説明

接合構造、電気接点、その製造方法

【課題】部材同士を低コストでろう材を用いずに接合する。
【解決手段】複数の部材と、金属を含む粉末を前記複数の部材にわたって付着堆積させた付着堆積層とを備え、前記複数の部材と前記付着堆積層との熱的・機械的合金化による結合を介して、前記複数の部材を接合する。また、前記基材は高伝導性金属からなり、前記非接合部材はカップ形状で高伝導性金属からなり、前記付着堆積層は耐火性の金属あるいは化合物と高伝導性金属とを含む接点層であり、前記基材の一面と前記被接合部材のカップ形状の開放端部とが、前記熱的・機械的合金化により接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空遮断器、真空スイッチギヤ、ガス絶縁スイッチギヤ等に用いられる電力開閉器用の接合構造、電気接点、製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中で電流を遮断する電力開閉機器は、電気接点を内蔵し、真空封止された容器である真空バルブを備える。電気接点は焼結法や溶浸法などの製造プロセスによって作製され、必要に応じて機械加工される。この電気接点は通電部材とろう付け(一次接合)された後、真空バルブを構成する容器内に組み入れた状態で、真空中において容器をろう付け封止(二次接合)することによって、電気接点は真空バルブ内に内蔵される。このように、一般に電気接点の製造プロセスにおいて、ろう付け工程は通電部材との接合と真空封止接合の少なくとも2段階以上の工程数を要しており、電気接点を含めた真空バルブの製造には多大なコストが費やされる。
【0003】
また、電気接点と通電部材とのろう付けに不備があると、稼働中に電気接点が脱落したり、電流遮断時のアーク加熱あるいは通電中のジュール加熱によってろう材が揮散することで電気的性能が低下したり、製品信頼性が低下する。したがって、ろう付けの中でも一次ろう付けには高い信頼性が求められ、接合部近傍において適正なろう材量を保持するための部位・形状を設けるなど、健全なろう付け状態を得るための形状上の工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−157666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1は、ろう付け部の形状を適正化することでろう付け健全性の向上を図っている。しかし、ろう材を用いる限り、その加熱揮散により接合信頼性が低下する可能性がある。また、焼結法や溶浸法による電気接点の製造工程が多大な熱エネルギーを要するため、接点のプロセス自体がコスト増大の要因となっている。
【0006】
本発明の目的は、部材同士を低コストでろう材を用いずに接合することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の接合構造は、複数の部材と、金属を含む粉末を前記複数の部材にわたって付着堆積させた付着堆積層とを備え、前記複数の部材と前記付着堆積層との熱的・機械的合金化による結合を介して、前記複数の部材を接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、部材同士を低コストでろう材を用いずに接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る接合構造の断面図。
【図2】本発明に係る他の接合構造の断面図。
【図3】本発明に係る他の接合構造の断面図。
【図4】本発明に係る他の接合構造の断面図。
【図5】本発明に係る他の接合構造の断面図。
【図6】本発明に係る電気接点の構造の断面図。
【図7】本発明に係る接点層の斜視図と他の電気接点の構造の断面図。
【図8】本発明に係る他の電気接点の構造の断面図。
【図9】本発明に係る電気接点に用いる基材の平面図。
【図10】本発明に係る複数組成の接点層を有する電気接点の構造の断面図。
【図11】本発明に係る他の接合構造の断面図。
【図12】第2実施例に係る真空バルブの構造を表わす断面図。
【図13】第3実施例に係る真空遮断器の構造を表わす断面図。
【図14】第3実施例に係る負荷開閉器の構造を表わす断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る接合構造の断面図を、図1および図2に示す。図1および図2において、1は被接合部材、2は基材、3は付着堆積層、4は基材2に設けられた貫通孔、5は被接合部材1に設けられた凸部である。
【0011】
図1に示す第1の構造は、基材2の貫通孔4と被接合部材1の凸部5とを嵌め合わせる。凸部5の先端の表面は、基材2の表面より突出していても(X>Y)、同一平面上にあっても(X=Y)、基材2の表面より窪んでいても(X<Y)よい。以下の構造についても同様である。また、被接合部材1と基材2とは、図のような被接合部材1の軸中心で嵌合していなくても良い。被接合部材1と基材2とが接触する部分を嵌合部とし、その嵌合部に付着堆積層3を形成する。基材2と凸部5(被接合部材1)の両部材にわたって、金属を含む粉末を付着堆積させることによって、この付着堆積層3を基材2並びに被接合部材1と接触させるように形成し、熱的・機械的合金化による結合を介して、基材2と被接合部材1を接合することができる。
【0012】
また、図2に示す第2の構造は、被接合部材1上に基材2を載置し、基材2の貫通孔4と被接合部材1の平坦部とを重ね合わせ、貫通孔4を充填するように金属を含む粉末を付着堆積させる。これによって、付着堆積層3の基材2並びに被接合部材1との熱的・機械的合金化による結合を介して、基材2と被接合部材1を接合するものである。被接合部材1は基材2との接触面が平坦でなく、貫通孔4がさらに下方へ伸びるように窪んでいても良い。これらの構造により、比較的低融点で耐熱性の低いろう材などを用いることなく、基材2と被接合部材1の接合が可能となる。接合した後、基材2表面において突起部となる付着堆積層3を機械加工等で除去し、基材2の表面を平坦化しても接合状態を維持することができる。
【0013】
また、図3に示すように、凸部5の突出部表面粗さを粗くしたり、微小な凹凸を設けることにより、凸部5と付着堆積層3との間での機械的結合(いわゆるアンカー効果)あるいは接触面積を増大することができ、より強固な結合を得ることができる。
【0014】
また、図4に示すように、付着堆積層3と接触する被接合部材1の表面を、図3と同様に荒らしたり微小凹凸を設けてもよく、図4および図5に示すように、基材2の貫通孔4にテーパやR部を設けると付着堆積層3と被接合部材1との結合がより強固になる。
【0015】
上記の接合構造を利用した本発明の電気接点の構造の断面図を、図6および図8に示す。図6および図8において、1は高伝導性金属からなるカップ形状あるいは棒状の被接合部材、2は高伝導性金属からなる基材、6は耐火性の金属あるいは化合物と高伝導性金属を含み付着堆積層3からなる接点層、7は被接合部材1と基材2の間の空間を補強するための支持部材、8は支持部材7と被接合部材1並びに基材2の間に載置されるろう材、9は被接合部材1と基材2の重ね合わせ部に設けられた位置決めのための段差である。
【0016】
図6および図8それぞれにおいて、(a)は上記接合構造のうちの図1に示した第1の構造により接合する電気接点100および300、(b)は図2に示した第2の構造により接合する電気接点200および400である。いずれの場合にも付着堆積層3が接点層6を兼ねることによって、被接合部材1と基材2との接合、並びに基材2上への接点層3の形成が、上述の接合機構により一つの工程で同時に達成でき、低コストの電気接点の製造、ろう材を用いない接点周辺部材の接合が可能となる。
【0017】
なお、支持部材7の上下に載置されるろう材8は、後の真空バルブの封止ろう付け過程において溶融し、支持部材7のろう付け固定に用いられるもので、接点層6の裏面中央に配されるため、稼働中の温度上昇に伴うろう材揮散の影響は小さく、支持部材7の固定に支障がなければ省いてもよい。また、基材2に設けられた段差9は、被接合部材1との位置決め精度に支障がなければ省いてもよい。さらに、図6の構造をもつ電気接点100および200において、用いる基材2の貫通孔4の形状は、図9(a)の平面図に示すような円形で複数の貫通孔4を周方向に均等に設けるほか、図9(b)の平面図に示すような円周に沿った長尺孔としてもよい。これにより接合部寸法が増し、接合強度と通電性の向上に有利となる。
【0018】
また、図8の構造をもつ電気接点300および400において、基材2と被接合部材1が接する部分(貫通孔4と凸部5、あるいは被接合部材1と基材2の重ね合わせ部)にネジ部を設け、基材2と被接合部材1をネジ締結しておくことにより、後述する接点層6の形成過程における基材2の傾きや脱落を防止することができる。さらに、図6の構造をなす電気接点100および200は、図7に示す構造とすることもできる。すなわち、高伝導性金属からなる網を基材2とし、その上に接点層6を形成する。この際、平坦面に離型剤を塗布した硬質な土台の上に網を置き、その上から粉末を付着堆積させて接点層6を形成する。この接点層6の外径は、カップ形状の被接合部材1の内径より小さくする。網状の基材2と接点層6が一体化した接点層1100を、被接合部材1およびろう材8を配した支持部材7の上に載置し、網状の基材2と被接合部材1が重なる外周部に対して粉末を付着堆積させて締結する(1200)。この構造では基材2が堆積の小さな網状のため、電気接点1200を軽量化でき、使用材料の削減にもつながる。
【0019】
本発明の電気接点は、被接合部材1および基材2、あるいは接点層6の一部を構成する高伝導性金属が、CuまたはAgあるいはそれらを主成分とする合金である。これにより、通電に伴う電気接点の温度上昇を抑制し、互いに接触し合う接点層6どうしの溶着を妨げるとともに、良好な通電性能を確保することができる。また、接点層6の一部を構成する耐火性の金属あるいは化合物を、Cr、Co、W、WCのうちの少なくとも1種以上とするものである。これにより、電気接点として必要な耐電圧特性(耐アーク性)や電流遮断特性などを発現することができる。さらに、接点層6をなす付着堆積層3は、粒径が75μm以下で、前記の耐火性の金属あるいは化合物と高伝導性金属の粉末(以下、原料粉と記す)で構成されるものである。これにより、緻密な付着堆積層3が得られるとともに、嵌合部の周囲(図1)あるいは貫通孔4の内部(図2)に対して効率的に原料粉を堆積充填することが可能となり、良好な接合状態が得られる。原料粉の粒径が概ね75μmを超えると粉末粒子の重量が大きくなり、原料粉を付着堆積させるために必要な衝突速度が得られず、また、堆積する粒子間に隙間が形成されやすくなるため、緻密な付着堆積層3が得られない。
【0020】
図10は、径方向に組成の異なる複数の接点層を環状に配した場合の、本発明の電気接点の構造の断面図である。図10において、47は接点層6と組成の異なる第2の接点層、48は接点層6および47いずれとも組成の異なる第3の接点層である。図10(a)は2種類の接点層6および47が中心軸対称に環状に設けられた電気接点800、図10(b)は3種類の接点層6、47および48が中心軸対称に同心円状に設けられた電気接点900、図10(c)は2種類の接点層6および47が中心軸対称に環状に交互に設けられた電気接点1000である。電気接点の電気的性能は、接点の組成により変化する。したがって、組成の異なる複数の接点層を有することによって複数の機能、例えば遮断性能や耐電圧性能、低サージ性などを併せ持つ電気接点を実現することができる。また、この複数組成の接点層を有する電気接点は、図6(a)、(b)、図7(b)、図8(b)の構造にも同様に適用できる。なお、組成の異なる複数の接点層が、中心軸から外周へ向かって放射状に交互に配された電気接点も同様に実現可能である。
【0021】
以上のような接合構造および電気接点は、基材2と被接合部材1との嵌合部あるいは重ね合わせ部位に対して、付着堆積層3を構成する原料粉を溶射や爆発圧縮成形などの方法により高速で衝突させ、粉末が塑性変形し、熱的・機械的合金化によって付着堆積させることで得られる。耐火性の金属あるいは化合物は、一般に比較的硬質なため、この粉末を高速で衝突させても塑性変形しにくく、目的とする部位に対してほとんど付着堆積しないが、比較的軟質の高伝導性金属の粉末を含むと、これが耐火性の金属あるいは化合物の粉末を巻き込みながら堆積するため、上記のように各々成分が異なる接点層6、47、48を得ることができる。この粉末を介した熱的・機械的合金化による2つの部材の接合は、図11に示すような被接合部材1と通電部材49との締結にも用いることができる。すなわち、被接合部材1と通電部材49とを密着させて載置した状態で、その接触部の縁に沿って粉末を高速で衝突させ、付着堆積層3を形成することによって両者を締結することができ、これは図6(b)や図7(b)の場合にも適用できる。
【0022】
さらに、付着堆積層3をもって形成される接点層6、47、48はそれぞれ、その厚さ方向(電気接点の開閉方向)において組成を段階的あるいは連続的に変化させることができる。例えば、接点層6、47、48を溶射により形成する際、供給する粉末の組成を段階的あるいは連続的に変化させることにより、接点層は厚さ方向に傾斜した組成となる。このとき、基材2側を基材2と密着性の高い高伝導性金属が多い組成とし、接点層6、47、48の表面側を耐火性の金属あるいは化合物が多い組成とすることで、基材2との密着性に優れ、十分な耐電圧特性を有する接点層6、47、48が得られる。
【0023】
本発明に係る真空バルブは、真空容器内に一対の固定側接点及び可動側接点を備えるもので、少なくとも一方の接点に本発明の電気接点を有することにより、真空中での優れた電流遮断性能や耐電圧性能などを発現できる。
【0024】
本発明に係る真空遮断器は、前記の真空バルブ内の固定側接点及び可動側接点の各々に真空バルブ外に接続された導体端子と、可動側接点を駆動する開閉手段とを備えるもので、この真空バルブが本発明に係る電気接点を有することで、真空遮断器として十分な機能を発揮することができる。
【0025】
本発明に係る電力開閉器は、一対の電気接点のうちの一方が本発明の電気接点からなり、一対の電気接点を接触または開離させることにより、電流を通電または遮断する機構を備えたものである。これにより真空、不活性ガス、大気のいずれかの雰囲気中で十分な電流遮断性能など、電力開閉器としての性能を発揮することができる。
【0026】
以下、発明を実施するための最良の形態を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
図8および図10(a)に示す構造で、接点層6が表1に示す組成(分析値)の電気接点300、400および800を作製した。いずれも基材2は直径54mm、厚さ5mm、貫通孔4の内径が12mmで、基材2および被接合部材1は無酸素銅である。また、比較品として、貫通孔4をもたない基材2と凸部5をもたない被接合部材1とをCu−Mn−Ni系ろう材を用いてろう付けした電気接点も作製した。
【0028】
まず、本実施例の電気接点300および400の作製方法について説明する。接点層6の組成がCu−Crの場合(表1のNo.1、No.2およびNo.6)、原料粉には粒径範囲が25〜75μmのCu粉末およびCr粉末を、表1に示す接点層6の組成が得られるように配合した混合粉を用いた。接点層6の組成がAg−WCの場合(表1のNo.3およびNo.4)、原料粉には粒径範囲が0.3〜45μmのAg粉末およびWC粉末を、表1に示す接点層6の組成が得られるように配合した混合粉を用いた。これらの混合粉を、基材2と被接合部材1とを組み合わせた状態で、基材2の表面にAr+H2混合ガスを用いて溶射し、衝突させて付着堆積させた。接点層6の組成が表1に示す範囲で連続的に変化したNo.6では、Cu粉末とCr粉末それぞれの供給系統を別個に制御し、接点層6の厚さ方向の組成を基材側から表面側へ段階的または連続的に変化させた。基材2の表面に原料粉を厚さ約3mm堆積させた後、機械加工によって厚さ約2mmまで切削して、接点層6と基材2の合計厚さが約5mmの電気接点300および400を得た。
【0029】
次に、本実施例の電気接点800の作製方法(表1のNo.5)について説明する。原料粉には上記の混合粉を用いた。まず、基材2と被接合部材1とを組み合わせた状態で、内径25mmの穴のあいた遮蔽板(マスク)を通して、Ag−WC混合粉を基材2の中央部表面にAr+H2混合ガスを用いて溶射し、衝突させて付着堆積させた。さらに、外径25mmの遮蔽板(マスク)を基材2の中央に配した状態で、Cu−Cr混合粉を同様に溶射して付着堆積させた。その後、上記と同様の機械加工を施し、内周側(約25mm径)にAg−WCの接点層6、外周側にCu−Crの接点層47を有する電気接点800を得た。
【0030】
次に、比較品のうち、図8(a)の接合構造をもち、原料粉の粒径範囲が本実施例と異なるNo.9およびNo.10の電気接点300の作製方法について説明する。原料粉には、粒径範囲が45〜105μmおよび80〜150μmのCu粉末とCr粉末の混合粉を用いた。この混合粉を、上記の本実施例と同様の方法で基材2の表面に溶射した後、機械加工によって表面を切削して、接点層6と基材2の合計厚さが約5mmの電気接点300を得た。
【0031】
続いて、比較品のうち、基材2と被接合部材1とをろう付けにより接合した電気接点(No.7およびNo.8)の作製方法について説明する。原料粉には、No.1〜No.5と同様のCu−Cr混合粉およびAg−WC混合粉を用いた。これらの混合粉を、上記の本発明品と同様の方法で貫通孔4をもたない基材2の表面に溶射した後、機械加工によって表面を切削して、接点層6の厚さを約2mmとした。この基材2の裏面と被接合部材1の平坦面(直径12mm)の間にCu−Mn−Ni系ろう材(厚さ0.1mm)を載置し、真空加熱炉を用いて約3×10-3Paの真空中で960℃×10分の加熱をして、接点層6を表面に有する基材2と被接合部材1とがろう付けされた電気接点を得た。
【0032】
以上のように、本実施例に係る接合構造および製造方法により、接点層6の形成と他の部材との接合が同時に実施され、従来のろう付け法と同様の構造の電気接点が得られることが確認された。なお、本実施例における接点層6の形成には溶射法を用いたが、粉末を衝突させて付着堆積する方法であれば他の方法(例えば爆発圧縮成形など)でも同様の電気接点が得られる。
【0033】
【表1】

【実施例2】
【0034】
実施例1で作製した電気接点300、400および800を用いて、真空遮断器における電流遮断機構部である真空バルブを作製した。図12は、本実施例に係る真空バルブ500の構造を示す断面図で、定格仕様は電圧24kV、電流1250A、遮断電流25kAである。図12において、接点層6aおよび6b、基材2aおよび2b、被接合部材1aおよび1bをもって、それぞれ300、400または800の固定側電気接点および可動側電気接点を構成する。10は遮断時の金属蒸気等の飛散を防ぐためにセラミック絶縁筒16の内面に設けられるシールド、11は可動側方向への金属蒸気等の飛散を防ぐ可動側シールド、15はネジ部をもって外部導体と接続するための可動側ホルダー、12a、12bはそれぞれ固定側端板、可動側端板、13は真空バルブ500内を真空に保ったまま可動側ホルダー15を上下させるためのべローズ、14は可動側端板12bと可動側ホルダー15の間の摺動部分を支えるためのガイドである。
【0035】
以上は比較的融点が低いろう材を用いて高真空中で接合され、内部が高真空に封止される。この真空封止ろう付けの方法は、次の通りである。これらの部材を図12に示す状態で組み上げ、その際、接合を要する箇所に厚さ0.1mmの銀ろう(Ag−Cu系ろう材)を載置した。これを真空加熱炉中で約3×10-3Paの真空中、820℃×12分の加熱をし、真空バルブ500内を真空に保ったまま封止した。
【0036】
得られた真空バルブ500の端子間(被接合部材1aと可動側ホルダー15の間)の電気抵抗値を測定した結果を、表1に併せて示す。なお、この電気抵抗値は、真空バルブ500内が真空であることによる自閉力によって接点層6aおよび6bが閉じた(接触した)状態で測定したもので、電気接点300、400または800を構成する各部材間の接合状態の目安となる。従来の接合方法であるろう付けによって作製した電気接点では、接点層6がCu−Crの場合は12.6μΩ(No.7)、Ag−WCの場合は13.4μΩ(No.8)であった。これに比べ、図8(a)、(b)それぞれの接合構造で作製した電気接点300、400または800を内蔵した本実施例の真空バルブ500(No.1〜No.4、およびNo.6)は、いずれの接点層6の組成の場合も、ろう付けによって作製したNo.7およびNo.8よりも小さな値で、ろう材層を有さないため抵抗が小さい。特に傾斜組成をもつNo.6は、ろう付けの場合(No.7)よりも抵抗は約5%小さくなった。図10(a)の構造を有する電気接点800(No.5)は、No.7とNo.8との間の抵抗値を示した。一方、粒径が本実施例の範囲外である原料粉を用いた比較品の真空バルブ500(No.9およびNo.10)では、従来のろう付け法によるNo.7に比べて抵抗値が大きく、原料粉の粒径が大きくなるにつれて抵抗値が大きくなる傾向が見られた。No.9およびNo.10の接点層6および接合部周辺の断面組織を観察したところ気孔が多く見られ、この気孔は原料粉の粒径が大きくなるにつれて増す傾向が見られた。このことから、原料粉の粒径が大きいと接点層6の緻密化が不足し、これが抵抗値増大の要因となる。したがって、原料粉の粒径は本実施例の範囲にあることが望ましいことが確認された。
【0037】
以上のように、本実施例に係る電気接点がろう材を用いることなく健全な接合状態を有し、従来のろう付け法と同等の電気的性能が得られることが確認された。
【実施例3】
【0038】
実施例2で作製した真空バルブ500を、図13に示す構造の真空遮断器600に組込んだ。真空遮断器600は、操作機構部を前面に配置し、背面に真空バルブ500を支持する3相一括型の3組のエポキシ筒17を配置した構造である。真空バルブ500は、絶縁操作ロッド18を介して、操作機構によって開閉される。遮断器が閉路状態の場合、電流は上部端子19、電気接点300、400または800、集電子20、下部端子21を流れる。電極間の接触力は、絶縁操作ロッド18に装着された接触バネ22によって保たれている。電極間の接触力および短絡電流による電磁力は、支えレバー23およびプロップ24で保持されている。投入コイル32を励磁すると開路状態からプランジャ25がノッキングロッド26を介してローラ27を押し上げ、主レバー28を回して電極間を閉じたあと、支えレバー23で保持している。遮断器が引き外し自由状態では、引き外しコイル29が励磁され、引き外しレバー30がプロップ24の係合を外し、主レバー28が回って電極間が開かれる。遮断器が開路状態では、電極間が開かれたあと、リセットバネ31によってリンクが復帰し、同時にプロップ24が係合する。この状態で投入コイル32を励磁すると閉路状態になる。なお、33は排気筒である。
【0039】
実施例1で作製した電気接点300、400および800を内蔵した真空バルブ500を、真空遮断器600に組込む。この状態で遮断試験に供し、最大遮断電流とさい断電流を測定した結果を表1に併せて示す。本実施例のうち、No.1〜No.4およびNo.6は、従来のろう付けで接合されたCu−Cr、Ag−WCそれぞれの接点層6を有するNo.7、No.8と比べて、最大遮断電流、さい断電流とも同等の値を有し、実用的な性能を有することが確認された。また、複数組成の接点層6および47を有するNo.5は、最大遮断電流とさい断電流の値がNo.7とNo.8との中間値を示し、遮断性能と低サージ性を併せ持つ電気的特性を有することが確認された。
【0040】
続いて、実施例2で作製した真空バルブ500を、真空遮断器600以外の真空開閉装置に搭載した。図14は、実施例2で作製した真空バルブ500を搭載した負荷開閉器700である。
【0041】
この負荷開閉器は、主回路開閉部に相当する真空バルブ500が、真空封止された外側真空容器34内に複数対収納されたものである。外側真空容器34は、上部板材35と下部板材36及び側部板材37を備え、各板材の周囲(縁)が互いに溶接によって接合されているとともに、設備本体とともに設置されている。
【0042】
上部板材35には、上部貫通孔38が形成されており、各上部貫通孔38の縁には環状の絶縁性上部ベース39が各上部貫通孔38を覆うように固定されている。そして、各上部ベース39の中央に形成された円形空間部には、円柱状の可動側電極棒46bが往復動(上下動)自在に挿入されている。すなわち、各上部貫通孔38は上部ベース39と可動側電極棒46bによって閉塞されている。
【0043】
可動側電極棒46bの軸方向端部(上部側)は、外側真空容器34の外部に設置される操作器(電磁操作器)に連結されるようになっている。また、上部板材35の下部側には、各上部貫通孔38の縁に沿って外側ベローズ40が往復動(上下動)自在に配置されており、各外側ベローズ40は、軸方向の一端側が上部板材35の下部側に固定され、軸方向の他端側が各可動側電極棒46bの外周面に装着されている。すなわち、外側真空容器34を密閉構造とするために、各上部貫通孔38の縁には各可動側電極棒46bの軸方向に沿って外側ベローズ40が配置されている。また、上部板材35には排気管(図示省略)が連結され、この排気管を介して外側真空容器34内が真空排気されるようになっている。
【0044】
一方、下部板材36には下部貫通孔41が形成されており、各下部貫通孔41の縁には絶縁性ブッシング42が各下部貫通孔41を覆うように固定されている。各絶縁性ブッシング42の底部には、環状の絶縁性下部ベース43が固定されている。そして、各下部ベース43の中央の円形空間部には、円柱状の固定側電極棒46aが挿入されている。すなわち、下部板材36に形成された下部貫通孔41は、それぞれ絶縁性ブッシング42、下部ベース43、及び固定側電極棒46aによって閉塞されている。そして、固定側電極棒46aの軸方向の一端側(下部側)は、外側真空容器34の外部に配置されたケーブル(配電線)に連結されるようになっている。
【0045】
外側真空容器34の内部には、負荷開閉器の主回路開閉部に相当する真空バルブ500が収納されており、各可動側電極棒46bは、2つの湾曲部を有するフレキシブル導体(可撓性導体)44を介して互いに連結されている。このフレキシブル導体44は、軸方向において2つの湾曲部を有する導電性板材としての銅板とステンレス板を交互に複数枚積層して構成されている。フレキシブル導体44には貫通孔45が形成されており、各貫通孔45に各可動側電極棒46bを挿入して互いに連結される。
【0046】
以上のように、実施例2で作製した本発明に係る真空バルブは、真空遮断器や路肩設置変圧器用の負荷開閉器に適用可能であり、これ以外のスイッチギヤなどの各種真空開閉装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0047】
1、1a、1b 被接合部材
2、2a、2b 基材
3 付着堆積層
4、45 貫通孔
5 凸部
6、6a、6b 接点層
7 支持部材
8 ろう材
9 段差
10 シールド
11 可動側シールド
12a 固定側端板
12b 可動側端板
13 べローズ
14 ガイド
15 可動側ホルダー
16 セラミック絶縁筒
17 エポキシ筒
18 絶縁操作ロッド
19 上部端子
20 集電子
21 下部端子
22 接触バネ
23 支えレバー
24 プロップ
25 プランジャ
26 ノッキングロッド
27 ローラ
28 主レバー
29 引き外しコイル
30 引き外しレバー
31 リセットバネ
32 投入コイル
33 排気筒
34 外側真空容器
35 上部板材
36 下部板材
37 側部板材
38 上部貫通孔
39 上部ベース
40 外側ベローズ
41 下部貫通孔
42 絶縁性ブッシング
43 下部ベース
44 フレキシブル導体
46a 固定側電極棒
46b 可動側電極棒
47 第2の接点層(接点層)
48 第3の接点層(接点層)
49 通電部材
100、200、300、400、800、900、1000、1200 電気接点
500 真空バルブ
600 真空遮断器
700 負荷開閉器
1100 銅網上に形成した接点層(接点層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材と、金属を含む粉末を前記複数の部材にわたって付着堆積させた付着堆積層とを備え、前記複数の部材と前記付着堆積層との熱的・機械的合金化による結合を介して、前記複数の部材を接合することを特徴とする接合構造。
【請求項2】
前記複数の部材は、貫通孔を有する基材と、前記貫通孔に嵌合される凸部を有する被接合部材とを備えることを特徴とする請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記複数の部材は、貫通孔を有する基材と、前記基材が載置される被接合部材とを備え、前記貫通孔を充填するように前記付着堆積層が形成されることを特徴とする請求項1に記載の接合構造。
【請求項4】
前記基材は高伝導性金属からなり、前記非接合部材はカップ形状で高伝導性金属からなり、前記付着堆積層は耐火性の金属あるいは化合物と高伝導性金属とを含む接点層であり、前記基材の一面と前記被接合部材のカップ形状の開放端部とが、請求項2又は3に記載の接合構造で接合されることを特徴とする電気接点。
【請求項5】
前記基材は高伝導性金属からなり、前記非接合部材は棒状で高伝導性金属からなり、前記付着堆積層は耐火性の金属あるいは化合物と高伝導性金属とを含む接点層であり、前記基材の一面と棒状の前記被接合部材の一端とが、請求項2又は3に記載の接合構造で接合されることを特徴とする電気接点。
【請求項6】
前記高伝導性金属はCuまたはAgあるいはそれらの合金であり、前記耐火性の金属あるいは化合物はCr、Co、W、WCのうちの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の電気接点。
【請求項7】
前記接点層は、前記耐火性の金属あるいは化合物の粉末と前記高伝導性金属の粉末の粒径とが75μm以下であることを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載の電気接点。
【請求項8】
前記接点層は、径方向において、同心円状に異なる組成で形成されることを特徴とする請求項4乃至7の何れかに記載の電気接点。
【請求項9】
前記接点層は、厚さ方向において、その組成が段階的あるいは連続的に変化することを特徴とする請求項4乃至8の何れかに記載の電気接点。
【請求項10】
前記付着堆積層を構成する前記耐火性の金属あるいは化合物の粉末と前記高伝導性金属の粉末とを、前記基材と前記被接合部材とが嵌合される前記凸部あるいは前記貫通孔に対して高速で衝突させて、前記粉末の塑性変形を伴う熱的・機械的合金化によって付着堆積させることを特徴とする請求項4乃至9の何れかに記載の電気接点の製造方法。
【請求項11】
真空容器内に一対の固定側接点及び可動側接点を備えた真空バルブにおいて、前記固定側接点及び可動側接点の少なくとも一方が、請求項4乃至9の何れかに記載の電気接点を有する真空バルブ。
【請求項12】
請求項11に記載の真空バルブと、前記真空バルブ内の前記固定側接点及び可動側接点の各々に前記真空バルブ外に接続された導体端子と、前記可動側接点を駆動する開閉手段とを備えた真空遮断器。
【請求項13】
一対の電気接点のうちの一方が請求項4乃至9の何れかに記載の電気接点からなり、真空、不活性ガス、大気のいずれかの雰囲気中で前記一対の電気接点を接触または開離させることにより、電流を通電または遮断する機構を備えた電力開閉器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−73701(P2013−73701A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210080(P2011−210080)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】