接合構造及び接合方法
【課題】熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる接合構造及び接合方法を提供すること。
【解決手段】パワー半導体素子13に備わる放熱ブロック14に対して配線テープ18を接合している接合部20において、放熱ブロック14と配線テープ18が、拡散接合部材31aによって接合されている拡散接合部30と、放熱ブロック14と配線テープ18とが溶融接合された溶融接合部40と、を備え、拡散接合部40を囲むように溶融接合部40が形成されている。
【解決手段】パワー半導体素子13に備わる放熱ブロック14に対して配線テープ18を接合している接合部20において、放熱ブロック14と配線テープ18が、拡散接合部材31aによって接合されている拡散接合部30と、放熱ブロック14と配線テープ18とが溶融接合された溶融接合部40と、を備え、拡散接合部40を囲むように溶融接合部40が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材に接合部材を接合するための接合構造及び接合方法に関する。特に、電子部品に配線を接合するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
被接合部材に接合部材を接合するための接合方法は多数存在するが、その中から製品に応じて最適な方法が採用されている。例えば、パワーICや周辺の制御回路を1つのパッケージにまとめたパワーモジュールの製造工程では、パワー半導体素子などの電子部品に対して配線を接合しているが、その接合方法として、主に、溶接、はんだ等による拡散接合、あるいは超音波接合などの固相接合が採用されている。そして、レーザを使用したレーザ接合では、溶接と拡散接合との両方を行うことができる。
【0003】
このようなレーザを使用した接合技術の1つして、例えば、レーザを使用してはんだ付け(拡散接合)を行うものがある。このような技術は、はんだ付けヘッドから電子部品等のはんだ付け対象に向けてレーザ光を照射し、このレーザ光の熱ではんだを溶融させてはんだ付けするもので、非接触ではんだ付けを行うことができるという利点がある(特許文献1参照)。また、被接合部材と接合部材が同種金属である場合には、レーザによる溶接も行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−140759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したレーザ接合を含め、被接合部材と接合部材との接合面積を大きくするには、接合部分へ与える熱量を大きくしなければならない。特に、パワーモジュールでは配線の接合部分に電流が流れるため、接合面積の確保が重要となり、初期の接合面積のみならず、冷熱サイクル印加後(耐久試験後)の接合面積を保証しなければならないため、熱ストレスに強い接合が必要とされている。
【0006】
熱ストレスに強い接合としては、例えばレーザ溶接が挙げられるが、通常のレーザ溶接では接合面積を大きくするには限界があるため、接合面積を大きくするためにはレーザ光の照射面積を拡げる必要がある。そして、レーザ光の照射部分全面で溶融接合を行うためには、上記したように大きな熱量を与える必要があるため、レーザ光の入射エネルギを上げなければならない。ところが、そうするとスパッタが発生してしまう。これは、レーザ以外の溶融接合でも同様である。特に、電子部品の接合では、スパッタによって短絡が発生するおそれがあるため、スパッタの発生を防止しなければならない。このように、レーザ溶接により、スパッタを発生させることなく、大きな接合面積を確保することは非常に困難である。
【0007】
ここで、接合面積を大きくするには、溶接部分の周りにはんだなどによる拡散接合部を形成することが考えられる。ところが、はんだと接合対象部材とは異種材料であり、線膨張差があるため、冷熱サイクルを印加すると、拡散接合部に外側から内側(溶接部分に向かって)クラックが発生して進行してしまう。このため、十分な接合強度を確保することができない。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる接合構造及び接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、被接合部材に接合部材を接合する接合構造において、前記被接合部材と前記接合部材が、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材によって接合されている拡散接合部と、前記被接合部材と前記接合部材が溶融接合された溶融接合部と、を備え、前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
この接合構造では、被接合部材と接合部材との接合部に、拡散接合部と溶融接合部とが形成されている。そして、溶融接合部は、拡散接合部を囲むように形成されている。このため、拡散接合部の面積を大きくすることにより、溶融接合部の面積をさほど拡げることなく接合面積を大きくすることができる。また、熱ストレスに弱い拡散接合部が、熱ストレスに強い溶融接合部に囲まれているため、拡散接合部にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるので、接合部におけるクラックの発生を防止することができる。さらに、溶融接合部は、接合部の外周部分にだけ形成すればよいため、接合時に大きな熱量を与える必要がないので、スパッタの発生も防止することができる。従って、このような接合構造により、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる。
【0011】
なお、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材としては、例えば、はんだやスズなどが挙げられる。
【0012】
上記した接合構造においては、前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方の接合面に、前記拡散接合部材のめっき処理が施されていることが望ましい。
【0013】
このように、被接合部材又は接合部材のいずれか一方の接合面に、拡散接合部材のめっき処理が施されていると、接合の際に拡散接合部材を配置する必要がなくなるため、生産効率を向上させることができる。なお、接合部材に対してめっき処理を行う場合には、少なくとも接合面に施されていれば良いが、めっき処理の効率などを考慮して接合部材の両面(接合面とその反対面)に施すことが好ましい。
【0014】
上記した接合構造においては、前記拡散接合部及び前記溶融接合部は、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光の照射により形成されたものであることが望ましい。
【0015】
このように、拡散接合部及び溶融接合部が、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射することにより形成されていることから、非常に簡単に上記の接合構造を実現することができる。なお、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光は、公知の回折型光学部品(DOE)を配置することにより得られる。
【0016】
上記課題を解決するためになされた本発明の別態様は、被接合部材に接合部材を接合する接合方法において、前記被接合部材と前記接合部材との間に、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材を介在させ、前記被接合部材と前記接合部材の接合部の外周部分に対し、接合部の中央部分よりも大きな熱量を与えることにより、前記外周部分で前記被接合部材と前記接合部材とを溶融させて溶融接合部を形成するとともに、前記溶融接合部で囲まれる前記中央部分で前記拡散接合部材を溶融・拡散させて拡散接合部を形成することを特徴とする。
【0017】
この接合方法では、被接合部材と接合部材との間に、拡散接合部材を介在させ、被接合部材と接合部材の接合部の外周部分に対し、接合部の中央部分よりも大きな熱量を与えて、外周部分に溶融接合部を形成するとともに、中央部分に拡散接合部を形成する。これにより、接合部において、拡散接合部を囲むように溶接接合部を形成することができる。
【0018】
このため、拡散接合部の面積を大きくすることにより、溶融接合部の面積をさほど拡げることなく接合面積を大きくすることができる。また、熱ストレスに弱い拡散接合部が、熱ストレスに強い溶融接合部に囲まれているため、拡散接合部にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるため、接合部におけるクラックの発生を防止することができる。さらに、溶融接合部は、接合部の外周部分にだけ形成すればよいので、接合時に大きな熱量を与える必要がないため、スパッタの発生も防止することができる。従って、このような接合方法により、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保して、被接合部材と接合部材を接合することができる。
【0019】
なお、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材としては、例えば、はんだやスズなどが挙げられる。
【0020】
上記した接合方法においては、前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方に前記拡散接合部材がめっき処理されており、そのめっき処理面が前記被接合部材と前記接合部材との間に位置するように両部材を配置することにより、前記被接合部材と前記接合部材との間に前記拡散接合部材を介在させることが望ましい。
【0021】
このようにすることにより、接合の際に拡散接合部材を被接合部材と接合部材との間に配置する必要がなくなるため、生産効率を向上させることができる。なお、接合部材に対してめっき処理を行う場合には、少なくとも接合面に施されていれば良いが、めっき処理の効率などを考慮して接合部材の両面(接合面とその反対面)に施すことが好ましい。
【0022】
上記した接合方法においては、前記外周部分に対応する同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成すればよい。
【0023】
このように、拡散接合部及び溶融接合部を、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射して形成することにより、非常に簡単に、拡散接合部を囲むように溶接接合部を形成することができる。なお、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光は、公知の回折型光学部品(DOE)を配置することにより得られる。
そして、このような強度分布を持つレーザ光であれば、レーザ光の入射エネルギを抑えることができるので、接合部に対するレーザ光による過剰な入熱が防止される。このため、スパッタの発生を防止することができる。
【0024】
また、上記した接合方法においては、前記接合部材よりも融点が高い高融点の金属ブロックを前記中央部分に配置した状態で、トップハット状の強度分布を持つレーザ光を前記接合部に照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成してもよい。
【0025】
この接合方法では、トップハット状の強度分布を持つレーザ光を接合部に照射するが、レーザ光の照射位置中央(接合部中央部分)に高融点の金属ブロックを配置している。このため、レーザ光は、接合部外周部分にのみ照射される。その結果、接合部外周部分に溶融接合部が形成される。一方、接合部中央部分では、昇温された金属ブロックからの熱により、拡散接合部材が溶融・拡散するため、拡散接合が形成される。これにより、拡散接合部を囲むように溶接接合部が形成される。このように、トップハット状の強度分布を持つレーザ光を使用しても、非常に簡単に、拡散接合部を囲むように溶接接合部を形成することができる。
また、金属ブロックがヒートマスとなり、レーザ光の照射熱量のうち中心部は金属ブロックの昇温に使われるため、接合部に対するレーザ光による過剰な入熱が防止される。このため、スパッタの発生を防止することができる。
【0026】
なお、接合に使用するレーザとしては、例えばYAGレーザなど(YAGレーザよりも波長の短いレーザであればよい)が挙げられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る接合構造及び接合方法によれば、上記した通り、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態に係る接合構造で接合テープが接合されたパワーモジュールの概略を示す概略構成図である。
【図2】放熱ブロックと配線テープとの接合部の概略構成を示す断面図である。
【図3】図2に示す線A−Aにおける接合部の断面図である。
【図4】配線テープを放熱ブロック上に配置した状態を示す図である。
【図5】放熱ブロックに配線テープを接合する部分にレーザ光を照射している状態を示す図である。
【図6】放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射するレーザ光の強度分布を示す図である。
【図7】放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射する別のレーザ光の強度分布を示す図である。
【図8】図7に示す強度分布を持つレーザ光を使用する接合方法を説明するための図である。
【図9】拡散接合部材を別途配置して接合する変形例を示す図である。
【図10】抵抗接合により接合する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の接合構造及び接合方法を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。本実施の形態では、パワーモジュールに備わるパワー半導体素子とバスバとを電気的に接続する配線テープの接合に本発明を適用した場合を例示する。そこでまず、本実施の形態に係る接合構造で配線テープが接合されたパワーモジュールについて、図1を参照しながら簡単に説明する。図1は、本実施の形態に係る接合構造で接合テープが接合されたパワーモジュールの概略を示す概略構成図である。
【0030】
図1に示すように、パワーモジュール10には、冷却器11と、基板12と、パワー半導体素子13と、放熱ブロック14と、樹脂ハウジング15と、ターミナルピン16と、バスバ17と、配線テープ18とが備わっている。
冷却器11は、発熱するパワー半導体素子13を冷却するものである。冷却器11の内部にはフィンが収容されており、フィン間を冷媒が流れるようになっている。
基板12は、セラミック絶縁基板12aと、その上下面に設けられた高純度アルミ12bとから構成されている。
パワー半導体素子13は、スイッチング素子であり、基板12上(より正確には高純度アルミ12b上)にハンダにより接合されている。そして、パワー半導体素子13は、樹脂ハウジング15に設けられたターミナルピン16に対してボンディングワイヤ19を介して電気的に接続されている。なお、樹脂ハウジング15は、接着剤により冷却器11上に接着されている。
樹脂ハウジング15には、ターミナルピン16の他に、バスバ17が設けられており、このバスバ17と放熱ブロック14を介してパワー半導体素子13とが、配線テープ18により電気的に接続されている。なお、放熱ブロック14は、パワー半導体素子13からの放熱を促進させるものである。
【0031】
そして、放熱ブロック14と配線テープ18との接合、及びバスバ17と配線テープ18との接合に本発明が適用されている。両部位における接合構造及び接合方法は同じであるから、ここでは放熱ブロック14と配線テープ18との接合について説明する。そこで、放熱ブロック14と配線テープ18との接合部における構造について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、放熱ブロック14と配線テープ18との接合部の概略構成を示す断面図である。図3は、図2に示す線A−Aにおける接合部の断面図である。
【0032】
放熱ブロック14と配線テープ18との接合部20には、図2、図3に示すように、拡散接合部30と、溶融接合部40とが含まれている。拡散接合部30は、接合部20の中心部に位置し、拡散接合部材により放熱ブロック14と配線テープ18とが接合されている部分である。拡散接合部材は、融点が300℃以下の低融点金属であり、例えば、はんだやスズなどが使用できる。本実施の形態では、拡散接合部材としてスズ(配線テープ18のスズめっき31a)を使用している。
そして、この拡散接合部30の周りを囲むようにして溶融接合部40が形成されている。溶融接合部40は、放熱ブロック14と配線テープ18との一部が互いに溶融して接合(溶接)されている部分である。なお、本実施の形態では、放熱ブロック14及び配線テープ18は銅製である。
【0033】
このように、接合部20において、溶融接合部40が拡散接合部30を囲むように形成されている。このため、拡散接合部30の面積を大きくすることにより、溶融接合部40の面積をさほど拡げることなく、接合部20における接合面積を大きくすることができる。そして、熱ストレスに弱い拡散接合部30が、熱ストレスに強い溶融接合部40に囲まれているため、拡散接合部30にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるので、接合部20におけるクラックの発生を防止することができる。なお実際には、溶融接合部40の外側に拡散接合部30aが形成され、この拡散接合部30aにクラックが発生するおそれはあるが、この部分にクラックが発生しても接合部20の接合強度には何ら影響しない。溶融接合40及び拡散接合部30により十分な接合強度が確保されているからである。
【0034】
また、溶融接合部40は、接合部20の全域ではなく外周部分にだけ形成すればよいため、接合時に大きな熱量を与える必要がないので、スパッタの発生も防止することができる。なお、接合方法の詳細については後述する。従って、このような接合部20における接合構造によれば、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる。
【0035】
次に、上記した構造を備える接合部20を形成する接合方法について、図4〜図6を参照しながら説明する。図4は、配線テープを放熱ブロック上に配置した状態を示す図である。図5は、放熱ブロックに配線テープを接合する部分にレーザ光を照射している状態を示す図である。図6は、放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射するレーザ光の強度分布を示す図である。
【0036】
まず、配線テープ18を拡散接合部材を介して放熱ブロック14の接合箇所に配置する。本実施の形態では、配線テープ18として両面にスズめっき31aが施されたものを使用しているため、図4に示すように、配線テープ18を放熱ブロック14の接合箇所にそのまま配置すればよい。すなわち、スズめっき31aが拡散接合部材となる。なお、配線テープに対して拡散接合部材によるめっき処理を行う場合、片面のみにめっき処理を行うようにしてもよいが、めっき処理の効率を考慮して本実施の形態では配線テープ18の両面にめっき処理を施している。このように、配線テープ18にめっき処理を施すことにより、配線テープ18を放熱ブロック14に接合する際に、配線テープ18と放熱ブロック14との間に別途、拡散接合部材を配置する必要がなくなる。このため、パワーモジュール10の生産効率を向上させることができる。また、配線テープ18の両面にめっき処理を施すことにより、レーザ接合を行う場合、レーザ光の照射面にめっき処理面が表れるため、配線テープ18におけるレーザ光の吸収率を向上させることができる。これにより、照射するレーザ光の出力を抑えることができる。このことは、スパッタの発生防止に貢献する。
【0037】
そして、図5に示すように、配線テープ18と放熱ブロック14の接合箇所に対して、レーザ光LB1を照射してレーザ接合を行う。このとき照射するレーザ光LB1は、図6に示すように、同心円上にピークとなる強度分布を持っている。より詳細には、レーザ光LB1の外周部分のビーム強度が強く、中央部分のビーム強度が弱い強度分布を持っている。これにより、レーザ照射パターンBは、外周部に円環状の高ビーム強度領域B1が形成され、中心部に低ビーム強度領域B2が形成されたものとなる。なお、このような強度分布を持つレーザ光は、公知の回折型光学部品(DOE)を配置することにより簡単に得られる。なお、本実施の形態では、YAGレーザを使用しているが、YAGレーザよりも波長が短いレーザであれば使用することができる。
【0038】
レーザ接合の際には、高ビーム強度領域B1の照射領域では、配線テープ18及び放熱ブロック14が互いに溶融し、低ビーム強度領域B2の照射領域では、配線テープ18のスズめっき31aが溶融・拡散する。このとき接合部20に照射されるレーザ光は、その外周部分のみビーム強度を強くしているだけなので、接合部20への入射エネルギを抑えることができる。これにより、レーザ接合時にスパッタが発生することを防止することができる。
【0039】
その後、レーザ光LB1の照射が終了すると、高ビーム強度領域B1の照射部位では、配線テープ18及び放熱ブロック14の溶融した部分が凝固して金属結合して溶融接合部40が形成され、低ビーム強度領域B2の照射部位では、溶融・拡散されたスズめっき31aが凝固して拡散接合部30が形成される。かくして、図2、図3に示す構造を備える接合部20が得られる。
【0040】
ここで、上記したものとは異なる強度分布を持つレーザ光LB2を使用する場合の接合方法について、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射する別のレーザ光の強度分布を示す図である。図8は、図7に示す強度分布を持つレーザ光を使用する接合方法を説明するための図である。
【0041】
レーザ光LB2は、図7に示すように、トップハット状の強度分布を持っている。そのため、レーザ照射パターンBは、高ビーム強度領域B1のみとなる。このレーザ光LB2を接合部20に照射すると、接合部20への入射エネルギが大きく、スパッタが発生するおそれがある。
【0042】
そこで、図8に示すように、レーザ光LB2の照射中心(拡散接合部30を形成する部分)に円柱状の金属ブロック50を配置して、レーザ光LB2を照射してレーザ接合を行う。金属ブロック50としては、配線テープ18よりも融点が高い高融点金属、例えばタングステンやレニウムなどを使用することができる。本実施の形態では、タングステンのブロックを使用している。このような金属ブロック50を配置することにより、レーザ光LB2の中央部ではエネルギが金属ブロック50の昇温に使用されるため、接合部20に過剰な入射エネルギが与えられることがない。そのため、レーザ光LB2を使用してレーザ接合を行っても、スパッタが発生することはない。
【0043】
そして、このようなレーザ溶接により、金属ブロック50の周辺では直接レーザ光LB2が当たり、溶融接合部40が形成される一方、金属ブロック50が配置された箇所では、レーザ光LB2により昇温された金属ブロック50からの入熱により、拡散接合部30が形成される。従って、図2、図3に示す構造を備える接合部20を得ることができる。
【0044】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る接合方法により得られる接合部20の構造によれば、拡散接合部30と溶融接合部40とが、溶融接合部40が拡散接合部30を囲むように形成されている。このため、拡散接合部30の面積を大きくすることにより、溶融接合部40の面積をさほど拡げることなく接合部20の接合面積を大きくすることができる。また、熱ストレスに弱い拡散接合部30が、熱ストレスに強い溶融接合部40に囲まれているため、拡散接合部30にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるので、接合部20におけるクラックの発生を防止することができる。さらに、溶融接合部40は、接合部20の外周部分にだけ形成すればよいため、接合時に大きな熱量を与える必要がないので、スパッタの発生も防止することができる。
【0045】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、めっき処理された配線テープ18を用いているが、もちろんめっき処理がされていない配線テープを用いることもできる。この場合には、図9に示すように、放熱ブロック14上に、はんだやスズなどの拡散接合部材31を介してめっき処理されていない配線テープ18aを配置して接合を行えばよい。
なお、放熱ブロック14の上面にめっき処理を施しておけば、拡散接合部材31を介さずにめっき処理されていない配線テープ18aを配置して接合を行うことができる。
【0046】
また、上記した実施の形態では、レーザ接合により、拡散接合部30と溶融接合部40を備える接合部20を形成しているが、抵抗接合によっても上記したような接合部を形成することができる。具体的には、図10に示すように、一方の電極60の接触面形状を溶融接合部の形成領域に対応するようにするとともに、他方の電極61の接触面形状を拡散接合部の形成領域よりも大きめにする。そして、電極60,61で接合対象物を狭持し、電源Eから電極60,61間に電流を流せばよい。但し、抵抗接合の場合には、接合対象物の両側に電極を配置しなければならないので、接合対象物の両側に空間が必要となる。
【0047】
さらに、上記した実施の形態では、配線テープの接合に本発明を適用した場合を例示したが、本発明は、これに限られず、配線テープ以外の電子・電気部品の接合に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 パワーモジュール
18 配線テープ
20 接合部
30 拡散接合部
31 拡散接合部材
31a スズめっき
40 溶融接合部
50 金属ブロック
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材に接合部材を接合するための接合構造及び接合方法に関する。特に、電子部品に配線を接合するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
被接合部材に接合部材を接合するための接合方法は多数存在するが、その中から製品に応じて最適な方法が採用されている。例えば、パワーICや周辺の制御回路を1つのパッケージにまとめたパワーモジュールの製造工程では、パワー半導体素子などの電子部品に対して配線を接合しているが、その接合方法として、主に、溶接、はんだ等による拡散接合、あるいは超音波接合などの固相接合が採用されている。そして、レーザを使用したレーザ接合では、溶接と拡散接合との両方を行うことができる。
【0003】
このようなレーザを使用した接合技術の1つして、例えば、レーザを使用してはんだ付け(拡散接合)を行うものがある。このような技術は、はんだ付けヘッドから電子部品等のはんだ付け対象に向けてレーザ光を照射し、このレーザ光の熱ではんだを溶融させてはんだ付けするもので、非接触ではんだ付けを行うことができるという利点がある(特許文献1参照)。また、被接合部材と接合部材が同種金属である場合には、レーザによる溶接も行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−140759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したレーザ接合を含め、被接合部材と接合部材との接合面積を大きくするには、接合部分へ与える熱量を大きくしなければならない。特に、パワーモジュールでは配線の接合部分に電流が流れるため、接合面積の確保が重要となり、初期の接合面積のみならず、冷熱サイクル印加後(耐久試験後)の接合面積を保証しなければならないため、熱ストレスに強い接合が必要とされている。
【0006】
熱ストレスに強い接合としては、例えばレーザ溶接が挙げられるが、通常のレーザ溶接では接合面積を大きくするには限界があるため、接合面積を大きくするためにはレーザ光の照射面積を拡げる必要がある。そして、レーザ光の照射部分全面で溶融接合を行うためには、上記したように大きな熱量を与える必要があるため、レーザ光の入射エネルギを上げなければならない。ところが、そうするとスパッタが発生してしまう。これは、レーザ以外の溶融接合でも同様である。特に、電子部品の接合では、スパッタによって短絡が発生するおそれがあるため、スパッタの発生を防止しなければならない。このように、レーザ溶接により、スパッタを発生させることなく、大きな接合面積を確保することは非常に困難である。
【0007】
ここで、接合面積を大きくするには、溶接部分の周りにはんだなどによる拡散接合部を形成することが考えられる。ところが、はんだと接合対象部材とは異種材料であり、線膨張差があるため、冷熱サイクルを印加すると、拡散接合部に外側から内側(溶接部分に向かって)クラックが発生して進行してしまう。このため、十分な接合強度を確保することができない。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる接合構造及び接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、被接合部材に接合部材を接合する接合構造において、前記被接合部材と前記接合部材が、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材によって接合されている拡散接合部と、前記被接合部材と前記接合部材が溶融接合された溶融接合部と、を備え、前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
この接合構造では、被接合部材と接合部材との接合部に、拡散接合部と溶融接合部とが形成されている。そして、溶融接合部は、拡散接合部を囲むように形成されている。このため、拡散接合部の面積を大きくすることにより、溶融接合部の面積をさほど拡げることなく接合面積を大きくすることができる。また、熱ストレスに弱い拡散接合部が、熱ストレスに強い溶融接合部に囲まれているため、拡散接合部にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるので、接合部におけるクラックの発生を防止することができる。さらに、溶融接合部は、接合部の外周部分にだけ形成すればよいため、接合時に大きな熱量を与える必要がないので、スパッタの発生も防止することができる。従って、このような接合構造により、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる。
【0011】
なお、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材としては、例えば、はんだやスズなどが挙げられる。
【0012】
上記した接合構造においては、前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方の接合面に、前記拡散接合部材のめっき処理が施されていることが望ましい。
【0013】
このように、被接合部材又は接合部材のいずれか一方の接合面に、拡散接合部材のめっき処理が施されていると、接合の際に拡散接合部材を配置する必要がなくなるため、生産効率を向上させることができる。なお、接合部材に対してめっき処理を行う場合には、少なくとも接合面に施されていれば良いが、めっき処理の効率などを考慮して接合部材の両面(接合面とその反対面)に施すことが好ましい。
【0014】
上記した接合構造においては、前記拡散接合部及び前記溶融接合部は、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光の照射により形成されたものであることが望ましい。
【0015】
このように、拡散接合部及び溶融接合部が、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射することにより形成されていることから、非常に簡単に上記の接合構造を実現することができる。なお、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光は、公知の回折型光学部品(DOE)を配置することにより得られる。
【0016】
上記課題を解決するためになされた本発明の別態様は、被接合部材に接合部材を接合する接合方法において、前記被接合部材と前記接合部材との間に、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材を介在させ、前記被接合部材と前記接合部材の接合部の外周部分に対し、接合部の中央部分よりも大きな熱量を与えることにより、前記外周部分で前記被接合部材と前記接合部材とを溶融させて溶融接合部を形成するとともに、前記溶融接合部で囲まれる前記中央部分で前記拡散接合部材を溶融・拡散させて拡散接合部を形成することを特徴とする。
【0017】
この接合方法では、被接合部材と接合部材との間に、拡散接合部材を介在させ、被接合部材と接合部材の接合部の外周部分に対し、接合部の中央部分よりも大きな熱量を与えて、外周部分に溶融接合部を形成するとともに、中央部分に拡散接合部を形成する。これにより、接合部において、拡散接合部を囲むように溶接接合部を形成することができる。
【0018】
このため、拡散接合部の面積を大きくすることにより、溶融接合部の面積をさほど拡げることなく接合面積を大きくすることができる。また、熱ストレスに弱い拡散接合部が、熱ストレスに強い溶融接合部に囲まれているため、拡散接合部にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるため、接合部におけるクラックの発生を防止することができる。さらに、溶融接合部は、接合部の外周部分にだけ形成すればよいので、接合時に大きな熱量を与える必要がないため、スパッタの発生も防止することができる。従って、このような接合方法により、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保して、被接合部材と接合部材を接合することができる。
【0019】
なお、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材としては、例えば、はんだやスズなどが挙げられる。
【0020】
上記した接合方法においては、前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方に前記拡散接合部材がめっき処理されており、そのめっき処理面が前記被接合部材と前記接合部材との間に位置するように両部材を配置することにより、前記被接合部材と前記接合部材との間に前記拡散接合部材を介在させることが望ましい。
【0021】
このようにすることにより、接合の際に拡散接合部材を被接合部材と接合部材との間に配置する必要がなくなるため、生産効率を向上させることができる。なお、接合部材に対してめっき処理を行う場合には、少なくとも接合面に施されていれば良いが、めっき処理の効率などを考慮して接合部材の両面(接合面とその反対面)に施すことが好ましい。
【0022】
上記した接合方法においては、前記外周部分に対応する同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成すればよい。
【0023】
このように、拡散接合部及び溶融接合部を、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射して形成することにより、非常に簡単に、拡散接合部を囲むように溶接接合部を形成することができる。なお、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光は、公知の回折型光学部品(DOE)を配置することにより得られる。
そして、このような強度分布を持つレーザ光であれば、レーザ光の入射エネルギを抑えることができるので、接合部に対するレーザ光による過剰な入熱が防止される。このため、スパッタの発生を防止することができる。
【0024】
また、上記した接合方法においては、前記接合部材よりも融点が高い高融点の金属ブロックを前記中央部分に配置した状態で、トップハット状の強度分布を持つレーザ光を前記接合部に照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成してもよい。
【0025】
この接合方法では、トップハット状の強度分布を持つレーザ光を接合部に照射するが、レーザ光の照射位置中央(接合部中央部分)に高融点の金属ブロックを配置している。このため、レーザ光は、接合部外周部分にのみ照射される。その結果、接合部外周部分に溶融接合部が形成される。一方、接合部中央部分では、昇温された金属ブロックからの熱により、拡散接合部材が溶融・拡散するため、拡散接合が形成される。これにより、拡散接合部を囲むように溶接接合部が形成される。このように、トップハット状の強度分布を持つレーザ光を使用しても、非常に簡単に、拡散接合部を囲むように溶接接合部を形成することができる。
また、金属ブロックがヒートマスとなり、レーザ光の照射熱量のうち中心部は金属ブロックの昇温に使われるため、接合部に対するレーザ光による過剰な入熱が防止される。このため、スパッタの発生を防止することができる。
【0026】
なお、接合に使用するレーザとしては、例えばYAGレーザなど(YAGレーザよりも波長の短いレーザであればよい)が挙げられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る接合構造及び接合方法によれば、上記した通り、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態に係る接合構造で接合テープが接合されたパワーモジュールの概略を示す概略構成図である。
【図2】放熱ブロックと配線テープとの接合部の概略構成を示す断面図である。
【図3】図2に示す線A−Aにおける接合部の断面図である。
【図4】配線テープを放熱ブロック上に配置した状態を示す図である。
【図5】放熱ブロックに配線テープを接合する部分にレーザ光を照射している状態を示す図である。
【図6】放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射するレーザ光の強度分布を示す図である。
【図7】放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射する別のレーザ光の強度分布を示す図である。
【図8】図7に示す強度分布を持つレーザ光を使用する接合方法を説明するための図である。
【図9】拡散接合部材を別途配置して接合する変形例を示す図である。
【図10】抵抗接合により接合する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の接合構造及び接合方法を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。本実施の形態では、パワーモジュールに備わるパワー半導体素子とバスバとを電気的に接続する配線テープの接合に本発明を適用した場合を例示する。そこでまず、本実施の形態に係る接合構造で配線テープが接合されたパワーモジュールについて、図1を参照しながら簡単に説明する。図1は、本実施の形態に係る接合構造で接合テープが接合されたパワーモジュールの概略を示す概略構成図である。
【0030】
図1に示すように、パワーモジュール10には、冷却器11と、基板12と、パワー半導体素子13と、放熱ブロック14と、樹脂ハウジング15と、ターミナルピン16と、バスバ17と、配線テープ18とが備わっている。
冷却器11は、発熱するパワー半導体素子13を冷却するものである。冷却器11の内部にはフィンが収容されており、フィン間を冷媒が流れるようになっている。
基板12は、セラミック絶縁基板12aと、その上下面に設けられた高純度アルミ12bとから構成されている。
パワー半導体素子13は、スイッチング素子であり、基板12上(より正確には高純度アルミ12b上)にハンダにより接合されている。そして、パワー半導体素子13は、樹脂ハウジング15に設けられたターミナルピン16に対してボンディングワイヤ19を介して電気的に接続されている。なお、樹脂ハウジング15は、接着剤により冷却器11上に接着されている。
樹脂ハウジング15には、ターミナルピン16の他に、バスバ17が設けられており、このバスバ17と放熱ブロック14を介してパワー半導体素子13とが、配線テープ18により電気的に接続されている。なお、放熱ブロック14は、パワー半導体素子13からの放熱を促進させるものである。
【0031】
そして、放熱ブロック14と配線テープ18との接合、及びバスバ17と配線テープ18との接合に本発明が適用されている。両部位における接合構造及び接合方法は同じであるから、ここでは放熱ブロック14と配線テープ18との接合について説明する。そこで、放熱ブロック14と配線テープ18との接合部における構造について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、放熱ブロック14と配線テープ18との接合部の概略構成を示す断面図である。図3は、図2に示す線A−Aにおける接合部の断面図である。
【0032】
放熱ブロック14と配線テープ18との接合部20には、図2、図3に示すように、拡散接合部30と、溶融接合部40とが含まれている。拡散接合部30は、接合部20の中心部に位置し、拡散接合部材により放熱ブロック14と配線テープ18とが接合されている部分である。拡散接合部材は、融点が300℃以下の低融点金属であり、例えば、はんだやスズなどが使用できる。本実施の形態では、拡散接合部材としてスズ(配線テープ18のスズめっき31a)を使用している。
そして、この拡散接合部30の周りを囲むようにして溶融接合部40が形成されている。溶融接合部40は、放熱ブロック14と配線テープ18との一部が互いに溶融して接合(溶接)されている部分である。なお、本実施の形態では、放熱ブロック14及び配線テープ18は銅製である。
【0033】
このように、接合部20において、溶融接合部40が拡散接合部30を囲むように形成されている。このため、拡散接合部30の面積を大きくすることにより、溶融接合部40の面積をさほど拡げることなく、接合部20における接合面積を大きくすることができる。そして、熱ストレスに弱い拡散接合部30が、熱ストレスに強い溶融接合部40に囲まれているため、拡散接合部30にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるので、接合部20におけるクラックの発生を防止することができる。なお実際には、溶融接合部40の外側に拡散接合部30aが形成され、この拡散接合部30aにクラックが発生するおそれはあるが、この部分にクラックが発生しても接合部20の接合強度には何ら影響しない。溶融接合40及び拡散接合部30により十分な接合強度が確保されているからである。
【0034】
また、溶融接合部40は、接合部20の全域ではなく外周部分にだけ形成すればよいため、接合時に大きな熱量を与える必要がないので、スパッタの発生も防止することができる。なお、接合方法の詳細については後述する。従って、このような接合部20における接合構造によれば、熱ストレスに強く、スパッタを発生させることなく大きな接合面積を確保することができる。
【0035】
次に、上記した構造を備える接合部20を形成する接合方法について、図4〜図6を参照しながら説明する。図4は、配線テープを放熱ブロック上に配置した状態を示す図である。図5は、放熱ブロックに配線テープを接合する部分にレーザ光を照射している状態を示す図である。図6は、放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射するレーザ光の強度分布を示す図である。
【0036】
まず、配線テープ18を拡散接合部材を介して放熱ブロック14の接合箇所に配置する。本実施の形態では、配線テープ18として両面にスズめっき31aが施されたものを使用しているため、図4に示すように、配線テープ18を放熱ブロック14の接合箇所にそのまま配置すればよい。すなわち、スズめっき31aが拡散接合部材となる。なお、配線テープに対して拡散接合部材によるめっき処理を行う場合、片面のみにめっき処理を行うようにしてもよいが、めっき処理の効率を考慮して本実施の形態では配線テープ18の両面にめっき処理を施している。このように、配線テープ18にめっき処理を施すことにより、配線テープ18を放熱ブロック14に接合する際に、配線テープ18と放熱ブロック14との間に別途、拡散接合部材を配置する必要がなくなる。このため、パワーモジュール10の生産効率を向上させることができる。また、配線テープ18の両面にめっき処理を施すことにより、レーザ接合を行う場合、レーザ光の照射面にめっき処理面が表れるため、配線テープ18におけるレーザ光の吸収率を向上させることができる。これにより、照射するレーザ光の出力を抑えることができる。このことは、スパッタの発生防止に貢献する。
【0037】
そして、図5に示すように、配線テープ18と放熱ブロック14の接合箇所に対して、レーザ光LB1を照射してレーザ接合を行う。このとき照射するレーザ光LB1は、図6に示すように、同心円上にピークとなる強度分布を持っている。より詳細には、レーザ光LB1の外周部分のビーム強度が強く、中央部分のビーム強度が弱い強度分布を持っている。これにより、レーザ照射パターンBは、外周部に円環状の高ビーム強度領域B1が形成され、中心部に低ビーム強度領域B2が形成されたものとなる。なお、このような強度分布を持つレーザ光は、公知の回折型光学部品(DOE)を配置することにより簡単に得られる。なお、本実施の形態では、YAGレーザを使用しているが、YAGレーザよりも波長が短いレーザであれば使用することができる。
【0038】
レーザ接合の際には、高ビーム強度領域B1の照射領域では、配線テープ18及び放熱ブロック14が互いに溶融し、低ビーム強度領域B2の照射領域では、配線テープ18のスズめっき31aが溶融・拡散する。このとき接合部20に照射されるレーザ光は、その外周部分のみビーム強度を強くしているだけなので、接合部20への入射エネルギを抑えることができる。これにより、レーザ接合時にスパッタが発生することを防止することができる。
【0039】
その後、レーザ光LB1の照射が終了すると、高ビーム強度領域B1の照射部位では、配線テープ18及び放熱ブロック14の溶融した部分が凝固して金属結合して溶融接合部40が形成され、低ビーム強度領域B2の照射部位では、溶融・拡散されたスズめっき31aが凝固して拡散接合部30が形成される。かくして、図2、図3に示す構造を備える接合部20が得られる。
【0040】
ここで、上記したものとは異なる強度分布を持つレーザ光LB2を使用する場合の接合方法について、図7及び図8を参照しながら説明する。図7は、放熱ブロックに配線テープを接合する部分に照射する別のレーザ光の強度分布を示す図である。図8は、図7に示す強度分布を持つレーザ光を使用する接合方法を説明するための図である。
【0041】
レーザ光LB2は、図7に示すように、トップハット状の強度分布を持っている。そのため、レーザ照射パターンBは、高ビーム強度領域B1のみとなる。このレーザ光LB2を接合部20に照射すると、接合部20への入射エネルギが大きく、スパッタが発生するおそれがある。
【0042】
そこで、図8に示すように、レーザ光LB2の照射中心(拡散接合部30を形成する部分)に円柱状の金属ブロック50を配置して、レーザ光LB2を照射してレーザ接合を行う。金属ブロック50としては、配線テープ18よりも融点が高い高融点金属、例えばタングステンやレニウムなどを使用することができる。本実施の形態では、タングステンのブロックを使用している。このような金属ブロック50を配置することにより、レーザ光LB2の中央部ではエネルギが金属ブロック50の昇温に使用されるため、接合部20に過剰な入射エネルギが与えられることがない。そのため、レーザ光LB2を使用してレーザ接合を行っても、スパッタが発生することはない。
【0043】
そして、このようなレーザ溶接により、金属ブロック50の周辺では直接レーザ光LB2が当たり、溶融接合部40が形成される一方、金属ブロック50が配置された箇所では、レーザ光LB2により昇温された金属ブロック50からの入熱により、拡散接合部30が形成される。従って、図2、図3に示す構造を備える接合部20を得ることができる。
【0044】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る接合方法により得られる接合部20の構造によれば、拡散接合部30と溶融接合部40とが、溶融接合部40が拡散接合部30を囲むように形成されている。このため、拡散接合部30の面積を大きくすることにより、溶融接合部40の面積をさほど拡げることなく接合部20の接合面積を大きくすることができる。また、熱ストレスに弱い拡散接合部30が、熱ストレスに強い溶融接合部40に囲まれているため、拡散接合部30にクラックの起点となるフリーの部分がなくなるので、接合部20におけるクラックの発生を防止することができる。さらに、溶融接合部40は、接合部20の外周部分にだけ形成すればよいため、接合時に大きな熱量を与える必要がないので、スパッタの発生も防止することができる。
【0045】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、めっき処理された配線テープ18を用いているが、もちろんめっき処理がされていない配線テープを用いることもできる。この場合には、図9に示すように、放熱ブロック14上に、はんだやスズなどの拡散接合部材31を介してめっき処理されていない配線テープ18aを配置して接合を行えばよい。
なお、放熱ブロック14の上面にめっき処理を施しておけば、拡散接合部材31を介さずにめっき処理されていない配線テープ18aを配置して接合を行うことができる。
【0046】
また、上記した実施の形態では、レーザ接合により、拡散接合部30と溶融接合部40を備える接合部20を形成しているが、抵抗接合によっても上記したような接合部を形成することができる。具体的には、図10に示すように、一方の電極60の接触面形状を溶融接合部の形成領域に対応するようにするとともに、他方の電極61の接触面形状を拡散接合部の形成領域よりも大きめにする。そして、電極60,61で接合対象物を狭持し、電源Eから電極60,61間に電流を流せばよい。但し、抵抗接合の場合には、接合対象物の両側に電極を配置しなければならないので、接合対象物の両側に空間が必要となる。
【0047】
さらに、上記した実施の形態では、配線テープの接合に本発明を適用した場合を例示したが、本発明は、これに限られず、配線テープ以外の電子・電気部品の接合に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 パワーモジュール
18 配線テープ
20 接合部
30 拡散接合部
31 拡散接合部材
31a スズめっき
40 溶融接合部
50 金属ブロック
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材に接合部材を接合する接合構造において、
前記被接合部材と前記接合部材が、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材によって接合されている拡散接合部と、
前記被接合部材と前記接合部材が溶融接合された溶融接合部と、
を備え、
前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部が形成されている
ことを特徴とする接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載する接合構造において、
前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方の接合面に、前記拡散接合部材のめっき処理が施されている
ことを特徴とする接合構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する接合構造において、
前記拡散接合部及び前記溶融接合部は、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光の照射により形成されたものである
ことを特徴とする接合構造。
【請求項4】
被接合部材に接合部材を接合する接合方法において、
前記被接合部材と前記接合部材との間に、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材を介在させ、
前記被接合部材と前記接合部材の接合部の外周部分に対し、接合部の中央部分よりも大きな熱量を与えることにより、前記外周部分で前記被接合部材と前記接合部材とを溶融させて溶融接合部を形成するとともに、前記溶融接合部で囲まれる前記中央部分で前記拡散接合部材を溶融・拡散させて拡散接合部を形成する
ことを特徴とする接合方法。
【請求項5】
請求項4に記載する接合方法において、
前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方に前記拡散接合部材がめっき処理されており、そのめっき処理面が前記被接合部材と前記接合部材との間に位置するように両部材を配置することにより、前記被接合部材と前記接合部材との間に前記拡散接合部材を介在させる
ことを特徴とする接合方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載する接合方法において、
前記外周部分に対応する同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成すること
ことを特徴とする接合方法。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載する接合方法において、
前記接合部材よりも融点が高い高融点の金属ブロックを前記中央部分に配置した状態で、トップハット状の強度分布を持つレーザー光を前記接合部に照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成すること
ことを特徴とする接合方法。
【請求項1】
被接合部材に接合部材を接合する接合構造において、
前記被接合部材と前記接合部材が、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材によって接合されている拡散接合部と、
前記被接合部材と前記接合部材が溶融接合された溶融接合部と、
を備え、
前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部が形成されている
ことを特徴とする接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載する接合構造において、
前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方の接合面に、前記拡散接合部材のめっき処理が施されている
ことを特徴とする接合構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する接合構造において、
前記拡散接合部及び前記溶融接合部は、同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光の照射により形成されたものである
ことを特徴とする接合構造。
【請求項4】
被接合部材に接合部材を接合する接合方法において、
前記被接合部材と前記接合部材との間に、融点が300℃以下の低融点金属よりなる拡散接合部材を介在させ、
前記被接合部材と前記接合部材の接合部の外周部分に対し、接合部の中央部分よりも大きな熱量を与えることにより、前記外周部分で前記被接合部材と前記接合部材とを溶融させて溶融接合部を形成するとともに、前記溶融接合部で囲まれる前記中央部分で前記拡散接合部材を溶融・拡散させて拡散接合部を形成する
ことを特徴とする接合方法。
【請求項5】
請求項4に記載する接合方法において、
前記被接合部材又は前記接合部材のいずれか一方に前記拡散接合部材がめっき処理されており、そのめっき処理面が前記被接合部材と前記接合部材との間に位置するように両部材を配置することにより、前記被接合部材と前記接合部材との間に前記拡散接合部材を介在させる
ことを特徴とする接合方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載する接合方法において、
前記外周部分に対応する同心円上にピークとなる強度分布を持つレーザ光を照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成すること
ことを特徴とする接合方法。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載する接合方法において、
前記接合部材よりも融点が高い高融点の金属ブロックを前記中央部分に配置した状態で、トップハット状の強度分布を持つレーザー光を前記接合部に照射することにより、前記中央部分に前記拡散接合部を形成するとともに、前記外周部分に前記拡散接合部を囲むように前記溶融接合部を形成すること
ことを特徴とする接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−101894(P2011−101894A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258036(P2009−258036)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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