説明

接着剤組成物およびそれを用いた半導体ウエハ用保護シート

【課題】平坦性、切断特性に優れる保護膜を形成することができる半導体ウエハ保護膜形成用シート、並びに、かかる保護膜およびシートを実現することができる接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)重量平均分子量2000以下のアミノシロキサン、(D)エポキシ樹脂硬化触媒、(E)無機充填剤、および(F)沸点が80℃〜180℃、25℃における表面張力が20〜30dyne/cmである極性溶媒をそれぞれ所定量を含有する接着組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハをダイシングする際に、ウエハ裏面を保護する膜(フィルム)を形成するための半導体ウエハ用保護シートに関し、特に平坦性に優れ、ダイサーによる切断特性に優れる保護膜を形成可能な半導体保護膜形成用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの実装面積を小さくするために、フリップチップ接続法が用いられている。該接続法では、通常、(1)半導体ウエハの表面に回路および接続用バンプを形成し、(2)半導体ウエハの裏面を所定の厚さまで研磨し、(3)半導体ウエハをダイシングして半導体チップを得、(4)該チップの回路形成面を基板側に向けて基板に接続した後、(5)半導体チップを保護するために樹脂封止等行なう、という手順がとられる。
【0003】
ところが、(2)の研磨工程でチップ裏面に微小な筋状の傷が形成され、それがダイシング工程やパッケージングの後にクラック発生の原因になることがある。そこで、このような筋状の傷が研磨工程で生じてもその後の工程に悪影響を及ぼさないように、(2)の研磨工程の後で裏面に保護膜(チップ用保護膜)を形成することが提案され、さらに、このような保護膜を形成するためにシートとして、剥離シートとその剥離面上に形成された保護膜形成層とからなるものが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−280329号公報
【特許文献2】特開2004−260190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記ダイシング工程においては、回転刃の振動などによりウエハが損傷する(以下「チッピング」という)ことがあることが知られている。
【0006】
上記チップ用保護膜にはダイシング工程におけるチッピングの防止も期待されるところであるが、該保護膜が平坦で無い場合には、ダイシングフィルムとチップ用保護膜の間に隙間が生じてしまい、ダイシングフィルムと保護膜とが接していない部分が発生する。この保護膜の非平坦性に起因して、空気層がチップ用保護膜とダイシングフィルムとの間に不均一に乗じる結果、ウエハの切断時に回転刃を振動させ、ウエハを一層損傷させるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は斯かる問題を解決し、平坦性に優れ切断特性に優れる保護膜を形成することができる半導体ウエハ保護膜形成用シートを提供すること、並びに、かかる保護膜およびシートを実現することができる接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するために、第一に、
(A)フェノキシ樹脂 100質量部
(B)エポキシ樹脂 5〜200質量部
(C)重量平均分子量2000以下のアミノシロキサン
0.5〜15質量部
(D)エポキシ樹脂硬化触媒 有効量、および
(E)無機充填剤
(A)、(B)、(C)および(D)成分の合計量100質量部に対して5〜900質量部
(F)沸点が80℃〜180℃、25℃における表面張力が20〜30dyne/cmである極性溶媒
(A)、(B)、(C)、(D)および(E)成分の合計量100質量部に対して10〜300質量部
を含有する接着組成物を提供する。
【0009】
本発明は、第二に、
基材フィルムと、上記の接着剤組成物から(F)成分の溶媒を除去した組成物からなり該基材フィルムの片面に形成された被膜とを有する半導体ウエハ保護膜形成用シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物によれば上記目的を達成できる半導体ウエハ保護膜形成用シートを製造することができる。
【0011】
本発明の保護膜形成用シートによれば、半導体ウエハの非回路面に平坦性の優れる保護膜を容易に形成することができる。その結果、ダイシングフィルムと保護膜の間に隙間が発生し難く、ダイシングの際に回転刃に不均一な振動を発生することがない。そのため、チッピングが起こり難く、信頼性の高い半導体装置を高い歩留まりで得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳細に説明する。本明細書において「重量平均分子量」(Mwと略すこともある)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0013】
<接着剤組成物>
−(A)フェノキシ樹脂−
フェノキシ樹脂は重量平均分子量が通常10000〜200000、好ましくは12000〜100000である。
【0014】
フェノキシ樹脂としては、例えばエピクロルヒドリンとビスフェノールAもしくはビスフェノールF等から誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。このようなフェノキシ樹脂としては商品名PKHC、PKHH、PKHJ(いずれも巴化学社製)、ビスフェノールA、ビスフェノールF混合タイプの商品名エピコート4250、エピコート4275、エピコート1255HX30、臭素化エポキシを用いたエピコート5580BPX40(いずれも日本化薬社製)、ビスフェノールAタイプの商品名YP-50、YP-50S、YP-55、YP-70(いずれも東都化成社製)、JER E1256、E4250、E4275、YX6954BH30、YL7290BH30(いずれもジャパンエポキシレジン社製)などがあげられる。
【0015】
フェノキシ樹脂として好ましいものは、PKHH、YP−50、YP−50S、YP−55、YP−70、JER E1256等のビスフェノールAタイプである。
【0016】
これらのフェノキシ樹脂は一種単独でも二種以上の組み合わせとしても使用することができる。
【0017】
−(B)エポキシ樹脂−
本発明で(B)成分として用いられるエポキシ樹脂は、分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物である。特に、エポキシ当量が50〜5000g/eqであることが好ましく、より好ましくは100〜500g/eqである。
【0018】
該エポキシ樹脂は重量平均分子量が通常10000未満、好ましくは400〜9000、より好ましくは500〜8000である。
【0019】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、またはこれらのハロゲン化物のジグリシジルエーテル;並びに、これらの化合物の縮重合物(いわゆるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等);ブタジエンジエポキシド;ビニルシクロヘキセンジオキシド;レゾルシンのジグリシジルエーテル;1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン;4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ジフェニルエーテル;1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)シクロヘキセン;ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート;1,2−ジヒドロキシベンゼン、レゾルシノール等の多価フェノールまたは多価アルコールとエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシグリシジルエーテル或いはポリグリシジルエステル;フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂(或いはハロゲン化ノボラック型フェノール樹脂)とエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシノボラック(即ち、ノボラック型エポキシ樹脂);過酸化法によりエポキシ化した、エポキシ化ポリオレフィン、エポキシ化ポリブタジエン;ナフタレン環含有エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;フェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;シクロペンタジエン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0020】
これらの中でも(B)成分として好ましいものは、室温で液状であるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0021】
これらのエポキシ樹脂は1種単独でも2種以上の組み合わせとしても使用することができる。
【0022】
(B)成分のエポキシ樹脂の配合量は、(A)成分のフェノキシ樹脂100質量部に対して5〜200質量部、特に10〜100質量部であることが好ましい。エポキシ樹脂の配合量が少なすぎると接着剤組成物の接着力が劣る場合があり、多すぎると接着剤層の柔軟性が不足する場合がある。
【0023】
−(C)アミノシロキサン−
(C)成分のアミノシロキサンは分子中に少なくとも2個の珪素原子を有することが好ましく、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜15個の珪素原子を有する。また、アミノ基を分子中に1〜18個、特に1〜10個有するものが好ましい。それらのアミノ基は分子鎖の末端にあってもよいし非末端(分子鎖中の側基中)に存在してもよい。該アミノシロキサンは重量平均分子量が2000以下、好ましくは100〜1900、特に好ましくは150〜1800である。
【0024】
より具体的には、該アミノシロキサンとしては、例えば、下記式(1)で表されるアミノシロキサンおよび式(2)で表されるアミノシロキサンから選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、R1は互いに独立に炭素原子数1〜9の二価の有機基であり、R2およびR3は、夫々独立に、非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、mは1〜19の整数である。)
【0027】
【化2】

【0028】
〔式中、R1、RおよびRは式(1)に関して定義の通りであり、Rは-NHまたは-NH-R1-NH(ここで、R1は一般式(1)に関して定義の通りである。)で表される基であり、mは1〜17の整数で、nは1〜18の整数であり、n+mは1〜18の整数である。〕
【0029】
上記のRで表される炭素原子数1〜9、好ましくは炭素原子数1〜6、特に好ましくは炭素原子数2または3の二価の有機基である。例えば、−(CH2)−、−(CH2−、−(CH23−,−(CH24−,−CH2CH(CH3)−,−(CH26−,−(CH28−等のアルキレン基;下記式:
【0030】
【化3】

【0031】
等で表されるアリーレン基;これらを組み合わせたアルキレン・アリーレン基;−(CH23−O−,−(CH24−O−等のオキシアルキレン基;下記式:
【0032】
【化4】

【0033】
のいずれかで表されるオキシアリーレン基;下記式:
【0034】
【化5】

【0035】
で表されるオキシアルキレン・アリーレン基等の、エーテル結合を含んでもよい二価炭化水素基が挙げられる。
【0036】
式(2)においてRが-NH-R1-NHで表されるアミノ基である場合には、該アミノシロキサンには、2種類のR,即ち、珪素原子に直接結合するRと該アミノ基に含まれるRとが存在するが、これら二種のRは互いに独立しており、同一でも異なってもよい。
【0037】
2およびR3で表される非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子等で置換された基、例えば、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基等が挙げられる。中でもメチル基およびフェニル基が好ましい。
【0038】
(C)成分のアミノシロキサンは1種単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
【0039】
該アミノシロキサンの配合量は、(A)成分のフェノキシ樹脂100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部である。0.1質量部より少ないと、半導体ウエハに貼付した際に保護膜にチッピング防止に必要な平坦性が得難く、15質量部より多いと、本発明の接着剤組成物の接着力の低下、保護膜の平坦性の低下が生じ易く、さらに組成物(塗工液)に相分離が起こり易い。
【0040】
−(D)エポキシ樹脂硬化触媒−
(D)成分であるエポキシ樹脂硬化触媒としては、リン系触媒、アミン系触媒等が例示される。
【0041】
リン系触媒としては、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスホニウムトリフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、および下記式で示される化合物が挙げられる。
【0042】
【化6】

【0043】
(式中、R8〜R15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素、臭素、よう素などのハロゲン原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜8のアルキル基、ビニル基機、アリル基等の炭素原子数2〜8のアルケニル基、プロピニル基、ブテニル基等の炭素原子数2〜8のアルキニル基、炭素原子数6〜8のフェニル基、トルイル基等のアリール基などの一価の非置換の炭化水素基、これらの炭化水素基の水素原子の少なくとも1部がフッ素、臭素、よう素などのハロゲン原子で置換された例えばトリフルオロメチル基などの置換炭化水素基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1〜8のアルコキシ基が挙げられる。置換一価炭化水素基においては総ての置換基が同一でもおのおの異なっていても構わない。
【0044】
リン系触媒で特に好ましい具体例は、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスホニウムトリフェニルボレート、テトラフェニルホスホ二ウムテトラフェニルボレート等である。
【0045】
アミン系触媒としては、例えば、ジシアンジアミド、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体などが挙げられる。これらの中で好ましいものは、ジシアンジアミド、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールである。
【0046】
(D)成分の触媒としては、上述した触媒を1種単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。特に好ましくはジシアンジアミドが使用される。
【0047】
(D)成分のエポキシ樹脂硬化触媒の配合量は、有効量であり、具体的には、5〜50質量部である。
【0048】
−(E)無機充填剤−
本発明で用いられる無機充填剤(E)としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン等の金属酸化物やカーボンブラック、銀粒子等の導電性粒子を使用することができる。シリカとしては溶融シリカ、結晶シリカが好ましい。これらの中でも、特にシリカ、アルミナ、酸化チタン等の金属酸化物が好ましい。
【0049】
無機充填剤の平均粒径は、0.1〜10μmが好ましく、さらに好ましくは0.5〜7μmである。無機充填剤の平均粒径がこの範囲内にあると、保護膜形成用シートの被膜としても半導体ウエハ上に設けた保護膜としても被膜表面の性状を良好に保ちやすく、均一な被膜を得やすい。また、最近接着剤層として被膜に求められる厚みは15〜50μmであるが、無機充填剤の平均粒径が上記範囲内にあると、凝集した2次粒子が存在しても、所望の厚みを支障なく達成することができる。
【0050】
該無機充填剤の配合量は、(A)、(B)、(C)、(D)成分の合計量100質量部に対して5〜900質量部、より好ましくは10〜700質量部、最も好ましくは100〜500質量部である。該配合量が、5質量部未満では、無機充填剤の配合目的を十分に達成することが難しく、高吸水率、高線膨張係数、低強度となり、一方、900質量部を超えると組成物の粘度が高くなり、取り扱い性が悪くなる。
【0051】
−(F)溶媒−
(F)成分の溶媒としては、沸点が80℃〜180℃、25℃における表面張力が20〜30dyne/cmである極性溶媒が使用される。
【0052】
該溶媒の沸点は好ましくは100〜180℃であり、より好ましくは120〜160℃である。沸点が低過ぎると塗工中に溶媒が塗工液(組成物)から揮散し、塗工液にゲル状物を生成して平坦な塗膜の形成が困難になる。沸点が高過ぎると、塗工後に塗膜から溶媒を除去するのにより高温で処理する必要が生じ、組成物中で反応が進行し、接着膜として機能低下を引き起こす。
【0053】
該溶媒は25℃における表面張力は20〜30dyne/cmである。表面張力が20〜30dyne/cm未満であると、塗工した際の塗膜端部ひいては乾燥後の被膜端部の形状維持が困難となったり、縦筋が発生し易くなる。30dyne/cmを超えると、基材フィルムに対して塗工性が低下し、塗工抜けが発生し易くなる。
【0054】
(F)成分の極性溶媒の好ましい具体例としては、キシレン、エチルベンゼン、n-プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエン等のパーフルオロ芳香族炭化水素系溶媒;四塩化炭素、エチルクロライド、1,1,1-トリクロロエタン、イソブチルクロライド、t−ブチルクロライド、ビニルクロライド、ブロモエチル等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒;ジブチルケトン、メチル・n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル・n−ブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルヘキシルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸ブチル、等の酢酸アルキル系溶媒、シクロヘキサノンなどが挙げられる。中でも、シクロヘキサノンおよび/または酢酸ブチルが好ましい。
【0055】
これらの極性溶媒は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することが出来る。しかし、2種以上を組合わせて使用することが好ましい。2種以上、特に2種を併用することにより、沸点や組成物の溶解性に差を生じさせて、平滑な塗膜を形成することができる。2種以上を使用する場合には、各溶媒は少なくとも25質量%であることが好ましい。
【0056】
−その他の任意成分−
本発明の接着剤組成物は上述した成分に加えて、必要に応じて、その他の成分および各種の添加剤を含むことができる。
【0057】
・モノエポキシ化合物
(B)成分のエポキシ樹脂(エポキシ基を2以上有する)の他に、本発明の目的を損なわない量で、モノエポキシ化合物を配合することは差し支えない。例えば、このモノエポキシ化合物としては、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、プロピレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、オクチレンオキシド、ドデセンオキシドなどが挙げられる。
【0058】
・エポキシ樹脂の硬化剤:
硬化剤は必須ではないが、これを添加することにより樹脂マトリックスの制御が可能となり、低線膨張率化、高Tg化、低弾性率化等の効果を期待することができる。
【0059】
この硬化剤としては、従来から知られているエポキシ樹脂用の種々の硬化剤を使用することができる。例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、メンタンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのアミン系化合物;エポキシ樹脂−ジエチレントリアミンアダクト、アミン−エチレンオキサイドアダクト、シアノエチル化ポリアミンなどの変性脂肪族ポリアミン;ビスフェノールA、トリメチロールアリルオキシフェノール、低重合度のフェノールノボラック樹脂、エポキシ化もしくはブチル化フェノール樹脂、“Super Beckcite”1001[日本ライヒホールド化学工業(株)製]、“Hitanol”4010[(株)日立製作所製]、Scado form L.9(オランダScado Zwoll社製)、Methylon 75108(米国ゼネラルエレクトリック社製)などの商品名で知られている分子中に少なくとも2個のフェノール性水酸基を含有するフェノール樹脂;“Beckamine”P.138[日本ライヒホールド化学工業(株)製]、“メラン”[(株)日立製作所製]、“U−Van”10R[東洋高圧工業(株)製]などの商品名で知られている炭素樹脂;メラミン樹脂、アニリン樹脂などのアミノ樹脂;式HS(C24OCH2OC24SS)n24OCH2OC24SH(n=1〜10の整数)で示されるような1分子中にメルカプト基を少なくとも2個有するポリスルフィド樹脂;無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸などの有機酸もしくはその無水物(酸無水物)などが挙げられる。
【0060】
上記した硬化剤のうちでもフェノール系樹脂(特に、フェノールノボラック樹脂)が、本発明の組成物に良好な成形作業性を与えるとともに、優れた耐湿性を与え、また毒性がなく、比較的安価であるので望ましい。
【0061】
上記した硬化剤は、1種単独で用いてもよいが、各硬化剤の硬化性能などに応じて2種以上を併用してもよい。
【0062】
この硬化剤の量は、(A)成分のフェノキシ樹脂と(B)成分のエポキシ樹脂との反応を妨げない範囲で、その種類に応じて適宜調整される。一般には前記エポキシ樹脂100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは5〜50質量部の範囲で使用される。硬化剤の使用量が1質量部未満では、通常硬化剤の添加効果を期待することは困難である。逆に100質量部を超えると、経済的に不利となるほか、エポキシ樹脂が希釈されて硬化に長時間を要するようになり、更には硬化物の物性が低下するという不利が生じる場合がある。
【0063】
・その他の添加剤:
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、無機系または有機系の顔料、染料等の着色剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤、熱安定剤等を添加することができる。例えば、顔料、染料等を配合して保護膜を着色しておくと、レーザーマークなどの刻印した場合、視認性や光学機器認識性能が向上する。
【0064】
<半導体ウエハ保護膜形成用シート>
−基材フィルム−
基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム等の合成樹脂フィルムが用いられ、特に、チッピング防止保護膜を硬化後に基材を該保護膜から剥離する場合には、耐熱性に優れたポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好ましく用いられる。また基材フィルムの表面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布して離型処理を施して離型性被膜を形成してもよい。
【0065】
基材フィルムの膜厚は、通常は5〜200μm、好ましくは10〜150μm、特に好ましくは20〜100μm程度である。
【0066】
−保護膜−
保護膜は、上記基材フィルム上に前述した本発明の組成物を、通常、塗布乾燥後に通常5〜100μm、好ましくは10〜60μmになるように、グラビアコーター等公知の方法で施与することにより得ることができる。
【0067】
上記組成物中の溶剤の乾燥条件は、通常、室温で2時間以上、40〜130℃で1〜20分間程度であり、好ましくは50〜120℃で1〜20分間である。場合により付加反応と同時に進行させてもよいが、有機過酸化物硬化が起きないような温度範囲にする必要がある。
【0068】
上記本発明の保護膜形成用シートは、以下の方法により使用することができる。
(1)本発明の保護膜形成用シートの保護膜上に、回路が形成された半導体ウエハの裏面を貼付する工程、
(2)保護膜から基材フィルムを剥離する工程、
(3)加熱により保護膜を硬化する工程、
(4)硬化させた保護膜上にダイシングフィルムを貼付する工程、
(5)半導体ウエハおよび保護膜をダイシングする工程。
ここで、工程(2)と(3)が逆順であってもよい。
【0069】
工程(3)における加熱は、硬化剤が有効に硬化性能を発揮する条件であって、通常、120〜200℃で10〜120分間、特に好ましくは130〜190℃で15〜60分間である。
【0070】
工程(5)におけるウエハのダイシングは、ダイシングシートを用いた常法により行われる。本発明の保護膜形成用シートを用いることによって、チップ切断面に微小な割れや欠け(チッピング)が発生し難くなる。ダイシングにより、裏面に保護膜を有する半導体チップが得られる。該チップは、コレット等の汎用手段によりピックアップする。これにより、均一性の高い保護膜を、チップ裏面に簡便に形成でき、しかもダイシング時に発生するチッピングが軽減されるために、回路面に対する損傷が少ない歩留まりが高い半導体装置となる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0072】
・接着剤組成物の調製方法
表1に示す量で下記成分を混合して、固形分50重量%の組成物を得た。表1に示す成分(A)〜(E)は以下のとおりである。
【0073】
(A)成分
フェノキシ樹脂系ポリマー:Mw60000、 JER1256(ジャパンエポキシレジン社製)
【0074】
(B)成分
エポキシ樹脂:RE310S(日本化薬社製)、25℃の粘度15Pa・s
(C)成分
アミノシロキサン:KF−8010(両末端アミン) Mw1800
KF−393(側鎖アミン)Mw1050 信越化学工業(株)社製
【0075】
(D)成分
ジシアンジアミド(DICY−7):ジャパンエポキシレジン社製
(E)成分
シリカ:SE2050 平均粒径0.5μm 最大粒径5μm KBM−403処理品、(株)アドマテックス社製
【0076】
・保護膜の作成
接着剤組成物を、表面がシリコーン離型剤で被覆された厚さ38μmのPETフィルム上に塗布し、110℃で10分間加熱乾燥をして、厚さ25μmの保護膜を形成した。
【0077】
・平坦性試験
・・表面凸状欠陥
キーエンス社製 レーザー顕微鏡(商品名:VK−8710)にてPETフィルム上に形成した保護膜を観察し、直径100μm以上で且つ高さ5μm以上の突起を凸状欠陥として数を数えた。観察単位面積は1mである。
・・表面凹状欠陥
キーエンス社製 レーザー顕微鏡 VK−8710にてPETフィルム上に形成した保護膜を観察し、直径300μm以上で且つ深さ15μm以上の凹部を凹状欠陥として数を数えた。観察単位面積は1mである。
【0078】
・チッピング試験
PETフィルム上に形成した保護膜を、接着フィルム貼り付け装置(テクノビジョン社製、商品名:FM−114)を用いて70℃で厚み220μmのシリコンウエハ(8インチの未研磨ウエハをディスコ社製 DAG−810を用いて#2000研磨して、220μm厚としたウエハ)の表面に貼り付けた後、該保護膜からPETフィルムを剥がした。該シリコンウエハを回路形成面側から下記条件で10mm×10mm角のチップにダイシングした。得られたチップ8個の顕微鏡断面写真を撮り、断面方向に長さ25μm以上の大きさの割れや欠けがある場合にチッピング「有り」と評価した。結果を表1に示す。
【0079】
[ダイシング条件]
装置:DISCOダイサー DAD−341
カット方法:シングル
刃回転数:40000rpm
刃速度:50mm/sec
ダイシングフィルムの厚み85μm
ダイシングフィルムへの切り込み:15μm
【0080】
・せん断接着力試験
上述と同様の方法で、保護膜形成用シートの保護膜面を直径8インチのシリコンウエハの裏面に貼り付けた後基材フィルムを剥離した。保護膜が貼付されたウエハを保護膜ごと3mm×3mm角のチップに切断した。その後、チップをピックアップして10mm×10mmのシリコンウエハの中央部に、170℃で、0.63MPaの加圧下で1秒間熱圧着をして積層体を得た。得られた積層体を175℃で4時間加熱処理をし、保護膜を硬化させて試験片を作成した。この試験片をDAGE社製 DAGE4000を用いて、速度200μm/sec、高さ50μmでせん断接着力を測定した。
【0081】
結果を表1に示す。
【0082】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の接着剤組成物および半導体ウエハ保護膜形成用シートは、信頼性の高い半導体装置の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェノキシ樹脂 100質量部
(B)エポキシ樹脂 5〜200質量部
(C)重量平均分子量2000以下のアミノシロキサン 0.5〜15質量部
(D)エポキシ樹脂硬化触媒 有効量、および
(E)無機充填剤
(A)、(B)、(C)および(D)成分の合計量100質量部に対して5〜900質量部
(F)沸点が80℃〜180℃、25℃における表面張力が20〜30dyne/cmである極性溶媒
(A)、(B)、(C)、(D)および(E)成分の合計量100質量部に対して10〜300質量部
を含有する接着組成物。
【請求項2】
成分(C)のアミノシロキサンが、1分子当たり2〜20個の珪素原子を有するものである請求項1に係る組成物。
【請求項3】
成分(C)のアミノシロキサンが、下記式(1)で表されるアミノシロキサンおよび式(2)で表されるアミノシロキサンから選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に係る組成物。
【化1】


(式中、R1は互いに独立に炭素原子数1〜9の二価の有機基であり、R2およびR3は、夫々独立に、非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8の一価炭化水素基であり、mは1〜19の整数である。)
【化2】

〔式中、R1、RおよびRは式(1)に関して定義の通りであり、Rは-NHまたは-NH-R1-NH(ここで、R1は一般式(1)に関して定義の通りである。)で表される基であり、mは1〜17の整数で、nは1〜18の整数であり、n+mは1〜18の整数である。〕
【請求項4】
(D)成分がリン系硬化触媒および/またはアミン系硬化触媒である請求項1−3のいずれか1項に係る組成物。
【請求項5】
(F)成分がシクロヘキサノンおよび/または酢酸ブチルである請求項1−4のいずれか1項に係る組成物。
【請求項6】
基材フィルムと、請求項1〜5のいずれか1項に記載の接着剤組成物から(F)成分の溶媒を除去した組成物からなり該基材フィルムの片面に形成された被膜とを有する半導体ウエハ保護膜形成用シート。

【公開番号】特開2010−185013(P2010−185013A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30201(P2009−30201)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】