説明

接着剤樹脂組成物、硬化物、接着剤フィルム及びカバーレイフィルム

【課題】高い加工性を有し、平滑で寸法安定性に優れる絶縁接着層を与える接着剤樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記の成分(a)及び(b)を含有し、(b)成分の含有量は、接着剤樹脂組成物の不揮発成分100重量部に対し20〜80重量部である接着剤樹脂組成物。
(a):(イ)エポキシ樹脂、(ロ)硬化剤、(ハ)硬化促進剤及び(ニ)リン含有フェノキシ樹脂を含有するエポキシ系接着樹脂原料[但し、エポキシ系接着樹脂原料における(ニ)成分の含有量は、エポキシ系接着樹脂原料中の不揮発成分100重量部に対し40〜70重量部である]、(b):平均長径Dが0.1〜15μmの板状シリカと、平均粒径Dが0.05〜10μmの球状シリカとを含有する無機フィラー[但し、前記平均長径Dと平均粒径Dとの関係がD>D/2を満足し、粒径が30μm以上のシリカを含有しない]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層プリント配線板等の絶縁接着層形成に好適な接着剤樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板としては、従来、紙−フェノール樹脂、ガラス繊維−エポキシ樹脂からなる基材、あるいはポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の基材と、金属を貼り合わせたものが用いられている。
【0003】
また、近年、電機・電子機器、精密機器の分野において用いるプリント配線板においては、配線占有面積が小さくなり、このため多層プリント基板の需要はますます高くなっている。プリント配線板を積層して多層プリント配線板を作製したり、異種の回路材料を複合化する工程においては、種々の接着剤あるいは接着剤フィルムが用いられている。
【0004】
このような接着剤は、多層プリント基板用接着剤、カバーレイフィルム用接着剤として広く使われているが、最近では接着強度、耐薬品性、はんだ耐熱性、耐折性等に優れた材料が求められるようになってきた。
【0005】
特許文献1では、ピール接着力、半田耐熱性、フロー性等の接着特性に優れ、難燃性を有する接着剤樹脂組成物として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量が60,000〜200,000であるリン含有フェノキシ樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤等を含有してなる接着剤樹脂組成物が提案されている。
【0006】
また、多層プリント配線板においては、配線の高密度化の要求が高まっており、銅配線と絶縁接着層との線熱膨張性の違いによるクラック発生等が生じにくい、低線熱膨張率の絶縁接着層が求められるようになってきた。
【0007】
絶縁接着層の低熱膨張化を図るため、絶縁接着層を与える樹脂組成物に無機フィラーを配合することが提案されている。例えば、特許文献2には、平均粒径が異なる球状粉末からなる充填材を含有した樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、アスペクト比が高い無機充填材を含有した樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2008/105563公報
【特許文献2】特開2003−3080号公報
【特許文献3】特開2006−257228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
絶縁接着層を形成する樹脂としては、一般には、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等が用いられるが、これらの樹脂組成物に高い割合で無機フィラーを充填すると樹脂組成物の流動性が低下して加工性が劣り、均一かつ平滑な絶縁接着層が得られないといった問題がある。そのため、無機フィラーを高い割合で充填させることは困難であり、線熱膨張率の低減に限界があった。本発明の目的は、高い加工性を有し、平滑で寸法安定性に優れる絶縁接着層を与える接着剤樹脂組成物を提供することであり、更に、このような接着剤樹脂組成物を用いた硬化物、接着剤フィルム及びカバーレイフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、絶縁接着層の形成に用いる特定の接着剤樹脂組成物に、形状の異なる2種以上のシリカを組み合わせて配合することによって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の成分(a)及び(b)を含有する接着剤樹脂組成物であって、(b)成分の含有量は、接着剤樹脂組成物の不揮発成分100重量部に対し20〜80重量部である接着剤樹脂組成物を提供する。
(a):下記の成分(イ)〜(ニ)を含有するエポキシ系接着樹脂原料、
(イ)エポキシ樹脂、
(ロ)硬化剤、
(ハ)硬化促進剤、及び
(ニ)リン含有フェノキシ樹脂
[但し、エポキシ系接着樹脂原料における(ニ)成分の含有量は、エポキシ系接着樹脂原料中の不揮発成分100重量部に対し40〜70重量部である。]
(b):平均長径Dが0.1〜15μmの板状シリカと、平均粒径Dが0.05〜10μmの球状シリカとを含有する無機フィラー。
[但し、前記平均長径Dと平均粒径Dとの関係がD>D/2を満足し、粒径が30μm以上のシリカを含有しない。]
【0012】
本発明の接着剤樹脂組成物は、(イ)成分が、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂であってもよい。
【0013】
【化1】

[式中、Wは一般式(2)で表される2価の基を示し、mは0以上の整数であり、mの平均は0.1〜15である。]
【0014】
【化2】

[式(2)中、R〜Rは独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、Aは単結合又は―CH―、−C(CH−、−CH(CH)−、−S−、−SO−、−O−、−CO−若しくは一般式(3)から選ばれる2価の基を示す。]
【0015】
【化3】

[式(3)中、R〜Rは独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【0016】
本発明の接着剤樹脂組成物は、(イ)成分において、一般式(1)における重合度m=0体の含有率が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したクロマトグラムの面積パーセントで70%以上であってもよい。
【0017】
また、本発明の接着剤樹脂組成物において、(ニ)成分が、下記一般式(4)で表され、リン含有率が1〜6重量%であり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量が10,000〜200,000であるリン含有フェノキシ樹脂であってもよい。
【0018】
【化4】

[式中、Xは下記一般式(5)又は(6)で表される2価の基を含むことを必須とする一般式(5)、(6)、(7)又は一般式(2)から選ばれる少なくとも1種の2価の基を示し、Zは水素原子又は一般式(8)を示し、nは平均値で21以上である。]
【0019】
【化5】

[式(5)〜(7)中、Yは下記一般式(9)又は(10)で表されるリン含有基を示し、一般式(5)のR〜R、一般式(6)のR〜R、一般式(7)のR〜Rは、独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【0020】
【化6】

[式(9)中のR〜R、式(10)中のR〜R10は独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【0021】
本発明の硬化物は、上記いずれかの接着剤樹脂組成物を硬化して得られるものである。
【0022】
本発明の接着剤フィルムは、上記いずれかの接着剤樹脂組成物をフィルム状に形成してなるものである。
【0023】
本発明のカバーレイフィルムは、ポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルムに設けられた上記いずれかの接着剤樹脂組成物からなる層とを有するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の接着剤樹脂組成物は、上記(イ)のエポキシ樹脂と(ニ)のリン含有フェノキシ樹脂とを組み合わせて含有することにより、優れたフロー特性を有するとともに、その硬化物は難燃性であり、低い線熱膨張率を有する。また、本発明の接着剤樹脂組成物は、形状の点で区別される2種以上のシリカを含む無機フィラーを含有しているので、フィラーの総配合量を抑制しながら線熱膨張率を低減する効果が増強されている。さらに、本発明の接着剤樹脂組成物を多層プリント配線板の絶縁接着層として適用した場合、その絶縁接着層の表面を平滑に維持することができるので、無電解メッキによって微細配線を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の接着剤樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」と略称することがあるが、(a)成分のエポキシ系接着樹脂原料とは区別する。)は、上記の(a)成分のエポキシ系接着樹脂原料と、(b)成分の無機フィラーとを含有する。(a)成分は、(イ)はエポキシ樹脂、(ロ)硬化剤、(ハ)硬化促進剤、及び(ニ)リン含有フェノキシ樹脂を含有する。
【0026】
[(イ)成分のエポキシ樹脂]
本発明における(イ)成分のエポキシ樹脂は、特に制限なく使用できるが、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、テトラメチルビスフェノールA型等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタントリグリシジルエーテル等のような芳香族エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
【0027】
また、本発明の接着剤樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数を低下させるために、(イ)成分のエポキシ樹脂は、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を使用することが好ましい。式(1)において、Wは上記一般式(2)で表される2価の基を示し、mは0以上の整数であり、mの平均は0.1〜15である。式(2)中のR〜Rは独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、好ましくは水素原子又はメチル基であり、メチル基の数は4以下であることがよく、Aは単結合又は―CH―、−C(CH−、−CH(CH)−、−S−、−SO−、−O−、−CO−若しくは上記一般式(3)から選ばれる2価の基を示す。式(3)中のR〜Rは独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、好ましくは水素原子又はメチル基であり、メチル基の数は4以下であることがよい。上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂は、その分子構造中にOH基を有することにより、このOH基が(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂の分子構造中に含まれるP=O基と水素結合することにより、硬化物の線熱膨張係数を低下させるものと考えられる。
【0028】
樹脂組成物を乾燥して得られる乾燥物又はフィルム(以下、Bステージ状態組成物ともいう)の耐割れ性向上を考慮すると、上記一般式(1)における重合度m=0体の含有率が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの面積パーセントを用いて測定したクロマトグラムの面積パーセントで70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上である。そして、常温で液状であることが好ましい。また、(イ)成分のエポキシ樹脂の含有量は、本発明の樹脂組成物の(a)成分のエポキシ系接着樹脂原料の不揮発成分100重量部に対し20〜70重量部の範囲が好ましい。(イ)成分がこの範囲より少ない場合には、架橋密度が低下して接着剤の耐熱性が低下し、反対に多すぎる場合には、接着剤の可とう性が低下して接着剤の剥離接着力が低下する傾向になる。
【0029】
[(ロ)成分の硬化剤]
本発明における(ロ)成分の硬化剤は、(イ)成分のエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものが使用でき、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、アジン類、イミダゾール類、酸無水物等が使用できる。また、(ロ)成分として、イミダゾール類を使用する場合、これは(ハ)成分の硬化促進剤でもあるので、(ハ)成分としても計算される。(ロ)成分の使用量は、(イ)成分のエポキシ樹脂に対し当量比((ロ)/(イ))が0.5〜1.5となるように配合することが好ましい。一般に、フェノール樹脂系硬化剤を用いる場合は、上記当量比((ロ)/(イ))が0.8〜1.2、アミン系硬化剤を用いる場合は、上記当量比((ロ)/(イ))が0.5〜1.0となるようにすることが好ましい。
【0030】
[(ハ)成分の硬化促進剤]
本発明における(ハ)成分の硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン等の有機リン系化合物や、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、3級アミン、ルイス酸等を用いることができる。その配合率は、求められる硬化時間に応じて適宜選定されるが、一般的には、(a)成分のエポキシ系接着樹脂原料の不揮発成分100重量部に対し0.01〜3.0重量部の範囲内で使用することが好ましい。
【0031】
[(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂]
本発明における(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂は、分子骨格構造中にP=O基を含有するものである。フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAビスフェノールF混合型、ビスフェノールAビスフェノールS混合型、フルオレン環含有型、カプロラクトン変性ビスフェノールA型等が挙げられる。
【0032】
本発明における(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂は、上記一般式(4)で表されるものが好ましい。また、リン含有率は、1重量%〜6重量%が好ましく、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した標準ポリエチレンオキサイド換算で、好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは15,000〜150,000、更に好ましくは20,000〜120,000であるものを使用することができる。(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂は、その分子構造中にフェノキシ構造を有し、金属箔、特に銅箔又は銅合金箔との高い接着性を発現させる成分である。しかも、(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂は、(イ)成分のエポキシ樹脂及び(ロ)成分の硬化剤との架橋を阻害しにくいため、得られる樹脂組成物の熱硬化後のガラス転移温度(Tg)を低下させず、樹脂組成物の硬化物特性としての半田耐熱性を向上させることができ、得られる樹脂組成物の接着剤としての適度な流動性(フロー性)の発現に寄与することができる。
【0033】
また、(ニ)成分のリン含有フェノキシ樹脂の含有量は、本発明の樹脂組成物の(a)成分のエポキシ系接着樹脂原料の不揮発成分100重量部に対し40〜70重量部、好ましくは45〜60重量部であることがよく、このような配合量にすることによって、得られる樹脂組成物の硬化物の線熱膨張率を低下させることを可能とする。
【0034】
一般式(4)において、Xは上記一般式(5)、(6)、(7)又は(2)から選ばれる少なくとも1種の2価の基を示すが、一般式(5)又は(6)で表される2価の基を必須に含有する。有利には、一般式(5)又は(6)で表される2価の基の一方又は両者をX中に20モル%以上、好ましくは50モル%以上含むことがよい。Zは水素原子又は上記式(8)で表されるグリシジル基を示す。nは平均値で21以上であるが、好ましくは30〜5000の範囲である。かかるリン含有フェノキシ樹脂は、例えば、特開2001−310939号公報に開示されている方法により製造することができる(具体的には、後記合成例1〜4を参照)。
【0035】
また、上記一般式(5)及び(6)において、Yは上記一般式(9)又は(10)で表されるリン含有基を示す。一般式(5)〜(7)及び(9)〜(10)中、R〜R10は独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、水素原子又はメチル基であることが好ましく、メチル基の数は4以下であることがより好ましい。
【0036】
また、(ニ)成分が、上記一般式(4)において、Xが上記一般式(5)及び(2)で示される2価の基であり、一般式(5)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Yが一般式(9)を示し、一般式(2)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Aが−C(CH−を示すものでもよい。
【0037】
また、(ニ)成分が、一般式(4)において、Xが一般式(6)及び(2)で示される2価の基であり、一般式(6)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Yが一般式(9)を示し、一般式(2)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Aが−C(CH−を示すものでもよい。
【0038】
また、(ニ)成分が、一般式(4)において、Xが一般式(5)及び(2)で示される2価の基であり、一般式(5)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Yが一般式(9)を示し、一般式(2)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Aが一般式(3)を示すものでもよい。
【0039】
また、(ニ)成分が、一般式(4)において、Xが一般式(6)及び(2)で示される2価の基であり、一般式(6)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Yが一般式(9)を示し、一般式(2)におけるR〜Rは水素原子を示すが、Aが一般式(3)を示すものでもよい。
【0040】
[(b)成分の無機フィラー]
本発明における(b)成分の無機フィラーは、板状シリカと球状シリカとを含有する。本発明の接着剤樹脂組成物の不揮発成分100重量部に対し、板状シリカと球状シリカとの合計量で20〜80重量部、好ましくは30〜60重量部となるような含有量で無機フィラーを含有することができる。板状シリカと球状シリカの合計の含有量が20重量部に満たないと、硬化物の線熱膨張係数を低下させることが困難となる。80重量部を超えると、接着剤樹脂組成物の硬化物が脆くなるばかりでなく、接着剤樹脂組成物によって形成される絶縁接着層の表面平滑性を低下させる傾向となる。また、板状シリカは、樹脂組成物の硬化物中で層状(板状シリカの表面部が硬化物の表面部とほぼ平行状態)に形成されることにより、樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数(特にα)を低下させる効果がある。このような板状シリカの効果を発揮させる(樹脂組成物の硬化物中に層状に形成させる)ために、球状シリカを併用する。球状シリカを使用せず、板状シリカのみの使用によって硬化物の線熱膨張係数を低下させようとする場合は、板状シリカの含有量を所定量より増加させる必要があり、硬化物のレーザー等による加工性を低下させる原因ともなる。無機フィラーを構成するシリカ中、球状シリカの含有割合は、25〜70重量%の範囲とすることが好ましい。球状シリカは、シリカ本来の低い線熱膨張特性の効果により、樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数(特にα)を低下させる効果があると考えられる。
【0041】
ここで、板状シリカにおける「板状」とは、例えば、扁平状、平板状、薄片状、燐片状等を含む意味で用い、シリカの厚みが、平面部分の長径又は短径より十分に小さいもの(好ましくは1/2以下)をいう。別の観点から、「板状」とはシリカ粒子の長径と平均粒径との関係が、長径≧平均粒径>0.4×長径であることが好ましく、より好ましくは長径≧平均粒径≧0.5×長径であることがよい。なお、本発明においてシリカ粒子の長径(又は短径)及び厚み並びに長径と厚みの比は、走査型電子顕微鏡(SEM)により任意10粒のシリカを測定したときの平均値とする。また、本発明で使用する板状シリカは、平均長径Dが0.1〜15μmの範囲のものである。平均長径Dが0.1μmに満たないと、硬化物の線熱膨張係数が大きくなり、板状シリカの配合の効果が小さくなってしまう。平均長径Dが15μmを超えると硬化物のレーザー等の加工性を低下させる。ここで、平均長径Dとは板状シリカの長手直径の平均値を意味する。また、平均長径Dは、0.5〜10μmの範囲にあることが好ましい。本発明に用いる板状シリカの最適なものは、平均長径Dが2〜9μmのシリカである。なお、平均径はレーザー回折法により算出したメディアン径を意味し、モード径は上記範囲内で1つのピークであることがよく、これは球状シリカについても同様である。
【0042】
板状シリカは無機フィラーの1種である。一般的な板状の無機フィラーの例として、酸化アルミニウム、タルク、マイカ、セリサイト、クレイ、カオリン等が挙げられるが、これら板状の無機フィラーは、線膨張率がシリカと比較して高く、また球状シリカを単独で配合した系と比較しても樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数を上昇させる傾向にあるので、これら板状の無機フィラーの併用は好ましくない。このような観点から、硬化物の線熱膨張係数の上昇を抑制できる無機フィラーとして、例えば窒化ケイ素、窒化硼素等は併用も可能である。
【0043】
また、球状シリカとは、形状が球状及び球状に近いシリカで、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いもの(好ましくは0.8以上)をいう。本発明で使用する球状シリカは、平均粒径Dが0.05〜10μmの範囲のものを言う。平均粒径Dが0.05μmに満たないと、硬化物の線熱膨張係数を低下させる効果が小さくなり、10μmを超えると板状シリカとの層間に入りづらく、発明の効果の制御が難しくなる。ここで平均粒径Dとは、球状シリカ粒子の直径の平均値(メディアン径)を意味する。球状シリカのほかに、一般的な無機フィラーの例として、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムが挙げられるが、これらは樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数を上昇させる傾向にあるので、これらの併用は好ましくない。また、平均粒径Dは、0.1〜6μmの範囲にあることが充填性の点から好ましい。本発明に用いる球状シリカの最適なものは、平均粒径Dが0.5〜3.0μmのシリカである。
【0044】
無機フィラーを構成する板状シリカと球状シリカは、上記平均長径Dと平均粒径Dとの関係がD>D/2であり、粒径が30μm以上のシリカ(板状であるか、球状であるかを問わない)を含有しない。平均長径Dと平均粒径Dとの関係がD>D/2の要件を満たさないと、形状の異なるシリカの組合せの相乗効果を発揮しにくい。また、粒径が30μm以上のシリカを含有すると、表面の外観不良が生じる。平均長径Dと平均粒径Dとの関係はD>Dであることが好ましく、DはDの1/10〜5/3の範囲であることがより好ましい。
【0045】
また、使用する無機フィラー中の粒径9μm以上のシリカ(板状であるか、球状であるかを問わない)が、全体の50重量%以下とすることが好ましく、特に、板状シリカ中における粒径9μm以上のシリカの割合を50重量%以下とすることがより好ましい。このことにより、絶縁接着層の表面の凹凸がなくなり平滑な表面とすることができる。ここで、板状シリカの場合の粒径は、長径を意味する。
【0046】
本発明の接着剤樹脂組成物は、上記必須成分以外の成分として、無機系難燃剤としての水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム、補強剤もしくは増量剤としてのシリカ、炭酸カルシウム等の体質顔料、柔軟性付与剤として高分子エストラマーを配合することができ、あるいは粘度調整剤、カップリング剤等の添加剤も配合することができる。その添加率は、求められる特性に応じて適宜選定される。
【0047】
本発明の接着剤樹脂組成物は、上記必須成分及び必要に応じて任意成分を混合し、攪拌等の操作を行って均質化することにより調製できる。本発明の接着剤樹脂組成物は、例えばメチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、2−エトキシエタノール等の有機溶剤に溶解又は分散した接着剤樹脂溶液として使用に供される。その場合の固形分濃度は、使用条件によって適宜選定されるが、20〜60重量%とするのが一般的である。なお、溶剤は本発明の接着剤樹脂組成物を構成する成分ではなく、接着剤樹脂組成物を溶液とするために使用される成分と理解される。したがって、接着剤樹脂組成物中への各成分の配合量の計算にあたっては、溶剤は計算から除外される。
【0048】
[硬化物]
本発明の接着剤樹脂組成物を熱硬化して得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは100〜170℃の範囲にあることがよい。熱硬化後の硬化物のガラス転移温度が100℃未満では、耐マイグレーション性が低下する。また、本発明の接着剤樹脂組成物における熱硬化前の樹脂組成物(Bステージ状態組成物に該当する。)のガラス転移温度は好ましくは0〜50℃の範囲、より好ましくは10〜50℃の範囲にあることがよい。Bステージ状態組成物のガラス転移温度が0℃より低い場合、フィルムに接着性が発現し、多層プリント配線板に加工する際、位置決めの調整が困難となり、実用性に欠ける。また、50℃を超える場合、フィルムの柔軟性が失われ、ワレ、ハガレなどの不具合を発生しやすい。なお、樹脂組成物の熱硬化前及び硬化後のガラス転移温度は、主に(イ)成分のエポキシ樹脂及び(ロ)成分の硬化剤の種類及び配合量によって調整可能である。
【0049】
ここで、Bステージ状態組成物のガラス転移温度又は硬化物のガラス転移温度の測定は、後述する実施例における特性評価方法の条件による。
【0050】
[接着剤フィルム]
本発明の接着剤樹脂組成物は、フィルム状に成形して用いることができる。この場合、従来から公知の方法を用いてフィルム化することが可能である。好適な成形方法の一例を挙げれば以下のとおりである。まず、接着剤樹脂組成物をメチルエチルケトン等の有機溶剤で希釈して溶液状にした後、得られた接着剤樹脂溶液を、表面が剥離処理された金属箔、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の基材上に従来公知の方法により塗布して塗布膜を形成する。次に、塗布膜の溶剤を蒸発させてタックフリー化し、且つ接着剤樹脂層を構成する組成物が硬化反応しない温度、時間条件で乾燥して、接着剤フィルム層を形成する。この接着剤フィルム層を基材より剥離して、接着剤フィルムとする。この場合の乾燥条件は、使用する溶剤や樹脂組成物によって変化するが、一般的には100〜140℃、1〜10分の温度、時間範囲が選定される。また、ポリエステル等の離型フィルム及び接着剤フィルム層よりなるボンディングシートとして使用する場合には、離型フィルムと接着剤フィルム層の厚みの比は、特に限定されないが、離型フィルム厚12.5μmに接着剤フィルム層15〜30μmを設けたものが好適に利用できる。
【0051】
本発明の接着剤樹脂組成物を接着剤フィルム層に形成する方法は、接着剤樹脂組成物を溶液の状態で塗布する方法であれば、特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターによって塗布することが可能である。塗布による接着剤フィルム層の形成によって、特段の工夫なくとも、板状のシリカが層状に形成される。
【0052】
本発明の接着剤フィルムの使用方法としては、例えば、フレキシブルプリント配線基板、ガラス繊維−エポキシ配線基板、紙−フェノール配線基板又はこれらを回路加工して得られる各種プリント配線板、金属、樹脂基材等の被接着物の接着に適する。例えば、金属箔と樹脂基材を接着することによりプリント配線基板を得ることができ、プリント配線基板又はプリント配線板同士を接着させることにより多層のプリント配線基板又はプリント配線板を得ることができ、プリント配線板とカバーレイを接着させることにより、カバーレイ付きのプリント配線板を得ることができる。これらの接着工程で、本発明の接着剤フィルムを好適に利用できる。その他、プリント配線基板又はプリント配線板の接続用接着剤フィルムとしても使用できる。いずれにしても、本発明の接着剤フィルムは、プリント基板の製造又は加工の接着工程において有利に使用される。
【0053】
[カバーレイフィルム]
本発明の接着剤樹脂組成物は、カバーレイフィルムの接着剤層に適用することもできる。その場合、カバーレイフィルムは、例えばポリイミドフィルム及び前記接着剤樹脂組成物より形成することができる。本発明のカバーレイフィルムを形成する方法としては、従来公知の方法を用いてフィルム化することが可能である。好適な成形方法の例としては、上記接着剤樹脂組成物をメチルエチルケトン等の有機溶剤で希釈して溶液状にした後、得られた接着剤樹脂溶液をポリイミドフィルム上に塗布し、溶剤を蒸発させてタックフリー化し、かつ接着剤層を構成する接着剤樹脂組成物は硬化反応しない温度、時間条件で乾燥して、カバーレイフィルムとする方法がある。この場合、例えばポリイミドフィルムに2〜200μmの厚さ、好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜50μmの厚さで接着剤樹脂溶液をコーティングした後、乾燥する。この乾燥条件は、使用する溶剤や樹脂組成物によって変化するが、一般的には100〜140℃、1〜10分の温度、時間範囲が選定される。また、耐熱性及び難燃性を持たせるために必要なポリイミドフィルムの厚さは、必要に応じて適切な厚さのものを使用すればよいが、例えば3〜50μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。ポリイミドフィルムと接着剤層の厚みの比は、限定されないが、例えば、ポリイミドフィルムのフィルム厚12.5μmに接着剤層15〜20μm、あるいはフィルム厚25μmに接着剤層25〜35μm等の厚みの比で設けたカバーレイフィルムが一般的である。
【0054】
[絶縁接着層及び多層プリント配線板]
本発明の接着剤樹脂組成物は、多層プリント配線板の絶縁接着層として適用することもできる。その場合、ワニス状態で回路基板に塗布して絶縁接着層を形成することもできるが、工業的に有利な、接着剤フィルム等のシート状の形態で用いることが好ましい。本発明の多層プリント配線板を形成する方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知のラミネート方法を用いて積層することが可能であり、例えば真空ラミネート法により減圧下で回路基板にラミネートする方法が挙げられる。この場合、圧着条件は、特に制限されるものではないが、例えば、圧着温度は70〜200℃とすることが好ましく、圧力は0.1〜4MPaとすることが好ましい。また、ラミネート方法は、バッチ式であってもロール状の連続式であってもよい。
【0055】
本発明の接着剤樹脂組成物によって絶縁接着層を形成した後、例えばドリル、レーザー、プラズマ等の公知方法により孔開け加工を行うことによって、スルーホールやビアホールを形成することができる。孔開け加工を行った後、デスミア処理を行うことが好ましいが、デスミア処理の際に、絶縁接着層の表面処理工程も同時に行うことができる。このデスミア処理には一般的に酸化剤が用いられるが、酸化剤としては、例えば過マンガン酸塩、過酸化水素/硫酸、硝酸、オゾン等が挙げられる。このような処理によって、絶縁接着層の表面を粗化することができる。
【0056】
また、上記のように絶縁接着層の表面処理を行った後、絶縁樹脂層の表面に無電解メッキ等の方法により導体層を形成することができる。導体層を形成する場合は、例えば無電解メッキの後に電気メッキを行うことが好ましい。
【0057】
以上説明したように、本発明の接着剤樹脂組成物は、上記(イ)のエポキシ樹脂と(ニ)のリン含有フェノキシ樹脂とを組み合わせて含有することにより、優れたフロー特性を有するとともに、その硬化物は難燃性であり、低い線熱膨張率を有する。
【0058】
また、本発明の接着剤樹脂組成物は、形状の点で区別される2種以上のシリカを含む無機フィラーを含有しているので、フィラーの総配合量を抑制しながら、その硬化物において、線熱膨張率を低減する効果が増強されている。従って、本発明の接着剤樹脂組成物は、例えば各種のプリント配線板、プリント配線基板やカバーレイフィルムの接着剤として利用可能であり、これらの寸法安定性を向上させることができる。
【0059】
さらに、本発明の接着剤樹脂組成物を多層プリント配線板の絶縁接着層として適用した場合、その絶縁接着層の表面を平滑に維持することができるので、無電解メッキによって形成される導体層に対して高い密着性を有するものとなる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0061】
[平均粒径の測定]
平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD−2000J)を用いて測定した。
【0062】
[ガラス転移温度(Tg)]
接着剤樹脂組成物の硬化物特性としてのガラス転移温度の測定は以下のようにして行った。接着剤樹脂組成物をメチルエチルケトン溶剤に溶解して35重量%接着剤溶液とした後、縦×横×厚さ=50×150×1mmのフッ素樹脂シート上に塗布し、135℃で5分間乾燥して溶剤を蒸発後、接着剤塗布面に同一形状の別のフッ素樹脂シートを重ね、170℃で1時間、真空加熱プレスを行って、試料となる接着剤硬化物フィルムを調製した。この試料の温度分散tanδ曲線を動的粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ株式会社製、DMS−6100)を用い、周波数10Hz、温度範囲−150〜200℃、昇温速度2℃/分の条件で測定し、得られた温度−tanδ曲線のピーク温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0063】
[線熱膨張係数(α、α)]
試料および装置は、上記と同じものを用い、温度範囲−150〜200℃、昇温速度2℃/分の条件下でTMA曲線を作成し、前記Tgより低い温度領域の曲線の傾きからガラス状態の線熱膨張係数αを、前記Tgより高い温度領域の曲線の傾きからゴム状態の線熱膨張係数αをおのおの算出した。
【0064】
[耐燃性]
上記35重量%接着剤溶液を、縦×横×厚さ=200mm×300mm×25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製、アピカルNPI)の片面に塗布し、135℃で5分間乾燥を行い、接着剤層厚さ25μmのカバーレイフィルムを調製後、JPCA−BM02−1991の7.7(JPCA規格;社団法人日本電子回路工業会)に記載の寸法に切り取った2枚のカバーレイフィルムを接着剤面で貼り合わせ、その後、170℃で1時間、加熱プレスを行い、その後190℃で2時間、後硬化を行って試料調製を行った。続いて、JPCA−BM02−1991の7.7の手順に従って耐燃性試験を行い、UL規格94の判定基準である、「VTM−0」、「耐燃性なし」の2水準で耐燃性を判定した。「VTM−0」は耐燃性があることを意味する。
【0065】
[デスミア性]
硬化物のデスミア性の評価は、レーザー顕微鏡(キーエンス社製)を用いて、無電解メッキ前のデスミア工程(下記の膨潤工程及びエッチング工程)後における表面粗度(Ra)を測定することによって行った。Raが0.1μm未満である場合を「粗化不足」、Raが0.1μm以上1.0μm以下である場合を「適正」、Raが1.0μmを超える場合を「粗化過剰」と判断した。
1)膨潤工程
硬化物を、濃度500mL/Lの膨潤液{アトテックジャパン社製、スウェリング・ディップ・セキュリガンスP(Swelling Dip Securiganth P)}及び濃度3g/Lの水酸化ナトリウムの混合液に、40℃で5分間浸積した。
2)エッチング工程
硬化物を、濃度640mL/Lの酸化剤{アトテックジャパン社製、コンセントレイト・コンパクトCP(Concentrate Compact CP)}、濃度20g/Lの過マンガン酸カリウム、及び濃度40g/Lの水酸化ナトリウムの混合液に、50℃で10分間浸漬した。
【0066】
[レーザー加工性]
硬化物のレーザー加工性の評価は、硬化後のフィルムをCOレーザーによって孔開け加工することによって行った。孔の周囲を目視によって評価し、孔周囲が平滑な場合を「良」、シリカの露出等で外観不良を「不可」と評価した。
【0067】
合成例1
下記式(11)で示されるリン含有フェノールである、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン―10H―9―オキサイド(三光化学株式会社製、HCA−HQ、水酸基当量162g/eq、リン含有量9.5重量%)を162部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、YD−8125、エポキシ当量171.6g/eq)を175部、シクロヘキサノンを144部、触媒として、2−エチル―4―メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製、2E4MZ)の0.13部を、攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに仕込み、常圧、150℃〜170℃の温度で8時間反応させた後、シクロヘキサノン156部、N,N−ジメチルホルムアミド300部を加えて、リン含有フェノキシ樹脂Aの固形分濃度36重量%の溶液937部を得た。本樹脂溶液をポリエステル離型フィルムの上に塗布後、165℃で5分間乾燥して溶剤を蒸発させ、リン含有率4.6%のリン含有フェノキシ樹脂Aを得た。
【0068】
【化7】

【0069】
カラムとしてShodexAD−800P(登録商標;昭和電工社製)+TSKgelSuperHM−H+TSKgelSuperHM−H+TSKgelSuperH2000(いずれも、東ソー社製)を用い、溶離液としてN,N−ジメチルホルムアミド(20mM臭化リチウム含有品)を使用してリン含有フェノキシ樹脂AのGPC分析を行った結果、同樹脂の標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量は、77,300であった。
【0070】
合成例2
合成例1における反応時間を8時間から10時間に変更したこと以外は、合成例1と同様にして、リン含有フェノキシ樹脂の合成を行って、リン含有率4.6%のリン含有フェノキシ樹脂Bを得た。同様の条件でGPC分析を行った結果、同樹脂の標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量は、109,700であった。
【0071】
合成例3
合成例1における上記式(11)で示されるリン含有フェノールの代わりに、下記式(12)で示されるリン含有ナフトール(水酸基当量221.6g/eq、リン含有率8.2%)を222g用いたこと、および合成例1における反応時間を8時間から10時間に変更したこと以外は、合成例1と同様にして、リン含有フェノキシ樹脂の合成を行って、リン含有率4.0%のリン含有フェノキシ樹脂Cを得た。同様の条件でGPC分析を行った結果、同樹脂の標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量は、122,470であった。
【0072】
【化8】

【0073】
合成例4
合成例1におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、YD−8125、エポキシ当量171.6g/eq)を175部の代わりに、下記式(13)で示されるビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂(新日鐵化学株式会社製、ERF−300、エポキシ当量231g/eq)の231部を用いたこと、および合成例1における反応時間を8時間から10時間に変更したこと以外は、合成例1と同様にして、リン含有フェノキシ樹脂の合成を行って、リン含有率4.4%のリン含有フェノキシ樹脂Dを得た。同様の条件でGPC分析を行った結果、同樹脂の標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量は、117,900であった。
【0074】
【化9】

【0075】
接着剤樹脂組成物を調製するために使用した各成分の略号を次に示す。
YD−128:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製)
YDF−170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製)
BRG−555:ノボラック型フェノール樹脂(昭和高分子株式会社製)
樹脂A:合成例1のリン含有フェノキシ樹脂A(重量平均分子量77,300)
樹脂B:合成例2のリン含有フェノキシ樹脂B(重量平均分子量109,700)
樹脂C:合成例3のリン含有フェノキシ樹脂C(重量平均分子量122,470)
樹脂D:合成例4のリン含有フェノキシ樹脂D(重量平均分子量117,900)
YP−50:ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(東都化成株式会社製)
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業株式会社製)
SPE−100:シクロフェノキシキホスファゼン(大塚化学株式会社製)
板状シリカ:平均長径7μm(分級機により30μm以上の粒子を除いたもの)の鱗片状シリカ(AGCエスアイテック株式会社製、商品名;サンラブリー)
球状シリカ:平均粒径1μmの球状シリカ(電気化学工業株式会社製、商品名;FB−1S)
【0076】
エポキシ樹脂のGPC分析は以下の条件で行った。
装置;東ソー株式会社製HLC−8120GPC
カラム;東ソー株式会社製、TSK−GEL:SUPER HZ2000×1、SUPER HZ3000×1、SUPER HZ4000×1
カラム温度;40℃
移動相;テトラヒドロフラン(THF)
流量;0.35ml/min
検出器;組み込み型
試料濃度;0.03g/THF10ml
m=0成分の含有量は、得られたGPCクロマトグラフから得られるm=0成分のピークの面積を全成分のピーク面積で除した面積%を含有量(%)とした。
以上の条件のGPC分析の結果、YD−128の重合度m=0体の含有量は82%であった。また、YDF−170の重合度m=0体の含有量は78%であった。
【0077】
[実施例1]
卓上サンドミル(カンペ社製)に、攪拌用ディスクを取り付け、428.6gの樹脂Aのワニス(固形分35%のシクロヘキサノン・ジメチルホルムアミド溶液)、90.6gのYD128、58.5gのBRG−555、0.9gの2E4MZ、希釈剤として、112.9gのシクロヘキサノン、58.5gのメトキシプロパノール、60gの球状シリカ(商品名;FB−1S)、90gの板状シリカ(商品名;サンラブリー)を仕込み、分散メディアとしてNo.2ガラスビーズ300gを入れ、25℃の冷却水で外部から冷やしながら、攪拌速度1500rpmで1時間分散させた。分散後、ガラスビーズをろ過し、実施例1(固形分50%)の樹脂ワニス(接着剤樹脂組成物)を作製した。この樹脂ワニスを、#60のバーコーターにて50μm離型PET(三菱樹脂社製MRX−50)の離型面に塗工し、120℃の熱風オーブンにて乾燥させ、Bステージフィルムを得た。このBステージフィルムを厚さ12μmの銅箔にラミネートした後、離型PETを剥離し、180℃の熱風オーブンで硬化させた後、銅箔をエッチング除去することで、実施例1の接着剤フィルムを得た。この接着剤フィルムについて硬化物特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0078】
[実施例2〜5]
実施例1と同様にして、表1に記載の割合(重量%)で各成分を配合して実施例2〜5の接着剤樹脂組成物を調整し、実施例2〜5の接着剤フィルムを得た。これらの接着剤フィルムについて、硬化物特性を評価した。結果を表1に示す。
【0079】
なお、表1中のシリカの配合量は、エポキシ系接着樹脂原料に対して外割りの重量部で表している(表2についても同様である)。
【0080】
【表1】

【0081】
比較例1〜4
表2に記載の割合(重量%)で各成分を配合した以外は、実施例1と同様にして比較例1〜4の接着剤樹脂組成物を調整し、比較例1〜4の樹脂フィルムを得た。これらの樹脂フィルムについて、硬化物特性を評価した。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
以上の結果から、本発明の接着剤樹脂組成物を用いた実施例1〜5では、球状シリカのみで形成した比較例1と比較して、線熱膨張係数(α)が8ppm程度低下し、その他の必要な物性にも影響を与えないことが確認された。板状シリカのみで形成した比較例2では、線熱膨張係数を低下させることはできるが、レーザー加工性が低下した。また、本発明の接着剤樹脂組成物を用いた実施例1〜5では、低い線熱膨張係数を満足しつつ、耐燃性「VTM−0」であるのに対し、SPE−100を配合することによって難燃性付与した比較例3では、線熱膨張係数を低下させることは困難であった。また、リンを含有しないフェノキシ樹脂を配合した比較例3、4では、デスミア後の表面粗度が大きく、銅メッキによる導体層形成における配線の微細化が困難であった。
【0084】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)及び(b)を含有する接着剤樹脂組成物であって、(b)成分の含有量は、接着剤樹脂組成物の不揮発成分100重量部に対し20〜80重量部である接着剤樹脂組成物。
(a):下記の成分(イ)〜(ニ)を含有するエポキシ系接着樹脂原料、
(イ)エポキシ樹脂、
(ロ)硬化剤、
(ハ)硬化促進剤、及び
(ニ)リン含有フェノキシ樹脂
[但し、エポキシ系接着樹脂原料における(ニ)成分の含有量は、エポキシ系接着樹脂原料中の不揮発成分100重量部に対し40〜70重量部である。]
(b):平均長径Dが0.1〜15μmの板状シリカと、平均粒径Dが0.05〜10μmの球状シリカとを含有する無機フィラー。
[但し、前記平均長径Dと平均粒径Dとの関係がD>D/2を満足し、粒径が30μm以上のシリカを含有しない]
【請求項2】
(イ)成分が、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂である請求項1に記載の接着剤樹脂組成物。
【化1】

[式中、Wは一般式(2)で表される2価の基を示し、mは0以上の整数であり、mの平均は0.1〜15である。
【化2】

[式(2)中、R〜Rは独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示し、Aは単結合又は―CH―、−C(CH−、−CH(CH)−、−S−、−SO−、−O−、−CO−若しくは一般式(3)から選ばれる2価の基を示す。]
【化3】

[式(3)中、R〜Rは独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【請求項3】
(イ)成分において、一般式(1)における重合度m=0体の含有率が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したクロマトグラムの面積パーセントで70%以上である請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
(ニ)成分が、下記一般式(4)で表され、リン含有率が1〜6重量%であり、且つゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した標準ポリエチレンオキサイド換算重量平均分子量が10,000〜200,000であるリン含有フェノキシ樹脂である請求項1に記載の接着剤樹脂組成物。
【化4】

[式中、Xは下記一般式(5)又は(6)で表される2価の基を含むことを必須とする一般式(5)、(6)、(7)又は一般式(2)から選ばれる少なくとも1種の2価の基を示し、Zは水素原子又は一般式(8)を示し、nは平均値で21以上である。]
【化5】

[式(5)〜(7)中、Yは下記一般式(9)又は(10)で表されるリン含有基を示し、一般式(5)のR〜R、一般式(6)のR〜R、一般式(7)のR〜Rは、独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【化6】

[式(9)中のR〜R、式(10)中のR〜R10は独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を示す。]
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の接着剤樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の接着剤樹脂組成物を、フィルム状に形成してなる接着剤フィルム。
【請求項7】
ポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルムに設けられた請求項1から4のいずれか1項に記載の接着剤樹脂組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム。

【公開番号】特開2011−157441(P2011−157441A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18818(P2010−18818)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】