説明

接合膜の保存方法および接合膜の保存装置

【課題】接合膜に発現した接着性を長期にわたって保存可能な接合膜の保存方法および接合膜の保存装置を提供すること。
【解決手段】本発明の接合膜の保存方法は、シロキサン結合302を含む原子構造と、シロキサン結合302に結合し有機基からなる脱離基303とを含む接合膜3を基材2上に成膜してなる接合膜付き基材1について、接合膜3にエネルギーが付与され、活性化した状態を保存する方法であって、接合膜にエネルギーが付与された接合膜付き基材を、非酸化性ガス雰囲気中に保持することを特徴とする。なお、活性化状態にある接合膜3は、接着性を発現し、所望の被着体と接合することができる。非酸化性ガスとしては、窒素ガスおよび希ガスが好ましい。また、エネルギーの付与も非酸化性ガス雰囲気中で行うのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーの付与により接着性を発現する接合膜の保存方法および接合膜の保存装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材(基材)同士を接合(接着)する方法として、特許文献1には、プラズマ重合法により形成された接合膜を介して部材同士を接合する方法が提案されている。
上記方法では、各部材表面にプラズマ重合膜を成膜し、各プラズマ重合膜にエネルギーを付与して活性化させることにより接着性を発現させ、部材同士を重ね合わせることでこれらを接合する。
ところが、活性化され、接着性が発現したプラズマ重合膜を大気中に放置していると、経時的に接着性が低下する。このため、プラズマ重合膜に接着性を発現させた後は、速やかに部材同士を重ね合わせ、接合させなければならない。
【0003】
このような制約があることから、例えば複数のプラズマ重合膜に対してまとめて活性化プロセスを行うことでストックを確保し、その後の接合プロセスは、このストックから必要な数のプラズマ重合膜を取り出して必要なときに行うといったことはできない。すなわち、活性化プロセスの効率化を図ることができないという問題がある。また、活性化のプロセスとその後の接合プロセスとの間は、長時間空けることができないため、両プロセスを地理的に近い場所で行わなければならず、部材の動線に著しい制約を伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−307873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、接合膜に発現した接着性を長期にわたって保存可能な接合膜の保存方法および接合膜の保存装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合膜の保存方法は、シロキサン結合を含む原子構造と、前記シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含む接合膜を基材上に成膜してなる接合膜付き基材について、前記接合膜にエネルギーが付与され、活性化した状態を保存する方法であって、
前記接合膜にエネルギーが付与された前記接合膜付き基材を、非酸化性ガス雰囲気中に保持することを特徴とする。
これにより、接合膜に発現した接着性を長期にわたって保存することができる。
【0007】
本発明の接合膜の保存方法では、前記非酸化性ガス雰囲気の温度は、−20℃以上30℃以下であることが好ましい。
これにより、保存中の接合膜の変質・劣化をより確実に抑制することができる。
本発明の接合膜の保存方法では、前記非酸化性ガス雰囲気における非酸化性ガスの濃度は、90体積%以上であることが好ましい。
これにより、接合膜の活性化状態の劣化をより確実に抑制することができる。
【0008】
本発明の接合膜の保存方法では、前記非酸化性ガスは、窒素ガスおよび希ガスの少なくとも一方であることが好ましい。
これらは、入手が容易でかつ安全であるにもかかわらず、接合膜の活性化状態の劣化をより確実に抑制することができるので、本発明において用いられる非酸化性ガスとして有用である。
【0009】
本発明の接合膜の保存方法では、前記非酸化性ガス雰囲気の全圧は、大気圧以上であることが好ましい。
これにより、外部の大気が接合膜の周辺に流入するおそれがなくなるので、接合膜の周辺を常に非酸化性ガス雰囲気に維持することができる。
本発明の接合膜の保存方法では、前記接合膜付き基材の前記接合膜にエネルギーを付与し、活性化させる第1の工程と、
前記第1の工程を経た前記接合膜付き基材を、前記非酸化性ガス雰囲気中に保持する第2の工程と、を有し、
前記第1の工程を非酸化性ガス雰囲気中で行い、前記雰囲気を変えることなく、前記第2の工程を行うことが好ましい。
これにより、エネルギーが付与された直後から始める活性化状態の劣化をも抑制することができる。
【0010】
本発明の接合膜の保存方法では、前記第1の工程と前記第2の工程の間において、前記接合膜付き基材を減圧雰囲気中に保持することが好ましい。
これにより、接合膜の表面に吸着した酸化性ガス分子を除去することができるので、この酸化性ガス分子による活性化状態の劣化を抑制することができる。
本発明の接合膜の保存装置は、シロキサン結合を原子構造と、前記シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含む接合膜を基材上に成膜してなる接合膜付き基材について、前記接合膜にエネルギーを付与した後、これを保存する装置であって、
密閉構造を備え、内部に前記接合膜付き基材を収納可能なケースと、
前記ケース内に非酸化性ガスを供給するガス供給部と、
前記ケース内の非酸化性ガスの濃度および前記ケース内の全圧を測定するガス検知部と、
前記ガス検知部により測定された前記ケース内の非酸化性ガスの濃度または前記ケース内の全圧が所定の値を下回ったときに、前記ケース内への非酸化性ガスの供給を開始するかまたは供給量を増やすよう、前記ガス供給部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
これにより、接合膜に発現した接着性を長期にわたって保存可能な接合膜の保存装置が得られる。
【0011】
本発明の接合膜の保存装置では、前記ケース内を排気する排気手段を有し、
前記制御部は、前記ケース内を排気した後、続いて前記ケース内に非酸化性ガスを供給するよう、前記排気手段および前記ガス供給部を制御することが好ましい。
これにより、接合膜の表面に吸着した酸化性ガス分子を除去することにより、この酸化性ガス分子による活性化状態の劣化を抑制可能な接合膜の保存装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す断面図(部分拡大図を含む)である。
【図2】本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す断面図(部分拡大図を含む)である。
【図3】接合膜付き基材と被着体とを接合する方法を説明するための図(断面図)である。
【図4】本発明の接合膜の保存装置の第1実施形態を模式的に示す図(上面図)である。
【図5】本発明の接合膜の保存装置の第2実施形態を模式的に示す図(上面図)である。
【図6】各実施例および各比較例について活性化状態の保存能力を評価するための接合強度の経時変化を示すグラフである。
【図7】各実施例および各比較例について活性化状態の保存能力を評価するための接合強度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の接合膜の保存方法および接合膜の保存装置を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の接合膜の保存方法において保存の対象とされる接合膜は、エネルギーを付与することにより、接着性を発現するものである。
ところが、この接着性は、周囲の環境によって大きな影響を受ける。例えば、エネルギーを付与した接合膜を大気中に放置していると、この接着性が徐々に失われ、接合したとしても十分な接合強度が得られないという問題があった。
かかる問題について、本発明者は鋭意検討を重ね、接合膜に発現した接着性の低下を長期にわたって抑制可能な保存方法を見出し、本発明を完成するに至った。
まず、本発明の接合膜の保存方法の説明に先立ち、保存の対象である接合膜を備えた接合膜付き基材について説明する。
【0014】
(接合膜付き基材)
図1は、本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す断面図(部分拡大図を含む)、図2は、本発明の接合膜付き基材が備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す断面図(部分拡大図を含む)である。なお、以下の説明では、図1、2中の上側を「上」、下側を「下」という。
図1に示す接合膜付き基材1は、基材2と、基材2上に成膜された接合膜3とを有するものである。このような接合膜付き基材1は、接合膜3に発現した接着性を利用して、所望の被着体に接合される。その結果、接合膜3を介して基材2と被着体とを接合してなる接合体が得られる。
【0015】
以下、各部の構成について詳述する。
基材2は、接合膜3を支持するものであり、その形状は特に限定されないものの、例えば基板状(シート状)のものである。
基材2の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、各種樹脂系材料、各種金属系材料、各種シリコン系材料、各種ガラス系材料、各種セラミックス系材料、各種炭素系材料等が挙げられ、これらの各材料の2種以上を組み合わせた複合材料を用いることもできる。
【0016】
なお、基材2は、必要に応じて、接合膜3側に剥離層を有していてもよい。この剥離層は、接合膜3を基材2から容易に剥離させることのできるものであり、接合膜付き基材1を被着体に接合した後、基材2を剥離することで、接合膜3のみを被着体側に転写することを可能にする。
剥離層としては、例えば、フッ素系樹脂、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の各種樹脂材料が挙げられる。
【0017】
また、剥離層は、その表面エネルギー(表面自由エネルギー)が、被着体の表面エネルギーより小さいものであるのが好ましい。これにより接合膜3は、被着体に対して相対的に強固に密着する一方、剥離層との間で優先的に剥離する。その結果、接合膜3を被着体側に確実に転写することができる。
なお、被着体側に転写された接合膜3は、その剥離面に対してエネルギーを付与することにより、別の被着体に対して接合可能になる。したがって、接合膜3を介して被着体と別の被着体とを接合し、接合体を得ることができる。
【0018】
接合膜3は、図1に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含むSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。このような接合膜3は、その原子構造がランダムであるため、アモルファスと同様の特性を示し、変形し難く強固な膜となる。これは、接合膜3の原子構造の結晶性が低い(非晶質である)ため、結晶粒径における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、接合膜3自体が接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体においても、接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
【0019】
このような接合膜3にエネルギーが付与されると、脱離基303がSi骨格301から脱離し、図2に示すように、接合膜3の表面および内部に活性手304が生じる。そして、これにより、接合膜3の表面に接着性が発現する。かかる接着性を利用して接合膜付き基材1と被着体とを接合することができる。
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい。これは、シロキサン結合302の結合エネルギーが、約430kJ/molと他の結合種と比べてもかなり大きいからであり、したがって、接合膜3にエネルギーが付与されると、Si骨格301が破壊されるのを防止しつつ、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
【0020】
また、このような接合膜3は、比較的無機材料に近い構造を有していることなどから、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、接合膜3の厚さや形状がほとんど変化せず、接合体の寸法精度は従来に比べて格段に高いものとなる。
なお、接合膜3が固体状であるため、接合膜付き基材1は、保存または流通等の観点で取り扱いが容易であるという利点もある。
【0021】
また、接合膜3においては、特に接合膜3を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上90原子%以下程度であるのが好ましく、20原子%以上80原子%以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜3はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜3自体が強固なものとなり、被着体に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0022】
また、接合膜3中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上7:3以下程度であるのが好ましく、4:6以上6:4以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜3の安定性が高くなり、被着体に対してより強固に接合することができるようになる。
また、接合膜3中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなり、より非晶質的な特性を示す。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜3の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
【0023】
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
このうち、簡便性等の観点からX線法が好ましく用いられる。
【0024】
また、Si骨格301の結晶化度を測定する際には、接合膜3に対して上述の測定方法を適用すればよいが、接合膜3にエネルギーを付与した後に測定しても、ほぼ同様の測定結果が得られる。
また、接合膜3は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301を効率よく形成することができる。
【0025】
一方、接合膜3中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001以上0.2以下程度であるのが好ましく、0.002以上0.05以下程度であるのがより好ましく、0.005以上0.02以下程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜3中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜3は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0026】
また、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜3に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
なお、プラズマ重合法による成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とを生成するが、例えばこの残基が脱離基303となり得る。
【0027】
かかる観点から、脱離基303には、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜3の接着性をより高度なものとすることができる。
【0028】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0029】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特に有機基であるのが好ましく、アルキル基であるのがより好ましい。有機基およびアルキル基は化学的な安定性が高いため、有機基およびアルキル基を含む接合膜3は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
ここで、脱離基303が特にメチル基(−CH)である場合、その好ましい含有率は、赤外光吸収スペクトルにおけるピーク強度から以下のように規定される。
【0030】
すなわち、接合膜3の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基に帰属するピークの強度は、0.05以上0.45以下程度であるのが好ましく、0.1以上0.4以下程度であるのがより好ましく、0.2以上0.3以下程度であるのがさらに好ましい。メチル基のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜3中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜3に十分な接着性が生じる。また、接合膜3には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
このような特徴を有する接合膜3の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合とそれに結合した脱離基303となり得る有機基とを含む重合物等が挙げられる。
【0031】
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、基材2に対して特に強固に被着するとともに、被着体に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基材と被着体とを強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
【0032】
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれた有機基(例えばアルキル基)による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜3は、エネルギーを付与されることにより接着性が発現するとともに、表面以外の部分においては、前述した有機基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような接合膜3は耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような部材の組み立てに際して、有効に用いられるものとなる。
【0033】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜3は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0034】
このような接合膜3の平均厚さは、1nm以上1000nm以下程度であるのが好ましく、2nm以上800nm以下程度であるのがより好ましい。接合膜3の平均厚さを前記範囲内とすることにより、接合体の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、基材2と被着体とをより強固に接合することができる。
すなわち、接合膜3の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜3の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、接合体の寸法精度が低下するおそれがある。
【0035】
さらに、接合膜3の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜3にある程度の形状追従性が保たれる。このため、例えば、基材2の接合面(接合膜3に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜3を被着させることができる。その結果、接合膜3は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができ、接合体の密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜3の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜3の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0036】
以上、接合膜3について詳述したが、このような接合膜3はいかなる方法で作製されたものであってもよく、プラズマ重合法、CVD法(特にプラズマCVD法)、PVD法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により作製することができる。これらの中でも、プラズマ重合法によれば緻密で均質な接合膜3を効率よく作製することができる。また、プラズマ重合法で作製された接合膜3では、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、本発明の接合膜の保存方法によれば、その状態をさらに長期にわたって維持することができる。
【0037】
ここで、プラズマ重合法により接合膜3を製造する方法について説明する。
プラズマ重合法は、強電界中に原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子をプラズマの作用により重合させ、重合物を基材2上に堆積させる成膜方法である。この方法によれば、プラズマの作用により基材2表面が活性化、清浄化されるため、基材2の種類によらず密着性の高い接合膜3を成膜することができる。
【0038】
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
一方、キャリアガスには、例えば、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等が用いられる。
【0039】
また、強電界は、電極に高周波電圧を印加することにより形成されるが、この高周波電圧の出力密度は、0.01W/cm以上100W/cm以下程度であるのが好ましい。
また、成膜は減圧下で行われ、その圧力は、133.3×10−5Pa以上1333Pa以下(1×10−5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましく、133.3×10−4Pa以上133.3Pa以下(1×10−4Torr以上1Torr以下)程度であるのがより好ましい。
以上のようにして接合膜3を得ることができる。
【0040】
(接合方法)
次いで、上述したような接合膜付き基材1を被着体4に接合して接合体を得る方法について説明する。
図3は、接合膜付き基材と被着体とを接合する方法を説明するための図である。なお、以下の説明では、図3中の上側を「上」、下側を「下」という。
この接合方法は、接合膜付き基材1の接合膜3にエネルギーを付与し、接合膜3の表面を活性化させる工程と、接合膜3と被着体4とが密着するように接合膜付き基材1と被着体4とを重ね合わせ、接合体5を得る工程とを有する。以下、各工程について順次説明する。
【0041】
<1>まず、接合膜付き基材1と被着体4とを用意する(図3(a)参照)。被着体4の接合面には、あらかじめプラズマ処理、紫外線照射処理等の下地処理を施しておいてもよい(図3(b)参照)。
<2>次いで、接合膜3にエネルギーを付与する(図3(b)参照)。その方法としては、例えば、エネルギー線を照射する方法、加熱する方法、圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられ、特にエネルギー線を照射する方法、プラズマに曝す方法が好ましい。
【0042】
なお、エネルギー線としては、紫外線、X線のような電磁波、電子ビーム、イオンビームのような粒子線等が挙げられる。
このうち、波長126nm以上300nm以下の紫外線を照射するのが好ましい。かかる紫外線によれば、接合膜3の特性の著しい低下を防止しつつ、より短時間に接着性を発現させることができる。
【0043】
また、紫外線を照射する時間は、特に限定されないが、0.5分以上30分以下であるのが好ましく、1分以上10分以下であるのがより好ましい。
一方、プラズマに曝す処理は、接合膜3の表面近傍を局所的に活性化することができる点で有用である。すなわち、活性化処理によって基材2を劣化させるおそれが少ない。
このようにしてエネルギーが付与され、活性化された接合膜3の表面には、ダングリングボンドが生じたり、水酸基(OH基)等の活性手が導入される。なお、前述の「活性化させる」とは、このようにダングリングボンドが生じた状態、水酸基が結合した状態、またはこれらが混合した状態のことをいう。
【0044】
このような活性化状態では、例えば接合膜3の表面に露出した水酸基と、被着体の表面に露出した水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。
また、水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって脱水縮合する。その結果、水素結合は、酸素原子を介した共有結合へと変化し、より強固な結合に至る。
【0045】
なお、金属材料、セラミックス材料等の表面には、空気中の水分の影響で自然に水酸基が導入されるので、これを利用して接合を行うことができる。また、上述したような下地処理により、被着体4の表面を活性化させ、活性手を露出させることができる。
また、本実施形態では、接合膜3を基材2側に設ける場合について説明しているが、被着体4側にも接合膜3を成膜するようにしてもよい。すなわち、接合膜3同士が密着するように接合してもよい。
この場合、接合界面にはそれぞれ活性手がより高密度に導入されるので、より強固な接合が可能になる。
なお、後に説明するが、本発明の接合膜の保存方法および接合膜の保存装置は、接合膜3の上記活性化状態を維持するように保存することを目的とするものである。
【0046】
<3>次いで、図3(c)に示すように、接合膜3と被着体4とが密着するように接合膜付き基材1と被着体4とを重ね合わせる。これにより、図3(d)に示す接合体5を得る。
その後、必要に応じて、接合体5に対して加熱、圧縮等の処理を行うことにより、接合体5の接合強度をより高めることができる。
【0047】
(接合膜の保存方法)
ここで、本発明の接合膜の保存方法について説明する。
本発明の接合膜の保存方法は、前述したように、接合膜3がその活性化状態を長期にわたって維持するように保存する方法である。
本発明の接合膜の保存方法は、エネルギーが付与され、活性化された状態にある接合膜3を有する接合膜付き基材1を、非酸化性ガス雰囲気中に保持することを特徴とする。
本実施形態では、接合膜付き基材1の接合膜3にエネルギーを付与する第1の工程と、接合膜3にエネルギーが付与された接合膜付き基材1を、非酸化性ガス雰囲気中に保持する第2の工程と、を有する保存方法について説明する。
【0048】
[1]まず、前述したようにして接合膜3にエネルギーを付与する。これにより、接合膜3は前述した活性化状態になる(第1の工程)。
活性化状態にある接合膜3は、大気中に放置すると経時的に活性化状態が劣化し、最終的には活性化状態でなくなる。こうなると接合膜3は接着性を失うため、被着体4との接合に用いることができない。
【0049】
具体的には、活性化状態にある接合膜3をわずか3時間程度、大気中に放置すると、接合膜3の接着性、すなわち接合膜付き基材1と被着体4とを接合してなる接合体5の接合強度は約半分に低下する。接合膜3は、このように活性化状態の劣化が非常に速いため、活性化状態にある接合膜3を大量に製造しておくことができないということが課題となっていた。この課題は、接合体5の製造工程に多くの制約をもたらす。
【0050】
例えば、大量の接合膜3に対して一括して活性化処理を行うことができず、接合体5の製造効率が著しく低くなる。
また、接合膜3にエネルギーを付与した後、すぐに被着体4との接合を行う必要があるため、これらの工程は地理的に近い場所で行わなければならない。このため、基材2や被着体4の動線に著しい制約を伴うという問題もあった。
【0051】
[2]そこで、本発明では、活性化状態にある接合膜3を非酸化性ガス雰囲気中に保持することで、接合膜3を保存する(第2の工程)。
この方法によれば、接合膜3の活性化状態の劣化を抑制し、接合膜3の接着能力を長期にわたって維持することができる。
ここで、上述した非酸化性ガス雰囲気としては、非酸化性を示す雰囲気であれば特に限定されないが、例えば、アルゴンガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気のような希ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気、水素、一酸化炭素等の還元性ガス雰囲気等が挙げられる。このうち、不活性ガス雰囲気が好ましく用いられ、その中でも窒素ガス雰囲気および希ガス雰囲気の少なくとも一方がより好ましく用いられる。これらは、入手が容易でかつ安全であるにもかかわらず、接合膜3の活性化状態の劣化をより確実に抑制することができるので、本発明において用いられる非酸化性ガスとして有用である。
【0052】
なお、非酸化性ガス雰囲気には、上述した非酸化性ガス以外に、酸素、オゾン等の酸化性ガスの不可避的な混入は許容されるが、その許容濃度は、好ましくは10体積%以下であり、より好ましくは5体積%以下である。換言すれば、非酸化性ガス雰囲気中における非酸化性ガスの濃度は、90体積%以上であるのが好ましく、95体積%以上であるのがより好ましい。
【0053】
また、非酸化性ガス雰囲気の露点は、できるだけ低い方がよいが、好ましくは0℃以下、より好ましくはー10℃以下とされる。これにより、水蒸気の影響による接合膜3の活性化状態の劣化も抑制することができる。
また、非酸化性ガス雰囲気の温度は、好ましくは−20℃以上30℃以下とされ、より好ましくは0℃以上20℃以下とされる。非酸化性ガス雰囲気の温度をこの範囲に保つことで、接合膜3の変質・劣化をより確実に抑制することができる。
【0054】
なお、非酸化性ガス雰囲気の温度を前記下限値未満としてもよいが、接合膜3の変質・劣化をそれ以上抑制することができないばかりか、温度の維持に多大なエネルギーを要するおそれがある。
このような非酸化性ガス雰囲気の全圧は、大気圧以上であるのが好ましい。これにより、外部の大気が、接合膜3の周辺に流入するおそれがなくなるので、接合膜3の周辺を常に非酸化性ガス雰囲気に維持することができる。
なお、後に詳述するが、第2の工程は、非酸化性ガスを充填した容器内に接合膜3を収納することで行うのが一般的であるが、接合膜3の周辺に向けて非酸化性ガスを継続的に吹き付けるようにしてもよい。この場合、容器を省略することができる。
【0055】
以上のようにすれば、活性化状態にある接合膜3を長期にわたって保存することができる。これにより、活性化状態にある接合膜3の大量ストックが可能になり、接合体5の製造効率を高めることができる。また、本発明によれば、活性化状態にある接合膜3を保存しつつ、任意の場所に持ち運ぶことができるので、接合膜3にエネルギーを付与する第1の工程と、接合体5を得る第2の工程とを、それぞれ異なる場所で行うことができるようになる。
【0056】
ここで、第1の工程におけるエネルギーの付与は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよいが、好ましくは上述した非酸化性ガス雰囲気中で行われる。このようにすれば、第2の工程だけでなく第1の工程においても、接合膜3の活性化状態を維持することができる。これは、第1の工程で接合膜3にエネルギーを付与し、活性化されると、その直後から活性化状態の劣化が始まるためであり、第1の工程も非酸化性ガス雰囲気中で行うことにより、第2の工程のみでなく、第1の工程における活性化状態の劣化をも抑制することができる。
この場合、第1の工程から第2の工程にかけて、継続的に非酸化性ガス雰囲気中で行えばよい。
【0057】
なお、この場合、第1の工程における非酸化性ガス雰囲気の相対湿度は、第2の工程におけるそれより高いことが好ましい。これにより、第1の工程では、接合膜3への水酸基の導入が促進され、より良好な活性化状態が形成される一方、第2の工程では、活性化状態の劣化がより確実に抑制されることとなる。
この際、第1の工程の相対湿度と第2の工程の相対湿度の差は、10%以上であるのが好ましく、20%以上であるのがより好ましい。
【0058】
また、第1の工程におけるエネルギーの付与は、減圧雰囲気中で行うようにしてもよい。減圧雰囲気であれば、接合膜3の表面に吸着した酸化性ガス分子を除去することができるので、この酸化性ガス分子による活性化状態の劣化を抑制することができる。
さらには、第1の工程と第2の工程との間、すなわち、接合膜3にエネルギーを付与した後、非酸化性ガス雰囲気中に保持するまでの間で、接合膜3を減圧雰囲気中に保持する工程を設けるのが好ましい。このようにすれば、上記と同様、接合膜3に吸着した酸化性ガス分子を除去することができる。
上記減圧雰囲気の圧力は、好ましくは10kPa以下とされ、より好ましくは1kPa以下とされる。
【0059】
また、接合膜3を減圧雰囲気中に保持する時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは10秒以上とされる。
なお、この際、接合膜3の温度を高めるようにすれば、酸化性ガス分子の除去が促進される。加熱温度は、30℃以上80℃以下程度であるのが好ましく、40℃以上70℃以下程度であるのがより好ましい。
【0060】
(接合膜の保存装置)
次いで、接合膜3を備える接合膜付き基材1を保存する装置(本発明の接合膜の保存装置)について説明する。
<第1実施形態>
まず、第1実施形態について説明する。
図4は、本発明の接合膜の保存装置の第1実施形態を模式的に示す図(上面図)である。
【0061】
図4に示す接合膜の保存装置100は、密閉構造を備えるケース110と、ケース110内に非酸化性ガスを供給するガス供給部120と、ケース110内の非酸化性ガスの濃度およびケース110内の全圧を測定するガス検知部130と、ガス供給部120の動作を制御する制御部140とを有する。以下、各部について詳細に説明する。
ケース110は、密閉構造を備え、接合膜付き基材1を収納可能な容器であれば、いかなるものでもよい。ケース110の構成材料としては、例えば、各種樹脂材料、各種金属材料、各種ガラス材料等が挙げられる。このうち、透明な材料であれば、外部からケース110内を視認し、接合膜付き基材1の有無や接合膜3の状態等を目視または撮像装置等で確認することができるので有用である。
【0062】
なお、ケース110の密閉構造は、真空チャンバーのような高度な気密性を有するものでもよいが、これほどの高度な気密性を有していなくてもよい。具体的には、部材同士を接着剤で接着して得られる程度の気密性であってもよい。
また、ケース110には、開閉可能な開閉扉111が設けられている。この開閉扉111を介して接合膜付き基材1を容易に出し入れすることができる。
【0063】
ガス供給部120は、非酸化性ガスを貯留するガスボンベ121と、ガスボンベ121からの非酸化性ガスをケース110内に送気する配管122と、配管122の途中に設けられたバルブ123とを備えている。
ガスボンベ121は、高い圧力でケース110内に非酸化性ガスを供給する。このガスボンベ121は、内部で化学反応を起こして非酸化性ガスを発生させるガス発生器で代替することもできる。
【0064】
バルブ123としては、手動バルブでもよいが、電磁バルブ、マスフローコントローラー等を用いるのが好ましい。これにより、配管122を通過する非酸化性ガスの流量を外部から電気的に制御することができる。
ガス検知部130は、ケース110内の非酸化性ガスの濃度およびケース110内の全圧を測定するセンサーであり、例えば濃度を測定する濃度センサーと、全圧を測定する圧力センサーとの組み合わせで構成される。
【0065】
濃度センサーとしては、非酸化性ガスの濃度を直接測定する非酸化性ガスセンサーであってもよく、酸化性ガスの濃度を測定する酸化性ガスセンサーで酸化性ガスの濃度を測定し、その測定値から非酸化性ガスの濃度を逆算して求めるものであってもよい。濃度センサーには、半導体方式、熱線型半導体方式等のいかなる方式のものも用いられる。
一方、圧力センサーとしては、セラミック圧電型、薄膜型、ピエゾ抵抗型、半導体ピエゾ抵抗型等の圧力センサーを用いることができる。
【0066】
制御部140は、ガス供給部120およびガス検知部130と電気的に接続され、ガス検知部130による測定値を取得し、この測定値に基づいてガス供給部120の動作を制御する。
具体的には、制御部140は、ガス検知部130で測定された非酸化性ガスの濃度の測定値、または、ケース110内の全圧の測定値を取得する。そして、濃度および全圧についてあらかじめ設定されたしきい値との比較を行い、濃度または全圧のいずれかがしきい値を下回ったときに、ケース110内への非酸化性ガスの供給が開始されるか、または供給量を増やすように、ガス供給部120の動作を制御する。制御部140により制御されるのは、例えば、バルブ123の開閉量である。
上記のような制御を行うことにより、接合膜付き基材1の周囲は、非酸化性ガスの濃度と雰囲気の全圧の双方が、活性化状態の劣化を抑制するのに最適な条件に維持される。このため、上記接合膜の保存装置100を用いることにより、活性化状態にある接合膜3を長期にわたって保存することができる。
【0067】
また、制御部140による測定値の取得は、例えば1分おき、1時間おき、1日おきなど、定期的に行われる。これにより、ケース110内の条件を定期的に調査し、それに基づいて非酸化性ガスの追加が行われる。その結果、常時、濃度および全圧をしきい値以上に高めることができる。なお、測定値の取得間隔は、ケース110の気密構造の気密性に応じて適宜設定すればよい。
また、ガス供給部120、ガス検知部130および制御部140は、それぞれ携帯可能な電源で駆動するものでもよい。これにより、接合膜の保存装置100全体が移動可能になるため、接合膜3の活性化状態を保存しつつ、接合膜付き基材1を任意の場所に搬送することができる。その結果、接合体5の製造工程における地理的制約を解消することができる。
【0068】
携帯可能な電源としては、例えば、各種一次電池、各種二次電池、太陽電池等が挙げられる。
制御部140には、例えば、LSI、パーソナルコンピューター等を用いることができる。制御部140は、濃度および全圧のしきい値があらかじめ保存していてもよく、入力手段によりその都度しきい値が入力されるよう構成されていてもよい。なお、このしきい値としては、前述した濃度および全圧の好ましい値が相当する。
【0069】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の接合膜の保存装置の第2実施形態を模式的に示す図(上面図)である。
以下、第2実施形態について説明するが、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。なお、図5において、第1実施形態と同様の構成部分については、先に説明した図4と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0070】
第2実施形態は、さらに、ケース110内のガスを排気する排気ポンプ151と、ケース110と排気ポンプ151とを接続する配管152とを備える排気手段150を有する以外は、前記第1実施形態と同様である。
排気ポンプ151は、例えば、油回転ポンプ、油拡散ポンプ、ターボ分子ポンプのような真空ポンプ、各種排気ファン、各種掃除機等の単体または組み合わせで構成される。
また、制御部140は、この排気ポンプ151の動作を電気的に制御可能になっている。
【0071】
例えば、ケース110内に活性化状態にある接合膜3を備えた接合膜付き基材1を配置する。この接合膜付き基材1の配置は、前述した開口部を介して行う。
次いで、排気ポンプ151によりケース110内のガスを排気すると、ケース110内が減圧雰囲気になる。このとき、排気ポンプ151は、開閉扉111の閉操作に連動して起動するよう制御される。これにより、ケース110内を速やかに減圧し、接合膜3に吸着していた酸化性ガス等を除去することができる。また、開閉扉111を開操作したときにケース110内に流入した外気についても、接合膜3やケース110の内壁に吸着する前に速やかに除去することができる。
【0072】
ケース110内の減圧が完了した後、排気ポンプ151の動作を停止するとともに、ガス供給部120によるガスの供給を開始する。
以下、第1実施形態と同様にして、ケース110内を非酸化性ガス雰囲気に維持する(第2の工程を行う)ことにより、活性化状態にある接合膜3を長期にわたって保存することができる。
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の作用、効果が得られる。
【0073】
また、それに加え、接合膜3とともにケース110内に持ち込まれた吸着物や、接合膜付き基材1をケース110内に配置する際に流入した外気についても、効率よく除去することができるので、活性化状態の劣化をより確実に抑制することができる。
以上、本発明の接合膜の保存方法および接合膜の保存装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の接合膜の保存方法では、前記実施形態の構成に限定されず、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。
【0074】
また、本発明の接合膜の保存装置では、各部の構成は、同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
また、接合膜3に対するエネルギーの付与(第1の工程)を、ケース110内で行うようにしてもよい。これにより、第1の工程から第2の工程にかけて、継続的に非酸化性ガス雰囲気中で行うことができる。
【実施例】
【0075】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合膜付き基材の保存
(実施例1)
<1>まず、シリコン基板(基材)を用意し、その表面に酸素プラズマによる表面処理を施した。
次いで、シリコン基板を、プラズマ重合装置の真空チャンバー内に配置し、平均厚さ150nmのプラズマ重合膜を成膜した。これにより、シリコン基板上にプラズマ重合膜を成膜してなる接合膜付き基材を複数個得た。なお、成膜条件は以下に示す通りである。
【0076】
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:100sccm
・高周波電力の出力 :100W
・高周波出力密度 :25W/cm
・チャンバー内圧力 :1Pa(低真空)
・処理時間 :15分
・基板温度 :20℃
これにより、接合膜を形成した。
【0077】
<2>次に、得られた接合膜に、以下に示す条件で紫外線を照射し、接合膜を活性化させた(第1の工程)。
<紫外線照射条件>
・雰囲気の組成 :窒素ガス(濃度:99.9体積%)
・雰囲気の温度 :20℃
・雰囲気の圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
【0078】
<3>次に、得られた接合膜付き基材を、図5に示す接合膜の保存装置のケース内に配置した。
次いで、ケース内を1kPaまで減圧し、10秒間保持した後、窒素ガスを供給した。なお、窒素ガス供給完了後のケース内雰囲気の条件は、以下の通りである。
<ケース内雰囲気条件>
・雰囲気の組成 :窒素ガス(濃度:99.9体積%)
・雰囲気の温度 :10℃
・雰囲気の圧力 :105kPa
<4>次に、ケース内雰囲気条件を上記の条件に維持した状態で、120時間保持した(第2の工程)。
【0079】
(実施例2)
<2>および<3>における雰囲気の組成をアルゴンガス(濃度:99.9体積%)に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
(実施例3)
<3>における雰囲気の温度を35℃に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保存した。
【0080】
(実施例4)
<3>における雰囲気の組成を窒素ガス(濃度:95体積%)に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
(実施例5)
<3>における雰囲気の組成を窒素ガス(濃度:90体積%)に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
【0081】
(実施例6)
<3>における雰囲気の組成を窒素ガス(濃度:85体積%)に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
(実施例7)
<3>において、図4に示す接合膜の保存装置を用い、減圧プロセスを省略した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
(実施例8)
<3>において、雰囲気の圧力を大気圧(100kPa)に変更した以外は、実施例8と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
【0082】
(比較例1)
<3>における雰囲気の組成を大気に変更した以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
(比較例2)
保存装置を用いることなく、大気(25℃)中に放置するようにした以外は、実施例1と同様にして活性化状態にある複数個の接合膜を120時間保持した。
以上、各実施例および各比較例における接合膜付き基材の条件を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
2.活性化状態にある接合膜の保存能力の評価
各実施例および各比較例において、複数個の接合膜を120時間保持している途中、0.1時間経過後、1時間経過後、3時間経過後、および24時間経過後にそれぞれ3個ずつ接合膜付き基材を抜き取り、別に用意したシリコン基板に接合した。これにより接合体を得た。
【0085】
また、120時間経過後の接合膜付き基材についても、同様に接合体を得た。
次いで、得られた接合体について、それぞれの引き剥がしに要する荷重[単位:kgf]を測定し、測定された荷重の最大値を接合強度とした。そして、経過時間ごとに3つの接合強度のデータの平均値を求めた。
次いで、横軸を経過時間、縦軸を接合強度として、求めた接合強度の平均値をプロットした。そして、各測定値の対数近似を行い、得られた近似線を図6、7に示す。
【0086】
図6では、各比較例に比べて、各実施例では、長時間保存しても接合強度の低下が抑えられていることが認められる。特に、保存開始前に接合膜を減圧雰囲気中に保持したり、低温(10℃)下または大気圧超で保存することにより、その傾向が顕著になることが明らかとなった。
また、図7では、非酸化性ガス濃度を高めることにより、長期間保存しても接合強度の低下を抑えられることが認められる。特に、非酸化性ガス濃度を90体積%以上とすることにより、その傾向が顕著であった。
一方、図6、7からは、酸化性ガス雰囲気中で保存した場合、接合強度が著しく低下することが認められた。
【符号の説明】
【0087】
1……接合膜付き基材 2……基材 3……接合膜 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 4……被着体 5……接合体 100……接合膜の保存装置 110……ケース 111……開閉扉 120……ガス供給部 121……ガスボンベ 122……配管 123……バルブ 130……ガス検知部 140……制御部 150……排気手段 151……排気ポンプ 152……配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン結合を含む原子構造と、前記シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含む接合膜を基材上に成膜してなる接合膜付き基材について、前記接合膜にエネルギーが付与され、活性化した状態を保存する方法であって、
前記接合膜にエネルギーが付与された前記接合膜付き基材を、非酸化性ガス雰囲気中に保持することを特徴とする接合膜の保存方法。
【請求項2】
前記非酸化性ガス雰囲気の温度は、−20℃以上30℃以下である請求項1に記載の接合膜の保存方法。
【請求項3】
前記非酸化性ガス雰囲気における非酸化性ガスの濃度は、90体積%以上である請求項1または2に記載の接合膜の保存方法。
【請求項4】
前記非酸化性ガスは、窒素ガスおよび希ガスの少なくとも一方である請求項1ないし3のいずれかに記載の接合膜の保存方法。
【請求項5】
前記非酸化性ガス雰囲気の全圧は、大気圧以上である請求項1ないし4のいずれかに記載の接合膜の保存方法。
【請求項6】
前記接合膜付き基材の前記接合膜にエネルギーを付与し、活性化させる第1の工程と、
前記第1の工程を経た前記接合膜付き基材を、前記非酸化性ガス雰囲気中に保持する第2の工程と、を有し、
前記第1の工程を非酸化性ガス雰囲気中で行い、前記雰囲気を変えることなく、前記第2の工程を行う請求項1ないし5のいずれかに記載の接合膜の保存方法。
【請求項7】
前記第1の工程と前記第2の工程の間において、前記接合膜付き基材を減圧雰囲気中に保持する請求項6に記載の接合膜の保存方法。
【請求項8】
シロキサン結合を原子構造と、前記シロキサン結合に結合し有機基からなる脱離基と、を含む接合膜を基材上に成膜してなる接合膜付き基材について、前記接合膜にエネルギーを付与した後、これを保存する装置であって、
密閉構造を備え、内部に前記接合膜付き基材を収納可能なケースと、
前記ケース内に非酸化性ガスを供給するガス供給部と、
前記ケース内の非酸化性ガスの濃度および前記ケース内の全圧を測定するガス検知部と、
前記ガス検知部により測定された前記ケース内の非酸化性ガスの濃度または前記ケース内の全圧が所定の値を下回ったときに、前記ケース内への非酸化性ガスの供給を開始するかまたは供給量を増やすよう、前記ガス供給部の動作を制御する制御部と、を有することを特徴とする接合膜の保存装置。
【請求項9】
前記ケース内を排気する排気手段を有し、
前記制御部は、前記ケース内を排気した後、続いて前記ケース内に非酸化性ガスを供給するよう、前記排気手段および前記ガス供給部を制御する請求項8に記載の接合膜の保存装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−173995(P2011−173995A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39381(P2010−39381)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】