接合方法及び接合部品
【課題】例えば、アルミニウム系金属から成る材料同士をフラックスを用いることなく、大気中で低加圧で接合することができ、母材や周辺への影響を最小限に抑えることができる接合方法と、このような接合方法を適用して成る各種の接合部品を提供する。
【解決手段】重ね合わせた被接合材1,1の間にインサート材2を介在させた状態で、当該被接合材1,1を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材1,1とインサート材2の間で共晶反応を生じさせ、共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜1aと共に接合面から排出して被接合材1,1を接合するに際して、予め接合部位の少なくとも1箇所に設けた応力集中手段によって、酸化皮膜1aを破壊し、共晶反応の起点となるように、被接合材1とインサート材2を接触させる。
【解決手段】重ね合わせた被接合材1,1の間にインサート材2を介在させた状態で、当該被接合材1,1を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材1,1とインサート材2の間で共晶反応を生じさせ、共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜1aと共に接合面から排出して被接合材1,1を接合するに際して、予め接合部位の少なくとも1箇所に設けた応力集中手段によって、酸化皮膜1aを破壊し、共晶反応の起点となるように、被接合材1とインサート材2を接触させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム系金属材料のように、表面に安定な酸化膜が形成されている材料についても、大気中、低温度で接合することができ、母材や周辺への熱影響を最小限に抑えることができる低コストの接合方法と、このような方法を用いた接合部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、アルミニウム系金属から成る材料の表面には、緻密で強固な酸化皮膜が生成されており、この酸化皮膜の存在が障害となるため、これらアルミニウム系金属材料については、冶金的な接合が難しい。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム同士、あるいはアルミニウムとアルミナを接合するに際して、被接合面間に母材と共晶反応を生ずる元素を含むインサート材を介在させ、酸素雰囲気中で接触させた後、上記被接合面を共晶反応が生じる温度範囲に加熱し、接触面に共晶反応による融液相と、母材成分と接触面の空隙に存在する酸素との反応による酸化物相を生成させることが記載されている(特許請求の範囲1参照)。これによって、母材表面の酸化皮膜が破壊され、融液中の成分と酸素の反応による酸化物と共に、融液相中に混入されるとされている(第3頁左欄中央参照)。
【0004】
なお、アルミニウム系金属の接合技術としては、Al−Si系合金から成るろう材を用いたろう付けも知られているが、この場合には、例えばフッ化物系のフラックスを用いることによって、酸化皮膜を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−66072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法においては、インサート材と母材が接触して共晶反応をおこすためには、インサート材と母材の接触部において、接合面の酸化皮膜を機械的に破壊する必要があり、そのための荷重(みかけの圧力)が非常に大きくなる。 したがって、この大きな荷重によって、被接合材が変形し、被接合材へのダメージが大きくなるという問題がある。
【0007】
特に、被接合材が半導体等の場合には、高い荷重を付与することによって、半導体の機能が損なわれることから、このような材料には、上記の接合方法は適用できないという問題があった。
また、接合が酸素雰囲気内で行われるため、特殊なチャンバーが必要となって、設備コストが増加する点にも問題があった。
【0008】
本発明は、アルミニウム系金属材料のように、接合面に常温で安定な酸化膜を有する部材を含む接合における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、このような接合を大気中で、しかもフラックスを用いることなく、低加圧で接合することができる接合方法を提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、このような接合方法を適用した各種の接合部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、被接合材の間にインサート材を介在させ、母材とインサート材の間に生じた共晶反応溶融物を酸化皮膜と共に排出して被接合材を接合するに際して、接合部位に応力集中手段を設けておくことによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の接合方法においては、重ね合わせた被接合材の間にインサート材を介在させた状態で、当該被接合材を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材とインサート材の間で共晶反応を生じさせ、共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するに際して、上記酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を接合部位の少なくとも1箇所に設けるようにしている。
【0011】
また、本発明の接合部品は、上記方法によって接合されたものであって、被接合材の新生面が接合されていることを特徴としている。
さらに、本発明の接合構造は、被接合材同士の直接接合部と、上記被接合材の酸化皮膜と共晶反応物を含む混合物を介した間接接合部とが接合界面に断続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合部位の少なくとも1箇所に、例えば突起のような応力集中手段を設けるようにしたため、母材表面の酸化皮膜を破壊して共晶反応の起点を形成するに必要な荷重(加圧力)を低減することができ、被接合材の変形によるダメージを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)〜(e)は本発明の接合方法による接合過程を概略的に示す工程図である。
【図2】(a)〜(c)は本発明の接合方法における応力集中手段の形状及び形成部位の例を示す説明図である。
【図3】(a)〜(c)は本発明の接合方法における応力集中手段の形状例を示す説明図である。
【図4】(a)及び(b)は本発明の接合方法における接触面積に及ぼす応力集中手段の頂点位置の変動の影響を示す説明図である。
【図5】本発明の接合方法により接合された部品の一例として半導体チップの実装構造を示す概略図である。
【図6】本発明の接合方法により接合された部品の他の例として燃料電池用のセパレータの構造を示す概略図である。
【図7】本発明の接合方法により接合された部品の別の例として分割鋳造タイプのエンジンヘッドブロックの構造を示す概略図である。
【図8】本発明の実施例に用いた丸棒の外観形状を示す斜視図である。
【図9】(a)〜(c)は本発明の実施例において接合面に形成した応力集中手段の形状を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施例における丸棒の突き合わせ接合の要領を示す概略図である。
【図11】本発明の接合方法による接合強度に及ぼすピッチ及びアスペクト比の影響を示すグラフである。
【図12】本発明の接合方法によって得られた接合部断面の一例として、実施例5による接合部を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の接合方法について、これによって得られる接合部品の構造などと共に、さらに詳細、かつ具体的に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0015】
本発明の接合方法は、被接合材とその間に介在させたインサート材との間で共晶反応を生じさせ、生成した共晶反応溶融物を被接合材表面の酸化皮膜と共に接合面から排出するようにしており、接合面に強固な酸化皮膜が生じていたとしても、共晶反応が生じることによって、新生面による強固な接合が可能になる。
このとき、本発明の接合方法においては、接合部位の少なくとも1箇所、例えば接合面の一方又は双方、あるいはインサート材の被接合材との接触面に、例えば突起(凹凸構造)のような応力集中手段を設けるようにしている。したがって、母材表面の酸化皮膜を低荷重で破壊して、共晶反応の起点とすることができ、半導体部品や、板厚が1mm以下のような薄い部材であっても、低加圧で接合することができ、被接合材や周辺への影響を最小限に抑えることができる低コストの接合方法となる。
【0016】
本発明の接合方法においては、接合部位(例えば、被接合材の接合面)に、応力集中手段(例えば、凹凸構造)を形成しておく。
次いで、このような応力集中手段を備えた接合面の間に、まず、被接合材と共晶反応を生じる元素を含むインサート材を介在させる。
【0017】
そして、接合に際しては、両被接合材に相対的な荷重を付与し、接合面に形成された応力集中手段によって局所的な応力を増加させ、被接合材の酸化皮膜を局所的に破壊する。 双方の酸化皮膜が局部的、機械的に破壊され、両被接合材の新生面が露出し、共晶反応が発生する温度に到達すると、共晶反応が生じ、両材料の接合界面に母材中の元素とインサート材に含まれる元素との共晶反応による溶融物を生成させる。
【0018】
継続する被接合材への加圧によって、生じた共晶反応溶融物と共に母材表面の酸化皮膜を接合界面から排出して、被接合材の接合面を直接接合するようにしている。
このとき、接合面には応力集中手段(凹凸構造)が形成されており、その凸部先端が選択的に相手面に接触し、局所的に応力を増大させるため、低い荷重で酸化皮膜を局所破壊して、共晶反応を引き起こすことができ、低い荷重のもとに、新生面による強固な接合が可能となる。
【0019】
図1(a)〜(e)は、本発明の接合方法によるアルミニウム系金属材料同士の接合プロセスを示す概略図である。
【0020】
まず、図1(a)に示すように、被接合材としてアルミニウム系金属材料であるアルミニウム合金材1、1の間に、Alと共晶反応を生じる材料として、Zn(亜鉛)を含有する材料、例えば亜鉛箔から成るインサート材2を挟んだ状態に重ねる。
このとき、アルミニウム合金材1、1の表面、ここでは図中上側の合金材の接合面には、凹凸構造の応力集中手段1cが形成され、さらにその表面には、Al2O3を主成分とする酸化皮膜1aが生成している。
【0021】
次に、図1(b)に示すように両合金材1、1を加圧して、これらをインサート材2を介して密着させ、さらに荷重を付加しながら加熱を開始する。すると、低荷重にもかかわらず、応力集中手段1cの凸部先端が接触した部位の応力が局所的に急激に上昇し、合金材1の酸化被膜1aが機械的に破壊され、亀裂Cが入る。
亀裂Cを介して、合金材1の新生面とインサート材2が直接的に接触した状態で、接合面の温度が共晶反応が発生する温度に到達すると、合金材1中のAlとの間に共晶反応を起こし、共晶溶融相が発生する。そして、図1(d)に示すように、共晶溶融範囲が拡がり、破壊された酸化皮膜1aの欠片が共晶溶融相中に分散する。
【0022】
続く加圧によって、図1(e)に示すように、共晶反応溶融物が接合界面から排出され、この液相中に分散されていた酸化皮膜1aの欠片も共晶溶融物と共に排出物Dとなって、同時に接合界面から押し出され、両合金材1、1の新生面が互いに接合される。
なお、接合条件によっては、インサート材に由来する混合物、この場合にはZnや、Zn−Al合金などを含む微量の混合物が接合界面に、局所的に残存することもあり得る。
【0023】
上記応力集中手段1cの形成位置については、接合部位の1箇所以上に形成すればよく、上記のように被接合材である合金材1、1の接合面の一方に形成するほか、図2(a)に示すように、接合面の両方に設けることができる。両面に形成することによって、酸化皮膜の破壊起点をより多くすることができる。
また、図2(b)に示すように、インサート材2に形成することもできる。こうすることによって、被接合材の生産工程に応力集中手段の作製工程を加える必要がなくなるので、低コストの接合が可能になる。
【0024】
また、応力集中手段1cの形状としては、例えば、図3(a)〜(c)に示すようなものを採用することができる。
すなわち、図3(a)に示したように、台形状断面の凹凸構造として、凸部先端を略平面とすれば、応力集中度は若干低下するとしても、応力集中手段の形成が容易となり、加工費を削減することができる。
【0025】
また、図3(b)に示すように、三角柱を並列させたような凹凸構造を採用することもできる。これによって、凹凸構造の凸部先端が線状のものとなり、応力集中度を高めて、酸化皮膜の破断性能を向上させることができる。
このとき、このような応力集中手段1cを接合面の相対向する両面に形成し、それぞれの凸部先端線の方向が互いに交差するように配置することによって、接合面同士が点接触することになり、局所応力をより高めることができ、接合時の荷重を低減したとしても高い接合強度が得られる。なお、応力集中手段1cの線状先端部の交差角度としては、直角とすることが望ましいが、10°以上とすることによって一応の効果が得られる。
【0026】
さらに、図3(c)に示すように、四角錐を縦横方向に並列させた凹凸構造を採用することもでき、凹凸構造の凸部先端が点状となることから、さらに応力集中度を高めて、酸化皮膜の破断性能を向上させることができる。
【0027】
応力集中手段1cの形状としては、応力を集中させて、酸化皮膜の破壊を促進させる機能さえあれば、量的(凸部の数)あるいは形状的な制限はなく、上記の他には、波形やかまぼこ形、半球状など凸部先端を曲面とすることも可能である。なお、当該曲面の曲率半径は小さいほど、応力集中が顕著なものとなって、酸化皮膜が破壊し易くなることは言うまでもない。
【0028】
応力集中手段1cとしては、その凹凸構造の形状がアスペクト比0.001以上、ピッチ1μm以上であることが好ましく、さらにはアスペクト比0.1以上、ピッチ10μm以上であることが望ましい。すなわち、アスペクト比が0.001未満、ピッチが1μm未満の場合には、十分に応力を集中させることができず、酸化皮膜の破壊が困難となることがある。
【0029】
また、応力集中手段1cとしての凹凸構造を形成する凸部の高さについては、接合面に形成された全ての凸部の頂点の高さバラツキ範囲(頂点位置の高低差)以上とすることが望ましい。これによって、図4(a:応力集中手段のない場合)及び(b:応力集中手段を設けた場合)に示すように、凹凸構造の変形によって、接合面全体の接触面積を増すことが可能になる。
【0030】
応力集中手段1cには、凹凸を構成する個々の凸部に応力が集中しており、局部的に大きな塑性変形をおこすために、接合面の接触面積が増大することになる。そこで、図2(c)に示すように、複数種の形状の凸部が混在した凹凸形状とすることにより、応力集中効果と実質接触面積の向上効果とを調整し、最適化することが可能となる。
【0031】
上記した応力集中手段1cは、切削加工、研削加工、塑性加工(ローラ加工)、レーザ加工、放電加工、エッチング加工、リソグラフィーなどによって形成することができ、その形成方法としては、特に限定されるものではない。しかし、塑性加工によれば、非常に低コストで形成が可能である。
【0032】
以上、亜鉛箔から成るインサート材を用いて、アルミニウム系金属材料を接合する例について説明したが、本発明の接合方法は、このような組み合わせのみに限定されることはない。
【0033】
すなわち、アルミニウム系金属材料の接合に用いるインサート材としては、Alとの間に共晶反応を生じる金属材料であればよく、亜鉛箔の他には、マグネシウム(Mg)箔、錫(Sn)箔や、Zn、Mg、Sn、あるいはこれらを主成分とする合金、さらにはこれら金属とAlとの合金を用いることも可能である。ここで、「主成分」とは上記金属の含有量が80%以上のものを言うものとする。具体的には、Zn,Mg,Sn,Zn+Mg,Zn+Sn,Mg+Sn,Zn+Mg+Sn,Zn+Al,Mg+Al,Sn+Al,Zn+Mg+Al,Zn+Sn+Al,Mg+Sn+Al,Zn+Mg+Sn+Alを80%以上含有する金属(純金属又は合金)を意味する。
【0034】
また、Alとの間に共晶反応を生じる金属として、Cu(銅)を用いることもできるが、Cuの融点はAlの融点よりも高いことから、インサート材としては、予めAlを合金化することによって、その融点をアルミニウム合金母材の融点より低くなるように成分調整したCu−Al合金を用いる必要がある。
【0035】
さらに、被接合材としてもアルミニウム系金属材料に限定されることはなく、例えば銅及び銅合金、マグネシウム及びマグネシウム合金、ニッケル及びニッケル基合金、鉄系材料の接合に適用することができる。
なお、被接合材の双方がアルミニウムやマグネシウム系金属材料のように、強固な酸化皮膜を形成するものでない限り、異材間の接合にも適用することができる。
【0036】
銅や銅系合金の接合におけるインサート材としては、例えばAl、Ag(銀)、Snや、これらの合金を上記した要領で用いることができる。
なお、Cuとの間に共晶反応を生じる金属としては、上記の他に、Ti(チタン)を挙げることができるが、Tiの融点はCuの融点よりも高いことから、上記同様に、Tiに予めCuを合金化したCuよりも低融点の合金をインサート材として使用することが必要となる。
【0037】
また、マグネシウムやマグネシウム系合金の接合に用いるインサート材としては、例えばAl、Znや、これらの合金を上記同様の要領で使用することができる。
なお、Si(ケイ素)もMgとの間に共晶反応を生じる元素であるが、Siの融点はMgの融点よりも高いため、上記同様に、予めMgを合金化したMgよりも低融点の合金をインサート材として使用することが必要となる。また、上記Alについても、Mgの融点に近いことから、同様にMgを合金化したインサート材を用いることが望ましい。
【0038】
さらに、ニッケルやニッケル基合金の接合に使用するインサート材としては、例えばCuや、これらの合金を同様の要領で用いることができる。
また、Cuの他に、Niとの間に共晶反応を生じる金属として、Ti,Nb(ニオブ),Cr(クロム)を挙げることができるが、これら金属の融点は何れもNiの融点よりも高いため、予めNiを合金化することによって、上記同様にNiよりも低融点化した合金をインサート材として使用する必要がある。
【0039】
そして、鉄系材料の接合には、FeにC、NあるいはCrを合金化することによって、母材よりも低融点化した材料をインサート材として用いることができる。
【0040】
このようなインサート材の形状や両被接合材の間に介在させる方法としては、組成や形状(厚さ)などに関する選択の自由度が高いことから、箔の形態で両材料の間に挟み込むことが望ましい。
また、めっきやパウダーデポジション法によって、両材料の一方あるいは両方の接合面にインサート材を予め被覆しておくことも可能であり、この場合には、被覆によって酸化皮膜の生成を防止できることから、特に異材接合に適用した場合に有効なものとなる。
【0041】
本発明の接合方法は、不活性ガス雰囲気で行うこともできるが、大気中でも何ら支障はなく行うことができる。
もちろん、真空中で行うことも可能であるが、真空設備が必要となるばかりでなく、インサート材の溶融により真空計やゲートバルブを損傷する可能性があるので、大気中で行うことがコスト的にも有利である。
【0042】
本発明の接合方法において、接合部を上記温度範囲に加熱し、維持するための手段としては、特に限定されることはなく、例えば、抵抗加熱や高周波加熱、赤外線加熱、あるいはこれらを組み合わせた方法を採用することができる。
また、接合温度については、高過ぎると、母材が溶け込むために液相が過剰に発生し、液相が過多になると接合界面に残存し、強度が得られなくなる傾向がある。具体的には、共晶点以上、共晶点+100℃までの温度範囲が好ましい。
【0043】
上記接合温度への昇温速度については、遅い場合には、界面が酸化されて溶融物の排出性が低下して、強度が低下する原因となることがあるため、速い方が望ましい。特に大気中の接合の場合には、この傾向がある。具体的には、3℃/秒以上、10℃/秒以上がより望ましく、25℃/秒以上であることがさらに望ましい。
【0044】
また、本発明の接合方法における接合時の加圧力としては、30MPa以下の低い加圧力で接合することができ、付加荷重を低減して、被接合材の損傷を防止できると共に、加圧システムが簡素化でき、エネルギー消費を抑えることができ、コストの低減が可能になる。
【0045】
本発明の接合方法による接合構造としては、被接合材の接合界面に、被接合材同士の直接接合部と、上記被接合材の酸化皮膜と共晶反応物を含む混合物を介した間接接合部とが断続した構造となり、接合強度が高く、しかもシール性を備えた歪の少ない接合構造となる。
【0046】
本発明の接合方法によって接合された部品の構造は、共晶反応溶融物と酸化皮膜などの混合物が接合面から排出されて、両被接合材が直接接合される。但し、接合条件によっては、混合物が完全に排出できるとは限らず、このような場合には、直接接合された部分の間に、混合物が介在する部分が散在することもないとは言えない。
また、被接合材(上記した例ではアルミニウム合金材)の接合面の近傍に、インサート材に由来する成分(上記した例ではZn)の拡散現象が認められ、これによって接合強度をさらに向上させることができる。
【0047】
図5は、本発明の実施形態として、半導体チップを上記接合方法により接合して成る半導体部品の構造を示す概略断面図である。
すなわち、図に示す半導体部品は、ヒートシンク11上に固定された絶縁基板12を備え、当該基板12の表面上に配置された配線金属13にシリコンチップ14が接合された構造を備えている。
【0048】
上記配線金属13はアルミニウム合金から成るものであり、シリコンチップ14の接合面には、予めアルミニウムによるコーティングが施してあり、これらアルミニウム系金属同士が本発明方法によって接合されている。
これら配線金属13とシリコンチップ14の接合に際しては、予め、アルミニウム合金製の配線金属13の接合面に、応力集中手段としての凹凸を塑性加工あるいは切削加工によって形成しておく。そして、これら配線金属13とシリコンチップ14間に、厚さ25μmのAl−Sn−Zn合金の急冷箔帯をインサート材として配置し、治具を用いて、常時15MPa以下の加圧力が掛かるように固定される。
【0049】
そして、例えばろう付け炉内にこの状態で収納し、400℃に1分間保持することによって、配線金属13とシリコンチップ14を接合することができる。
この方法によれば、低温度、短時間で接合が完了することから、半導体チップへの熱影響を最小限のものとすることができ、部品の歪みや性能劣化を防止することができる。また、複数のチップを同時に接合することができる。なお、半導体チップとしては、上記したシリコンチップ以外にも、種々のもの、例えばSiCやGaNなどを用いることができる。
【0050】
図6は、本発明の他の実施形態として、上記接合方法により接合された燃料電池用のアルミニウム合金製セパレータの構造を示す断面図である。
図において、燃料電池用セパレータは、アルミニウム合金板材(例えば、5000系、6000系)をプレス成形して成る2枚の波板材21、22を図示するように重ね、重ね合わせた部分を本発明方法により接合することによって、燃料ガス又は酸化性ガスの通路23を形成した構造を有するものである。このとき、波板材22の接合面には、応力集中手段としての凹凸構造を同様に形成しておく。
【0051】
接合に際しては、厚さ100μmのテープ状亜鉛箔から成るインサート材を接合部分に配置した状態に両波板材21、22を重ね、治具を用いて加圧状態に固定した上で、高周波誘導加熱炉内に収納する。
そして、例えば、同様に450℃に昇温、保持することによって、両板材21、22が接合され、アルミニウム合金製の燃料電池用セパレータが完成することになる。
【0052】
このように製造されたセパレータにおいては、上記同様にシール性に優れ、歪みが少なく、ガス漏れの危険性のない、高精度の燃料電池スタックを得ることができる。
また、この方法によれば、多数のセパレータを大型炉内に収納し、多くの接合箇所を同時に接合することもでき、TIG溶接やレーザ溶接による製造に較べて高能率な製造が可能となる。
【0053】
図7は、本発明の一実施形態として、上記接合方法により接合された分割鋳造タイプのエンジンヘッドブロックの構造を示す概略図である。
図に示すエンジンヘッドブロックは、ダイカスト用アルミニウム合金、例えばAl−Si−Cu−Mg系合金(AC4D)から4つに分割鋳造されたピース31、32、33、34から構成されている。
【0054】
これら4つの分割ピース31、32、33及び34は、その接合面に予め応力集中手段としての凹凸を形成した上で、図に示すように、それぞれの間に、シリンダボアに相当する位置にそれぞれ円形孔を形成して成る厚さ300μmの純亜鉛箔製インサート材35、36,37を挟んだ状態に重ねられる。
そして、所定の治具によって互いに加圧状態に固定されたのち、高周波誘導加熱炉中において、AlとZnの共晶反応が生じる382〜482℃程度の温度範囲、例えば450℃に昇温、保持することによって、各分割ピースがそれぞれ接合され、エンジンヘッドブロックが完成する。
【0055】
このようにして製造されたエンジンヘッドブロックは、シール性に優れ、歪みが少ないものとなる。また、鋳造に際して、ボア形成用の中子が不要となるので、設計の自由度が向上することになる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0057】
〔1−1〕供試材料
図8に示すように、アルミニウム合金A6061(Al−Mg−Si系)から成る長さ15mm、径5mmの丸棒3と長さ25mm、径10mmの丸棒4を用意した。
このとき、本発明の実施例として、接合面の一方又は両方の端面には、精密切削加工によって、図9(a)〜(c)に示すような凹凸構造から成る応力集中手段4cをそれぞれ形成した。なお、このような応力集中手段を形成しない他方の接合面には鏡面加工を施した。
また、比較のために、ラップ加工によって、両接合面に鏡面加工を施したものも用意し、以下の接合試験に供した。
【0058】
インサート材としては、径8mmのZn−Al−Sn合金から成る厚さ100μmの急冷箔帯を準備した。
【0059】
〔1−2〕接合要領
図10に示すように、丸棒3、4の接合端面間に、上記組成、サイズのインサート材5を配置し、大気中においてアンヴィルA、Aにより加圧した状態で、接合部の周囲に配置した高周波加熱コイルSによって400〜500℃に加熱し、目的の接合温度に到達後1分間保持して接合を行った。このときの昇温速度は10℃/秒とした。また、接合温度は、丸棒4の接合端面近傍の側面に溶接したR式熱電対Tによって測定した。なお、アンヴィルA、Aによる加圧は常温から開始し、接合終了後に除荷することとした。
また、上記したように、別途用意した応力集中手段を形成しない丸棒についても、同様の要領によって接合し、比較例とした。
【0060】
〔1−3〕評価方法
得られた試験片の接合強度を万能試験器による引張試験によって評価した。このときの試験速度は1mm/分とした。この結果を、応力集中手段の形状や接合条件と共に表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
上記実施例は、応力集中手段としての凹凸構造における突起のピッチと、突起高さを突起のピッチで除した値を突起のアスペクト比と定義し、このピッチとアスペクト比を種々変化させることにより接合強度への影響を示した実験結果である。
【0063】
表1から明らかなように、応力集中手段として凹凸構造を設けない比較例では、比較例2のように、接合加圧力を50MPa程度に高めないと十分な接合強度が得られない。
これに対し、実施例1〜実施例15のように、応力集中手段応力集中部を形成することによって、加圧力30MPa以下の極めて低加圧でも充分な接合強度が得られ、加圧システムの簡素化、エネルギー費の低減、被接合材へのダメージの低減を図ることができる。
【0064】
応力集中手段の配置は、一対の被接合材の両面に形成し、かつそれらを略直交(クロス)させて配置した場合に、より低加圧でも高い接合強度が得られることが確認された。
また、応力集中手段の形状は、ピッチが1μm以上で、またアスペクト比が0.001以上の場合に、応力集中手段の加工を行わない鏡面状の接合面とした比較例に対して、顕著な効果が認められた。
【0065】
図11は,実施例2〜実施例10の加圧力10MPaの際の実験結果を、横軸をピッチ、縦軸をアスペクト比とし、接合強度を円の大きさで示すと共に、接合強度の領域を4水準(☆:接合強度50MPa超、◎:接合強度40MPa超、50MPa以下、○:接合強度30MPa超、40MPa以下、×:接合強度30MPa以下)に分けて示した図である。
この図から、特に、ピッチ10μm以上、アスペクト比0.1以上で、一層の接合強度向上効果が認められる。
【0066】
実施例13〜15は,応力集中手段を被接合材の接合面の片側のみに形成し、他方は比較例と同様の鏡面とした場合の実施例を示し、ここでは応力集中手段のパターンを図9に示したような一方向(a)、独立(b)、螺旋(c)の3種類とした場合における接合強度を比較した。
この結果、応力集中手段の凹凸パターンとしては、図9(b)に示した独立形状の場合に最も高強度が得られる結果となった。
【0067】
図12は、本発明により得られた接合部断面の一例として、実施例5により得られた接合部の電子顕微鏡写真である。
接合界面は、図11のように特徴的な界面構造を呈しており、被接合材同士、この例ではアルミニウム合金同士の直接接合部Dと、少なくともインサート材であるZn−Al−Sn合金、またはこれと被接合材との共晶反応により生成した共晶反応物を介した間接接合部Mとがそれぞれ複数並列されている。なお、余剰となった共晶反応物は、破壊された酸化皮膜片と共に接合界面の外に排出物Eとして排出されている。
【0068】
直接接合部Dは、接合強度が高く、接合界面の電気抵抗や熱抵抗が低いという特徴があり、図5に示したような半導体チップの接合に好適である。
一方間接接合部Mは、応力集中手段が見かけ上の接合線長さの増大に寄与するため充分な接合強度を保つと共に、シール性や水密性の高い接合界面構造が得られるため、図7に示したような分割鋳造タイプのエンジンヘッドブロックの接合に好適な接合界面構造となる。
【0069】
以上、本発明の内容を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、被接合材の材料やインサート材の材料、応力集中部の形状や寸法の範囲は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜変更できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1、3、4 被接合材
1a 酸化皮膜
1c、4c 応力集中手段
2、5、35、36、37 インサート材
D 直接接合部
M 間接接合部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム系金属材料のように、表面に安定な酸化膜が形成されている材料についても、大気中、低温度で接合することができ、母材や周辺への熱影響を最小限に抑えることができる低コストの接合方法と、このような方法を用いた接合部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、アルミニウム系金属から成る材料の表面には、緻密で強固な酸化皮膜が生成されており、この酸化皮膜の存在が障害となるため、これらアルミニウム系金属材料については、冶金的な接合が難しい。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム同士、あるいはアルミニウムとアルミナを接合するに際して、被接合面間に母材と共晶反応を生ずる元素を含むインサート材を介在させ、酸素雰囲気中で接触させた後、上記被接合面を共晶反応が生じる温度範囲に加熱し、接触面に共晶反応による融液相と、母材成分と接触面の空隙に存在する酸素との反応による酸化物相を生成させることが記載されている(特許請求の範囲1参照)。これによって、母材表面の酸化皮膜が破壊され、融液中の成分と酸素の反応による酸化物と共に、融液相中に混入されるとされている(第3頁左欄中央参照)。
【0004】
なお、アルミニウム系金属の接合技術としては、Al−Si系合金から成るろう材を用いたろう付けも知られているが、この場合には、例えばフッ化物系のフラックスを用いることによって、酸化皮膜を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−66072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法においては、インサート材と母材が接触して共晶反応をおこすためには、インサート材と母材の接触部において、接合面の酸化皮膜を機械的に破壊する必要があり、そのための荷重(みかけの圧力)が非常に大きくなる。 したがって、この大きな荷重によって、被接合材が変形し、被接合材へのダメージが大きくなるという問題がある。
【0007】
特に、被接合材が半導体等の場合には、高い荷重を付与することによって、半導体の機能が損なわれることから、このような材料には、上記の接合方法は適用できないという問題があった。
また、接合が酸素雰囲気内で行われるため、特殊なチャンバーが必要となって、設備コストが増加する点にも問題があった。
【0008】
本発明は、アルミニウム系金属材料のように、接合面に常温で安定な酸化膜を有する部材を含む接合における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、このような接合を大気中で、しかもフラックスを用いることなく、低加圧で接合することができる接合方法を提供することにある。
また、本発明のさらなる目的は、このような接合方法を適用した各種の接合部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、被接合材の間にインサート材を介在させ、母材とインサート材の間に生じた共晶反応溶融物を酸化皮膜と共に排出して被接合材を接合するに際して、接合部位に応力集中手段を設けておくことによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の接合方法においては、重ね合わせた被接合材の間にインサート材を介在させた状態で、当該被接合材を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材とインサート材の間で共晶反応を生じさせ、共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するに際して、上記酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を接合部位の少なくとも1箇所に設けるようにしている。
【0011】
また、本発明の接合部品は、上記方法によって接合されたものであって、被接合材の新生面が接合されていることを特徴としている。
さらに、本発明の接合構造は、被接合材同士の直接接合部と、上記被接合材の酸化皮膜と共晶反応物を含む混合物を介した間接接合部とが接合界面に断続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、接合部位の少なくとも1箇所に、例えば突起のような応力集中手段を設けるようにしたため、母材表面の酸化皮膜を破壊して共晶反応の起点を形成するに必要な荷重(加圧力)を低減することができ、被接合材の変形によるダメージを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)〜(e)は本発明の接合方法による接合過程を概略的に示す工程図である。
【図2】(a)〜(c)は本発明の接合方法における応力集中手段の形状及び形成部位の例を示す説明図である。
【図3】(a)〜(c)は本発明の接合方法における応力集中手段の形状例を示す説明図である。
【図4】(a)及び(b)は本発明の接合方法における接触面積に及ぼす応力集中手段の頂点位置の変動の影響を示す説明図である。
【図5】本発明の接合方法により接合された部品の一例として半導体チップの実装構造を示す概略図である。
【図6】本発明の接合方法により接合された部品の他の例として燃料電池用のセパレータの構造を示す概略図である。
【図7】本発明の接合方法により接合された部品の別の例として分割鋳造タイプのエンジンヘッドブロックの構造を示す概略図である。
【図8】本発明の実施例に用いた丸棒の外観形状を示す斜視図である。
【図9】(a)〜(c)は本発明の実施例において接合面に形成した応力集中手段の形状を示す斜視図である。
【図10】本発明の実施例における丸棒の突き合わせ接合の要領を示す概略図である。
【図11】本発明の接合方法による接合強度に及ぼすピッチ及びアスペクト比の影響を示すグラフである。
【図12】本発明の接合方法によって得られた接合部断面の一例として、実施例5による接合部を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の接合方法について、これによって得られる接合部品の構造などと共に、さらに詳細、かつ具体的に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0015】
本発明の接合方法は、被接合材とその間に介在させたインサート材との間で共晶反応を生じさせ、生成した共晶反応溶融物を被接合材表面の酸化皮膜と共に接合面から排出するようにしており、接合面に強固な酸化皮膜が生じていたとしても、共晶反応が生じることによって、新生面による強固な接合が可能になる。
このとき、本発明の接合方法においては、接合部位の少なくとも1箇所、例えば接合面の一方又は双方、あるいはインサート材の被接合材との接触面に、例えば突起(凹凸構造)のような応力集中手段を設けるようにしている。したがって、母材表面の酸化皮膜を低荷重で破壊して、共晶反応の起点とすることができ、半導体部品や、板厚が1mm以下のような薄い部材であっても、低加圧で接合することができ、被接合材や周辺への影響を最小限に抑えることができる低コストの接合方法となる。
【0016】
本発明の接合方法においては、接合部位(例えば、被接合材の接合面)に、応力集中手段(例えば、凹凸構造)を形成しておく。
次いで、このような応力集中手段を備えた接合面の間に、まず、被接合材と共晶反応を生じる元素を含むインサート材を介在させる。
【0017】
そして、接合に際しては、両被接合材に相対的な荷重を付与し、接合面に形成された応力集中手段によって局所的な応力を増加させ、被接合材の酸化皮膜を局所的に破壊する。 双方の酸化皮膜が局部的、機械的に破壊され、両被接合材の新生面が露出し、共晶反応が発生する温度に到達すると、共晶反応が生じ、両材料の接合界面に母材中の元素とインサート材に含まれる元素との共晶反応による溶融物を生成させる。
【0018】
継続する被接合材への加圧によって、生じた共晶反応溶融物と共に母材表面の酸化皮膜を接合界面から排出して、被接合材の接合面を直接接合するようにしている。
このとき、接合面には応力集中手段(凹凸構造)が形成されており、その凸部先端が選択的に相手面に接触し、局所的に応力を増大させるため、低い荷重で酸化皮膜を局所破壊して、共晶反応を引き起こすことができ、低い荷重のもとに、新生面による強固な接合が可能となる。
【0019】
図1(a)〜(e)は、本発明の接合方法によるアルミニウム系金属材料同士の接合プロセスを示す概略図である。
【0020】
まず、図1(a)に示すように、被接合材としてアルミニウム系金属材料であるアルミニウム合金材1、1の間に、Alと共晶反応を生じる材料として、Zn(亜鉛)を含有する材料、例えば亜鉛箔から成るインサート材2を挟んだ状態に重ねる。
このとき、アルミニウム合金材1、1の表面、ここでは図中上側の合金材の接合面には、凹凸構造の応力集中手段1cが形成され、さらにその表面には、Al2O3を主成分とする酸化皮膜1aが生成している。
【0021】
次に、図1(b)に示すように両合金材1、1を加圧して、これらをインサート材2を介して密着させ、さらに荷重を付加しながら加熱を開始する。すると、低荷重にもかかわらず、応力集中手段1cの凸部先端が接触した部位の応力が局所的に急激に上昇し、合金材1の酸化被膜1aが機械的に破壊され、亀裂Cが入る。
亀裂Cを介して、合金材1の新生面とインサート材2が直接的に接触した状態で、接合面の温度が共晶反応が発生する温度に到達すると、合金材1中のAlとの間に共晶反応を起こし、共晶溶融相が発生する。そして、図1(d)に示すように、共晶溶融範囲が拡がり、破壊された酸化皮膜1aの欠片が共晶溶融相中に分散する。
【0022】
続く加圧によって、図1(e)に示すように、共晶反応溶融物が接合界面から排出され、この液相中に分散されていた酸化皮膜1aの欠片も共晶溶融物と共に排出物Dとなって、同時に接合界面から押し出され、両合金材1、1の新生面が互いに接合される。
なお、接合条件によっては、インサート材に由来する混合物、この場合にはZnや、Zn−Al合金などを含む微量の混合物が接合界面に、局所的に残存することもあり得る。
【0023】
上記応力集中手段1cの形成位置については、接合部位の1箇所以上に形成すればよく、上記のように被接合材である合金材1、1の接合面の一方に形成するほか、図2(a)に示すように、接合面の両方に設けることができる。両面に形成することによって、酸化皮膜の破壊起点をより多くすることができる。
また、図2(b)に示すように、インサート材2に形成することもできる。こうすることによって、被接合材の生産工程に応力集中手段の作製工程を加える必要がなくなるので、低コストの接合が可能になる。
【0024】
また、応力集中手段1cの形状としては、例えば、図3(a)〜(c)に示すようなものを採用することができる。
すなわち、図3(a)に示したように、台形状断面の凹凸構造として、凸部先端を略平面とすれば、応力集中度は若干低下するとしても、応力集中手段の形成が容易となり、加工費を削減することができる。
【0025】
また、図3(b)に示すように、三角柱を並列させたような凹凸構造を採用することもできる。これによって、凹凸構造の凸部先端が線状のものとなり、応力集中度を高めて、酸化皮膜の破断性能を向上させることができる。
このとき、このような応力集中手段1cを接合面の相対向する両面に形成し、それぞれの凸部先端線の方向が互いに交差するように配置することによって、接合面同士が点接触することになり、局所応力をより高めることができ、接合時の荷重を低減したとしても高い接合強度が得られる。なお、応力集中手段1cの線状先端部の交差角度としては、直角とすることが望ましいが、10°以上とすることによって一応の効果が得られる。
【0026】
さらに、図3(c)に示すように、四角錐を縦横方向に並列させた凹凸構造を採用することもでき、凹凸構造の凸部先端が点状となることから、さらに応力集中度を高めて、酸化皮膜の破断性能を向上させることができる。
【0027】
応力集中手段1cの形状としては、応力を集中させて、酸化皮膜の破壊を促進させる機能さえあれば、量的(凸部の数)あるいは形状的な制限はなく、上記の他には、波形やかまぼこ形、半球状など凸部先端を曲面とすることも可能である。なお、当該曲面の曲率半径は小さいほど、応力集中が顕著なものとなって、酸化皮膜が破壊し易くなることは言うまでもない。
【0028】
応力集中手段1cとしては、その凹凸構造の形状がアスペクト比0.001以上、ピッチ1μm以上であることが好ましく、さらにはアスペクト比0.1以上、ピッチ10μm以上であることが望ましい。すなわち、アスペクト比が0.001未満、ピッチが1μm未満の場合には、十分に応力を集中させることができず、酸化皮膜の破壊が困難となることがある。
【0029】
また、応力集中手段1cとしての凹凸構造を形成する凸部の高さについては、接合面に形成された全ての凸部の頂点の高さバラツキ範囲(頂点位置の高低差)以上とすることが望ましい。これによって、図4(a:応力集中手段のない場合)及び(b:応力集中手段を設けた場合)に示すように、凹凸構造の変形によって、接合面全体の接触面積を増すことが可能になる。
【0030】
応力集中手段1cには、凹凸を構成する個々の凸部に応力が集中しており、局部的に大きな塑性変形をおこすために、接合面の接触面積が増大することになる。そこで、図2(c)に示すように、複数種の形状の凸部が混在した凹凸形状とすることにより、応力集中効果と実質接触面積の向上効果とを調整し、最適化することが可能となる。
【0031】
上記した応力集中手段1cは、切削加工、研削加工、塑性加工(ローラ加工)、レーザ加工、放電加工、エッチング加工、リソグラフィーなどによって形成することができ、その形成方法としては、特に限定されるものではない。しかし、塑性加工によれば、非常に低コストで形成が可能である。
【0032】
以上、亜鉛箔から成るインサート材を用いて、アルミニウム系金属材料を接合する例について説明したが、本発明の接合方法は、このような組み合わせのみに限定されることはない。
【0033】
すなわち、アルミニウム系金属材料の接合に用いるインサート材としては、Alとの間に共晶反応を生じる金属材料であればよく、亜鉛箔の他には、マグネシウム(Mg)箔、錫(Sn)箔や、Zn、Mg、Sn、あるいはこれらを主成分とする合金、さらにはこれら金属とAlとの合金を用いることも可能である。ここで、「主成分」とは上記金属の含有量が80%以上のものを言うものとする。具体的には、Zn,Mg,Sn,Zn+Mg,Zn+Sn,Mg+Sn,Zn+Mg+Sn,Zn+Al,Mg+Al,Sn+Al,Zn+Mg+Al,Zn+Sn+Al,Mg+Sn+Al,Zn+Mg+Sn+Alを80%以上含有する金属(純金属又は合金)を意味する。
【0034】
また、Alとの間に共晶反応を生じる金属として、Cu(銅)を用いることもできるが、Cuの融点はAlの融点よりも高いことから、インサート材としては、予めAlを合金化することによって、その融点をアルミニウム合金母材の融点より低くなるように成分調整したCu−Al合金を用いる必要がある。
【0035】
さらに、被接合材としてもアルミニウム系金属材料に限定されることはなく、例えば銅及び銅合金、マグネシウム及びマグネシウム合金、ニッケル及びニッケル基合金、鉄系材料の接合に適用することができる。
なお、被接合材の双方がアルミニウムやマグネシウム系金属材料のように、強固な酸化皮膜を形成するものでない限り、異材間の接合にも適用することができる。
【0036】
銅や銅系合金の接合におけるインサート材としては、例えばAl、Ag(銀)、Snや、これらの合金を上記した要領で用いることができる。
なお、Cuとの間に共晶反応を生じる金属としては、上記の他に、Ti(チタン)を挙げることができるが、Tiの融点はCuの融点よりも高いことから、上記同様に、Tiに予めCuを合金化したCuよりも低融点の合金をインサート材として使用することが必要となる。
【0037】
また、マグネシウムやマグネシウム系合金の接合に用いるインサート材としては、例えばAl、Znや、これらの合金を上記同様の要領で使用することができる。
なお、Si(ケイ素)もMgとの間に共晶反応を生じる元素であるが、Siの融点はMgの融点よりも高いため、上記同様に、予めMgを合金化したMgよりも低融点の合金をインサート材として使用することが必要となる。また、上記Alについても、Mgの融点に近いことから、同様にMgを合金化したインサート材を用いることが望ましい。
【0038】
さらに、ニッケルやニッケル基合金の接合に使用するインサート材としては、例えばCuや、これらの合金を同様の要領で用いることができる。
また、Cuの他に、Niとの間に共晶反応を生じる金属として、Ti,Nb(ニオブ),Cr(クロム)を挙げることができるが、これら金属の融点は何れもNiの融点よりも高いため、予めNiを合金化することによって、上記同様にNiよりも低融点化した合金をインサート材として使用する必要がある。
【0039】
そして、鉄系材料の接合には、FeにC、NあるいはCrを合金化することによって、母材よりも低融点化した材料をインサート材として用いることができる。
【0040】
このようなインサート材の形状や両被接合材の間に介在させる方法としては、組成や形状(厚さ)などに関する選択の自由度が高いことから、箔の形態で両材料の間に挟み込むことが望ましい。
また、めっきやパウダーデポジション法によって、両材料の一方あるいは両方の接合面にインサート材を予め被覆しておくことも可能であり、この場合には、被覆によって酸化皮膜の生成を防止できることから、特に異材接合に適用した場合に有効なものとなる。
【0041】
本発明の接合方法は、不活性ガス雰囲気で行うこともできるが、大気中でも何ら支障はなく行うことができる。
もちろん、真空中で行うことも可能であるが、真空設備が必要となるばかりでなく、インサート材の溶融により真空計やゲートバルブを損傷する可能性があるので、大気中で行うことがコスト的にも有利である。
【0042】
本発明の接合方法において、接合部を上記温度範囲に加熱し、維持するための手段としては、特に限定されることはなく、例えば、抵抗加熱や高周波加熱、赤外線加熱、あるいはこれらを組み合わせた方法を採用することができる。
また、接合温度については、高過ぎると、母材が溶け込むために液相が過剰に発生し、液相が過多になると接合界面に残存し、強度が得られなくなる傾向がある。具体的には、共晶点以上、共晶点+100℃までの温度範囲が好ましい。
【0043】
上記接合温度への昇温速度については、遅い場合には、界面が酸化されて溶融物の排出性が低下して、強度が低下する原因となることがあるため、速い方が望ましい。特に大気中の接合の場合には、この傾向がある。具体的には、3℃/秒以上、10℃/秒以上がより望ましく、25℃/秒以上であることがさらに望ましい。
【0044】
また、本発明の接合方法における接合時の加圧力としては、30MPa以下の低い加圧力で接合することができ、付加荷重を低減して、被接合材の損傷を防止できると共に、加圧システムが簡素化でき、エネルギー消費を抑えることができ、コストの低減が可能になる。
【0045】
本発明の接合方法による接合構造としては、被接合材の接合界面に、被接合材同士の直接接合部と、上記被接合材の酸化皮膜と共晶反応物を含む混合物を介した間接接合部とが断続した構造となり、接合強度が高く、しかもシール性を備えた歪の少ない接合構造となる。
【0046】
本発明の接合方法によって接合された部品の構造は、共晶反応溶融物と酸化皮膜などの混合物が接合面から排出されて、両被接合材が直接接合される。但し、接合条件によっては、混合物が完全に排出できるとは限らず、このような場合には、直接接合された部分の間に、混合物が介在する部分が散在することもないとは言えない。
また、被接合材(上記した例ではアルミニウム合金材)の接合面の近傍に、インサート材に由来する成分(上記した例ではZn)の拡散現象が認められ、これによって接合強度をさらに向上させることができる。
【0047】
図5は、本発明の実施形態として、半導体チップを上記接合方法により接合して成る半導体部品の構造を示す概略断面図である。
すなわち、図に示す半導体部品は、ヒートシンク11上に固定された絶縁基板12を備え、当該基板12の表面上に配置された配線金属13にシリコンチップ14が接合された構造を備えている。
【0048】
上記配線金属13はアルミニウム合金から成るものであり、シリコンチップ14の接合面には、予めアルミニウムによるコーティングが施してあり、これらアルミニウム系金属同士が本発明方法によって接合されている。
これら配線金属13とシリコンチップ14の接合に際しては、予め、アルミニウム合金製の配線金属13の接合面に、応力集中手段としての凹凸を塑性加工あるいは切削加工によって形成しておく。そして、これら配線金属13とシリコンチップ14間に、厚さ25μmのAl−Sn−Zn合金の急冷箔帯をインサート材として配置し、治具を用いて、常時15MPa以下の加圧力が掛かるように固定される。
【0049】
そして、例えばろう付け炉内にこの状態で収納し、400℃に1分間保持することによって、配線金属13とシリコンチップ14を接合することができる。
この方法によれば、低温度、短時間で接合が完了することから、半導体チップへの熱影響を最小限のものとすることができ、部品の歪みや性能劣化を防止することができる。また、複数のチップを同時に接合することができる。なお、半導体チップとしては、上記したシリコンチップ以外にも、種々のもの、例えばSiCやGaNなどを用いることができる。
【0050】
図6は、本発明の他の実施形態として、上記接合方法により接合された燃料電池用のアルミニウム合金製セパレータの構造を示す断面図である。
図において、燃料電池用セパレータは、アルミニウム合金板材(例えば、5000系、6000系)をプレス成形して成る2枚の波板材21、22を図示するように重ね、重ね合わせた部分を本発明方法により接合することによって、燃料ガス又は酸化性ガスの通路23を形成した構造を有するものである。このとき、波板材22の接合面には、応力集中手段としての凹凸構造を同様に形成しておく。
【0051】
接合に際しては、厚さ100μmのテープ状亜鉛箔から成るインサート材を接合部分に配置した状態に両波板材21、22を重ね、治具を用いて加圧状態に固定した上で、高周波誘導加熱炉内に収納する。
そして、例えば、同様に450℃に昇温、保持することによって、両板材21、22が接合され、アルミニウム合金製の燃料電池用セパレータが完成することになる。
【0052】
このように製造されたセパレータにおいては、上記同様にシール性に優れ、歪みが少なく、ガス漏れの危険性のない、高精度の燃料電池スタックを得ることができる。
また、この方法によれば、多数のセパレータを大型炉内に収納し、多くの接合箇所を同時に接合することもでき、TIG溶接やレーザ溶接による製造に較べて高能率な製造が可能となる。
【0053】
図7は、本発明の一実施形態として、上記接合方法により接合された分割鋳造タイプのエンジンヘッドブロックの構造を示す概略図である。
図に示すエンジンヘッドブロックは、ダイカスト用アルミニウム合金、例えばAl−Si−Cu−Mg系合金(AC4D)から4つに分割鋳造されたピース31、32、33、34から構成されている。
【0054】
これら4つの分割ピース31、32、33及び34は、その接合面に予め応力集中手段としての凹凸を形成した上で、図に示すように、それぞれの間に、シリンダボアに相当する位置にそれぞれ円形孔を形成して成る厚さ300μmの純亜鉛箔製インサート材35、36,37を挟んだ状態に重ねられる。
そして、所定の治具によって互いに加圧状態に固定されたのち、高周波誘導加熱炉中において、AlとZnの共晶反応が生じる382〜482℃程度の温度範囲、例えば450℃に昇温、保持することによって、各分割ピースがそれぞれ接合され、エンジンヘッドブロックが完成する。
【0055】
このようにして製造されたエンジンヘッドブロックは、シール性に優れ、歪みが少ないものとなる。また、鋳造に際して、ボア形成用の中子が不要となるので、設計の自由度が向上することになる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0057】
〔1−1〕供試材料
図8に示すように、アルミニウム合金A6061(Al−Mg−Si系)から成る長さ15mm、径5mmの丸棒3と長さ25mm、径10mmの丸棒4を用意した。
このとき、本発明の実施例として、接合面の一方又は両方の端面には、精密切削加工によって、図9(a)〜(c)に示すような凹凸構造から成る応力集中手段4cをそれぞれ形成した。なお、このような応力集中手段を形成しない他方の接合面には鏡面加工を施した。
また、比較のために、ラップ加工によって、両接合面に鏡面加工を施したものも用意し、以下の接合試験に供した。
【0058】
インサート材としては、径8mmのZn−Al−Sn合金から成る厚さ100μmの急冷箔帯を準備した。
【0059】
〔1−2〕接合要領
図10に示すように、丸棒3、4の接合端面間に、上記組成、サイズのインサート材5を配置し、大気中においてアンヴィルA、Aにより加圧した状態で、接合部の周囲に配置した高周波加熱コイルSによって400〜500℃に加熱し、目的の接合温度に到達後1分間保持して接合を行った。このときの昇温速度は10℃/秒とした。また、接合温度は、丸棒4の接合端面近傍の側面に溶接したR式熱電対Tによって測定した。なお、アンヴィルA、Aによる加圧は常温から開始し、接合終了後に除荷することとした。
また、上記したように、別途用意した応力集中手段を形成しない丸棒についても、同様の要領によって接合し、比較例とした。
【0060】
〔1−3〕評価方法
得られた試験片の接合強度を万能試験器による引張試験によって評価した。このときの試験速度は1mm/分とした。この結果を、応力集中手段の形状や接合条件と共に表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
上記実施例は、応力集中手段としての凹凸構造における突起のピッチと、突起高さを突起のピッチで除した値を突起のアスペクト比と定義し、このピッチとアスペクト比を種々変化させることにより接合強度への影響を示した実験結果である。
【0063】
表1から明らかなように、応力集中手段として凹凸構造を設けない比較例では、比較例2のように、接合加圧力を50MPa程度に高めないと十分な接合強度が得られない。
これに対し、実施例1〜実施例15のように、応力集中手段応力集中部を形成することによって、加圧力30MPa以下の極めて低加圧でも充分な接合強度が得られ、加圧システムの簡素化、エネルギー費の低減、被接合材へのダメージの低減を図ることができる。
【0064】
応力集中手段の配置は、一対の被接合材の両面に形成し、かつそれらを略直交(クロス)させて配置した場合に、より低加圧でも高い接合強度が得られることが確認された。
また、応力集中手段の形状は、ピッチが1μm以上で、またアスペクト比が0.001以上の場合に、応力集中手段の加工を行わない鏡面状の接合面とした比較例に対して、顕著な効果が認められた。
【0065】
図11は,実施例2〜実施例10の加圧力10MPaの際の実験結果を、横軸をピッチ、縦軸をアスペクト比とし、接合強度を円の大きさで示すと共に、接合強度の領域を4水準(☆:接合強度50MPa超、◎:接合強度40MPa超、50MPa以下、○:接合強度30MPa超、40MPa以下、×:接合強度30MPa以下)に分けて示した図である。
この図から、特に、ピッチ10μm以上、アスペクト比0.1以上で、一層の接合強度向上効果が認められる。
【0066】
実施例13〜15は,応力集中手段を被接合材の接合面の片側のみに形成し、他方は比較例と同様の鏡面とした場合の実施例を示し、ここでは応力集中手段のパターンを図9に示したような一方向(a)、独立(b)、螺旋(c)の3種類とした場合における接合強度を比較した。
この結果、応力集中手段の凹凸パターンとしては、図9(b)に示した独立形状の場合に最も高強度が得られる結果となった。
【0067】
図12は、本発明により得られた接合部断面の一例として、実施例5により得られた接合部の電子顕微鏡写真である。
接合界面は、図11のように特徴的な界面構造を呈しており、被接合材同士、この例ではアルミニウム合金同士の直接接合部Dと、少なくともインサート材であるZn−Al−Sn合金、またはこれと被接合材との共晶反応により生成した共晶反応物を介した間接接合部Mとがそれぞれ複数並列されている。なお、余剰となった共晶反応物は、破壊された酸化皮膜片と共に接合界面の外に排出物Eとして排出されている。
【0068】
直接接合部Dは、接合強度が高く、接合界面の電気抵抗や熱抵抗が低いという特徴があり、図5に示したような半導体チップの接合に好適である。
一方間接接合部Mは、応力集中手段が見かけ上の接合線長さの増大に寄与するため充分な接合強度を保つと共に、シール性や水密性の高い接合界面構造が得られるため、図7に示したような分割鋳造タイプのエンジンヘッドブロックの接合に好適な接合界面構造となる。
【0069】
以上、本発明の内容を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、被接合材の材料やインサート材の材料、応力集中部の形状や寸法の範囲は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜変更できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1、3、4 被接合材
1a 酸化皮膜
1c、4c 応力集中手段
2、5、35、36、37 インサート材
D 直接接合部
M 間接接合部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間にインサート材を介在させた状態に重ね合わせた被接合材を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材とインサート材の間で共晶反応を発生させ、生じた共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するに際して、
上記酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を接合部位の少なくとも1箇所に設けることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
上記応力集中手段が凹凸構造をなしていることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
上記応力集中手段が被接合材の接合面の少なくとも一方に設けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項4】
上記応力集中手段が被接合材の接合面の両方に設けてあることを特徴とする請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
上記応力集中手段がインサート材に設けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項6】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が略平面であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項7】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が線状をなしていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項8】
凹凸構造をなし、その凸部先端形状が線状をなす応力集中手段が互いに交差して配置されていることを特徴とする請求項4に記載の接合方法。
【請求項9】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が略点状をなしていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項10】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が略球状をなしていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項11】
上記凹凸構造の凸部の高さが全凸部の頂点の高低差以上であることを特徴とする請求項2〜10のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項12】
上記凹凸構造の形状がアスペクト比0.001以上、ピッチ1μm以上であることを特徴とする請求項2〜11のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項13】
上記凹凸構造の形状がアスペクト比0.1以上、ピッチ10μm以上であることを特徴とする請求項12に記載の接合方法。
【請求項14】
上記凹凸構造の凸部の形状が複数種存在することを特徴とする請求項2〜13のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項15】
上記凹凸構造が塑性加工によって形成されていることを特徴とする請求項2〜14のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項16】
接合時の加圧力が30MPa以下であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項17】
上記インサート材が箔状の材料であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1つの項に記載の方法による接合部品であって、被接合材の新生面同士が直接接合されていることを特徴とする接合部品。
【請求項19】
上記インサート材に由来する成分が被接合材の接合面近傍に拡散していることを特徴とする請求項18に記載の接合部品。
【請求項20】
請求項1〜17のいずれか1つの項に記載の方法による接合構造であって、接合界面に、被接合材同士の直接接合部と、上記被接合材の酸化皮膜と共晶反応物を含む混合物を介した間接接合部とが断続していることを特徴とする接合構造。
【請求項1】
間にインサート材を介在させた状態に重ね合わせた被接合材を相対的に加圧しつつ加熱して、被接合材とインサート材の間で共晶反応を発生させ、生じた共晶反応溶融物を被接合材の酸化皮膜と共に接合面から排出して上記被接合材を接合するに際して、
上記酸化皮膜を破壊するための応力集中手段を接合部位の少なくとも1箇所に設けることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
上記応力集中手段が凹凸構造をなしていることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
上記応力集中手段が被接合材の接合面の少なくとも一方に設けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項4】
上記応力集中手段が被接合材の接合面の両方に設けてあることを特徴とする請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
上記応力集中手段がインサート材に設けてあることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合方法。
【請求項6】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が略平面であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項7】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が線状をなしていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項8】
凹凸構造をなし、その凸部先端形状が線状をなす応力集中手段が互いに交差して配置されていることを特徴とする請求項4に記載の接合方法。
【請求項9】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が略点状をなしていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項10】
上記応力集中手段が凹凸構造をなし、その凸部先端形状が略球状をなしていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項11】
上記凹凸構造の凸部の高さが全凸部の頂点の高低差以上であることを特徴とする請求項2〜10のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項12】
上記凹凸構造の形状がアスペクト比0.001以上、ピッチ1μm以上であることを特徴とする請求項2〜11のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項13】
上記凹凸構造の形状がアスペクト比0.1以上、ピッチ10μm以上であることを特徴とする請求項12に記載の接合方法。
【請求項14】
上記凹凸構造の凸部の形状が複数種存在することを特徴とする請求項2〜13のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項15】
上記凹凸構造が塑性加工によって形成されていることを特徴とする請求項2〜14のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項16】
接合時の加圧力が30MPa以下であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項17】
上記インサート材が箔状の材料であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1つの項に記載の接合方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1つの項に記載の方法による接合部品であって、被接合材の新生面同士が直接接合されていることを特徴とする接合部品。
【請求項19】
上記インサート材に由来する成分が被接合材の接合面近傍に拡散していることを特徴とする請求項18に記載の接合部品。
【請求項20】
請求項1〜17のいずれか1つの項に記載の方法による接合構造であって、接合界面に、被接合材同士の直接接合部と、上記被接合材の酸化皮膜と共晶反応物を含む混合物を介した間接接合部とが断続していることを特徴とする接合構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−78793(P2013−78793A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−51727(P2012−51727)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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