接合方法および接合装置
【課題】被接合部材の接合面において安定した接合強度を得ることが可能な接合方法および接合装置を提供する。
【課題を解決するための手段】導電性を備えた一対の被接合部材1a,1bを接合するための接合方法であり、互いに接合される被接合部材1a,1bの接合面2a,2bを予め加熱する予備加熱工程と、互いに接合される接合面2a,2b同士を対向させて、一対の被接合部材1a,1bを相対的に摺動させつつ、被接合部材1a,1bの一方から他方へ電流を流して抵抗加熱することで接合面2a,2b同士を接合する接合工程とを有する接合方法である。
【課題を解決するための手段】導電性を備えた一対の被接合部材1a,1bを接合するための接合方法であり、互いに接合される被接合部材1a,1bの接合面2a,2bを予め加熱する予備加熱工程と、互いに接合される接合面2a,2b同士を対向させて、一対の被接合部材1a,1bを相対的に摺動させつつ、被接合部材1a,1bの一方から他方へ電流を流して抵抗加熱することで接合面2a,2b同士を接合する接合工程とを有する接合方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗加熱および加振摩擦を用いた接合方法および接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一対の被接合部材を密着させた状態で加振し、被接合部材同士を振動溶着する方法が知られている。特許文献1では、被接合部材のそれぞれを異なる方向に加振することで、一方向加振では接合が困難な材料からなる被接合部材を振動溶着する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5―116220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被接合部材の接合面の形状によっては、振動溶着において、接合面の部位に応じて接合強度にばらつきが生じる場合がある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、被接合部材の接合面において、安定した接合強度を得ることが可能な接合方法および接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る接合方法は、導電性を備えた一対の被接合部材を接合するための接合方法であり、予備加熱工程と、接合工程とを有している。予備加熱工程では、互いに接合される前記被接合部材の接合面を予め加熱する。接合工程では、互いに接合される前記接合面同士を対向させて、一対の前記被接合部材を相対的に摺動させつつ、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流して抵抗加熱することで前記接合面同士を接合する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した接合方法によれば、接合面を予め加熱する予備加熱工程を有するため、予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面の略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る接合装置を示す概略正面図である。
【図2】図1の2−2線から観察した接合装置を示す概略側面図である。
【図3】第1実施形態に係る接合装置の電極近傍を示す拡大正面図である。
【図4】第1実施形態に係る接合装置の加振手段近傍を示す拡大正面図である。
【図5】図4の5−5線に沿う断面図である。
【図6】第1実施形態における被接合部材の接合面を示す平面図である。
【図7】接合面の磨耗の進展を説明するための概略図であり、(A)は加振方向に長い長尺部、(B)は加振方向に短い短尺部を示す。
【図8】被接合部材の接合面同士を相対的にずらした際を示す平面図である。
【図9】図8に示す接合面の接触領域を示す平面図であり、(A)は一方の被接合部材、(B)は他方の被接合部材を示す。
【図10】被接合部材を接合する際の接合面の接触領域を示す平面図である。
【図11】第1実施形態における接合方法を示すフローチャートである。
【図12】第1実施形態に係る接合装置に被接合部材を設置した際を示す拡大断面図である。
【図13】被接合部材の一方を移動手段により移動させた際を示す拡大断面図である。
【図14】第1実施形態に係る接合装置により予備加熱工程を行う際を示す拡大断面図である。
【図15】第1実施形態に係る接合装置により接合面合致工程および接合工程を行う際を示す拡大断面図である。
【図16】第2実施形態における被接合部材を示す断面図である。
【図17】第2実施形態における接合方法を示すフローチャートである。
【図18】第3実施形態に係る接合装置の電極近傍を示す拡大断面図である。
【図19】第3実施形態における接合方法を示すフローチャートである。
【図20】被接合部材の他の例の接合面同士を相対的にずらした際を示す平面図である。
【図21】図20に示す接合面の接触領域を示す平面図であり、(A)は一方の被接合部材、(B)は他方の被接合部材を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
<第1実施形態>
X 本発明の第1実施形態に係る接合装置10は、図1〜3に示すように、導電性を有する一対の被接合部材1a,1bを、電流による抵抗加熱および振動による摩擦加熱を利用して互いに接合させて導電接合部材を得る装置である。接合装置10は、被接合部材1a,1bを、互いに接合させる接合面2a,2bを対向させて保持し、押圧方向Z(接合面2a,2bの法線方向)に加圧しながら接合面2a,2bに沿う加振方向Xへ加振しつつ、抵抗加熱を行うことで被接合部材1a,1b同士を接合する。加振方向Xは、接合面2a,2bの長尺方向と一致するように選択される。
【0011】
接合装置10は、上方の被接合部材1aを固定するための第1固定部材20と、下方の被接合部材1bを摺動可能に保持するための保持手段60と、被接合部材1bを摺動方向(加振方向X)と直交する方向へスライドさせるための移動手段100とを有している。接合装置10は、更に、被接合部材1a,1bに電流を流すための第1電極51および第2電極52と、下方の被接合部材1bを加振するための加振装置70とを有している。本実施形態では、加振方向Xが、接合面2a,2bの長尺方向と略一致するため、スライド方向Yは、短尺方向と一致する。したがって、移動手段100が短尺方向に配置され、かつ被接合部材1bが短尺方向に移動するため、装置を省スペースに収めることができる。なお、スライド方向Yは、かならずしも加振方向Xと厳密に直交しなくてもよく、加振方向Xと交差すればよい。
【0012】
保持手段60は、下方の被接合部材1bを加振方向Xへ摺動可能に保持しつつ、被接合部材1bの押圧方向Zへの移動を規制するものである。保持手段60は、被接合部材1bが固定されて被接合部材1bとともに加振方向Xへ移動する第2固定部材30(固定部材)と、固定的に配置される枠体61と、第2固定部材30を被接合部材1bの摺動方向に沿って移動可能とする第1リニアガイド65および第2リニアガイド66とを有している。枠体61は、電磁遮断カバーとしての機能をも有している。
【0013】
移動手段100は、被接合部材1bを保持する第2固定部材30を、加振方向Xおよび押圧方向Zと直交するスライド方向Yへ移動可能とする第3リニアガイド101と、スライド方向Yへ第2固定部材30を移動させるために第2固定部材30に連結されるアクチュエータ102とを有している(図2参照)。移動手段100は、被接合部材1bを移動させることで、被接合部材1aおよび被接合部材1bの互いに接合させる接合面2a,2bを、実際に接合される部位と異なる位置で対向配置させるものである。
【0014】
アクチュエータ102は、制御装置80に接続されて、第2固定部材30のスライド方向Yへの移動量を制御可能となっている。アクチュエータ102の構造は、第2固定部材30の移動量を制御可能であれば特に限定されず、例えば油圧式、空気圧式、モータ等を適用できる。
【0015】
第1固定部材20は、被接合部材1aが嵌合可能な嵌合孔21を有しており、嵌合孔21に被接合部材1aが嵌合して固定されることで、被接合部材1aの水平方向(接合面2a,2bに沿う加振方向Xおよびスライド方向Y)への移動が規制される。嵌合孔21には、上方から進退動可能な第1電極51が貫通し、第1電極51が被接合部材1aの上面と当接可能となっている。第1固定部材20は、枠体61に絶縁部材62を介して固定されている。
【0016】
第2固定部材30は、被接合部材1bが嵌合可能な嵌合孔31を有しており、嵌合孔31に被接合部材1bが嵌合して保持され、第2固定部材30の加振方向Xへの振動によって被接合部材1bが加振され、かつ第2固定部材30のスライド方向Yへの移動によって被接合部材1bが移動する構造となっている。第2固定部材30の嵌合孔31には、導電性の高い銅製の電極保護プレート32が設けられており、電極保護プレート32を介して第2固定部材30と被接合部材1bが接している。第2固定部材30の下面33には、下方から進退動可能な第2電極52が当接可能となっている。
【0017】
接合装置10は、更に、第2固定部材30を加振する加振装置70(加振手段、摺動手段)と、接合装置10を制御する制御装置80(制御手段)とを有している。
【0018】
加振装置70は、図4に示すように、制御装置80により制御される駆動源としてのモータ71と、モータ71によって回転駆動される駆動軸72と、駆動軸72により加振される加振プレート73およびカウンタプレート74とを備えている。モータ71は、枠体61に固定され、駆動軸72は、枠体61に配置される軸受75により回転可能に保持されている。駆動軸72は、軸心と偏心している第1偏心部72aおよび第2偏心部72bを有しており、第1偏心部72aには、第1軸受76aを介して加振プレート73が連結され、第2偏心部72bには、第2軸受76bを介してカウンタプレート74が連結されている。加振プレート73は、第1リニアガイド65を介してカウンタプレート74に保持され、かつカウンタプレート74は、第2リニアガイド66を介して枠体61に保持されている。第1リニアガイド65および第2リニアガイド66の摺動方向は同一であり、加振プレート73およびカウンタプレート74が、同一方向へ個別に振動可能となっている。
【0019】
第1軸受76aは、図5に示すように、加振プレート73の加振方向と直交する方向へ長軸を有する長円孔77に嵌合している。このため、駆動軸72が回転して第1偏心部72aが振れ回ると、長軸方向の振動は加振プレート73に伝わらず、加振プレート73が一方向Xにのみ加振される。また、第2軸受76bは、カウンタプレート74の加振方向Xと直交する方向へ長軸を有する長円孔78に嵌合している(図4参照)。このため、第2偏心部72bが振れ回ると、長軸方向の振動はカウンタプレート74に伝わらず、カウンタプレート74が一方向Xにのみ加振される。
【0020】
第1偏心部72aおよび第2偏心部72bは、偏心方向の位相が180度ずれており、加振プレート73とカウンタプレート74が逆位相で振動することで、枠体61の振動を打ち消す構造となっている。なお、加振装置の機構は、例えば超音波振動によるものや、電磁式振動によるもの、油圧式によるもの等とすることもできる。
【0021】
加振プレート73には、第1リニアガイド65および第2リニアガイド66と直交するスライド方向Yへ延びる第3リニアガイド101を介して、第2固定部材30が固定される。第2固定部材30が上方から力を受けると、第3リニアガイド101、加振プレート73、第1リニアガイド65、カウンタプレート74および第2リニアガイド66を介して、固定的に配置される枠体61により力が受け止められ、第2固定部材30は下方へ移動しない。
【0022】
第1電極51および第2電極52は、図1に示すように、電流を供給する電流供給装置90と接続されており、第1電極51と第2電極52の間に挟まれる部材に、電流を流すことができる。
【0023】
第1電極51は、上方の第1加圧装置41に連結されて進退動可能となっており、被接合部材1aを押圧方向Zへ加圧することができる。第1加圧装置41は、例えば油圧シリンダ等が組み込まれており、制御装置80に接続されて制御されて、第1電極51の被接合部材1aに対する接触圧力を調整できる。
【0024】
第2電極52は、下方の第2加圧装置42に連結されて進退動可能となっており、被接合部材1bを、第2固定部材30を介して押圧方向Zへ加圧することができる。第2加圧装置42は、例えば油圧シリンダ等が組み込まれており、制御装置80に接続されて制御されて、第2電極52の被接合部材1bに対する接触圧力を調整できる。
【0025】
第1電極51は、枠体61を非接触で貫通し、第2電極52は、加振プレート73、カウンタプレート74および枠体61を非接触で貫通している。第1電極51および第2電極52は、内部に冷却水が循環する構造を有することが好ましい。
【0026】
電流供給装置90は、直流電流または交流電流を第1電極51および第2電極52へ供給できる装置であり、制御装置80に接続されて、電流値および電圧値等を任意に制御可能となっている。
【0027】
制御装置80は、前述の第1,第2加圧装置41,42、加振装置70、電流供給装置90およびアクチュエータ102を統括的に制御する電子計算機である。制御装置80は、演算部、記憶部、入力部および出力部を備えている。記憶部には、接合装置10全体を制御するためのプログラムが格納されており、このプログラムが演算部にて実行されることで、接合装置10に被接合部材1a,1bの接合が遂行される。この制御装置80が設けられることで、後述する工程の全て若しくは一部(図11参照)が、プログラムに基づいて自動的に実行される。
【0028】
被接合部材1a,1bは、導電性を備える材料であれば特に限定されないが、本実施形態では鋳造されたアルミニウム(Al)が用いられる。被接合部材1a,1bは、一例として、図6に示すように、互いに接合させる接合面2a,2bが、長方形の内部に長方形の開口が形成された形状となっている。したがって、接合面2a,2bの加振方向に沿う接触長さは、長辺が延びる長尺部3において長さL1を有し、長さL1は、開口を挟んで加振方向の両側に形成される短尺部4における接触長さL2よりも長くなっている。このように、被接合部材1a,1bは、接合面2a,2bの加振方向に沿う接触長さが不均一となっている。
【0029】
ここで、図7(A)、図7(B)に示す図のように、同一接触面積で加振方向Xの接触長さの異なる長尺部3’と短尺部4’とを比較した場合、磨耗の起点Pの数が等しいと仮定しても、起点Pから磨耗が加振方向Xに沿って進展するため、図7(A)に示す加振方向Xに長い長尺部3’の方が、短尺部4’よりも実質的に磨耗が生じやすい。
【0030】
したがって、図6に示すような、接触長さが不均一な接合面2a,2bを一致させて加振すると、接触長さが長い長尺部3と比較して、接触長さが短い短尺部4においては磨耗が促進され難いため、短尺部4の最終的な接合強度が、長尺部3よりも低下する。
【0031】
そこで、本実施形態では、まず、移動手段100により被接合部材1bを加振方向Xと直交するスライド方向Yへ移動させることで、図8,9に示すように、接合面2a,2bの短尺部4は極力接触した状態としつつ、長尺部3は極力接触しない状態とする。なお、図9中の斜線部が、接触領域Aを表している。そして、この状態で第1電極51と第2電極52によって被接合部材1a,1bの間に電流を流すことで、接合面2a,2bの接触している部位を加熱する。なお、電流による抵抗加熱ではなしに、加振による摩擦加熱を行ってもよく、または両方を行ってもよい。
【0032】
これにより、被接合部材1a,1bの図9にて斜線で示す、短尺部4を含む接触領域Aが加熱されて軟化される。
【0033】
この後、移動手段100により被接合部材1bを被接合部材1aと一致する位置へ戻し、加振しつつ電流を流すと、短尺部4が軟化されて磨耗が進展しやすくなっているため、図10に示す接触領域Aのように長尺部3と短尺部4の両方において磨耗が進展し、接合面2a,2bにてより均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る接合装置10により被接合部材を接合する方法を、図11に示すフローチャートに沿って説明する。
【0035】
初めに、互いに接合する被接合部材1a,1bを準備し、図12に示すように、被接合部材1bを第2固定部材30の嵌合孔31に嵌合させて設置するとともに、被接合部材1aを第1固定部材20の嵌合孔21に設置する。このとき、第1電極51は、被接合部材1aの上面に当接しておらず、第2電極52は、第2固定部材30に当接していない。
【0036】
次に、図13に示すように、移動手段100のアクチュエータ102を作動させて(図2参照)、被接合部材1bをスライド方向Yへ移動させ、図8に示したように、接合面2a,2bの短尺部4が極力接触した状態としつつ、長尺部3が極力接触しない状態とする。このような状態とするには、被接合部材1bの移動量を、長尺部3のスライド方向Yの幅W以上とすることが好ましいが、これに限定されず、被接合部材の形状に応じて適宜設定することが好ましい。
【0037】
そして、図14に示すように、第1加圧装置41により第1電極51を下降させ、第1電極51により被接合部材1aの上面を下方に加圧し、第2電極52を第2加圧装置42により上昇させて、第2固定部材30の下面33に第2電極52を押し付ける。そして、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、接合面2a,2bの接触している部位を加熱する(予備加熱工程S11)。なお、電流による抵抗加熱ではなしに、加振による摩擦加熱を行ってもよく、または両方を行ってもよい。この予備加熱工程S11により、短尺部4を含む接触領域Aが加熱されて軟化する。
【0038】
次に、図15に示すように、接合面2a,2bを抵抗加熱および加振加熱(摺動による摩擦加熱)により加熱しつつ、接合面2a,2b同士の互いに接合される部位が一致するまで被接合部材1bを移動させる接合面合致工程S12を行う。接合面合致工程S12では、第1電極51と第2電極52の間に電流を流しつつ、制御装置80により加振装置70を駆動させ、第2固定部材30に固定されている被接合部材1bを加振方向Xへ振動させる。加振装置70は、制御装置80によってモータ71が駆動されて駆動軸72が回転し、加振プレート73とカウンタプレート74が逆位相で振動する。加振プレート73が振動すると、加振プレート73に固定されている第2固定部材30も振動し、第2固定部材30に固定されている被接合部材1bが、加振方向Xへ振動する。このとき、被接合部材1bと接する被接合部材1aは第1固定部材20によって水平方向の移動が固定的に規制されているため、被接合部材1aと被接合部材1bの間で摩擦が発生する。なお、本実施形態では、一方向加振を行っているが、被接合部材1bが接合面2a,2bに沿って公転運動するように加振することもできる。ここで公転運動とは、被接合部材1bが自転せずに円軌道を描くように振れ回ることを意味する。被接合部材1bが公転運動するように加振すれば、接合面2a,2b同士の相対的な運動が停止しないことから、動摩擦係数のみが作用して摩擦係数が安定するため、加振時の振動が滑らかとなり、接合面2a,2bをより均一に磨耗させることができる。
【0039】
そして、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、かつ被接合部材1bを加振方向Xへ振動させた状態を維持しながら、アクチュエータ102を作動させて、第2固定部材30に固定された被接合部材1bを、被接合部材1aと一致するまで徐々に位置させる。被接合部材1bが徐々に移動することで、接合面2a,2bの温度むらの発生を抑止し、磨耗をより均一に進展しやすくすることができる。そして、第1電極51により加圧力を作用させながら加振することで、接合面2a,2bが摺動するとともに摩擦熱により加熱されて、接合面2a,2bが塑性流動により磨耗し、接合面2a,2bの間の面圧がある程度均一化される。また、被接合部材1bを加振しているため、スライド方向Yへの摩擦抵抗が低減させて、被接合部材1bを被接合部材1aと接触させた状態で相対的に移動させることが容易となる。また、本実施形態では、一方の被接合部材(本実施形態では被接合部材1b)のみを加振するため、被接合部材の他方(本実施形態では被接合部材1a)が大物の場合にも、適用することが可能である。
【0040】
更に、接合面合致工程S12は、摺動によりアルミニウムの表面の酸化皮膜を除去して皮膜厚さの違いによる接触抵抗のばらつきを低減させ、後の工程で抵抗加熱した際の発熱量のばらつきを抑える効果も発揮する。したがって、接合する前に、アルミニウムである被接合部材1a,1bの表面を脱脂し、更にワイヤブラシによりブラッシングして表面の酸化膜を除去する等の処置が不要となり、作業性が向上する。なお、当然、予めブラッシングを行っておいてもよい。
【0041】
なお、接合面合致工程S12において、抵抗加熱および加振加熱の両方を併用して加熱しているが、いずれか一方のみで加熱することもでき、または、加熱せずに被接合部材1bを被接合部材1aと一致するまで位置させることも可能である。
【0042】
接合面合致工程S12の後には、被接合部材1a,1b同士を抵抗加熱により加熱する第1接合工程S13を行う。被接合部材1a,1bの接合面2a,2bの接合する部位を一致させた状態で、加振装置70により加振しつつ、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、加振加熱および抵抗加熱の両方を併用して被接合部材1a,1bを加熱する。なお、第2固定部材30は、枠体61(保持手段60)により下方への移動か規制されるように保持されているため、第2電極52の第2固定部材30への押し付け力は、電流を流すために必要な最低限の力とすることができ、第2電極52の磨耗が最低限に抑制される。
【0043】
第1接合工程S13では、接合面2a,2bにおける電流が集中する高面圧部において抵抗加熱が大きく作用して加熱され、接合面2a,2bの酸化膜が強制的に剥離される。更に、抵抗加熱により加熱された高面圧部に加圧力と加振が作用して塑性流動および材料拡散が生じ、かつ高面圧部が磨耗して時々刻々と電流集中箇所が変化する。これにより、電流の流れが分散し、接合面2a,2bを均一に加熱し、後の工程で接合面2a,2bの全体を均一に接合することができる。なお、第1接合工程S13において、加振装置70のモータ71の回転を完全に停止して、加振せずに抵抗加熱のみで加熱して最終的に接合させることも可能である。
【0044】
第1接合工程S13では、加振による摩擦加熱および抵抗加熱の両方を併用するため、接合面2a,2bに高い加圧力を付与する必要がなく、接合面2a,2bの面積の大きな被接合部材1a,1bであっても加熱して、後の工程で接合することができる。
【0045】
また、接合面2a,2bの表層のみを溶融して最終的に接合するため、加熱時間を短縮でき、更に、材料内に気体を含有している鋳造品であっても、加熱により材料内の気体が膨張、噴出し難く、良好な接合を実現できる。
【0046】
第1接合工程S13の後には、第2接合工程S14が行われる。第2接合工程S14では、図9に示すように、電流供給装置90による電流の供給を停止し、第2電極52を第2固定部材30から離間させる。さらに、加振装置70を稼働させて、第2固定部材30に設置された被接合部材1bを加振する。このように、抵抗加熱による発熱量を減少させ、かつ加振による発熱量を増加させることで、接触抵抗により材料を高温にして軟化を促進する過程から、軟化された材料を加振によって掻き混ぜるようにして一体化を促進する過程へ移行する。
【0047】
第2接合工程S14においては、通電不要のために第2固定部材30と接する必要のなくなった第2電極52を第2固定部材30から離間させることで、第2電極52および第2固定部材30の磨耗、溶着および凝着が抑制される。
【0048】
第2接合工程S14を終了する際には、加振装置70を停止させるが、被接合部材1a,1bを望ましい相対的位置で最終的に接合するために、最終的に加振装置70によって被接合部材1a,1bを規定の位置に位置決めする。この際には、第1加圧装置41の加圧力が大きいと位置決め精度が低下するため、加振装置70を停止させる前に、第1加圧装置41による加圧力を低下させてもよい。第1加圧装置41による加圧力を低下させると、被接合部材1a,1bが望ましい相対的位置となった状態で加振装置70を停止させることができる。なお、被接合部材1a,1bを位置決めするための他の構成を別途設けてもよい。
【0049】
第2接合工程S14の後には、被接合部材1a,1bを冷却する冷却工程S15へ移行する。冷却工程S15では、制御装置80が、加振装置70および電流供給装置90を停止させ、第1加圧装置41による加圧力を上昇させる。予め設定した時間を経過すると、冷却が終了したと判断し、第1加圧装置41による加圧を終了させる。または被接合部材1a,1bの温度を計測する温度計(不図示)から制御装置80へ入力される信号が所定値以下となった後、冷却が終了したと判断し、第1加圧装置41による加圧を終了させることもできる。この後、第1電極51を上昇させて被接合部材1aから離間させ、接合された被接合部材1a,1bが装置から取り外される。
【0050】
接合された被接合部材1a,1bの接合界面には、被接合部材1a,1bの材料が拡散することで接合される拡散接合面、被接合部材1a,1bの材料が塑性流動することで接合される塑性流動接合面が、混在して形成される。
【0051】
なお、第1接合工程S13と第2接合工程S14の間で、電流の供給を減少させる一方で加圧力を増加させるのではなしに、第1接合工程S13および第2接合工程S14を1つの接合工程として実施することもできる。また、冷却工程S15も、かならずしも設けずに省略することができる。
【0052】
第1実施形態における接合方法は、互いに接合される接合面2a,2bを予め加熱する予備加熱工程S11と、接合面2a,2bを対向させて相対的に摺動させつつ電流を流して抵抗加熱することで接合面同士を接合する第1,第2接合工程S13,S14とを有する。したがって、接合面2a,2bを予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面2a,2bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0053】
また、予備加熱工程S11では、接合面2a,2bの摺動方向に沿う接触長さが相対的に短い短尺部4を予め加熱するため、磨耗が進展し難い短尺部4を予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面2a,2bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0054】
また、予備加熱工程S11では、通電による抵抗加熱または摺動による摩擦加熱により加熱するため、接合面2a,2bの接触している部位を容易に加熱することができる。
【0055】
また、予備加熱工程S11では、接合面2a,2bの互いに接合される部位と異なる部位同士を接触させて当該接触する部位を加熱する。すなわち、被接合部材1a,1bを相対的に移動させ、短尺部4における接合面の接触を保持しつつ、長尺部3の少なくとも一部を非接触状態として短尺部4を予め加熱するため、極力短尺部4のみを加熱することができ、より均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0056】
また、予備加熱工程S11の後であって第1接合工程S13の前に、接合面2a,2bを抵抗加熱および摺動による摩擦加熱の少なくとも一方により加熱しつつ、被接合部材1a,1b同士を接合する部位が一致するまで相対的に移動させる接合面合致工程S12を有する。このため、接合面2a,2bの温度むらの発生を抑止し、より均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0057】
また、加振方向X(摺動方向)は、被接合部材1a,1bの接合面2a,2bの長尺な方向に沿う方向であるため、被接合部材1bが移動するスライド方向Yが短尺方向となり、装置の省スペース化を図ることができる。
【0058】
また、第1実施形態に係る接合装置によれば、加振方向Xと交差する方向へ被接合部材1a,1b同士を相対的に移動させる移動手段100を有するため、被接合部材1a,1b同士を接合する前に、接合面2a,2bをずらした状態に移動させて、接合面2a,2bの予備加熱を行うことができる。
【0059】
また、電極51,52および加振装置70の少なくとも一方を作動させて接合面2a,2bを加熱しつつ、接合面2a,2b同士の互いに接合される部位をずらした状態から一致するまで接合面2a,2bに沿う方向へ被接合部材1a,1b同士を相対的に移動させる制御装置90を有するため、被接合部材1a,1bの接合を自動で行うことができる。
【0060】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る接合装置は、第1実施形態と略同様であり、同一の符号を付して説明を省略するが、被接合部材5a,5bの形状が第1実施形態の被接合部材1a,1bと異なる。
【0061】
第2実施形態における被接合部材5a,5bは、図16に示すように、接合面6a,6bを有しており、一方の被接合部材5aの荷重が付与される上面7と接合面6aの形状が、荷重方向Zに一致しない構成となっている。したがって、上面7に第1電極51からの荷重が作用すると、接合面6aの上面7と重ならない(荷重方向Zに上面7が存在しない)張り出し部8において、上面7と重なる(荷重方向Zに上面7が存在する)重部9よりも、作用する面圧が低下することになる。したがって、この状態で加振による摩擦加熱を行っても、張り出し部8においては重部9よりも磨耗が生じ難く、接合強度に偏りが生じる。
【0062】
したがって、本実施形態では、図17に示すフローチャートの通り、まず、接合装置10の第1電極51および第2電極52によって被接合部材5a,5bに電流を流し、接合面6a,6bを抵抗加熱により予備加熱する(予備加熱工程S21)。これにより、張り出し部8が軟化されて磨耗しやすくなり、この後に第1実施形態の工程S13〜15と同様の第1接合工程S23、第2接合工程S24および冷却工程S25を行うことで、接合面6a,6bにおいて均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0063】
第2実施形態における接合方法によれば、互いに接合される接合面6a,6bの面圧の低い張り出し部8を予め加熱する予備加熱工程S21を有するため、磨耗が進展し難い張り出し部8を予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面6a,6bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0064】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る接合装置は、第1実施形態と同様であり、説明を省略するが、第2実施形態と同様に、被接合部材をスライドさせる移動手段100は使用しない。そして、被接合部材15a,15bは、図18に示すように接合面16a,16bが長方形の直方体であり、第1実施形態のように接合面に長尺部および短尺部が形成されず、かつ第2実施形態のように接合面に面圧が作用し難い形状となっていない。なお、被接合部材はこれに限定されず、接触して相対的に摺動可能であれば、形状は限定されない。
【0065】
次に、第3実施形態に係る接合装置により被接合部材15a,15bを接合する方法を、図19に示すフローチャートに沿って説明する。
【0066】
初めに、互いに接合する被接合部材15a,15bを準備し、被接合部材15bを第2固定部材30に設置するとともに、被接合部材15aを第1固定部材20に設置する。
【0067】
そして、第1加圧装置41により第1電極51を下降させ、第1電極51により被接合部材15aの上面を下方に加圧し、第2電極52を第2加圧装置42により上昇させて、第2固定部材30の下面33に第2電極52を押し付ける。このとき、接合面16a,16bは、第1実施形態とは異なり、実際に接合される部位同士が接している。そして、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、接合面2a,2bを加熱する(予備加熱工程S31)。なお、電流による抵抗加熱ではなしに、加振による摩擦加熱を行ってもよく、または両方を行ってもよい。この予備加熱工程S31により、接合面16a,16bの全体が加熱されて軟化する。この後、第1実施形態の工程S13〜15と同様の第1接合工程S33、第2接合工程S34および冷却工程S35を行い、接合面16a,16bを接合する。
【0068】
第3実施形態における接合方法によれば、被接合部材15a,15bの互いに接合される接合面16a,16bの全体を予め加熱する予備加熱工程S31を有するため、接合面2a,2bの全体を予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面16a,16bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0069】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、第1電極51は、直接的に被接合部材1aに接触しなくてもよく、第1固定部材20を介して被接合部材1aを押圧する構造であってもよい。また、例えば、第2電極52は、第2固定部材30に接触しなくてもよく、被接合部材1bに直接的または間接的に接触してもよい。
【0070】
また、第1実施形態において、被接合部材1bがスライド移動するのではなく、被接合部材1aがスライド移動する構造であってもよい。
【0071】
また、第1実施形態における被接合部材は長尺部と短尺部を有する他の形態であってもよく、図20,21に示す他の例のように、被接合部材11a,11bが、長方形の内部に3つの長方形の開口を並んで有してもよい。このような形状であっても、図21に斜線示す接触領域Aのように、短尺部14は極力接触した状態としつつ、長尺部13は極力接触しない状態とすることができ、短尺部14を含む接触領域Aを、予め予備加熱することができる。
【0072】
また、第1実施形態の方法および装置は、かならずしも短尺部4を備えた被接合部材1a,1bを予備加振するために使用する必要はなく、相対的にスライド移動が可能であると共に加振可能な被接合部材であれば、あらゆる被接合部材に適用が可能である。したがって、被接合部材1a,1bに、短尺部4および長尺部3が形成されなくてもよい。
【0073】
また、第2実施形態において、第1実施形態と同様に、被接合部材を移動手段100によりスライド移動させることで、接合面の面圧の低い部位は接触するが面圧の高い部位は少なくとも一部が接触しない状態とすることが可能であれば、被接合部材を相対的に移動させて予備加熱を行ってもよい。
【0074】
また、可能であれば、対の被接合部材の間に、被接合部材と共晶反応する共晶反応材料からなる箔状の導電性を備えた共晶箔(中間材料)が挟んでもよい。被接合部材がアルミの場合、共晶箔には、アルミニウムと共晶反応する亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等を用いることができる。また、被接合部材の少なくとも一方の融点よりも低い温度で液相化する材料であれば、共晶反応する材料でなくても、共晶箔の替わりに適用することもできる。被接合部材の間に共晶箔を用いた場合には、共晶箔が共晶反応により被接合部材よりも低融点で液相化し、酸素を遮断して再酸化を抑制する役割を果たす。共晶箔を用いることで、真空雰囲気と長時間が必要であった真空ろう付けに対し、大気中における短時間、低入熱での接合が可能となり、量産化が容易となる。そして、接合された被接合部材の接合界面には、被接合部材の材料が拡散することで接合される拡散接合面、被接合部材の材料が塑性流動することで接合される塑性流動接合面、さらに共晶箔を挟んだ場合には中間材料を介在して接合される中間層介在接合面が、混在して形成される。
【符号の説明】
【0075】
1a,1b,5a,5b,11a,11b,15a,15b 被接合部材、
2a,2b,6a,6b,16a,16b 接合面、
3,13 長尺部、
4,14 短尺部、
8 張り出し部、
10 接合装置、
51 第1電極、
52 第2電極、
70 加振装置(加振手段)、
80 制御装置(制御手段)、
100 移動手段、
S11,S21,S31 予備加熱工程、
S12 接合面合致工程、
S13,S23,S33 第1接合工程(接合工程)、
S14,S24,S34 第2接合工程(接合工程)、
X 加振方向(摺動方向)、
Y スライド方向、
Z 押圧方向。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗加熱および加振摩擦を用いた接合方法および接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一対の被接合部材を密着させた状態で加振し、被接合部材同士を振動溶着する方法が知られている。特許文献1では、被接合部材のそれぞれを異なる方向に加振することで、一方向加振では接合が困難な材料からなる被接合部材を振動溶着する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5―116220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、被接合部材の接合面の形状によっては、振動溶着において、接合面の部位に応じて接合強度にばらつきが生じる場合がある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、被接合部材の接合面において、安定した接合強度を得ることが可能な接合方法および接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る接合方法は、導電性を備えた一対の被接合部材を接合するための接合方法であり、予備加熱工程と、接合工程とを有している。予備加熱工程では、互いに接合される前記被接合部材の接合面を予め加熱する。接合工程では、互いに接合される前記接合面同士を対向させて、一対の前記被接合部材を相対的に摺動させつつ、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流して抵抗加熱することで前記接合面同士を接合する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成した接合方法によれば、接合面を予め加熱する予備加熱工程を有するため、予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面の略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】第1実施形態に係る接合装置を示す概略正面図である。
【図2】図1の2−2線から観察した接合装置を示す概略側面図である。
【図3】第1実施形態に係る接合装置の電極近傍を示す拡大正面図である。
【図4】第1実施形態に係る接合装置の加振手段近傍を示す拡大正面図である。
【図5】図4の5−5線に沿う断面図である。
【図6】第1実施形態における被接合部材の接合面を示す平面図である。
【図7】接合面の磨耗の進展を説明するための概略図であり、(A)は加振方向に長い長尺部、(B)は加振方向に短い短尺部を示す。
【図8】被接合部材の接合面同士を相対的にずらした際を示す平面図である。
【図9】図8に示す接合面の接触領域を示す平面図であり、(A)は一方の被接合部材、(B)は他方の被接合部材を示す。
【図10】被接合部材を接合する際の接合面の接触領域を示す平面図である。
【図11】第1実施形態における接合方法を示すフローチャートである。
【図12】第1実施形態に係る接合装置に被接合部材を設置した際を示す拡大断面図である。
【図13】被接合部材の一方を移動手段により移動させた際を示す拡大断面図である。
【図14】第1実施形態に係る接合装置により予備加熱工程を行う際を示す拡大断面図である。
【図15】第1実施形態に係る接合装置により接合面合致工程および接合工程を行う際を示す拡大断面図である。
【図16】第2実施形態における被接合部材を示す断面図である。
【図17】第2実施形態における接合方法を示すフローチャートである。
【図18】第3実施形態に係る接合装置の電極近傍を示す拡大断面図である。
【図19】第3実施形態における接合方法を示すフローチャートである。
【図20】被接合部材の他の例の接合面同士を相対的にずらした際を示す平面図である。
【図21】図20に示す接合面の接触領域を示す平面図であり、(A)は一方の被接合部材、(B)は他方の被接合部材を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
<第1実施形態>
X 本発明の第1実施形態に係る接合装置10は、図1〜3に示すように、導電性を有する一対の被接合部材1a,1bを、電流による抵抗加熱および振動による摩擦加熱を利用して互いに接合させて導電接合部材を得る装置である。接合装置10は、被接合部材1a,1bを、互いに接合させる接合面2a,2bを対向させて保持し、押圧方向Z(接合面2a,2bの法線方向)に加圧しながら接合面2a,2bに沿う加振方向Xへ加振しつつ、抵抗加熱を行うことで被接合部材1a,1b同士を接合する。加振方向Xは、接合面2a,2bの長尺方向と一致するように選択される。
【0011】
接合装置10は、上方の被接合部材1aを固定するための第1固定部材20と、下方の被接合部材1bを摺動可能に保持するための保持手段60と、被接合部材1bを摺動方向(加振方向X)と直交する方向へスライドさせるための移動手段100とを有している。接合装置10は、更に、被接合部材1a,1bに電流を流すための第1電極51および第2電極52と、下方の被接合部材1bを加振するための加振装置70とを有している。本実施形態では、加振方向Xが、接合面2a,2bの長尺方向と略一致するため、スライド方向Yは、短尺方向と一致する。したがって、移動手段100が短尺方向に配置され、かつ被接合部材1bが短尺方向に移動するため、装置を省スペースに収めることができる。なお、スライド方向Yは、かならずしも加振方向Xと厳密に直交しなくてもよく、加振方向Xと交差すればよい。
【0012】
保持手段60は、下方の被接合部材1bを加振方向Xへ摺動可能に保持しつつ、被接合部材1bの押圧方向Zへの移動を規制するものである。保持手段60は、被接合部材1bが固定されて被接合部材1bとともに加振方向Xへ移動する第2固定部材30(固定部材)と、固定的に配置される枠体61と、第2固定部材30を被接合部材1bの摺動方向に沿って移動可能とする第1リニアガイド65および第2リニアガイド66とを有している。枠体61は、電磁遮断カバーとしての機能をも有している。
【0013】
移動手段100は、被接合部材1bを保持する第2固定部材30を、加振方向Xおよび押圧方向Zと直交するスライド方向Yへ移動可能とする第3リニアガイド101と、スライド方向Yへ第2固定部材30を移動させるために第2固定部材30に連結されるアクチュエータ102とを有している(図2参照)。移動手段100は、被接合部材1bを移動させることで、被接合部材1aおよび被接合部材1bの互いに接合させる接合面2a,2bを、実際に接合される部位と異なる位置で対向配置させるものである。
【0014】
アクチュエータ102は、制御装置80に接続されて、第2固定部材30のスライド方向Yへの移動量を制御可能となっている。アクチュエータ102の構造は、第2固定部材30の移動量を制御可能であれば特に限定されず、例えば油圧式、空気圧式、モータ等を適用できる。
【0015】
第1固定部材20は、被接合部材1aが嵌合可能な嵌合孔21を有しており、嵌合孔21に被接合部材1aが嵌合して固定されることで、被接合部材1aの水平方向(接合面2a,2bに沿う加振方向Xおよびスライド方向Y)への移動が規制される。嵌合孔21には、上方から進退動可能な第1電極51が貫通し、第1電極51が被接合部材1aの上面と当接可能となっている。第1固定部材20は、枠体61に絶縁部材62を介して固定されている。
【0016】
第2固定部材30は、被接合部材1bが嵌合可能な嵌合孔31を有しており、嵌合孔31に被接合部材1bが嵌合して保持され、第2固定部材30の加振方向Xへの振動によって被接合部材1bが加振され、かつ第2固定部材30のスライド方向Yへの移動によって被接合部材1bが移動する構造となっている。第2固定部材30の嵌合孔31には、導電性の高い銅製の電極保護プレート32が設けられており、電極保護プレート32を介して第2固定部材30と被接合部材1bが接している。第2固定部材30の下面33には、下方から進退動可能な第2電極52が当接可能となっている。
【0017】
接合装置10は、更に、第2固定部材30を加振する加振装置70(加振手段、摺動手段)と、接合装置10を制御する制御装置80(制御手段)とを有している。
【0018】
加振装置70は、図4に示すように、制御装置80により制御される駆動源としてのモータ71と、モータ71によって回転駆動される駆動軸72と、駆動軸72により加振される加振プレート73およびカウンタプレート74とを備えている。モータ71は、枠体61に固定され、駆動軸72は、枠体61に配置される軸受75により回転可能に保持されている。駆動軸72は、軸心と偏心している第1偏心部72aおよび第2偏心部72bを有しており、第1偏心部72aには、第1軸受76aを介して加振プレート73が連結され、第2偏心部72bには、第2軸受76bを介してカウンタプレート74が連結されている。加振プレート73は、第1リニアガイド65を介してカウンタプレート74に保持され、かつカウンタプレート74は、第2リニアガイド66を介して枠体61に保持されている。第1リニアガイド65および第2リニアガイド66の摺動方向は同一であり、加振プレート73およびカウンタプレート74が、同一方向へ個別に振動可能となっている。
【0019】
第1軸受76aは、図5に示すように、加振プレート73の加振方向と直交する方向へ長軸を有する長円孔77に嵌合している。このため、駆動軸72が回転して第1偏心部72aが振れ回ると、長軸方向の振動は加振プレート73に伝わらず、加振プレート73が一方向Xにのみ加振される。また、第2軸受76bは、カウンタプレート74の加振方向Xと直交する方向へ長軸を有する長円孔78に嵌合している(図4参照)。このため、第2偏心部72bが振れ回ると、長軸方向の振動はカウンタプレート74に伝わらず、カウンタプレート74が一方向Xにのみ加振される。
【0020】
第1偏心部72aおよび第2偏心部72bは、偏心方向の位相が180度ずれており、加振プレート73とカウンタプレート74が逆位相で振動することで、枠体61の振動を打ち消す構造となっている。なお、加振装置の機構は、例えば超音波振動によるものや、電磁式振動によるもの、油圧式によるもの等とすることもできる。
【0021】
加振プレート73には、第1リニアガイド65および第2リニアガイド66と直交するスライド方向Yへ延びる第3リニアガイド101を介して、第2固定部材30が固定される。第2固定部材30が上方から力を受けると、第3リニアガイド101、加振プレート73、第1リニアガイド65、カウンタプレート74および第2リニアガイド66を介して、固定的に配置される枠体61により力が受け止められ、第2固定部材30は下方へ移動しない。
【0022】
第1電極51および第2電極52は、図1に示すように、電流を供給する電流供給装置90と接続されており、第1電極51と第2電極52の間に挟まれる部材に、電流を流すことができる。
【0023】
第1電極51は、上方の第1加圧装置41に連結されて進退動可能となっており、被接合部材1aを押圧方向Zへ加圧することができる。第1加圧装置41は、例えば油圧シリンダ等が組み込まれており、制御装置80に接続されて制御されて、第1電極51の被接合部材1aに対する接触圧力を調整できる。
【0024】
第2電極52は、下方の第2加圧装置42に連結されて進退動可能となっており、被接合部材1bを、第2固定部材30を介して押圧方向Zへ加圧することができる。第2加圧装置42は、例えば油圧シリンダ等が組み込まれており、制御装置80に接続されて制御されて、第2電極52の被接合部材1bに対する接触圧力を調整できる。
【0025】
第1電極51は、枠体61を非接触で貫通し、第2電極52は、加振プレート73、カウンタプレート74および枠体61を非接触で貫通している。第1電極51および第2電極52は、内部に冷却水が循環する構造を有することが好ましい。
【0026】
電流供給装置90は、直流電流または交流電流を第1電極51および第2電極52へ供給できる装置であり、制御装置80に接続されて、電流値および電圧値等を任意に制御可能となっている。
【0027】
制御装置80は、前述の第1,第2加圧装置41,42、加振装置70、電流供給装置90およびアクチュエータ102を統括的に制御する電子計算機である。制御装置80は、演算部、記憶部、入力部および出力部を備えている。記憶部には、接合装置10全体を制御するためのプログラムが格納されており、このプログラムが演算部にて実行されることで、接合装置10に被接合部材1a,1bの接合が遂行される。この制御装置80が設けられることで、後述する工程の全て若しくは一部(図11参照)が、プログラムに基づいて自動的に実行される。
【0028】
被接合部材1a,1bは、導電性を備える材料であれば特に限定されないが、本実施形態では鋳造されたアルミニウム(Al)が用いられる。被接合部材1a,1bは、一例として、図6に示すように、互いに接合させる接合面2a,2bが、長方形の内部に長方形の開口が形成された形状となっている。したがって、接合面2a,2bの加振方向に沿う接触長さは、長辺が延びる長尺部3において長さL1を有し、長さL1は、開口を挟んで加振方向の両側に形成される短尺部4における接触長さL2よりも長くなっている。このように、被接合部材1a,1bは、接合面2a,2bの加振方向に沿う接触長さが不均一となっている。
【0029】
ここで、図7(A)、図7(B)に示す図のように、同一接触面積で加振方向Xの接触長さの異なる長尺部3’と短尺部4’とを比較した場合、磨耗の起点Pの数が等しいと仮定しても、起点Pから磨耗が加振方向Xに沿って進展するため、図7(A)に示す加振方向Xに長い長尺部3’の方が、短尺部4’よりも実質的に磨耗が生じやすい。
【0030】
したがって、図6に示すような、接触長さが不均一な接合面2a,2bを一致させて加振すると、接触長さが長い長尺部3と比較して、接触長さが短い短尺部4においては磨耗が促進され難いため、短尺部4の最終的な接合強度が、長尺部3よりも低下する。
【0031】
そこで、本実施形態では、まず、移動手段100により被接合部材1bを加振方向Xと直交するスライド方向Yへ移動させることで、図8,9に示すように、接合面2a,2bの短尺部4は極力接触した状態としつつ、長尺部3は極力接触しない状態とする。なお、図9中の斜線部が、接触領域Aを表している。そして、この状態で第1電極51と第2電極52によって被接合部材1a,1bの間に電流を流すことで、接合面2a,2bの接触している部位を加熱する。なお、電流による抵抗加熱ではなしに、加振による摩擦加熱を行ってもよく、または両方を行ってもよい。
【0032】
これにより、被接合部材1a,1bの図9にて斜線で示す、短尺部4を含む接触領域Aが加熱されて軟化される。
【0033】
この後、移動手段100により被接合部材1bを被接合部材1aと一致する位置へ戻し、加振しつつ電流を流すと、短尺部4が軟化されて磨耗が進展しやすくなっているため、図10に示す接触領域Aのように長尺部3と短尺部4の両方において磨耗が進展し、接合面2a,2bにてより均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0034】
次に、本実施形態に係る接合装置10により被接合部材を接合する方法を、図11に示すフローチャートに沿って説明する。
【0035】
初めに、互いに接合する被接合部材1a,1bを準備し、図12に示すように、被接合部材1bを第2固定部材30の嵌合孔31に嵌合させて設置するとともに、被接合部材1aを第1固定部材20の嵌合孔21に設置する。このとき、第1電極51は、被接合部材1aの上面に当接しておらず、第2電極52は、第2固定部材30に当接していない。
【0036】
次に、図13に示すように、移動手段100のアクチュエータ102を作動させて(図2参照)、被接合部材1bをスライド方向Yへ移動させ、図8に示したように、接合面2a,2bの短尺部4が極力接触した状態としつつ、長尺部3が極力接触しない状態とする。このような状態とするには、被接合部材1bの移動量を、長尺部3のスライド方向Yの幅W以上とすることが好ましいが、これに限定されず、被接合部材の形状に応じて適宜設定することが好ましい。
【0037】
そして、図14に示すように、第1加圧装置41により第1電極51を下降させ、第1電極51により被接合部材1aの上面を下方に加圧し、第2電極52を第2加圧装置42により上昇させて、第2固定部材30の下面33に第2電極52を押し付ける。そして、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、接合面2a,2bの接触している部位を加熱する(予備加熱工程S11)。なお、電流による抵抗加熱ではなしに、加振による摩擦加熱を行ってもよく、または両方を行ってもよい。この予備加熱工程S11により、短尺部4を含む接触領域Aが加熱されて軟化する。
【0038】
次に、図15に示すように、接合面2a,2bを抵抗加熱および加振加熱(摺動による摩擦加熱)により加熱しつつ、接合面2a,2b同士の互いに接合される部位が一致するまで被接合部材1bを移動させる接合面合致工程S12を行う。接合面合致工程S12では、第1電極51と第2電極52の間に電流を流しつつ、制御装置80により加振装置70を駆動させ、第2固定部材30に固定されている被接合部材1bを加振方向Xへ振動させる。加振装置70は、制御装置80によってモータ71が駆動されて駆動軸72が回転し、加振プレート73とカウンタプレート74が逆位相で振動する。加振プレート73が振動すると、加振プレート73に固定されている第2固定部材30も振動し、第2固定部材30に固定されている被接合部材1bが、加振方向Xへ振動する。このとき、被接合部材1bと接する被接合部材1aは第1固定部材20によって水平方向の移動が固定的に規制されているため、被接合部材1aと被接合部材1bの間で摩擦が発生する。なお、本実施形態では、一方向加振を行っているが、被接合部材1bが接合面2a,2bに沿って公転運動するように加振することもできる。ここで公転運動とは、被接合部材1bが自転せずに円軌道を描くように振れ回ることを意味する。被接合部材1bが公転運動するように加振すれば、接合面2a,2b同士の相対的な運動が停止しないことから、動摩擦係数のみが作用して摩擦係数が安定するため、加振時の振動が滑らかとなり、接合面2a,2bをより均一に磨耗させることができる。
【0039】
そして、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、かつ被接合部材1bを加振方向Xへ振動させた状態を維持しながら、アクチュエータ102を作動させて、第2固定部材30に固定された被接合部材1bを、被接合部材1aと一致するまで徐々に位置させる。被接合部材1bが徐々に移動することで、接合面2a,2bの温度むらの発生を抑止し、磨耗をより均一に進展しやすくすることができる。そして、第1電極51により加圧力を作用させながら加振することで、接合面2a,2bが摺動するとともに摩擦熱により加熱されて、接合面2a,2bが塑性流動により磨耗し、接合面2a,2bの間の面圧がある程度均一化される。また、被接合部材1bを加振しているため、スライド方向Yへの摩擦抵抗が低減させて、被接合部材1bを被接合部材1aと接触させた状態で相対的に移動させることが容易となる。また、本実施形態では、一方の被接合部材(本実施形態では被接合部材1b)のみを加振するため、被接合部材の他方(本実施形態では被接合部材1a)が大物の場合にも、適用することが可能である。
【0040】
更に、接合面合致工程S12は、摺動によりアルミニウムの表面の酸化皮膜を除去して皮膜厚さの違いによる接触抵抗のばらつきを低減させ、後の工程で抵抗加熱した際の発熱量のばらつきを抑える効果も発揮する。したがって、接合する前に、アルミニウムである被接合部材1a,1bの表面を脱脂し、更にワイヤブラシによりブラッシングして表面の酸化膜を除去する等の処置が不要となり、作業性が向上する。なお、当然、予めブラッシングを行っておいてもよい。
【0041】
なお、接合面合致工程S12において、抵抗加熱および加振加熱の両方を併用して加熱しているが、いずれか一方のみで加熱することもでき、または、加熱せずに被接合部材1bを被接合部材1aと一致するまで位置させることも可能である。
【0042】
接合面合致工程S12の後には、被接合部材1a,1b同士を抵抗加熱により加熱する第1接合工程S13を行う。被接合部材1a,1bの接合面2a,2bの接合する部位を一致させた状態で、加振装置70により加振しつつ、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、加振加熱および抵抗加熱の両方を併用して被接合部材1a,1bを加熱する。なお、第2固定部材30は、枠体61(保持手段60)により下方への移動か規制されるように保持されているため、第2電極52の第2固定部材30への押し付け力は、電流を流すために必要な最低限の力とすることができ、第2電極52の磨耗が最低限に抑制される。
【0043】
第1接合工程S13では、接合面2a,2bにおける電流が集中する高面圧部において抵抗加熱が大きく作用して加熱され、接合面2a,2bの酸化膜が強制的に剥離される。更に、抵抗加熱により加熱された高面圧部に加圧力と加振が作用して塑性流動および材料拡散が生じ、かつ高面圧部が磨耗して時々刻々と電流集中箇所が変化する。これにより、電流の流れが分散し、接合面2a,2bを均一に加熱し、後の工程で接合面2a,2bの全体を均一に接合することができる。なお、第1接合工程S13において、加振装置70のモータ71の回転を完全に停止して、加振せずに抵抗加熱のみで加熱して最終的に接合させることも可能である。
【0044】
第1接合工程S13では、加振による摩擦加熱および抵抗加熱の両方を併用するため、接合面2a,2bに高い加圧力を付与する必要がなく、接合面2a,2bの面積の大きな被接合部材1a,1bであっても加熱して、後の工程で接合することができる。
【0045】
また、接合面2a,2bの表層のみを溶融して最終的に接合するため、加熱時間を短縮でき、更に、材料内に気体を含有している鋳造品であっても、加熱により材料内の気体が膨張、噴出し難く、良好な接合を実現できる。
【0046】
第1接合工程S13の後には、第2接合工程S14が行われる。第2接合工程S14では、図9に示すように、電流供給装置90による電流の供給を停止し、第2電極52を第2固定部材30から離間させる。さらに、加振装置70を稼働させて、第2固定部材30に設置された被接合部材1bを加振する。このように、抵抗加熱による発熱量を減少させ、かつ加振による発熱量を増加させることで、接触抵抗により材料を高温にして軟化を促進する過程から、軟化された材料を加振によって掻き混ぜるようにして一体化を促進する過程へ移行する。
【0047】
第2接合工程S14においては、通電不要のために第2固定部材30と接する必要のなくなった第2電極52を第2固定部材30から離間させることで、第2電極52および第2固定部材30の磨耗、溶着および凝着が抑制される。
【0048】
第2接合工程S14を終了する際には、加振装置70を停止させるが、被接合部材1a,1bを望ましい相対的位置で最終的に接合するために、最終的に加振装置70によって被接合部材1a,1bを規定の位置に位置決めする。この際には、第1加圧装置41の加圧力が大きいと位置決め精度が低下するため、加振装置70を停止させる前に、第1加圧装置41による加圧力を低下させてもよい。第1加圧装置41による加圧力を低下させると、被接合部材1a,1bが望ましい相対的位置となった状態で加振装置70を停止させることができる。なお、被接合部材1a,1bを位置決めするための他の構成を別途設けてもよい。
【0049】
第2接合工程S14の後には、被接合部材1a,1bを冷却する冷却工程S15へ移行する。冷却工程S15では、制御装置80が、加振装置70および電流供給装置90を停止させ、第1加圧装置41による加圧力を上昇させる。予め設定した時間を経過すると、冷却が終了したと判断し、第1加圧装置41による加圧を終了させる。または被接合部材1a,1bの温度を計測する温度計(不図示)から制御装置80へ入力される信号が所定値以下となった後、冷却が終了したと判断し、第1加圧装置41による加圧を終了させることもできる。この後、第1電極51を上昇させて被接合部材1aから離間させ、接合された被接合部材1a,1bが装置から取り外される。
【0050】
接合された被接合部材1a,1bの接合界面には、被接合部材1a,1bの材料が拡散することで接合される拡散接合面、被接合部材1a,1bの材料が塑性流動することで接合される塑性流動接合面が、混在して形成される。
【0051】
なお、第1接合工程S13と第2接合工程S14の間で、電流の供給を減少させる一方で加圧力を増加させるのではなしに、第1接合工程S13および第2接合工程S14を1つの接合工程として実施することもできる。また、冷却工程S15も、かならずしも設けずに省略することができる。
【0052】
第1実施形態における接合方法は、互いに接合される接合面2a,2bを予め加熱する予備加熱工程S11と、接合面2a,2bを対向させて相対的に摺動させつつ電流を流して抵抗加熱することで接合面同士を接合する第1,第2接合工程S13,S14とを有する。したがって、接合面2a,2bを予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面2a,2bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0053】
また、予備加熱工程S11では、接合面2a,2bの摺動方向に沿う接触長さが相対的に短い短尺部4を予め加熱するため、磨耗が進展し難い短尺部4を予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面2a,2bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0054】
また、予備加熱工程S11では、通電による抵抗加熱または摺動による摩擦加熱により加熱するため、接合面2a,2bの接触している部位を容易に加熱することができる。
【0055】
また、予備加熱工程S11では、接合面2a,2bの互いに接合される部位と異なる部位同士を接触させて当該接触する部位を加熱する。すなわち、被接合部材1a,1bを相対的に移動させ、短尺部4における接合面の接触を保持しつつ、長尺部3の少なくとも一部を非接触状態として短尺部4を予め加熱するため、極力短尺部4のみを加熱することができ、より均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0056】
また、予備加熱工程S11の後であって第1接合工程S13の前に、接合面2a,2bを抵抗加熱および摺動による摩擦加熱の少なくとも一方により加熱しつつ、被接合部材1a,1b同士を接合する部位が一致するまで相対的に移動させる接合面合致工程S12を有する。このため、接合面2a,2bの温度むらの発生を抑止し、より均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0057】
また、加振方向X(摺動方向)は、被接合部材1a,1bの接合面2a,2bの長尺な方向に沿う方向であるため、被接合部材1bが移動するスライド方向Yが短尺方向となり、装置の省スペース化を図ることができる。
【0058】
また、第1実施形態に係る接合装置によれば、加振方向Xと交差する方向へ被接合部材1a,1b同士を相対的に移動させる移動手段100を有するため、被接合部材1a,1b同士を接合する前に、接合面2a,2bをずらした状態に移動させて、接合面2a,2bの予備加熱を行うことができる。
【0059】
また、電極51,52および加振装置70の少なくとも一方を作動させて接合面2a,2bを加熱しつつ、接合面2a,2b同士の互いに接合される部位をずらした状態から一致するまで接合面2a,2bに沿う方向へ被接合部材1a,1b同士を相対的に移動させる制御装置90を有するため、被接合部材1a,1bの接合を自動で行うことができる。
【0060】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る接合装置は、第1実施形態と略同様であり、同一の符号を付して説明を省略するが、被接合部材5a,5bの形状が第1実施形態の被接合部材1a,1bと異なる。
【0061】
第2実施形態における被接合部材5a,5bは、図16に示すように、接合面6a,6bを有しており、一方の被接合部材5aの荷重が付与される上面7と接合面6aの形状が、荷重方向Zに一致しない構成となっている。したがって、上面7に第1電極51からの荷重が作用すると、接合面6aの上面7と重ならない(荷重方向Zに上面7が存在しない)張り出し部8において、上面7と重なる(荷重方向Zに上面7が存在する)重部9よりも、作用する面圧が低下することになる。したがって、この状態で加振による摩擦加熱を行っても、張り出し部8においては重部9よりも磨耗が生じ難く、接合強度に偏りが生じる。
【0062】
したがって、本実施形態では、図17に示すフローチャートの通り、まず、接合装置10の第1電極51および第2電極52によって被接合部材5a,5bに電流を流し、接合面6a,6bを抵抗加熱により予備加熱する(予備加熱工程S21)。これにより、張り出し部8が軟化されて磨耗しやすくなり、この後に第1実施形態の工程S13〜15と同様の第1接合工程S23、第2接合工程S24および冷却工程S25を行うことで、接合面6a,6bにおいて均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0063】
第2実施形態における接合方法によれば、互いに接合される接合面6a,6bの面圧の低い張り出し部8を予め加熱する予備加熱工程S21を有するため、磨耗が進展し難い張り出し部8を予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面6a,6bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0064】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る接合装置は、第1実施形態と同様であり、説明を省略するが、第2実施形態と同様に、被接合部材をスライドさせる移動手段100は使用しない。そして、被接合部材15a,15bは、図18に示すように接合面16a,16bが長方形の直方体であり、第1実施形態のように接合面に長尺部および短尺部が形成されず、かつ第2実施形態のように接合面に面圧が作用し難い形状となっていない。なお、被接合部材はこれに限定されず、接触して相対的に摺動可能であれば、形状は限定されない。
【0065】
次に、第3実施形態に係る接合装置により被接合部材15a,15bを接合する方法を、図19に示すフローチャートに沿って説明する。
【0066】
初めに、互いに接合する被接合部材15a,15bを準備し、被接合部材15bを第2固定部材30に設置するとともに、被接合部材15aを第1固定部材20に設置する。
【0067】
そして、第1加圧装置41により第1電極51を下降させ、第1電極51により被接合部材15aの上面を下方に加圧し、第2電極52を第2加圧装置42により上昇させて、第2固定部材30の下面33に第2電極52を押し付ける。このとき、接合面16a,16bは、第1実施形態とは異なり、実際に接合される部位同士が接している。そして、第1電極51と第2電極52の間に電流を流し、接合面2a,2bを加熱する(予備加熱工程S31)。なお、電流による抵抗加熱ではなしに、加振による摩擦加熱を行ってもよく、または両方を行ってもよい。この予備加熱工程S31により、接合面16a,16bの全体が加熱されて軟化する。この後、第1実施形態の工程S13〜15と同様の第1接合工程S33、第2接合工程S34および冷却工程S35を行い、接合面16a,16bを接合する。
【0068】
第3実施形態における接合方法によれば、被接合部材15a,15bの互いに接合される接合面16a,16bの全体を予め加熱する予備加熱工程S31を有するため、接合面2a,2bの全体を予め軟化させて磨耗を進展しやすくすることができ、接合面16a,16bの略全面において均一で安定した接合強度を得ることができる。
【0069】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、第1電極51は、直接的に被接合部材1aに接触しなくてもよく、第1固定部材20を介して被接合部材1aを押圧する構造であってもよい。また、例えば、第2電極52は、第2固定部材30に接触しなくてもよく、被接合部材1bに直接的または間接的に接触してもよい。
【0070】
また、第1実施形態において、被接合部材1bがスライド移動するのではなく、被接合部材1aがスライド移動する構造であってもよい。
【0071】
また、第1実施形態における被接合部材は長尺部と短尺部を有する他の形態であってもよく、図20,21に示す他の例のように、被接合部材11a,11bが、長方形の内部に3つの長方形の開口を並んで有してもよい。このような形状であっても、図21に斜線示す接触領域Aのように、短尺部14は極力接触した状態としつつ、長尺部13は極力接触しない状態とすることができ、短尺部14を含む接触領域Aを、予め予備加熱することができる。
【0072】
また、第1実施形態の方法および装置は、かならずしも短尺部4を備えた被接合部材1a,1bを予備加振するために使用する必要はなく、相対的にスライド移動が可能であると共に加振可能な被接合部材であれば、あらゆる被接合部材に適用が可能である。したがって、被接合部材1a,1bに、短尺部4および長尺部3が形成されなくてもよい。
【0073】
また、第2実施形態において、第1実施形態と同様に、被接合部材を移動手段100によりスライド移動させることで、接合面の面圧の低い部位は接触するが面圧の高い部位は少なくとも一部が接触しない状態とすることが可能であれば、被接合部材を相対的に移動させて予備加熱を行ってもよい。
【0074】
また、可能であれば、対の被接合部材の間に、被接合部材と共晶反応する共晶反応材料からなる箔状の導電性を備えた共晶箔(中間材料)が挟んでもよい。被接合部材がアルミの場合、共晶箔には、アルミニウムと共晶反応する亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)等を用いることができる。また、被接合部材の少なくとも一方の融点よりも低い温度で液相化する材料であれば、共晶反応する材料でなくても、共晶箔の替わりに適用することもできる。被接合部材の間に共晶箔を用いた場合には、共晶箔が共晶反応により被接合部材よりも低融点で液相化し、酸素を遮断して再酸化を抑制する役割を果たす。共晶箔を用いることで、真空雰囲気と長時間が必要であった真空ろう付けに対し、大気中における短時間、低入熱での接合が可能となり、量産化が容易となる。そして、接合された被接合部材の接合界面には、被接合部材の材料が拡散することで接合される拡散接合面、被接合部材の材料が塑性流動することで接合される塑性流動接合面、さらに共晶箔を挟んだ場合には中間材料を介在して接合される中間層介在接合面が、混在して形成される。
【符号の説明】
【0075】
1a,1b,5a,5b,11a,11b,15a,15b 被接合部材、
2a,2b,6a,6b,16a,16b 接合面、
3,13 長尺部、
4,14 短尺部、
8 張り出し部、
10 接合装置、
51 第1電極、
52 第2電極、
70 加振装置(加振手段)、
80 制御装置(制御手段)、
100 移動手段、
S11,S21,S31 予備加熱工程、
S12 接合面合致工程、
S13,S23,S33 第1接合工程(接合工程)、
S14,S24,S34 第2接合工程(接合工程)、
X 加振方向(摺動方向)、
Y スライド方向、
Z 押圧方向。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を備えた一対の被接合部材を接合するための接合方法であって、
互いに接合される前記被接合部材の接合面を予め加熱する予備加熱工程と、
互いに接合される前記接合面同士を対向させて、一対の前記被接合部材を相対的に摺動させつつ、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流して抵抗加熱することで前記接合面同士を接合する接合工程と、を有する接合方法。
【請求項2】
前記予備加熱工程において、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流すことによる抵抗加熱および一対の前記被接合部材を相対的に摺動させることによる摩擦加熱の少なくとも一方により前記接合面を加熱する、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記予備加熱工程において、前記接合面の互いに接合される部位と異なる部位同士を接触させて当該接触する部位を加熱する、請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記予備加熱工程の後であって前記接合工程の前に、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流すことによる抵抗加熱および一対の前記被接合部材を相対的に摺動させることによる摩擦加熱の少なくとも一方により前記接合面を加熱しつつ、当該接合面の互いに接合される部位が一致するまで一対の前記被接合部材を相対的に移動させる接合面合致工程を有する、請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
前記接合工程における摺動方向は、前記接合面の長尺な方向に沿う方向である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項6】
前記予備加熱工程において、前記接合面の前記接合工程における摺動方向に沿う接触長さが他の部位よりも相対的に短い短尺部、若しくは対向する前記接合面の間に作用する面圧が他の部位よりも相対的に低い部位を加熱する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項7】
導電性を備えた一対の被接合部材を接合するための接合装置であって、
前記被接合部材の一方から他方へ電流を流すための電極と、
一対の前記被接合部材を相対的に摺動させるための摺動手段と、
一対の前記被接合部材を前記接合面に沿う方向へ相対的に移動させる移動手段と、を有する接合装置。
【請求項8】
前記電極および摺動手段の少なくとも一方を作動させて前記接合面を抵抗加熱または摩擦加熱により加熱しつつ、前記移動手段を作動させて前記接合面同士の互いに接合される部位をずらした状態から前記被接合部材同士を相対的に移動させて一致させる制御手段を更に有する、請求項7に記載の接合装置。
【請求項1】
導電性を備えた一対の被接合部材を接合するための接合方法であって、
互いに接合される前記被接合部材の接合面を予め加熱する予備加熱工程と、
互いに接合される前記接合面同士を対向させて、一対の前記被接合部材を相対的に摺動させつつ、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流して抵抗加熱することで前記接合面同士を接合する接合工程と、を有する接合方法。
【請求項2】
前記予備加熱工程において、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流すことによる抵抗加熱および一対の前記被接合部材を相対的に摺動させることによる摩擦加熱の少なくとも一方により前記接合面を加熱する、請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記予備加熱工程において、前記接合面の互いに接合される部位と異なる部位同士を接触させて当該接触する部位を加熱する、請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記予備加熱工程の後であって前記接合工程の前に、前記被接合部材の一方から他方へ電流を流すことによる抵抗加熱および一対の前記被接合部材を相対的に摺動させることによる摩擦加熱の少なくとも一方により前記接合面を加熱しつつ、当該接合面の互いに接合される部位が一致するまで一対の前記被接合部材を相対的に移動させる接合面合致工程を有する、請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
前記接合工程における摺動方向は、前記接合面の長尺な方向に沿う方向である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項6】
前記予備加熱工程において、前記接合面の前記接合工程における摺動方向に沿う接触長さが他の部位よりも相対的に短い短尺部、若しくは対向する前記接合面の間に作用する面圧が他の部位よりも相対的に低い部位を加熱する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項7】
導電性を備えた一対の被接合部材を接合するための接合装置であって、
前記被接合部材の一方から他方へ電流を流すための電極と、
一対の前記被接合部材を相対的に摺動させるための摺動手段と、
一対の前記被接合部材を前記接合面に沿う方向へ相対的に移動させる移動手段と、を有する接合装置。
【請求項8】
前記電極および摺動手段の少なくとも一方を作動させて前記接合面を抵抗加熱または摩擦加熱により加熱しつつ、前記移動手段を作動させて前記接合面同士の互いに接合される部位をずらした状態から前記被接合部材同士を相対的に移動させて一致させる制御手段を更に有する、請求項7に記載の接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−86268(P2012−86268A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206638(P2011−206638)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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