説明

接着剤組成物、半導体レーザモジュールおよび半導体レーザモジュールの製造方法

【課題】光重合開始剤と熱重合開始剤とが配合され、より高い接着性を有し、かつガラス転移温度(以下Tg)を高くした接着剤組成物ならびにこれを用いた半導体レーザモジュールおよび半導体レーザモジュールの製造方法を提供すること。
【解決手段】主剤樹脂に対して、リン系のカウンターアニオンとするヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤とSbFをカウンターアニオンとするスルホニウム塩系熱カチオン重合開始剤とが配合されている。好ましくは、前記主剤樹脂がエポキシ樹脂である。好ましくは、さらに、板状の充填剤が配合されている。好ましくは、粘度が25Pa・s〜80Pa・sとなるように前記板状の充填剤が配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、半導体レーザモジュールおよび半導体レーザモジュールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光モジュール等を組み立てる際には、複数の光学部品の相対位置を調整して光軸や光学部品間の光結合効率を合わせた後に、各光学部品が接着剤によってたとえば基板に固定される。
【0003】
各光学部品は、レンズのようにガラス材料からなるものや、光アイソレータのように金属ケースに収容された形態のもの等、異なる材料で構成される場合がある。これらの光学部品を接着剤で固定する場合、相対位置の精度を維持するためには光照射によって速やかに硬化する光硬化型の接着剤が好ましい。光学部品がガラス材料等の光を透過する材料からなる場合は、光学部品の上側から光を照射した場合でも、光学部品の下側の接着剤に光があたるので、接着剤は硬化する。
【0004】
しかしながら、上述した金属ケースを有する光学部品を接着する際には、接着剤が光学部品の陰になって光があたらず、十分に硬化しない場合ができる。このような陰になる接着剤の不十分な硬化による接着性の低下を防止するために、またさらには持続的な接着力を強化するために、光重合開始剤と熱重合開始剤とが配合された接着剤が開示されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−96425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光重合開始剤として光ラジカル系重合開始剤を用いた場合、ラジカル反応のためにアクリレートが必須である点や、陰の部分での未硬化の光重合開始剤の問題が大きい点などから、光カチオン系重合開始剤が用いられる場合が多い。しかし、従来の光カチオン系重合開始剤と熱カチオン系重合開始剤とが配合された接着剤は、十分な接着性が得られておらず、より接着性の高いものが求められていた。また、高い接着性を得るために熱重合開始剤として熱潜在型熱重合開始剤を用いた場合は、よく用いられるアミン系の熱潜在型熱重合開始剤は塩基性であるため、光によって酸を発生する光カチオン系重合開始剤の硬化反応を阻害する場合があり、かえって接着性が低下する場合があった。また、半導体レーザモジュール等の光学素子を接着剤により固定する場合、動作温度がガラス転移点(Tg)よりも高いと熱膨張による光学素子の位置ずれを無視することができなくなるために、Tgよりも動作温度を低くする必要があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、光重合開始剤と熱重合開始剤とが配合され、より高い接着性を有し、かつガラス転移温度(以下Tg)を高くした接着剤組成物ならびにこれを用いた半導体レーザモジュールおよび半導体レーザモジュールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る接着剤組成物は、主剤樹脂に対して、リン系アニオンをカウンターアニオンとするヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤とSbFをカウンターアニオンとするスルホニウム塩系熱カチオン重合開始剤とが配合されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、前記主剤樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、前記リン系のカウンターアニオンが特殊リン系カウンターアニオンであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、前記熱カチオン重合開始剤が芳香族スルホニウム塩系熱カチオン重合開始剤であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、前記光カチオン重合開始剤の単独での反応温度ピークでは、前記熱カチオン重合開始剤が単独では重合を開始させない重合開始剤であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、さらに、板状の充填剤が配合されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、粘度が25Pa・s〜80Pa・sとなるように前記板状の充填剤が配合されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、前記板状の充填剤がタルクまたはマイカであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る接着剤組成物は、上記発明において、前記熱カチオン重合開始剤は、当該接着剤組成物を熱硬化するために設定した熱硬化温度に近い温度にて反応性が高いものであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る半導体レーザモジュールは、光学ガラスからなる第1光学部品と、少なくとも外観に金属を含む第2光学部品と、基台とを含む半導体レーザモジュールであって、前記第1光学部品と前記第2光学部品とが上記発明の接着剤組成物で前記基台に固定されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る半導体レーザモジュールの製造方法は、光学ガラスからなる第1光学部品と、少なくとも外観に金属を含む第2光学部品と、基台とを含む半導体レーザモジュールの製造方法であって、前記第1光学部品および前記第2光学部品を前記基台の所定の位置に配置し、前記第1および第2光学部品と前記基台の間にヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤と芳香族スルホニウム塩を含む熱カチオン重合開始剤とを含みエポキシ樹脂を主剤とする接着剤組成物を導入する工程と、前記接着剤組成物に前記ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を反応させるための光を所定時間、照射する工程と、前記芳香族スルホニウム塩を含む熱カチオン重合開始剤の反応熱ピーク温度近傍で加熱する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より高い接着性を有し、Tgの高い接着剤組成物を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施の形態に係る接着剤組成物を適用できる光モジュールである半導体レーザモジュールを上方から見た模式的な断面図である。
【図2】図2は、紫外線照射により発生する反応熱を示す図である。
【図3】図3は、紫外線照射後の加熱により発生する反応熱を示す図である。
【図4】図4は、光カチオン重合開始剤の添加量と光重合型接着剤組成物の接着強度との関係を示す図である。
【図5】図5は、主剤樹脂にスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤を配合した光重合型接着剤組成物における紫外線照射時間と反応率との関係を示す図である。
【図6】図6は、主剤樹脂にヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を配合した光重合型接着剤組成物における紫外線照射時間と反応率との関係を示す図である。
【図7】図7は、熱硬化温度と熱硬化型接着剤組成物の接着強度との関係を示す図である。
【図8】図8は、タルクの添加量と粘度との関係を示す図である。
【図9】図9は、温度と長さ変化との関係を示す図である。
【図10】図10は、実施例、比較例の接着剤組成物の組成、ガラス転移温度および粘度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して本発明に係る接着剤組成物の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
図1は、実施の形態に係る接着剤組成物を適用できる光モジュールである半導体レーザモジュール1を上方から見た模式的な断面図である。図1に示す半導体レーザモジュール1は、筐体2内に収容または挿通された複数の構成要素である基台3、副基台4、5、半導体レーザ素子6、コリメートレンズ7、光アイソレータ8、ビームスプリッタ9、パワーモニタ用フォトダイオード10、エタロンフィルタ11、波長モニタ用フォトダイオード12、集光レンズ13、および光ファイバ14を備えている。なお、筐体2は上部に蓋を備え、筐体2内は気密に封止されている。
【0023】
半導体レーザ素子6は、副基台4、5を介して基台3上に配置される。半導体レーザ素子6は、たとえば発振波長が異なる複数のDFBレーザ素子が集積されており、その中から駆動するDFBレーザ素子を選択することによって、外部に出力するレーザ光の波長を可変できる集積型半導体レーザ素子である。
【0024】
コリメートレンズ7は、副基台4を介して基台3上に配置されており、半導体レーザ素子6から出力されるレーザビームLBを平行光にする。光アイソレータ8は、基台3上に配置されており、レーザビームLBを紙面右側に透過させるとともに、紙面左側から半導体レーザ6素子側に進行する光の透過を防止する。
【0025】
ビームスプリッタ9は、基台3上に配置されており、レーザビームLBの殆どを紙面右側に透過させるとともに、その一部を反射ビームRBとして反射させる。パワーモニタ用フォトダイオード10、エタロンフィルタ11、および波長モニタ用フォトダイオード12は、基台3上に配置されている。パワーモニタ用フォトダイオード10は、反射ビームRBの一部を受光してレーザビームLBの強度をモニタするために使用される。エタロンフィルタ11は、波長に対して周期的な透過特性を有しており、反射ビームRBの一部を波長について選択的に透過して波長モニタ用フォトダイオード12に到達させる。波長モニタ用フォトダイオード12は、エタロンフィルタ11が透過した光を受光してレーザビームLBの強度をモニタするために使用される。集光レンズ13は、ビームスプリッタ9が透過したレーザビームLBを集光して光ファイバ14に結合させる。
【0026】
この半導体レーザモジュール1を組み立てる際には、光学部品である集光レンズ7、光アイソレータ8、ビームスプリッタ9、パワーモニタ用フォトダイオード10、エタロンフィルタ11、および波長モニタ用フォトダイオード12は、実施の形態に係る接着剤組成物を介して、順次基台3または副基台4に載置され、位置を精密に調整され、その後接着剤組成物に紫外線を照射させて硬化させ、固定させ、いわゆる仮固定を行う。なお、通常は或る光学部品の位置を調整、固定後に次の光学部品の位置調整、固定を行う。所定の光学部品の仮固定を行った後に熱硬化のための加熱工程を行い、接着剤組成物をさらに強固に硬化させる。これによって、レーザビームLBを高効率で光ファイバに結合させ、かつレーザビームLBのパワーおよび波長を高精度にモニタすることができる。
【0027】
ここで、半導体レーザモジュール1では、本実施の形態に係る、接着性の高い接着剤組成物を用いて光学部品を固定するため、レーザビームLBの光ファイバへの結合効率をより高効率にでき、かつレーザビームLBのパワーおよび波長のモニタをより高精度にでき、かつこの効率および精度を長期間にわたって維持することができる。また、本実施の形態に係る接着剤組成物を用いると幅広い温度範囲で用いることができるので、半導体レーザモジュール1等の設計の自由度が向上する。
【0028】
本実施の形態に係る接着剤組成物について具体的に説明する。本実施の形態に係る接着剤組成物は、主剤樹脂に対して、ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤とが配合されたものである。熱カチオン重合開始剤としては、加熱によってルイス酸もしくはブレンステッド酸を発生する化合物で、本実施の形態では紫外線照射においても若干反応の進む芳香族スルホニウム塩系の熱カチオン重合開始剤が使用される。その結果、紫外線照射による接着剤組成物の接着強度が高くなる。また、そのために、仮固定のための光カチオン重合開始剤の配合量が従来よりも少なくてよく、コストも低い。したがって、光カチオン重合開始剤の配合量に対する熱カチオン重合開始剤の配合量を相対的に多くできるので、最終的な熱硬化後の接着性が高くなる。これによって、本実施の形態に係る接着剤組成物は高い接着性を実現できる。
【0029】
主剤樹脂としては、ビスフェノールA型(下記化学式(1))、ビスフェノールF型(下記化学式(2))、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビフェニル型、ナフタレン型、フェノールノボラック型、オルトクレゾールノボラック型、ビスフェノールAノボラック型、トリスヒドロキシメタン型、またはテトラフェノールエタン型などのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂などのエポキシ系樹脂、あるいはエポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、またはポリエステルアクリレートなどのアクリル系樹脂を使用することができる。また、従来はヨードニウム塩系の光重合開始剤は長期保存時の安定性やコストの点から用いられていなかったが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、あるいはビスフェノールF型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を主剤として用いた場合には長期保存時の安定性においても問題ないことを本願発明者は発見した。
【化1】

【化2】

【0030】
ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤としては、下記化学式(3)で表される、アニオン種が(Rf)PF6−nであるサンアプロ社のIK−1、またはIK−2(いずれも商品名)を使用することができる。
【化3】

【0031】
ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤としては、下記化学式(4)で表される、アニオン種がPF6であるBASF社のIrgacure250(商品名)を使用してもよい。上述のように本実施の形態のヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤のカウンターアニオン種は、特殊リン系((Rf)PF6−n)、あるいはリン系(PF)のものが都合が良く、特に特殊リン系のものが接着力が強く好ましい。
【化4】

【0032】
熱カチオン重合開始剤としては、SbF系スルホニウム塩である、下記化学式(5)、(6)でそれぞれ表されるSI−80L、SI−100L(いずれも三新化学工業社の商品名)を使用することができる。熱カチオン重合開始剤については、設定した熱硬化温度において反応性が高いものを使用することが好ましい。また、保存時の環境下の放射で生じる光重合開始剤の発熱や環境温度で反応しない反応開始温度のものを使用することが好ましい。なお、熱硬化温度は、硬化後のエポキシ樹脂のガラス転移温度が立ち上がり始める温度以上であり、かつたとえば固定すべき光学部品が耐えうる温度に基づいて設定することが好ましい。
【化5】

【化6】

【0033】
また、本実施の形態に係る接着剤組成物は、タルクやマイカなどの板状の充填剤を含めることによって、所望の粘度とすることができる。また、充填剤は紫外線を透過、あるいは反射させる材料が好ましい。充填させる充填剤の比表面積はBET法で2.5m/g〜24m/g程度のものが本実施の形態の重合開始剤の反応性に好適で、長期的な接着力の観点から好ましい。これによって、複数の光学部品を接着する場合に光学部品を動かないようにできるため、作業性を向上させることができる。粘度については、25Pa・s以上にすることが好ましく、80Pa・s以下にすることが好ましく、特に30Pa・sとすることが好ましい。また、充填剤の配合量を調整することによって、接着剤組成物の線膨張係数を所定の値以下にすることができる。これによって、熱硬化のための加熱時、または製造後の環境の温度変化によっても接着剤組成物が過度に膨張しないようにすることができるので、光学部品の位置精度をより高く保つことできる。好ましい線膨張係数の値は、約1.0×10−4K−1以下である。
【0034】
つぎに、主剤樹脂に光カチオン重合開始剤を含めた光硬化型接着剤組成物、および主剤樹脂に熱カチオン重合開始剤を含めた熱硬化型接着剤組成物に高圧水銀ランプによって紫外線を照射した場合、ならびに紫外線を照射した後に加熱した場合の反応性について説明する。
【0035】
なお、以下では、光硬化型接着剤組成物Aとして、主剤樹脂としてのビスフェノール型エポキシ樹脂(三菱化学社製のjER 828(商品名))にヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤(化学式(3)で表されるサンアプロ社製のIK−1(商品名))を配合したものを使用した。また、熱硬化型接着剤組成物Bとして、主剤樹脂としてのエポキシ樹脂(jER 828)にスルホニウム塩を含む熱カチオン重合開始剤(SI−100L)を含めたものを使用した。
【0036】
図2は、紫外線照射により発生する反応熱を示す図である。横軸は時間(秒)を示し、縦軸は発生する反応熱を示している。データD1は光硬化型接着剤組成物Aを示し、データD2は熱硬化型接着剤組成物Bを示している。光硬化型接着剤組成物Aおよび熱硬化型接着剤組成物Bのそれぞれの温度を25℃として、照度100mW/cmの紫外線を高圧水銀ランプにより照射した。すると、光硬化型接着剤組成物Aはすぐに重合反応を開始して反応熱を発した。
一方、熱硬化型接着剤組成物Bの反応熱量が小さいことがわかる。この結果は、紫外線照射によって光硬化型接着剤組成物Aは反応が非常に進み、熱硬化型接着剤組成物Bは、紫外線に少し反応することを示している。
【0037】
つぎに、各接着剤組成物に紫外線を照射せずに加熱のみを行った場合に発生する反応熱を測定した。すると、光硬化型接着剤組成物Aは加熱してもほとんど反応せず、発熱しなかった。一方、熱硬化型接着剤組成物Bは、加熱温度が約115℃以上で反応を開始し、加熱温度が約142℃において最も反応熱を発し、所定の温度で反応性が高いことが確認された。
【0038】
つぎに、図3は、図2の紫外線照射の後に各接着剤組成物を加熱したことにより発生する反応熱を示す図である。横軸は加熱温度(℃)を示し、縦軸は発生する反応熱を示している。データD3は光硬化型接着剤組成物Aを示し、データD4は熱硬化型接着剤組成物Bを示している。図3に示すように、光硬化型接着剤組成物Aおよび熱硬化型接着剤組成物Bのいずれも、室温から少し加熱するだけで直ぐに反応が開始され、硬化が良く進むことが確認された。この温度は、熱カチオン重合開始剤に光を与えることなく、熱のみを与えた場合には反応が開始しない温度である。なお、光硬化型接着剤組成物Aは加熱温度が約59.0℃において最も反応熱を発し、熱硬化型接着剤組成物Bは約92.6℃において最も反応熱を発し反応性が高かった。これは直前の紫外光照射によって熱カチオン重合開始剤も分解しており、加熱することで反応が進んだためと考えられる。この反応はSbF系芳香族スルホニウム塩の熱カチオン重合開始剤が最も好ましく、主剤が脂環式エポキシ樹脂のようにカチオン重合性の高い場合は、PF系芳香族スルホニウム塩の熱カチオン重合開始剤でも良い。
【0039】
つぎに、主剤樹脂にヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を配合した光硬化型接着剤組成物と、主剤樹脂にスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤を配合した光硬化型接着剤組成物とで、接着強度を比較した。主剤樹脂としてはエポキシ樹脂(jER 828)を使用した。ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤としてはIK−1を使用し、スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤としてはCPI−101Aを使用した。
【0040】
図4は、光カチオン重合開始剤の添加量と光硬化型接着剤組成物の接着強度との関係を示す図である。図4に示すように、本実施の形態で使用するヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を用いた場合の方が、スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤を用いた場合よりも接着強度が高くなる。
【0041】
なお、ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤の方が、スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤よりも溶剤への溶解性が高い。したがって、ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を使用した場合は、溶剤の使用量がより少なくてよい。したがって、溶剤によるアウトガスの発生もより少なくなるので、図1に示す半導体レーザモジュール1のような気密封止する光モジュールに使用した場合に、光モジュールの信頼性の低下が抑制される。
【0042】
つぎに、RT−FT/IR(リアルタイムフーリエ変換赤外分光)法によって、紫外線照射による主剤樹脂中のエポキシ基の反応に伴う赤外線吸収量の変化を測定し、その変化からエポキシ基の反応率を求めた。なお、赤外線吸収量は、波数860cm−1、913cm−1にて測定した。
【0043】
図5は、主剤樹脂にスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤を配合した光硬化型接着剤組成物における紫外線照射時間と反応率との関係を示す図である。また、図6は、主剤樹脂にヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を配合した光硬化型接着剤組成物における紫外線照射時間と反応率との関係を示す図である。ここで、主剤樹脂と各光カチオン重合開始剤の濃度比はほぼ等しい。図5、6に示すように、本実施の形態で使用するヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を用いた場合の方が、スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤を用いた場合よりも反応率が高かった。このように反応率が高いため、図4に示したように、ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を用いた光硬化型接着剤組成物の方が、接着強度が高くなると考えられる。
【0044】
つぎに、主剤樹脂に2つの異なる熱カチオン重合開始剤を配合した熱硬化型接着剤組成物の接着強度を比較した。主剤樹脂としてはエポキシ樹脂(jER 828)を使用した。熱カチオン重合開始剤としてはSI−80L、SI−100Lを使用した。これらの製品には、溶剤と、各熱カチオン重合開始剤とがほぼ1:1の割合で含まれる。開始剤1、2はそれぞれSI−80L、SI−100Lを意味している。
【0045】
各熱カチオン重合開始剤の添加量を1phrとし、様々な熱硬化温度にて1時間の加熱を行った場合の接着強度を比較した。図7は、熱硬化温度と熱硬化型接着剤組成物の接着強度との関係を示す図である。図7に示すように、最も接着強度が高い熱カチオン重合開始剤は、熱硬化温度によって異なっていた。これは、それぞれの重合開始剤の最も反応熱を発する温度の近傍で熱硬化させると接着強度が高くなることを示している。したがって、使用する熱カチオン重合開始剤については、適用する熱硬化温度に応じて最適なもの、すなわち反応性が高いものを選択することが好ましい。また、主剤樹脂であるエポキシ樹脂(jER 828)のガラス転移温度以下に熱硬化温度を設定することが好ましい。
【0046】
つぎに、接着剤組成物に板状の充填剤を含める効果について説明する。以下では、主剤樹脂としてのエポキシ樹脂(jER 828)に光カチオン重合開始剤(IK−1)、熱カチオン重合開始剤(SI−100L)、板状の充填剤としてのタルク(日本タルク社製のFG−15(商品名))、およびシランカップリング剤(信越化学工業社製のKBM−403(商品名))を含めた接着剤組成物を用いて説明する。ここでは、光カチオン重合開始剤としてヨードニウム塩を含むIK−1を用いているが、これをスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤に置き換えても、板状の充填剤を含める効果については同様の傾向を奏する。また、接着剤組成物にシランカップリング剤を含めることによって無機材料への接着力を向上させることができるので好ましい。
【0047】
図8は、シランカップリング剤の添加量は1phrまたは3phrにおける、タルクの添加量と粘度(せん断速度 1sec−1)との関係を示す図である。光カチオン重合開始剤、熱カチオン重合開始剤の添加量はそれぞれ1.5phr、1.0phrとしたものの粘度とタルクの濃度の関係を示したもので、タルクの添加量を大きくするほど粘度が高くなる。接着剤組成物の粘度については、半導体モジュールの光学部品の位置決め時の作業性の観点から、10Pa・s以上にすることが好ましく、特に25Pa・s以上にすることが好ましく、80Pa・s以下とすることが好ましい。したがって、タルクの添加量については、タルクの添加量と粘度との関係をもとに、所望の粘度を実現するように設定することが好ましい。
【0048】
なお、タルクのような板状の充填剤を用いる場合は、たとえばシリカなどの球形の充填剤を用いる場合よりも、少ない添加量で粘度を高めることができるので好ましい。
【0049】
ここで、図8に示した、シランカップリング剤の添加量が1phrでタルクの添加量が0phrまたは30phrの接着剤組成物を用いてフィルムを作成した後、接着剤組成物の熱膨張を測定した。図9は、温度と長さ変化との関係を示す図である。線L1、L2は使用温度領域付近における線形近似直線である。この線形近似直線から、タルクの添加量が30phrの場合の接着剤組成物の線膨張係数は44×10−6−1である。一方、主剤樹脂であるエポキシ樹脂の線膨張係数は77×10−6−1である。このようにタルクなどの板状の充填剤を配合することによって接着剤組成物の線膨張係数を低減することができるので好ましい。
【0050】
つぎに、実施例および比較例の接着剤組成物を用いてフィルムを作製した後、ガラス転移温度を測定した。ガラス転移温度は、動的粘弾性装置を用いて、tanδの温度変化を測定し、その極大値をガラス転移温度とした。周波数は1Hzとした。
【0051】
実施例および比較例の接着剤組成物としては、主剤樹脂としてのエポキシ樹脂(ビスフェノールA型(jER 828)またはF型(三菱化学社製のjER 807(商品名)))100質量部に対して、ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤(特殊リン系であるIK−1またはリン系であるIrgacure250)またはスルホニウム塩系光カチオン重合開始剤(CPI−101A)、熱カチオン重合開始剤(SI−80LまたはSI−100L)、タルク(FG−15)、シランカップリング剤(KBM−403)を含めた接着剤組成物を用いた。また、熱硬化は130℃で1時間行った。
【0052】
図10は、実施例、比較例の接着剤組成物の組成、ガラス転移温度および粘度を示す図である。実施例においては、エポキシ樹脂、光重合開始剤、熱重合開始剤、充填剤を所定の量を混合し、紫外線を透過する透明部材(BK7)と窒化アルミニウムからなる基台の間、あるいは不透過部材(Niメッキを外周に施して紫外線を不透過にした部材)と基台の間に導入し、スポット型UVランプを用いて60秒間照射し、続いて、130℃で60分間加熱した。なお、図中、ピーク温度とは、熱カチオン重合開始剤単体を熱硬化させた場合に、最も反応熱を発生する加熱温度を示している。ピーク温度が123℃がSI−80L、142℃がSI−100Lである。
【0053】
図10に示すように、実施例1〜4では、光重合開始剤と熱重合開始剤とが配合されており、かつガラス転移温度が150℃以上に高いものとなった。また、接着強度についても高いことが確認された。ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた実施例1、2、4が、ガラス転移温度が高い傾向にあった。これに対して、比較例1〜8は、光重合開始剤と熱重合開始剤とのいずれか一方だけが配合されたもの、または、高いガラス転移温度と高い接着強度とを両立することができなかった。
【0054】
以上、本発明の実施の形態および実施例により本発明を説明したが、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
1 半導体レーザモジュール
2 筐体
3 基台
4、5 副基台
6 半導体レーザ素子
7 コリメートレンズ
8 光アイソレータ
9 ビームスプリッタ
10 パワーモニタ用フォトダイオード
11 エタロンフィルタ
12 波長モニタ用フォトダイオード
13 集光レンズ
14 光ファイバ
D1〜D4 データ
L1、L2 線
LB レーザビーム
RB 反射ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤樹脂に対して、リン系アニオンをカウンターアニオンとするヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤とSbFをカウンターアニオンとするスルホニウム塩系熱カチオン重合開始剤とが配合されていることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記主剤樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記リン系のカウンターアニオンが特殊リン系カウンターアニオンであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記熱カチオン重合開始剤が芳香族スルホニウム塩系熱カチオン重合開始剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記光カチオン重合開始剤の単独での反応温度ピークでは、前記熱カチオン重合開始剤が単独では重合を開始させない重合開始剤であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
さらに、板状の充填剤が配合されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
粘度が25Pa・s〜80Pa・sとなるように前記板状の充填剤が配合されていることを特徴とする請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記板状の充填剤がタルクまたはマイカであることを特徴とする請求項4〜7のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
【請求項9】
前記熱カチオン重合開始剤は、当該接着剤組成物を熱硬化するために設定した熱硬化温度に近い温度にて反応性が高いものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
【請求項10】
光学ガラスからなる第1光学部品と、少なくとも外観に金属を含む第2光学部品と、基台とを含む半導体レーザモジュールであって、前記第1光学部品と前記第2光学部品とが請求項1〜9のいずれか一つに記載の接着剤組成物で前記基台に固定されていることを特徴とする半導体レーザモジュール。
【請求項11】
光学ガラスからなる第1光学部品と、少なくとも外観に金属を含む第2光学部品と、基台とを含む半導体レーザモジュールの製造方法であって、
前記第1光学部品および前記第2光学部品を前記基台の所定の位置に配置し、前記第1および第2光学部品と前記基台の間にヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤と芳香族スルホニウム塩を含む熱カチオン重合開始剤とを含みエポキシ樹脂を主剤とする接着剤組成物を導入する工程と、
前記接着剤組成物に前記ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤を反応させるための光を所定時間、照射する工程と、
前記芳香族スルホニウム塩を含む熱カチオン重合開始剤の反応熱ピーク温度近傍で加熱する工程と、
を含むことを特徴とする半導体レーザモジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−95881(P2013−95881A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241625(P2011−241625)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】