説明

接着フィルムおよびフラットケーブル

【課題】ノンハロゲン材料からなる難燃剤を用いて良好な難燃性を有する接着フィルムおよびフラットケーブルを提供する。
【解決手段】平角導体2が接着剤層3を介してポリマフィルム4で挟まれた構造であるフラットケーブル1において、接着剤層3は、ノンハロゲン材料からなる難燃剤と含水した吸水性ポリマ粒子とを含み、吸水性ポリマ粒子が1〜20mass%の配合量で添加されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマフィルム上に接着剤層が形成されたハロゲンフリーの接着フィルムおよびフラットケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットケーブルは、薄型テレビや、パソコン、プリンタ、自動車用配線などの内部配線材料として用いられている。このフラットケーブルは、二枚の接着剤が付いたポリマフィルム(接着フィルム)の間に導体をサンドイッチした構造になっている。
【0003】
フラットケーブルの用途が広がるにしたがい、フラットケーブルに対する要求も多岐に亘ってきている。特に、OA機器、家電の用途では、難燃性が強く求められ、臭素系難燃剤などの毒性の強いハロゲン化合物を含まない、ノンハロゲン(ハロゲンフリー)材料からなる難燃剤で難燃性を向上させたフラットケーブルの要求が高まっている。
【0004】
そこで、特許文献1,2では、接着剤の中にノンハロゲン材料からなる難燃剤を添加した接着フィルムおよびフラットケーブルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−43974号公報
【特許文献2】特開2007−106982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2のように、ノンハロゲン材料からなる難燃剤を接着剤に添加することで難燃性を確保する方法では、ハロゲン化合物を含む難燃剤を添加する場合に比べて難燃性の向上の効果が得られにくい場合がある。このような場合、難燃性の向上の効果を安定して得るためには、高価な難燃剤を大量に使用することが必要になる。このため、難燃剤を大量に入れることで接着剤の接着性が低下するおそれがあるとともに、製品コストも高くなってしまうという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ノンハロゲン材料からなる難燃剤を用いて良好な難燃性を有する接着フィルムおよびフラットケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく本発明は、ポリマフィルム上に接着剤層が形成された接着フィルムにおいて、前記接着剤層は、ノンハロゲン材料からなる難燃剤と含水した吸水性ポリマ粒子とを含み、前記吸水性ポリマ粒子が1〜20mass%の配合量で添加されている接着フィルムである。
【0009】
また、本発明は、平角導体が接着剤層を介してポリマフィルムで挟まれた構造であるフラットケーブルにおいて、前記接着剤層は、ノンハロゲン材料からなる難燃剤と含水した吸水性ポリマ粒子とを含み、前記吸水性ポリマ粒子が1〜20mass%の配合量で添加されているフラットケーブルである。
【0010】
吸水性ポリマを凍結粉砕し、その粉砕した吸水性ポリマに20倍量の純水を添加して前記含水した吸水性ポリマ粒子とし、その含水した吸水性ポリマ粒子を前記接着剤層内に分散させたものであってもよい。
【0011】
前記吸水性ポリマ粒子は非イオン系樹脂からなる吸水性ポリマにより形成されていてもよい。
【0012】
前記接着剤層には難燃剤が添加されていてもよい。
【0013】
前記非イオン系樹脂は、オキシアルキレン基を有する樹脂からなっていてもよい。
【0014】
前記非イオン系樹脂は、アクリル酸アミド系樹脂からなっていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ノンハロゲン材料からなる難燃剤を用いて良好な難燃性を有する接着フィルムおよびフラットケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフラットケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1に示すように、本発明に係るフラットケーブル1は、平角導体2を並列に配置し、接着剤層3を介して一対のポリマフィルム4で挟んでなるものである。
【0019】
本実施の形態では、フラットケーブル1の導体として平角導体2を用いるが、フラットケーブル1の導体はこれに限るものではない。フラットケーブル1の導体としては、省スペース性、コネクタとの接合性、配線性などの取り扱い性の点で、角断面形状の平角導体2が望ましい。なお、図1では6本の平角導体2を等間隔(等ピッチ)に配置したフラットケーブル1を記載しているが、用いる平角導体2の本数やピッチなどについて特に制限するものではない。
【0020】
ポリマフィルム4の材質は、電気絶縁性や、使用環境での耐熱性、耐湿熱性、柔軟性、難燃性、コストなどの特性を考慮し選定される。ポリマフィルム4としては、とりわけポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)フィルムがコストの点で安く、広く用いられる。ただし、PET樹脂は難燃性が乏しい材料であり、フラットケーブル1としての難燃性を付与するためには接着剤層3を工夫して難燃化することが必要である。
【0021】
ここで、接着剤層3には、難燃性の他に、ポリマフィルム4同士の接合と、平角導体2とポリマフィルム4を接合する機能が要求される。
【0022】
接着剤層3は、ポリマフィルム4上に接着剤塗料をコートし、その後、乾燥させて接着剤塗料に含まれる溶剤を加熱処理などにより除去することで形成される。このように、ポリマフィルム4上に接着剤層3を形成することで、本発明に係る接着フィルム5が作製される。接着剤層3を形成するための接着剤塗料は、溶剤中にベースポリマを分散させてなり、本実施の形態では、ベースポリマに加え、さらに、難燃剤と含水した吸水性ポリマ粒子を溶剤中に分散させてなる。接着剤塗料は、これらベースポリマ、難燃剤、含水した吸水性ポリマ粒子、及び溶剤を混合・攪拌して得られる。
【0023】
接着剤塗料のベースポリマとしては、ポリエステル樹脂などを用いることができる。溶剤としては、メチルエチルケトンなどを用いることができる。
【0024】
難燃剤としては、一般のノンハロゲン材料からなる難燃剤を用いるとよい。一般のノンハロゲン材料からなる難燃剤としては、燐酸エステル系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、メラミンシアヌレートなどの窒素系難燃剤などを用いることができる。
【0025】
含水した吸水性ポリマ粒子は、吸水性ポリマを凍結粉砕し、その凍結粉砕した吸水性ポリマに自身の20倍量の純水を添加することで形成される。
【0026】
本実施の形態に係るフラットケーブル1には、接着フィルム5が形成されており、フラットケーブル1(接着フィルム5)は、接着剤層3の難燃性をより高めるために、接着剤層3が含水した吸水性ポリマ粒子を1〜20mass%含んでいる。この含水した吸水性ポリマ粒子は、接着剤層3内に分散した状態で存在する。ここで、含水した吸水性ポリマ粒子の配合量を1〜20mass%とするのは、含水した吸水性ポリマ粒子の配合量が1mass%より少ない場合は、難燃性向上の効果が小さくなり、一方、含水した吸水性ポリマ粒子の配合量が20mass%より多い場合は、難燃性の効果はあるが接着性や絶縁特性が不十分となり好ましくないためである。
【0027】
ここで、吸水性ポリマとは、吸水あるいは含水した水を保持する機能を有するポリマである。本発明で使用する吸水性ポリマとしては、通電部(平角導体2)の絶縁体としての機能も要求されるため、非イオン系(ノニオン系)の樹脂であることが望ましく、オキシアルキレン基(−CnH2n−O−);(n=2〜4)を有する樹脂、もしくは、アクリル酸アミド系樹脂などが挙げられる。
【0028】
オキシアルキレン基を有する樹脂としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(n=2)、ポリプロピレンオキサイド(n=3)、ポリブチレンオキサイド(n=4)などのポリアルキレンオキサイド樹脂、或いはこれらの共重合樹脂が挙げられる。
【0029】
アクリル酸アミド系樹脂としては、例えば、アクリル酸アミドと、アクリル酸もしくはメタクリル酸との共重合体などが挙げられる。
【0030】
また、これら以外の非イオン系の樹脂として、ヒドロキシアルキルセルロース樹脂、ヒドロキシエチルセルロース樹脂なども使用が可能である。
【0031】
本発明で用いる吸水性ポリマ粒子は、純水などを含水させた状態で接着剤のベースポリマに添加することが好ましい。純水などを含水していない吸水性ポリマ粒子の場合、難燃性向上の効果が低下するおそれがある。本実施の形態では、吸水性ポリマに自身の20倍量の純水を添加した吸水性ポリマ粒子を用いているので、難燃性向上の効果が効果的に得られる。
【0032】
本発明のフラットケーブル1は、例えば、ポリマフィルム4上に接着剤層3が形成された接着フィルム5を作製した後、平角導体2を複数本並列に配置し、これを接着剤層3を内側に向けた上下二枚の接着フィルム5で挟み固定し、熱ロールで熱と圧力を加えて接着剤層3を接合させて貼り合わせることで作製される。
【0033】
以上要するに、本発明のフラットケーブル1(接着フィルム5)は、接着剤層3に、含水した吸水性ポリマ粒子を1〜20mass%含むため、難燃性向上の効果を有する。これは、吸水性ポリマは保水性が高いので、フラットケーブル1(接着フィルム5)中に常に一定量の水を保持でき、フラットケーブル1(接着フィルム5)に自己消火性を付与できるためである。このように、含水した吸水性ポリマ粒子を用いることで、接着剤層3の難燃剤の量を従来より少なくでき、ノンハロゲン材料からなる難燃剤を用いたフラットケーブル1(接着フィルム5)の難燃性向上を低コストで実現することができる。また、含水した吸水性ポリマ粒子の配合量を20mass%以下としているので、この吸水性ポリマ粒子の影響で接着性や絶縁特性が不十分となることもない。
【実施例】
【0034】
次に本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0035】
まず、含水した吸水性ポリマ(以下、含水吸水性ポリマ)粒子の準備を行った。これは、住友精化社製 アクアコークTWB−P(ノニオン型アルキレンオキサイド樹脂)を凍結粉砕機にて平均粒径5μmに粉砕し、それ自身の20倍量の純水を添加することで行った。
【0036】
次に、ベースポリマとしてポリエステル樹脂(東洋紡社製ポリエステルバイロン103)、ノンハロゲン材料からなる難燃剤(クラリアント社製OP935)、上記含水吸水性ポリマ粒子、溶剤(メチルエチルケトン)を所定量秤量した後、これらを混合・攪拌して、接着剤塗料とした。この接着剤塗料を厚み12μmの片側コロナ放電処理したPET樹脂からなるポリマフィルム4に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにダイコータを用いて塗装し、乾燥して接着フィルム5とした。
【0037】
その後、幅0.50mm×厚さ0.022mmの平角導体2を導体間ピッチ0.50mmで40本配置し、上下二枚の接着フィルム5で挟み固定し、熱ロールで110℃、0.5MPaで貼り合わせし、含水吸水性ポリマ粒子の割合が10mass%の実施例1、5mass%の実施例2、20mass%の実施例3のフラットケーブル1を5本ずつ作製した。
【0038】
また、同様にして、含水吸水性ポリマ粒子の割合が0.4mass%の比較例1、30mass%の比較例2のフラットケーブルを5本ずつ作製した。
【0039】
得られたフラットケーブルの難燃性は垂直燃焼試験(UL758VW−1)で評価した。また、平角導体と接着フィルムとの接着性(接着強度)は、剥離速度50mm/分でT字剥離試験を行い、0.1N/mm以上のものを合格、0.1N/mm未満のものを不合格として評価した。これらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、含水吸水性ポリマ粒子の割合が1〜20mass%の範囲内である実施例1〜3では、フラットケーブル1は5本中5本とも自己消火し、高い難燃性が確認できた。また、接着強度がいずれも0.1N/mm以上であり、平角導体2との接着性にも優れていた。
【0042】
これに対し、含水吸水性ポリマ粒子の割合が0.4mass%である比較例1では、接着強度は0.6N/mmと優れていたが、難燃性試験は不合格であった。
【0043】
また、含水吸水性ポリマ粒子の割合が30mass%である比較例2では、難燃性試験は合格であったが、接着強度が0.1N/mm未満であり、平角導体との接着性が不十分であった。
【0044】
このように、接着剤層3に含まれる含水吸水性ポリマ粒子の割合を1〜20mass%とすることで、難燃性と接着強度に優れたフラットケーブル1を作製可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 フラットケーブル
2 平角導体
3 接着剤層
4 ポリマフィルム
5 接着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマフィルム上に接着剤層が形成された接着フィルムにおいて、前記接着剤層は、ノンハロゲン材料からなる難燃剤と含水した吸水性ポリマ粒子とを含み、前記吸水性ポリマ粒子が1〜20mass%の配合量で添加されていることを特徴とする接着フィルム。
【請求項2】
平角導体が接着剤層を介してポリマフィルムで挟まれた構造であるフラットケーブルにおいて、前記接着剤層は、ノンハロゲン材料からなる難燃剤と含水した吸水性ポリマ粒子とを含み、前記吸水性ポリマ粒子が1〜20mass%の配合量で添加されていることを特徴とするフラットケーブル。
【請求項3】
吸水性ポリマを凍結粉砕し、その粉砕した吸水性ポリマに20倍量の純水を添加して前記含水した吸水性ポリマ粒子とし、その含水した吸水性ポリマ粒子を前記接着剤層内に分散させた請求項2記載のフラットケーブル。
【請求項4】
前記吸水性ポリマ粒子は非イオン系樹脂からなる吸水性ポリマにより形成されている請求項2又は3記載のフラットケーブル。
【請求項5】
前記接着剤層には難燃剤が添加されている請求項2〜4いずれかに記載のフラットケーブル。
【請求項6】
前記非イオン系樹脂は、オキシアルキレン基を有する樹脂からなる請求項4記載のフラットケーブル。
【請求項7】
前記非イオン系樹脂は、アクリル酸アミド系樹脂からなる請求項4記載のフラットケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−7127(P2012−7127A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146447(P2010−146447)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】