接合面を備えた放熱装置およびその表面処理方法
【課題】金属製材料によって形成され、その表面を過度に粗面化することなく樹脂との接着性を向上させ、かつ接着性の向上に伴う熱性能の低下を抑制した放熱装置を提供する。
【解決手段】通電されて発熱する電子部品6に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、電子部品6が配設される基板5上に接着剤4を介して接合される接合面3を備えた放熱装置1において、接合面3は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えていることを特徴とする。
【解決手段】通電されて発熱する電子部品6に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、電子部品6が配設される基板5上に接着剤4を介して接合される接合面3を備えた放熱装置1において、接合面3は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を奪って放熱あるいは拡散するとともに、その電子部品が配設される基板に接着剤によって接着される接合面を備えた放熱装置およびその表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板上に設けられた中央演算処理装置(CPU)などの発熱する電子部品はサイズが小さいため、電子部品に熱伝達可能に接触させた熱拡散板(ヒートスプレッダ−と呼ばれることがある。)に電子部品の熱を拡散させてから、これに取り付けたヒートパイプやヒートシンクを経て放熱することがおこなわれている。ヒートスプレッダは、電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を拡散させるためのものであるから、熱伝導性を有する金属製材料によって構成され、また、例えば樹脂製の接着剤によりプリント配線基板上に接着あるいは接合されている。ヒートスプレッダとプリント配線基板との接合部分には、電子部品からの熱負荷が作用するため、熱負荷によって金属表面に付着した水分や樹脂製の接着剤に含まれる水分が膨張して接合部分が剥離したり、裂けたりする場合がある。そこで従来、このような金属製材料と樹脂との接着性あるいは接合強度を向上させるための各種の技術が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、電解ニッケルメッキ法により金属製材料の表面に接する下層にホウ素含有率の低いニッケル被膜を形成し、その上層にホウ素含有率が高く、かつ柱状組織(すなわち、ウィスカ)を形成することにより、樹脂製の接着剤が塗布される金属製材料の比表面積を増大させた構成が記載されている。特許文献1に記載された構成によれば、金属製材料の比表面積が増大するので、金属製材料と基板との接着性あるいは接合強度を向上できる、とされている。
【0004】
特許文献2には、電解メッキ法によって金属被膜を形成する場合の周辺技術として、半導体基板上に電解メッキ法によって金メッキ膜を形成する場合において、電流密度を小さくすることにより金メッキ膜のグレインサイズおよびガバレッジを増大させて金メッキ膜のエレクトロマイグレーション耐性を向上させた構成が記載されている。より具体的には、金メッキ被膜を形成する場合の電流密度を、0.05A/dm2(0.5mA/cm2)から0.15A/dm2(1.5mA/cm2)の間の範囲に設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−147549号公報
【特許文献2】特開平6−29291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載された技術は、金属製材料の表面にウィスカを形成することにより金属製材料の比表面積を拡大させる技術である。しかしながら、金属製材料の表面にウィスカが形成されると、その分、金属製材料と基板との間の空隙も大きくなる。そのため、特許文献1に記載された技術を放熱装置に適用しようとすると、電子部品と放熱装置との間の熱抵抗が大きくなって熱伝達率が低下する虞がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、放熱装置の表面を過度に粗面化することなく接着剤を介した放熱装置と基板との接着強度を確保できる接合面を備えた放熱装置およびその表面処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置において、前記接合面は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置の表面処理方法において、エッチング液に1分間接触させて表面に凹凸を形成させるエッチング工程と、その後、ニッケルメッキ液に浸漬して0.5〜1.0A/dm2の電流密度で印加することにより前記表面に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子を析出させるニッケルメッキ工程とを備えていることを特徴とする方法である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記エッチング工程は、前記エッチング液として10〜20wt%の過硫酸ナトリウムを溶質として含んでいる1vol%硫酸水溶液を用いて25〜35℃で行うことを含み、前記ニッケルメッキ工程は、前記ニッケルメッキ液として30〜50wt%のスルファミン酸ニッケルと2〜4wt%の塩化ニッケルとを溶質として含んでいる水溶液を用いて50〜60℃で40分間行うことを含むことを特徴とする接合面を備えた放熱装置の表面処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、放熱装置の接合面は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えている。接合面の上層には、ニッケルの結晶粒子の大きさに依存した凹凸が形成されている。したがって、その下層の凹凸と上層における1.0μm程度のニッケルの結晶粒子とによって接合面の比表面積を増大させることができる。そしてこれにより、接着剤を介して放熱装置と基板とを接着させた場合に、その接着性あるいは接着強度を確保することができる。また、上層は下層を覆うように形成され、その上層の凹凸はニッケルの結晶粒子の大きさに依存しているから、研削や研磨などの機械的な表面処理によって放熱装置の表面を粗面化してその比表面積を拡大する場合に比較して、全体的に滑らかな表面とすることができる。放熱装置の表面が滑らかであるから、放熱装置とこれに熱伝達可能に接触する電子部品との間の間隙を上記の機械的な表面処理を施した場合に比較して小さく抑えることができる。その結果、これらの間における熱性能の低下を防止もしくは抑制することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、エッチング工程において、放熱装置がエッチング液に接触する時間が1分間であるから、放熱装置の表面が過度に粗面化されることを防止もしくは抑制できる。ニッケルメッキ工程において、印加する電流密度が0.5〜1.0A/dm2とされ、これにより放熱装置の表面に析出するニッケルの結晶粒子が0.5〜1.0μmになるようになっている。そのため、放熱装置の比表面積は、ニッケルの結晶粒子の大きさに依存した比表面積になる。言い換えれば、放熱装置の比表面積をニッケルの結晶粒子の大きさによって拡大することができる。したがって、接着剤を介して放熱装置と基板とを接着させた場合に、その接着性あるいは接着強度を確保することができる。また、研削や研磨などの機械的な表面処理によって放熱装置の表面を粗面化してその比表面積を拡大する場合に比較して、全体的に滑らかかつ比表面積が拡大された表面とすることができる。放熱装置の表面が滑らかであるから、放熱装置とこれに熱伝達可能に接触する電子部品との間の間隙を上記の機械的な表面処理を施した場合に比較して小さく抑えることができる。その結果、これらの間における熱性能の低下を防止もしくは抑制することができる。ニッケルメッキを施すことにより放熱装置の表面に凹凸を形成するので、表面処理によって光沢などの外観を損ねることを防止もしくは抑制できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、従来一般的に使用されるエッチング液やニッケルメッキ液を使用することができる。そして、これらの溶液と放熱装置の表面との接触時間や、ニッケルメッキ工程において印加する電流密度を0.5〜1.0A/dm2にすることにより、全体的に滑らかかつ比表面積が拡大された放熱装置の表面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られたヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】二つのヒートスプレッダの各接合面を接着剤によって接着させた状態を模式的に示す図である。
【図4】図3に示すように接着させたヒートスプレッダの引張強度試験の結果を示す図である。
【図5】この発明に係る表面処理を施したヒートスプレッダを、プリント配線基板上に配設した電子部品に適用した例を模式的に示す図である。
【図6】ヒートスプレッダの平面図を示してある。
【図7】この発明に係る表面処理方法の過程を模式的に示す図である。
【図8】実施例1において、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例2において、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例3において、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎにこの発明を具体的に説明する。この発明は、通電されることにより発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を外部に放熱あるいは拡散させるとともに、電子部品が配設される基板上に接着剤あるいは結合剤を介して接着される接合面を備えた放熱装置に関するものである。電子部品は、一例として中央演算処理装置(CPU)や電源ユニットなどであってよい。放熱装置は、電子部品に熱伝達可能に接触して電子部品で発生した熱をその外部に放熱したり、拡散させたりするものであり、そのため放熱装置は熱伝導性を有する金属製材料によって形成することが好ましい。基板は、電子部品を固定するとともに通電可能に配線するためのものであり、例えば絶縁性を有する合成樹脂材料によって形成した母材に、銅箔などの導電体によって配線して形成することができる。接着剤あるいは結合材は、放熱装置と基板とを接着あるいは接合するためのものであり、従来一般的に使用されているものであってよい。一例として熱可塑性あるいは熱硬化性の合成樹脂接着剤や結合材などを使用することができる。
【0016】
この発明では、放熱装置に、その比表面積を増大させるための表面処理を施すことができる。その処理は、例えばエッチング液で表面を腐食させることにより粗面化するエッチング処理や表面にメッキ金属を析出させてメッキ膜を形成したり、凹凸を形成したりするメッキ処理であってよい。具体的には、上記のエッチング処理は、放熱装置をエッチング液に1分間接触させることによりその表面をある程度粗面化するようになっていればよい。上記のメッキ処理は、例えば電解ニッケルメッキ処理であってよく、エッチング処理を施した放熱装置を電解ニッケルメッキ液に浸漬して0.5〜1.0A/dm2の電流密度で印加することにより、その表面に直径が0.5〜1.0μm程度のニッケルの結晶粒子が析出するようになっていればよい。この発明に係る放熱装置は、熱伝導性とともに導電性を有する金属製材料で構成されることが好ましく、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などによって構成することができる。
【0017】
したがって、この発明によれば、エッチング処理を施す時間が1分間であり、また、放熱装置の表面に析出させるニッケルの結晶粒子の大きさによって比表面積を増大させるので、放熱装置の表面を過度に粗面化させずに基板と放熱装置との接着性や接着強度を確保できる。より具体的には、エッチング処理を施す時間を長くしたり、例えば研削や研磨などの機械的な表面処理によって放熱装置の表面を粗面化して比表面積を増大することにより接着性や接着強度を確保する場合に比較して、滑らかな表面で接着性や接着強度を確保できる。放熱装置の表面が過度に粗面化されないので、表面処理を施すことによって表面に傷がついて光沢などの外観を損なうことを防止もしくは抑制できる。
【0018】
(実施例1)
この発明に係る放熱装置は、一例として図6に示すように、ヒートスプレッダ1である。ヒートスプレッダ1は、CPUなどの発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を拡散させるためのものであり、CPUに熱伝達可能に接触してその熱を奪って拡散させる平板部2と、CPUが配設される基板に接着剤を介して接着あるいは接合される接合面3とを備えている。ヒートスプレッダ1は、上述したようにCPUに熱伝達可能に接触してその熱を奪って拡散させる必要があるので、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの熱伝導性を有する金属性材料によって形成することが好ましい。この発明では、ヒートスプレッダ1には、その耐久性や基板との接着性を向上させるための表面処理が施されている。
【0019】
図7に、この発明に係る表面処理方法の過程を模式的に示してある。先ず、ヒートスプレッダ1の表面に付着している油脂性の汚れをメタノールやアセトンなどの有機溶剤や界面活性剤などによって除去し(脱脂工程)、その後、所定の電解溶液中に陰極又は陽極として浸漬して電気分解することにより上記の脱脂工程で除去できなかった油脂性の汚れを除去した(電荷脱脂工程)。その後、ヒートスプレッダ1の表面に密着している数十μm以下の微少な粒子やスマットなどを清浄な水や超音波洗浄機などを使用して除去した(中和工程)。これらの各工程が、いわゆる前処理に相当する。
【0020】
次いで、液温を25〜30℃に調整した10〜20wt%の過硫酸ナトリウムを含む1vol%の硫酸水溶液をエッチング液として使用し、これにヒートスプレッダ1を1分間浸漬することによりヒートスプレッダ1の表面を粗面化して凹凸を形成した(エッチング工程)。1分後、エッチング液からヒートスプレッダ1を取り出して、これを所定の酸に浸漬してヒートスプレッダ1の表面に形成された酸化膜を除去した(表面活性工程。酸洗浄工程と呼ばれることがある)。上記の表面活性工程で使用される酸は、従来一般的に使用されるものであってよく、例えば所定濃度の硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸、クロム酸、シュウ酸、クエン酸、シアン化カリウム溶液などであってよい。
【0021】
次いで、ヒートスプレッダ1を陰電極に取り付けて、30〜50wt%のスルファミン酸ニッケルと2〜4wt%の塩化ニッケルと2.5〜4.5wt%のホウ酸と0.3vol%の光沢剤とを含む水溶液をニッケルメッキ液として使用し、これを満たしたメッキ浴に浸漬した。ニッケルメッキ液の液温を50〜60℃に調整し、0.5〜1.0A/dm2の電流密度範囲で、具体的には0.7A/dm2(7mA/cm2)の電流密度で40分間、ヒートスプレッダ1にニッケルメッキ処理を行った(電解ニッケルメッキ工程)。この電解ニッケルメッキ工程では、要は、上記のように電流密度の範囲を0.5〜1.0A/dm2にすることによりヒートスプレッダ1の表面に、直径が1.0μm程度の大きさのニッケルの結晶粒子が析出するようになっていればよい。陽電極やメッキ浴などは、従来一般的に使用されているものと同様の構成のものを使用することができる。
【0022】
上記の電解ニッケルメッキ工程は、ヒートスプレッダ1が上記のエッチング工程を経た後に行うものであるから、エッチング処理によって形成された凹凸面を下層と言うことができる。これに対して、凹凸面にニッケルメッキ処理を施して凹凸面に析出したニッケルの結晶粒子によって形成されるニッケルの層が上層と言うことができる。
【0023】
(比較例1)
電解ニッケルメッキ工程において電流密度を5.5A/dm2にした以外は、上記の実施例1と同様にしてヒートスプレッダ1の表面処理を行った。
【0024】
(比較例2)
エッチング工程において、その処理時間を3分30秒にした以外は、上記の比較例1と同様にしてヒートスプレッダ1の表面処理を行った。
【0025】
(比較例3)
エッチング工程において、その処理時間を5分30秒にした以外は、上記の比較例1と同様にしてヒートスプレッダ1の表面処理を行った。
【0026】
(評価1)
図8に、上記の実施例1において、1分間のエッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)を示してある。図9に、上記の比較例2において、3分30秒間、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真を示してある。図10に、上記の比較例3において、5分30秒間、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真を示してある。図8、図9、図10において、各SEM画像の倍率は同様に3500倍である。図8、図9、図10に示したように、エッチング工程において、ヒートスプレッダ1をエッチング液に浸漬する時間が長いほどヒートスプレッダ1の表面が粗くなることが認められた。
【0027】
図1に、上記の実施例1で得られたヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)を示してある。図1に示したように、ヒートスプレッダ1の表面に、直径が0.5〜1.0μm程度のニッケルの結晶粒子や直径が数μm程度のニッケルの結晶粒子が析出し、これらの粒子によって覆われていることが認められた。図2に、上記の比較例1で得られたヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)を示してある。図2に示したように、比較例1で得られたヒートスプレッダ1の表面には、直径が約1μm程度のニッケルの結晶粒子は認められず、直径がマイクロメーターオーダー以下のニッケルの結晶粒子によって覆われていることが認められた。これは、比較例1,2,3の各電解ニッケルメッキ工程における電流密度が上記の実施例1に比較して高いことにより、ヒートスプレッダ1の表面に析出するニッケルの結晶粒子が十分に粒成長できなかったことに起因すると推察される。
【0028】
(評価2)
次いで、上記の実施例1、比較例1、比較例2、比較例3で得られたヒートスプレッダ1同士を例えば合成樹脂系の接着剤によって接着し、これを引っ張り剥がすのに要する荷重、すなわち引張強度(N)を測定した。図3に、二つのヒートスプレッダ1の各接合面3を接着剤によって接着させた状態を模式的に示してある。例えば、各ヒートスプレッダ1の接合面3に接着剤4を塗布して各接合面3を合わせた後、これを所定時間、乾燥させてヒートスプレッダ1同士を接着させた。その後、二つのヒートスプレッダ1を図3において上下方向に引っ張って引張強度(N)を測定した。その引張強度試験の結果を図4に示してある。
【0029】
図4において、棒グラフは、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の各条件で得られたヒートスプレッダ1の表面粗さ(μm)を示している。また、各条件で得られたヒートスプレッダ1に対し、上述したような引張強度試験を行って得られた引張強度(N)を実線で結んで示してある。なお、この発明で表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)を示している。
【0030】
図4に示したように、比較例1および比較例2ならびに比較例3では、エッチング処理を施す時間を長くすることに伴ってヒートスプレッダ1の表面の粗さが増大するとともに、引張強度(N)が増大することが認められた。一方、実施例1では、比較例1,2,3と比較して表面粗さが抑えられていることが認められるとともに、比較例3と同等の引張強度(N)を有していることが認められた。
【0031】
これらの結果は、比較例1,2,3においては、実施例1に比較してヒートスプレッダ1の表面に形成されるニッケルの結晶粒子の粒径が小さく、またそれによって形成される凹凸が緻密過ぎるために、ニッケルメッキ処理を施す時間を長くしてヒートスプレッダ1の表面を粗くしなければ、接着剤4を介したヒートスプレッダ1同士の接着強度(すなわち、引張強度)を大きくできないものと推察される。言い換えれば、接着強度に対するニッケルの結晶粒子の大きさの影響が小さいように推察される。これに対して、実施例1においては、比較例1,2,3に比較してエッチング処理を施す時間が短く、また印加する電流密度が小さいので、ヒートスプレッダ1の表面にニッケルの結晶粒子の大きさに依存した凹凸が形成され、その凹凸によって接着強度が確保されていると推察される。言い換えれば、ヒートスプレッダ1の表面に形成されるニッケルの結晶粒子は比較例1,2,3に比較して緻密過ぎないので、エッチング処理を施す時間を長くしなくても接着剤4を介したヒートスプレッダ1同士の接着強度を大きくできるものと推察される。
【0032】
図5に、前述したように構成したヒートスプレッダ1を、プリント配線基板上に配設した電子部品に適用した例を模式的に示してある。ヒートスプレッダ1の平板部2は、プリント配線基板5上に配設されたCPUなどの発熱する電子部品6に熱伝達可能に接触されている。ヒートスプレッダ1の表面あるいは少なくとも接合面3には、上述した実施例1に示す表面処理が施されている。接合面3は、接着剤4を介してプリント配線基板に接着されている。図5に示す例では、ヒートスプレッダ1に熱伝達可能にヒートシンク7が設けられている。電子部品5で発生した熱は、ヒートスプレッダ1に伝達されるとともに拡散され、更にヒートスプレッダ1からヒートシンク7に伝達され、ヒートシンク7から放熱されるようになっている。
【0033】
図5に示す構成によれば、ヒートスプレッダ1の表面に、少なくとも接合面3に、上記の実施例1に示す表面処理が施されている。そのため、ヒートスプレッダ1の表面を過度に粗面化することなく接着剤4を介したヒートスプレッダ1とプリント配線基板5との接着強度を確保できる。ヒートスプレッダ1の表面が過度に粗面化されていないので、ヒートスプレッダ1とこれに熱伝達可能に接触する電子部品6との間の間隙を小さく抑えることができる。その結果、これらの間における熱性能の低下を防止もしくは抑制することができる。ヒートスプレッダ1の熱性能を低下させずに、ヒートスプレッダ1とプリント配線基板5との接着強度を確保できる。
【0034】
(実施例2)
詳細は図示しないが、ヒートスプレッダ1に対してエッチング処理を施す時間は、上記の実施例1よりも長くし、これに実施例1と同様に電解ニッケルメッキ処理を施して上記の図3に示した引張強度試験を行った。その結果、実施例1よりも引張強度(N)を向上させることができた。これは、エッチング処理を施す時間を長くすることによりヒートスプレッダ1の表面粗さが増大してヒートスプレッダ1と接着剤との接触面積が拡大したことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1…ヒートスプレッダ、 3…接合面、 5…プリント配線基板。
【技術分野】
【0001】
この発明は、通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を奪って放熱あるいは拡散するとともに、その電子部品が配設される基板に接着剤によって接着される接合面を備えた放熱装置およびその表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板上に設けられた中央演算処理装置(CPU)などの発熱する電子部品はサイズが小さいため、電子部品に熱伝達可能に接触させた熱拡散板(ヒートスプレッダ−と呼ばれることがある。)に電子部品の熱を拡散させてから、これに取り付けたヒートパイプやヒートシンクを経て放熱することがおこなわれている。ヒートスプレッダは、電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を拡散させるためのものであるから、熱伝導性を有する金属製材料によって構成され、また、例えば樹脂製の接着剤によりプリント配線基板上に接着あるいは接合されている。ヒートスプレッダとプリント配線基板との接合部分には、電子部品からの熱負荷が作用するため、熱負荷によって金属表面に付着した水分や樹脂製の接着剤に含まれる水分が膨張して接合部分が剥離したり、裂けたりする場合がある。そこで従来、このような金属製材料と樹脂との接着性あるいは接合強度を向上させるための各種の技術が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1には、電解ニッケルメッキ法により金属製材料の表面に接する下層にホウ素含有率の低いニッケル被膜を形成し、その上層にホウ素含有率が高く、かつ柱状組織(すなわち、ウィスカ)を形成することにより、樹脂製の接着剤が塗布される金属製材料の比表面積を増大させた構成が記載されている。特許文献1に記載された構成によれば、金属製材料の比表面積が増大するので、金属製材料と基板との接着性あるいは接合強度を向上できる、とされている。
【0004】
特許文献2には、電解メッキ法によって金属被膜を形成する場合の周辺技術として、半導体基板上に電解メッキ法によって金メッキ膜を形成する場合において、電流密度を小さくすることにより金メッキ膜のグレインサイズおよびガバレッジを増大させて金メッキ膜のエレクトロマイグレーション耐性を向上させた構成が記載されている。より具体的には、金メッキ被膜を形成する場合の電流密度を、0.05A/dm2(0.5mA/cm2)から0.15A/dm2(1.5mA/cm2)の間の範囲に設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−147549号公報
【特許文献2】特開平6−29291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載された技術は、金属製材料の表面にウィスカを形成することにより金属製材料の比表面積を拡大させる技術である。しかしながら、金属製材料の表面にウィスカが形成されると、その分、金属製材料と基板との間の空隙も大きくなる。そのため、特許文献1に記載された技術を放熱装置に適用しようとすると、電子部品と放熱装置との間の熱抵抗が大きくなって熱伝達率が低下する虞がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、放熱装置の表面を過度に粗面化することなく接着剤を介した放熱装置と基板との接着強度を確保できる接合面を備えた放熱装置およびその表面処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置において、前記接合面は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置の表面処理方法において、エッチング液に1分間接触させて表面に凹凸を形成させるエッチング工程と、その後、ニッケルメッキ液に浸漬して0.5〜1.0A/dm2の電流密度で印加することにより前記表面に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子を析出させるニッケルメッキ工程とを備えていることを特徴とする方法である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記エッチング工程は、前記エッチング液として10〜20wt%の過硫酸ナトリウムを溶質として含んでいる1vol%硫酸水溶液を用いて25〜35℃で行うことを含み、前記ニッケルメッキ工程は、前記ニッケルメッキ液として30〜50wt%のスルファミン酸ニッケルと2〜4wt%の塩化ニッケルとを溶質として含んでいる水溶液を用いて50〜60℃で40分間行うことを含むことを特徴とする接合面を備えた放熱装置の表面処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、放熱装置の接合面は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えている。接合面の上層には、ニッケルの結晶粒子の大きさに依存した凹凸が形成されている。したがって、その下層の凹凸と上層における1.0μm程度のニッケルの結晶粒子とによって接合面の比表面積を増大させることができる。そしてこれにより、接着剤を介して放熱装置と基板とを接着させた場合に、その接着性あるいは接着強度を確保することができる。また、上層は下層を覆うように形成され、その上層の凹凸はニッケルの結晶粒子の大きさに依存しているから、研削や研磨などの機械的な表面処理によって放熱装置の表面を粗面化してその比表面積を拡大する場合に比較して、全体的に滑らかな表面とすることができる。放熱装置の表面が滑らかであるから、放熱装置とこれに熱伝達可能に接触する電子部品との間の間隙を上記の機械的な表面処理を施した場合に比較して小さく抑えることができる。その結果、これらの間における熱性能の低下を防止もしくは抑制することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、エッチング工程において、放熱装置がエッチング液に接触する時間が1分間であるから、放熱装置の表面が過度に粗面化されることを防止もしくは抑制できる。ニッケルメッキ工程において、印加する電流密度が0.5〜1.0A/dm2とされ、これにより放熱装置の表面に析出するニッケルの結晶粒子が0.5〜1.0μmになるようになっている。そのため、放熱装置の比表面積は、ニッケルの結晶粒子の大きさに依存した比表面積になる。言い換えれば、放熱装置の比表面積をニッケルの結晶粒子の大きさによって拡大することができる。したがって、接着剤を介して放熱装置と基板とを接着させた場合に、その接着性あるいは接着強度を確保することができる。また、研削や研磨などの機械的な表面処理によって放熱装置の表面を粗面化してその比表面積を拡大する場合に比較して、全体的に滑らかかつ比表面積が拡大された表面とすることができる。放熱装置の表面が滑らかであるから、放熱装置とこれに熱伝達可能に接触する電子部品との間の間隙を上記の機械的な表面処理を施した場合に比較して小さく抑えることができる。その結果、これらの間における熱性能の低下を防止もしくは抑制することができる。ニッケルメッキを施すことにより放熱装置の表面に凹凸を形成するので、表面処理によって光沢などの外観を損ねることを防止もしくは抑制できる。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明による効果と同様の効果に加えて、従来一般的に使用されるエッチング液やニッケルメッキ液を使用することができる。そして、これらの溶液と放熱装置の表面との接触時間や、ニッケルメッキ工程において印加する電流密度を0.5〜1.0A/dm2にすることにより、全体的に滑らかかつ比表面積が拡大された放熱装置の表面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られたヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】二つのヒートスプレッダの各接合面を接着剤によって接着させた状態を模式的に示す図である。
【図4】図3に示すように接着させたヒートスプレッダの引張強度試験の結果を示す図である。
【図5】この発明に係る表面処理を施したヒートスプレッダを、プリント配線基板上に配設した電子部品に適用した例を模式的に示す図である。
【図6】ヒートスプレッダの平面図を示してある。
【図7】この発明に係る表面処理方法の過程を模式的に示す図である。
【図8】実施例1において、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】比較例2において、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例3において、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダの表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎにこの発明を具体的に説明する。この発明は、通電されることにより発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を外部に放熱あるいは拡散させるとともに、電子部品が配設される基板上に接着剤あるいは結合剤を介して接着される接合面を備えた放熱装置に関するものである。電子部品は、一例として中央演算処理装置(CPU)や電源ユニットなどであってよい。放熱装置は、電子部品に熱伝達可能に接触して電子部品で発生した熱をその外部に放熱したり、拡散させたりするものであり、そのため放熱装置は熱伝導性を有する金属製材料によって形成することが好ましい。基板は、電子部品を固定するとともに通電可能に配線するためのものであり、例えば絶縁性を有する合成樹脂材料によって形成した母材に、銅箔などの導電体によって配線して形成することができる。接着剤あるいは結合材は、放熱装置と基板とを接着あるいは接合するためのものであり、従来一般的に使用されているものであってよい。一例として熱可塑性あるいは熱硬化性の合成樹脂接着剤や結合材などを使用することができる。
【0016】
この発明では、放熱装置に、その比表面積を増大させるための表面処理を施すことができる。その処理は、例えばエッチング液で表面を腐食させることにより粗面化するエッチング処理や表面にメッキ金属を析出させてメッキ膜を形成したり、凹凸を形成したりするメッキ処理であってよい。具体的には、上記のエッチング処理は、放熱装置をエッチング液に1分間接触させることによりその表面をある程度粗面化するようになっていればよい。上記のメッキ処理は、例えば電解ニッケルメッキ処理であってよく、エッチング処理を施した放熱装置を電解ニッケルメッキ液に浸漬して0.5〜1.0A/dm2の電流密度で印加することにより、その表面に直径が0.5〜1.0μm程度のニッケルの結晶粒子が析出するようになっていればよい。この発明に係る放熱装置は、熱伝導性とともに導電性を有する金属製材料で構成されることが好ましく、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などによって構成することができる。
【0017】
したがって、この発明によれば、エッチング処理を施す時間が1分間であり、また、放熱装置の表面に析出させるニッケルの結晶粒子の大きさによって比表面積を増大させるので、放熱装置の表面を過度に粗面化させずに基板と放熱装置との接着性や接着強度を確保できる。より具体的には、エッチング処理を施す時間を長くしたり、例えば研削や研磨などの機械的な表面処理によって放熱装置の表面を粗面化して比表面積を増大することにより接着性や接着強度を確保する場合に比較して、滑らかな表面で接着性や接着強度を確保できる。放熱装置の表面が過度に粗面化されないので、表面処理を施すことによって表面に傷がついて光沢などの外観を損なうことを防止もしくは抑制できる。
【0018】
(実施例1)
この発明に係る放熱装置は、一例として図6に示すように、ヒートスプレッダ1である。ヒートスプレッダ1は、CPUなどの発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を拡散させるためのものであり、CPUに熱伝達可能に接触してその熱を奪って拡散させる平板部2と、CPUが配設される基板に接着剤を介して接着あるいは接合される接合面3とを備えている。ヒートスプレッダ1は、上述したようにCPUに熱伝達可能に接触してその熱を奪って拡散させる必要があるので、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの熱伝導性を有する金属性材料によって形成することが好ましい。この発明では、ヒートスプレッダ1には、その耐久性や基板との接着性を向上させるための表面処理が施されている。
【0019】
図7に、この発明に係る表面処理方法の過程を模式的に示してある。先ず、ヒートスプレッダ1の表面に付着している油脂性の汚れをメタノールやアセトンなどの有機溶剤や界面活性剤などによって除去し(脱脂工程)、その後、所定の電解溶液中に陰極又は陽極として浸漬して電気分解することにより上記の脱脂工程で除去できなかった油脂性の汚れを除去した(電荷脱脂工程)。その後、ヒートスプレッダ1の表面に密着している数十μm以下の微少な粒子やスマットなどを清浄な水や超音波洗浄機などを使用して除去した(中和工程)。これらの各工程が、いわゆる前処理に相当する。
【0020】
次いで、液温を25〜30℃に調整した10〜20wt%の過硫酸ナトリウムを含む1vol%の硫酸水溶液をエッチング液として使用し、これにヒートスプレッダ1を1分間浸漬することによりヒートスプレッダ1の表面を粗面化して凹凸を形成した(エッチング工程)。1分後、エッチング液からヒートスプレッダ1を取り出して、これを所定の酸に浸漬してヒートスプレッダ1の表面に形成された酸化膜を除去した(表面活性工程。酸洗浄工程と呼ばれることがある)。上記の表面活性工程で使用される酸は、従来一般的に使用されるものであってよく、例えば所定濃度の硫酸、塩酸、硝酸、フッ酸、クロム酸、シュウ酸、クエン酸、シアン化カリウム溶液などであってよい。
【0021】
次いで、ヒートスプレッダ1を陰電極に取り付けて、30〜50wt%のスルファミン酸ニッケルと2〜4wt%の塩化ニッケルと2.5〜4.5wt%のホウ酸と0.3vol%の光沢剤とを含む水溶液をニッケルメッキ液として使用し、これを満たしたメッキ浴に浸漬した。ニッケルメッキ液の液温を50〜60℃に調整し、0.5〜1.0A/dm2の電流密度範囲で、具体的には0.7A/dm2(7mA/cm2)の電流密度で40分間、ヒートスプレッダ1にニッケルメッキ処理を行った(電解ニッケルメッキ工程)。この電解ニッケルメッキ工程では、要は、上記のように電流密度の範囲を0.5〜1.0A/dm2にすることによりヒートスプレッダ1の表面に、直径が1.0μm程度の大きさのニッケルの結晶粒子が析出するようになっていればよい。陽電極やメッキ浴などは、従来一般的に使用されているものと同様の構成のものを使用することができる。
【0022】
上記の電解ニッケルメッキ工程は、ヒートスプレッダ1が上記のエッチング工程を経た後に行うものであるから、エッチング処理によって形成された凹凸面を下層と言うことができる。これに対して、凹凸面にニッケルメッキ処理を施して凹凸面に析出したニッケルの結晶粒子によって形成されるニッケルの層が上層と言うことができる。
【0023】
(比較例1)
電解ニッケルメッキ工程において電流密度を5.5A/dm2にした以外は、上記の実施例1と同様にしてヒートスプレッダ1の表面処理を行った。
【0024】
(比較例2)
エッチング工程において、その処理時間を3分30秒にした以外は、上記の比較例1と同様にしてヒートスプレッダ1の表面処理を行った。
【0025】
(比較例3)
エッチング工程において、その処理時間を5分30秒にした以外は、上記の比較例1と同様にしてヒートスプレッダ1の表面処理を行った。
【0026】
(評価1)
図8に、上記の実施例1において、1分間のエッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)を示してある。図9に、上記の比較例2において、3分30秒間、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真を示してある。図10に、上記の比較例3において、5分30秒間、エッチング処理を行った後におけるヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真を示してある。図8、図9、図10において、各SEM画像の倍率は同様に3500倍である。図8、図9、図10に示したように、エッチング工程において、ヒートスプレッダ1をエッチング液に浸漬する時間が長いほどヒートスプレッダ1の表面が粗くなることが認められた。
【0027】
図1に、上記の実施例1で得られたヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)を示してある。図1に示したように、ヒートスプレッダ1の表面に、直径が0.5〜1.0μm程度のニッケルの結晶粒子や直径が数μm程度のニッケルの結晶粒子が析出し、これらの粒子によって覆われていることが認められた。図2に、上記の比較例1で得られたヒートスプレッダ1の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM画像)を示してある。図2に示したように、比較例1で得られたヒートスプレッダ1の表面には、直径が約1μm程度のニッケルの結晶粒子は認められず、直径がマイクロメーターオーダー以下のニッケルの結晶粒子によって覆われていることが認められた。これは、比較例1,2,3の各電解ニッケルメッキ工程における電流密度が上記の実施例1に比較して高いことにより、ヒートスプレッダ1の表面に析出するニッケルの結晶粒子が十分に粒成長できなかったことに起因すると推察される。
【0028】
(評価2)
次いで、上記の実施例1、比較例1、比較例2、比較例3で得られたヒートスプレッダ1同士を例えば合成樹脂系の接着剤によって接着し、これを引っ張り剥がすのに要する荷重、すなわち引張強度(N)を測定した。図3に、二つのヒートスプレッダ1の各接合面3を接着剤によって接着させた状態を模式的に示してある。例えば、各ヒートスプレッダ1の接合面3に接着剤4を塗布して各接合面3を合わせた後、これを所定時間、乾燥させてヒートスプレッダ1同士を接着させた。その後、二つのヒートスプレッダ1を図3において上下方向に引っ張って引張強度(N)を測定した。その引張強度試験の結果を図4に示してある。
【0029】
図4において、棒グラフは、実施例1、比較例1、比較例2、比較例3の各条件で得られたヒートスプレッダ1の表面粗さ(μm)を示している。また、各条件で得られたヒートスプレッダ1に対し、上述したような引張強度試験を行って得られた引張強度(N)を実線で結んで示してある。なお、この発明で表面粗さとは、算術平均粗さ(Ra)を示している。
【0030】
図4に示したように、比較例1および比較例2ならびに比較例3では、エッチング処理を施す時間を長くすることに伴ってヒートスプレッダ1の表面の粗さが増大するとともに、引張強度(N)が増大することが認められた。一方、実施例1では、比較例1,2,3と比較して表面粗さが抑えられていることが認められるとともに、比較例3と同等の引張強度(N)を有していることが認められた。
【0031】
これらの結果は、比較例1,2,3においては、実施例1に比較してヒートスプレッダ1の表面に形成されるニッケルの結晶粒子の粒径が小さく、またそれによって形成される凹凸が緻密過ぎるために、ニッケルメッキ処理を施す時間を長くしてヒートスプレッダ1の表面を粗くしなければ、接着剤4を介したヒートスプレッダ1同士の接着強度(すなわち、引張強度)を大きくできないものと推察される。言い換えれば、接着強度に対するニッケルの結晶粒子の大きさの影響が小さいように推察される。これに対して、実施例1においては、比較例1,2,3に比較してエッチング処理を施す時間が短く、また印加する電流密度が小さいので、ヒートスプレッダ1の表面にニッケルの結晶粒子の大きさに依存した凹凸が形成され、その凹凸によって接着強度が確保されていると推察される。言い換えれば、ヒートスプレッダ1の表面に形成されるニッケルの結晶粒子は比較例1,2,3に比較して緻密過ぎないので、エッチング処理を施す時間を長くしなくても接着剤4を介したヒートスプレッダ1同士の接着強度を大きくできるものと推察される。
【0032】
図5に、前述したように構成したヒートスプレッダ1を、プリント配線基板上に配設した電子部品に適用した例を模式的に示してある。ヒートスプレッダ1の平板部2は、プリント配線基板5上に配設されたCPUなどの発熱する電子部品6に熱伝達可能に接触されている。ヒートスプレッダ1の表面あるいは少なくとも接合面3には、上述した実施例1に示す表面処理が施されている。接合面3は、接着剤4を介してプリント配線基板に接着されている。図5に示す例では、ヒートスプレッダ1に熱伝達可能にヒートシンク7が設けられている。電子部品5で発生した熱は、ヒートスプレッダ1に伝達されるとともに拡散され、更にヒートスプレッダ1からヒートシンク7に伝達され、ヒートシンク7から放熱されるようになっている。
【0033】
図5に示す構成によれば、ヒートスプレッダ1の表面に、少なくとも接合面3に、上記の実施例1に示す表面処理が施されている。そのため、ヒートスプレッダ1の表面を過度に粗面化することなく接着剤4を介したヒートスプレッダ1とプリント配線基板5との接着強度を確保できる。ヒートスプレッダ1の表面が過度に粗面化されていないので、ヒートスプレッダ1とこれに熱伝達可能に接触する電子部品6との間の間隙を小さく抑えることができる。その結果、これらの間における熱性能の低下を防止もしくは抑制することができる。ヒートスプレッダ1の熱性能を低下させずに、ヒートスプレッダ1とプリント配線基板5との接着強度を確保できる。
【0034】
(実施例2)
詳細は図示しないが、ヒートスプレッダ1に対してエッチング処理を施す時間は、上記の実施例1よりも長くし、これに実施例1と同様に電解ニッケルメッキ処理を施して上記の図3に示した引張強度試験を行った。その結果、実施例1よりも引張強度(N)を向上させることができた。これは、エッチング処理を施す時間を長くすることによりヒートスプレッダ1の表面粗さが増大してヒートスプレッダ1と接着剤との接触面積が拡大したことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0035】
1…ヒートスプレッダ、 3…接合面、 5…プリント配線基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置において、
前記接合面は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えている
ことを特徴とする接合面を備えた放熱装置。
【請求項2】
通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置の表面処理方法において、
エッチング液に1分間接触させて表面に凹凸を形成させるエッチング工程と、
その後、ニッケルメッキ液に浸漬して0.5〜1.0A/dm2の電流密度で印加することにより前記表面に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子を析出させるニッケルメッキ工程と
を備えていることを特徴とする接合面を備えた放熱装置の表面処理方法。
【請求項3】
前記エッチング工程は、前記エッチング液として10〜20wt%の過硫酸ナトリウムを溶質として含んでいる1vol%硫酸水溶液を用いて25〜35℃で行うことを含み、
前記ニッケルメッキ工程は、前記ニッケルメッキ液として30〜50wt%のスルファミン酸ニッケルと2〜4wt%の塩化ニッケルとを溶質として含んでいる水溶液を用いて50〜60℃で40分間行うことを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の接合面を備えた放熱装置の表面処理方法。
【請求項1】
通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置において、
前記接合面は、凹凸が形成された下層と、その下層の上に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子が形成された上層とを備えている
ことを特徴とする接合面を備えた放熱装置。
【請求項2】
通電されて発熱する電子部品に熱伝達可能に接触してその熱を放熱あるいは拡散させるとともに、前記電子部品が配設される基板上に接着剤を介して接合される接合面を備えた放熱装置の表面処理方法において、
エッチング液に1分間接触させて表面に凹凸を形成させるエッチング工程と、
その後、ニッケルメッキ液に浸漬して0.5〜1.0A/dm2の電流密度で印加することにより前記表面に直径が0.5〜1.0μmのニッケルの結晶粒子を析出させるニッケルメッキ工程と
を備えていることを特徴とする接合面を備えた放熱装置の表面処理方法。
【請求項3】
前記エッチング工程は、前記エッチング液として10〜20wt%の過硫酸ナトリウムを溶質として含んでいる1vol%硫酸水溶液を用いて25〜35℃で行うことを含み、
前記ニッケルメッキ工程は、前記ニッケルメッキ液として30〜50wt%のスルファミン酸ニッケルと2〜4wt%の塩化ニッケルとを溶質として含んでいる水溶液を用いて50〜60℃で40分間行うことを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の接合面を備えた放熱装置の表面処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−174696(P2012−174696A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31655(P2011−31655)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]