ni、Ag、Cu、Pd、Pt及びAl、またはこれらの金属材料を用いた金属合金からなる群より選択される材料で構成されていてもよいし、任意の金属母材表面が、Au、Ni、Ag、Cu、Pd、Pt及びAl、またはこれらの金属材料を用いた金属合金からなる群より選択される材料を用いた金属薄膜でメタライズされていても良い。
【0042】
本実施の形態において、接合材を構成するSn以上の融点を有する金属材料としては、Ag、Cu、Ni、Pd、Pt及びAl、またはこれらの金属材料を用いた金属合金からなる群により選択される材料を用いることが好ましい。また、これ以外の金属元素が微量添加されていても、本発明の効果は変わらない。
【0043】
(効果)
本実施の形態の半導体装置の製造方法及び半導体装置によれば、半導体装置の製造過程において有害な高鉛含有接合材を使用せずとも、高温条件下にさらされても半導体素子とリードフレーム間の接合強度は維持され、信頼性の高い半導体装置を短時間で提供できる。

【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0045】
(実施例1)
パワー系半導体装置における半導体素子とリードフレームとの接合を行った。図3は2.5×3.0×0.6mmサイズの半導体素子とリードフレームとの接合形態を示す断面図である。このパワー系半導体モジュールでは、10mm角のシリコン半導体素子11に、第1の被接合部材として、金を蒸着することによりメタライズが施され0.1μm厚の金よりなるメタライズ層1が形成されている。さらに、メタライズ層1表面には、実質的に質量構成比でSnを25%、Cuを22%含み、残部がAgよりなる10μm厚の接合材5を蒸着形成した。
また、第2の被接合部材としてCuよりなるメタライズ層3は、42アロイよりなるリードフレーム12表面上に無電解めっき処理により施した。
更に、上記接合材5とメタライズ層3とが接するように積層し、その後加熱して接合を行なった。加熱は、100ppm以下の酸素濃度にしたフォーミングガス(窒素+水素)雰囲気中で熱板上で加熱した。加熱条件は、450℃、5秒とした。
【0046】
接合後の接合界面の断面をSEM観察から、際立ったボイドの発生は認められず、良好な接合性を示した。
【0047】
最後に接合したリードフレームと半導体素子とを樹脂封止し、260℃の耐熱性を有したパワー系半導体装置を得た。
【0048】
(実施例2)
接合材として、Ag13Cu35Sn52を用いたこと以外には、上記実施例1と同様にして、パワー半導体とリードフレームとの接合を行った。
接合後の接合界面の断面をSEM観察したところ、際立ったボイドの発生は認められず、良好な接合性を示していた。
【0049】
(実施例3)
接合材として、Ag13Cu40Sn47を用いたこと以外には、上記実施例1と同様にして、パワー半導体とリードフレームとの接合を行った。
接合後の接合界面の断面をSEM観察したところ、際立ったボイドの発生は認められず、良好な接合性を示していた。
【0050】
(評価)
上記各実施例で作成した接合体について、高温剪断試験を行った。その試験装置の概略を図4に示す。図4に見られるように、リードフレーム41の表面に接合層42を介して半導体素子43が接合されている試験体を、加圧片44を用いて矢印方向に力を印加し、破断時の強度を測定した。この測定は、各試験片について、室温及び275℃加熱時について、各10サンプルについて行った。その結果を図5に示す。
図5は、本願実施例により提供されるサンプルに対するせん断強度試験結果の一例であり、室温と、275℃におけるせん断強度を測定している。各実施例において試料を3〜5個用意し、それぞれのサンプルのせん断強度を測定し、その平均値を算出した。
図5に見られるように、各結果においては全て275℃加熱時においても室温時並のせん断強度を示しており、耐熱性があることが分かった。
【0051】
(実施例4)
本実施例では、第2の被接合部材としてAgよりなるメタライズ層を42アロイよりなるリードフレーム上に成膜して用いた以外は実施例1と同様にパワー系半導体装置を得た。
【0052】
接合後の接合界面の断面をSEM観察から、際立ったボイドは発生せず良好な接合性を示し、高温での接合性も良好であった。
【0053】
最後に接合したリードフレームと半導体素子とを樹脂封止し、260℃の耐熱性を有したパワー系半導体装置を得た。
【0054】
(実施例5)
本実施例では、2.5×3.0×0.6mmサイズの半導体素子13上に真空蒸着により形成された0.1μm厚の金層1および10μm厚のSn層5の表面上に、更に真空蒸着により10μm厚のZn−Sn系接合層6を形成した以外は実施例1と同様にパワー系半導体装置を得た。蒸着により形成されたZn−Sn接合層6は、Snが50.0質量%、残りがZnからなるZn-Sn系合金を用いている。この接合層6を、Cuからなるリードフレーム7上に施された錫層8上に搭載して、100ppmの酸素濃度にしたフォーミングガス(窒素+水素)雰囲気中で熱板上で加熱した。加熱条件は、400℃、5秒とした。
【0055】
接合後の接合界面の断面をSEM観察から、際立ったボイドは発生せず良好な接合性を示し、高温での接合性も良好であった。
【0056】
最後に接合したリードフレームと半導体素子とを樹脂封止し、パワー系半導体装置を得た。
【0057】
(実施例6〜11及び比較例1〜3)
実施例6では、第1の被接合部材として42アロイに銅メッキした被接合部材を、実施例7〜11は被接合部材に銅を用い、AgCuSn系接合材を表1に示すような比率になるように各元素を蒸着によって成膜した例である。加熱は実施例6の場合には450℃、実施例7〜11の場合には400℃、N雰囲気下で接合性を評価した。
一方、比較例1及び2被接合材として42アロイを用い、表1に示すような比率になるように実施例6同様に各元素を蒸着によって成膜し、比較例3では被接合部材として銅を用い、Ag13Cu75Sn12となるように各元素を蒸着によって成膜して評価した。例、
表1にその結果を示した。評価は各接合材の接合性と265℃における接合強度により行った。接合性は実施例1と同様に接合界面をSEM観察し、接合が良好であるものは○、接合界面にボイドが発生したり、接合していないものには×を示した。また、接合強度の測定は実施例4と同様に半導体素子が接合されている試験体を作製し、各試験体の260℃におけるせん断強度を測定した。接合しておらずせん断強度の測定ができない試験体については「−」で、測定ができた試験体については破断時の強度(kg・f)を示した。
本願発明の実施例6〜11はは全て十分接合したのに対して、比較例1はは、接合しなかった。また、実施例6〜11はいずれも接合強度10kg・fより大きく、十分な接合強度を示したのに対し、比較例2及び3については265℃における接合強度が10kgf以下(表1において×で示す)となり、実用上不十分であった。
【0058】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本願実施の形態の接合体の断面図である。
【図2】本願実施の形態の接合体の他の例を示す断面図である。
【図3】本願発明を適用した半導体装置の断面図である。
【図4】接合体の耐熱性を測定する装置の概念図である。
【図5】本願発明の実施例の効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1…第1の被接合部材
2…接合層
3…第2の被接合部材
4…接合体
7…接合層
8、9…金属間化合物層
10…接合体
32…封止樹脂
34…リードフレーム
35…接合層
36…半導体素子
37…リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被接合部材と、前記被接合部材上に形成されたSnと、Ag、Cu、Ni、Sb、Bi、CoおよびAlから選ばれる1種以上の金属材料よりなり、前記Snが質量比で35%以上70%以下であり、固相線温度260℃以上である金属間化合物相よりなる接合層と、第2の被接合部材を有することを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記接合体は、前記第1の被接合部材または前記第2の被接合部材の構成元素と、前記接合層の構成元素とで構成される金属間化合物相を有することを特徴とする請求項1記載の接合体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の接合体を用いた半導体装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−99790(P2013−99790A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19663(P2013−19663)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2006−266600(P2006−266600)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】