説明

接着剤組成物、それを用いた接着フィルムおよび配線フィルム

【課題】保存安定性、耐熱性、信頼性、接着性に優れ、低温接着も可能な接着剤組成物、それを用いた耐熱接着フィルムと配線フィルムの提供。
【解決手段】構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有し、溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180秒から350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を10〜100重量部含有することを特徴とする接着剤組成物。該接着材組成物を基材フィルム上に塗布した耐熱接着フィルム及び該耐熱接着フィルムで導体配線層を挟んだ配線フィルムが開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性を有する接着剤組成物、それを用いた接着フィルムおよび配線フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器は小型化,薄型化、軽量化が進行し、それに用いる配線板には、多層化、微細配線化、薄型化による高密度微細配線が要求されている。また、当分野では環境負荷の低減を目的に鉛フリーはんだ採用が進められている。これにともないTAB(Tape Automated Bonding)テープ、FPC(Flexible Printed Circuit)、MFJ(Multi Frame Joiner)等の配線部材に対しては、その耐熱性の向上が求められている。前記配線部材の絶縁層は基本的には基材フィルムと接着層から構成されている。そのような例として特許文献1を挙げることができる。基材フィルムとしてはポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性フィルムや、エポキシ樹脂−ガラスクロス、エポキシ樹脂−ポリイミド−ガラスクロス等の複合耐熱フィルムからなる有機絶縁フィルムが例示されている。接着層にはポリアミド樹脂とエポキシ樹脂を含有する接着剤組成物が開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1の接着剤組成物はポリアミド樹脂構造中に存在するアミノ基とエポキシ樹脂との反応性が高いことに起因して保存安定性が低いという問題を有していた。この問題を解決するため特許文献2では、両末端にエポキシ基を有するフェノキシ樹脂とアクリルゴム、硬化剤からなる接着剤組成物が提案されている。フェノキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、あるいは、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型が例示されている。特許文献2の接着剤組成物は、接着力が比較的優れていると言われるフェノキシ樹脂を配合しているにもかかわらず、0.5kN/m程度の接着力しかないこと、はんだ耐熱性が260℃とやや低い点に課題があった。
【0004】
特許文献3では、上記課題を解決する手法として重量平均分子量が80,000〜800,000である熱可塑性ポリウレタン樹脂と、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含有する接着剤組成物が開示されている。通常のポリウレタン樹脂はエポキシ樹脂との反応性が高いため、接着フィルムの保存安定性に問題を有するが、特許文献3では特定分子量範囲のポリウレタン樹脂を用いることによって保存安定性を改善するとしている。接着力は1.1〜1.7kN/mを有する。また、特許文献4ではポリウレタン樹脂と、エポキシ樹脂と、特定の構造のノボラック樹脂を含有する接着剤組成物のはんだ耐熱性が300℃であることが開示されている。しかし、特許文献3、4で使用されるポリウレタン樹脂は、一般に200℃以上の温度において解重合することが知られている。一般にポリウレタンの耐熱性は80〜100℃といわれていることからポリウレタン樹脂を含有する接着剤には、高耐熱、高信頼性が要求される産業用、自動車用電子機器の分野への応用に不安を有す。また、特許文献3に記載のポリウレタン樹脂の分子量調整によるエポキシ樹脂との反応抑制機構は、官能基の濃度低減に基づくものであり、その反応性自体は変わっておらず、保管温度や時間の影響に対する配慮が不十分である。
【0005】
特許文献5は、スルホン基含有ポリヒドロキシポリエーテル樹脂とマレイミドとを含有する耐熱自己融着性塗料が開示されているが、ここに記載されたスルホン基含有ポリヒドロキシポリエーテル樹脂は本発明において用いられるビスフェノールS型骨格を有するフェノキシ樹脂とは異なる。本耐熱自己融着性塗料の問題点は、その融着、硬化温度が非常に高く、プロセス性に問題を有する点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−29399号公報
【特許文献2】特開2004−136631号公報
【特許文献3】特開2010−150437号公報
【特許文献4】特開2010−143988号公報
【特許文献5】特開2009−67934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、保存安定性、耐熱性、信頼性、接着性に優れ、低温接着も可能な接着剤組成物、それを用いた接着フィルムと配線フィルムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有する特定範囲の溶融温度、ゲル化時間を有するマレイミド化合物を10〜100重量部含有することを特徴とする接着剤組成物、それを用いた接着フィルム及び配線フィルムを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、極めて高い接着性、信頼性、低温、短時間の接合で高接着性を示す接着フィルムを得ることができ、更に本接着フィルムからは熱的信頼性、機械的信頼性の高い配線フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の接着フィルムの断面模式図。
【図2】本発明の配線フィルムの断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は保管時の保存安定性が優れ、接着後の耐熱性、信頼性に優れた接着剤組成物の開発を進めるにあたって5%熱重量減少温度が350℃を超えるフェノキシ樹脂をベースレジンに選定した。また、接着フィルムの基材には耐熱性の優れたポリイミドフィルムを採用することにした。フェノキシ樹脂を用いて接着剤組成物を作製し、基材フィルム上に塗布し、乾燥して接着層を形成するためには、適切な溶媒の選定が必要であった。フェノキシ樹脂の良溶媒にはテトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン等が存在するが、低温での乾燥が容易なTHFは製造時の爆発の危険性が高いことからシクロヘキサン等の高沸点溶媒の採用が好ましいと考えた。高沸点溶媒を用いた接着剤組成物の接着層を乾燥するためには、高温長時間の乾燥が必要である。
【0012】
したがって、従来、フェノキシ樹脂の硬化剤として好ましといして用いられてきたイソシアナート、ブロックイソシアナート、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂等の比較的低温で硬化反応が進行する架橋成分の適用は困難であると思われた。種々、検討した結果、本発明者はビスフェノールS型の骨格を有するフェノキシ樹脂と複数のマレイミド基を有するマレイミド化合物を含有する接着剤組成物が、180℃という比較的高温の乾燥工程を経ても、ポリイミドフィルムや導体配線に対して高い接着性を示し、その接着界面の耐熱性、耐湿信頼性が十分に高いことを見出した。更に各種マレイミド化合物の中でも、溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるか、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を配合することによって、180℃の乾燥工程を経ても、180℃よりも低い温度で接着できる低温プロセスに対応した接着剤組成物が得られることを見出し、本発明にいたった。
【0013】
図1に本発明の接着フィルムの断面模式図を、図2に本発明の配線フィルムの断面模式図を示した。
【0014】
本発明の実施態様を例示すれば、以下のとおりである。
【0015】
(1)前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂は下記式1の構造を有するものであることが好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型の骨格とビスフェノールS型の骨格を有するものであることが好ましい。上記構造式において、mおよびnは整数を表し、n/mのモル比率が3/7〜5/5が好ましく、またスチレン換算重量平均分子量が20000〜60000であるフェノキシ樹脂が好ましい。
【0018】
(2)前記マレイミド化合物としては、その溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物が好ましい。
【0019】
(3)前記マレイミド化合物としては、下記式2〜4で表されるマレイミド化合物が好ましく、これらは1種以上用いられる。
【0020】
【化2】

【0021】
上記式2において、n=0−3とは、少なくともnが0〜3である化合物の何れかを含有していることを表す。
【0022】
(4)本発明によれば、ポリイミド基材上に、構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有するマレイミド化合物を10〜100重量部含有する接着層を有する接着フィルムが提供される。
【0023】
(5)前記接着フィルムにおいて、前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂は前記式1の構造を有する。また、式中のm、nの意味、スチレン換算重量平均分子量は前記と同じである。
【0024】
(6)前記マレイミド化合物の溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を含有する接着層を基材フィルム上に形成する。
【0025】
(7)前記マレイミド化合物が、前記式2〜4で表されるビスマレイミド化合物の1種以上である接着フィルム。式2中のn=0−3とは、少なくともnが0〜3である化合物の何れかを含有していることを表す。
【0026】
(8)本発明は、ポリイミド基材上に形成された接着層と導体配線とを熱融着し、接着層を硬化した後のポリイミド基材と接着層硬化物および導体配線と接着層硬化物の接着力が0.7kN/m以上である接着フィルムを提供する。
【0027】
(9)前記耐熱接着フィルムにおいて、前記熱融着する際の融着温度が160℃以下であることが好ましい。
【0028】
(10)ポリイミド基材上に、構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有するマレイミド化合物を10〜100重量部含有する接着層を有する第一の接着フィルムの接着層上に導体配線を配置し、該導体配線上に更に第二の耐熱接着フィルムの接着層面を重ね、前記第一の接着フィルムと前記第二の接着フィルム間および前記第一、前記第二の接着フィルムと導体配線とを熱融着してなる配線フィルム。
【0029】
(11)前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂は前記(式1)の構造を有する配線フィルム。
【0030】
(12)前記マレイミド化合物が、溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を含有する配線フィルム。
【0031】
(13)前記マレイミド化合物が、前記式2〜4で表されるビスマレイミド化合物の1種以上である配線フィルム。
【0032】
(14)前記配線フィルムにおいて、導体配線および接着フィルム間の接着力を増すために、前記接着層をその融着温度以上の温度で後加熱する。
【0033】
(15)前記配線フィルムにおいて、前記導体配線は銅配線が好ましい。
【0034】
(16)前記配線フィルムにおいて、銅配線の外層の少なくとも一部分を錫、ニッケル、亜鉛、コバルトの何れかを含有する金属層または/および前記金属層が酸化した酸化物層または/および水酸化物層で被覆することにより、銅配線の酸化を抑制して接着性を向上する。
【0035】
(17)前記配線フィルムにおいて、前記導体配線の外層の少なくとも一部を、アミノ基、ビニル基、スチリル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群から選ばれた1種以上の基を含有するシランカップリング剤で被覆することができる。
【0036】
本発明におけるフェノキシ樹脂とマレイミド化合物の主な機能について説明する。フェノキシ樹脂は接着剤組成物に成膜性を付与し、硬化後においては接着層に柔軟性と機械的強度の付与の機能を主に担う成分である。このような機能を発現するための好ましい分子量範囲としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法(ポリスチレンン換算)で測定される重量平均分子量で20000〜60000の範囲を挙げることができる。
【0037】
また、ビスフェノールS型骨格と例えばビスフェノールA型骨格のような他の骨格構成成分との総量に対するビスフェノールS型骨格の含有率は、30〜50モル%であることが好ましい。
【0038】
前記フェノキシ樹脂において、前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂のn/mのモル比率が3/7〜5/5であり、スチレン換算重量平均分子量が20000〜60000であることが好ましい。そのようなフェノキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン(株)製YX8100、東都化成(株)製YPS−007A30等が挙げられる。
【0039】
マレイミド化合物は、接着層に溶融流動性と熱硬化性を付与する成分である。これによって接着層の融着性が改善されると共に硬化後の接着層の耐熱性、耐湿性、接着性、耐薬品性が改善される。更にマレイミド化合物として溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を選択することによって160℃以下の低温での融着性と耐熱性、耐湿信頼性の両立が実現できるので好ましい。
【0040】
好ましく用いられるマレイミド化合物の具体例としては、BMI−2000、BMI−5000、BMI−5100、BMI−TMH(以上、大和化成工業(株)製)等を挙げることができる。
【0041】
本発明におけるフェノキシ樹脂とマレイミド化合物との好ましい配合比率は、フェノキシ樹脂を100重量部として、マレイミド化合物が10〜100重量部である範囲を挙げることができる。マレイミド化合物が極端に少ないと硬化不足となり耐熱性、耐湿性、耐薬品性を損なう場合があり、マレイミド化合物が多すぎると接着性の低下、マレイミド化合物析出による接着層の不均一化の問題を生じる場合がある。また、樹脂組成物のワニス化にはシクロヘキサノン等の高沸点溶媒を選択することが作業の安全性の観点から好ましい。
【0042】
本発明における接着フィルムの基材には耐熱性の観点からポリイミドフィルムを用いることが好ましい。ポリイミドフィルムの膜厚には特に制限はないものの、ハンドリング性、フィルムコストの観点から25〜100μmの範囲であることが好ましい。そのようなポリイミドフィルムの例としては、カプトン100V、200V、100H、200H(東レ・デュポン(株)製)、アピカル25NPI((株)カネカ製)等を挙げることができる。
【0043】
基材上に形成される接着層の厚さは、導体の厚さに合わせて任意に選定することができる。導体の厚さが35〜100μmであるならば、配線の埋め込み性を考慮して20〜100μmの接着層を形成することが好ましい。
【0044】
本発明における配線フィルムは、融着温度以上の温度で後加熱することによって導体配線および接着フィルム間の接着力を増すことができる。好ましい後加熱条件としては180〜220℃において30分から60分を挙げることができる。また、本発明においては導体配線として錫、ニッケル、亜鉛、コバルトの何れかを含有する金属層または/およびその酸化物層や水酸化物層で被覆されている銅配線を用いることが好ましい。これにより銅表面の酸化を抑制し、安定した接着性を確保するものである。銅表面への異種金属層の形成にはめっき法を用いることができる。
【0045】
更に本発明の導体配線の最表面には、アミノ基、ビニル基、スチリル基、アクリレート基、メタクリレート基を含有するシランカップリング剤を設置することができる。導体配線の外層の少なくとも一部が、アミノ基、ビニル基、スチリル基、アクリレート基、メタクリレート基を含有するシランカップリング剤で被覆されていることが好ましい。これらのシランカップリング剤は、マレイミド化合物と一次結合を形成するため配線フィルムの接着性、耐熱性、耐湿性の改善に寄与するものである。シランカップリング剤の具体例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等の市販のシランカップリング剤を挙げることができる。
【0046】
シランカップリング剤による表面処理は、0.5〜8wt%のシランカップリング剤の水溶液またはアルコール溶液を導体配線に塗布し、その後100〜150℃で10〜30分間乾燥することによってなされる。
【0047】
(実施例)
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。表1における接着剤の樹脂組成比及び溶媒は重量比である。
【0048】
試薬および評価方法を示す。
(1)供試試料
マレイミド化合物1:BMI−1000、大和化成工業(株)製、溶融温度=147〜168℃、200℃におけるゲル化時間=120〜150秒
マレイミド化合物2:BMI−3000(式3)、大和化成工業(株)製、溶融温度=199〜204℃、250℃におけるゲル化時間=30秒
マレイミド化合物3:BMI−4000、大和化成工業(株)製、溶融温度=134〜163℃、250℃におけるゲル化時間=60〜90秒
マレイミド化合物4:BMI−2000(式2)、大和化成工業(株)製、溶融温度=125〜160℃、200℃におけるゲル化時間=180〜240秒
マレイミド化合物5:BMI−5000、大和化成工業(株)製、溶融温度=130〜154℃、250℃におけるゲル化時間=110秒
マレイミド化合物6:VPMI、4−ビニルフェニルマレイミド、溶融温度=110〜120℃、200℃におけるゲル化時間<5秒
マレイミド化合物7:BMI−TMH(式4)、大和化成工業(株)製、溶融温度=73〜110℃、250℃におけるゲル化時間=126秒
スルホン基含有フェノキシ樹脂:YPS−007A30、東都化成(株)製
ポリイミドフィルム1:カプトン(登録商標)100V、東レ・デュポン(株)製
ポリイミドフィルム2:アピカル(登録商標)25NPI、(株)カネカ製
銅箔1:厚さ100μmの銅箔。表面に厚さ100nmの錫めっき層を有し、錫めっき層表面には錫の水酸化物、酸化物が存在する。表面粗さ(Ra)は0.2μmであった。
【0049】
銅箔2:銅箔1の表面にアミノシラン処理を施した銅箔。アミノシラン処理条件:N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランの5%水溶液に銅箔1を1分間浸漬して取り出した。120℃で30分間乾燥して表面にアミノシラン層を設置した。
【0050】
(2)接着剤ワニスの調整
表1に記載の所定の配合比で接着剤ワニスを調整した。
【0051】
(3)接着フィルムの作製
ポリイミドフィルム基材上に所定のギャップを有するバーコーターを用いて接着剤ワニスを塗布し、180℃で30分間乾燥して接着フィルムを作製した。接着層の膜厚は30μmに調整した。
【0052】
(4)基材と接着層との接着力評価
2枚の接着フィルムの接着層側の面を張り合わせ、160℃、0.4MPaの条件で10分間加熱加圧して接着した。更に大気中、無加圧で180℃/30分間後加熱した。接着直後と後加熱後のサンプルフィルムを1cm角に切り出し、基材と接着層の間で180°ピール試験を実施した。
【0053】
(5)銅箔と接着層との接着力評価
接着フィルムの接着層側の面に錫めっきを施した銅箔を置き、160℃、0.4MPaの条件で10分間加熱加圧して接着した。更に大気中、無加圧で180℃/30分間後加熱した。後加熱後のサンプルに対して(4)と同様にピール試験を実施した。
【0054】
(6)耐熱耐湿試験
接着フィルムの接着層側の面に錫めっきを施した銅箔を置き、160℃、0.4MPaの条件で10分間加熱加圧して接着した。更に大気中、無加圧で180℃/30分間後加熱した。その後、121℃、2気圧、飽和水蒸気下に24時間暴露した。(5)と同様にしてピール試験を実施した。
【0055】
(7)はんだ耐熱試験
接着フィルムの接着層側の面に錫めっきを施した銅箔を置き、160℃、0.4MPaの条件で10分間加熱加圧して接着した。更に大気中、無加圧で180℃/30分間後加熱した。本サンプルを280℃はんだ浴槽に浮かべて1分間保持した。概観検査で膨れの発生がないサンプルを○、膨れが発生したサンプルを×と表記した。また、はんだ試験後のサンプルに対して(5)と同様にピール試験を実施した。
【0056】
(比較例1)
比較例1の接着剤の組成を表1に記載した。比較例1はマレイミド化合物を含有しない接着剤である。接着温度160℃におけるポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。比較例1の接着フィルムの接着力は0.5kN/mと低い値を示した。本接着フィルムを用いて後加熱の効果、銅箔との接着性、はんだ耐熱性を検討した。結果を表3に示した。後加熱による接着力改善効果は低く、銅箔との接着力も0.5〜0.6kN/mと低い値を示した。また、はんだ耐熱試験において膨れが発生した。マレイミド化合物を含有しない接着フィルムの接着力、耐熱性は低いことが判明した。
【0057】
(比較例2)
比較例2の接着剤の組成を表1に記載した。比較例2で用いたマレイミド化合物は、マレイミド基とスチレン基を各1個有する化合物であり、溶融温度が110〜120℃、200℃におけるゲル化時間が5秒未満である4−ビニルフェニルマレイミド(VPMI)である。接着温度160℃におけるポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。比較例2の接着フィルムの接着力は0.3kN/mと低い値を示した。VPMIはゲル化時間が極めて短いことに起因して、乾燥工程での硬化反応が進行しすぎ、低接着性を示したものと思われた。
【0058】
(比較例3)
比較例3の接着材の組成を表1に記載した。比較例3で用いたマレイミド化合物は、溶融温度が147〜168℃、200℃におけるゲル化時間が120〜150秒である4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI−1000)である。接着温度160℃におけるポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。接着力は0.4kN/mと低い値を示した。BMI−1000の溶融温度はやや高く、200℃におけるゲル化時間もやや短いため、接着力が低いものと思われた。
【0059】
(比較例4)
比較例4の接着剤の組成を表1に記載した。比較例4で用いたマレイミド化合物は、溶融温度が134〜163℃、250℃におけるゲル化時間が60〜90秒であるビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(BMI−4000)である。接着温度160℃におけるポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。接着力は、0.3kN/mと低い値を示した。BMI−4000の溶融温度がやや高く、ゲル化時間がやや短いため、接着力が低いものと思われた。
【0060】
(比較例5)
比較例5の接着剤の組成を表1に記載した。比較例5で用いたマレイミド化合物は、溶融温度が199〜204℃、250℃におけるゲル化時間が30秒であるm−フェニレンビスマレイミド(BMI−3000)である。BMI−3000は溶融温度が高く、250℃におけるゲル化時間も短いことから、160℃で接着した際の接着力は0.2kN/mと低い値を示した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】

(実施例1)
実施例1の接着剤の組成を表1に記載した。実施例1で用いたマレイミド化合物は、溶融温度が125〜160℃、200℃におけるゲル化時間が180〜240秒であるポリフェニルメタンマレイミド(BMI−2000)である。接着温度160℃におけるポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。接着力は0.7kN/mと比較的高い値を示した。本接着フィルムを用いて後加熱の効果および銅箔との接着性、はんだ耐熱性を検討した。結果を表3に示した。フィルム間の接着力は180℃の後加熱により、1.4kN/mに改善された。銅箔との接着力、はんだ耐熱性も優れていた。特定範囲の溶融温度、ゲル化時間を有するマレイミド化合物を用いることにより、低温接着性と高耐熱性を両立する接着フィルムを得ることができることがわかった。よって、この接着剤組成物および接着フィルムは耐熱性を要求される配線フィルムの部材として好適であることが判明した。
【0064】
(実施例2)
実施例2の接着剤の組成を表1に記載した。実施例2で用いたマレイミド化合物は、溶融温度=130〜154℃、250℃におけるゲル化時間=110秒である3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI−5000)である。接着温度160℃におけるポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。接着力は0.7kN/mと比較的高い値を示した。本接着フィルムを用いて後加熱の効果および銅箔との接着性、はんだ耐熱性を検討した。結果を表3に示した。フィルム間接着力は180℃の後加熱により、1.3kN/mに改善された。銅箔との接着力、はんだ耐熱性も優れていた。特定範囲の溶融温度、ゲル化時間を有するマレイミド化合物を用いることにより、低温接着性と高耐熱性を両立する接着フィルムを得ることができることがわかった。よって、この接着剤組成物および接着フィルムは耐熱性を要求される配線フィルムの部材として好適であることが判明した。
【0065】
(実施例3)
実施例3の接着剤の組成を表1に記載した。実施例3で用いたマレイミド化合物は、溶融温度=73〜110℃、250℃におけるゲル化時間=126秒である1,6−ビスマレイミド(2,2,4−トリメチル)ヘキサン(BMI−TMH)である。ポリイミドフィルム1(カプトン100V)との接着力を表2に示した。接着力は0.7kN/mと比較的高い値を示した。本接着フィルムを用いて後加熱の効果および銅箔との接着性、はんだ耐熱性を検討した。結果を表3に示した。フィルム間接着力は180℃の後加熱により、1.2kN/mに改善された。銅箔との接着力、はんだ耐熱性も優れていた。特定範囲の溶融温度、ゲル化時間を有するマレイミド化合物を用いることにより、低温接着性と高耐熱性を両立する接着フィルムを得ることができることがわかった。よって、この接着剤組成物および接着フィルムは耐熱性を要求される配線フィルムの部材として好適であることが判明した。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例4)
実施例1の接着剤をポリイミドフィルム2(アピカル25NPI)に塗布し、実施例4の接着フィルムを作製した。本接着フィルムと銅箔2との接着力、耐熱耐湿試験後の接着力を表4に記載した。本接着フィルムと銅箔との接着力は1.3〜1.4kN/mと高く、耐熱耐湿試験前後において殆ど低下せず、耐熱耐湿性が優れていることが確認された。以上のことから、上記接着剤組成物および接着フィルムを用いて製作される配線フィルムは、耐熱耐湿信頼性が優れているとの結果を得た。
【0068】
(実施例5)
実施例2の接着剤をポリイミドフィルム2(アピカル25NPI)に塗布し、実施例5の接着フィルムを作製した。本接着フィルムと銅箔2との接着力、耐熱耐湿試験後の接着力を表4に記載した。本接着フィルムと銅箔との接着力は殆ど低下せず、耐熱耐湿性が優れていることが確認された。以上のことから、上記接着剤組成物および接着フィルムを用いて製作される配線フィルムは、耐熱耐湿信頼性が優れているとの結果を得た。
【0069】
(実施例6)
実施例3の接着剤をポリイミドフィルム2(アピカル25NPI)に塗布し、実施例6の接着フィルムを作製した。本接着フィルムと銅箔2との接着力、耐熱耐湿試験後の接着力を表4に記載した。本接着フィルムと銅箔との接着力は殆ど低下せず、耐熱耐湿性が優れていることが確認された。以上のことから、上記接着剤組成物および接着フィルムを用いて製作される配線フィルムは、耐熱耐湿信頼性が優れているとの結果を得た。
【0070】
【表4】

【0071】
(実施例7〜9)
実施例7〜9は、ビスフェノールS型骨格を有するフェノキシ樹脂100重量部に対してマレイミド樹脂(BMI−5000)の配合量を10〜100重量部とした接着剤組成物の例である。その組成を表5に示した。本検討の範囲では、ワニス中での樹脂成分の析出は認められず、良好な保存安定性が確認された。実施例7〜9の接着剤組成物を用いた接着フィルムの特性を表6に示した。本接着剤組成の範囲では、接着フィルムと銅箔との接着力は高い値を示し、耐熱耐湿性も優れていることが確認された。
【0072】
【表5】

【0073】
【表6】

【0074】
(実施例10)
実施例4の接着フィルムを用いて模擬配線フィルムを作製した。工程を以下に示した。
(1)10cm×2cmに切り出した接着フィルムの接着層面上に10本の平角銅線(幅300μm、厚さ35μm)を1mm間隔で設置した。
(2)9cm×2cmに切り出した接着フィルムを別に用意し、長軸方向を合わせ、先の銅配線上に接着層面が接するように設置した。
(3)離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムにて上記積層体を挟み、160℃/10分、0.4MPaの条件でプレス加工して接着フィルムと接着フィルムの間に銅配線間を熱融着接合した。
【0075】
ポリエチレンテレフタレートフィルムから積層体を取り出し、180℃/30分間後加熱して模擬配線フィルムを作製した。本サンプルは、高温高湿試験、はんだ耐熱試験後においてもクラックや剥離が生じず、耐熱配線フィルムとして好ましいと思われる結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の耐熱接着フィルムはTABテープ、FPC、FFC、MFJ等の絶縁接着シートとして好適である。また、本発明の配線フィルムは耐熱性に優れており、自動車、電子、電気機器の配線部材に好適である。
【符号の説明】
【0077】
1…基材、2…接着層、3…導体配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有するマレイミド化合物を10〜100重量部含有することを特徴とする接着剤組成物であって、前記マレイミド化合物として、溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂が下記式1の構造を有することを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【化1】

(式1中のmおよびnは整数を表す。)
【請求項3】
前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂のn/mのモル比率が3/7〜5/5であり、スチレン換算重量平均分子量が20000〜60000であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記マレイミド化合物が下記式2〜4で表されるマレイミド化合物の1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【化2】

(式2において、n=0−3とは、少なくともnが0〜3である化合物の何れかを含有していることを表す。)
【請求項5】
ポリイミドからなる基材上に、構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有し、溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を10〜100重量部含有する接着層を有する接着フィルム。
【請求項6】
前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂が下記式1の構造を有することを特徴とする請求項5に記載の接着フィルム。
【化3】

(式1中のmおよびnは整数を表す。)
【請求項7】
前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂のn/mのモル比率が3/7〜5/5であり、スチレン換算重量平均分子量が20000〜60000であることを特徴とする請求項6に記載の接着フィルム。
【請求項8】
前記マレイミド化合物が、下記式2〜4で表されるビスマレイミド化合物の1種以上であることを特徴とする請求項7に記載の耐熱接着フィルム。
【化4】

(式2において、n=0−3とは、少なくともnが0〜3である化合物の何れかを含有していることを表す。)
【請求項9】
ポリイミドからなる基材上に、設置された接着層と導体配線とを熱融着し、接着層を硬化した後のポリイミド基材と接着層硬化物および導体配線と接着層硬化物の接着力が0.7kN/m以上である請求項5〜8のいずれかに記載の接着フィルム。
【請求項10】
前記熱融着する際の融着温度が160℃以下であることを特徴とする請求項9に記載の耐熱接着フィルム。
【請求項11】
ポリイミドからなる基材上に、構造中にビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂100重量部に対して複数のマレイミド基を構造中に含有し、溶融温度が160℃以下であり、200℃におけるゲル化時間が180〜350秒であるマレイミド化合物または/および溶融温度が160℃以下であり、250℃におけるゲル化時間が110〜150秒であるマレイミド化合物を10〜100重量部含有する接着層を有する第一の接着フィルムの接着層上に導体配線を配置し、該導体配線上に更に第二の該接着フィルムの接着層面を重ね、前記第一と前記第二の接着フィルム間および前記第一の接着フィルム、前記第二の接着フィルムと導体配線とを熱融着してなる配線フィルム。
【請求項12】
前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂が下記式1の構造を有することを特徴とする請求項11に記載の配線フィルム。
【化5】

(式1中のmおよびnは整数を表す。)
【請求項13】
前記ビスフェノールS型骨格を含有するフェノキシ樹脂のn/mのモル比率が3/7〜5/5であり、スチレン換算重量平均分子量が20000〜60000であることを特徴とする請求項11に記載の配線フィルム。
【請求項14】
前記マレイミド化合物が、下記式2〜4で表されるビスマレイミド化合物の1種以上であることを特徴とする請求項11に記載の配線フィルム。
【化6】

(式2において、n=0−3とは、少なくともnが0〜3である化合物の何れかを含有していることを表す。)
【請求項15】
前記熱融着する際の融着温度以上の温度で後加熱したことを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の配線フィルム。
【請求項16】
前記導体配線が銅配線である請求項11〜15のいずれかに記載の配線フィルム。
【請求項17】
銅配線の外層の少なくとも一部分が錫、ニッケル、亜鉛、コバルトの何れかを含有する金属層または/およびその酸化物層または/および水酸化物層で被覆されている請求項16記載の配線フィルム。
【請求項18】
前記導体配線の外層の少なくとも一部が、アミノ基、ビニル基、スチリル基、アクリレート基、メタクリレート基を含有するシランカップリング剤で被覆されている請求項11〜17のいずれかに記載の配線フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−116954(P2012−116954A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268006(P2010−268006)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】