説明

接着剤フィルムの製造方法

【課題】無機充填材の分散効率に優れ、接着剤層における欠陥の発生が抑制された接着剤フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】接着剤フィルムを、シリカフィラーおよび溶剤を減圧下で混合して第1の混合物を得る第1の混合工程と、前記第1の混合物または第2の混合物を分散処理して分散物を得る分散工程と、前記分散物を濾過処理して濾過物を得る第1の濾過工程と、前記濾過物を用いて接着剤層用ワニスを得るワニス調製工程と、前記接着剤層用ワニスを、基材上に塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、を含む製造方法で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル関連機器の多機能化及び軽量小型化の要求が急速に高まりつつある。これに伴い、半導体素子の高密度実装に対するニーズは年々強まり、特に半導体素子を積層するスタックドマルチチップパッケージ(以下「スタックドMCP」という)の開発がその中心を担っている。
【0003】
スタックドMCPの技術開発は、パッケージの小型化と多段積載という相反する目標の両立にある。そのため、特に半導体素子に使用されるシリコンウェハの厚さは薄膜化が急速に進み、ウェハ厚さ100μm以下のものが積極的に使用、検討されている。また多段積載は、パッケージ作製工程の複雑化を引き起こすため、パッケージ作製工程の簡素化及び、多段積載によるワイヤーボンディングの熱履歴回数の増加に対応した作製プロセス、材料の提案が求められている。
【0004】
このような状況の中、スタックドMCPの接着部材としては従来からペースト材料が用いられてきた。しかし、ペースト材料では、半導体素子の接着プロセスにおいて樹脂のはみ出しが生じたり、膜厚精度が低かったりするといった問題がある。これらの問題は、ワイヤーボンディング時の不具合発生やペースト剤のボイド発生などの原因となるため、ペースト材料を用いた場合では、上述の要求に対処しきれなくなってきている。
【0005】
こうした問題を改善するために、近年、ペースト材料に代えてフィルム状の接着剤が使用される傾向にある。フィルム状の接着剤はペースト材料と比較して、半導体素子の接着プロセスにおけるはみ出し量を少なく制御することが可能であり、且つ、フィルムの膜厚精度を高めて、膜厚のばらつきを小さくすることが可能であることから、特にスタックドMCPへの適用が積極的に検討されている。
【0006】
このフィルム状接着剤は、通常、接着剤層が剥離基材上に形成された構成を有しており、その代表的な使用方法の一つにウェハ裏面貼付け方式がある。ウェハ裏面貼り付け方式とは、半導体素子の作製に用いられるシリコンウェハの裏面にフィルム状接着剤を直接貼付ける方法である。この方法では、半導体ウェハに対するフィルム状接着剤の貼付けを行った後、剥離基材を除去し、接着剤層上にダイシングテープを貼り付ける。その後、ウェハリングに装着させて所望の半導体素子寸法にウェハを接着剤層ごと切削加工する。ダイシング後の半導体素子は裏面に同じ寸法に切り出された接着剤層を有する構造となっており、この接着剤層付きの半導体素子をピックアップして搭載されるべき基板に熱圧着等の方法で貼り付ける。
【0007】
上記のようなフィルム状接着剤を構成する接着剤層については、種々検討されており、例えば、接着性の樹脂成分に加えて無機充填材(フィラー)を含んで構成されることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−302998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したようなシリコンウェハの薄膜化に伴い、フィルム状接着剤の薄膜化に対する要求も大きくなってきている。しかし、接着性成分に加えて無機充填材を含むフィルム状接着剤の薄膜化においては、無機充填材の分散不良に起因して、フィルム表面に無機充填材による欠陥が発生することがある。このようなフィルム表面の欠陥は、薄膜化したシリコンウェハに接着する際に、シリコンウェハの割れの原因となる場合がある。
【0010】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、無機充填材の分散工程の効率化が図れ、接着剤層における欠陥の発生が抑制された接着剤フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 無機充填材および溶剤を減圧下で混合して第1の混合物を得る第1の混合工程と、前記第1の混合物、および、接着性成分を混合して第2の混合物を得る第2の混合工程と、前記第1の混合物または第2の混合物を分散処理して分散物を得る分散工程と、前記分散物を濾過処理して濾過物を得る第1の濾過工程と、前記濾過物を用いて接着剤層用ワニスを得るワニス調製工程と、前記接着剤層用ワニスを基材上に塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、を含む接着剤フィルムの製造方法。
【0012】
<2> 前記接着剤層の厚さが20μm以下である、前記<1>に記載の接着剤フィルムの製造方法。
【0013】
<3> 前記第2の混合工程は減圧下に行われる、前記<1>または<2>に記載の接着剤フィルムの製造方法。
【0014】
<4> 前記ワニス調製工程は、前記濾過物および熱可塑性樹脂を混合して第3の混合物を得る第3の混合工程と、前記第3の混合物を濾過処理して接着剤層用ワニスを得る第2の濾過工程と、を含む、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の接着剤フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、無機充填材の分散工程の効率化が図れ、接着剤層における欠陥の発生が抑制された接着剤フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
【0017】
本発明の接着剤フィルムの製造方法は、無機充填材および溶剤を減圧下で混合して第1の混合物を得る第1の混合工程と、前記第1の混合物、および、接着性成分を混合して第2の混合物を得る第2の混合工程と、前記第2の混合物を分散処理して分散物を得る分散工程と、前記分散物を濾過処理して濾過物を得る第1の濾過工程と、前記濾過物を用いて製造された接着剤層用ワニスを、基材上に塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、を含み、必要に応じてその他の工程を含んで構成される。
【0018】
前記第1の混合工程を減圧下で行うことにより、無機充填材(フィラー)の表面に付着した微細な気泡が効率的に除去され、無機充填材の溶剤に対する濡れ性が良好になるため、後述する分散処理における無機充填材の分散性が向上し、凝集物の発生も抑制される。これにより分散処理における目詰まり等の不具合の発生が抑制され、さらに分散処理に要する時間が短縮される。また、分散処理後の濾過処理における濾過性が良好になり、濾過フィルタの目詰まりが抑制され、接着剤フィルム製造の生産性が向上する。
また無機充填材が均一かつ微細に分散されるため、製造される接着剤フィルムの接着剤層における欠陥の発生が抑制され、前記欠陥に起因するシリコンウェハの割れの発生が抑制される。さらに第1の混合工程を減圧下で行うことで、以降の工程においてもその効果が持続し、接着剤層における欠陥の発生が抑制される。
【0019】
(第1の混合工程)
前記第1の混合工程における減圧下とは、混合に用いる容器内が大気圧よりも低い減圧状態となれば特に制限されないが、分散効率の観点から、30kPa以下であることが好ましく、15kPa以下であることがより好ましい。
【0020】
減圧状態とする方法については、通常行なわれる減圧方法を特に制限なく用いることができる。例えば、第1の混合工程を行なう減圧可能な容器(例えば、密閉型の混合釜)に真空ポンプを接続して、容器内の空気を吸引して減圧することができる。
また減圧状態の調整方法についても特に制限されない。例えば、容器に接続した圧力計を指標として所望の減圧状態になるように、真空ポンプの吸引力を調整したり、リークバルブ等からの漏れ量を調整したりすることで減圧状態を調整することができる。
【0021】
第1の混合工程においては、無機充填材と溶剤とを混合する。無機充填材と溶剤の詳細については後述する。第1の混合工程における混合方法は、減圧下で行うことができれば特に制限されず、通常行なわれる混合方法で行うことができる。
例えば、攪拌装置を備えた減圧可能な容器に、溶剤と無機充填材を投入して、攪拌装置によって減圧下で混合処理を行うことができる。
減圧下で混合処理を行うことができる混合装置としては、例えば、住友重機社製のマックスブレンド等を挙げることができる。
【0022】
混合処理の条件は、混合方法に応じて適宜選択できる。例えば、混合時間としては1〜20時間とすることができ、1〜12時間であることが好ましい。混合温度としては0〜40℃とすることができ、10〜30℃であることが好ましい。
また混合を攪拌で行う場合には、碇型、プロペラ型等の攪拌羽を用いて、攪拌速度20〜120rpmとすることができる。
【0023】
本発明においては減圧下で行う第1の混合工程に先立ち、常圧下で溶剤と無機充填材を混合する工程をさらに設けてもよい。常圧下での混合工程をさらに設けるとことで、無機充填材の飛散を抑制することができ、生産性がより向上する。
【0024】
第1の混合工程における無機充填材と溶剤の混合比率は特に制限されないが、分散効率の観点から、無機充填材および溶剤の総量中、無機充填材の含有率が5〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。
【0025】
前記第1の混合工程においては、無機充填材と溶剤とを混合するが、必要に応じてその他の成分を加えてもよい。
また第1の混合工程においては超音波処理を併用することもできる。混合処理に超音波処理を併用することで、分散効率がより向上する。
【0026】
(第2の混合工程)
第2の混合工程においては、前記第1の混合工程で得られた第1の混合物、または第1の混合物を分散処理して得られる分散物と、接着性成分とを混合する。
また第2の混合工程は、第1の混合物を分散処理した分散物と、接着性成分とを混合する工程であることが好ましい。
第2の混合工程に用いられる接着性成分の詳細については後述する。また第2の混合工程は、接着性成分以外のその他の成分とともに混合する工程であってもよい。その他の成分としては例えば、後述する熱可塑性樹脂等を挙げることができる。
【0027】
前記第2の混合工程における混合方法は、前記第1の混合物またはその分散物と、接着性成分とを混合可能であればよく、通常用いられる混合方法を適宜選択して用いることができる。例えば、前記第1の混合工程において説明した混合方法を第2の混合方法においても採用することができ、好ましい態様も同様である。
【0028】
本発明において第2の混合工程は常圧下で行っても、減圧下で行ってもよいが、分散効率の観点から、減圧下で行うことが好ましい。第1の混合工程に加えて第2の混合工程を減圧下で行うことで、分散効率がより効果的に向上する。
第2の混合工程における減圧状態およびその好ましい態様は、第1の混合工程における減圧状態と同様である。
【0029】
(分散工程)
分散工程においては、前記第1の混合工程で得られた第1の混合物、または、第2の混合工程で得られた第2の混合物を分散処理する。分散処理を行うことで無機充填材が均一かつ微細に、溶剤中に分散され、接着剤層を形成した場合に欠陥の発生が効果的に抑制される。
【0030】
分散処理の方法としては特に制限されず、通常用いられる分散処理方法を適宜選択して用いることができる。具体的には例えば、らいかい機、3本ロール、ボールミル、およびビーズミル等を用いて分散処理を行うことができる。中でも、分散効率の観点から、ビーズミルを用いて分散処理を行うことが好ましい。
【0031】
ビーズミルに用いるビーズとしては特に制限されず、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ等を挙げることができる。またビーズの粒径としては例えば、0.1mm〜3mmとすることができ、0.1mm〜1mmであることが好ましい。
【0032】
分散処理の条件は、分散処理方法に応じて適宜選択される。例えば、ビーズミルを用いる場合、周速1〜10m/sec、速度1〜3L/minで、10〜30時間とすることができる。また、分散処理においては液温の上昇を抑制するため、40℃以下に冷却して行なうことが好ましい。
【0033】
(第1の濾過工程)
第1の濾過工程においては、分散工程で得られた分散物を濾過処理する。濾過処理は、例えば、分散物に圧力をかけて濾過フィルタを通過させることで行うことができる。
本発明においては、前記第1の混合工程が減圧下に行われることで、濾過効率が向上し、さらに濾過フィルタの目詰まりの発生を抑制することができ、接着剤フィルムの生産性が向上する。
【0034】
前記濾過フィルタの材質は特に制限されず、市販の濾過フィルタから適宜選択して用いることができる。例えば、住友3M社製のマイクロスクリーン等を用いることができる。
前記濾過フィルタのフィルタ性能(孔径)は特に制限されず、例えば、1μm〜20μmとすることができ、1μm〜10μmであることが好ましい。
また濾過処理における濾過圧力は特に制限されず、例えば、0.01〜0.3MPaとすることができ、0.01〜0.2MPaであることが好ましい。
【0035】
第1の濾過工程で得られる濾過物は、そのまま接着剤層用ワニスと用いることもできるし、必要に応じてその他の添加剤をさらに加えて接着剤層用ワニスとすることもできる。
【0036】
(第3の混合工程)
本発明においては、前記第1の濾過工程後に、濾過工程で得られた濾過物と、熱可塑性樹脂を混合して第3の混合物を得る第3の混合工程を設けることが好ましい。第1の濾過工程後に熱可塑性樹脂を混合することで、分散工程における分散効率が向上する。
【0037】
第3の混合工程においては、前記濾過物と熱可塑性樹脂とを混合する。熱可塑性樹脂の詳細については後述する。
また、第3の混合工程における混合方法は、前記第1の混合方法と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0038】
さらに前記第3の混合工程は、減圧下で行われることが好ましい。これにより後述する第2の濾過工程におけるフィルタの目詰まりの発生がより抑制され、さらに接着剤層を形成する際の欠陥の発生がより効果的に抑制される。
尚、第3の混合工程における減圧状態は、前記第1の混合工程における減圧状態と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0039】
(第2の濾過工程)
本発明においては、前記第3の混合工程後に、得られた第3の混合物を濾過処理して接着剤層用ワニスを得る第2の濾過工程を設けることが好ましい。第3の混合物を濾過処理することで接着剤層を形成する際の欠陥の発生がより効果的に抑制される。
第2の濾過工程における濾過処理は、前記第1の濾過工程における濾過処理と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0040】
(接着剤層形成工程)
接着剤層形成工程においては、上記のようにして得られる接着剤層用ワニスを、基材上に塗布して接着剤層を形成する。
前記接着剤層用ワニスは塗布する前に、脱泡処理等を行ってもよい。脱泡処理としては、例えば、真空脱泡処理、超音波脱泡処理、静置等を挙げることができる。
【0041】
前記基材は、接着剤フィルムの使用時にキャリアフィルムとしての役割を果たすものである。かかる基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリビニルアセテートフィルムなどのポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルムなどのプラスチックフィルム等を使用することができる。また、紙、不織布、金属箔等も使用することができる。
【0042】
また、基材の接着剤層と接する側の面は、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の離型剤で表面処理されていてもよい。
【0043】
基材の厚さは、使用時の作業性を損なわない範囲で適宜選択することができるが、10〜500μmであることが好ましく、25〜100μmであることがより好ましく、30〜50μmであることが特に好ましい。
【0044】
前記基材上に接着剤層用ワニスを塗布する方法しては、公知の塗布方法を用いることができる。例えば、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、カーテンコート法等を用いることができる。
【0045】
基材上に接着剤層用ワニスを塗布して形成された塗布層は、塗布層に含まれる溶剤の少なくとも一部を除去することで接着剤層とすることができる。溶剤の除去方法は特に制限されず、加熱、減圧等の公知の方法を適宜選択することができる。
本発明において接着剤層に残存する溶剤の量は特に制限されないが、接着剤層に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
接着剤層形成工程で形成される接着剤層の厚さは特に制限されないが、100μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
尚、近年のシリコンウェハの薄膜化の傾向をうけて接着剤層も薄膜化する傾向にあるが、第1の混合工程を減圧下に行うことによって、薄膜化した接着剤層における欠陥の発生を効果的に抑制することができる。
【0047】
前記接着剤層を構成する接着剤層用ワニスは、無機充填材(フィラー)の少なくとも1種と、溶剤の少なくとも1種と、接着性成分の少なくとも1種とを含み、必要に応じて熱可塑性樹脂、カップリング剤、イオン捕捉剤等を含んで構成される。
【0048】
(無機充填材)
接着剤層用ワニスは、無機充填材(フィラー)の少なくとも1種を含む。無機フィラーを含むことで、形成される接着剤層の取り扱い性や熱伝導性が向上する。また溶融粘度の調整およびチキソトロピック性付与なども可能になる。
無機充填材(フィラー)としては、特に制限はなく、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミウイスカー、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ等が挙げられる。
【0049】
これらの中でも、熱伝導性向上の観点からは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカが好ましい。また、溶融粘度の調整やチキソトロピック性の付与の観点からは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、結晶性シリカ、非晶性シリカが好ましい。
本発明においては、無機充填材として、結晶性シリカおよび非晶性シリカから選ばれるシリカフィラーの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0050】
また、無機充填材の形状は特に制限されるものではない。
さらに無機充填材の粒子径は特に制限されないが、平均一次粒子径が10nm〜1μmであることが好ましく、20nm〜50nmであることがより好ましい。
これらの無機充填材は、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
無機充填材の添加量は、接着剤層の総量を基準として1〜20質量%が好ましい。添加量が1質量以上であることで添加効果が十分に得られる。また20質量%以下であることで、接着剤層の粘接着性が低下したり、ボイド残存によって電気特性が低下したりすること等を抑制することができる。
【0052】
(溶剤)
前記接着剤層用ワニスは、溶剤の少なくとも1種を含む。前記溶剤としては特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等のアルコール系溶剤;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤等を挙げることができる。
【0053】
フィルム作製時の揮発性などを考慮すると、例えば、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレンなどの比較的低沸点の溶媒を使用することが好ましい。
【0054】
また、塗膜性を向上させるなどの目的で、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、シクロヘキサノンなどの比較的高沸点の溶媒を使用することもまた好ましい。
本発明においては分散効率等の観点から、ケトン系溶剤を使用することが好ましい。
これらの溶剤は、1種単独でも又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
(接着性成分)
本発明における接着性成分としては、例えば、熱硬化性接着成分、光硬化性接着成分、熱可塑性接着成分、及び、酸素反応性接着成分等を挙げることができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができるが、接着剤として半導体素子の固定に使用されることを考慮すると、接着性成分は熱硬化性接着成分により構成されていることが好ましい。
【0056】
熱硬化性接着成分としては、熱により硬化するものであれば特に制限はなく、グリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、イソシアヌレート基、アミノ基、アミド基等の官能基を持つ熱重合性成分を含む化合物が挙げられる。
これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができるが、接着剤フィルムとしての耐熱性及び熱硬化による接着力を考慮すると、熱によって硬化し接着作用を及ぼす熱硬化性樹脂を使用することが好ましい。
【0057】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられ、特に、耐熱性、作業性、信頼性に優れる接着剤フィルムが得られる点でエポキシ樹脂を使用することが最も好ましい。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合には、エポキシ樹脂硬化剤を合わせて使用することが好ましい。
【0058】
上記エポキシ樹脂としては、硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などの二官能エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂等を使用することができる。また、多官能エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂など、一般に知られているものを使用することができる。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
上記エポキシ樹脂として、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコートシリーズ(エピコート807、エピコート815、エピコート825、エピコート827、エピコート828、エピコート834、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009)、ダウケミカル社製のDER−330、DER−301、DER−361、及び、東都化成(株)製のYD8125、YDF8170等が挙げられる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート152、エピコート154、日本化薬(株)製のEPPN−201、ダウケミカル社製のDEN−438等が挙げられる。更に、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としては、日本化薬(株)製のEOCN−102S、EOCN−103S、EOCN−104S、EOCN−1012、EOCN−1025、EOCN−1027、東都化成(株)製のYDCN701、YDCN702、YDCN703、YDCN704等が挙げられる。
【0060】
多官能エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン(株)製のEpon 1031S、BASFジャパン社製のアラルダイト0163、ナガセケムテックス(株)製のデナコールEX−611、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−411、EX−321等が挙げられる。
【0061】
接着性成分としてエポキシ樹脂を使用する場合には、エポキシ樹脂硬化剤を使用することが好ましい。エポキシ樹脂硬化剤としては、通常用いられている公知の硬化剤を使用することができ、例えば、アミン類、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素、ジシアンジアミド、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSのようなフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有するビスフェノール類、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、特に吸湿時の耐電食性に優れる点で、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂及びクレゾールノボラック樹脂などのフェノール樹脂が好ましい。これらのエポキシ樹脂硬化剤は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
上記フェノール樹脂硬化剤の中で好ましいものとしては、例えば、大日本インキ化学工業(株)製、商品名:フェノライトLF2882、フェノライトLF2822、フェノライトTD−2090、フェノライトTD−2149、フェノライトVH−4150、フェノライトVH4170、明和化成(株)製、商品名:H−1、ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:エピキュアMP402FPY、エピキュアYL6065、エピキュアYLH129B65、及び、三井化学(株)製、商品名:ミレックスXL、ミレックスXLC、ミレックスRN、ミレックスRS、ミレックスVR等が挙げられる。
【0063】
前記接着剤層用ワニスに含まれる接着性成分の含有量は特に制限されないが、例えば、接着剤層用ワニス中に8〜12質量%含まれることが好ましく、9〜11質量%であることがより好ましい。
また前記接着性成分がエポキシ樹脂とフェノール樹脂硬化剤とを含む場合、エポキシ樹脂とフェノール樹脂硬化剤の含有比(エポキシ樹脂/フェノール樹脂硬化剤)としては、例えば、エポキシ当量基準で、0.8以上1.2以下とすることができ、0.9以上1.1以下であることが好ましい。
【0064】
上記接着性成分が熱硬化性接着成分を含む場合、接着剤層用ワニスには更に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、特に制限はなく、例えば、イミダゾール類等が挙げられる。具体的には、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
この硬化促進剤の添加量は、熱硬化性接着成分の総量100質量部に対して5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。この添加量が5質量部を超えると保存安定性が低下する傾向がある。
【0066】
(熱可塑性樹脂)
本発明における接着剤層用ワニスは、熱可塑性樹脂の少なくとも1種を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、熱可塑性を有する樹脂、または少なくとも未硬化状態において熱可塑性を有し、加熱後に架橋構造を形成する樹脂であれば特に制限されないが、熱可塑性樹脂(A)Tg(ガラス転移温度)が10〜100℃であり、且つ、重量平均分子量が5000〜200000であるもの、又は熱可塑性樹脂(B)Tgが−50℃〜10℃であり、且つ、重量平均分子量100000以上が好ましい。
【0067】
前者の熱可塑性樹脂(A)としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などが挙げられる。これらの中でもポリイミド樹脂を用いることが好ましい。
【0068】
後者の熱可塑性樹脂(B)としては、官能性モノマーに由来する構造単位を含む重合体を使用することが好ましい。この重合体の官能性モノマーの官能基としてはグリシジル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、イソシアヌレート基、アミノ基、アミド基などが挙げられ、中でもグリシジル基が好ましい。より具体的には、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートなどの官能性モノマーに由来する構造単位を含むグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体などが好ましく、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と非相溶であることがより好ましい。
【0069】
上記官能性モノマーに由来する構造単位を含む重合体としては、例えば、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレート等の官能性モノマーに由来する構造単位を含有し、かつ重量平均分子量が10万以上であるグリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体等が挙げられ、それらの中でもエポキシ樹脂と非相溶であるものが好ましい。グリシジル基含有(メタ)アクリル共重合体の具体例としては、例えば、ナガセケムテックス(株)製のHTR−860P−3(商品名)等が挙げられる。
【0070】
本発明の製造方法で製造される接着剤フィルムは、基材上に接着剤層が設けられたものであるが、必要に応じて接着剤層の基材と対向する面とは逆の面上に保護フィルムを設けてもよい。
保護フィルムとしては例えば、ポリエチレンフィルム等を挙げることができる。
【0071】
また前記接着剤フィルムの接着剤層の基材と対向する面とは逆の面上に、粘着層(ダイシングテープ)を設けて、ダイボンドダイシングシートを構成してもよい。ダイボンドダイシングシートについては、例えば、特開平7−45557号公報等に記載されている。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0073】
<実施例1>
混合釜として攪拌装置を備え減圧可能な容器(大昭加熱社製)を用い、シクロヘキサノン640質量部に、シリカフィラー(R972 平均一次粒子径20nm、日本アエロジル(株)製)100質量部を加えて、減圧下(1kPa)、攪拌速度70rpmで1時間、攪拌混合して第1の混合物を得た(第1の混合工程)。
得られた第1の混合物に、エポキシ樹脂としてYDCN−703(商品名、東都化成(株)製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210)16質量部と、フェノール樹脂としてミレックスXLC−LL(商品名、三井化学(株)製、フェノール樹脂)13質量部とを加えて、常圧下、攪拌速度60rpmで5時間、攪拌混合して第2の混合物を得た(第2の混合工程)。
【0074】
得られた第2の混合物を、ビーズミル(ジルコニアビーズ、粒径0.15mm)を用いて、20時間分散処理を行うことで分散物を調製した(分散工程)。
得られた分散物を、フィルタ性能が10μmのフィルタを用いて、濾過圧力0.15MPaにて濾過処理を行って濾過物を得た(第1の濾過工程)。
【0075】
得られた濾過物に、HTR−860−P3(商品名、ナガセケムテックス(株)製、エポキシ基含有アクリル系共重合体)250質量部、及び、硬化促進剤としてキュアゾール2PZ−CN(商品名、四国化成(株)製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール)0.5質量部を加えて、常圧下、攪拌速度60rpmで5時間、攪拌混合して第3の混合物を得た(第3の混合工程)。
次にフィルタ性能が10μmのフィルタを用いて、濾過圧力0.15MPaにて濾過処理を行って接着剤層用ワニスを調製した(第2の濾過工程)。
【0076】
上記で得られた接着剤層用ワニスを、剥離基材である膜厚50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:テイジンピューレックスA31、帝人デュポンフィルム(株)製)上に、コンマコーターを用いて塗布した。140℃で5分間加熱乾燥を行い、膜厚20μmのBステージ状態の接着剤層を形成して接着剤フィルムを製造した。
【0077】
<評価>
(フィルタライフ)
上記の接着剤フィルムの製造方法を複数回繰り返して、第1の濾過工程および第2の濾過工程に用いたそれぞれの濾過フィルタのフィルタライフを、初期の濾過速度が半分に低下するまでの濾過処理回数で評価した。
評価結果を表1に示した。
【0078】
(目詰まり不具合)
上記の接着剤フィルムの製造方法を所定の回数繰り返して、分散工程において、目詰まり不具合が発生した回数の平均値として目詰まり不具合を評価した。
評価結果を表1に示した。
【0079】
(フィルム欠陥)
得られた接着剤フィルムの表面をCCDカメラを用いて観察し、画像解析ソフトウェアによりフィルム欠陥の種類と発生数を評価した。フィルム欠陥の種類としては、フィラー自体に起因する粒状の欠陥と、フィラーが核となって発生すると考えられるハジキ欠陥の2種類に分類した。また欠陥の発生数は、接着剤フィルム1000mあたりの粒状の欠陥とハジキ欠陥の総発生数を計数し、後述の比較例1における総発生数を基準とした欠陥低減率(%)として評価した。評価結果を表1に示した。
【0080】
<実施例2>
実施例1において、第2の混合工程を減圧下(1kPa)で行なったこと以外は実施例1と同様にして接着剤フィルムを製造した。また上記と同様にして評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0081】
<実施例3>
実施例1において、第2の混合工程および第3の混合工程を減圧下(1kPa)で行なったこと以外は実施例1と同様にして接着剤フィルムを製造した。また上記と同様にして評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0082】
<比較例1>
実施例1において、第1の混合工程を常圧下で行なったこと以外は実施例1と同様にして接着剤フィルムを製造した。また上記と同様にして評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0083】
<比較例2>
実施例1において、第1の混合工程を常圧下で行ない、第2の混合工程を減圧下(1kPa)で行なったこと以外は実施例1と同様にして接着剤フィルムを製造した。また上記と同様にして評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0084】
<比較例3>
実施例1において、第1の混合工程を常圧下で行ない、第3の混合工程を減圧下(1kPa)で行なったこと以外は実施例1と同様にして接着剤フィルムを製造した。また上記と同様にして評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0085】
<比較例4>
実施例1において、第1の混合工程を常圧下で行ない、第2の混合工程および第3の混合工程を減圧下(1kPa)でそれぞれ行なったこと以外は実施例1と同様にして接着剤フィルムを製造した。また上記と同様にして評価を行なった。評価結果を表1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
表1から、本発明の接着剤フィルムの製造方法で接着剤フィルムを製造することにより、濾過工程におけるフィルタライフを向上でき、分散処理における目詰まり不具合の発生を抑制可能であり、生産性が向上することが分かる。
さらに接着剤層における欠陥の発生を、2倍以上の欠陥低減率で抑制できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填材および溶剤を減圧下で混合して第1の混合物を得る第1の混合工程と、
前記第1の混合物、および、接着性成分を混合して第2の混合物を得る第2の混合工程と、
前記第1の混合物または第2の混合物を分散処理して分散物を得る分散工程と、
前記分散物を濾過処理して濾過物を得る第1の濾過工程と、
前記濾過物を用いて接着剤層用ワニスを得るワニス調製工程と、
前記接着剤層用ワニスを、基材上に塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
を含む接着剤フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記接着剤層の厚さが20μm以下である、請求項1に記載の接着剤フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第2の混合工程は減圧下で行われる、請求項1または請求項2に記載の接着剤フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ワニス調製工程は、
前記濾過物および熱可塑性樹脂を混合して第3の混合物を得る第3の混合工程と、
前記第3の混合物を濾過処理して接着剤層用ワニスを得る第2の濾過工程と、
を含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の接着剤フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−197379(P2012−197379A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62935(P2011−62935)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】