説明

接合方法および接合体

【課題】高い寸法精度で強固に接合された接合体を、低温下で効率よく製造することができる接合方法およびかかる接合方法で形成された接合体を提供すること。
【解決手段】本発明の接合方法は、第1の基材21上に第1の金属原子と脱離基とを含む第1の接合膜31を形成して第1の接合膜付き基材11を得るとともに、第2の基材22上に第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と脱離基とを含む第2の接合膜32を形成して第2の接合膜付き基材12を得る工程と、接合膜31、32に対してエネルギーを付与して、これらの表面付近に存在する脱離基を脱離させることにより、接合膜31、32に接着性を発現させる工程と、接合膜31、32とが密着するように、接合膜付き基材11、12同士を貼り合わせて接合膜31、32とが接合された接合体5を得る工程と、接合膜31、32を第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより接合体5の接合強度を向上させる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法および接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
接着剤は、一般的に、接合する部材の材質によらず、優れた接着性を示すものである。このため、種々の材料で構成された部材同士を、様々な組み合わせで接着することができる。
【0003】
例えば、インクジェットプリンタが備える液滴吐出ヘッド(インクジェット式記録ヘッド)は、樹脂材料、金属材料およびシリコン系材料等の異種材料で構成された部品同士を、接着剤を用いて接着することにより組み立てられている。
このように接着剤を用いて部材同士を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化(固化)させることにより、部材同士を接着する。
【0004】
ところが、このような接着剤を用いた接合では、以下のような問題がある。
・接着強度が低い
・寸法精度が低い
・硬化時間が長いため、接着に長時間を要する
また、多くの場合、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程の高コスト化・複雑化を招いている。
【0005】
一方、接着剤を用いない接合方法として、固体接合による方法がある。
固体接合は、接着剤等の中間層が介在することなく、部材同士を直接接合する方法である(例えば、特許文献1参照)。
このような固体接合によれば、接着剤のような中間層を用いないので、寸法精度の高い接合体を得ることができる。
【0006】
しかしながら、固体接合には、以下のような問題がある。
・接合される部材の材質に制約がある
・接合プロセスにおいて高温(例えば、700〜800℃程度)での熱処理を伴う
・接合プロセスにおける雰囲気が減圧雰囲気に限られる
このような問題を受け、接合に供される部材の材質によらず、部材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合する方法が求められている。
【0007】
また、このような接合の分野では、2つの部材(基材)同士を、接合すると同時に電気的にも接続することが求められる場合(導電性接合技術)がある。このような技術は、電子部品の電極と配線パターンとを接続する場合等に用いられる。
従来、このような電気的な接続には、導電性微粒子を接着剤に混合してなる導電性接着剤(ACP)や、導電性フィルム(ACF)等が用いられる(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これらの接合材を用いた接続では、前述したのと同様の接着剤を含有する導電性接着剤(導電性シート)が用いられるため、前述した接着剤と同様の問題が生じる。
【0008】
【特許文献1】特開平5−82404号公報
【特許文献2】特開平7−205395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高い寸法精度で強固に接合された接合体を、低温下で効率よく製造することができる接合方法、および、かかる接合方法を用いて形成された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合方法は、第1の基材上に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に対してエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基をこれら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させる工程と、
前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを貼り合わせて、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが接合された接合体を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有することを特徴とする。
これにより、第1の基材と第2の基材とを、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができる。
【0011】
本発明の接合方法は、第1の基材上に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、
前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを重ね合わせて、積層体を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に対してエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基を、これら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させて、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが接合された接合体を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有することを特徴とする。
【0012】
これにより、第1の基材と第2の基材とを、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合することができる。さらに、積層体の状態では、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材との間は接合されていない。このため、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材とをずらし、これらの相対的な位置を調整することができる。このようにすれば、2つの接合膜付き基材を重ね合わせた後、これらの位置を容易に微調整することができるので、位置の調整の作業性が向上し、最終的に得られる接合体の面方向における寸法精度を高めることができる。
【0013】
本発明の接合方法では、前記第2の金属原子の融点は、250℃よりも低いことが好ましい。
これにより、接合体が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合体の接合強度をより確実に高めることができる。
本発明の接合方法では、前記第2の金属原子は、インジウム、セレンおよびスズのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
これにより、第2の接合膜に導電性を付与することができるとともに、接合体を加熱する際の温度を250℃以下に設定でき、接合体が熱によって変質・劣化するのを確実に防止することができる。
【0014】
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、前記第1の金属原子および前記第2の金属原子を備える有機金属材料を原材料として、有機金属化学気相成長法を用いて成膜することが好ましい。
かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、かつ、均一な膜厚の第1の接合膜および第2の接合膜を成膜することができる。また、有機金属材料中に含まれる有機物から比較的容易に脱離基を残存させることができる。
【0015】
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、低還元性雰囲気下で成膜されることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材上に、それぞれ、純粋な金属膜が形成されることなく、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、第1の接合膜および第2の接合膜を成膜することができる。すなわち、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた第1の接合膜および第2の接合膜を形成することができる。
【0016】
本発明の接合方法では、前記脱離基は、前記有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存したものであることが好ましい。
このように成膜した際に膜中に残存する残存物を脱離基として用いる構成とすることにより、形成された金属膜中に脱離基を導入する必要がなく、比較的簡単な工程で第1の接合膜および第2の接合膜を成膜することができる。
【0017】
本発明の接合方法では、前記脱離基は、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団で構成されることが好ましい。
これらの脱離基は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、エネルギーを付与することによって比較的簡単に、かつ均一に脱離する脱離基が得られることとなり、第1の接合膜および第2の接合膜の接着性をより高度化することができる。
本発明の接合方法では、前記脱離基は、アルキル基を含むことが好ましい。
アルキル基を含む脱離基は、化学的な安定性が高いため、脱離基としてアルキル基を備える第1の接合膜および第2の接合膜は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0018】
本発明の接合方法では、前記有機金属材料は、βジケトン系錯体であることが好ましい。
βジケトン系錯体を用いることにより、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、第1の接合膜および第2の接合膜をより確実に形成することができる。また、βジケトン系錯体は、金属原子に酸素原子が配位しており、炭素原子のように酸素原子以外の原子が金属原子に配位している金属錯体と比較して反応性が低く安定しており、取扱いが容易である。
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、導電性を有することが好ましい。
これにより、接合体において、各接合膜を配線基板が備える配線や、その端子等に適用することができる。
【0019】
本発明の接合方法では、さらに、前記第1の金属原子と前記第2の金属原子との標準電極電位の差は、3.0mV以上であることが好ましい。
これにより、第1の金属原子に対する還元剤として第2の金属原子を作用させることができるため、酸素原子を介して第1の金属原子同士が結合しているものから、酸素原子を引き抜き、酸素原子を介した第1の金属原子と第2の金属原子との結合を優先的に形成することができ、これにより、第1の接合膜と第2の接合膜との接合強度を向上させることができる。
本発明の接合方法では、前記第1の金属原子は、銅、アルミニウムおよび銀のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
これにより、第1の接合膜は、優れた導電性を発揮するものとなる。
【0020】
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜における前記第1の金属原子および前記第2の金属原子と炭素原子との存在比は、それぞれ、3:7〜7:3であることが好ましい。
これにより、第1の接合膜および第2の接合膜の安定性が高くなり、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材とをより強固に接合することができるようになる。また、第1の接合膜および第2の接合膜を優れた導電性を発揮するものとすることができる。
【0021】
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が、当該各接合膜から脱離した後に、活性手が生じることが好ましい。
これにより、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材とを、化学的結合に基づいて強固に接合することができる。
本発明の接合方法では、前記活性手は、未結合手または水酸基であることが好ましい。
これにより、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材とを、特に強固に接合することができる。
【0022】
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の平均厚さは、それぞれ、1〜1000nmであることが好ましい。
これにより、接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材とをより強固に接合することができる。
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、流動性を有さない固体状をなしていることが好ましい。
これにより、接合体の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。また、従来に比べ、短時間で強固な接合が可能になる。
【0023】
本発明の接合方法では、前記第1の基材および第2の基材は、板状をなしていることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材は撓み易くなり、第1の基材および第2の基材を重ね合わせたときに、互いの形状に沿って十分に変形し得るものとなる。このため、第1の基材および第2の基材を重ね合わせたときの密着性が高くなり、最終的に得られる接合体における接合強度が高くなる。
【0024】
本発明の接合方法では、前記第1の基材の少なくとも前記第1の接合膜を形成する部分および前記第2の基材の少なくとも前記第2の接合膜を形成する部分は、それぞれ、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されていることが好ましい。
これにより、表面処理を施さなくても、十分な接合強度が得られる。
本発明の接合方法では、前記第1の基材の前記第1の接合膜を形成する面および前記第2の基材の前記第2の接合膜を形成する面には、それぞれ、あらかじめ、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜との密着性を高める表面処理が施されていることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材の表面を清浄化および活性化し、第1の接合膜と第1の基材との接合強度および第2の接合膜と第2の基材との接合強度とをそれぞれ高めることができる。
本発明の接合方法では、前記表面処理は、プラズマ処理であることが好ましい。
これにより、第1の基材および第2の基材にそれぞれ第1の接合膜および第2の接合膜を形成するために、第1の基材および第2の基材の表面を特に最適化することができる。
【0025】
本発明の接合方法では、前記第1の基材と前記第1の接合膜との間および前記第2の基材と前記第2の接合膜との間に、それぞれ、中間層を介挿することが好ましい。
これにより、信頼性の高い接合体を得ることができる。
本発明の接合方法では、前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されているものを用いることが好ましい。
これにより、第1の基材と第1の接合膜との間の接合強度および第2の基材と第2の接合膜との間の接合強度を特に高めることができる。
【0026】
本発明の接合方法では、前記エネルギーの付与は、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を加熱する方法、ならびに前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行うことが好ましい。
これにより、第1の接合膜および第2の接合膜に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができる。
【0027】
本発明の接合方法では、前記エネルギー線は、波長126〜300nmの紫外線であることが好ましい。
これにより、第1の接合膜および第2の接合膜に付与されるエネルギー量が最適化されるので、第1の接合膜および第2の接合膜中の脱離基を確実に脱離させることができる。その結果、第1の接合膜および第2の接合膜の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、第1の接合膜および第2の接合膜に接着性を発現させることができる。
【0028】
本発明の接合方法では、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を加熱する温度は、前記第2の金属原子の融点以下であることが好ましい。
これにより、第2の接合膜が溶融するのを防止し、かつ、接合体が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
本発明の接合方法では、前記圧縮力は、0.2〜10MPaであることが好ましい。
これにより、圧力が高すぎて第1の基材および第2の基材に損傷等が生じるのを防止しつつ、接合体の接合強度を確実に高めることができる。
本発明の接合方法では、前記エネルギーの付与を、大気雰囲気中で行うことが好ましい。
これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギーの付与をより簡単に行うことができる。
【0029】
本発明の接合方法では、さらに、前記接合体に対して、その接合強度をより高める処理を行う工程を有することが好ましい。
これにより、接合体の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
本発明の接合方法では、前記接合強度を高める処理を行う工程は、前記接合体にエネルギー線を照射する方法および前記接合体に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも一方により行われることが好ましい。
これにより、接合体の接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
本発明の接合体は、本発明の接合方法により接合されたことを特徴とする。
これにより、第1の接合膜付き基材および第2の接合膜付き基材が高い寸法精度で強固に接合してなる信頼性の高い接合体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の接合方法および接合体を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の接合方法は、2つの基材(第1の基板21および第2の基板22)を、各基材に設けられた接合膜(第1の接合膜31および第2の接合膜32)を介して、接合することにより接合体を得る方法である。
【0031】
各基材に形成される各接合膜は、それぞれ脱離基を含んでおり、エネルギーを付与することにより、各接合膜の表面付近に存在する脱離基が各接合膜から脱離するものである。そして、各接合膜は、脱離基の脱離によって、その表面のエネルギーを付与した領域に、接着性が発現するものである。
また、各接合膜には、それぞれ、金属原子が含まれており、それぞれの融点に差が生じるように異種のものが選択されている。
このような特徴を有する各接合膜は、2つの基材同士を、高い寸法精度で強固に、かつ低温下で効率よく接合可能なものであり、2つの基材がかかる接合膜を介して接合された本発明の接合体は、接合膜により強固に接合された信頼性の高いものとなる。
【0032】
以下、本発明の接合方法を、工程ごとに説明する。
<接合方法>
≪第1実施形態≫
まず、本発明の接合方法の第1実施形態について説明する。
図1〜3は、本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)、図4は、本発明の接合方法において、エネルギー付与前の接合膜の状態を示す部分拡大図、図5は、本発明の接合方法において、エネルギー付与後の接合膜の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図1〜5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0033】
本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材上に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に対してエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基をこれら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させる工程と、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを貼り合わせて、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが接合された接合体を得る工程と、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有する。
【0034】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、第1の基板(第1の基材)21上に、第1の金属原子M1と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜31を形成して第1の接合膜付き基材11を得るとともに、第2の基板(第2の基材)22上に、第1の金属原子M1よりも融点が低い第2の金属原子M2と、有機成分で構成される脱離基303とを含む第2の接合膜32を形成して第2の接合膜付き基材12を得る。
【0035】
[1−1]まず、第1の基板(第1の基材)21および第2の基板(第2の基材)22を用意する。
これら第1の基板21および第2の基板22は、第1の接合膜31および第2の接合膜32を介して互いに接合させるためのものであり、それぞれ、第1の接合膜31および第2の接合膜32(以下、これらを「接合膜31、32」と言うこともある。)を支持する程度の剛性を有するものであれば、いかなる材料で構成されたものであってもよい。
【0036】
具体的には、第1の基板21および第2の基板22の各構成材料は、それぞれ、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、V、Mo、Nb、Zr、Pr、Nd、Smのような金属、またはこれらの金属を含む合金、炭素鋼、ステンレス鋼、インジウム錫酸化物(ITO)、ガリウムヒ素のような金属系材料、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンのようなシリコン系材料、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラスのようなガラス系材料、アルミナ、ジルコニア、フェライト、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのようなセラミックス系材料、グラファイトのような炭素系材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0037】
また、第1の基板21および第2の基板22は、それぞれ、その表面に、Niめっきのようなめっき処理、クロメート処理のような不働態化処理、または窒化処理等を施したものであってもよい。
また、第1の基板21および第2の基板22は、互いの構成材料が異なっていても同じであってもよいが、第1の基板21と第2の基板22との各熱膨張率が、ほぼ等しいものを選択するのが好ましい。第1の基板21と第2の基板22との熱膨張率がほぼ等しければ、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜基材12とを貼り合せた際に、その接合界面に熱膨張に伴う応力が発生し難くなる。その結果、最終的に得られる接合体5において、剥離等の不具合が発生するのを確実に防止することができる。
さらに、第1の基板21および第2の基板22は、互いに剛性が異なっているのが好ましい。これにより、第1の基板21および第2の基板22を接合膜31、32を介してより強固に接合することができる。
【0038】
また、第1の基板21および第2の基板22のうち、少なくとも一方の基板は、その構成材料が樹脂材料で構成されているのが好ましい。樹脂材料は、その柔軟性により、第1の基板21および第2の基板22を接合した際に、その接合界面に発生する応力(例えば、熱膨張に伴う応力等)を緩和することができる。このため、接合界面が破壊し難くなり、結果的に、接合強度の高い接合体5を得ることができる。
また、第1の基板21および第2の基板22の形状は、ぞれぞれ、第1の接合膜31および第2の接合膜32を支持する面を有するような形状であればよく、板状のものに限定されない。すなわち、第1の基板21および第2の基板22の形状は、例えば、塊状(ブロック状)や、棒状等であってもよい。
【0039】
なお、図1(a)に示すように、本実施形態では、第1の基板21および第2の基板22がそれぞれ板状をなしている。これにより、第1の基板21および第2の基板22は撓み易くなり、第1の基板21および第2の基板22を重ね合わせたときに、互いの形状に沿って十分に変形し得るものとなる。このため、第1の基板21および第2の基板22を重ね合わせたときの密着性が高くなり、最終的に得られる接合体5における接合強度が高くなる。
【0040】
また、第1の基板21および第2の基板22が撓むことによって、接合界面に生じる応力を、ある程度緩和することができる。
この場合、第1の基板21および第2の基板22の平均厚さは、それぞれ、特に限定されないが、0.01〜10mm程度であるのが好ましく、0.1〜3mm程度であるのがより好ましい。
【0041】
[1−2]次に、必要に応じて、第1の基板21の少なくとも第1の接合膜31を形成すべき領域に、第1の基板21の構成材料に応じて、第1の接合膜31との密着性を高める表面処理を施す。
かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、第1の基板21の第1の接合膜31を形成すべき領域を清浄化するとともに、該領域を活性化させることができる。これにより、第1の基板21と第1の接合膜31との接合強度を高めることができる。
【0042】
また、これらの各表面処理の中でもプラズマ処理を用いることにより、第1の接合膜31を形成するために、第1の基板21の表面を特に最適化することができる。
なお、表面処理を施す第1の基板21が、樹脂材料(高分子材料)で構成されている場合には、特に、コロナ放電処理、窒素プラズマ処理等が好適に用いられる。
また、第1の基板21の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、第1の接合膜31との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第1の基板21の構成材料としては、例えば、前述したような各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を主材料とするものが挙げられる。
【0043】
このような材料で構成された第1の基板21は、その表面が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、比較的活性の高い水酸基が結合している。したがって、このような材料で構成された第1の基板21を用いると、上記のような表面処理を施さなくても、第1の基板21と第1の接合膜31との接合強度を高めることができる。
なお、この場合、第1の基板21の全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも第1の接合膜31を形成すべき領域の表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0044】
また、表面処理に代えて、第1の基板21の少なくとも第1の接合膜31を形成すべき領域には、あらかじめ、中間層を形成するようにしてもよい。
この中間層は、いかなる機能を有するものであってもよく、特に限定されるものではないが、例えば、第1の接合膜31との密着性を高める機能、クッション性(緩衝機能)、応力集中を緩和する機能、第1の接合膜31を成膜する際に第1の接合膜31の膜成長を促進する機能(シード層)、第1の接合膜31を保護する機能(バリア層)等を有するものが好ましい。このような中間層を介して第1の基板21と第1の接合膜31とを接合することになり、信頼性の高い接合体5を得ることができる。
【0045】
かかる中間層の構成材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、タングステン、銅およびその合金等の金属系材料、金属酸化物、金属窒化物、シリコン酸化物のような酸化物系材料、金属窒化物、シリコン窒化物のような窒化物系材料、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボンのような炭素系材料、シランカップリング剤、チオール系化合物、金属アルコキシド、金属−ハロゲン化合物のような自己組織化膜材料、樹脂系接着剤、樹脂フィルム、樹脂コーティング材、各種ゴム材料、各種エラストマーのような樹脂系材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、これらの各種材料で構成された中間層の中でも、酸化物系材料で構成された中間層によれば、第1の基板21と第1の接合膜31との間の接合強度を特に高めることができる。
【0046】
[1−3]次に、第1の基板21と同様、必要に応じて、第2の基板22の第2の接合膜32を形成すべき領域に、第2の基板22の構成材料に応じて、第2の基板22と第2の接合膜32との密着性を高める表面処理を施す。
これにより、第2の基板22と第2の接合膜32との接合強度をより高めることができる。なお、表面処理としては、第1の基板21に対して施す前述したような表面処理と同様の処理を適用することができる。
【0047】
また、第2の基板22の構成材料によっては、上記のような表面処理を施さなくても、第2の基板22と第2の接合膜32との接合強度が十分に高くなるものがある。このような効果が得られる第2の基板22の構成材料には、前述した第1の基板21の構成材料と同様のもの、すなわち、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料等を用いることができる。
また、このようなものを有する表面が得られるように、上述したような各種表面処理を適宜選択して行うことにより、第2の接合膜32に対して特に強固に接合可能な第2の基板22が得られる。
【0048】
また、表面処理に代えて、第2の基板22の第2の接合膜32を形成すべき領域には、あらかじめ、第2の接合膜32との密着性を高める機能を有する中間層を形成しておくのが好ましい。これにより、かかる中間層を介して第2の基板22と第2の接合膜32とを接合することになり、最終的に、より接合強度の高い接合体5が得られるようになる。
かかる中間層の構成材料には、前述の第1の基板21に形成する中間層の構成材料と同様のものを用いることができる。
【0049】
[1−4]次に、図1(a)に示すように、第1の基板21上に第1の接合膜31を形成することにより、第1の接合膜付き基材11を得るとともに、第2の基板22上に第2の接合膜32を形成することにより、第2の接合膜付き基材12を得る。
ここで、第1の基板21および第2の基板22上にそれぞれ形成された第1の接合膜31および第2の接合膜32は、第1の基板21と第2の基板22との間に位置し、これら基板21、22同士の接合を担うものである。
【0050】
第1の接合膜31は、第1の金属原子M1と、有機成分で構成された脱離基303とを含むものであり、第2の接合膜32は、第1の金属原子M1よりも融点の低い第2の金属原子M2と、有機成分で構成された脱離基とを含むものである。
かかる構成の接合膜31、32にエネルギーが付与されると、各接合膜31、32の表面351、352付近に存在する脱離基が各接合膜31、32から脱離する。そして、この各接合膜31、32は、脱離基の脱離によって、その表面のエネルギーを付与した領域に、接着性が発現するという機能を有するものである。
本発明の接合方法は、これら第1の接合膜31および第2の接合膜32を用いて接合体5を得る点に特徴を有する。
なお、これら第1の接合膜31および第2の接合膜32の構成については、後に詳述する。
【0051】
[2]次に、第1の接合膜付き基材11の第1の接合膜31、および第2の接合膜付き基材12の第2の接合膜32に対してそれぞれエネルギーを付与する。
ここで、各接合膜31、32に、それぞれエネルギーを付与すると、各接合膜31、32では、図4、5に示すように、脱離基303の結合手が切れて各接合膜31、32の表面351、352付近から脱離し、脱離基303が脱離した後には、活性手304が各接合膜31、32の表面351、352付近に生じる。これにより、各接合膜31、32の表面351、352に接着性が発現する。なお、図4は、脱離基303がメチル基の場合である。
このような状態の第1の接合膜付き基材11および第2の接合膜付き基材12は、第1の接合膜31および第2の接合膜32を互いに密着させることにより、化学的結合に基づいて互いに接合可能なものとなる。
【0052】
ここで、第1の接合膜31および第2の接合膜32に付与するエネルギーは、いかなる方法を用いて付与されるものであってもよいが、例えば、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギー線を照射する方法、第1の接合膜31および第2の接合膜32を加熱する方法、第1の接合膜31および第2の接合膜32に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、第1の接合膜31および第2の接合膜32をプラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、第1の接合膜31および第2の接合膜32をオゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。中でも、本実施形態では、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与する方法として、特に、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギー線を照射する方法を用いるのが好ましい。かかる方法は、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギーを付与する方法として好適に用いられる。
【0053】
このうち、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザ光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等や、またはこれらのエネルギー線を2種以上組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長126〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい(図1(b)参照)。かかる範囲内の紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、第1の接合膜31および第2の接合膜32中の脱離基303を確実に脱離させることができる。これにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、第1の接合膜31および第2の接合膜32に接着性を確実に発現させることができる。
【0054】
また、紫外線によれば、広い範囲をムラなく短時間に処理することができるので、脱離基303の脱離を効率よく行わせることができる。さらに、紫外線には、例えば、UVランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、126〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、第1の接合膜31および第2の接合膜32の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと各接合膜31、32との離間距離は、1〜10mm程度とするのが好ましく、1〜5mm程度とするのがより好ましい。
【0055】
また、紫外線を照射する時間は、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近の脱離基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、第1の接合膜31および第2の接合膜32に必要以上に紫外線が照射されない程度の時間とするのが好ましい。これにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32が変質・劣化するのを効果的に防止することができる。具体的には、紫外線の光量、第1の接合膜31および第2の接合膜32の構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
【0056】
一方、レーザ光としては、例えば、エキシマレーザのようなパルス発振レーザ(パルスレーザ)、炭酸ガスレーザ、半導体レーザのような連続発振レーザ等が挙げられる。中でも、パルスレーザが好ましく用いられる。パルスレーザでは、第1の接合膜31および第2の接合膜32のレーザ光が照射された部分に経時的に熱が蓄積され難いので、蓄積された熱による各接合膜31、32の変質・劣化を確実に防止することができる。すなわち、パルスレーザによれば、第1の接合膜31および第2の接合膜32の内部にまで蓄積された熱の影響がおよぶのを、防止することができる。
【0057】
また、パルスレーザのパルス幅は、熱の影響を考慮した場合、できるだけ短い方が好ましい。具体的には、パルス幅が1ps(ピコ秒)以下であるのが好ましく、500fs(フェムト秒)以下であるのがより好ましい。パルス幅を前記範囲内にすれば、レーザ光照射に伴って第1の接合膜31および第2の接合膜32に生じる熱の影響を、的確に抑制することができる。なお、パルス幅が前記範囲内程度に小さいパルスレーザは、「フェムト秒レーザ」と呼ばれる。
【0058】
また、レーザ光の波長は、特に限定されないが、例えば、200〜1200nm程度であるのが好ましく、400〜1000nm程度であるのがより好ましい。
また、レーザ光のピーク出力は、パルスレーザの場合、パルス幅によって異なるが、0.1〜10W程度であるのが好ましく、1〜5W程度であるのがより好ましい。
さらに、パルスレーザの繰り返し周波数は、0.1〜100kHz程度であるのが好ましく、1〜10kHz程度であるのがより好ましい。パルスレーザの周波数を前記範囲内に設定することにより、レーザ光を照射した部分の温度が著しく上昇して、第1の接合膜31および第2の接合膜32に含まれる有機成分の一部が残存した状態で、脱離基303を第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近から確実に切断することができる。
【0059】
なお、このようなレーザ光の各種条件は、レーザ光を照射された部分の温度が、好ましくは常温(室温)〜600℃程度、より好ましくは200〜600℃程度、さらに好ましくは300〜400℃程度になるように適宜調整されるのが好ましい。これにより、レーザ光を照射した部分の温度が著しく上昇して、第1の接合膜31および第2の接合膜32に含まれる有機成分の一部が残存した状態で、脱離基303を第1の接合膜31および第2の接合膜32から確実に切断することができる。
【0060】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32に照射するレーザ光は、その焦点を、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352に合わせた状態で、この表面351、352に沿って走査されるようにするのが好ましい。これにより、レーザ光の照射によって発生した熱が、表面351、352付近に局所的に蓄積されることとなる。その結果、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352に存在する脱離基303を選択的に脱離させることができる。
【0061】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、中でも、特に、大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による各基板21、22および各接合膜31、32の変質・劣化を防止することができる。
【0062】
また、エネルギー線を照射する方法によれば、付与するエネルギーの大きさを、精度よく簡単に調整することができる。このため、第1の接合膜31および第2の接合膜32から脱離する脱離基303の脱離量を調整することが可能となる。このように脱離基303の脱離量を調整することにより、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12との間の接合強度を容易に制御することができる。
【0063】
すなわち、脱離基303の脱離量を多くすることにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近に、より多くの活性手が生じるため、第1の接合膜31および第2の接合膜32に発現する接着性をより高めることができる。一方、脱離基303の脱離量を少なくすることにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近に生じる活性手を少なくし、第1の接合膜31および第2の接合膜32に発現する接着性を抑えることができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
【0064】
ここで、エネルギーが付与される前の第1の接合膜31および第2の接合膜32は、図4に示すように、それら表面351、352付近に脱離基303を有している。かかる第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与すると、脱離基303(図4では、メチル基)が第1の接合膜31および第2の接合膜32から脱離する。これにより、図5に示すように、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352に活性手304が生じ、活性化される。その結果、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352に接着性が発現する。
【0065】
なお、本明細書中において、第1の接合膜31および第2の接合膜32が「活性化された」状態とは、上述のように第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352および内部の脱離基303が脱離して、各接合膜31、32の構成原子において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態の他、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、さらに、これらの状態が混在した状態を含めて、第1の接合膜31および第2の接合膜32が「活性化された」状態と言うこととする。
【0066】
したがって、活性手304とは、図5に示すように、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304が存在するようにすれば、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、各接合膜31、32に対して大気雰囲気中でエネルギー線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成されることとなる。
【0067】
また、本実施形態では、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜基材12とを貼り合わせる前に、あらかじめ、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対してエネルギーを付与する場合について説明しているが、かかるエネルギーの付与は、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とを貼り合わせる(重ね合わせる)際、または貼り合わせた(重ね合わせた)後に行うようにしてもよい。なお、このような場合については、後述する第2実施形態において説明する。
【0068】
[3]次に、活性化させた第1の接合膜31と第2の接合膜32と(各接合膜同士)が密着するように、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12と(各接合膜付き基材同士)を貼り合わせる(図1(c)参照)。これにより、前記工程[2]において、第1の接合膜31および第2の接合膜32に接着性が発現していることから、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが化学的に結合して一体化される。
【0069】
また、前記工程[2]で活性化された第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352は、その活性状態が経時的に緩和してしまう。このため、前記工程[2]の終了後、できるだけ早く本工程[3]を行うようにするのが好ましい。具体的には、前記工程[2]の終了後、60分以内に本工程[3]を行うようにするのが好ましく、5分以内に行うのがより好ましい。かかる時間内であれば、第1の接合膜31および第2の接合膜32の表面が十分な活性状態を維持しているので、本工程で第1の接合膜付き基材11(第1の接合膜31)と第2の接合膜付き基材12(第2の接合膜32)とを貼り合わせて、確実に接合体5を得ることができる。
【0070】
換言すれば、活性化させる前の第1の接合膜31および第2の接合膜32は、それぞれ、第1の金属原子M1および第2の金属原子M2と、有機成分で構成される脱離基303とを含む接合膜であるため、化学的に比較的安定であり、耐候性に優れている。このため、活性化させる前の第1の接合膜31および第2の接合膜32は、長期にわたる保存に適したものとなる。したがって、そのような第1の接合膜31および第2の接合膜32を備えた第1の接合膜付き基材11および第2の接合膜付き基材12を多量に製造または購入して保存しておき、本工程の貼り合わせを行う直前に、必要な個数のみに前記工程[2]に記載したエネルギーの付与を行うようにすれば、接合体5の製造効率の観点から有効である。
【0071】
[4] 次に、図2(a)に示すように、第1の接合膜31および第2の接合膜32を加熱する。
本発明では、第1の接合膜31と第2の接合膜32とにそれぞれ含まれている第1の金属原子と第2の金属原子とでは、それらの融点が第2の金属原子M2の方が低いものが選択されており、この第2の金属原子M2が選択的に溶融する温度まで加熱する。
これにより、第2の接合膜32に含まれる第2の金属原子M2が第1の接合膜31側に拡散し、その結果、図2(b)に示すような、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合強度がより向上した接合体5を得ることができる。なお、接合体5の接合強度が向上するメカニズムについては後に詳述する。
【0072】
なお、接合体5を加熱する際の温度は、第2の金属原子M2の融点よりも高く、また第1の金属原子M1よりも低く、さらに接合体5の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは250℃以下とされ、より好ましくは100〜160℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体5が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、接合体5の接合強度をより確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
さらに、第1の接合膜31および第2の接合膜32は、いかなる方法で加熱されてもよいが、例えば、接合体5をヒータを用いて加熱する方法、接合体5に赤外線を照射する方法、火炎に接合体5を接触させる方法等の各種方法で加熱することができる。
【0073】
このようにして得られた接合体5では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような強固な化学的結合に基づいて、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とが接合されている。このため、接合体5は極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
また、かかる方法によれば、従来の固体接合のように、高温(例えば、700℃以上)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された第1の基板21および第2の基板22をも、接合に供することができる。
【0074】
以上のようにして、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とが接合され、図2(b)に示すような接合体5が得られる。
なお、図2(b)では、第1の接合膜付き基材11の第1の接合膜31の全面を覆うように第2の接合膜付き基材12を重ね合わせているが、これらの相対的な位置は、互いにずれていてもよい。すなわち、第1の接合膜31から第2の接合膜付き基材12がはみ出るように、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とが重ね合わされていてもよい。
【0075】
なお、従来のシリコン基板同士を直接接合するような固体接合では、接合に供される基板の表面を活性化させても、その活性状態は、大気中で数秒〜数十秒程度の極めて短時間しか維持することができなかった。このため、表面の活性化を行った後、接合する2つの基板を貼り合わせる等の作業に要する時間を、十分に確保することができないという問題があった。
【0076】
これに対し、本発明によれば、比較的長時間に亘って活性状態を維持することができる。このため、貼り合わせ作業に要する時間を十分に確保することができ、接合作業の効率化を高めることができる。なお、比較的長時間に亘って活性状態を維持し得ることは、有機成分で構成される脱離基303が脱離した活性化状態が安定化していることに起因しているものと推察される。
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32を介して第1の基板21と第2の基板22とを接合しているため、第1の基板21や第2の基板22の構成材料に制約がないという利点もある。
【0077】
以上のことから、本発明によれば、第1の基板21および第2の基板22の各構成材料の選択の幅をそれぞれ広げることができる。
また、固体接合では、接合膜を介していないため、第1の基板21と第2の基板22との間の熱膨張率に大きな差がある場合、その差に基づく応力が接合界面に集中し易く、剥離等が生じるおそれがあったが、接合体(本発明の接合体)5では、第1の接合膜31および第2の接合膜32によって応力の集中が緩和され、剥離の発生を的確に抑制または防止することができる。
【0078】
このようにして得られた接合体5は、第1の基板21と第2の基板22との間の接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する接合体5は、その剥離を十分に防止し得るものとなる。そして、後述のように、接合体5を用いて、例えば液滴吐出ヘッドを構成した場合、耐久性に優れた液滴吐出ヘッドが得られる。また、本発明の接合方法によれば、第1の基板21と第2の基板22とが上記のような大きな接合強度で接合された接合体5を効率よく作製することができる。
【0079】
また、本工程[4]において、接合体5の接合強度を向上させるのと同時、または、接合体5の接合強度向上させた後に、この接合体5(第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜基材12の積層体)に対して、必要に応じ、以下の2つの工程([5A]および[5B])のうちの少なくとも1つの工程(接合体5の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体5の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
【0080】
[5A]図3(a)に示すように、得られた接合体5を、第1の基板21と第2の基板22とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、第2の金属原子M2の第1の接合膜31側への拡散がより促進されるため、接合体5における接合強度をさらに高めることができる。
このとき、接合体5を加圧する際の圧力は、接合体5が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して接合体5における接合強度を高めることができる。
【0081】
なお、この圧力は、第1の基板21および第2の基板22の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、第1の基板21および第2の基板22の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体5の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の基板21および第2の基板22の各構成材料によっては、第1の基板21および第2の基板22に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体5を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
【0082】
[5B] 図3(b)に示すように、得られた接合体5に紫外線を照射する。
これにより、第1の接合膜31側に拡散した第2の金属原子M2と、第1の接合膜31中に含まれる第1の金属原子M1との間に形成される化学結合を増加させ、接合体5の接合強度を特に高めることができる。
このとき照射される紫外線の条件は、前記工程[2]に示した紫外線の条件と同等にすればよい。
また、本工程[5B]を行う場合、第1の基板21および第2の基板22のうち、いずれか一方が透光性を有していることが必要である。そして、透光性を有する基板側から、紫外線を照射することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対して確実に紫外線を照射することができる。
【0083】
以上のような工程を行うことにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。そして、第1の接合膜31と第2の接合膜32との一体化がより進行する。その結果、接合体5を、第1の接合膜31と第2の接合膜32とがほぼ完全に一体化された接合膜を備えるものとすることができる。
【0084】
ここで、前述したように、本発明の接合方法では、第1基板21と第2の基板22とを、第1の接合膜31および第2の接合膜32を用いて接合するところに特徴を有している。以下、第1の接合膜31および第2の接合膜32について詳述する。
第1の接合膜31は、第1の金属原子M1と、有機成分で構成される脱離基303を含むものである。また、第2の接合膜32は、第1の金属原子M1よりも融点が低い第2の金属原子M2と、有機成分で構成される脱離基303とを含むものである。
【0085】
換言すれば、第1の接合膜31と第2の接合膜32とは、含有する金属原子の種類が異なり、第2の金属原子M2の方が第1の金属原子M1よりも融点が低いこと以外は、脱離基303を備える同様の構成の接合膜である(図3参照)。このような第1の接合膜31および第2の接合膜32は、エネルギーが付与されると、脱離基303が第1の接合膜31および第2の接合膜32の少なくとも各表面351、352付近から脱離し、図4に示すように、第1の接合膜31および第2の接合膜32の少なくとも各表面351、352付近に、活性手304が生じるものである。
【0086】
そして、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近に活性手304が生じることにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、第1の接合膜付き基材11および第2の接合膜付き基材12は、互いに高い寸法精度で、第1の接合膜31および第2の接合膜32により強固に効率よく接合可能なものとなる。
【0087】
本発明では、特に、第1の金属原子M1よりも第2の金属原子M2の方が、融点が低く、前記工程[4]において、第1の接合膜31および第2の接合膜32を第2の金属原子M2が溶融するまで加熱した際に、第2の金属原子M2が第1の接合膜31側を拡散するため、得られる接合体5は、第1の接合膜31と第2の接合膜32とがより強固に接合したものとなる。
【0088】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32は、それぞれ、第1の金属原子M1および第2の金属原子M2と、有機成分で構成される脱離基303とを含むもの、すなわち有機金属膜であることから、変形し難い強固な膜となる。このため、第1の接合膜31および第2の接合膜32自体が寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体5においても、寸法精度が高いものが得られる。
【0089】
このような第1の接合膜31および第2の接合膜32は、流動性を有さない固体状をなすものである。このため、従来から用いられている、流動性を有する液状または粘液状(半固形状)の接着剤に比べて、接着層(第1の接合膜31および第2の接合膜32)の厚さや形状がほとんど変化しない。したがって、第1の接合膜付き基材11および接合膜付き基材12を用いて得られた接合体5の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
また、本発明では、第1の接合膜31および第2の接合膜32は、導電性を有するものであるのが好ましい。これにより、後述する接合体5において、第1の接合膜31および第2の接合膜32を配線基板が備える配線や、その端子等に適用することができる。
【0090】
以上のような第1の接合膜31および第2の接合膜32としての機能が好適に発揮されるように、第1の金属原子M1および第2の金属原子M2と、脱離基303との組み合わせが適宜選択される。
具体的には、第1の金属原子M1および第2の金属原子M2としては、それぞれ、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、各種ランタノイド元素、各種アクチノイド元素のような遷移金属元素、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Rb、Sr、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Tl、Pb、Bi、Poのような典型金属元素等が挙げられる他、金属セレンや金属テルルのような金属性を備える典型非金属をも用いることができる。
【0091】
ここで、例えば、遷移金属元素は、各遷移金属元素間で、最外殻電子の数が異なることのみの差異であるため、物性が類似している。そして、遷移金属は、一般に、硬度や融点が高く、電気伝導性および熱伝導性が高い。このため、各金属原子として遷移金属元素を用いた場合、第1の接合膜31および第2の接合膜32に発現する接着性をより高めることができるとともに、第1の接合膜31および第2の接合膜32の導電性をより高めることができる。
【0092】
これらの中から、第1の接合膜31および第2の接合膜32に付与すべき特性を考慮しつつ、第2の金属原子M2が第1の金属原子M1よりも融点が低くなるように、第1の金属原子M1および第2の金属原子M2が選択される。
例えば、第1の接合膜31に優れた導電性を発揮させるために、第1の金属原子M1として、Cu、AlおよびAgのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いた場合、その導電性を考慮しつつ、これらよりも融点が低い金属原子が第2の金属原子M2として選択される。
【0093】
より具体的には、第1の金属原子M1として例えばCuを選択した場合、導電性と融点を考慮して、第2の金属原子M2としては、In、Se、Sn、Pb、ZnおよびAl等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせたものが用いられる。これらの中でも、接合体5の耐熱温度を考慮して前記工程[4]で接合体5を加熱する際の温度は好ましくは250℃以下とされるため、第2の金属原子M2としては250℃よりも融点が低い、In(156℃)、Se(220℃)およびSn(232℃)のうちの1種または2種以上を組み合わせたものが好適に用いられる。
また、これらのうちCu、Al、Ag、Zn、PbおよびIn等の金属原子を含有する第1の接合膜31および第2の接合膜32を後述する有機金属化学気相成長法を用いて成膜する場合には、これらの金属原子を含む金属錯体等を原材料として用いて、比較的容易かつ均一な膜厚の第1の接合膜31および第2の接合膜32を成膜することができる。
【0094】
ここで、本発明において、前記工程[2]で、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与することにより、これらの各表面351、352に接着性が発現し、前記工程[3]で、この接着性により、第1の接合膜31および第2の接合膜32同士が互いに接合するのは、以下のような2つのメカニズム(i)、(ii)の双方または一方に基づくものであると推察される。
【0095】
(i) 例えば、第1の接合膜31の表面351および第2の接合膜32の表面352に、それぞれ、水酸基が露出している場合を例に説明すると、第1の接合膜付き基材11の第1の接合膜31と第2の接合膜付き基材12の第2の接合膜32とが接触するように、これらを貼り合わせたとき、第1の接合膜31の表面351に存在する水酸基と、第2の接合膜32の表面352に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。この引力によって、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とが接合されると推察される。
【0096】
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合を伴って表面から切断される。その結果、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12との接触界面では、水酸基が結合していた結合手同士が結合する。これにより、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とがより強固に接合されると推察される。
【0097】
(ii) 第1の接合膜付き基材11および第2の接合膜付き基材12同士を貼り合わせると、第1の接合膜31および第2の接合膜32の各表面351、352付近に生じた終端化されていない結合手(未結合手)同士が、直接または雰囲気中に含まれる酸素原子を取り込みながら再結合する。この再結合は、互いに重なり合う(絡み合う)ように複雑に生じることから、接合界面にネットワーク状の結合が形成される。これにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に含まれる第1の金属原子M1と第2の金属原子M2が互いに直接または酸素原子を介して接合することにより、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが一体化する。
【0098】
以上のような(i)または(ii)のメカニズムにより、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが接合されるが、本発明では、さらに、第2の金属原子M2が第1の金属原子M1よりも融点が低く、前記工程[4]において、第1の接合膜31および第2の接合膜32を、第2の接合膜32に含まれる第2の金属原子M2が溶融するまで加熱するようになっている。これにより、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度をより高めることができ、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とがより強固に接合された接合体5を得ることができる。
以上のように、前記工程[4]における、第1の接合膜31および第2の接合膜32の加熱により第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度がより高まるのは、次のようなメカニズムによるものと推察される。
【0099】
ここで、前記工程[3]の後に、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが互いに接合する接合界面を見ると、互いに接触する2つの接合膜31、32の各表面351、352は、共に凹凸面で構成されていると考えられる。そのため、上記のような(i)または(ii)のメカニズムにより形成される第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合は、各表面351、352が互いに接触する接触点において形成される。
【0100】
このような状態で、各表面351、352において互いに接合する第1の接合膜31および第2の接合膜32を、第2の接合膜32に含まれる第2の金属原子M2が溶融するまで加熱すると、溶融した第2の金属原子M2が第1の接合膜31側に拡散し、凹凸面で構成される第1の接合膜31の内部まで入り込むことになる。その結果、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接触面積が増大し、これにより、(i)または(ii)のメカニズムによる第1の接合膜31と第2の接合膜32との間の接合が新たに形成されるため、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度がより向上するものと推察される。
なお、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが共に導電性を有するものである場合では、上記のような接触面積の増大により、これら接合膜31、32同士間における抵抗値も低下するものと推察される。
【0101】
また、このように第2の金属原子M2を溶融させて第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度を高める方法は、後述するような気相成膜法を用いて成膜された第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合に好適に適用される。
これは、気相成膜法を用いて成膜された第1の接合膜31および第2の接合膜32は、ともに、有機金属材料に含まれる金属原子と、有機物の一部が残存したものとが堆積されて形成されたものであるため、複数の微細な粒子が積層された構成となっている。したがって、かかる構成の第1の接合膜31および第2の接合膜32に、第2の金属原子M2を溶融させて第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度を高める本発明の接合方法を適用すれば、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接触面積をより効果的に増大させることができるため、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度がさらに向上することとなる。
さらに、第2の接合膜32が、粒子状をなしているとその融点が降下することから、かかる観点からも、粒子状をなす第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合に、本発明の接合方法を適用することは有用である。
【0102】
また、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合では、第1の金属原子M1と第2の金属原子M2とで異種の金属原子を用いるので、これらのイオン化傾向に差が生じることになるが、この第1の金属原子M1と第2の金属原子M2との標準電極電位の差が、3.0mV以上となっているのが好ましく、5.0mV以上となっているのがより好ましい。
【0103】
ここで、前述したような(i)および(ii)のメカニズムのいずれで第1の接合膜31と第2の接合膜32とが接合する場合であっても、各接合膜31、32中に含まれる金属原子同士が酸素原子を介して結合することがある。このような金属原子同士の結合は、第1の接合膜31中に含まれる第1の金属原子M1と第2の接合膜32中に含まれる第2の金属原子M2との間で行われたときに、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合に寄与するが、各接合膜31、32中に含まれる金属原子M1、M2同士の間で行われたときには、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合に寄与しない。
【0104】
そのため、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接着強度(接合強度)を向上させるには、酸素原子を介して第1の金属原子M1と第2の金属原子M2とが結合するものの割合を向上させる必要があるが、本発明では、第1の接合膜31および第2の接合膜32に含まれる金属原子として異種のものを用い、第1の金属原子M1と第2の金属原子M2のイオン化傾向に差が生じるようになっている。
【0105】
このようなイオン化傾向の差があると、第1の金属原子M1に対する還元剤として第2の金属原子M2を作用させることができるため、酸素原子を介して第1の金属原子M1同士が結合しているものから、酸素原子を引き抜き、酸素原子を介した第1の金属原子M1と第2の金属原子M2との結合を優先的に形成することができ、これにより、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合強度を向上させることができる。
このような第1の金属原子M1と第2の金属原子M2との組み合わせとしては、例えば、CuとInとの組み合わせ、CuとSeとの組み合わせ、CuとSnとの組み合わせ等が挙げられる。
【0106】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32に導電性を付与する場合には、第2の金属原子M2は、酸化状態と非酸化状態の双方で導電性を発揮するものであるのが好ましい。これにより、第2の金属原子M2は、非酸化状態のものと、還元剤として作用して酸化状態のもの(酸化物)の双方が導電性を発揮するので、酸化物が非導電性を示す第2の金属原子M2を用いた場合と比較して、第1の接合膜31と第2の接合膜32(特に第2の接合膜32)により優れた導電性を付与することができる。
このような第2の金属原子M2としては、例えば、In、ZnおよびSn等が挙げられる。
【0107】
また、脱離基303は、前述したように、第1の接合膜31および第2の接合膜32から脱離することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないよう第1の接合膜31および第2の接合膜32に確実に結合しているものが好適に選択される。
【0108】
具体的には、脱離基303としては、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団が好適に選択される。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、第1の接合膜付き基材11および第2の接合膜付き基材12の接着性をより高度なものとすることができる。
【0109】
より具体的には、原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、カルボキシル基の他、前記アルキル基の末端がイソシアネート基、アミノ基およびスルホン酸基等で終端しているもの等が挙げられる。
以上のような原子団の中でも、脱離基303は、特に、アルキル基を含有するものが好ましい。アルキル基を含有する脱離基303は、化学的な安定性が高いため、脱離基303としてアルキル基を備える第1の接合膜31および第2の接合膜32は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
【0110】
また、かかる構成の第1の接合膜31および第2の接合膜32において、それぞれに含まれる金属原子と炭素原子との存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。金属原子と炭素原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32の安定性が高くなり、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とをより強固に接合することができるようになる。また、第1の接合膜31および第2の接合膜32を優れた導電性を発揮するものとすることができる。
【0111】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32の平均厚さは、それぞれ、1〜1000nm程度であるのが好ましく、50〜800nm程度であるのがより好ましい。第1の接合膜31および第2の接合膜32の平均厚さを前記範囲内とすることにより、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とを接合した接合体5の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、これらをより強固に接合することができる。
すなわち、第1の接合膜31および第2の接合膜32の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、第1の接合膜31および第2の接合膜32の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体5の寸法精度が著しく低下するおそれがある。
【0112】
以上説明したような第1の接合膜31および第2の接合膜32は、いかなる方法で成膜してもよいが、例えば、I:金属原子で構成される金属膜に、脱離基(有機成分)303を含む有機物を、金属膜のほぼ全体に付与して第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成する方法、II:金属原子で構成される金属膜に、脱離基(有機成分)303を含む有機物を、金属膜の表面付近に選択的に付与(化学修飾)して第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成する方法、III:金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として気相成膜法を用いて第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成する方法が挙げられる。これらの中でも、IIIの方法により第1の接合膜31および第2の接合膜32を成膜するのが好ましい。かかる方法によれば、比較的簡単な工程で、かつ、均一な膜厚の第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成することができる。
【0113】
以下、IIIの方法、すなわち金属原子と、脱離基(有機成分)303を含む有機物とを有する有機金属材料を原材料として気相成膜法を用いて第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成する方法を代表に説明する。
なお、気相成膜法としては、有機金属化学気相成長法の他、真空蒸着法、スパッタリング法のような物理的気相成膜法を用いることができるが、有機金属化学気相成長法を用いれば有機金属材料中に含まれる有機物から比較的容易に脱離基303を残存させることができることから、以下では、有機金属化学気相成長法を用いることとする。
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32の成膜では、原材料として用いる有機金属材料中に含まれる金属原子の種類が異なるだけ、すなわち、第1の金属原子M1および第2の金属原子M2を含む有機金属材料をそれぞれ用いる点が異なるだけであるため、以下では、第1の接合膜31を成膜することとする。
【0114】
まず、第1の接合膜31の成膜方法を説明するのに先立って、第1の接合膜31を成膜する際に用いられる成膜装置200について説明する。
図5は、本発明の接合方法に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図5に示す成膜装置200は、有機金属化学気相成長法(以下、「MOCVD法」と省略することもある。)による第1の接合膜31の形成をチャンバー211内で行えるように構成されている。
【0115】
具体的には、成膜装置200は、チャンバー(真空チャンバー)211と、このチャンバー211内に設置され、第1の基板21(成膜対象物)を保持する基板ホルダー(成膜対象物保持部)212と、チャンバー211内に、気化または霧化した有機金属材料を供給する有機金属材料供給手段260と、チャンバー211内を低還元性雰囲気下とするためのガスを供給するガス供給手段270と、チャンバー211内の排気をして圧力を制御する排気手段230と、基板ホルダー212を加熱する加熱手段(図示せず)とを有している。
【0116】
基板ホルダー212は、本実施形態では、チャンバー211の底部に取り付けられている。この基板ホルダー212は、モータの作動により回動可能となっている。これにより、第1の基板21上に第1の接合膜31を均質かつ均一な厚さで成膜することができる。
また、基板ホルダー212の近傍には、それぞれ、これらを覆うことができるシャッター221が配設されている。このシャッター221は、第1の基板21および第1の接合膜31が不要な雰囲気等に曝されるのを防ぐためのものである。
【0117】
有機金属材料供給手段260は、チャンバー211に接続されている。この有機金属材料供給手段260は、固形状の有機金属材料を貯留する貯留槽262と、気化または霧化した有機金属材料をチャンバー211内に送気するキャリアガスを貯留するガスボンベ265と、キャリアガスと気化または霧化した有機金属材料をチャンバー211内に導くガス供給ライン261と、ガス供給ライン261の途中に設けられたポンプ264およびバルブ263とで構成されている。かかる構成の有機金属材料供給手段260では、貯留槽262は、加熱手段を有しており、この加熱手段の作動により固形状の有機金属材料を加熱して気化し得るようになっている。そのため、バルブ263を開放した状態で、ポンプ264を作動させて、キャリアガスをガスボンベ265から貯留槽262に供給すると、このキャリアガスとともに気化または霧化した有機金属材料が、供給ライン261内を通過してチャンバー211内に供給されるようになっている。
なお、キャリアガスとしては、特に限定されず、例えば、窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガス等が好適に用いられる。
【0118】
また、本実施形態では、ガス供給手段270がチャンバー211に接続されている。ガス供給手段270は、チャンバー211内を低還元性雰囲気下とするためのガスを貯留するガスボンベ275と、前記低還元性雰囲気下とするためのガスをチャンバー211内に導くガス供給ライン271と、ガス供給ライン271の途中に設けられたポンプ274およびバルブ273とで構成されている。かかる構成のガス供給手段270では、バルブ273を開放した状態で、ポンプ274を作動させると、前記低還元性雰囲気下とするためのガスが、ガスボンベ275から、供給ライン271を介して、チャンバー211内に供給されるようになっている。ガス供給手段270をかかる構成とすることにより、チャンバー211内を有機金属材料に対して確実に低還元な雰囲気とすることができる。その結果、有機金属材料を原材料としてMOCVD法を用いて第1の接合膜31を成膜する際に、有機金属材料に含まれる有機成分の少なくとも一部を脱離基303として残存させた状態で第1の接合膜31が成膜される。
チャンバー211内を低還元性雰囲気下とするためのガスとしては、特に限定されないが、例えば、窒素ガスおよびヘリウム、アルゴン、キセノンのような希ガス等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
なお、有機金属材料として、後述する2,4−ペンタジオネート−銅(II)や[Cu(hfac)(VTMS)]、ビス(ジピバロイルメタナイト)銅[Cu(DPM)]、ビス(ジピバロイルメタナイト)インジウム[In(DPM)]のようなβジケトンを配位子とするβジケトン系錯体等のように分子構造中に酸素原子を含有するものを用いる場合には、低還元性雰囲気下とするためのガスに、水素ガスを添加するのが好ましい。これにより、酸素原子に対する還元性を向上させることができ、第1の接合膜31に過度の酸素原子が残存することなく、第1の接合膜31を成膜することができる。その結果、この第1の接合膜31は、膜中における金属酸化物の存在率が低いものとなり、優れた導電性を発揮することとなる。
【0120】
また、キャリアガスとして前述した窒素ガス、アルゴンガスおよびヘリウムガスのうちの少なくとも1種を用いる場合には、このキャリアガスに低還元性雰囲気下とするためのガスとしての機能をも発揮させることができる。
また、排気手段230は、ポンプ232と、ポンプ232とチャンバー211とを連通する排気ライン231と、排気ライン231の途中に設けられたバルブ233とで構成されており、チャンバー211内を所望の圧力に減圧し得るようになっている。
【0121】
以上のような構成の成膜装置200を用いてMOCVD法により、以下のようにして第1の基板21上に第1の接合膜31が形成される。
[1] まず、第1の基板21を用意する。そして、この第1の基板21を成膜装置200のチャンバー211内に搬入し、基板ホルダー212に装着(セット)する。
【0122】
[2] 次に、排気手段230を動作させ、すなわちポンプ232を作動させた状態でバルブ233を開くことにより、チャンバー211内を減圧状態にする。この減圧の程度(真空度)は、特に限定されないが、1×10−7〜1×10−4Torr程度であるのが好ましく、1×10−6〜1×10−5Torr程度であるのがより好ましい。
また、ガス供給手段270を動作させ、すなわちポンプ274を作動させた状態でバルブ273を開くことにより、チャンバー211内に、低還元性雰囲気下とするためのガスを供給して、チャンバー211内を低還元性雰囲気下とする。ガス供給手段270による前記ガスの流量は、特に限定されないが、0.1〜10sccm程度であるのが好ましく、0.5〜5sccm程度であるのがより好ましい。
【0123】
さらに、このとき、加熱手段を動作させ、基板ホルダー212を加熱する。基板ホルダー212の温度は、形成する第1の接合膜31の種類、すなわち、第1の接合膜31を形成する際に用いる原材料の種類によっても若干異なるが、80〜300℃程度で有るのが好ましく、100〜275℃程度であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することにより、後述する有機金属材料を用いて、優れた接着性を有する第1の接合膜31を成膜することができる。
【0124】
[3] 次に、シャッター221を開いた状態にする。
そして、固形状の有機金属材料を貯留された貯留槽262が備える加熱手段を動作させることにより、有機金属材料を気化させた状態で、ポンプ264を動作させるとともに、バルブ263を開くことにより、気化または霧化した有機金属材料をキャリアガスとともにチャンバー内に導入する。
【0125】
このように、前記工程[2]で基板ホルダー212が加熱された状態で、チャンバー211内に、金属原子として第1の金属原子M1を含有する有機金属材料を供給すると、第1の基板21上で有機金属材料が加熱されることにより、有機金属材料中に含まれる有機物の一部が残存した状態で、第1の基板21上に第1の接合膜31を形成することができる。
【0126】
すなわち、MOCVD法によれば、有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存するように金属原子を含む膜を形成すれば、この有機物の一部が脱離基303としての機能を発揮する第1の接合膜31を第1の基板21上に形成することができる。
なお、MOCVD法を用いて形成された第1の接合膜31は、第1の有機金属材料および第2の有機金属材料が混合された有機金属材料に含まれる第1の金属原子M1および第2の金属原子M2と、有機物の一部が残存したものとが堆積されて形成されるため、複数の微細な粒子が積層された積層体と考えることもできる。
【0127】
このようなMOCVD法に用いられる、有機金属材料としては、特に限定されないが、例えば、ビス(2,6−ジメチル−2−(トリメチルシリロキシ)−3,5−ヘプタジオナト)銅(II)(Cu(SOPD);C2446CuOSi)、2,4−ペンタジオネート−銅(II)、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(hfac)(VTMS)]、Cu(ヘキサフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(hfac)(MHY)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(ビニルトリメチルシラン)[Cu(pfac)(VTMS)]、Cu(パーフルオロアセチルアセトネート)(2−メチル−1−ヘキセン−3−エン)[Cu(pfac)(MHY)]、ビス(ジピバロイルメタナイト)銅[Cu(DPM)、DMP:C1119]、ビス(ジピバロイルメタナイト)インジウム[In(DPM)]、トリス(ジピバロイルメタナイト)アルミニウム[Al(DPM)]、ジ(ジピバロイルメタナイト)鉛[Pb(DPM)]、トリス(ジピバロイルメタナイト)鉄[Fe(DPM)]、ビス(イソブチルピバロイルメタナイト)銅[Cu(IBPM)、IBMP:C1017]トリス(イソブチルピバロイルメタナイト)ルテニウム[Ru(IBPM)]、ビス(ジイソブチリルメタナイト)銅[Cu(DIBM)、DIBM:C15]のようなβジケトンを配位子として備えるβジケトン系錯体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、トリス(4−メチル−8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、(8−ヒドロキシキノリン)亜鉛(Znq)のようなキノリノール系錯体、銅フタロシアニンのようなフタロシアニン系錯体およびトリフルオロ酢酸銅、トリフルオロ酢酸イットリウム、テレフタル酸銅錯体のようなカルボン酸塩系錯体等の金属錯体、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛のようなアルキル金属や、その誘導体等が挙げられる。これらの中でも、有機金属材料としては、金属錯体であるのが好ましい。金属錯体を用いることにより、金属錯体中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、第1の接合膜31を確実に形成することができる。また、金属錯体の中でも、特に、βジケトン系錯体であるのがより好ましい。βジケトン系錯体を用いることにより、前記効果がより顕著に認められる。その他、βジケトン系錯体は、金属原子に酸素原子が配位しており、炭素原子のように酸素原子以外の原子が金属原子に配位している金属錯体と比較して反応性が低く安定しており、取扱いが容易である。
以上のような有機金属材料が、成膜すべき第1の接合膜31の種類に応じて、すなわち、第1の金属原子M1および脱離基303の種類に応じて選択される。
【0128】
また、本実施形態では、ガス供給手段270を動作させることにより、チャンバー211内を低還元性雰囲気下となっているが、このような雰囲気下とすることにより、第1の基板21上に純粋な金属膜が形成されることなく、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で成膜することができる。すなわち、接合膜および金属膜としての双方の特性に優れた第1の接合膜31を形成することができる。
気化または霧化した有機金属材料の流量は、0.1〜100ccm程度であるのが好ましく、0.5〜60ccm程度であるのがより好ましい。これにより、均一な膜厚で、かつ、有機金属材料中に含まれる有機物の一部を残存させた状態で、第1の接合膜31を成膜することができる。
【0129】
以上のように、第1の接合膜31を成膜した際に膜中に残存する残存物を脱離基303として用いる構成とすることにより、形成した金属膜等に脱離基を導入する必要がなく、比較的簡単な工程で第1の接合膜31を成膜することができる。
なお、有機金属材料を用いて形成された第1の接合膜31に残存する前記有機物の一部は、その全てが脱離基303として機能するものであってもよいし、その一部が脱離基303として機能するものであってもよい。
【0130】
以上のようにして、第1の接合膜31が第1の基板21上に成膜されて、第1の接合膜付き基材11を得ることができる。
なお、第2の基板22上に第2の接合膜32を成膜する場合には、有機金属材料として、第1の金属原子M1を含有するものに代えて、第2の金属原子M2を含有するものを選択して、上述したようなMOCVD法を用いて成膜することができる。
【0131】
なお、本実施形態では、第1の接合膜31に含まれる金属原子としては、第1の金属原子M1で構成され、第2の接合膜32に含まれる金属原子としては、第2の金属原子M2で構成される場合について説明したが、かかる場合に限らず、第1の接合膜31に含まれる金属原子が第1の金属原子M1で構成される場合、第2の接合膜32には、第2の金属原子M2の他に第1の金属原子M1が含まれていてもよいし、これとは逆に、第2の接合膜32に含まれる金属原子が第2の金属原子M2で構成される場合、第1の接合膜31には、第1の金属原子M1の他に第2の金属原子M2が含まれていてもよい。
【0132】
≪第2実施形態≫
次に、本発明の接合方法の第2実施形態について説明する。
図7および図8は、本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図7および図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0133】
以下、第2実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる接合方法は、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とを重ね合わせた後に、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与するようにしたこと以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0134】
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材上に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを重ね合わせて、積層体を得る工程と、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に対してエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基を、これら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させて、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが接合された接合体を得る工程と、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有する。
【0135】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、前記第1実施形態と同様にして、第1の接合膜付き基材11および第2の接合膜付き基材12を得る(図7(a)参照)。
[2]次に、図7(b)に示すように、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが密着するように、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とを重ね合わせて、積層体51を得る。
なお、この積層体51の状態では、第1の接合膜付き基材11(第1の接合膜31)と第2の接合膜付き基材12(第2の接合膜32)との間は接合されていないので、第1の接合膜付き基材11の第2の接合膜付き基材12に対する相対位置を調整することができる。これにより、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とを重ね合わせた後、これらの位置を容易に微調整することができる。その結果、第1の接合膜31および第2の接合膜32の表面351、352方向における位置精度を高めることができる。
【0136】
[3]次に、図7(c)に示すように、積層体51中の第1の接合膜31および第2の接合膜32に対してエネルギーを付与する。第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーが付与されると、第1の接合膜31に第2の接合膜付き基材12との接着性が発現し、第2の接合膜32に第1の接合膜付き基材11との接着性が発現する。これにより、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とが接合され、図7(d)に示すような接合体5が得られる。
ここで、第1の接合膜31および第2の接合膜32に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよいが、例えば、前記第1実施形態で挙げたような方法で付与される。
【0137】
また、本実施形態では、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与する方法としては、特に、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギー線を照射する方法、加熱する方法、および圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
【0138】
このうち、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギー線を照射する方法としては、前記第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
なお、この場合、エネルギー線は、第1の基板21または第2の基板22を透過して第1の接合膜31および第2の接合膜32に照射されることとなる。したがって、第1の基板21または第2の基板22のうちエネルギー線を照射する側の基板は、透光性を有するもので構成される。
【0139】
一方、第1の接合膜31および第2の接合膜32を加熱することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対してエネルギーを付与する場合、これらを加熱する温度は、第2の金属原子M2(第2の接合膜32)の融点以下に設定され、具体的には、第2の金属原子M2の種類によっても異なるが、加熱温度は、好ましくは25〜100℃程度に設定され、より好ましくは50〜80℃程度に設定される。かかる範囲の温度で加熱すれば、第1の接合膜31および第2の接合膜32が溶融状態となること、および、各基板21、22が熱によって変質・劣化するのを確実に防止しつつ、第1の接合膜31および第2の接合膜32を確実に活性化させることができる。
【0140】
また、加熱時間は、第1の接合膜31および第2の接合膜32の脱離基303を脱離し得る程度の時間とするのが好ましく、具体的には、加熱温度が前記範囲内であれば、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32は、いかなる方法で加熱されてもよいが、例えば、ヒータを用いる方法、赤外線を照射する方法、火炎に接触させる方法等の各種方法で加熱することができる。
なお、赤外線を照射する方法を用いる場合には、第1の基板21または第2の基板22は、光吸収性を有する材料で構成されているのが好ましい。これにより、赤外線を照射された第1の基板21または第2の基板22は、効率よく発熱する。その結果、第1の接合膜31および第2の接合膜32を効率よく加熱することができる。
【0141】
また、ヒータを用いる方法または火炎に接触させる方法を用いる場合には、第1の基板21または第2の基板22のうちヒータまたは火炎を接触させる側の基板は、熱伝導性に優れた材料で構成されているのが好ましい。これにより、第1の基板21または第2の基板22を介して、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対して効率よく熱を伝えることができ、第1の接合膜31および第2の接合膜32を効率よく加熱することができる。
【0142】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32に圧縮力を付与することにより、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対してエネルギーを付与する場合には、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とが互いに近づく方向に、0.2〜10MPa程度の圧力で圧縮するのが好ましく、1〜5MPa程度の圧力で圧縮するのがより好ましい。これにより、単に圧縮するのみで、第1の接合膜31および第2の接合膜32に対して適度なエネルギーを簡単に付与することができ、第1の接合膜31および第2の接合膜32に、これら膜同士に対する十分な接着性が発現する。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、第1の基板21と第2の基板22の各構成材料によっては、第1の基板21および第2の基板22に損傷等が生じるおそれがある。
また、圧縮力を付与する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、圧縮力を付与する時間は、圧縮力の大きさに応じて適宜変更すればよい。具体的には、圧縮力の大きさが大きいほど、圧縮力を付与する時間を短くすることができる。
【0143】
[4] 次に、前記第1実施形態と同様にして、図8(a)に示すように、第1の接合膜31および第2の接合膜32を第2の金属原子M2が溶融するまで加熱する。
これにより、第2の接合膜32に含まれる第2の金属原子M2が第1の接合膜31側に拡散し、その結果、図8(b)に示すような、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合強度がより向上した接合体5を得ることができる。
以上のようにして接合体5を得ることができる。
なお、接合体5を得た後、この接合体5に対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[5A]および[5B]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
【0144】
≪第3実施形態≫
次に、本発明の接合体の接合方法の第3実施形態について説明する。
図9および図10は、本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図9および図10中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0145】
以下、第3実施形態にかかる接合方法について説明するが、前記第1実施形態ないし前記第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
本実施形態にかかる接合方法は、各基板21、22の上面251、252のうち、一部の所定領域350のみに選択的に第1の接合膜31および第2の接合膜32を形成することにより、第1の接合膜付き基材11と第2の接合膜付き基材12とを、前記所定領域350において部分的に接合するようにした以外は、前記第1実施形態と同様である。
【0146】
すなわち、本実施形態にかかる接合方法は、第1の基材上の一部の領域に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上の一部の領域に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜にエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基をこれら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させる工程と、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを貼り合わせて、これらを一部の領域において部分的に接合した接合体を得る工程と、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有する。
【0147】
以下、本実施形態にかかる接合方法の各工程について順次説明する。
[1]まず、図9(a)に示すように、各基板21、22の上方に、所定領域350の形状に対応する窓部61を有するマスク6をそれぞれ配置する。
次に、マスク6を介して、第1の基板21および第2の基板22の上面251、252に、それぞれ、第1の接合膜31および第2の接合膜32を成膜する。例えば、図9(a)に示すように、マスク6を介して、例えば、前記第1実施形態で説明したMOCVD法を用いて第1の接合膜31および第2の接合膜32を成膜すると、有機金属材料は、このものに含まれる有機物の一部が残存した状態で、各基板21、22の上面251、252上に堆積するが、このときマスク6を介することにより、それぞれの所定領域350にのみ有機金属材料の一部が堆積する。その結果、各基板21、22の上面251、252の一部の所定領域350に、第1の接合膜31および第2の接合膜32がそれぞれ形成される。
【0148】
[2]次に、図9(b)に示すように、第1の接合膜31および第2の接合膜32にエネルギーを付与する。これにより、各接合膜付き基材11、12では、第1の接合膜31および第2の接合膜32に接着性が発現する。
なお、本工程でエネルギーを付与する際には、第1の接合膜31および第2の接合膜32に選択的にエネルギーを付与してもよいが、第1の接合膜31および第2の接合膜32を包含する基板21、22の上面251、252の全体に、それぞれエネルギーを付与するようにしてもよい。
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよいが、例えば、前記第1実施形態で挙げたような方法で付与される。
【0149】
[3]次に、図9(c)に示すように、接着性が発現した第1の接合膜31および第2の接合膜32同士が密着するように、2枚の接合膜付き基材11、12同士を貼り合わせる。これにより、図9(d)に示すような接合体5bを得ることができる。
このようにして得られた接合体5bは、2枚の接合膜付き基材11、12同士を対向面全体で接合するのではなく、一部の領域(所定領域350)のみを部分的に接合してなるものである。そして、この接合される領域は、各基板21、22における各接合膜31、32の成膜領域を制御することのみで簡単に選択することができる。これにより、例えば、接合体5bの接合強度を容易に調整することができる。
【0150】
また、接合体5bの各基板21、22間には、所定領域350以外の領域に、第1の接合膜31および第2の接合膜32の合計厚さに相当する離間距離の間隙3cが形成されている(図9(d)参照)。したがって、所定領域350の形状や各接合膜31、32の厚さを適宜調整することにより、各基板21、22間に、所望の形状の閉空間や流路等を容易に形成することができる。
【0151】
[4] 次に、前記第1実施形態と同様にして、図10(a)に示すように、第1の接合膜31および第2の接合膜32を第2の金属原子M2が溶融するまで加熱する。
これにより、第2の接合膜32に含まれる第2の金属原子M2が第1の接合膜31側に拡散し、その結果、図10(b)に示すような、第1の接合膜31と第2の接合膜32との接合強度がより向上した接合体5bを所定領域350に選択的に形成することができる。
【0152】
以上のようにして接合体5bを得ることができる。
なお、接合体5bを得た後、この接合体5bに対して、必要に応じ、前記第1実施形態の工程[5A]および[5B]のうちの少なくとも1つの工程を行うようにしてもよい。
例えば、接合体5bを加圧しつつ、エネルギー線を照射することにより、接合体5bの各基板21、22同士がより近接した際に、エネルギー線が付与される。これにより、第1の接合膜31と第2の接合膜32との界面における水酸基の脱水縮合や未結合手同士の再結合が促進される。そして、所定領域350に形成された接合部において、一体化がより進行し、最終的には、ほぼ完全に一体化される。
【0153】
なお、本実施形態では、第1の基板21および第2の基板22上の一部の領域(所定領域350)にそれぞれ形成される第1の接合膜31および第2の接合膜32がともに同一形状をなす場合について説明したが、この場合に限定されず、これら第1の接合膜31および第2の接合膜32の形状は互いに異なっていてもよい。この場合、平面視において、第1の接合膜31と第2の接合膜32とが互いに重なりあう領域において、これら同士が接合される。
【0154】
以上のような前記各実施形態にかかる接合方法は、種々の複数の部材同士を接合するのに用いることができる。
このような接合に供される部材としては、例えば、トランジスタ、ダイオード、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサ、加速度センサのようなセンサ部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、液晶表示素子、有機EL素子、電気泳動表示素子のような表示素子用部品、燃料電池用部品等が挙げられる。
【0155】
<液滴吐出ヘッド>
ここでは、本発明の接合体をインクジェット式記録ヘッドに適用した場合の実施形態について説明する。
図11は、本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図、図12は、図11に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図、図13は、図11に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、図11は、通常使用される状態とは、上下逆に示されている。
【0156】
図11に示すインクジェット式記録ヘッド10は、図13に示すようなインクジェットプリンタ9に搭載されている。
図13に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
【0157】
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0158】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔111を備えるインクジェット式記録ヘッド10(以下、単に「ヘッド10」と言う。)と、ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド10およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
【0159】
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド10から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0160】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0161】
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、圧電素子(振動源)14を駆動して、インクの吐出タイミングを制御する圧電素子駆動回路、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサ等が、それぞれ電気的に接続されている。
【0162】
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により圧電素子14、印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0163】
以下、ヘッド10について、図11および図12を参照しつつ詳述する。
ヘッド10は、ノズル板110と、インク室基板120と、振動板13と、振動板13に接合された圧電素子(振動源)14とを備えるヘッド本体17と、このヘッド本体17を収納する基体16とを有している。なお、このヘッド10は、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0164】
ノズル板110は、例えば、SiO、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物系材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料等で構成されている。
このノズル板110には、インク滴を吐出するための多数のノズル孔111が形成されている。これらのノズル孔111間のピッチは、印刷精度に応じて適宜設定される。
【0165】
ノズル板110には、インク室基板120が固着(固定)されている。
このインク室基板120は、ノズル板110、側壁(隔壁)122および後述する振動板13により、複数のインク室(キャビティ、圧力室)121と、インクカートリッジ931から供給されるインクを貯留するリザーバ室123と、リザーバ室123から各インク室121に、それぞれインクを供給する供給口124とが区画形成されている。
各インク室121は、それぞれ短冊状(直方体状)に形成され、各ノズル孔111に対応して配設されている。各インク室121は、後述する振動板13の振動により容積可変であり、この容積変化により、インクを吐出するよう構成されている。
【0166】
インク室基板120を得るための母材としては、例えば、シリコン単結晶基板、各種ガラス基板、各種樹脂基板等を用いることができる。これらの基板は、いずれも汎用的な基板であるので、これらの基板を用いることにより、ヘッド10の製造コストを低減することができる。
一方、インク室基板120のノズル板110と反対側には、振動板13が接合され、さらに振動板13のインク室基板120と反対側には、複数の圧電素子14が設けられている。
また、振動板13の所定位置には、振動板13の厚さ方向に貫通して連通孔131が形成されている。この連通孔131を介して、前述したインクカートリッジ931からリザーバ室123に、インクが供給可能となっている。
【0167】
各圧電素子14は、それぞれ、下部電極142と上部電極141との間に圧電体層143を介挿してなり、各インク室121のほぼ中央部に対応して配設されている。各圧電素子14は、圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて作動(振動、変形)するよう構成されている。
各圧電素子14は、それぞれ、振動源として機能し、振動板13は、圧電素子14の振動により振動し、インク室121の内部圧力を瞬間的に高めるよう機能する。
基体16は、例えば各種樹脂材料、各種金属材料等で構成されており、この基体16にノズル板110が固定、支持されている。すなわち、基体16が備える凹部161に、ヘッド本体17を収納した状態で、凹部161の外周部に形成された段差162によりノズル板110の縁部を支持する。
【0168】
以上のような、ノズル板110とインク室基板120との接合、インク室基板120と振動板13との接合、およびノズル板110と基体16とを接合する際に、少なくとも1箇所において本発明の接合方法が適用されている。
換言すれば、ノズル板110とインク室基板120との接合体、インク室基板120と振動板13との接合体、およびノズル板110と基体16との接合体のうち、少なくとも1箇所に本発明の接合体が適用されている。
【0169】
このようなヘッド10は、接合部の接合界面の接合強度および耐薬品性が高くなっており、これにより、各インク室121に貯留されたインクに対する耐久性および液密性が高くなっている。その結果、ヘッド10は、信頼性の高いものとなる。
また、非常に低温で信頼性の高い接合ができるため、線膨張係数の異なる材料でも大面積のヘッドができる点でも有利である。
【0170】
このようなヘッド10は、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体層143に変形が生じない。このため、振動板13にも変形が生じず、インク室121には容積変化が生じない。したがって、ノズル孔111からインク滴は吐出されない。
【0171】
一方、圧電素子駆動回路を介して所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子14の下部電極142と上部電極141との間に一定電圧が印加された状態では、圧電体層143に変形が生じる。これにより、振動板13が大きくたわみ、インク室121の容積変化が生じる。このとき、インク室121内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔111からインク滴が吐出される。
【0172】
1回のインクの吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極142と上部電極141との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子14は、ほぼ元の形状に戻り、インク室121の容積が増大する。なお、このとき、インクには、インクカートリッジ931からノズル孔111へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気がノズル孔111からインク室121へ入り込むことが防止され、インクの吐出量に見合った量のインクがインクカートリッジ931(リザーバ室123)からインク室121へ供給される。
【0173】
このようにして、ヘッド10において、印刷させたい位置の圧電素子14に、圧電素子駆動回路を介して吐出信号を順次入力することにより、任意の(所望の)文字や図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド10は、圧電素子14の代わりに電気熱変換素子を有していてもよい。つまり、ヘッド10は、電気熱変換素子による材料の熱膨張を利用してインクを吐出する構成(いわゆる、「バブルジェット方式」(「バブルジェット」は登録商標))のものであってもよい。
【0174】
かかる構成のヘッド10において、ノズル板110には、撥液性を付与することを目的に形成された被膜114が設けられている。これにより、ノズル孔111からインク滴が吐出される際に、このノズル孔111の周辺にインク滴が残存するのを確実に防止することができる。その結果、ノズル孔111から吐出されたインク滴を目的とする領域に確実に着弾させることができる。
【0175】
<配線基板>
さらに、本発明の接合体を配線基板に適用した場合の実施形態について説明する。
図14は、本発明の接合体を適用して得られた配線基板を示す斜視図である。
図14に示す配線基板410は、絶縁基板413と、絶縁基板413上に配設された電極412と、リード414と、リード414の一端に、電極412と対向するように設けられた電極415とを有する。
【0176】
そして、電極412の上面と電極415の下面とには、それぞれ、第1の接合膜31と第2の接合膜32が形成されている。これら第1の接合膜31と第2の接合膜32とは、前述の本発明の接合方法によって貼り合わせることにより接合されている。これにより、電極412、415間は、一体化された第1の接合膜31および第2の接合膜32によって強固に接合されることになり、各電極412、415間の層間剥離等が確実に防止されるとともに、信頼性の高い配線基板410が得られる。
【0177】
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32は、それぞれに含まれる第1の金属原子M1および第2の金属原子M2として導電性を有するものを選択することにより、各電極412、415間を導通する機能をも担う。第1の接合膜31および第2の接合膜32は、非常に薄いものでも十分な接合力を発揮する。このため、各電極412、415間の間隙をより小さくすることができ、各電極412、415間の電気抵抗成分(接触抵抗)の低減を図ることができる。その結果、各電極412、415間の導電性をより高めることができる。
また、第1の接合膜31および第2の接合膜32は、前述したように、その厚さを高い精度で容易に制御することができる。これにより、配線基板410は、より寸法精度の高いものとなり、各電極412、415間の導電性も容易に制御することができる。
【0178】
以上、本発明の接合方法および接合体を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合方法は、前記各実施形態のうち、任意の1つまたは2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
また、本発明の接合方法では、必要に応じて、1以上の任意の目的の工程を追加してもよい。
また、前記各実施形態では、第1の基板と第2の基板の2枚の基材を接合する方法について説明しているが、3枚以上の基材を接合する場合に、本発明の接合方法および接合体を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0179】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合体の製造
(実施例1)
まず、第1の基板として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意し、第2の基板として、縦20mm×横20mm×平均厚さ1mmのガラス基板を用意した。
【0180】
次に、単結晶シリコン基板を図5に示す成膜装置200のチャンバー211内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、原材料をCu(DPM)とし、MOCVD法を用いて、平均厚さ100nmの第1の接合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0181】
<成膜条件>
・チャンバー内の雰囲気 :窒素ガス + 水素ガス
・有機金属材料(原材料) :Cu(DPM)
・霧化した有機金属材料の流量 :2sccm
・キャリアガス :窒素ガス
・キャリアガスの流量 :250sccm
・水素ガスの流量 :0.2sccm
・成膜時のチャンバー内の圧力 :1×10−3Torr
・基板ホルダーの温度 :200℃
・処理時間 :15分
以上のようにして成膜された第1の接合膜は、第1の金属原子として銅原子を含み、脱離基として、Cu(DPM)に含まれる有機物の一部が残存しているものである。
これにより、単結晶シリコン基板上に第1の接合膜が形成された、第1の接合膜付き基材を得た。
【0182】
次に、ガラス基板を図5に示す成膜装置200のチャンバー211内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、表面処理を行った面に、原材料をIn(DPM)とし、MOCVD法を用いて、平均厚さ100nmの第2の接合膜を成膜した。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0183】
<成膜条件>
・チャンバー内の雰囲気 :窒素ガス + 水素ガス
・有機金属材料(原材料) :In(DPM)
・霧化した有機金属材料の流量 :2sccm
・キャリアガス :窒素ガス
・キャリアガスの流量 :250sccm
・水素ガスの流量 :0.2sccm
・成膜時のチャンバー内の圧力 :1×10−3Torr
・基板ホルダーの温度 :200℃
・処理時間 :15分
以上のようにして成膜された第2の接合膜は、金属原子としてインジウム原子を含み、脱離基として、In(DPM)に含まれる有機物の一部が残存しているものである。
これにより、ガラス基板上に第2の接合膜が形成された、第2の接合膜付き基材を得た。
【0184】
次に、得られた第1の接合膜および第2の接合膜にそれぞれ以下に示す条件で紫外線を照射した。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :窒素ガス
・雰囲気ガスの温度 :25℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :15分
【0185】
次に、紫外線を照射してから1分後に、各接合膜の紫外線を照射した面同士が接触するように、単結晶シリコン基板とガラス基板とを重ね合わせた状態で、各基板同士を10MPaで加圧し、15分間維持して接合体を得た。
次に、得られた接合体を、160℃(インジウムの融点以上の温度)で加熱することにより、仮接合状態よりも強固に接合された接合体を得た。
【0186】
(実施例2)
各基板同士を加圧する際の圧力を10MPaから4MPaに変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(実施例3〜13)
第1の基板の構成材料および第2の基板の構成材料を、それぞれ表1に示す材料に変更した以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
【0187】
(実施例14)
まず、前記実施例1と同様にして、単結晶シリコン基板とガラス基板(第1の基板および第2の基板)を用意し、それぞれに酸素プラズマによる表面処理を行った。
次に、シリコン基板の表面処理を行った面に、前記実施例1と同様にして第1の接合膜を成膜した。これにより、第1の接合膜付き基材を得た。
また、ガラス基板の表面処理を行った面に、前記実施例1と同様にして第2の接合膜を成膜した。これにより、第2の接合膜付き基材を得た。
【0188】
次に、第1の接合膜付き基材の接合膜と、第2の接合膜付き基材の接合膜とが接触するように、第1の接合膜付き基材と第2の接合膜付き基材とを重ね合わせた。
そして、重ね合わせた各基板に対して、以下に示す条件で紫外線を照射した。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :窒素ガス
・雰囲気ガスの温度 :25℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :15分
紫外線照射後に、単結晶シリコン基板とガラス基板とを重ね合わせた状態のまま、各基板同士を6MPaで加圧し、15分間維持して接合体を得た。
【0189】
(参考例1)
ガラス基板(第2の基板)上にも、原材料をCu(DPM)として、MOCVD法を用いることにより第1の接合膜を成膜したこと、すなわち、第1の基板および第2の基板の双方に、Cu(DPM)を原材料とする第1の接合膜を形成したこと以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(参考例2、3)
第1の基板の構成材料および第2の基板の構成材料を、それぞれ表1に示す材料とした以外は、前記参考例1と同様にして接合体を得た。
【0190】
(比較例1〜3)
第1の基板の構成材料および第2の基板の構成材料を、それぞれ表2に示す材料とし、各基材間をエポキシ系接着剤で接着した以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
(比較例4〜6)
第1の基板の構成材料および第2の基板の構成材料を、それぞれ表2に示す材料とし、各基材間をAgペーストで接着した以外は、前記実施例1と同様にして、接合体を得た。
【0191】
2.接合体の評価
2.1 接合強度(割裂強度)の評価
各実施例、各参考例および各比較例で得られた接合体について、それぞれ接合強度を測定した。
接合強度の測定は、各基材を引き剥がしたとき、剥がれる直前の強度を測定することにより行った。そして、接合強度を以下の基準にしたがって評価した。
【0192】
<接合強度の評価基準>
◎:10MPa(100kgf/cm)以上
○: 5MPa( 50kgf/cm)以上、10MPa(100kgf/cm)未満
△: 1MPa( 10kgf/cm)以上、 5MPa( 50kgf/cm)未満
×: 1MPa( 10kgf/cm)未満
【0193】
2.2 寸法精度の評価
各実施例、各参考例および各比較例で得られた接合体について、それぞれ厚さ方向の寸法精度を測定した。
寸法精度の測定は、正方形の接合体の各角部の厚さを測定し、4箇所の厚さの最大値と最小値の差を算出することにより行った。そして、この差を以下の基準にしたがって評価した。
<寸法精度の評価基準>
○:10μm未満
×:10μm以上
【0194】
2.3 耐薬品性の評価
各実施例、各参考例および各比較例で得られた接合体を、80℃に維持したインクジェットプリンタ用インク(エプソン社製、「HQ4」)に3週間浸漬した。その後、各基材を引き剥がし、接合界面にインクが浸入していないかを確認した。そして、その結果を以下の基準にしたがって評価した。
【0195】
<耐薬品性の評価基準>
◎:全く浸入していない
○:角部にわずかに浸入している
△:縁部に沿って浸入している
×:内側に浸入している
【0196】
2.4 抵抗率の評価
各実施例12、13および各比較例5、6で得られた積層体について、それぞれ接合部分の抵抗率を測定した。そして、測定した抵抗率を以下の基準にしたがって評価した。
<抵抗率の評価基準>
○:1×10−3Ω・cm未満
×:1×10−3Ω・cm以上
以上、2.1〜2.4の各評価結果を表1に示す。
【0197】
【表1】

【0198】
表1から明らかなように、各実施例で得られた接合体は、接合強度、寸法精度、耐薬品性および抵抗率のいずれの項目においても優れた特性を示した。
一方、比較例1〜6および参考例1〜3で得られた接合体(接合体)は、接合強度が各実施例より劣っていた。
また、比較例1〜6で得られた接合体は、耐薬品性が十分ではなかった。また、寸法精度は、特に低いことが認められた。さらに、比較例5、6で得られた接合体は、抵抗率が、高いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図2】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図3】本発明の接合方法の第1実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の接合方法において、接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図5】本発明の接合方法において、接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図6】本発明の接合方法に用いられる成膜装置を模式的に示す縦断面図。
【図7】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図8】本発明の接合方法の第2実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図9】本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図10】本発明の接合方法の第3実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図11】本発明の接合体を適用して得られたインクジェット式記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を示す分解斜視図である。
【図12】図11に示すインクジェット式記録ヘッドの主要部の構成を示す断面図である。
【図13】図11に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。
【図14】本発明の接合体を適用して得られた配線基板を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0200】
11……第1の接合膜付き基材 12……第2の接合膜付き基材 21……第1の基板、22……第2の基板 251、252……上面 31……第1の接合膜 32……第2の接合膜 303……脱離基 304……活性手 3c……間隙 351、352……表面 350……所定領域 5、5b……接合体 51……積層体 6……マスク 61……窓部 200……成膜装置 211……チャンバー 212……基板ホルダー 221……シャッター 230……排気手段 231……排気ライン 232……ポンプ 233……バルブ 260……有機金属材料供給手段 261……ガス供給ライン 262……貯留槽 263……バルブ 264……ポンプ 265……ガスボンベ 270……ガス供給手段 271……ガス供給ライン 273……バルブ 274……ポンプ 275……ガスボンベ 10……インクジェット式記録ヘッド 110……ノズル板 111……ノズル孔 114……被膜 120……インク室基板 121……インク室 122……側壁 123……リザーバ室 124……供給口 13……振動板 131……連通孔 14……圧電素子 141……上部電極 142……下部電極 143……圧電体層 16……基体 161……凹部 162……段差 17……ヘッド本体 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙 410……配線基板 412……電極 413……絶縁基板 414……リード 415……電極 M1……第1の金属原子 M2……第2の金属原子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材上に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に対してエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基をこれら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させる工程と、
前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを貼り合わせて、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが接合された接合体を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
第1の基材上に、第1の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第1の接合膜を形成して第1の接合膜付き基材を得るとともに、第2の基材上に、前記第1の金属原子よりも融点が低い第2の金属原子と、有機成分で構成される脱離基とを含む第2の接合膜を形成して第2の接合膜付き基材を得る工程と、
前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが密着するように、前記第1の接合膜付き基材と前記第2の接合膜付き基材とを重ね合わせて、積層体を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に対してエネルギーを付与して、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の表面付近に存在する前記脱離基を、これら接合膜から脱離させることにより、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に接着性を発現させて、前記第1の接合膜と前記第2の接合膜とが接合された接合体を得る工程と、
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を、前記第2の金属原子が溶融するまで加熱することにより、前記接合体の接合強度を向上させる工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項3】
前記第2の金属原子の融点は、250℃よりも低い請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第2の金属原子は、インジウム、セレンおよびスズのうちの少なくとも1種である請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、前記第1の金属原子および前記第2の金属原子を備える有機金属材料を原材料として、有機金属化学気相成長法を用いて成膜する請求項1ないし4のいずれかに記載の接合方法。
【請求項6】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、低還元性雰囲気下で成膜される請求項5に記載の接合方法。
【請求項7】
前記脱離基は、前記有機金属材料に含まれる有機物の一部が残存したものである請求項5または6に記載の接合方法。
【請求項8】
前記脱離基は、炭素原子を必須成分とし、水素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子およびハロゲン原子のうちの少なくとも1種を含む原子団で構成される請求項5ないし7のいずれかに記載の接合方法。
【請求項9】
前記脱離基は、アルキル基を含む請求項8に記載の接合方法。
【請求項10】
前記有機金属材料は、βジケトン系錯体である請求項5ないし9のいずれかに記載の接合方法。
【請求項11】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、導電性を有する請求項1ないし10のいずれかに記載の接合方法。
【請求項12】
さらに、前記第1の金属原子と前記第2の金属原子との標準電極電位の差は、3.0mV以上である請求項1ないし11のいずれかに記載の接合方法。
【請求項13】
前記第1の金属原子は、銅、アルミニウムおよび銀のうちの少なくとも1種である請求項1ないし12のいずれかに記載の接合方法。
【請求項14】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜における前記第1の金属原子および前記第2の金属原子と炭素原子との存在比は、それぞれ、3:7〜7:3である請求項1ないし13のいずれかに記載の接合方法。
【請求項15】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、その少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が、当該各接合膜から脱離した後に、活性手が生じる請求項1ないし14のいずれかに記載の接合方法。
【請求項16】
前記活性手は、未結合手または水酸基である請求項15に記載の接合方法。
【請求項17】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜の平均厚さは、それぞれ、1〜1000nmである請求項1ないし16のいずれかに記載の接合方法。
【請求項18】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜は、それぞれ、流動性を有さない固体状をなしている請求項1ないし17のいずれかに記載の接合方法。
【請求項19】
前記第1の基材および第2の基材は、板状をなしている請求項1ないし18のいずれかに記載の接合方法。
【請求項20】
前記第1の基材の少なくとも前記第1の接合膜を形成する部分および前記第2の基材の少なくとも前記第2の接合膜を形成する部分は、それぞれ、シリコン材料、金属材料またはガラス材料を主材料として構成されている請求項1ないし19のいずれかに記載の接合方法。
【請求項21】
前記第1の基材の前記第1の接合膜を形成する面および前記第2の基材の前記第2の接合膜を形成する面には、それぞれ、あらかじめ、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜との密着性を高める表面処理が施されている請求項1ないし20のいずれかに記載の接合方法。
【請求項22】
前記表面処理は、プラズマ処理である請求項21に記載の接合方法。
【請求項23】
前記第1の基材と前記第1の接合膜との間および前記第2の基材と前記第2の接合膜との間に、それぞれ、中間層を介挿する請求項1ないし22のいずれかに記載の接合方法。
【請求項24】
前記中間層は、酸化物系材料を主材料として構成されているものを用いる請求項23に記載の接合方法。
【請求項25】
前記エネルギーの付与は、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜にエネルギー線を照射する方法、前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を加熱する方法、ならびに前記第1の接合膜および前記第2の接合膜に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも1つの方法により行う請求項1ないし24のいずれかに記載の接合方法。
【請求項26】
前記エネルギー線は、波長126〜300nmの紫外線である請求項25に記載の接合方法。
【請求項27】
前記第1の接合膜および前記第2の接合膜を加熱する温度は、前記第2の金属原子の融点以下である請求項25または26に記載の接合方法。
【請求項28】
前記圧縮力は、0.2〜10MPaである請求項25ないし27のいずれかに記載の接合方法。
【請求項29】
前記エネルギーの付与を、大気雰囲気中で行う請求項1ないし28のいずれかに記載の接合方法。
【請求項30】
さらに、前記接合体に対して、その接合強度をより高める処理を行う工程を有する請求項1ないし29のいずれかに記載の接合方法。
【請求項31】
前記接合強度を高める処理を行う工程は、前記接合体にエネルギー線を照射する方法および前記接合体に圧縮力を付与する方法のうちの少なくとも一方により行われる請求項30に記載の接合方法。
【請求項32】
請求項1ないし31のいずれかに記載の接合方法により接合されたことを特徴とする接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−29870(P2010−29870A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191529(P2008−191529)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】