説明

接着性が向上されたポリエステルモノフィラメント、弾性複合体およびその使用

【課題】接着性が向上したポリエステルモノフィラメント、およびそれを用いた弾性複合体の提供。
【解決手段】グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランを含有する仕上げ剤を塗布してなる表層を有するポリエステルモノフィラメント。このモノフィラメントを含有する織布や編布などを弾性重合体からなるマトリクス中に埋め込み、コンベアベルトやホースなどの弾性複合体とする。マトリクスである弾性重合体と優れた接着性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に強化弾性複合体の製造に有用な優れたゴム接着性を有するモノフィラメントを提供するものである。強化弾性複合体は、例えばゴムホースまたはコンベアベルトに有用である。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルモノフィラメントは、一般に弾性プラスチックに対する接着性に乏しい。従って、ゴム製品の製造において接着性の問題がよく起こる。顕在する接着性の乏しさは、ポリマーマトリクス中の補強材料の接合に不十分であり、結局、エラストマーの補強に不十分である。
繊維−ゴム間の接着性を向上すること自体は公知である。WO−A−2002/95,102は、タイヤコードの製造方法を開示する。これによると、異なる複数の材料をコードに加工して、ゴムに親和性のある結果物を得る。繊維とゴム状マトリクスとの接着性を向上するために、接着性向上剤、例えばエポキシシランを含む繊維状ヤーンの提供が提案されている。
【0003】
DE−A−20 13 552には、ポリエステルの接着性を向上するために、製品を2段階で処理するプロセスが記載されている。製品は、第一段階において特定のシラン化合物を含有する液体に浸漬され、そして第二段階においてレゾルシン−ホルムアルデヒドラテックスで処理される。ここで使用できるシラン化合物としては、γ−グリシジルオキシトリメトキシシランなどである。ストランド、繊維、ヤーンおよびコードなどの他のポリエステル製品も使用することができる。
明細書中には、マルチフィラメントヤーンおよびそれから形成されたコードの処理が詳細に説明されている。モノフィラメントの使用は記載されていない。
【0004】
EP−A−43,410には、接着性に仕上げられたポリエステルヤーンおよびそれから得られる製品の製造方法が記載されている。この方法は、ヤーン、すなわち多数のストランドから構成される構造、をグリシジルオキシアルキルトリメトキシラン接着性向上剤を含有するサイズ剤で処理することからなる。ここでもマルチフィラメントヤーンおよびそれから形成されたコードの処理が詳細に記載されている。モノフィラメントの使用は記載されていない。
例えば回路基板の製造のためのガラス繊維強化プラスチックの処理では、接着性向上剤の使用が繊維マトリクスの接着性を向上することが知られている(例えばEP−A−321,977参照)。US−A−4,656,084には、被覆ガラス繊維に適するpH緩衝材を含有する水性仕上げ剤が記載されている。
同様に、複数の異なるプラスチックから構成されたモノフィラメントであって、その表面を摩擦および研磨剤で被覆し、エポキシシランなどの幅広い種類の接着性向上剤で処理してモノフィラメントと表面被覆との間の接着性を向上したモノフィラメントも知られている(WO−A−96/23,431参照)。
【0005】
グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシランを含有するサイズ剤で仕上げられ、これに続いてゴムマトリクスに組み入れられる前にレゾルシン−ホルムアルデヒドラテックスに浸漬されたヤーン、特にそれから形成されたコードが知られていることは事実である。多数のストランドからなるその構造から、かかる製品は、大きな表面積を有する。さらに、毛管力を有することから、かかる製品は、比較的に大きい容積を占める。これに対してモノフィラメントは、明らかにより小さな表面積を有し、いかなる毛管力をも発現しない。これまで当業者は、ヤーンについてゴムとの親和性を与える通常の仕上げ手段が、モノフィラメントに有効であるとは考えていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
驚くべきことに、接着性向上剤のうちの特定の群をポリエステルモノフィラメントの表面に塗布すると、弾性マトリックスとモノフィラメントとの間の接着性が非常に顕著に向上することが分かった。
本発明により解決される課題は、従って、エラストマーとの複合体中で極めて良好な接着性を示す、ゴムと親和的な仕上げを有するモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランを含有する仕上げ剤を塗布されたポリエステルモノフィラメントを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
このモノフィラメントは、単一のストランドである。その直径は、典型的には100〜1,000μmの範囲、好ましくは200〜500μmの範囲である。
これらモノフィラメントの長さは、数ミリメートルから連続的(数キロメートルの長さまで)まで及びうる。
本発明のモノフィラメントの線密度は、広い範囲に及ぶことができ、例えば100〜15,000dtexの範囲、特に400〜3,000dtexの範囲である。
本発明のモノフィラメントの断面形状は、任意に選択することができ、例えば円、楕円またはnが3以上のn角形を挙げることができる。
【0009】
本発明のモノフィラメントは、一成分ストランドまたは多成分ストランドとして存在することができる。多成分ストランドの例としては、サイド−バイ−サイド型ストランドまたは特に鞘芯型ストランドを挙げることができる。後者において、芯は好ましくはポリエステルからなり、これがモノフィラメントの機械的特性を決定する。鞘は官能性添加剤を混合したポリエステルからなり、これがモノフィラメントの機能的特性を決定する。
【0010】
本発明のモノフィラメントを構成するのに使用できるポリエステルは、ストランドを形成しうるポリエステルを極めて一般的に包含する。
ポリエチレンテレフタレートホモポリマーまたはエチレンテレフタレートユニットを有するコポリマーからなるモノフィラメントを使用することが好ましい。これらのポリマーは、例えばエチレングリコールおよび所望により他のアルコールならびにテレフタル酸またはテレフタル酸クロリドの如きテレフタル酸およびそのポリエステル形成性誘導体に由来する。
【0011】
しかし、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートホモポリマーまたはエチレン−ナフタレートユニットを有するコポリマーの如き他のポリエステルから構成されるモノフィラメントも使用することができる。
これらの熱可塑性ポリエステルはそれ自体公知である。熱可塑性コポリエステルのビルディングブロックは、上述のジオールおよびジカルボン酸またはこれらに対応する構造のポリエステル形成性誘導体であることが好ましい。
【0012】
これらのポリエステルは、エチレングリコールのほか、適当な2価アルコールに由来する構造を有することができる。これらの典型例としては、例えばプロパンジオール、1,4−ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールまたはこれらの混合物の如き脂肪族および/または脂環式ジオールを挙げることができる。
【0013】
本発明のモノフィラメントは、好ましくは固有粘度(IV値)が少なくとも0.60dl/g、好ましくは0.60〜1.05dl/gの範囲、より好ましくは0.62〜0.93dl/g(25℃においてジクロロ酢酸(DCE)中で測定)の範囲のポリエステルであることが好ましい。
本発明のモノフィラメントは、一方向延伸または多方向延伸と組合わせた一般的な溶融紡糸プロセスによって製造することができ、所望によりモノフィラメントの固定(setting)をおこなってもよい。
【0014】
紡糸後に本発明に従って使用される仕上げ剤がモノフィラメントの表面に、例えばスプレー塗布法によりまたはスピン−フィニッシュロールの使用により塗布される。典型的には、モノフィラメントの製造工程中、延伸または固定の後、巻糸工程の前に、スピンフィニッシングが行われる。しかし、塗布は製造後のモノフィラメントに対して、接着性向上仕上げ剤による後処理によってゴムとの接着性を付与することにより行うこともできる。
スピンフィニッシュロールは、一般に20〜250mmの直径を有し、特に効率的な塗布を行えるように表面処理がなされている。
仕上げ剤は、グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランのほかに他の成分を含有していてもよい。その例としては、水、乳化剤および静電気防止剤を挙げることができる。
【0015】
本発明に従って好ましく使用されるグリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランの好ましい例としては、例えば下記一般式(I)または(II)の化合物を挙げることができる。
【0016】
【化1】

【0017】
ここで、
は−(CH−O−Rであり、
は水素、−(CH−CHまたはRであり、
は水素、−(CH−CHまたはRであり、

【0018】
【化2】

【0019】
であり、
m、nおよびoは、それぞれ独立に、0〜12の整数である。
【0020】
上記群のうち特に好ましい化合物は、下記式(III)の化合物である。
(R−O)−Si−(CH−O−R (III)
ここで、Rは、それぞれ独立に、水素または特にC〜Cのアルキル、最も好ましくはメチル、エチルもしくはプロピルであり、
はグリシジル(1,2−エポキシプロピル)であり、そして
pは1〜12、特に2〜4の整数である。
【0021】
就中3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランおよび/または3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランの使用が好ましい。
これらエポキシシランは、所望の用途に足りる量だけモノフィラメントに塗布される。典型的な量は仕上げ状態のモノフィラメントの重量に対して0.001〜0.5重量%の範囲にわたり、好ましくは0.01〜0.25重量%、より好ましくは0.01〜0.15重量%である。
【0022】
本発明のモノフィラメントは、さらに他の付加的な材料を含有することができる。
その例としては、加水分解安定剤、加工助剤、酸化防止剤、可塑剤、潤滑剤、顔料、艶消し剤、粘度調整剤または結晶化促進剤を挙げることができる。
加工助剤の例としては、シロキサン、ワックスまたは比較的長鎖のカルボン酸もしくはその塩、脂肪族、芳香族エステルもしくはエーテルを挙げることができる。
酸化防止剤の例としては、リン酸エステルの如きリン化合物または立体的にヒンダードなフェノールを挙げることができる。
顔料または艶消し剤の例としては、有機顔料または二酸化チタンを挙げることができる。
粘度調整剤の例としては、多塩基カルボン酸およびそのエステルまたは多価アルコールを挙げることができる。
仕上げにより得られる本発明のモノフィラメントは、エラストマーに対して特に良好な接着性を示す点で優れている。
【0023】
本発明のモノフィラメントは、テキスタイル布、特に織布、簀の目(laid)織布、フォームドループ(formed−loop)編布、ブレード(braids)または引き出しループ(drawan−loop)編布を製造するために使用するのに適する。これらのテキスタイル布は、エラストマーの補強材料として使用することが好ましい。
この用途においては、テキスタイル布は、弾性マトリクスに組み込まれる前に、さらに重合体ラテックスによって被覆されることが好ましい。重合体ラテックスによる被覆は、通例、重合体ラテックスの分散液中に接着性が向上されたテキスタイル布を浸漬することにより行われる。
【0024】
本発明のモノフィラメントを含有するテキスタイル布、特に重合体ラテックスに被覆されたタイプのものも、同様に本発明の目的の一部をなす。
本発明はさらに、弾性ポリマーマトリクスおよびその中に埋め込まれた少なくとも一つのテキスタイル布、このテキスタイル布は本発明のモノフィラメントを含有する、からなる複合体を提供する。
使用できるエラストマーとしては、当業者に知られている天然および/または合成ゴムのすべてである。
本発明はさらに、ここに記載されたポリエステルモノフィラメントのエラストマー複合体中における使用を提供する。
本発明の複合体は、コンベアベルトまたはホースとして使用されることが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下の実施例により、本発明につき説明するが、本発明はこれに限定されない。
実施例
Teijin Monofilament Germany GmbH、Bobingen製のポリエステル標準モノフィラメント、0.25mm、タイプ900Sを使用した。
モノフィラメントは、モノフィラメントの搬送方向と逆方向に回転するスピンフィニッシュロール上に接触させた。adhesion−activaing仕上げ剤としては、Schill & Seilacher AG、Boblingen製のAPS製品を使用した。
スピンフィニッシュロールの下部を仕上げ剤中に漬けて表面を濡らし、上死点において仕上げ剤の一部をモノフィラメントに移送した。仕上げ剤の付着量は、スピンフィニッシュロールの回転速度、モノフィラメントの速度および温度に依存した。付着量は、仕上げ後のモノフィラメントに対する重量%として測定した。
弾性複合体の製造およびゴム接着力の測定は、ASTM D 2229−73におけるT−試験によって行った。
以下の表に、接着力の測定結果を示す。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランを含有する仕上げ剤を塗布してなる表層を有するポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートホモポリマー、またはポリエチレンテレフタレートユニットのほかに脂肪族、脂環式もしくは芳香族ジカルボン酸またはそのポリエステル形成性誘導体または脂肪族もしくは脂環式ジアルコールに由来するユニットを有するポリエチレンテレフタレートコポリマーである、請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランがグリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである、請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
100〜15,000dtexの範囲の線密度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
その表面が、前記グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシラン含有仕上げ剤に加えて重合体ラテックスで被覆されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項6】
前記グリシジルオキシアルキレントリアルコキシシランが0.001〜0.25重量%の範囲で塗布されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエステルモノフィラメントを含有する、特に織布、編布、ブレード布または簀の目布であるテキスタイル布。
【請求項8】
弾性重合体マトリクスおよびその中に埋め込まれた請求項7に記載のテキスタイル布のうちの少なくとも一つを含有する、複合体。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリエステルモノフィラメントの、エラストマーとの複合体への使用。
【請求項10】
前記エラストマーとの複合体がコンベアベルトまたはホースに使用されるものである、請求項9に記載の使用。

【公開番号】特開2008−223211(P2008−223211A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50754(P2008−50754)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(501078281)テイジン モノフィラメント ジャーマニイ ゲー・エム・ベー・ハー (11)
【Fターム(参考)】