説明

接着剤組成物、接着テープ、半導体ウエハの処理方法、及び、TSVウエハの製造方法

【課題】高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、耐熱性にも優れる接着剤組成物、接着テープ、該接着テープを用いた半導体ウエハの処理方法、TSVウエハの製造方法を提供する。
【解決手段】接着剤成分と、特定の3式で表されるテトラゾール化合物若しくはその塩とを含有する接着剤組成物であって、前記テトラゾール化合物は、波長250〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値が100以上であり、かつ、熱天秤を用いて測定した100℃から200℃に加熱したときの重量残存率が80%以上である接着剤組成物。テトラゾール化合物の例:5−フェニル−1H−テトラゾール、4,5ジテトラゾリル−[1,2,3]トリアゾール、1−(p−エトキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール、1−(4−ベンザミド)−5−メルカプトテトラゾール、5−トリルテトラゾール、2−(5−テトラゾイル)アニリン、5−(m−アミノフェニル)テトラゾール

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、かつ、耐熱性にも優れる接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着テープ、並びに、該接着テープを用いた半導体ウエハの処理方法、及び、TSVウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤成分を含有する接着剤組成物は、接着剤、シーリング剤、塗料、コーティング剤等のバインダー剤、粘着テープ又は自立テープ等の粘着剤等に広く用いられている。
これらの接着剤組成物に求められる性能はその用途により様々であるが、用途によっては、必要な間だけ接着性を示すがその後は容易に剥がせることが要求されることがある。
【0003】
例えば、半導体チップの製造工程において、高純度なシリコン単結晶等から切り出した厚膜ウエハを所定の厚さにまで研磨して薄膜ウエハとする工程等において、厚膜ウエハを支持板に接着して補強することにより、効率よく作業を進めることが提案されている。また、所定の厚さに研削された薄膜ウエハを個々の半導体チップにダイシングする際にも、ダイシングテープと呼ばれる粘着テープが用いられる。このような半導体の製造工程に用いる接着剤組成物には、工程中には強固に接着する一方で、工程終了後には得られた薄膜ウエハや半導体チップ等を損傷することなく剥離できること(以下、「高接着易剥離」ともいう。)が求められる。
【0004】
次世代の技術として、複数の半導体チップを積層させてデバイスを飛躍的に高性能化、小型化したTSV(Si貫通ビヤ/Through Si via)を使った3次元積層技術が注目されている。TSVは、半導体実装の高密度化が可能であり、アクセススピードが飛躍的に速く、使用中に発生する熱の放出にも優れる。
このようなTSVの製造では、研削して得た薄膜ウエハをバンピングしたり、裏面にバンプ形成したり、3次元積層時にリフローを行ったりする等の200℃以上の高温処理プロセスを行うことが必要となる。従って、TSVの製造工程に用いる接着剤組成物には、高接着易剥離に加えて、250℃程度の高温化でも接着性を維持できる耐熱性が求められる。
【0005】
高接着易剥離を実現した接着剤組成物として特許文献1には、紫外線等の光を照射することにより硬化して粘着力が低下する光硬化型粘着剤を用いた粘着テープが開示されている。このような粘着テープは、加工工程中には確実に半導体を固定できるとともに、紫外線等を照射することにより容易に剥離することができるとされている。しかしながら特許文献1に記載された粘着テープでは、紫外線等を照射した後の粘着力の低下が不充分であり、薄膜ウエハや半導体チップ等を損傷することなく剥離するのは困難であった。
【0006】
特許文献2には、熱膨張性微小球を含有する粘着層を有する加熱剥離型粘着シートが開示されている。特許文献2の加熱剥離型粘着シートを一定の温度以上に加熱すると、熱膨張性微小球が膨張して粘着層全体が発泡して表面に凹凸が形成され、被着体との接着面積が減少することから、容易に被着体を剥離することができる。しかしながら特許文献2に記載された加熱剥離型粘着シートでは、加熱して熱膨張性微小球が膨張し、粘着剤表面に微細な凹凸が生じる。この形状変化により被着体と面で接着していたものが、膨張過程で被着体より粘着層を引き剥がす応力が発現し剥離が進行するが、微細な凹凸は被着体と点接着となり、接着力が残るため、薄膜ウエハや半導体チップ等を損傷することなく剥離するのは困難であった。また、剥離した被着体の表面に糊残りするという問題もあった。更に、比較的耐熱性の高い熱膨張性微小球を用いた場合でも、せいぜい130℃程度の耐熱性しかなく、TSVの製造工程に用いることは困難であった。
【0007】
特許文献3には、アゾ化合物等の刺激により気体を発生する気体発生剤を含有する粘着層を有する両面粘着テープが記載されている。特許文献3の両面粘着テープに刺激を与えると、気体発生剤から発生した気体がテープの表面と被着体との界面に放出され、その圧力によって被着体の少なくとも一部が剥離される。特許文献3の両面粘着テープを用いれば、薄膜ウエハや半導体チップ等を損傷することなく、かつ、糊残りもすることなく剥離できる。しかしながら、特許文献3の両面粘着テープも耐熱性の点では問題があり、TSVの製造工程に用いることは困難であった。
【0008】
現在のところTSVの製造工程では、カーボンブラックのような光吸収体微粒子粉を含む粘接着剤を用いて接着を行い、レーザー誘導熱を利用して粘接着剤の分解・分離を行っている(非特許文献1)。しかしながら、非特許文献1の技術を用いるには、レーザー照射装置が必要となるという設備的な問題があることに加え、レーザー照射による粘接着剤の分解によって微粒子粉が飛散し、製造環境のクリーン度を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−32946号公報
【特許文献2】特開平11−166164号公報
【特許文献3】特開2003−231872号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「接着の技術」、Vol.28、No.1(2008)、通巻90号、P.28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、かつ、耐熱性にも優れる接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着テープ、並びに、該接着テープを用いた半導体ウエハの処理方法、及び、TSVウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、接着剤成分と、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるテトラゾール化合物若しくはその塩とを含有する接着剤組成物であって、前記テトラゾール化合物は、波長250〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値が100以上であり、かつ、熱天秤を用いて測定した100℃から200℃に加熱したときの重量残存率が80%以上である接着剤組成物である。
本発明は、また、接着剤成分と、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるテトラゾール化合物若しくはその塩とを含有する接着剤組成物であって、前記テトラゾール化合物は、波長270〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値が100以上であり、かつ、熱天秤を用いて測定した100℃から200℃に加熱したときの重量残存率が80%以上である接着剤組成物である。
【0013】
【化1】

【0014】
式(1)〜(3)中、R、Rは、水素、水酸基、アミノ基、炭素数が1〜7のアルキル基、アルキレン基、フェニル基、又は、メルカプト基を表す。上記炭素数が1〜7のアルキル基、アルキレン基、フェニル基、又は、メルカプト基は、置換されていてもよい。
以下に本発明を詳述する。
【0015】
本発明者らは、上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩は、光を照射することにより気体(窒素ガス)を発生する一方、200℃程度の高温化でも分解しない高い耐熱性を有することを見出した。そして、これらの化合物と接着剤成分とを併用した接着剤組成物は、高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、かつ、TSVの製造工程に用いることが可能な程度に耐熱性にも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
本発明の接着剤組成物は、接着剤成分を含有する。
上記接着剤成分は特に限定されず、非硬化型の接着剤、硬化型の接着剤のいずれを含有するものであってもよい。
上記接着剤成分が非硬化型の接着剤を含有する場合には、本発明の接着剤組成物に光を照射することにより特許文献2に記載された態様の剥離機構で剥離が生じる。即ち、光を照射することにより上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩から気体が発生し、発生した気体により柔らかい接着剤成分の全体が発泡して表面に凹凸が形成されることにより剥離応力が発生し、また被着体との接着面積が減少して剥離する。
【0017】
上記接着剤成分が硬化型の接着剤を含有する場合には、本発明の接着剤組成物に光を照射することにより特許文献3に記載された態様の剥離機構で剥離が生じる。即ち、光を照射することにより上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩から気体が発生し、発生した気体は硬化した接着剤成分から被着体との界面へと放出され、その圧力によって被着体の少なくとも一部が剥離する。
なかでも、糊残りを生ずることなく確実な剥離を行うことができることから、刺激により弾性率が上昇する硬化型の接着剤を含有することが好ましい。
【0018】
上記非硬化型の接着剤は特に限定されず、例えば、ゴム系接着剤、アクリル系接着剤、ビニルアルキルエーテル系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ウレタン系接着剤、スチレン・ジエンブロック共重合体系接着剤等が挙げられる。
【0019】
上記硬化型の接着剤は特に限定されないが、例えば、重合性ポリマーを主成分として、光重合開始剤や熱重合開始剤を含有する光硬化型接着剤や熱硬化型接着剤が挙げられる。
このような光硬化型接着剤や熱硬化型接着剤は、光の照射又は加熱により接着剤の全体が均一にかつ速やかに重合架橋して一体化するため、重合硬化による弾性率の上昇が著しくなり、接着力が大きく低下する。また、弾性率の上昇した硬い硬化物中で上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩から気体を発生させると、発生した気体の大半は外部に放出され、放出された気体は、被着体から粘着剤の接着面の少なくとも一部を剥がし接着力を低下させる。
【0020】
上記重合性ポリマーは、例えば、分子内に官能基を持った(メタ)アクリル系ポリマー(以下、官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーという)をあらかじめ合成し、分子内に上記の官能基と反応する官能基とラジカル重合性の不飽和結合とを有する化合物(以下、官能基含有不飽和化合物という)と反応させることにより得ることができる。
【0021】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、常温で粘着性を有するポリマーとして、一般の(メタ)アクリル系ポリマーの場合と同様に、アルキル基の炭素数が通常2〜18の範囲にあるアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主モノマーとし、これと官能基含有モノマーと、更に必要に応じてこれらと共重合可能な他の改質用モノマーとを常法により共重合させることにより得られるものである。上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は通常20万〜200万程度である。
【0022】
上記官能基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーや、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマーや、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマーや、アクリル酸イソシアネートエチル、メタクリル酸イソシアネートエチル等のイソシアネート基含有モノマーや、アクリル酸アミノエチル、メタクリル酸アミノエチル等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。
【0023】
上記共重合可能な他の改質用モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等の一般の(メタ)アクリル系ポリマーに用いられている各種のモノマーが挙げられる。
【0024】
上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーに反応させる官能基含有不飽和化合物としては、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基に応じて上述した官能基含有モノマーと同様のものを使用できる。例えば、上記官能基含有(メタ)アクリル系ポリマーの官能基がカルボキシル基の場合はエポキシ基含有モノマーやイソシアネート基含有モノマーが用いられ、同官能基がヒドロキシル基の場合はイソシアネート基含有モノマーが用いられ、同官能基がエポキシ基の場合はカルボキシル基含有モノマーやアクリルアミド等のアミド基含有モノマーが用いられ、同官能基がアミノ基の場合はエポキシ基含有モノマーが用いられる。
【0025】
上記光重合開始剤は、例えば、250〜800nmの波長の光を照射することにより活性化されるものが挙げられ、このような光重合開始剤としては、例えば、メトキシアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体化合物や、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物や、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジエチルケタール等のケタール誘導体化合物や、フォスフィンオキシド誘導体化合物や、ビス(η5−シクロペンタジエニル)チタノセン誘導体化合物、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、トデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記熱重合開始剤としては、熱により分解し、重合硬化を開始する活性ラジカルを発生するものが挙げられ、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエール、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
ただし、本発明の接着剤組成物が高い耐熱性を発揮するためには、上記熱重合開始剤は、熱分解温度が200℃以上である熱重合開始剤を用いることが好ましい。このような熱分解温度が高い熱重合開始剤は、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
これらの熱重合開始剤のうち市販されているものとしては特に限定されないが、例えば、パーブチルD、パーブチルH、パーブチルP、パーペンタH(以上いずれも日油社製)等が好適である。これら熱重合開始剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記光硬化型接着剤や熱硬化型接着剤は、更に、ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーを含有することが好ましい。ラジカル重合性の多官能オリゴマー又はモノマーを含有することにより、光硬化性、熱硬化性が向上する。
上記多官能オリゴマー又はモノマーは、分子量が1万以下であるものが好ましく、より好ましくは加熱又は光の照射による粘着剤層の三次元網状化が効率よくなされるように、その分子量が5000以下でかつ分子内のラジカル重合性の不飽和結合の数が2〜20個のものである。
【0028】
上記多官能オリゴマー又はモノマーは、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート又は上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。その他、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレート、上記同様のメタクリレート類等が挙げられる。これらの多官能オリゴマー又はモノマーは、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
本発明の接着剤組成物は、上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物を含有する。上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物は、光を照射することにより気体(窒素ガス)を発生する一方、200℃程度の高温化でも分解しない高い耐熱性を有する。
上記一般式(1)〜(3)中、R、Rは、水素、水酸基、アミノ基、又は炭素数が1〜7のアルキル基、アルケン基、フェニル基、メルカプト基を表す。上記炭素数が1〜7のアルキル基、アルケン基、フェニル基、又は、メルカプト基は、置換されていてもよい。上記アルキル基等が置換されたものである場合、該置換基は、例えば、アミノ基、アルキル基、アルケン基、フェニル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0030】
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物のなかでも、波長250〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値(以下、「εmax(250−400)」ともいう。)が100以上であり、かつ、熱天秤を用いて測定した100℃から200℃に加熱したときの重量残存率(以下、単に「重量残存率」ともいう。)が80%以上であるテトラゾール化合物は、極めて耐熱性に優れるうえ、紫外線や白色光等の比較的出力の小さい光源を用いて光を照射した場合でも容易に気体(窒素ガス)を発生させることができることから好ましい。更に、波長270〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値(以下、「εmax(270−400)」ともいう。)が100以上であるテトラゾール化合物がより好ましい。
【0031】
本明細書において、モル吸光係数とは、10mgのテトラゾール化合物を秤量し、5mLのメチルアルコールと5mLの1規定水酸化ナトリウム水溶液との混合溶媒に溶解し、分光光度計(例えば、日立製作所製U−3000)を用いて下記式に従い200〜600nmの波長域の吸収スペクトルを測定し、得られた吸収スペクトルにおける吸光度を用いて、下記式により計算して得た値を意味する。
ε=A/c×d
(式中εはモル吸光係数を表し、Aは吸光度を表し、cはモル濃度を表し、dはセル厚みを表す。)
なお、本明細書において、波長250〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値が100以上であるとは、波長250nm〜400nmの間のいずれかの波長におけるモル吸光係数の値が100以上であればよく、波長250nm〜400nmの間にモル吸光係数のピークが存在する必要はない。
【0032】
上記重量残存率は、例えば、熱天秤(例えば、SII社製TG/DTA6200)のアルミパンに5〜10mgのテトラゾール化合物を秤量し、空気雰囲気中(流量200mL/分)、昇温速度5℃/分の条件で常温(30℃)から400℃まで昇温したときの重量減少率を測定することにより得ることができる。
なお、ここで「100℃から」としたのは、テトラゾール化合物に吸着した水の影響を排除するためである。
【0033】
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物の塩も、上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物に由来する骨格を有することから、光が照射されると容易に窒素ガスを発生させることができる。
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物の塩は特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物が塩の状態で存在する場合、その塩は、以下の一般式(1’)〜(3’)で表される。
【0034】
【化2】

【0035】
上記一般式(1’)〜(3’)で表されるテトラゾール化合物の塩は、上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物と塩基性化合物とを容器中で混合するだけで、複雑な合成経路を経ることなく簡単に調製することができる。
上記塩基性化合物は特に限定されないが、例えば、アミン、ヒドラジン化合物、水酸化四級アンモニウム塩、ホスフィン化合物等が挙げられる。
上記アミンは特に限定されず、一級アミン、二級アミン及び三級アミンのいずれをも用いることができる。
なかでも上記塩基性化合物は、モノアルキルアミン又はジアルキルアミンが好適である。モノアルキルアミン又はジアルキルアミンを用いた場合には、得られる上記一般式(1’)〜(3’)で表されるテトラゾール化合物の塩の極性を低極性化でき、接着剤成分との溶解性を高めることできる。より好ましくは、炭素数6〜12のモノアルキルアミン又はジアルキルアミンである。
【0036】
上記接着剤成分として刺激により弾性率が上昇する硬化型の接着剤を含有する場合、上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩は、接着剤成分に溶解していることが好ましい。上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩が接着剤に溶解することにより、これらの化合物自身が発泡の核となることがなく、発生した気体のほぼ全てが接着剤成分から被着体との界面へと放出されることから、より確実な剥離を行うことができる。従って、より溶解性の高い、上記一般式(1’)〜(3’)で表されるテトラゾール化合物の塩が好適である。
【0037】
上記一般式(1)で表されるテトラゾール化合物又はその塩は特に限定されないが、具体的には例えば、1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、1−メチル−5−メルカプトテトラゾール、1−メチル−5−エチル−テトラゾール、1−(ジメチルアミノエチル)−5−メルカプトテトラゾール、1H−5ヒドロキシ−テトラゾール、1−メチル−5−エチルテトラゾール、1−プロピル−5−メチル−テトラゾール、1−フェニル−5−ヒドロキシテトラゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール、1−(p−エトキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール、1−(4−ベンズアミド)−5−メルカプトテトラゾール、5−トリルテトラゾール、5−フェニルテトラゾール、5−アミノテトラゾール1水和物、5−(m−アミノフェニル)テトラゾール、5−アセタミドテトラゾール、N−(1H−テトラゾール−5−イル)−n−オクタンアミド、1ーシクロヘキシル−5−クロロブチルテトラゾール、1−(m−アセトアミノフェニル)−5−メルカプトテトラゾール、1−メチル−5−メルカプトテトラゾール、1−(4−カルボキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール、1−メチル−5−エチルテトラゾール、5アミノメチル−1−Hテトラゾール、4,5ジ(−テトラゾリル)−[1,2,3]トリアゾール等が挙げられる。
【0038】
上記一般式(2)で表されるテトラゾール化合物又はその塩は特に限定されないが、具体的には例えば、5,5’−ビステトラゾールジアンモニウム塩、5,5’−ビステトラゾールジナトリウム塩、5,5’−ビステトラゾールジピペラジウム塩等が挙げられる。
【0039】
上記一般式(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩は特に限定されないが、具体的には例えば、5,5−アゾビス−1H−テトラゾール、5,5−アゾビス−1H−テトラゾールとグアニジンとの化合物、5,5−1H−アゾビステトラゾールとメチルグアニジンとの化合物等が挙げられる。
【0040】
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩のなかでも、εmax(250−400)が100以上、εmax(270−400)が100以上であり、かつ、重量残存率が80%以上であるテトラゾール化合物は、例えば、5−フェニル−1H−テトラゾール(下記式(4)の化合物、εmax(250−400)が401、εmax(270−400)が401、重量残存率が98%)、4,5ジテトラゾリル−[1,2,3]トリアゾール(下記式(5)の化合物、εmax(250−400)が629、εmax(270−400)が605、重量残存率が85%)、1−(p−エトキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール(下記式(6)の化合物、εmax(250−400)が718、εmax(270−400)が718、重量残存率が83%)、1−(4−ベンザミド)−5−メルカプトテトラゾール(下記式(7)の化合物、εmax(250−400)が713、εmax(270−400)が713、重量残存率が82%)、5−トリルテトラゾール(下記式(8)の化合物、εmax(250−400)が368、εmax(270−400)が368、重量残存率が99%)、2−(5−テトラゾイル)アニリン(下記式(9)の化合物、εmax(250−400)が372、εmax(270−400)が372、重量残存率が99%)、5−(m−アミノフェニル)テトラゾール(下記式(10)の化合物、εmax(250−400)が301、εmax(270−400)が301、重量残存率が100%)、5−アセタミドテトラゾール(下記式(11)の化合物、εmax(250−400)が262、εmax(270−400)が258、重量残存率が100%)、N−(1Hテトラゾール−5−イル)−n−オクタンアミド(下記式(12)の化合物、εmax(250−400)が562、εmax(270−400)が428、重量残存率が98%)、1−シクロヘキシル−5−クロロブチルテトラゾール(下記式(13)の化合物、εmax(250−400)が304、εmax(270−400)が262、重量残存率が82%)等が挙げられる。
【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩のなかでも、εmax(270−400)は100未満であるが、εmax(250−400)が100以上、かつ、重量残存率が80%以上であるテトラゾール化合物は、例えば、ビステトラゾールピペラジン塩(下記式(14)の化合物、εmax(250−400)が606、重量残存率が98%)、ビステトラゾールアンモニウム塩(下記式(15)の化合物、εmax(250−400)が473、重量残存率が99%)、ビステトラゾールジナトリウム塩(下記式(16)の化合物、εmax(250−400)が320、重量残存率が100%)、ビステトラゾールモノハイドレート(下記式(17)の化合物、εmax(250−400)が402、重量残存率が98%)、ビステトラゾールモノアンモニウム(下記式(18)の化合物、εmax(250−400)が506、重量残存率が97%)、5−アミノテトラゾールモノハイドレート(下記式(19)の化合物、εmax(250−400)が299、重量残存率が83%)、5−アミノメチル−1H−テトラゾール(下記式(20)の化合物、εmax(250−400)が282、重量残存率が82%)等が挙げられる。
【0044】
【化5】

【0045】
更に、例えば、1−メチル−5−メルカプトテトラゾール(下記式(21)の化合物、εmax(250−400)が364、εmax(270−400)が364、重量残存率が80%)、5,5−アゾビス−1H−テトラゾールとジグアニジン塩(ABG、下記式(22)の化合物、εmax(250−400)が938、εmax(270−400)が938、重量残存率が55%)、1−(m−アセトアミノフェニル)−5−メルカプトテトラゾール(下記式(23)の化合物、εmax(250−400)が276、εmax(270−400)が756、重量残存率が47%)、1−(4−ヒドロキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール(下記式(24)の化合物、εmax(250−400)が576、εmax(270−400)が576、重量残存率が44%)、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール(下記式(25)の化合物、εmax(250−400)が574、εmax(270−400)が574、重量残存率が47%)、1−メチル−5−メルカプトテトラゾール(下記式(26)の化合物、εmax(250−400)が363、εmax(270−400)が364、重量残存率が77%)、1−(4−カルボキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール(下記式(27)の化合物、εmax(250−400)が726、εmax(270−400)が726、重量残存率が40%)、5−メチルテトラゾール(下記式(28)の化合物、εmax(250−400)が100未満、εmax(270−400)が100未満、重量残存率が82%)、5,5−1H−アゾビステトラゾールとメチルグアニジン塩(ABAG、下記式(29)の化合物、εmax(250−400)が1032、εmax(270−400)が1032、重量残存率が40%)、1−メチル−5−エチルテトラゾール(下記式(30)の化合物、εmax(250−400)が100未満、εmax(270−400)が100未満、重量残存率が60%)、5−アミノメチル−1H−テトラゾール(下記式(31)の化合物、εmax(250−400)が100未満、εmax(270−400)が100未満、重量残存率が100%)等のテトラゾール化合物も用いることができる。
【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩の含有量は、上記接着剤成分100重量部に対する好ましい下限が5重量部、好ましい上限が50重量部である。上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩の含有量が5重量部未満であると、光照射による窒素ガスの発生が少なくなり充分な剥離を行うことができないことがあり、50重量部を超えると、接着剤成分へ溶けきれなくなり接着力が低下してしまうことがある。上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩の含有量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【0049】
本発明の接着剤組成物は、光増感剤を含有してもよい。
上記光増感剤は、上記一般式(1)〜(3)で表されるテトラゾール化合物又はその塩への光による刺激を増幅する効果を有することから、より少ない光の照射により気体を放出させることができる。また、より広い波長領域の光により気体を放出させることができる。
【0050】
上記光増感剤は、耐熱性に優れるものであれば特に限定されない。
耐熱性に優れた光増感剤は、例えば、アルコキシ基を少なくとも1つ以上有する多環芳香族化合物が挙げられる。なかでも、一部がグリシジル基又は水酸基で置換されたアルコキシ基を有する置換アルコキシ多環芳香族化合物が好適である。これらの光増感剤は、耐昇華性が高く、高温下で使用することができる。また、アルコキシ基の一部がグリシジル基や水酸基で置換されることにより、上記接着剤成分への溶解性が高まり、ブリードアウトを防止することができる。
【0051】
上記多環芳香族化合物は、アントラセン誘導体が好ましい。上記アルコキシ基は、炭素数1〜18のものが好ましく、炭素数1〜8のものがより好ましい。
【0052】
上記アルコキシ基を少なくとも1つ以上有する多環芳香族化合物は、例えば、9,10−ジメトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジメトキシアントラセン、9−メトキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジエトキシアントラセン、9−エトキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、9−イソプロポキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジベンジルオキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジベンジルオキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジベンジルオキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジベンジルオキシアントラセン、9−ベンジルオキシ−10−メチルアントラセン、9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、2−tブチル−9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ−α−メチルベンジルオキシアントラセン、9−(α−メチルベンジルオキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(2−カルボキシエトキシ)アントラセン等のアントラセン誘導体等が挙げられる。
【0053】
上記一部がグリシジル基又は水酸基で置換されたアルコキシ基を有する置換アルコキシ多環芳香族化合物は、例えば、9,10−ジ(グリシジルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(グリシジルオキシ)アントラセン、2−tブチル−9,10−ジ(グリシジルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ(グリシジルオキシ)アントラセン、9−(グリシジルオキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(2−ビニルオキシエトキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(2−ビニルオキシエトキシ)アントラセン、2−tブチル−9,10−ジ(2−ビニルオキシエトキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ(2−ビニルオキシエトキシ)アントラセン、9−(2−ビニルオキシエトキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(3−メチル−3−オキセタニルメトキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(3−メチル−3−オキセタニルメメトキシ)アントラセン、2−tブチル−9,10−ジ(3−メチル−3−オキセタニルメメトキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ(3−メチル−3−オキセタニルメメトキシ)アントラセン、9−(3−メチル−3−オキセタニルメメトキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(p−エポキシフェニルメトキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(p−エポキシフェニルメトキシ)アントラセン、2−tブチル−9,10−ジ(p−エポキシフェニルメトキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ(p−エポキシフェニルメトキシ)アントラセン、9−(p−エポキシフェニルメトキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(p−ビニルフェニルメトキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ジ(p−ビニルフェニルメトキシ)アントラセン、2−tブチル−9,1−ジ(p−ビニルフェニルメトキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ジ(p−ビニルフェニルメトキシ)アントラセン、9−(p−ビニルフェニルメトキシ)−10−メチルアントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシブトキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシ−3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシ−3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロポキシ)アントラセン、9,10−ジ(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0054】
上記光増感剤の含有量は、上記接着剤成分100重量部に対する好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が10重量部である。上記光増感剤の含有量が0.05重量部未満であると、充分な増感効果が得られないことがあり、10重量部を超えると、光増感剤に由来する残存物が増え、充分な剥離を行えなくなることがある。上記光増感剤の含有量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0055】
本発明の接着剤組成物は、粘着剤としての凝集力の調節を図る目的で、所望によりイソシアネート化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物等の一般の粘着剤に配合される各種の多官能性化合物を適宜含有してもよい。
本発明の接着剤組成物は、可塑剤、樹脂、界面活性剤、ワックス、微粒子充填剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0056】
本発明の接着剤組成物は、高い接着力を有する一方、光照射や加熱を行うことにより容易に剥離することができる。また、耐熱性にも優れることから、TSVの製造工程においてウエハを支持板に固定する等の、200℃以上の高温処理を行う用途にも用いることができる。
【0057】
本発明の接着剤組成物は、様々な接着性製品に用いることができる。
上記接着性製品としては、例えば、本発明の接着剤組成物をバインダー樹脂として用いた接着剤、粘着剤、塗料、コーティング剤、シーリング剤等、又は、本発明の接着剤組成物を粘着剤として用いた片面粘着テープ、両面粘着テープ、ノンサポートテープ(自立テープ)等の粘着テープ等が挙げられる。
【0058】
基材の一方の面に、本発明の接着剤組成物からなる接着層を有する接着テープもまた、本発明の1つである。
基材の両面に、本発明の接着剤組成物からなる接着層を有する接着テープもまた、本発明の1つである。
本発明の接着テープは、例えば、半導体ウエハを加工する際のバックグラインドテープ、ダイシングテープや、極薄ガラス基板等の脆弱部材、プラスチックスフィルム、コアレスFPC基板等の反り易い部材の支持用テープ等に好適に用いることができる。
上記基材は、例えば、アクリル、オレフィン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ABS、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ナイロン、ウレタン、ポリイミド等の透明な樹脂からなるシート、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシート等が挙げられる。
【0059】
本発明の接着テープは、例えば、半導体ウエハに薬液処理、加熱処理、又は、発熱を伴う処理を施す際に、半導体ウエハを保護する目的で支持板を貼り合わせる際に用いることができる。これらの処理を終えた後には、光を照射することにより容易に半導体ウエハから支持板を剥離することができる。
本発明の接着テープを用いて半導体ウエハと支持板とを貼り合わせる工程と、支持板に貼り合わせた状態で上記半導体ウエハに薬液処理、加熱処理、又は、発熱を伴う処理を施す工程と、上記処理後に、上記接着テープに光を照射して接着層中のテトラゾール化合物から気体を発生させる工程と、上記半導体ウエハから上記支持板と接着テープとを剥離する工程とを有する半導体ウエハの処理方法もまた、本発明の1つである。
【0060】
本発明の接着テープは、例えば、半導体ウエハに電極を有する貫通孔を形成させる際に、半導体ウエハを保護する目的で支持板を貼り合わせる際に用いることができる。これらの処理を終えた後には、光を照射することにより容易に半導体ウエハから支持板を剥離することができる。
本発明の接着テープを用いて溝部を有する半導体ウエハと支持板とを貼り合わせる工程と、上記半導体ウエハの上記支持板に接着した側とは反対の面を研削して、溝部を貫通させて貫通孔を形成する工程と、上記半導体ウエハの貫通孔の周辺に電極部を作製する工程と、上記電極部作製後に、上記接着テープに光を照射して接着層中のテトラゾール化合物から気体を発生させる工程と、上記半導体ウエハから上記支持板と接着テープとを剥離する工程とを有するTSVウエハの製造方法もまた、本発明の1つである。
【発明の効果】
【0061】
本発明によれば、高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、かつ、耐熱性にも優れる接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着テープ、並びに、該接着テープを用いた半導体ウエハの処理方法、及び、TSVウエハの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2−エチルヘキシルアクリレート94重量部、アクリル酸1重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5重量部、ラウリルメルカプカプタン0.01重量部と、酢酸エチル180重量部を加えた後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt−ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、固形分55重量%、重量平均分子量60万のアクリル共重合体を得た。
得られたアクリル共重合体を含む酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、2−イソシアナトエチルメタクリレート3.5重量部を加えて反応させ、更に、反応後の酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、光重合開始剤(エサキュアワン、日本シイベルヘグナー社製)0.1重量部、ポリイソシアネート系架橋剤(コロネートL45、日本ポリウレタン社製)2.5重量部を混合し接着剤(1)の酢酸エチル溶液を調製した。
【0064】
接着剤(1)の酢酸エチル溶液の樹脂固形分100重量部に対して、5−フェニル−1H−テトラゾール20重量部、光増感剤として9,10−ジグリシジルオキシアントラセン1重量部を混合して、接着剤組成物を得た。
【0065】
得られた接着剤組成物を、両面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルムの片面上に、乾燥皮膜の厚さが30μmとなるようにドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。次いで、ポリエチレンナフタレートの他方の面上に、乾燥皮膜の厚さが30μmとなるように接着剤組成物をドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。その後、40℃、3日間静置養生を行い、両面に接着剤層を有する接着テープを得た。
【0066】
(実施例2〜28)
5−フェニル−1H−テトラゾールの代わりに、表1、2に記載されたテトラゾール化合物を用いた以外は実施例1と同様にして接着剤組成物及び接着テープを得た。
【0067】
(比較例1)
5−フェニル−1H−テトラゾールを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物及び接着テープを得た。
【0068】
(比較例2)
5−フェニル−1H−テトラゾール20重量部の代わりに、2,2’−アゾビス−(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)20重量部、9,10−ジグリシジルオキシアントラセン1重量部の代わりにジエチルチオキサントン3重量部を配合した以外は、実施例1と同様にして接着剤組成物及び接着テープを得た。
【0069】
(比較例3)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器を用意し、この反応器内に、2−エチルヘキシルアクリレート94重量部、アクリル酸1重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート5重量部、ラウリルメルカプカプタン0.01重量部と、酢酸エチル180重量部を加えた後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤として1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.01重量部を添加し、還流下で重合を開始させた。次に、重合開始から1時間後及び2時間後にも、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンを0.01重量部ずつ添加し、更に、重合開始から4時間後にt−ヘキシルパーオキシピバレートを0.05重量部添加して重合反応を継続させた。そして、重合開始から8時間後に、固形分55重量%、重量平均分子量60万のアクリル共重合体を得た。
得られたアクリル系粘着剤100重量部(固形分)に対して、マイクロスフェアF−50D(松本油脂社製)50重量部を混合して接着剤組成物を得た。
【0070】
得られた接着剤組成物を、両面にコロナ処理を施した厚さ50μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルムの片面上に、乾燥皮膜の厚さが30μmとなるようにドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。次いで、ポリエチレンナフタレートの他方の面上に、乾燥皮膜の厚さが30μmとなるように接着剤組成物をドクターナイフで塗工し、110℃、5分間加熱して塗工溶液を乾燥させた。その後、40℃、3日間静置養生を行い、両面に接着剤層を有する接着テープを得た。
【0071】
(評価)
実施例及び比較例で用いたテトラゾール化合物、及び、実施例及び比較例で得られた接着テープについて、以下の方法により評価を行った。
結果を表1、2に示した。
【0072】
(1)テトラゾール化合物のモル吸光係数の測定
10mgのテトラゾール化合物を秤量し、5mLのメチルアルコールと5mLの1規定水酸化ナトリウム水溶液との混合溶媒に溶解し、得られた溶液について日立製作所製U−3000を用いて吸収スペクトルを測定した。得られた吸収スペクトルにおける吸光度を用いて、下記式に従いモル吸光係数を求めた。
ε=A/c×d
(式中εはモル吸光係数を表し、Aは吸光度、cはモル濃度を表し、dはセル厚みを表す。)
波長250〜400nmの範囲内において、モル吸光係数が100以上となる波長域、モル吸光係数が最大値、及び、モル吸光係数が最大値となる波長を求めた。
【0073】
(2)テトラゾール化合物の重量残存率の測定
熱天秤(SII社製、TG/DTA6200)のアルミパンに5〜10mgのテトラゾール化合物を秤量し、空気雰囲気中(流量200mL/分)、昇温速度5℃/分の条件で常温(30℃)から400℃まで昇温したときの重量残存率を測定した。
【0074】
(3)接着テープの熱処理前の接着性評価、剥離性評価
直径20cmの円形に切断した接着テープを、直径20cm、厚さ約750μmのシリコンウエハに貼り付けた。シリコンウエハに貼り付けた面と反対の面に、直径20cm、厚さ1mmのガラス板を貼りつけた。
接着性評価として、ガラスが上面になるようにシリコンウエハを吸着台に設置した後、ガラス端部を吸盤で引っ張り、全くガラスが剥離できなかった場合を「○」と、比較的軽く剥離できた場合を「△」と、ほとんど抵抗なく剥離できた場合を「×」と評価した。
【0075】
次いで、ガラス板側から超高圧水銀灯を用いて、紫外線をガラス板表面への照射強度が365nm換算で400mW/cmとなるよう照度を調節して2分間照射した。光照射後の剥離性評価として、ガラスが上面になるようにシリコンウエハを吸着台に設置した後、ガラス端部を吸盤で引っ張り、全く抵抗なく剥離できた場合を「○」、抵抗はあったものの剥離できた場合を「△」、全く剥離できなかった場合を「×」と評価した。
【0076】
(4)接着テープの熱処理後の接着性評価、剥離性評価
直径20cmの円形に切断した接着テープを、直径20cm、厚さ約750μmのシリコンウエハに貼り付けた。シリコンウエハに貼り付けた面と反対の面に、直径20cm、厚さ1mmのガラス板を貼りつけた。この積層体を、200℃、1時間加熱した後、室温に戻した。
接着性評価として、加熱後の表面を目視にて観察し、ガラスが上面になるようにシリコンウエハを吸着台に設置した後、ガラス端部を吸盤で引っ張った時に、全面に渡って浮きがみとめられず、かつ、引っ張っても全く剥離できなかった場合を「◎」、浮きが全体の面積の3%以下であり、かつ、引っ張っても剥離できなかった場合を「○」、浮きが全体の面積の3%以上、10%以下であるが、引っ張っても剥離できなかった場合を「△」、容易に剥離できた場合を「×」と評価した。
【0077】
次いで、ガラス板側から超高圧水銀灯を用いて、紫外線をガラス板表面への照射強度が365nm換算で400mW/cmとなるよう照度を調節して2分間照射した。光照射後の剥離性評価として、ガラスが上面になるようにシリコンウエハを吸着台に設置した後、ガラス端部を吸盤で引っ張った時に、ウエハと接着剤層との界面から剥離しウエハに接着剤の残渣が全く認められなかった場合を「◎」、ウエハと接着剤層との界面から剥離したが、ウエハ側に僅かな汚れが認められた(ただし、汚れは洗浄で取れた)場合を「○」、剥離はできたものの、ウエハ側に汚れが認められた(ただし、汚れは洗浄で取れた)場合を「△」、全く剥離できなかった場合を「×」と評価した。
同様の評価を、200℃、4時間の熱処理を行った場合についても行った。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、高い接着力を有する一方で容易に剥離でき、かつ、耐熱性にも優れる接着剤組成物、該接着剤組成物を用いた接着テープ、並びに、該接着テープを用いた半導体ウエハの処理方法、及び、TSVウエハの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤成分と、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるテトラゾール化合物若しくはその塩とを含有する接着剤組成物であって、
前記テトラゾール化合物は、波長250〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値が100以上であり、かつ、熱天秤を用いて測定した100℃から200℃に加熱したときの重量残存率が80%以上である
ことを特徴とする接着剤組成物。
【化1】

式(1)〜(3)中、R、Rは、水素、水酸基、アミノ基、炭素数が1〜7のアルキル基、アルキレン基、フェニル基、又は、メルカプト基を表す。前記炭素数が1〜7のアルキル基、アルキレン基、フェニル基、又は、メルカプト基は、置換されていてもよい。
【請求項2】
接着剤成分と、下記一般式(1)、一般式(2)又は一般式(3)で表されるテトラゾール化合物若しくはその塩とを含有する接着剤組成物であって、
前記テトラゾール化合物は、波長270〜400nmにおけるモル吸光係数の最大値が100以上であり、かつ、熱天秤を用いて測定した100℃から200℃に加熱したときの重量残存率が80%以上である
ことを特徴とする接着剤組成物。
【化2】

式(1)〜(3)中、R、Rは、水素、水酸基、アミノ基、炭素数が1〜7のアルキル基、アルキレン基、フェニル基、又は、メルカプト基を表す。前記炭素数が1〜7のアルキル基、アルキレン基、フェニル基、又は、メルカプト基は、置換されていてもよい。
【請求項3】
接着剤成分は、刺激により弾性率が上昇する硬化型の接着剤を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
光増感剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の接着剤組成物。
【請求項5】
光増感剤は、アルコキシ基を少なくとも1つ以上有する多環芳香族化合物であることを特徴とする請求項4記載の接着剤組成物。
【請求項6】
光増感剤は、一部がグリシジル基又は水酸基で置換されたアルコキシ基を有する置換アルコキシ多環芳香族化合物であることを特徴とする請求項4記載の接着剤組成物。
【請求項7】
基材の一方の面に、請求項1、2、3、4、5又は6記載の接着剤組成物からなる接着層を有することを特徴とする接着テープ。
【請求項8】
基材の両面に、請求項1、2、3、4、5又は6記載の接着剤組成物からなる接着層を有することを特徴とする接着テープ。
【請求項9】
請求項8記載の接着テープを用いて半導体ウエハと支持板とを貼り合わせる工程と、
支持板に貼り合わせた状態で前記半導体ウエハに薬液処理、加熱処理、又は、発熱を伴う処理を施す工程と、
前記処理後に、前記接着テープに光を照射して接着層中のテトラゾール化合物から気体を発生させる工程と、
前記半導体ウエハから前記支持板と接着テープとを剥離する工程とを有する
ことを特徴とする半導体ウエハの処理方法。
【請求項10】
請求項8記載の接着テープを用いて溝部を有する半導体ウエハと支持板とを貼り合わせる工程と、
前記半導体ウエハの前記支持板に接着した側とは反対の面を研削して、溝部を貫通させて貫通孔を形成する工程と、
前記半導体ウエハの貫通孔の周辺に電極部を作製する工程と、
前記電極部作製後に、前記接着テープに光を照射して接着層中のテトラゾール化合物から気体を発生させる工程と、
前記半導体ウエハから前記支持板と接着テープとを剥離する工程とを有する
ことを特徴とするTSVウエハの製造方法。




【公開番号】特開2012−255154(P2012−255154A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148799(P2012−148799)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【分割の表示】特願2011−250977(P2011−250977)の分割
【原出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】