説明

接地線のノイズ低減方法

【課題】建造物等に設けた接地線に定在波として存在する高周波ノイズを簡単に吸収できる方法を提供する。
【解決手段】単数または複数のスタブ2の各一端を接地線1の1点(接続点3)に接続して、該接地線1のノイズと前記スタブ2の他の一端2aで反射して戻ってきたノイズを波の干渉により相殺して低減する、接地線1のノイズ低減方法であって、前記接地線1に接続する前記スタブ2の長さは、前記接地線1のノイズが前記接続点3から前記スタブ2へ流れて該スタブ2の他の一端2aで反射して前記接続点3へ戻ったとき、前記接地線1における元のノイズに前記スタブ2から戻ってきた位相の異なるノイズが重なることにより、ノイズが相殺されるような長さに設定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、建造物等に設けた接地線に定在波として存在する高周波ノイズを低減する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の建造物等における接地設備の概念は、接地線には商用周波の地絡、短絡電流等の事故電流を安全に流せればよいというものであった。商用周波の波長は、例えば、50Hzの商用周波の場合、(3×108)/50=6×106mで、これは接地線の長さに比べ十分長いため、分布定数系として扱う必要がなく問題はなかった。ところが近年、建物内で使用されるさまざまな電子機器の高周波化が進み、接地線を通じてさまざまな周波数の高周波ノイズが流れるようになっている。高周波ノイズは商用周波に比べ波長が短い。例えば1MHzのノイズの場合、(3×108)/(1×106)=300mが波長となる。近年の建造物の高層化、大型化により接地線の敷設距離が非常に長くなるため、接地線の長さがノイズの波長と同程度またはそれより大きくなり、分布定数回路としての扱いが必要となる。この様な場合には、高周波ノイズが流れる線路の両端(接地線の両端)において反射を繰り返し、接地線には定在波が生じる。
【0003】接地線を通じたノイズの経路が終端開放線路の場合は、接地線の長さがノイズの4分の1の波長の奇数倍に等しいとき、線路のインピーダンスが0(直列共振)、接地線の長さがノイズの4分の1の波長の偶数倍に等しいとき、線路のインピーダンスが∞(並列共振)となる。また、ノイズの経路が終端短絡線路の場合は、接地線の長さがノイズの4分の1の波長の偶数倍に等しいとき、線路のインピーダンスが0(直列共振)、接地線の長さがノイズの4分の1の波長の奇数倍に等しいとき、線路のインピーダンスが∞(並列共振)となる。このような共振現象を示す状態においては、電流ノイズあるいは電圧ノイズの振幅が非常に大きくなるため、接地線に接続された電子機器に障害を与えることが問題となっていた。
【0004】このような場合を考慮した接地設備として、本出願人は、「誘導障害防止接地設備」(特許第3164992号)を開発した。これによると、接地線に、インピーダンスの低いインダクタンスや抵抗で構成されるローパスフィルタを配設することにより、接地線の誘導障害波をこれらのローパスフィルタで吸収し、かつ商用周波の事故電流を安全に通電することができることとなった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この「誘導障害防止接地設備」を採用しても、残念ながら、ノイズの周波数によっては完全には吸収できずに残るものがあった。
【0006】この発明は、このようなノイズを簡単に吸収できる方法を提供することにより、上記課題を解決するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1項の発明は、単数または複数のスタブの各一端を接地線の1点に接続して、該接地線のノイズと前記スタブの他の一端で反射して戻ってきたノイズを波の干渉により相殺して低減する、接地線のノイズ低減方法とした。請求項2項の発明は、請求項1項の発明において、前記接地線に接続する前記スタブの長さは、前記接地線のノイズが前記接続点から前記スタブへ流れて該スタブの他の一端で反射して前記接続点へ戻ったとき、前記接地線における元のノイズに前記スタブから戻ってきた位相の異なるノイズが重なることにより、ノイズが相殺されるような長さに設定する、接地線のノイズ低減方法とした。請求項3項の発明は、請求項2項の発明において、n本(nは整数)の前記スタブを接続する場合における各スタブの長さは、前記ノイズの波長がλのとき、(λ/4)×〔2/(n+1) 〕、(λ/4)×〔4/(n+1)〕、(λ/4)×〔6/(n+1) 〕 ・・・・・(λ/4)×〔2n/(n+1)〕において、n=1では、第1項、n=2では、第1〜2項、n=3では、第1〜3項・・・・n=nでは、第1〜n項の長さにそれぞれ設定する、接地線のノイズ低減方法とした。
【0008】請求項4項の発明は、請求項1ないし3の発明において、前記スタブを、前記接地線の中間点付近に接続する、接地線のノイズ低減方法とした。請求項5の発明は、請求項1ないし4の発明において、前記スタブは、前記接地線との接続場所の状況に応じたコイル状等の場所を取らない形状や、安全の観点からの箱への収納、他の電線との識別可能な色彩等とする、接地線のノイズ低減方法とした。請求項6の発明は、請求項1ないし5の発明において、前記接地線の2個所に配設した、インピーダンスの低いインダクタンスや抵抗で構成されているローパスフィルタ間に、前記スタブを取付ける、接地線のノイズ低減方法とした。
【0009】
【発明の実施の形態】以下この発明の実施の形態例を図に基づいて説明する。図1は接地線1に、適当な長さの電線からなるスタブ2を取り付けた例を示し、当該接地線1にスタブ2の一端を接続点3で電気的に接続したものである。スタブとは、分布定数回路工学の分野では、主伝送路上の適当な個所に終端を短絡または開放した伝送路を付加して整合をとる際の伝送路のことを言うが、スタブ(stub)のもともとの意味は、使い残し、吸いさし、短いもの等であるため、この発明では、接地線のノイズを低減するために、接地線に接続する適当な長さの電線を、スタブなる言葉で表現している。この接地線1に対するスタブ2の具体的な取り付け方法は以下の通りである。まず、スタブを取り付けようとする接地線に生じているノイズの周波数fを、オシロスコープ等により測定する。これには、図3に示すように、測定しようとする接地線1にオシロスコープ4のリード線を接続する。なお、図中5は接地線1に接続された電気機器、6は接地極を表す。このようにして測定したノイズの周波数fを基にして波長λを次式から計算する。
λ=c/fただし、cは真空中の光速(定数3×108m/sec)
【0010】接地線に接続するスタブの本数を単数とする場合、λ/4の長さの電線の端部を対象接地線に接続する。また、複数のスタブとする場合、例えば2本の場合は、(λ/4)×(2/3)=λ/6の長さの電線と(λ/4)×(4/3)=λ/3の長さの電線の夫々の端部を対象接地線に接続する。この場合2本以上のスタブは接地線の同一点に接続する(図2参照)。また、3本の場合は、それぞれ、λ/8、λ/4、(3λ)/8の長さのスタブとなり、4本の場合は、それぞれ、λ/10、λ/5、(3λ)/10、(2λ)/5の長さのスタブとなり、5本の場合は、それぞれ、λ/12、λ/6、λ/4、λ/3、(5λ)/12の長さのスタブとなり、接地線に取り付けるスタブの本数によって、各スタブの長さが決まる。
【0011】一般に、n本(nは整数)のスタブを接地線に接続する場合、それらの長さは、低減したいノイズの波長がλのとき、(λ/4)×〔2/(n+1)〕、(λ/4)×〔4/(n+1) 〕、(λ/4)×〔6/(n+1) 〕 ・・・・・(λ/4)×〔2n/(n+1) 〕において、n=1では、第1項、n=2では、第1〜2項、n=3では、第1〜3項・・・・n=nでは、第1〜n項の長さにそれぞれ設定すれば良い。スタブの長さを上記のように設定した理由は、次のとおりである。
【0012】上記図1の例の接地線において、波長λのノイズが生じているとし、図の接続点3におけるノイズをsinθと表す。ノイズはスタブ2側へも流れ込み、スタブ2の末端2aで反射して接続点3に戻ってくる。接続点へ戻るまでに(λ/4)×2=λ/2だけ波が進むので位相はπ進む。従って、接続点でsin(θ+π)となって接地線1へ再び入っていく。その結果、接地線1ではもとのノイズとスタブ2から戻ってきた波が重なって、 sinθ+sin(θ+π)=0となり、ノイズが相殺される。
【0013】また、図2は2本のスタブ21、22を接地線1に取り付けた例(誘導障害防止接地設備と併用した場合)を示し、接地線1に挿入した2箇所のローパスフィルタ7、7間の距離をLとし、波長λ=4Lのノイズがローパスフィルタ7の間で共振している状態を想定する。図2の接続点3におけるノイズをsinθと表す。ノイズはスタブ21及び22側へも流れ込み、スタブ21及び22の末端21a及び22aで反射して接続点3に戻ってくる。スタブ21の場合、接続点へ戻るまでに(λ/6)×2=λ/3だけ波が進むので位相は(2π)/3進む。スタブ22の場合、接続点へ戻るまでに(λ/3)×2=(2λ)/3だけ波が進むので位相は(4π)/3進む。従って、接続点3で合流すると、sinθ+sin〔θ+(2π/3)〕+sin〔θ+(4π/3)〕=0となり、ノイズが相殺される。スタブの本数によるノイズ低減の効果は、大差ないので、スタブを何本にするかは、適宜、選択できるものであるが、スタブの接地線への接続に要する時間、接続場所等により、決定できるものである。
【0014】接続する方法は、接地線及びスタブとなる電線の絶縁被覆を部分的に剥ぎ取り、導体同士を一般的な電線接続方法により接続する。スタブを接続する位置は、対象接地線のどこでもノイズ低減効果を得ることができる。ただし、スタブの先端から接続点を経由して接地線の先端までの長さが大きくなると、その長さにおいて新たな周波数のノイズが共振するおそれがあるので、できるだけ対象接地線の中間点付近に接続することが望ましい。接続するスタブの太さは、取り付ける対象の接地線の太さに関係なく、細い径の電線でよい。また、接続するスタブは、設置場所の状況に応じてコイル状に丸める等、都合の良い形状で設置すればよく、当該スタブを保護するため、箱に収納してもよい。また、これらのスタブは他の電線と区別できるように、他の電線と異なる色彩を施してもよい。
【0015】図4、図5及び図6は夫々、接地線のみの場合、特許第3164992号の「誘導障害防止接地設備」を用いた場合、この発明の方法を用いた場合の、ノイズの定在波の状況を定性的に示したグラフ図である。なお、各グラフにおいて、縦軸は、デシベルdBを、横軸は周波数fを表す。これによると、接地線のみの場合は多数の定在波が存在し、「誘導障害防止接地設備」を用いた場合でも、周波数によっては一定値以上のノイズが吸収されずに残っている。しかしこの発明の方法では、一定値以上のノイズはすべて消去されたことが分かる。
【0016】この発明の接地線のノイズ低減方法は、前述の特許の「誘導障害防止接地設備」と併用してもよく、又は単独で使用してもよい。即ち、大型の建物の接地線を対象とする場合は、前述の「誘導障害防止接地設備」と併用するのがよく、この場合は、接地線に挿入した2箇所のローパスフィルタ間に上記スタブを取り付け、このローパスフィルタ間でノイズが反射して共振した状態を、この発明により改善することができる。また、小型の建物の接地線を対象とする場合は、ローパスフィルタを用いずに、この発明の方法を用いる。
【0017】
【発明の効果】請求項1ないし6の発明は、大型の建物や小型の建物を問わず、接地設備における接地線に生じる定在波ノイズを低減することができ、ノイズに敏感な電子機器等に障害を与えるおそれがなくなった。また、この発明の方法は、既存の接地設備にも容易に取り付けることが出来、きわめて便利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態例における単数のスタブを接地線に取り付けた場合の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態例における2本のスタブを接地線に取り付けた場合の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態例における接地線のノイズの周波数の測定状態を示す説明図である。
【図4】接地線のみの場合のノイズの定在波の状況を示すグラフ図である。
【図5】特許第3164992号の「誘導障害防止接地設備」を用いた場合のノイズの定在波の状況を示すグラフ図である。
【図6】この発明の方法を用いた場合のノイズの定在波の状況を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 接地線 2 スタブ
3 接続点 4 オシロスコープ
5 電気機器 6 接地極
7 ローパスフィルタ 21 スタブ
22 スタブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 単数または複数のスタブの各一端を接地線の1点に接続して、該接地線のノイズと前記スタブの他の一端で反射して戻ってきたノイズを波の干渉により相殺して低減することを特徴とする、接地線のノイズ低減方法。
【請求項2】前記接地線に接続する前記スタブの長さは、前記接地線のノイズが前記接続点から前記スタブへ流れて該スタブの他の一端で反射して前記接続点へ戻ったとき、前記接地線における元のノイズに前記スタブから戻ってきた位相の異なるノイズが重なることにより、ノイズが相殺されるような長さに設定することを特徴とする、請求項1記載の接地線のノイズ低減方法。
【請求項3】n本(nは整数)の前記スタブを接続する場合における各スタブの長さは、前記ノイズの波長がλのとき、(λ/4)×〔2/(n+1)〕、(λ/4)×〔4/(n+1) 〕、(λ/4)×〔6/(n+1) 〕 ・・・・・(λ/4)×〔2n/(n+1) 〕において、n=1では、第1項、n=2では、第1〜2項、n=3では、第1〜3項・・・・n=nでは、第1〜n項の長さにそれぞれ設定することを特徴とする、請求項2に記載の接地線のノイズ低減方法。
【請求項4】前記スタブを、前記接地線の中間点付近に接続することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の接地線のノイズ低減方法。
【請求項5】前記スタブは、前記接地線との接続場所の状況に応じたコイル状等の場所を取らない形状や、安全の観点からの箱への収納、他の電線との識別可能な色彩等とすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の接地線のノイズ低減方法。
【請求項6】前記接地線の2個所に配設した、インピーダンスの低いインダクタンスや抵抗で構成されているローパスフィルタ間に、前記スタブを取付けることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の接地線のノイズ低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2003−70155(P2003−70155A)
【公開日】平成15年3月7日(2003.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−259265(P2001−259265)
【出願日】平成13年8月29日(2001.8.29)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【Fターム(参考)】