説明

接合用の合金

【課題】合金組成を最適化することで、接合層の強度劣化と靭性向上を同時に実現する接合用の合金を提供する。
【解決手段】原子%で、B:6%以上18%以下、C:0.1%以上10%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする接合用の合金箔である。さらに、Al:0.1以上5%以下、Cr:0.1以上20%以下、V:0.1以上10%以下、Ni:0.1以上40%以下の少なくとも1種を含有する接合用の合金箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種部品、構造物等の材料を接合するための接合用合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種部品、構造物等の材料の接合方法として、液相拡散接合が知られている。液相拡散接合とは、被接合材間に融点が被接合材のそれより低い接合材料を介在させて、接合材料の液相線温度以上、被接合材料の液相線温度以下の温度で加熱し、接合材料中の拡散元素を拡散させて接合する方法である。
【0003】
本発明者らは、酸化雰囲気中での液相拡散接合を実現できる接合用合金箔を発明し、開示した(特許文献1参照)。上記合金箔は、P:1.0〜20原子%、Si:1.0〜10原子%、V:0.1〜20原子%、B:1.0〜20原子%を含有し、さらに、Cr、Ni、Co、W、Nb、Tiを必要に応じて含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、厚さが3.0〜200μmの箔である。
【0004】
また、このような合金箔を製造するための方法として、単ロール法や双ロール法などが知られている。これらの方法は、高速回転する金属製ドラムの外周面に、溶融金属・合金をオリフィスなどから噴出させることにより急速に凝固させて、箔を鋳造するものである。合金組成を適正に選ぶことによって、液体金属に類似した非晶質合金箔を製造することができる。
【0005】
本発明者らは、上記特許文献1に開示した液相拡散接合用合金箔を改善した液相拡散接合用合金箔を開示した(特許文献2、3参照)。これら特許文献2、3で開示した接合用合金は、接合強度の改善を狙ったもので、その特徴は接合用合金箔のSi含有量を低減したことである。
【0006】
本発明者らが接合部強度劣化の原因を調査したところ、SiOが強度劣化をもたらす割れの基点となっており、このSiOは接合箔中のSiによるものであることが判明したことによる。
【0007】
さらに、本発明者らは、上記特許文献2、3で開示した接合用合金での接合後の接合部靭性を改善するための接合合金箔を提案した(特許文献4参照)。特許文献4で開示した接合用合金箔は、接合部の靭性の改善を狙ったもので、その特徴は、接合用合金箔のP含有量を低減したことである。本発明者らが接合部靭性劣化の原因を調査したところ、含有するPによるものであることが判明したためである。
【0008】
しかしながら、液相拡散接合が適用可能な多くの用途の中には、接合部の強度と靭性の更なる改善が必要な用途があり、そのような用途で液相拡散接合の適用を実現するには、使用する接合用合金箔の更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−323175号公報
【特許文献2】特開2004−001065号公報
【特許文献3】特開2004−114157号公報
【特許文献4】特開2005−279748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、接合後の接合部の接合強度と靱性を一層改善できる液相拡散接合用の合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、接合用合金の合金組成を最適化することで上記の課題を解決した。すなわち、本発明は、Si、Pを添加しなくても、その他の添加元素の種類と量を工夫することで液相拡散接合用合金として使用可能な合金が得られることを見出したにことに基づきなされたものである。本発明の液相拡散接合用合金は、Si、Pを含有しないことにより、接合後の接合強度と靭性の一層の向上を実現したものである。
【0012】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0013】
(1)原子%で、
B :6%以上18%以下、
C :0.1%以上10%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする接合用の合金。
【0014】
(2)さらに原子%で、
Al:0.1%以上5%以下
を含有することを特徴とする前記(1)に記載の接合用の合金。
【0015】
(3)さらに原子%で、
Cr:0.1%以上20%以下
を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の接合用の合金。
【0016】
(4)さらに原子%で、
V:0.1%以上10%以下
を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の接合用の合金。
【0017】
(5)さらに原子%で、
Ni:0.1%以上40%以下
を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の接合用の合金。
【発明の効果】
【0018】
本発明の接合用合金によれば、液相拡散接合における接合部の接合強度と靭性を、従来の接合用合金を使用した場合と比較して、例えば、シャルピー衝撃試験での吸収エネルギー値で2倍程度まで良好な値を示すほど向上させることが可能となる。その結果、液相拡散接合の適用分野拡大が実現できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例における、接合実験を示す図である。
【図2】実施例における、引張試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の接合用合金は、箔形成に重要である非晶質形成能の向上をSiやPを用いることなく実現できる成分系を見出したことに起因するものであり、さらに、接合箔として具備すべき低融点化をも同時に可能とする。箔形成にあたり、非晶質相は箔全体に形成されなくてもよい。しかし、非晶質相の形成される割合が小さすぎると箔の形成が困難になるので、非晶質相の形成される割合は、箔全体の50%以上であることが好ましく、さらに好ましくは70%以上である。
【0021】
接合部の靱性劣化は、接合層の粒界にPが濃縮していることによるものであり、Pの粒界偏析が原因である。本発明の接合用合金は、Pを用いないことでこの靭性の発現を抑制した。さらに、Siを含有しないことで、接合部強度劣化の原因となるSiOの生成を抑制した。
【0022】
以下に成分限定理由を述べる。
【0023】
Bは、6原子%未満では非晶質形成が困難となるため、6原子%以上とし、好ましくは 8原子%以上である。一方、18原子%超では接合部に硼化物を生成し接合強度を低下させるため、18原子%以下とし、好ましくは16原子%以下である。
【0024】
Cも非晶質形成能の向上に重要で、低融点化にも有効な元素である。0.1原子%未満ではそれらの効果は認められず、10原子%超の過度の添加は接合層の特性劣化を招く。よって、Cの含有量を0.1原子%以上10原子%以下とした。なお、Cの含有量は多い方がその効果を発現しやすく、1原子%以上とするのがより好ましい。
【0025】
Alも非晶質形成能に役立つ元素である。0.1原子%未満ではその効果は認められず、5原子%超となるともはやその効果は失われる。よって、Alの含有量を0.1原子%以上5原子%以下とし、好ましくは0.5原子%以上である。
【0026】
なお、母材への熱影響を考慮すると融点は低いほど良く、接合用合金の融点は1200℃以下、さらには1100℃以下が好ましい。
【0027】
Crは、耐食性、耐酸化性を高めるために、必要に応じて添加する。0.1原子%未満ではその効果が不十分であり、20原子%を超えると融点が高くなり好ましくない。したがって、Cr含有量を0.1原子%以上20原子%以下とし、好ましくは1原子%以上18原子%以下である。
【0028】
Vは、被接合材表面の酸化被膜形成物質を低融点物質にする効果がある。例えば、Feを融点が約800℃の低融点複合酸化物V−Feにする効果があり、通常の接合温度では酸化被膜が溶融する。このような酸化物は、溶けると表面張力の差によって球状化するので隙間が生成し、B、C等の拡散元素が自由に拡散できるようになり、酸化雰囲気中でも液相拡散接合を達成できる。
【0029】
V含有量が0.1原子%未満ではこの効果が不十分であり、10原子%超では融点が高くなるので好ましくない。よって、V含有量を0.1原子%以上10原子%以下とし、好ましくは0.5原子%以上8原子%以下である。
【0030】
Niは、低融点化効果があり、さらに箔の形成能を向上させる。Ni含有量が0.1原子%未満ではこの効果が不十分であり、40原子%超ではこの効果が得られなくなるばかりでなく、原料コストが嵩むことになるので好ましくない。よって、Ni含有量を0.1原子%以上40原子%以下とした。なお、Niの含有量は多い方がその効果を発現しやすく、5原子%以上が好ましい。
【0031】
上記元素以外の残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、Mn、S等を0.2原子%程度まで含有しても特段の問題はない。Si、Pについても、それぞれ0.005原子%以下の分析限界程度以下の含有量(通常の不可避的不純物量)であれば、特段問題とはならない。
【0032】
もちろん、接合後の靭性改善の観点から、Pの含有量は極力少ない方が良いが、実際には合金を溶製する際に用いる鉄源やその他の合金類から不可避的不純物として含まれるのは避けられない。しかし、上記の分析限界程度に抑えれば問題なく、特段純度の良い鉄源や合金類を用いて製造コストを嵩張らせなくても、この分析限界程度内に抑えることは可能である。因みに、例えば0.01%程度の極少量のPでも靭性劣化が発現するのは、接合後の結晶粒界での偏析によるPの濃化に起因する。
【0033】
なお、Vを添加することにより酸化雰囲気中での接合が可能となるが、本発明のV添加合金は、酸化雰囲気での使用に特に限定されるものではない。
【0034】
本発明の接合用合金は、液相拡散接合のみならず、いわゆるロウ付け及びロウ接とよばれる接合法にも使用できる。この接合法は一般的に、接合材が溶融したのち、接合材中の拡散元素が被接合材中に拡散する前に固化して接合する方法である。
【0035】
また、本発明の接合用合金は、急冷凝固法として知られている単ロール法や双ロール法等により箔に鋳造し、箔状の接合材として使用することができる。また、形状として箔のほか、用途に応じて粉末等でも使用することができる。さらに、非晶質に限らず、結晶質のものでも用途によっては使用可能である。
【実施例】
【0036】
本発明を実施例に基づいて、以下に詳細に説明する。表1、2に示す各合金について、単ロール法により下記条件で箔を鋳造した。なお、表1、2において、“−”は、含有量が検出限界未満であることを意味する。表3、4に融点及び接合実験の結果を示す。
【0037】
冷却ロール:材質;Cu−1質量%Cr
直径;300mm
幅;50mm
表面速度(周速):25m/s
ノズル−冷却ロール間のギャップ:250μm
ノズル開口形状:0.6mm×25mm
【0038】
各合金は、いずれも、Mn、S等の不純物を0.2原子%程度含んでいる。Si、PはICP分析法で分析した結果、分析限界以下(0.005原子%以下)であった。鋳造時の溶融合金温度は、表3、4に示す融点よりおよそ150℃高い温度とした。各合金の融点はDTA装置により求め、表3、4に示した。
【0039】
鋳造の結果、比較例のNo.38、No.39、No.43、No.49、No.54、No.56、No.57及びNo.59は良好な箔が得られず、以後の接合実験を行うことができなかった。これは、非晶質形成能が低かったことによるものである。
【0040】
表3、4の融点、接合雰囲気、接合強度における“−”は、試験未実施であることを意味する。それ以外は、本発明例、比較例とも問題なく鋳造でき、板厚が30μm程度の良好な箔が得られた。
【0041】
そして、得られた箔を用いて接合実験を行った。接合実験に際しては、直径20mmの円盤状にした箔を2枚重ねて接合材とし、直径20mmのSTK490丸鋼(融点1550℃以上)を被接合材とした。
【0042】
図1に示すように、2本の被接合材1の間に接合材2を挟み込んで接合した。接合温度
は、各接合材2の融点直上から融点+50℃として、雰囲気制御が可能な加熱炉を用いて、表3、4に示すそれぞれの雰囲気で加熱した。加熱中は、被接合材1と接合材2の密着性を高めるため2MPaで加圧した。接合時間はすべて10分とした。
【0043】
接合実験後、接合継手部の引張強度を評価するために引張試験を行った。引張試験に際しては図2に示すように、被接合材1を接合した丸棒3から接合線4を中心としてJIS2号引張試験片5を切り出し、JISA2号引張試験機を用いて引張試験を行った。また、接合実験前の被接合材の母材からも同試験片を切り出して同様に引張試験を行い、接合強度を対母材比(接合部強度/母材強度)で表3、4に示した。
【0044】
さらに、接合後の靱性を評価するために、シャルピー衝撃試験により、継手部の吸収エネルギーの測定を行った。衝撃試験に際しては、引張試験と同様に継手部からJISZ2201号記載の4号衝撃試験片を切り出し、JISZ2201号記載の要領で行った。衝撃試験の温度は0℃とし、得られた結果は表3、4に示した。
【0045】
表3、4に示したように、本発明例はいずれも、対母材比で1.0を超える高い引張強度を示し、同時に吸収エネルギーが150Jを超える優れた靱性が得られた。高い靱性を示したのは、Pを含有させなかったことにより脆化を抑制できたためと考えられる。
【0046】
これに対して、表3、表4に示したように、比較例では衝撃試験での吸収エネルギーで150Jを超えるものがあったが、引張強度の対母材比が1.0超となるものはなく、接合強度と靭性の両者を満足するものはなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0051】
複雑な接合形状を有する各種部品や構造物等の材料の接合において、液相拡散接合は接合温度の低下や、一度に広い接合も可能とすることから、コスト・時間の削減の観点から産業上有益な接合方法である。本発明の接合用合金箔を用いることにより、この液相拡散接合の適用先拡大すなわち、接合コストの低減を広い範囲で可能とすることが実現できる。
【符号の説明】
【0052】
1 被接合材
2 接合材
3 接合後の丸鋼
4 接合線
5 引張試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、
B :6%以上18%以下、
C :0.1%以上10%以下
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする接合用の合金。
【請求項2】
さらに原子%で、
Al:0.1%以上5%以下
を含有することを特徴とする請求項1項に記載の接合用の合金。
【請求項3】
さらに原子%で、
Cr:0.1%以上20%以下
を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の接合用の合金。
【請求項4】
さらに原子%で、
V :0.1%以上10%以下
を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合用の合金。
【請求項5】
さらに原子%で、
Ni:0.1%以上40%以下
を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合用の合金。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−284721(P2010−284721A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37644(P2010−37644)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】