説明

接合方法、接合体および光学素子

【課題】耐光性および寸法精度が高く、紫外線の照射条件を調整することによって屈折率を容易に調整可能な接合膜を介して、2つの基材同士を強固に接合可能な接合方法、およびかかる接合方法により2つの基材同士を高い寸法精度で強固に接合してなる接合体および光学素子を提供する。
【解決手段】基材2および被着体4を用意し、基材2の表面上に、プラズマ重合法により接合膜3を成膜する工程(第1の工程)と、接合膜3に所定の積算光量の紫外線を照射することにより、積算光量に応じた変化量で接合膜3の屈折率を変化させ、所定の屈折率を有する接合膜3を得る工程(第2の工程)と、接合膜3をプラズマに曝し、安定した接着性を発現させる工程と、接合膜3を介して基材2と被着体4とを接合し、接合体を得る工程(第3の工程)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法、接合体および光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基板)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、部材の材質によらず、接着性を示すことができる。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
例えば、透過する光に位相差を生じさせる機能を有する光学素子として波長板が知られている。波長板は、水晶のような複屈折結晶の基板を2枚組み合わせたものであり、基板間は接着剤を用いて接着される。
【0003】
このように接着剤を用いて基板同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して基板同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤が硬化して基板同士が接着される。
ところで、波長板の光透過率は、接着剤と基板との間の屈折率差に影響され、光透過率を高める観点では、この屈折率差が小さいことが好ましい。しかしながら、接着剤の屈折率は、接着剤の組成に応じて一義的に決まる場合が多く、任意の値に調整することは困難である。
【0004】
そこで、特許文献1には、基板の屈折率に応じて接着剤の屈折率を調整すべく、屈折率調整剤を含む接着剤組成物が提案されている。この屈折率調整剤含有接着剤組成物は、ウレタン系ホットメルト接着剤を主成分とし、添加物として芳香族有機りん化合物を含むものである。そして、添加物の添加量を変えることにより、屈折率調整剤含有接着剤組成物の屈折率を調整することが可能であるとしている。
【0005】
しかしながら、この添加物の添加は、通常、接着剤の製造時に行われるため、製造後に接着剤の屈折率を調整することができない。このため、接着する基板の屈折率に応じて、それぞれ屈折率の異なる接着剤を何種類も用意する必要があり、工業利用の際には極めて非効率である。
また、接着剤を所定の厚さで均一に塗布することは難しいため、基板間距離が不均一になることが避けられない。この場合、波長板には波面収差等の各種収差が生じ、光学性能の低下を招くおそれがある。
さらに、接着剤は、樹脂材料で構成されているため、耐光性に乏しく、経時的に屈折率が変動してしまうことも光学部品を接着する上では大きな問題である。
【0006】
【特許文献1】特開平7−188638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐光性および寸法精度が高く、紫外線の照射条件を調整することによって屈折率を容易に調整可能な接合膜を介して、2つの基材同士を強固に接合可能な接合方法、およびかかる接合方法により2つの基材同士を高い寸法精度で強固に接合してなる接合体および光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合方法は、基材および被着体を用意し、基材の表面上に、プラズマ重合法により、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含む接合膜を形成する第1の工程と、
前記接合膜に紫外線を照射することにより、前記接合膜中に存在する前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させる第2の工程と、
前記接合膜を介して前記基材と前記被着体とを接合し、接合体を得る第3の工程とを有し、
前記第2の工程において、紫外線の積算光量を調整することにより、前記接合膜の屈折率を調整することを特徴とする。
これにより、耐光性および寸法精度が高く、紫外線の照射条件を調整することによって屈折率を容易に調整可能な接合膜を介して、2つの基材同士を強固に接合することができる。
【0009】
本発明の接合方法では、前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%であることが好ましい。
これにより、接合膜は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜は、基材および被着体に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0010】
本発明の接合方法では、前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
これにより、接合膜の安定性が高くなり、基材と被着体とをより強固に接合することができるようになる。
本発明の接合方法では、前記Si骨格の結晶化度は、45%以下であることが好ましい。
これにより、Si骨格は特にランダムな原子構造を含むものとなる。そして、寸法精度および接着性に優れた接合膜が得られる。
【0011】
本発明の接合方法では、前記接合膜は、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、接合膜中にSi−H結合が含まれることにより、結晶化度の低いSi骨格を効率よく形成することができる。
【0012】
本発明の接合方法では、前記Si−H結合を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2であることが好ましい。
これにより、接合膜中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、接合膜は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0013】
本発明の接合方法では、前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものであることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、エネルギーを付与することによって比較的簡単に、かつ均一に脱離する脱離基が得られることとなり、接合膜の接着性をより高度化することができる。
【0014】
本発明の接合方法では、前記脱離基は、アルキル基であることが好ましい。
これにより、耐候性および耐薬品性に優れた接合膜が得られる。
本発明の接合方法では、前記脱離基としてメチル基を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45であることが好ましい。
これにより、メチル基の含有率が最適化され、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜に十分な接着性が生じる。また、接合膜には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
【0015】
本発明の接合方法では、前記接合膜は、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離した後に、活性手を有することが好ましい。
これにより、接合膜は、被着体に対して、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
本発明の接合方法では、前記活性手は、未結合手または水酸基であることが好ましい。
これにより、被着体に対して、特に強固な接合が可能となる。
【0016】
本発明の接合方法では、前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、接着性により優れた接合膜が得られる。また、この接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような基材の接合に際して、有効に用いられるものとなる。
【0017】
本発明の接合方法では、前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものであることが好ましい。
これにより、接着性に特に優れた接合膜が得られる。
本発明の接合方法では、前記プラズマ重合法において、プラズマを発生させる際の高周波の出力密度は、0.01〜100W/cmであることが好ましい。
これにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、ランダムな原子構造を有するSi骨格を確実に形成することができる。
【0018】
本発明の接合方法では、前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、基材と被着体とを接合した接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
本発明の接合方法では、前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものであることが好ましい。
これにより、接合体の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。また、従来に比べ、短時間で強固な接合が可能になる。
【0019】
本発明の接合方法では、前記接合膜の屈折率は、1.35〜1.6の所定値に調整されることが好ましい。
このような接合膜は、その屈折率が水晶や石英ガラスの屈折率に比較的近いため、例えば、接合膜を貫通するような構造の光学部品を製造する際に好適に用いられる。
本発明の接合方法では、前記第2の工程における紫外線の波長は、126〜300nmであることが好ましい。
このような波長の紫外線によれば、接合膜中のシロキサン結合をほとんど切断せず、シロキサン結合よりも結合エネルギーの小さい化学結合が容易に切断される。その結果、基本骨格であるSi−O−Siはほとんど切断されず、有機成分は容易に脱離することで接合膜の破壊を防止しつつ、接合膜の屈折率を確実に変化させることができる。
【0020】
本発明の接合方法では、前記第2の工程における紫外線の積算光量は、10mJ/cm〜1kJ/cmであることが好ましい。
これにより、接合膜中の脱離基が全て脱離してしまうことなく、一部を残存させることができる。
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、乾燥した雰囲気であることが好ましい。
これにより、接合膜中において、紫外線の照射によって切断された化学結合の切断跡に、雰囲気中の水蒸気が吸着するのを防止し、接合膜の組成の意図しない変化を防止することができる。その結果、接合膜の屈折率を、紫外線の積算光量との相関関係に沿って変化させ、目的とする値により近づけることができる。
【0021】
本発明の接合方法では、前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
これにより、紫外線照射に伴って接合膜が酸化し、変質・劣化するのを防止することができる。
本発明の接合方法では、前記基材および前記被着体のうち、少なくとも一方は、光透過性材料で構成されており、
前記第2の工程において、前記光透過性材料の屈折率に応じて前記接合膜の屈折率を調整することが好ましい。
これにより、光学性能の高い光学部品を製造することが可能になる。
【0022】
本発明の接合方法では、前記光透過性材料は、石英ガラスまたは水晶であることが好ましい。
これらの材料は、光学部品用材料として好適に用いられており、またその屈折率は接合膜の屈折率に比較的近い。このため、例えば、接合膜の屈折率を水晶の屈折率とほぼ同じに調整するとともに、この接合膜を介して水晶製の光学部品同士を接合することにより、光透過性に優れた複合光学素子を容易に製造することができる。
【0023】
本発明の接合方法では、前記第2の工程と前記第3の工程との間に、前記接合膜をプラズマに曝す工程を有することが好ましい。
これにより、接合膜の表面に被着体との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜は、化学的結合に基づいて被着体と安定して強固に接合可能なものとなる。また、接合膜の表面に対して選択的にプラズマが作用するため、表面に活性手が生じる一方、接合膜の内部では脱離基の脱離が生じない。したがって、接合膜の屈折率をほとんど変化させることなく、接合膜に安定した接着性を発現させることが可能になる。
【0024】
本発明の接合方法では、前記プラズマは、大気圧プラズマであることが好ましい。
これにより、接合膜に損傷が生じるのを防止して、接着性および光学性能に優れた接合膜を得ることができる。
本発明の接合方法では、前記第1の工程において、前記被着体は、基材の表面上に、前記接合膜と同様の接合膜を形成したものであり、
前記第2の工程において、前記各接合膜に紫外線を照射した後、前記第3の工程において、前記各接合膜同士が密着するようにして、前記基材と前記被着体とを接合し、前記接合体を得ることが好ましい。
これにより、基材と被着体とをより強固に接合することができる。
【0025】
本発明の接合体は、2つの基材を有し、これらが本発明の接合方法により接合されたことを特徴とする。
これにより、耐光性および寸法精度が高く、目的とする屈折率を有する接合膜を介して2つの基材同士を強固に接合してなる接合体が得られる。
本発明の光学素子は、本発明の接合体を備えることを特徴とする。
これにより、光学性能の高い光学素子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の接合方法、接合体および光学素子を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<接合方法>
本発明の接合方法は、基材2と被着体4を、接合膜3を介して接合する方法である。かかる方法によれば、基材2と被着体4を高い寸法精度で強固に接合することができる。また、接合膜3は、プラズマ重合法により形成されたものであり、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。
【0027】
このような接合膜3に紫外線を照射すると、接合膜3中に存在する脱離基の一部がSi骨格から脱離するが、この際、接合膜3の屈折率が変化する。したがって、照射する紫外線の積算光量を調整することにより、接合膜3の屈折率を調整することが可能である。その結果、接合膜3は所望の屈折率を有するものとなり、例えば光学性能の高い光学部品の製造に際して有用な接合膜となる。
【0028】
また、紫外線が照射された接合膜3には、脱離基の脱離に伴って接着性が発現する。
さらに、接合膜3をプラズマに曝すと、接合膜3の表面付近に存在する脱離基がSi骨格から脱離して、より安定した接着性が発現する。そして、この接着性を利用することにより、接合膜3を介して基材2と被着体4を低温下でも強固に接合し、信頼性の高い接合体5を得ることができる。
【0029】
≪第1実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第1実施形態について説明する。
図1および図2は、本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図1および図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0030】
本実施形態にかかる接合方法は、基材2および被着体4を用意し、基材2の表面上に、プラズマ重合法により接合膜3を成膜する工程(第1の工程)と、接合膜3に所定の積算光量の紫外線を照射することにより、所定の屈折率を有する接合膜3を得る工程(第2の工程)と、接合膜3をプラズマに曝す工程と、接合膜3を介して基材2と被着体4とを接合し、接合体5を得る工程(第3の工程)とを有する。以下、各工程について順次説明する。
【0031】
[1]まず、基材2および被着体4を用意する。
基材2の構成材料は、それぞれ、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、酸化インジウムスズ(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0032】
一方、被着体4の構成材料も、基材2の構成材料から適宜選択すればよく、基材2の構成材料と被着体4の構成材料とは、同じでも互いに異なっていてもよい。
また、基材2および被着体4は、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
なお、本実施形態では、基材2および被着体4は、図1に示すようにそれぞれ板状とされるが、その平均厚さは、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。基材2および被着体4の平均厚さをそれぞれ前記範囲内とすることにより、基材2および被着体4が撓み易くなり、互いの形状に沿って十分に変形可能なものとなるため、これらの密着性がより高くなる。このため、基材2、被着体4間の接合強度を高めることができる。
【0033】
次に、図1(a)に示すように、基材2の表面上に接合膜3を形成する(第1の工程)。接合膜3は、基材2と被着体4との間に位置し、これらの接合を担うものである。
かかる接合膜3は、図3、4に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。
なお、接合膜3については、後に詳述する。
【0034】
また、基材2の少なくとも接合膜3を形成すべき領域には、基材2の構成材料に応じて、接合膜3を形成する前に、あらかじめ、基材2と接合膜3との密着性を高める表面処理を施すのが好ましい。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、基材2の接合膜3を形成すべき領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。これにより、基材2と接合膜3との接合強度を高めることができる。
【0035】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、接合膜3を形成するために、基材2の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す基材2が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、基材2の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、接合膜3の接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる基材2の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0036】
このような材料で構成された基材2は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された基材2を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、基材2と接合膜3との密着強度を高めることができる。
なお、この場合、基材2の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも接合膜3を形成すべき領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0037】
一方、被着体4においても、その構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、基材2と被着体4との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる被着体4の構成材料には、前述した基材2の構成材料と同様のもの、すなわち、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を用いることができる。
さらに、被着体4の接合膜3に密着する領域に、以下の基や物質を有する場合には、上記のような表面処理を施さなくても、基材2と被着体4との接合強度を十分に高くすることができる。
【0038】
このような基や物質としては、例えば、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、イミダゾール基のような官能基、ラジカル、開環分子、2重結合、3重結合のような不飽和結合、F、Cl、Br、Iのようなハロゲン、過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの基または物質が挙げられる。
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うのが好ましい。
【0039】
また、表面処理に代えて、基材2の少なくとも接合膜3を形成すべき領域および被着体4の接合膜3に密着する領域には、あらかじめ中間層を形成しておくのが好ましい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、例えば、接合膜3との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能等を有するものが好ましい。このような中間層を用いることにより、信頼性の高い接合体を得ることができる。
【0040】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタンのような金属系材料、金属酸化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、接合体5の接合強度を特に高めることができる。
【0041】
[2]次に、図1(b)に示すように、接合膜3に対して紫外線を照射する(第2の工程)。
紫外線が照射されると、接合膜3では、脱離基303がSi骨格301から脱離する。このように脱離基303が脱離すると、接合膜3の組成が変化し、屈折率が変化する。この際、屈折率の変化は、脱離基303の脱離量に相関があり、さらには、脱離基303の脱離量は、紫外線の積算光量に相関がある。かかる相関関係に基づき、接合膜3に照射する紫外線の積算光量を調整することにより、接合膜3の屈折率を調整することができる。
【0042】
具体的には、脱離基303として有機基と、この有機基が結合したSi骨格301とを含む接合膜3においては、紫外線が照射されると、有機基が脱離し、それに応じて屈折率が低下する。この際、紫外線の積算光量、すなわち照度および照射時間のうちの少なくとも一方を調整することにより、屈折率の低下量を調整することができ、接合膜3の屈折率を目的とする値まで低下させることが可能になる。したがって、例えば、基材2の屈折率に対して所定の屈折率差を有する接合膜3や、基材2とほぼ同じ屈折率を有する接合膜3を容易に製造することができる。
【0043】
なお、本工程で照射される紫外線は、接合膜3中の脱離基303が全て脱離しないよう、前述した接合膜3に照射する紫外線の積算光量と接合膜3の屈折率との間には相関関係に基づいて、その積算光量が調整される。これにより、紫外線照射後においても接合膜3中に脱離基303が一部残存し、この残存した脱離基303は、後述する工程において接合膜3における接着性の発現に寄与する。
【0044】
また、本工程で照射される紫外線のエネルギーは、接合膜3中のシロキサン(Si−O)結合をほとんど切断せず、シロキサン結合よりも結合エネルギーの小さい化学結合(例えば、Si−C結合等)が容易に切断されるようなエネルギーとするのが好ましい。このような紫外線を用いることにより、接合膜3中のSi骨格301が完全に破壊されるのを防止しつつ、接合膜3中の化学結合の一部のみを切断し、前述したように接合膜3の屈折率を低下させることができる。
【0045】
具体的には、波長が126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましく、160〜200nm程度の紫外線を用いるのがより好ましい。このような波長の紫外線によれば、紫外線のエネルギーが前述したような条件を満たし、基本骨格であるSi−O−Siはほとんど切断されず、有機成分は容易に脱離することで接合膜3の破壊を防止しつつ、接合膜3の屈折率を確実に変化させることができる。
【0046】
また、紫外線の積算光量は、好ましくは10mJ/cm〜1kJ/cm程度とされ、より好ましくは100mJ/cm〜100J/cm程度とされる。紫外線の積算光量が前記範囲内であれば、接合膜3中の脱離基303が全て脱離してしまうことなく、一部を残存させることができる。
また、前述したように、紫外線の積算光量は、照度と照射時間の積で表わされる。したがって、紫外線の光源としてUVランプを用いる場合、その照度は、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。
【0047】
なお、紫外線の照射時間は、前述した積算光量の範囲と照度の範囲から算出される。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
また、紫外線は、レーザー光として照射されてもよい。レーザー光は指向性が非常に高いので、接合膜3に対して局所的に紫外線を照射することが可能である。
【0048】
なお、接合膜3に対する紫外線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよいが、乾燥した雰囲気であるのが好ましい。これにより、紫外線の照射によって切断された化学結合の切断跡に、雰囲気中の水蒸気が吸着するのを防止し、接合膜3の組成の意図しない変化を防止することができる。その結果、接合膜3の屈折率を、紫外線の積算光量との相関関係に沿って変化させ、目的とする値により近づけることができる。
【0049】
具体的には、雰囲気の露点が−10℃以下であるのが好ましく、−20℃以下であるのがより好ましい。
さらに、紫外線を照射する雰囲気は、特に窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気であるのが好ましい。これにより、接合膜3に対する紫外線照射に伴って、接合膜3が酸化し、変質・劣化するのを防止することができる。
すなわち、上述したように紫外線を照射する雰囲気を適宜制御することによって、最終的に得られる接合膜3の屈折率を、目的とする値に精度よく調整することができる。
【0050】
なお、接合膜3の屈折率を調整する場合、前述したように、基材2の屈折率または被着体4の屈折率に応じて適宜調整することにより、光学性能の高い光学部品を製造することが可能になる。
例えば、基材2が光透過性材料で構成されており、接合膜3の屈折率をこの光透過性材料の屈折率とほぼ同じになるよう調整することにより、基材2と接合膜3との間の光透過性を向上させることができる。
【0051】
また、この光透過性材料としては、石英ガラスまたは水晶が好ましく用いられる。これらの材料は、光透過性が高いため、光学部品用材料として好適である。さらに、接合膜3の屈折率は、石英ガラスや水晶の屈折率に比較的近い。このため、例えば水晶製の光学部品同士を接合して積層光学素子を製造する場合には、接合膜3の屈折率を水晶の屈折率とほぼ同じに調整することによって、光透過性に優れた積層光学素子を容易に製造することができる。
【0052】
また、接合膜3に紫外線を照射して脱離基303が脱離すると、接合膜3の屈折率が変化するとともに、接合膜3の表面35および内部に活性手が生じる。これにより、接合膜3の表面35に、被着体4との接着性が発現する。その結果、接合膜3は、化学的結合に基づいて被着体4と強固に接合可能なものとなる。
ここで、紫外線を照射する前の接合膜3は、図3に示すように、Si骨格301と脱離基303とを有している。かかる接合膜3にエネルギーが付与されると、脱離基303(本実施形態では、メチル基)がSi骨格301から脱離する。これにより、図4に示すように、接合膜3の表面35に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜3の表面に接着性が発現する。
【0053】
なお、接合膜3を「活性化させる」とは、接合膜3の表面35および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、被着体4に対して、特に強固な接合が可能となる。
【0054】
なお、接合膜3に発現する接着性は、接合膜3中に生じる結合手の密度に応じて変わるため、すなわち、接合膜3の接着性は、接合膜3に照射する紫外線の波長や積算光量等の照射条件に応じて変化してしまう。
したがって、本工程を経た接合膜3には、ある程度の接着性が発現するものの、その接着性の大きさは一定しない。そこで、接合膜3に安定した接着性を発現させるためには、本工程の後に、接合膜3をプラズマに曝す工程を設けるのが好ましい。以下、この工程について説明する。
【0055】
[3]次に、図1(c)に示すように、接合膜3の表面35をプラズマに曝す(プラズマ処理を施す)。
プラズマに曝されると、接合膜3の表面35では、残存していた脱離基303がSi骨格301から脱離する。そして、脱離基303が脱離した後には活性手が生じるため、接合膜3の表面35に、被着体4との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜3は、化学的結合に基づいて被着体4と安定して強固に接合可能なものとなる。
このようにプラズマに曝す方法であれば、接合膜3の表面35に対して選択的にプラズマが作用するため、表面35に活性手が生じる一方、接合膜3の内部では脱離基303の脱離が生じない。したがって、接合膜3の屈折率をほとんど変化させることなく、接合膜3に安定した接着性を発現させることが可能になる。
【0056】
接合膜3に曝すプラズマとしては、大気圧プラズマを用いるのが好ましい。大気圧プラズマによれば、減圧手段等の高価な設備を用いることなく、容易にプラズマ処理を行うことができる。また、このプラズマ処理には、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるダイレクトプラズマ方式の他、被処理物とプラズマ発生部とが離間したリモートプラズマ方式またはダウンフロープラズマ方式による処理も好ましく用いられる。ダイレクトプラズマ方式によれば、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるため、プラズマ処理を効率よくかつ均一に行うことができる。また、被処理物とプラズマ発生部とが離間している場合、被処理物とプラズマ発生部とが干渉しないため、被処理物をイオン損傷から避けることができる。
【0057】
また、減圧雰囲気中でプラズマ処理を行った場合、接合膜3の内部に意図せず閉じ込められたガスや経時的に発生したガス等が、接合膜3の外部に強制的に引き出されるおそれがある。このような現象が起こると、接合膜3に損傷が生じ、接着性の低下を招くとともに、光学性能の低下を招くこととなる。
これに対し、大気圧下でプラズマ処理を行うことにより、接合膜3に損傷が生じるのを防止して、接着性および光学性能に優れた接合膜3を得ることができる。
【0058】
なお、プラズマを発生させるガスとしては、Ar、He、H、N、O等が挙げられ、これらの2種以上を混合して用いることもできる。このうち、接合膜3の酸化等を考慮した場合には、Ar等の不活性ガスが好ましく用いられる。
また、プラズマ処理は、後述する図5に示すプラズマ重合装置100を用いて行うこともできる。すなわち、図5に示すプラズマ重合装置100を用いて接合膜3を形成した後、これを装置から取り出すことなく、続けて本工程のプラズマ処理を施すことができるので、本発明の接合方法の簡略化を図ることができる。
【0059】
[4]次に、図1(d)に示すように、活性化させた接合膜3と被着体4とが密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせる。これにより、図2(e)に示すような接合体5を得る(第3の工程)。
このようにして得られた接合体5では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて接合されている。このため、接合体5は短時間で形成することができ、かつ極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0060】
また、このような方法によれば、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された基材2および被着体4をも、接合に供することができる。
また、接合膜3を介して基材2と被着体4とを接合しているため、基材2や被着体4の構成材料に制約がないという利点もある。
以上のことから、本発明によれば、基材2および被着体4の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
【0061】
また、本実施形態では、接合に供される基材2および被着体4のうち、一方のみ(本実施形態では、基材2)に接合膜3が設けられている。基材2上に接合膜3を形成する際に、接合膜3の形成方法によっては基材2が比較的長時間にわたってプラズマに曝されることになるが、本実施形態では被着体4はプラズマに曝されることはない。したがって、例えば、被着体4のプラズマに対する耐久性が著しく低い場合であっても、本実施形態にかかる方法によれば、基材2と被着体4とを強固に接合することができる。したがって、被着体4を構成する材料は、プラズマに対する耐久性をあまり考慮することなく、幅広い材料から選択することが可能になるという利点もある。
【0062】
ここで、本工程において、基材2と被着体4とが接合されるメカニズムについて説明する。
例えば、被着体4の接合面に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、接合膜3の表面35と被着体4の接合面とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、接合膜3の表面35に存在する水酸基と、被着体4の接合面に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、基材2と被着体4とが接合されると推察される。
【0063】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、基材2と被着体4との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、基材2と被着体4とがより強固に接合されると推察される。
なお、前記工程[3]で活性化された接合膜3の表面は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[3]の終了後、できるだけ早く本工程[4]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[3]の終了後、60分以内に本工程[4]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、接合膜3の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で基材2と被着体4とを貼り合わせたとき、これらの間に十分な接合強度を得ることができる。
【0064】
換言すれば、活性化させる前の接合膜3は、Si骨格301を有する接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の接合膜3は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような接合膜3を備えた基材2を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[3]に記載したプラズマ処理を行うようにすれば、接合体5の製造効率の観点から有効である。
【0065】
以上のようにして、図2(e)に示す接合体(本発明の接合体)5を得ることができる。
なお、図2(e)では、接合膜3の全面を覆うように被着体4を重ね合わせているが、これらの相対的な位置は互いにずれていてもよい。すなわち、接合膜3から被着体4がはみ出るようにしてもよい。
【0066】
このようにして得られた接合体5は、基材2と被着体4との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する接合体5は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。
また、得られた接合体5には、その後の紫外線による影響を避けるため、紫外線遮蔽材料で構成された保護膜を設けるようにしてもよい。
【0067】
かかる紫外線遮蔽材料としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化鉄等が挙げられる。
なお、接合体5を得た後、この接合体5に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([5A]および[5B])のうちの少なくとも1つの工程(接合体5の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体5の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0068】
[5A]図2(f)に示すように、得られた接合体5を、基材2と被着体4とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、基材2の表面および被着体4の表面に、それぞれ接合膜3の表面がより近接し、接合体5における接合強度をより高めることができる。
また、接合体5を加圧することにより、接合体5中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体5における接合強度をさらに高めることができる。
【0069】
このとき、接合体5を加圧する際の圧力は、接合体5が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して接合体5における接合強度を高めることができる。
なお、この圧力は、基材2および被着体4の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基材2および被着体4の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体5の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基材2および被着体4の各構成材料によっては、基材2および被着体4に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体5を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0070】
[5B]図2(f)に示すように、得られた接合体5を加熱する。
これにより、接合体5における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体5を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体5の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体5が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0071】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[5A]、[5B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、図2(f)に示すように、接合体5を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体5の接合強度を特に高めることができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体5における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
【0072】
ここで、接合膜3について詳述する。
前述したように接合膜3は、プラズマ重合法により形成されたものであり、図3に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。このような接合膜3は、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格301の結晶性が低くなるため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、接合膜3自体が接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体5においても、接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
【0073】
このような接合膜3は、エネルギーが付与されると、脱離基303がSi骨格301から脱離し、図4に示すように、接合膜3の表面35および内部に、活性手304が生じるものである。そして、これにより、接合膜3表面に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜3は、被着体4に対して高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
【0074】
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい。このため、接合膜3は、エネルギーの付与により、Si骨格301が破壊されるのを防止しつつ、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
また、このような接合膜3は、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜3)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、接合体5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
【0075】
なお、接合膜3においては、特に接合膜3を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜3はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜3自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜3は、基材2および被着体4に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0076】
また、接合膜3中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、基材2と被着体4とをより強固に接合することができるようになる。
また、接合膜3中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜3の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0077】
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
【0078】
また、接合膜3は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301を効率よく形成することができる。
【0079】
一方、接合膜3中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001〜0.2程度であるのが好ましく、0.002〜0.05程度であるのがより好ましく、0.005〜0.02程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜3中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜3は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0080】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
【0081】
なお、プラズマ重合法による成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とを生成するが、例えばこの残基が脱離基303となり得る。
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜3の接着性をより高度なものとすることができる。
【0082】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0083】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特にアルキル基であるのが好ましい。アルキル基は化学的な安定性が高いため、アルキル基を含む接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
ここで、脱離基303がメチル基(−CH)である場合、その好ましい含有率は、赤外光吸収スペクトルにおけるピーク強度から以下のように規定される。
【0084】
すなわち、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基に帰属するピークの強度は、0.05〜0.45程度であるのが好ましく、0.1〜0.4程度であるのがより好ましく、0.2〜0.3程度であるのがさらに好ましい。メチル基のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜3中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜3に十分な接着性が生じる。また、接合膜3には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
【0085】
このような特徴を有する接合膜3の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合とそれに結合した脱離基303となり得る有機基とを含む重合物等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、基材2に対して特に強固に被着するとともに、被着体4に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基材2と被着体4とを強固に接合することができる。
【0086】
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれたアルキル基による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、エネルギーを付与されることにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述したアルキル基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような光学素子や液滴吐出ヘッドの組み立てに際して、有効に用いられるものとなる。
【0087】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜3は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0088】
このような接合膜3の平均厚さは、1〜1000nm程度であるのが好ましく、2〜800nm程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、接合体5の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体5の寸法精度が低下するおそれがある。
【0089】
さらに、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜3にある程度の形状追従性が確保される。このため、例えば、基材2の接合面(接合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜3を被着させることができる。その結果、接合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、基材2と被着体4とを貼り合わせた際に、両者の密着性を高めることができる。
【0090】
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜3の厚さをできるだけ厚くすればよい。
以上、接合膜3について詳述したが、このような接合膜3は、プラズマ重合法により作製されたものである。プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜3を効率よく作製することができる。これにより、接合膜3は、被着体4に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で作製された接合膜3は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、接合体5の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0091】
以下、接合膜3を作製する方法について説明する。
まず、接合膜3の作製方法を説明するのに先立って、基材2上にプラズマ重合法を行いて接合膜3を作製する際に用いるプラズマ重合装置について説明する。
図5は、本発明の接合方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0092】
図5に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、基材2を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
【0093】
図5に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
【0094】
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
第1の電極130は板状をなしており、基材2を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図5に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
【0095】
第1の電極130の基材2を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図5に示すように、基材2を鉛直方向に沿って支持することができる。また、基材2に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で基材2をプラズマ処理に供することができる。
【0096】
第2の電極140は、基材2を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
【0097】
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
【0098】
図5に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0099】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して基材2の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0100】
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
【0101】
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による基材2の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0102】
次に、上記のプラズマ重合装置100を用いて、基材2上に接合膜3を作製する方法について説明する。
図6は、基材2上に接合膜3を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0103】
接合膜3は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を基材2上に堆積させることにより得ることができる。以下、詳細に説明する。
まず、基材2を用意し、必要に応じて、基材2の上面25に前述したような表面処理を施す。
【0104】
次に、基材2をプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される(図6(a)参照)。
【0105】
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20〜70%程度に設定するのが好ましく、30〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1〜100ccm程度に設定するのが好ましく、10〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
【0106】
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図6(b)に示すように、重合物が基材2に付着・堆積する。これにより、基材2上にプラズマ重合膜で構成された接合膜3が形成される(図6(c)参照)。
【0107】
また、プラズマの作用により、基材2の表面が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が基材2の表面に堆積し易くなり、接合膜3の安定した成膜が可能になる。このようにプラズマ重合法によれば、基材2の構成材料によらず、基材2と接合膜3との密着強度をより高めることができる。
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0108】
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜3は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
【0109】
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜100W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜50W/cm程度であるのがより好ましく、1〜40W/cm程度であるのがさらに好ましい。高周波の出力密度を前記範囲内とすることにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、ランダムな原子構造を有するSi骨格301を確実に形成することができる。すなわち、高周波の出力密度が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、接合膜3を形成することができないおそれがある。一方、高周波の出力密度が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基303となり得る構造がSi骨格301から分離してしまい、得られる接合膜3において脱離基303の含有率が低くなったり、Si骨格301のランダム性が低下する(規則性が高くなる)おそれがある。
【0110】
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5〜200sccm程度であるのが好ましく、1〜100sccm程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5〜750sccm程度であるのが好ましく、10〜500sccm程度であるのがより好ましい。
【0111】
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
また、基材2の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
以上のようにして、接合膜3を得る。
【0112】
なお、接合膜3は光を透過させることができるが、接合膜3の屈折率は1.35〜1.6の範囲で調整することが可能となる。このような接合膜3は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、前述したように、接合膜3を光路が貫通するような構造の光学部品を製造する際に好適に用いられる。
また、接合膜3は、水晶や石英ガラスの熱膨張率に近いため、これらの熱膨張率差が小さくなり、接合後の変形を抑制することができる。
【0113】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図7は、本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第2実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0114】
本実施形態にかかる接合方法は、基材2と被着体4の表面にそれぞれ接合膜を形成し、この接合膜同士が密着するようにして基材2と被着体4を接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、基材2と被着体4とを用意し、基材2の表面上に接合膜31を成膜するとともに、被着体4の表面上に接合膜32を成膜する工程と、各接合膜31、32に所定の積算光量の紫外線を照射することにより、所定の屈折率を有する接合膜3を得る工程と、各接合膜31、32をそれぞれプラズマに曝す工程と、各接合膜31、32同士が密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせ、接合体5aを得る工程とを有する。以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
【0115】
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、基材2および被着体4を用意し、基材2と被着体4の表面上にそれぞれプラズマ重合法により接合膜31、32を成膜する(図7(a)参照)。
[2]次に、図7(b)に示すように、各接合膜31、32に対してそれぞれ所定の積算光量の紫外線を照射する。各接合膜31、32に紫外線が照射されると、各接合膜31、32の屈折率が調整される。これにより、所定の屈折率の各接合膜31、32が得られる。
【0116】
なお、紫外線の照射条件は、前記第1実施形態と同様である。
ここで、各接合膜31、32を「活性化させる」とは、前述したように、各接合膜31、32の表面351、352および内部の脱離基303が脱離して、Si骨格301に終端化されていない結合手(未結合手)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。
【0117】
[3]次に、図7(c)に示すように、各接合膜31、32の表面351、352をそれぞれプラズマに曝す。
プラズマに曝されると、各接合膜31、32の表面351、352には、それぞれ接着性が発現する。
[4]次に、図7(d)に示すように、接着性が発現した各接合膜31、32同士が密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせ、接合体5aを得る。
ここで、本工程において、各接合膜31、32同士を接合するが、この接合は、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
【0118】
(i)例えば、各接合膜31、32の表面351、352に水酸基が露出している場合を例に説明すると、本工程において、各接合膜31、32同士が密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせたとき、各接合膜31、32の表面351、352に存在する水酸基同士が、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、基材2と被着体4とが接合されると推察される。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、各接合膜31、32の間では、水酸基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、基材2と被着体4とがより強固に接合されると推察される。
【0119】
(ii)各接合膜31、32同士が密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせると、各接合膜31、32の表面351、352や内部に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、各接合膜31、32を構成するそれぞれの母材(Si骨格301)同士が直接接合して、各接合膜31、32同士が一体化する。
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、図7(e)に示すような接合体5aが得られる。
【0120】
≪第3実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第3実施形態について説明する。
図8は、本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図8の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第3実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態および前記第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0121】
本実施形態にかかる接合方法は、接合膜3の一部の所定領域350のみについて選択的に屈折率を調整するとともに活性化させることにより、基材2と被着体4とを所定領域350において部分的に接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、基材2と被着体4とを用意し、基材2の表面上に接合膜3を成膜する工程(第1の工程)と、接合膜3の一部の所定領域350に対して選択的に所定の積算光量の紫外線を照射することにより、所定の屈折率を有する接合膜3を得る工程(第2の工程)と、接合膜3をプラズマに曝す工程と、接合膜3と被着体4とが密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせ、接合体5bを得る工程(第3の工程)とを有する。以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
【0122】
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、基材2および被着体4を用意し、基材2の表面上に、プラズマ重合法により接合膜3を成膜する(図8(a)参照)。
[2]次に、図8(b)に示すように、接合膜3の表面35のうち、一部の所定領域350に対して選択的に所定の積算光量の紫外線を照射する。接合膜3の所定領域350に紫外線が照射されると、所定領域350の屈折率が調整される。これにより、所定の屈折率を有する接合膜3が得られる。
なお、紫外線の照射条件は、前記第1実施形態と同様である。
【0123】
[3]次に、図8(c)に示すように、接合膜3の表面35のうち、一部の所定領域350を選択的にプラズマに曝す。プラズマに曝されると、接合膜3の表面35に、被着体4との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜3は、化学的結合に基づいて被着体4と安定して強固に接合可能なものとなる。
[4]次に、図8(d)に示すように、接着性が発現した接合膜3と被着体4とが密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせる。これにより、図8(e)に示すような接合体5bを得る。
【0124】
このようにして得られた接合体5bは、基材2と被着体4の対向面全体を接合するのではなく、一部の領域(所定領域350)のみを部分的に接合してなるものである。そして、この接合の際、接合膜3においてプラズマに曝す領域を制御することのみで、接合される領域を簡単に選択することができる。これにより、所定領域350の面積を制御することにより、接合体5bの接合強度を容易に調整することができる。その結果、例えば、接合した箇所を容易に分離することができる接合体5bが得られる。
【0125】
また、図8(e)に示す基材2と被着体4との接合部(所定領域350)の面積や形状を適宜制御することにより、接合部に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、基材2と被着体4との間で熱膨張率差が大きい場合でも、これらを確実に接合することができる。
さらに、接合体5bでは、接合膜3と被着体4との間隙のうち、接合している所定領域350以外の領域では、わずかな間隙が生じている(残存している)。したがって、この所定領域350の形状を適宜調整することにより、接合膜3と被着体4との間に閉空間や流路等を容易に形成することができる。
【0126】
また、所定領域350に選択的に紫外線が照射された結果、接合膜3のうち、所定領域350とそれ以外の領域との間で屈折率差が生じることとなる。すなわち、接合膜3は、屈折率の異なる領域を内包するものとなる。
このような接合膜3を備える接合体5bは、屈折率の異なる領域が併存した機能性光学膜を備えた光学素子等に好適に適用することができる。
【0127】
なお、本実施形態では、接合膜3に対して、紫外線を照射する領域とプラズマに曝す領域とが同じ領域である場合について説明したが、これらの領域が互いに異なっていてもよい。
例えば、前記所定領域350に対して紫外線を照射した後、接合膜3の全面をプラズマに曝すようにしてもよい。この場合、接合膜3は、全面に接着性が発現する一方、部分的に屈折率が異なる領域を内包するものとなる。したがって、このような接合方法は、機能性の高い光学素子の製造に際して特に有用である。
以上のようにして接合体5b(本発明の接合体)を得ることができる。
【0128】
≪第4実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第4実施形態について説明する。
図9は、本発明の接合方法の第4実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
以下、第4実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態ないし前記第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0129】
本実施形態にかかる接合方法は、基材2の上面25のうち、一部の所定領域350のみに接合膜3aを形成することにより、基材2と被着体4とを、前記所定領域350において部分的に接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、基材2と被着体4とを用意し、基材2の上面25のうち、一部の所定領域350のみに接合膜3aを形成する工程(第1の工程)と、接合膜3aに対して所定の積算光量の紫外線を照射することにより、所定の屈折率を有する接合膜3aを得る工程(第2の工程)と、接合膜3aをプラズマに曝す工程と、接合膜3aと被着体4とが密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせ、接合体5cを得る工程(第3の工程)とを有する。以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
【0130】
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、基材2および被着体4を用意し、基材2の上面25のうち、一部の所定領域350のみに接合膜3aを成膜する(図9(a)参照)。
所定領域350に選択的に接合膜3aを成膜するためには、図9(a)に示すように、所定領域350に対応する窓部61を備えるマスク6を用い、このマスク6を介してプラズマ重合法によりプラズマ重合膜を成膜するようにすればよい。
【0131】
[2]次に、図9(b)に示すように、接合膜3aに所定の積算光量の紫外線を照射する。接合膜3aに紫外線が照射されると、屈折率が調整される。これにより、所定の屈折率の接合膜3aが得られる。
なお、紫外線の照射条件は、前記第1実施形態と同様である。
[3]次に、図9(c)に示すように、接合膜3aをプラズマに曝す。プラズマに曝されると、接合膜3に被着体4との安定した接着性が発現する。その結果、接合膜3は、化学的結合に基づいて被着体4と安定して強固に接合可能なものとなる。
【0132】
[4]次に、図9(d)に示すように、接着性が発現した接合膜3aと被着体4とが密着するように、基材2と被着体4とを貼り合わせる。これにより、図9(e)に示す接合体5cを得る。
このようにして得られた接合体5cは、基材2と被着体4の対向面全体を接合するのではなく、一部の領域(所定領域350)のみを部分的に接合してなるものである。そして、接合膜3aを形成する際、形成領域を制御することのみで、接合される領域を簡単に選択することができる。これにより、例えば、接合膜3aを形成する領域(所定領域350)の面積を制御することにより、接合体5cの接合強度を容易に調整することができる。その結果、例えば、接合した箇所を容易に分離することができる接合体5cが得られる。
【0133】
また、図9(e)に示す基材2と被着体4との接合部(所定領域350)の面積や形状を適宜制御することにより、接合部に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、例えば、基材2と被着体4との間で熱膨張率差が大きい場合でも、基材2と被着体4とを確実に接合することができる。
さらに、接合体5cの基材2と被着体4との間には、所定領域350以外の領域に、接合膜3aの厚さに相当する離間距離の間隙3cが形成されている(図9(e)参照)。したがって、所定領域350の形状や接合膜3aの厚さを適宜調整することにより、基材2と被着体4との間に、所望の形状の閉空間や流路等を容易に形成することができる。
【0134】
以上のようにして接合体5c(本発明の接合体)を得ることができる。
以上のような前記各実施形態にかかる接合方法は、種々の複数の部材同士を接合するのに用いることができる。
このような接合に供される部材としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサ、加速度センサのようなセンサ部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子用部品、燃料電池用部品等が挙げられる。
【0135】
<光学素子>
ここでは、本発明の接合体を光学素子に適用した場合の実施形態について説明する。
図10は、本発明の接合体を適用して得られた波長板(光学素子)を示す斜視図である。
図10に示す波長板9は、透過する光に1/2波長分の位相差を与える「1/2波長板」であって、2枚の複屈折性を有する結晶板91、92を、それぞれの光学軸が直交するように接着してなるものである。複屈折性を有する材料としては、例えば、水晶、方解石、MgF、YVO、TiO、LiNbO等の無機材料や、ポリカーボネート等の有機材料が挙げられる。
【0136】
このような波長板9を光が透過するとき、光学軸に平行な偏光成分と垂直な偏光成分とに光が分離される。そして、分離された光は、各結晶板91、92の複屈折性に伴う屈折率差に基づいて一方に遅延が生じ、前述した位相差が生じることとなる。
ところで、波長板9によって透過光に与えられる位相差の精度や波長板9の透過率は、各結晶板91、92の板厚の精度に依存しているため、各結晶板91、92の板厚は高精度に制御されている必要がある。
【0137】
それに加え、結晶板91と結晶板92との間隙も透過光の位相に影響を及ぼすため、結晶板91と結晶板92との間隙は、離間距離が厳密に制御されており、かつ離間距離が変化しないように強固に接着されている必要がある。
そこで、本発明では、波長板9に本発明の接合体を適用することとした。これにより、接合膜を介して結晶板91と結晶板92とが強固に接合された波長板9を容易に得ることができる。
【0138】
また、この接合膜は、プラズマ重合法という気相成膜法で広い領域を一度に成膜することが可能であるため、均一に成膜することができ、かつ膜厚の精度が高い。このため、結晶板91と結晶板92との間の平行度が高く、波面収差等の各種収差の少ない波長板9が得られる。
さらに、この接合膜は、非常に薄いものであるため、波長板9を透過する光に及ぼす影響を抑えることができる。
【0139】
また、接合膜の成膜時に、接合膜の屈折率が各結晶板91、92の屈折率と同じになるよう調整することにより、各結晶板91、92の屈折率とほぼ同じ屈折率の接合膜3が得られる。その結果、結晶板91と結晶板92との接合界面における光損失が抑制され、光透過率の高い波長板9を得ることができる。
また、各結晶板91、92の構成材料が石英ガラスまたは水晶である場合、接合膜との熱膨張率差が小さくなるため、温度変化による波長板9の変形も抑制することができる。
【0140】
なお、波長板9は、1/2波長板の他に、1/4波長板、1/8波長板等であってもよい。
また、光学素子としては、波長板の他に、偏光フィルタのような光学フィルタ、光ピックアップのような複合レンズ、プリズム、回折格子等が挙げられる。
以上、本発明の接合方法、接合体および光学素子を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0141】
例えば、本発明の接合方法は、前記各実施形態のうち、任意の1つまたは2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
また、本発明の接合方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、前記各実施形態では、基材と被着体の2つの基材を接合する方法について説明しているが、3つ以上の基材を接合する場合に、本発明の接合方法を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0142】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合体の製造
以下では、実施例、参考例および比較例において、それぞれ接合体を複数個ずつ製造した。
(実施例1)
まず、基材として、縦20mm×横20mm×平均厚さ2mmの水晶基板を用意し、また被着体として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの水晶基板を用意した。なお、これらの水晶基板は、いずれも光学研磨を施したものである。また、用いた水晶基板の波長405nmの光に対する屈折率は、1.554であった。
次いで、各基板を図5に示すプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、平均厚さ200nmのプラズマ重合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0143】
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:100sccm
・高周波電力の出力 :100W
・高周波出力密度 :25W/cm
・チャンバー内圧力 :1Pa(低真空)
・処理時間 :15分
・基板温度 :20℃
これにより、各基板上にプラズマ重合膜を成膜した。
【0144】
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格と、アルキル基(脱離基)とを含むものである。また、プラズマ重合膜の結晶化度を赤外線吸収法により測定した。その結果、プラズマ重合膜の結晶化度は、測定箇所によって若干バラツキがあるものの、30%以下であった。
また、得られたプラズマ重合膜について、波長405nmの光に対する屈折率を測定した。
次に、得られたプラズマ重合膜に、以下に示す条件で紫外線を照射した。
【0145】
<紫外線照射条件>
・雰囲気の組成 :窒素雰囲気(露点:−20℃)
・雰囲気の温度 :20℃
・雰囲気の圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :600秒
・紫外線の積算光量 :0.5J/cm
【0146】
次に、得られた各プラズマ重合膜に、それぞれ大気圧下でプラズマ処理を施した。なお、プラズマ処理の際の処理ガスには、アルゴンガスを用いた。
次に、プラズマ処理を施してから1分後に、プラズマ重合膜同士が接触するように、各基板同士を重ね合わせた。これにより、接合体を得た。
その後、得られた接合体中の接合膜について、再び、波長405nmの光に対する屈折率を測定した。
【0147】
(実施例2)
紫外線の積算光量を1J/cmに変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(実施例3)
紫外線の積算光量を3J/cmに変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
【0148】
(実施例4)
紫外線の積算光量を6J/cmに変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(実施例5)
紫外線の積算光量を10J/cmに変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
【0149】
(実施例6)
紫外線を照射する際の雰囲気を、減圧雰囲気に変更した以外は、前記実施例4と同様にして接合体を得た。
(実施例7)
紫外線を照射する際の雰囲気を、大気雰囲気に変更した以外は、前記実施例4と同様にして接合体を得た。なお、大気雰囲気の相対湿度は80%であった。
【0150】
(参考例)
紫外線の照射を省略した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(比較例)
基材と被着体とを、エポキシ系光学接着剤を用いて接着した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
【0151】
2.接合体の評価
2.1 接合強度(割裂強度)の評価
各実施例、参考例および比較例で得られた接合体について、それぞれ接合強度を測定した。
接合強度の測定は、各基板を引き剥がしたとき、剥がれる直前の強度を測定することにより行った。また、接合強度の測定は、接合直後と、接合後に−40℃〜125℃の温度サイクルを100回繰り返した後のそれぞれにおいて行った。
その結果、各実施例および参考例で得られた接合体は、接合直後と温度サイクル後のいずれも、十分な接合強度を有していた。
一方、比較例で得られた接合体は、接合直後は十分な接合強度を有していたものの、温度サイクル後には接合強度が低下した。
【0152】
2.2 寸法精度の評価
各実施例、参考例および比較例で得られた接合体について、それぞれ厚さ方向の寸法精度(平行度)を測定した。
具体的には、接合体の四隅の厚さをマイクロゲージで測定した。そして、四隅の厚さの差に基づいて、接合体の両面の相対的な傾きを算出した。
その結果、各実施例および参考例で得られた接合体は、平行度が±1秒以下であり、しかも複数の接合体で平行度のバラツキが小さかった。
これに対し、比較例で得られた接合体は、平行度が±1秒以上あり、かつ複数の接合体で平行度のバラツキが大きかった。
【0153】
2.3 屈折率の評価
各実施例および参考例で得られた接合膜について、それぞれ紫外線照射前と照射後における屈折率を比較した。なお、屈折率の測定は、波長405nmの光について行った。
屈折率の評価結果を表1に示す。
【0154】
【表1】

【0155】
表1から明らかなように、各実施例では、いずれも紫外線照射有りの接合膜の屈折率が照射無しに比べて低下していることが明らかとなった。また、紫外線の積算光量を高めるにつれて、接合膜の屈折率低下率が徐々に大きくなっていることから、各実施例では、紫外線の積算光量を調整することにより、接合体中の接合膜の屈折率を調整し得ることが確認された。
【0156】
2.4 光透過率の評価
各実施例、参考例および比較例で得られた接合体について、それぞれ厚さ方向の光透過率(波長405nm)を測定した。なお、光透過率の測定は、波長405nm、出力100mWの光を70℃環境で連続して1000時間照射した後において行った。そして、測定された光透過率について以下の評価基準にしたがって評価した。
【0157】
<光透過率の評価基準>
◎:光透過率が99.5%以上
○:光透過率が99.0%以上99.5%未満
△:光透過率が98.0%以上99.0%未満
×:光透過率が98.0%未満
光透過率の評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、各実施例および参考例で得られた接合体は、光透過率が99%以上であり、光透過性が良好であった。一方、比較例で得られた接合体は、光透過開始直後は十分な光透過性を有していたが、1000時間経過後では光透過率が98%未満となり、光透過性が低下していた。
【0158】
2.5 外観の評価
各実施例、参考例および比較例で得られた接合体について、2.4の光透過率の評価を行った後、照射部の外観を以下の評価基準にしたがって評価した。
<外観の評価基準>
◎:接合界面に変色または気泡が全く認められない
○:接合界面に点状の変色または気泡がわずかに認められる
△:接合界面に点状の変色または気泡が多数認められる
×:接合界面に層状の変色または気泡が多数認められる
外観の評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、各実施例および参考例で得られた接合体では、接合界面に変色または気泡が全く認められなかった。一方、比較例で得られた接合体は、2.4の評価を行った後、光路部分に変色が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の接合方法において、接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図4】本発明の接合方法において、接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図5】本発明の接合方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。
【図6】基材上に接合膜を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図7】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図9】本発明の接合方法の第4実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図10】本発明の接合体を適用して得られた波長板(光学素子)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0160】
2……基材 25……上面 3、31、32、3a……接合膜 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 3c……間隙 35、351、352……表面 350……所定領域 4……被着体 5、5a、5b、5c……接合体 6……マスク 61……窓部 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 9……波長板 91、92……結晶板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材および被着体を用意し、基材の表面上に、プラズマ重合法により、シロキサン(Si−O)結合を含むランダムな原子構造を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基とを含む接合膜を形成する第1の工程と、
前記接合膜に紫外線を照射することにより、前記接合膜中に存在する前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させる第2の工程と、
前記接合膜を介して前記基材と前記被着体とを接合し、接合体を得る第3の工程とを有し、
前記第2の工程において、紫外線の積算光量を調整することにより、前記接合膜の屈折率を調整することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記接合膜を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%である請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記接合膜中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3である請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記Si骨格の結晶化度は、45%以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の接合方法。
【請求項5】
前記接合膜は、Si−H結合を含んでいる請求項1ないし4のいずれかに記載の接合方法。
【請求項6】
前記Si−H結合を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピーク強度が0.001〜0.2である請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記脱離基は、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子が前記Si骨格に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の接合方法。
【請求項8】
前記脱離基は、アルキル基である請求項7に記載の接合方法。
【請求項9】
前記脱離基としてメチル基を含む接合膜についての赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピーク強度を1としたとき、メチル基に帰属するピーク強度が0.05〜0.45である請求項8に記載の接合方法。
【請求項10】
前記接合膜は、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離した後に、活性手を有する請求項1ないし9のいずれかに記載の接合方法。
【請求項11】
前記活性手は、未結合手または水酸基である請求項10に記載の接合方法。
【請求項12】
前記接合膜は、ポリオルガノシロキサンを主材料として構成されている請求項1ないし11のいずれかに記載の接合方法。
【請求項13】
前記ポリオルガノシロキサンは、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものである請求項12に記載の接合方法。
【請求項14】
前記プラズマ重合法において、プラズマを発生させる際の高周波の出力密度は、0.01〜100W/cmである請求項1ないし13のいずれかに記載の接合方法。
【請求項15】
前記接合膜の平均厚さは、1〜1000nmである請求項1ないし14のいずれかに記載の接合方法。
【請求項16】
前記接合膜は、流動性を有しない固体状のものである請求項1ないし15のいずれかに記載の接合方法。
【請求項17】
前記接合膜の屈折率は、1.35〜1.6の所定値に調整される請求項1ないし16のいずれかに記載の接合方法。
【請求項18】
前記第2の工程における紫外線の波長は、126〜300nmである請求項1ないし17のいずれかに記載の接合方法。
【請求項19】
前記第2の工程における紫外線の積算光量は、10mJ/cm〜1kJ/cmである請求項1ないし18のいずれかに記載の接合方法。
【請求項20】
前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、乾燥した雰囲気である請求項1ないし19のいずれかに記載の接合方法。
【請求項21】
前記第2の工程において、前記接合膜に紫外線を照射する雰囲気は、不活性ガス雰囲気である請求項1ないし20のいずれかに記載の接合方法。
【請求項22】
前記基材および前記被着体のうち、少なくとも一方は、光透過性材料で構成されており、
前記第2の工程において、前記光透過性材料の屈折率に応じて前記接合膜の屈折率を調整する請求項1ないし21のいずれかに記載の接合方法。
【請求項23】
前記光透過性材料は、石英ガラスまたは水晶である請求項22に記載の接合方法。
【請求項24】
前記第2の工程と前記第3の工程との間に、前記接合膜をプラズマに曝す工程を有する請求項1ないし23のいずれかに記載の接合方法。
【請求項25】
前記プラズマは、大気圧プラズマである請求項24に記載の接合方法。
【請求項26】
前記第1の工程において、前記被着体は、基材の表面上に、前記接合膜と同様の接合膜を形成したものであり、
前記第2の工程において、前記各接合膜に紫外線を照射した後、前記第3の工程において、前記各接合膜同士が密着するようにして、前記基材と前記被着体とを接合し、前記接合体を得る請求項1ないし25のいずれかに記載の接合方法。
【請求項27】
2つの基材を有し、これらが請求項1ないし26のいずれかに記載の接合方法により接合されたことを特徴とする接合体。
【請求項28】
請求項27に記載の接合体を備えることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−106081(P2010−106081A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277465(P2008−277465)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】