説明

接着剤組成物とその製法

【課題】
環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含まない樹脂エマルジョンとして、シード用樹脂エマルジョンの存在下において、酢酸ビニルをシード重合した酢酸ビニル系樹脂エマルジョンが提案されているが、特にポリビニルアルコールを保護コロイドに使用しないシード用樹脂エマルジョンであったり、過酸化物系重合開始剤などが使用されると酢酸ビニルの重合転化率が低く、製造物に残存モノマーが多く臭気がある、製造に時間が長くかかる、などの問題があった。
【解決手段】
シード用樹脂エマルジョンの存在下において、酢酸ビニル若しくは酢酸ビニルとその他モノマーとをシード重合して酢酸ビニル系樹脂エマルジョンを合成する際に、アゾ系重合開始剤を使用することにより上記のような問題を解決することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤組成物とその製法に関し、詳しくは、環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含まず、臭気が少なく、被着体に対する密着性、低温接着性、耐水性、接着力の良好な樹脂エマルジョンをベースとする接着剤組成物とその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂エマルジョン、例えば、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョンあるいはエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンなどは、接着性が良好で簡便に使用できる、保管が簡単であるなどの理由から木工用、紙工用、繊維用などの接着剤として広く採用されてきた。特に酢酸ビニル樹脂エマルジョンをベースとする接着剤は、木材、紙、繊維などの被着体に対する密着性、接着性能に加えて、低価格であり作業性などに優れるため汎用品として広く使用されている。
【0003】
ところが、酢酸ビニル樹脂エマルジョンは、このように重宝に採用されているものの、低温造膜性を確保するために可塑剤を配合することが不可欠であり、可塑剤として一般的に使用されてきたフタル酸エステル類などには環境ホルモンの疑いが指摘され、このような可塑剤を含有しない接着剤が強く求められている。 同時に可塑剤は揮発性有機化合物(VOC)であり、シックハウス症候群の原因になると指摘されていることから、これまた同様に含有しない接着剤が求められている。
【0004】
このため特許第3526567号には低温造膜性が良好であって、常態接着力、耐水性、耐熱性、保存安定性などを備えた樹脂エマルジョンとして、アクリル樹脂エマルジョンの存在下において酢酸ビニルをシード重合する方法が提案されている。しかし、アクリル樹脂エマルジョンの存在下においては酢酸ビニルの重合反応性が十分ではなく、重合時間がかかる等の課題が残されていた。
【0005】
また、ウレタン樹脂エマルジョンの存在下において、前記のように酢酸ビニルをシード重合する方法も提案されているが、前記のアクリル樹脂エマルジョンの存在下において、酢酸ビニルをシード重合する場合と同様に酢酸ビニルの重合転化率が低く、重合時間が長いという問題が確認されている。その他の樹脂エマルジョンについても、その後の調査において酢酸ビニルの重合転化率が低く、重合時間を長く設定する必要のあることが明かになっている。
【特許文献1】特許第3526567号
【特許文献2】特開2004−99809号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かつ環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含有せず、被着体に対する密着性、低温接着性、接着力、耐水性、耐熱性などに優れ、臭気の原因になる酢酸ビニルの残存率の少ない樹脂エマルジョンからなる接着剤組成物と、酢酸ビニルの重合転化率が良好で重合時間の短い製法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン並びにウレタン樹脂エマルジョンなどの樹脂エマルジョンからなるシード樹脂エマルジョン(以下、SEと略称する)の存在下において、酢酸ビニルもしくは酢酸ビニルとその他モノマーとをシード重合(以下、単に重合と略称する)して得られた樹脂エマルジョンからなる接着剤組成物とその製法により、環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含まず、臭気の原因になる残存酢酸ビニルが少なく、被着体に対する密着性、低温接着性、耐水性、耐熱性が良好な接着剤組成物と、短い重合時間の製法を実現したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明になる接着剤組成物は、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン並びにウレタン樹脂エマルジョンなどの樹脂エマルジョンからなるSEの存在下において、酢酸ビニルもしくは酢酸ビニルとその他モノマーとを重合して得られる樹脂エマルジョンからなることから、被着体に対する密着性、低温接着性、耐水性、耐熱性などに優れ、木工用、紙加工用、繊維加工用などの接着剤として極めて有用である。しかも、臭気の原因になる残存モノマーが少なく、環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含有しないため、環境に優しい各種製品の生産、加工にとって好都合である。また、本発明では、このような特徴のある樹脂エマルジョンを短時間に生産できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明になる接着剤組成物は、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン若しくはウレタン樹脂エマルジョンなどの樹脂エマルジョンからなるSEの存在下において、酢酸ビニルもしくは酢酸ビニルとその他モノマーとを重合して得られる樹脂エマルジョンからなるものであり、かかる樹脂エマルジョンを合成するために、本発明においてはアゾ系重合開始剤を採用している。
【0010】
以下に本発明において採用される原料などについて説明する。
シードとして使用されるSEには、酢酸ビニル樹脂エマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、スチレン・ブタジェン共重合樹脂エマルジョン、クロロプレンゴムラテックス、エポキシ樹脂エマルジョン、アクリロニトリルブタジエン共重合エマルジョンなどの樹脂エマルジョンが挙げられる。これらSEは単独若しくは2種類以上が併用されても構わない。なお、これらの中でも、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略称する)を保護コロイドとして使用していない非PVA保護コロイド系の樹脂エマルジョンのみをSEとして使用した場合、重合転化率が低下する傾向が認められている。この理由は明らかではないが、酢酸ビニルの保護コロイドとしてはPVAが適しており、非PVA保護コロイド系樹脂エマルジョンでは保護コロイドがPVA以外であるため、酢酸ビニルの重合反応が進行しにくいためと推測される。
【0011】
SEとしての酢酸ビニル樹脂エマルジョンには、PVAを保護コロイドとして乳化重合するなどの公知な方法により合成された酢酸ビニル樹脂エマルジョン、あるいは酢酸ビニルとその他モノマーとの乳化共重合された酢酸ビニル系樹脂エマルジョンが使用される。その他のモノマーには、エチレン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2―エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステルのほか、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸、N−メチロールアクリルアミド、バーサチック酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、酢酸アリル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0012】
SE用のアクリル樹脂エマルジョンには(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレートなどのヒドロキシル基含有のアクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル系モノマーあるいは更にスチレン、ビニルトルエン、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などのモノマーの加えられたものが、界面活性剤を乳化剤とするか、あるいはPVA、澱粉、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシルセルロースなどセルロース系樹脂、カゼイン、ポリエチレングリコール、キトサン、アラビアゴムなどの水溶性高分子を保護コロイドとして公知な方法により乳化重合されたものなどが使用される。
【0013】
これらの中でも、好ましい該アクリル樹脂エマルジョンとしては乾燥被膜のガラス転移温度が0〜−60℃の範囲のものが好ましく、当該温度範囲となるようにモノマー組成が設定されたものであって、このようなものであれば、可塑剤を配合することなく接着剤組成物の低温造膜性が確保され低温における被着体に対する接着性、耐熱接着力、耐水性、常態接着力などが確保される。
【0014】
SE用のウレタン樹脂エマルジョンは、ポリエステルポリオールあるいはポリエーテルポリオール、低分子量のジオールまたはジアミンなどとジイソシアネートとを反応させ高分子量の線状ポリウレタンを合成し、これをトルエン、アセトン、テトラヒドロフランなどの有機溶剤に溶解し、これに乳化剤水溶液を滴下・攪拌して強制乳化させる転相乳化方法、末端イソシアネート基を持つプレポリマーを乳化剤を使用して機械攪拌により水中に乳化する方法、ウレタン樹脂の主鎖若しくは側鎖にスルホン酸基、カルボン酸基などを導入して自己乳化型とする方法などにより調製されたものである。
【0015】
スチレン・ブタジェン共重合樹脂エマルジョン、クロロプレンゴムラテックス、エポキシ樹脂エマルジョン、アクリロニトリルブタジエン共重合エマルジョンなどその他のSEについても、公知な方法により合成されたものが適宜使用できる。
【0016】
SEの存在下において、酢酸ビニル若しくは酢酸ビニルとその他モノマーとが重合されて樹脂エマルジョンが調製されるが、その他のモノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2―エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステルのほか、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸、N−メチロールアクリルアミド、バーサチック酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、酢酸アリル、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0017】
また、樹脂エマルジョンひいては接着剤組成物の耐水性、強度、耐汚染性などを向上させるために、シリル基含有モノマーを加えて重合に関与させることもできる。シリル基含有モノマーには、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス−2−メトキシエトキシビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0018】
重合は、例えば、攪拌機、加熱装置、温度計ならびに温度制御装置、モノマー滴下口、還流冷却管などを備えた反応容器に、水、界面活性剤あるいは保護コロイドとしてのPVAを加えて溶解させ、アクリル樹脂エマルジョンなどのSEを投入するとともに、60〜80℃に昇温させたのち、重合開始剤の水溶液と酢酸ビニル若しくは酢酸ビニルとその他モノマーとを滴下しながら進めることができる。また、重合の初期に重合開始剤やモノマーの一部を添加したり、重合中に重合開始剤やモノマーを分割添加することもできる。
【0019】
樹脂エマルジョンの重合の際に保護コロイドとして使用されるPVAは、平均重合度400〜4000、ケン化度87〜98モル%のものが重合安定性、構造粘性、耐水性、保存安定性などのバランスが良好であり、単独もしくはニ種以上を組み合わせて、配合量としてモノマー100重量部に対して3〜20重量部を配合して使用に供される。平均重合度が400未満では初期接着性、粘着性が不足するため好ましくなく、平均重合度が4000を越えると樹脂エマルジョンの粘度が高くなりすぎ適さないが、他のPVAと併用する場合においてはこの限りではない。また、重合性や接着剤としての性能を損なわない範囲でPVA以外の保護コロイド類や界面活性剤が添加されてもよい。
【0020】
重合に使用される界面活性剤としてはカチオン性、アニオン性、ノニオン性のものがあり、モノマー全量に対して0.01〜5重量%が配合される。
【0021】
カチオン性の界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルピリジウムブロマイド、イミダゾリウムラウレートなどが挙げられる。アニオン性のものとしては、例えば、オクタン酸ナトリウム、デカン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウムなど高級脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウムなどアルキル硫酸塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリルアルコール硫酸エステル塩などの高級アルコール硫酸エステル塩、α−オレフィン硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、α−スルホン脂肪酸エステル塩などの高級アルキルポリエチレングリコール硫酸エステル塩、などが挙げられる。ノニオン性のものとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロツクポリマーアルキルベンゼンスルフォネート、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、脂肪酸石鹸などが挙げられる。 なお、樹脂エマルジョンの耐水性を向上させるためにポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステルなどのタイプでエチレン性不飽和結合を持つ反応性界面活性剤の併用が考慮されてもよい。
【0022】
重合開始剤には、一般的には過酸化物系重合開始剤、アゾ系重合開始剤、過硫酸塩系重合開始剤が使用されるが、中でもアゾ系重合開始剤の使用により重合転化率が顕著に向上することが認められており、モノマー100重量部に対して0.02〜5重量部が配合される。0.02重量部未満では重合性向上の効果が認められない。5重量部を越えて使用しても重合転化率向上の効果が頭打ちになること、アゾ化合物は高価なため過剰な使用は工業的に不利となる、などから適さない。アゾ系重合開始剤により重合転化率が向上する原因の一つとして、アゾ系重合開始剤の構造に起因する開始剤効率、グラフト適性によるものと推察される。さらに 好ましいアゾ系重合開始剤として 水溶性アゾ系重合開始剤が好ましい。 なお、アゾ系重合開始剤とともに過酸化物系重合開始剤、過硫酸塩系開始剤が併用されても構わない。また、添加方法としては一括添加、連続添加、分割添加等が挙げられ、重合開始剤を併用する場合にはそれぞれの開始剤について異なる添加方法を用いることができる。
【0023】
アゾ系重合開始剤にはアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、シクロアゾアミジン化合物、アゾアミジン化合物等が挙げられる。より具体的にはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸、2,2’−アゾビスー(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビスー(シクロヘキサンー1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、また 水溶性アゾ系重合開始剤として 2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン}ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン}ジサルフェート・ジハイドレート、2,2’−アゾビス{N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン}ハイドレート、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス{2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン}、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス{2−メチル−N[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N(2−ヒドロキシメチル)プロピオンアミド}などが挙げられる。
【0024】
過酸化物開始剤には、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ブチルヒドロパーオキサイド、過酸化水素などが挙げられる。
【0025】
過硫酸塩系開始剤には、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどが挙げられる。なお、重合調整剤として、例えばチオグリコール酸、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなども適宜、使用することもできる。
【0026】
重合を進める温度は使用する重合開始剤により異なり、例えばアゾ系重合開始剤により重合を進める場合は60℃以上の温度が好ましく、アゾ系重合開始剤と酒石酸、無水重亜硫酸ソーダ、アスコルビン酸などの還元剤とを組み合わせるレドックス系では60℃以下の温度でも乳化重合を進めることができる。
【0027】
調製された樹脂エマルジョンは、接着剤組成物として、そのままの状態でも使用できるが、塗布性、粘着性、粘度あるいは初期接着力などが更に求められる場合、あるいは塗布方法などにより特別の性状が求められる場合には、各使用態様に応じて各種の配合材料を添加して調整する必要が生じる。かかる配合材料には、粘着付与剤、充填剤、増粘剤、分散剤、pH調整剤、レベリング剤、耐水化剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤、架橋剤としてイソシアネート化合物、などが挙げられる。
【0028】
接着剤としての性能を向上させるため架橋剤としてイソシアネート化合物の配合を考慮する場合、接着剤組成物の固形分に対して、5〜20重量%配合することにより、耐水性、耐熱水性、耐熱性、接着力などが顕著に向上する効果が得られる。なお、架橋剤としてイソシアネート化合物を配合する場合、反応遅延剤としてスルファニル酸ナトリウムを接着剤組成物に対して、0.1〜5重量%を添加すれば可使時間を更に延長することができることが確認されており、その添加により接着作業性が大幅に改良される。
【0029】
イソシアネート化合物を例示すると、トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンフェニルポリイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートならびに4、4−ジフェニルメタンジイソシアネートと液状のポリメリックMDIを含むクルードMDIなどが挙げられる。中でも被着体が硬質な木材を接着する接着剤の硬化剤として、該クルードMDIを使用すると安定した接着力が得られることが確認されている。この理由は必ずしも明確ではないが硬質な被着体に対する浸透が良好であるためと推察されている。
【0030】
その他、増粘剤、粘着付与剤などの効果的な例として、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシルセルロースなどセルロース系樹脂、デンプン、カゼイン、ポリエチレングリコール、キトサン、アラビアゴムなどが挙げられる。また、充填剤として、カオリン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、小麦粉、椰子粉、などは効果的に使用できる。中でも炭酸カルシウムは安価であり、官能基がないために硬化剤を配合した際の増粘がなく、しかも無機物でありながら比較的柔らかいために接着加工品の切断の際に刃物を傷めないことから好都合である。
【0031】
以下、実施例、比較例により本発明を更に説明する。なお、重量部は単に部として表し、表1、2に表示する数値は重量部を表す。また、当然のことながら本発明は実施例、比較例に制約されるものではない。
*樹脂エマルジョンの調製
攪拌機、加熱装置、温度計ならびに温度制御装置、モノマー滴下口、還流冷却管を備えた反応容器に、水(下記表より触媒溶解用の水を差し引いた分量)を仕込み、攪拌しながらPVAとしてB−17(電気化学工業株式会社製、平均重合度1700、ケン化度88モル%)を添加した後加熱し、90℃で2時間攪拌することによりPVAを溶解させた。続いてPVAを保護コロイドとして使用せずに調製されているアクリル樹脂エマルジョンとしてC−70(ガンツ化成株式会社製、固形分55%)、PVAを保護コロイドとして使用せずに調製されているウレタン樹脂エマルジョンとしてECOS3000(大日本インキ工業株式会社製、固形分40%)、酢酸ビニル樹脂エマルジョンとしてPVAを保護コロイドとして使用して調製されているAK−914(アイカ工業株式会社製、固形分55%)などを配合して攪拌したのち80℃に調温し、アゾ系重合開始剤としてV−50{和光純薬工業株式会社製 2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド}を水5部に溶解したもの、過酸化物系重合開始剤として過酸化水素0.5部を水5部に溶解したもの、ならびに還元剤として酒石酸を0.2部を水5部に溶解したものと酢酸ビニルを3時間にわたり滴下しながら重合を進めた。酢酸ビニルの滴下が終了したのち、80℃において更に継続して重合反応させたのち、室温に冷却した。酢酸ビニルの重合転化率は表1及び表2のとおりであった。
【0032】
【表1】





【0033】
【表2】

【0034】
注)測定・試験方法
1.固形分:重量が既知の船型のアルミ箔容器にサンプリングして重量(W1)を計測し、110℃において、3時間乾燥したのちの重量(W2)を求め、(W1−W2)/W1 ×100より算出した。
2.重合時間:酢酸ビニルの滴下時間。
3.重合転化率:(実測固形分−モノマー以外の理論固形分)/(理論固形分−モノマー以外の理論固形分)×100 より算出した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明になる接着剤組成物は、低温接着性、耐水性、耐熱性等の接着性能に優れ、木工用、紙工用その他用途などに使い易く、しかも、環境ホルモンの疑いのある可塑剤や臭気の原因になる残存モノマーが少ないため、木工用、紙工用などのほか各種の用途に安心して利用できる。また、重合転化率が高く重合時間を短縮できることから、前記のような用途に採用される接着剤の製造方法として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シード用樹脂エマルジョンの存在下において、酢酸ビニル若しくは酢酸ビニルとその他モノマーとがシード重合された樹脂エマルジョンからなるものであって、アゾ系重合開始剤が使用されることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記シード用樹脂エマルジョンがアクリル樹脂エマルジョン若しくはウレタン樹脂エマルジョンの何れかを含むことを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
酢酸ビニル100重量部に対してアゾ系重合開始剤が0.02〜5重量部使用されることを特徴とする請求項1および2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
シード用樹脂エマルジョンの存在下において、酢酸ビニル若しくは酢酸ビニルとその他モノマーとをシード重合して調製した樹脂エマルジョンを使用するものであって、シード用樹脂エマルジョンがアクリル樹脂エマルジョン若しくはウレタン樹脂エマルジョンの何れかを含むことを特徴とする接着剤組成物の製法。
【請求項5】
酢酸ビニル100重量部に対してアゾ系重合開始剤を0.02〜5重量部使用することを特徴とする請求項4記載の接着剤組成物の製法。





【公開番号】特開2006−291043(P2006−291043A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113828(P2005−113828)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】