説明

接着剤組成物およびそれを用いたフレキシブル印刷配線板

【課題】加工性や柔軟性に優れるとともに、耐熱性および接着力を向上させることができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】下記の(A)〜(C)を必須成分とする接着剤組成物である。
(A)下記の(a)〜(c)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂。
(a)芳香族イソシアネート化合物。
(b)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(c)カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミド。
(B)下記(C)成分のエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型ポリアミド樹脂。
(C)分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物およびそれを用いたフレキシブル印刷配線板に関するものであり、詳しくは、フレキシブル印刷配線板の絶縁フィルムと、金属箔とを貼り合わせるための接着剤組成物およびそれを用いたフレキシブル印刷配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フレキシブル印刷配線板(フレキシブルプリント配線板)は、ポリイミドフィルム等の耐熱性フィルムからなる絶縁フィルムと、銅箔等の金属箔とを接着剤を用いて貼り合わせた構造を基本とするものであり、この接着剤としては、従来より、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等の熱硬化型の接着剤が用いられている。しかし、上記エポキシ樹脂等の熱硬化型の接着剤は、絶縁フィルム(ポリイミドフィルム等)に比べて、熱的特性が著しく劣るため、半田工程で接着剤層の膨れが生じる等の難点がある。
【0003】
このような問題を解決するため、従来のエポキシ樹脂等の熱硬化型の接着剤に代えて、比較的低分子量のポリアミドイミド樹脂やビスマレイミド樹脂等の耐熱性樹脂を接着剤として用いることが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記ポリアミドイミド樹脂等の耐熱性樹脂を用いてなる接着剤層は、柔軟性に乏しく、破断伸びが小さいため、折り曲げ使用する際に割れが生じるとともに、接着性が不充分である等の難点がある。また、上記ポリアミドイミド樹脂等の耐熱性樹脂を接着剤として使用する場合、絶縁フィルムと、金属箔とを、高温、高圧で貼り合わせる等の厳しい加工条件が必要となるため、加工性が劣るという難点もある。
【0005】
そこで、ポリアミドイミド樹脂に柔軟性を付与する手法として、ポリアミドイミド樹脂に、カルボン酸両末端ブタジエン−アクリロニトリルゴムを共重合させる手法や、ポリアミドイミド樹脂に、シロキサン化合物を共重合させる手法等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−131525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のように、ポリアミドイミド樹脂に、カルボン酸両末端ブタジエン−アクリロニトリルゴムを共重合させる場合、柔軟性は多少改善されるが、その効果が小さい。したがって、カルボン酸両末端ブタジエン−アクリロニトリルゴムを多量に共重合させる必要があるため、ポリアミドイミド樹脂本来の耐熱性等の物性が損なわれる等の難点があるとともに、接着性の点でも不充分であった。なお、上記ポリアミドイミド樹脂に、シロキサン化合物を共重合させる手法は、シロキサン化合物の価格が高いために、経済性が悪くなるという難点がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、加工性や柔軟性に優れるとともに、耐熱性および接着力を向上させることができる、接着剤組成物およびそれを用いたフレキシブル印刷配線板の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、下記の(A)〜(C)を必須成分とする接着剤組成物を第1の要旨とする。また、本発明は、上記接着剤組成物を用いてなるフレキシブル印刷配線板を第2の要旨とする。
(A)下記の(a)〜(c)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂。
(a)芳香族イソシアネート化合物。
(b)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(c)カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミド。
(B)下記(C)成分のエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型ポリアミド樹脂。
(C)分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂。
【0009】
すなわち、本発明者らは、加工性や柔軟性に優れるとともに、耐熱性および接着力を向上させることができる接着剤組成物を得るため、ポリアミドイミド樹脂を中心に研究を重ねた。その研究の過程で、芳香族イソシアネート化合物と、芳香族系多価カルボン酸の無水物とを共重合させるとともに、さらにカルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミドを共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂を用いると、上記カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミドが、ソフトセグメント的な役割を果たすため、ポリアミドイミド樹脂に柔軟性を付与できることを突き止めた。また、上記カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミドは、比較的少量で柔軟性を付与できるため、ポリアミドイミド樹脂本来の耐熱性を損なうこともなく、しかも200℃以下の比較的低温でも熱接着可能であるため、加工性に優れている。しかし、さらに研究を続ける過程で、このような変性ポリアミドイミド樹脂のみを用いるのでは、接着性や耐熱性が不充分であることを突き止めた。そこで、さらに実験を重ねた結果、上記変性ポリアミドイミド樹脂とともに、エポキシ樹脂、およびこのエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型ポリアミド樹脂を併用すると、その特性等に起因してか、接着性や耐熱性が向上することを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明の接着剤組成物は、カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミドが共重合された変性ポリアミドイミド樹脂を用いているため、柔軟性に優れている。また、上記変性ポリアミドイミド樹脂は、溶剤溶解性に優れ、また、比較的低温(例えば、200℃以下)でも熱接着可能であるため、加工性に優れている。しかも、エポキシ樹脂、およびこのエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型ポリアミド樹脂を併用しているため、接着性や耐熱性を向上させることができる。
【0011】
また、上記変性ポリアミドイミド樹脂(A成分)の含有量が、変性ポリアミドイミド樹脂(A成分)と、特定のポリアミド樹脂(B成分)と、エポキシ樹脂(C成分)との合計量全体の25〜70重量%の範囲内に設定されていると、柔軟性、耐熱性、接着性等の各物性のバランスが良好となる。
【0012】
そして、上記本発明の接着剤組成物を用いてなるフレキシブル印刷配線板は、半田工程で、接着剤層の膨れ等が生じないため、半田耐熱性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の接着剤組成物は、下記の(A)〜(C)を必須成分とするものである。
(A)下記の(a)〜(c)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂。
(a)芳香族イソシアネート化合物。
(b)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(c)カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミド。
(B)下記(C)成分のエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型ポリアミド樹脂。
(C)分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂。
【0015】
上記変性ポリアミドイミド(PAI)樹脂(A成分)は、上記(a)〜(c)を共重合(縮重合)させて得ることができる。
【0016】
ここで、本発明は、PAI樹脂の分子構造中に、上記(c)から誘導される構造単位をソフトセグメントとして導入して従来のPAI樹脂の特性を変性させているのであって、これが最大の特徴である。
【0017】
上記変性PAI樹脂(A成分)の形成に用いる、上記芳香族系イソシアネート化合物(a)としては、分子構造中に芳香族環を有する化合物であれば特に限定はないが、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性の点で、MDI、TODIが好適に用いられる。
【0018】
また、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(b)としては、分子構造中に芳香族環を有し、上記芳香族系イソシアネート化合物(a)と縮合反応するものであれば特に限定はないが、例えば、トリメリット酸の無水物(無水トリメリット酸)や、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸の無水物の他、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリット酸)、ベンゾフェノン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸、ビフェニル−2,2′,3,3′−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、フェナントレン−1,3,9,10−テトラカルボン酸、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)のような芳香族系多価カルボン酸の二無水物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性等の点から、トリメリット酸の無水物(無水トリメリット酸)が好適に用いられる。なお、本発明においては、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(b)とともに、芳香族系多価カルボン酸を併用しても差し支えない。
【0019】
つぎに、PAI樹脂骨格にソフトセグメント部を導入するための、上記カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミド(以下、両者をまとめて「カルボン酸両末端ポリマー」と略す)(c)は、ポリエステルまたはポリアミドの両末端にカルボン酸を有するものであれば特に限定はない。
【0020】
上記ポリエステルまたはポリアミドの両末端にカルボン酸を導入するために用いるカルボン酸としては、特に限定はなく、例えば、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0021】
上記脂肪族カルボン酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、コハク酸、コルク酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸等があげられる。また、上記芳香族カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸等があげられる。
【0022】
上記カルボン酸両末端ポリマー(c)は、例えば、通常の製法にしたがって合成したポリエステルまたはポリアミドの両末端に、上記のようなカルボン酸を導入することにより得ることができる。なお、上記ポリエステルやポリアミドの合成法は、特に限定するものではなく、例えば、第4版 実験化学講座28 高分子合成(日本化学会編、1992年、丸善株式会社発行)の第208頁〜第231頁および第252頁〜第287頁に記載の方法に準じて作製することができる。
【0023】
上記カルボン酸両末端ポリエステルは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、加熱装置、攪拌装置、還流装置、水分離器、蒸留塔および温度計を備えた反応槽に、アジピン酸やセバシン酸等のジカルボン酸と、メチルペンタンジオール,ノナンジオール,メチルオクタンジオール等のジオールとを仕込み、所定温度(例えば、220℃)まで所定時間(例えば、1時間)かけて昇温する。さらに所定温度(例えば、220℃)で縮重合反応を続けた後、所定温度(例えば、室温)まで冷却することにより、所望のカルボン酸両末端ポリエステルを得ることができる。
【0024】
なお、カルボン酸両末端ポリアミドも、上記カルボン酸両末端ポリエステルの製法に準じて、両末端にカルボン酸を導入することにより、適宜作製することができる。
【0025】
このようにして得られるカルボン酸両末端ポリマー(c)の酸価は、30〜120mgKOH/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは38〜112mgKOH/gの範囲内である。
【0026】
また、上記カルボン酸両末端ポリマー(c)の数平均分子量(Mn)は、900〜3800の範囲内が好ましく、特に好ましくは数平均分子量(Mn)が1000〜3000の範囲内である。
【0027】
上記カルボン酸両末端ポリマー(c)から誘導される構造単位の含有割合は、上記変性PAI樹脂(A成分)全体の5重量%以上であることが好ましく、特に好ましくは5〜65重量%の範囲内である。すなわち、5重量%未満であると、柔軟性の効果が得られにくくなるからである。
【0028】
上記芳香族イソシアネート化合物(a)と、芳香族系多価カルボン酸の無水物(b)およびカルボン酸両末端ポリマー(c)との混合比は、モル比で、(a)/〔(b)+(c)〕=0.9/1〜1.4/1の範囲内が好ましく、特に好ましくは(a)/〔(b)+(c)〕=1/1〜1.25/1の範囲内である。すなわち、(a)のモル比が0.9未満であると、得られる変性PAI樹脂(A成分)の分子量が小さくなり、引っ張り破壊歪みが低下する傾向がみられ、逆に(a)のモル比が1.4を超えると、得られる変性PAI樹脂(A成分)の引っ張り弾性率が上昇し、柔軟性が悪くなる傾向がみられるからである。
【0029】
ここで、上記(a)〜(c)を共重合させてなる変性PAI樹脂(A成分)は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器を準備し、上記芳香族イソシアネート化合物(a)と、無水トリメリット酸等の芳香族系多価カルボン酸の無水物(b)と、カルボン酸両末端ポリエステル等のカルボン酸両末端ポリマー(c)とを所定量配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),N,N−ジメチルホルムアミド(DMF),N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC),γ−ブチロラクトン等の極性溶剤とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら所定時間(好ましくは、1〜2時間)かけて所定温度(好ましくは、130〜150℃)まで昇温する。つぎに、所定温度(好ましくは、130〜150℃)で所定時間(好ましくは、約3〜5時間)反応させた後、反応を停止することにより、変性PAI樹脂(A成分)を調製することができる。
【0030】
このようにして得られる変性PAI樹脂(A成分)は、数平均分子量(Mn)が5,000〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくはMnが10,000〜50,000の範囲内である。すなわち、変性PAI樹脂(A成分)のMnが5,000未満であると、引き裂き強度が低くなり、耐久性が悪化し、逆に変性PAI樹脂(A成分)のMnが100,000を超えると、溶液粘度が高くなり加工性が悪化する傾向がみられるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定することができる。
【0031】
上記変性PAI樹脂(A成分)の含有量は、A成分とB成分とC成分との合計量全体の25〜70重量%の範囲内に設定することが好ましく、特に好ましくは50〜60重量%の範囲内である。すなわち、変性PAI樹脂(A成分)の含有量が25重量%未満であると、耐熱性が劣る傾向がみられ、逆に70重量%を超えると、接着性が劣る傾向がみられるからである。
【0032】
つぎに、上記特定の変性ポリアミドイミド樹脂(A成分)とともに用いられる特定のポリアミド樹脂(B成分)としては、上記エポキシ樹脂(C成分)中のエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型のポリアミド樹脂であれば特に限定はなく、例えば、アルコール系溶媒に可溶なポリアミド樹脂であって、二塩基酸とジアミンとを共重合して得られる共重合ポリアミド樹脂や、分子中のポリアミド結合にN−アルコキシメチル基を導入したポリアミド樹脂等があげられる。
【0033】
上記共重合ポリアミド樹脂は、2種以上の二塩基酸と、2種以上のジアミンとを共重合することにより得ることができる。上記二塩基酸としては、例えば、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ウンデカン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、炭素数20〜48の重合脂肪酸等があげられる。また、上記ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、p−ジアミノメチルシクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン等があげられる。これらのなかでも、脂肪族二塩基酸と脂環式ジアミンとを共重合して得られる共重合ポリアミド樹脂は、溶媒への溶解性に優れ、長期間保存しても粘度の上昇がほとんどなく、また、広範囲な被着材に対して良好な接着性を示すため、特に好ましい。
【0034】
なお、上記共重合ポリアミド樹脂には、その調製時に、アミノカルボン酸等を適宜配合しても差し支えない。上記アミノカルボン酸としては、例えば、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、4−アミノメチル安息香酸、4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸や、ε−カプロラクタム,ω−ラウロラクタム,α−ピロリドン,α−ピペリドン等のラクタム等があげられる。
【0035】
このようにして得られる共重合ポリアミド樹脂は、例えば、6/66、6/6−10、6/66/6−10、6/66/11、6/66/12、6/6−10/6−11、6/11/イソホロンジアミン、6/66/6、6/6−10/12等の構成を有する。
【0036】
つぎに、前記分子中のポリアミド結合にN−アルコキシメチル基を導入したポリアミド樹脂とは、ポリアミド結合に、ホルムアルデヒドとアルコールとを付加させ、N−アルコキシメチル基を導入することによってアルコール可溶性ポリアミド樹脂としたものであり、具体的には、6−ナイロン、6,6−ナイロン等をアルコキシメチル化したもの等があげられる。そして、上記N−アルコキシメチル基の導入は、融点の低下、可とう性の増大、溶解性の向上に寄与するものであり、目的に応じ、導入率が適宜設定される。
【0037】
ここで、溶剤可溶型とは、本発明の接着剤組成物を溶剤に溶解させて接着剤溶液(接着剤ワニス)を作製する際に、その溶剤に溶解等し得ることをいう。
【0038】
また、上記エポキシ樹脂(C成分)中のエポキシ基に対する反応基としては、例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、カルボキシル基等があげられる。
【0039】
上記特定のポリアミド樹脂(B成分)は、耐熱性や接着性の点から、酸価とアミン価との合計が5以上となることが好ましく、特に好ましくは9以上である。
【0040】
上記特定のポリアミド樹脂(B成分)の含有量は、A成分とB成分とC成分との合計量全体の5重量%以上に設定することが好ましく、特に好ましくは10〜30重量%の範囲内である。すなわち、特定のポリアミド樹脂(B成分)の含有量が5重量%未満であると、耐熱性や接着性に劣る傾向がみられるからである。
【0041】
つぎに、上記特定の変性ポリアミドイミド樹脂(A成分)および特定のポリアミド樹脂(B成分)とともに用いられるエポキシ樹脂(C成分)は、分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に限定はなく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0042】
上記エポキシ樹脂(C成分)の含有量は、A成分とB成分とC成分との合計量全体の5重量%以上に設定することが好ましく、特に好ましくは10〜30重量%の範囲内である。すなわち、エポキシ樹脂(C成分)の含有量が5重量%未満であると、接着性や耐熱性に劣る傾向がみられるからである。
【0043】
なお、本発明の接着剤組成物には、上記A〜C成分以外に、硬化促進剤、難燃剤、シランカップリング剤、熱老化防止剤、レベリング剤、消泡剤、無機質充填剤等の添加剤を必要に応じて適宜に配合しても差し支えない。
【0044】
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール系誘導体、芳香族カルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0045】
上記イミダゾール系誘導体としては、特に限定はなく、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−(2−メチル−1−イミダゾリル)−エチル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2−ウンデシル−1−イミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−(2−エチル−4−メチル−1−イミダゾリルエチル)−1,3,5−トリアジン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0046】
また、上記芳香族カルボン酸としては、特に限定はなく、例えば、安息香酸、1,2−ベンゼンジカルボン酸、1,3−ベンゼンジカルボン酸、1,4−ベンゼンジカルボン酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸:TMA)、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0047】
上記硬化促進剤の配合割合は、特に限定はないが、A〜C成分の合計量100重量部(以下「部」と略す)に対して、0.01〜2.0部の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.1〜1.0部の範囲内である。
【0048】
本発明の接着剤組成物は、先に述べた各成分を混合、攪拌等することにより得ることができる。そして、本発明の接着剤組成物は、通常、溶剤に溶解して用いられる。上記溶剤としては、先に述べた各成分を溶解するようなものが好ましく用いられ、具体的には、メタノール,エタノール,i−プロピルアルコール,n−プロピルアルコール,i−ブチルアルコール,n−ブチルアルコール,ベンジルアルコール,エチレングリコールメチルエーテル,プロピレングリコールメチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,メチルアミルケトン,シクロヘキサノン,イソホロン等のケトン系溶剤、トルエン,キシレン,エチルベンゼン,メシチレン等の芳香族系溶媒、酢酸メチル,酢酸エチル,エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート,3−メトキシブチルアセテート等のエステル系溶剤、クロロホルム,四塩化炭素,ジクロロメタン,トリクロロメタン等の塩素系溶剤、テトラヒドロフラン、N,N′−ジメチルホルムアミド、N,N′−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0049】
そして、上記のように、本発明の接着剤組成物を溶剤に溶解して用いる際、その樹脂固形分濃度は、3〜80重量%に設定されていることが好ましく、より好ましくは10〜50重量%の範囲である。すなわち、上記濃度が80重量%を超えると、溶液の粘度が高くなりすぎるため、樹脂フィルム等の被塗工物に対し均一に塗工しにくく、逆に3重量%未満であると、所望する厚みの塗膜を形成するのが困難だからである。
【0050】
本発明の接着剤組成物の用途は、特に限定はなく、例えば、フレキシブル印刷配線板、電磁波シールド材等に用いられる。
【0051】
つぎに、本発明のフレキシブル印刷配線板としては、例えば、図1に示すように、絶縁フィルム1の片面に、接着剤層2を介して、金属箔3が形成され、かつ、上記絶縁フィルム1の他方の面に、接着剤層4を介して、金属箔5が形成されてなる両面金属箔張り積層板があげられる。
【0052】
本発明においては、上記接着剤層2,4が、前述した本発明の接着剤組成物を用いて形成されているのであって、これが最大の特徴である。
【0053】
上記絶縁フィルム1の形成材料としては、特に限定はなく、例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン等があげられる。また、上記絶縁フィルム1の厚みは、特に限定はないが、通常、7.5〜125μmの範囲のものが用いられる。
【0054】
上記金属箔3,5としては、特に限定はなく、例えば、銅箔、アルミ箔等があげられるが、銅箔が好適に用いられる。また、上記金属箔3,5の厚みは、特に限定はないが、通常、9〜105μmの範囲のものが用いられる。
【0055】
上記図1に示した本発明の両面金属箔張り積層板は、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、前述と同様にして、本発明の接着剤組成物を作製した後、これを溶剤に溶かし、接着剤溶液(接着剤ワニス)を調製する。そして、用意した絶縁フィルム1の片面に、上記接着剤溶液(接着剤ワニス)を、ロールコータ法により塗布した後、加熱乾燥(例えば、180℃で4分間)して、絶縁フィルム1の片面に、接着剤層2を形成する。つぎに、この接着剤層2の表面に、金属箔3を熱ラミネーションにより貼り合わせる。ついで、上記絶縁フィルム1の他面に、同様にして接着剤層4を形成した後、この接着剤層4の表面に、金属箔5を加熱ロール等を用いて貼り合わせる。つぎに、これを加熱硬化(例えば、160℃×4時間)して、上記接着剤層2,4を硬化させることにより、両面金属箔張り積層板を得ることができる(図1参照)。
【0056】
上記接着剤溶液(接着剤ワニス)の塗布方法としては、上記ロールコータ法に限定されるものではなく、例えば、ダイコータ、コンマコータ、ナイフコータ等の各種の方法により行うことができる。また、上記接着剤層2,4の厚みは、特に限定はないが、好ましくは1〜100μmの範囲に設定され、より好ましくは5〜50μmの範囲である。
【0057】
上記接着剤層2,4を硬化させるための加熱方法としては、特に限定はなく、例えば、オーブン等の乾燥機や、加熱プレス等の各種の方法により行うことができる。この場合、、本発明の接着剤組成物は、200℃以下の比較的低温でも熱接着(熱硬化)可能であるため、加工性に優れている。
【0058】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0059】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示すPAI樹脂を作製した。
【0060】
〔ポリアミド変性PAI樹脂ワニスの合成〕
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、MDI(三井武田ケミカル社製、コスモネートPH)30.0g(0.12モル)と、無水トリメリット酸(三菱ガス化学社製)17.3g(0.09モル)と、カルボン酸両末端ポリアミド樹脂(富士化成工業社製、TXM−74B3ベース)49.5g(0.03モル)と、NMP溶剤226gとを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら2時間かけて150℃まで昇温し、そのまま150℃で約3時間反応させた。その後、最終的に固形分濃度が25重量%となるように、NMP溶剤を添加して、ポリアミド変性PAI樹脂ワニスを合成した。
【0061】
〔無変性PAI樹脂ワニスの合成〕
カルボン酸両末端ポリアミド樹脂(富士化成工業社製、TXM−74B3ベース)を添加しない以外は、上記と同様にして、無変性PAI樹脂ワニス(固形分濃度:25重量%)を合成した。
【0062】
また、下記に示す接着剤用材料を準備した。
【0063】
〔ポリアミド樹脂a〕
富士化成工業社製、トーマイド1340(アミン価:7、酸価:2)
【0064】
〔ポリアミド樹脂b〕
富士化成工業社製、トーマイド1360(アミン価:2、酸価:2)
【0065】
〔エポキシ樹脂〕
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、N−660)(融点:66℃)
【0066】
〔硬化促進剤〕
トリメリット酸(三菱ガス化学社製、F−TMA)
【実施例】
【0067】
〔実施例1〜7、比較例1〜3〕
後記の表1および表2に示す各材料を同表に示す割合で割合し、固形分濃度が28重量%となるように、トルエンおよびメタノールを添加して、接着剤ワニスを作製した。ついで、用意した厚み12.5μmのポリイミドフィルム(絶縁フィルム)の片面に、乾燥後の厚みが10μmとなるよう、各接着剤ワニスを、ロールコータを用いて塗布した後、加熱乾燥(180℃で4分間)して、絶縁フィルムの片面に、接着剤層を形成した。つぎに、この接着剤層の表面に、圧延銅箔(厚み18μm)を熱ラミネーションにより貼り合わせた。ついで、上記絶縁フィルムの他面に、同様にして接着剤層を形成した後、この接着剤層の表面に、圧延銅箔(厚み18μm)を加熱ロール等を用いて貼り合わせた。つぎに、これを加熱硬化(160℃×4時間)して、上記接着剤層を硬化させることにより、両面金属箔張り積層板を作製した(図1参照)。
【0068】
このようにして得られた実施例および比較例の両面銅張り積層板を用い、下記の基準に従って各特性の評価を行った。これらの結果を後記の表1および表2に併せて示した。
【0069】
〔初期接着力〕
各両面銅張り積層板を用い、JIS C 6471に準拠して、初期接着力(N/cm)を測定した。
【0070】
〔半田耐熱性〕
各両面銅張り積層板を用い、JIS C 6471に準拠し、半田浴温度:260℃および280℃、浸漬時間:1分の条件で、半田耐熱性の試験を行った。そして、接着剤層の膨れ、剥がれ等の外観異常の有無を目視により観察し、膨れや剥がれ等の外観異常が確認されなかったものを○、膨れや剥がれ等の外観異常が確認されたものを×とした。
【0071】
〔引っ張り弾性率〕
銅箔(厚み18μm)を用意し、その表面に、各接着剤ワニスを、乾燥後の厚みが10μmとなるようロール塗布した後、180℃で4分間乾燥して、銅箔の表面に塗膜(接着剤層)を形成した。ついで、銅箔をエッチングにより除去し、JIS K7127に準拠して、塗膜の引っ張り物性試験を行い、引っ張り弾性率を測定した。この引っ張り弾性率は、柔軟性の指標であって、この値が小さい程、柔軟性に優れている。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
上記結果から、いずれの実施例品も、ポリアミド変性PAI樹脂を用いるとともに、ポリアミド樹脂およびエポキシ樹脂を併用しているため、接着力、半田耐熱性、柔軟性に優れていた。なお、上記ポリアミド変性PAI樹脂を用いた実施例品に代えて、ポリエステル変性PAI樹脂を用いた場合も、上記実施例と同様、接着力、半田耐熱性、柔軟性に優れていた。
【0075】
これに対し、比較例1品は、無変性PAI樹脂を用いるとともに、ポリアミド樹脂およびエポキシ樹脂を併用していないため、接着力、半田耐熱性、柔軟性が著しく劣っていた。比較例2品は、変性PAI樹脂とエポキシ樹脂を使用しているが、ポリアミド樹脂を併用していないため、接着力、半田耐熱性、柔軟性が劣っていた。比較例3品は、変性PAI樹脂とポリアミド樹脂を使用しているが、エポキシ樹脂を併用していないため、接着力、半田耐熱性、柔軟性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の接着剤組成物は、フレキシブル印刷配線板の絶縁フィルムと、金属箔とを貼り合わせるための接着剤組成物として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の接着剤組成物を用いた、両面金属箔張り積層板の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0078】
1 絶縁フィルム
2 接着剤層
3 金属箔
4 接着剤層
5 金属箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)を必須成分とすることを特徴とする接着剤組成物。
(A)下記の(a)〜(c)を共重合させてなる変性ポリアミドイミド樹脂。
(a)芳香族イソシアネート化合物。
(b)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(c)カルボン酸両末端ポリエステルまたはカルボン酸両末端ポリアミド。
(B)下記(C)成分のエポキシ基に対する反応基を有する溶剤可溶型ポリアミド樹脂。
(C)分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂。
【請求項2】
上記(A)成分である変性ポリアミドイミド樹脂の含有量が、(A)成分と(B)成分と(C)成分との合計量全体の25〜70重量%の範囲内に設定されている請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の接着剤組成物を用いてなることを特徴とするフレキシブル印刷配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−45322(P2006−45322A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227207(P2004−227207)
【出願日】平成16年8月3日(2004.8.3)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】