説明

接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤

癌をはじめとする血管形成の異常により病態が進行する疾患、動脈硬化などの疾患を治療することが求められている。SCGFを有効成分として含有する接着性を有する細胞の末梢血中への動員を阻害する薬剤を用いることにより、固形腫瘍の増殖または転移形成、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症および乾せんなどの血管形成の異常により病態が進行する疾患、動脈硬化などを治療することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、造血幹細胞増殖因子(Stem Cell Growth Factor;以下、SCGFと称す)を有効成分として含有する接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤およびその用途に関する。
【背景技術】
SCGFは慢性骨髄性白血病の患者から樹立された骨髄球系細胞株KPB−M15より分離同定された因子である(Hiraoka A.,Ohkubo T,Fukuda M,Cancer Res.1987;47:5025−5030.)。SCGFはN型糖鎖を持たない29−kDaの蛋白であり、C型レクチンのファミリーに属する(Hiraoka A,Sugimoto A,Seki T et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997;94:7577−7582.)。SCGF遺伝子はin situ hybridizationの解析から骨ならびに骨髄で発現していることが示されている(Hiraoka A,Yano K,Kagami N et al.Hematol.J.2001;2:307−315.)。SCGFは単独では造血系細胞のコロニー形成促進活性を有していないが、エリスロポエチンあるいはGM−CSF(Granulocyte−Macrophage−colony−stimulating−fator)と組み合わせると、赤芽球系や、顆粒球・マクロファージ系のコロニー形成促進活性が観察される(Hiraoka A,Sugimoto A,Seki T et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1997;94:7577−7582.)。また、同様にVEGF(vascular endothellial growth factor)と組み合わせることで、AC133陽性の前駆細胞の血管内皮細胞への分化が促進される(Gehling UM,Ergun S,Schumacher U,et al.Blood 2000;95:3106−3112.)。
一方、骨髄移植に伴う造血系の回復と並行して血清中のSCGF量が増加することも観察されている(Ito C,Sato H,Ando K,et al.Bone Marrow Transplantation 2003;31:391−398.)。またRT−PCRを用いた解析から骨髄中のCD34陽性細胞、CD34陰性かつCD33陽性の細胞ではSCGFが生産されているが、ストローマ細胞や末梢血の造血系細胞では生産されないことも見出されている(Ito C,Sato H,Ando K,et al.Bone Marrow Transplantation 2003;31:391−398.)。従って、血清中のSCGFの増加は造血幹細胞の増加に伴い誘導されると推定される。このようにSCGFのin vitroでの活性や発現部位に関してはある程度明らかにされているが、生体内での働きについては現在まで解明されていない。
近年、種々の成体内組織において、幹細胞、前駆細胞の存在が認められ、これら幹細胞、前駆細胞が病理学的/生理学的な組織・器官の再生を司っていると考えられるようになってきた。例えば、悪性腫瘍の発生に血管形成が関与していることや(Sussman LK,Upalakalin JN,Roberts MJ,Kocher O,and Benjamin LE.Cancer Biol.Ther.2003;2:255−6.)、動脈硬化における血管閉塞に骨髄幹細胞が関与していることが示されており(Sata M,Saiura A,Kunisato A,Tojo A,Okada S,Tokuhisa T,Hirai H,Makuuchi M,Hirata Y,and Nagai R.Nat.Med.2002;8:403−9.)、このような幹細胞の末梢血中への動員を抑制することができれば動脈硬化等の疾患が治療できると考えられる。しかし、このような幹細胞の末梢血中への動員を阻害する因子は現時点では見出されていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、SCGFを有効成分として含有する骨髄幹細胞または前駆細胞などの接着性を有する細胞の末梢血中への動員を阻害する薬剤およびその用途を提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(17)に関する。
(1) 造血幹細胞増殖因子(SCGF)を有効成分として含有する接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤。
(2) 造血幹細胞増殖因子(SCGF)が、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である上記(1)記載の薬剤。
(3) 造血幹細胞増殖因子(SCGF)が、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ造血幹細胞増殖活性を有する上記(1)記載の薬剤。
(4) 造血幹細胞増殖因子(SCGF)が、化学修飾された造血幹細胞増殖因子(SCGF)である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の薬剤。
(5) 化学修飾がポリアルキレングリコール修飾である、上記(4)記載の薬剤。
(6) 接着性を有する細胞が成体多能性幹細胞である、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の薬剤。
(7) 接着性を有する細胞が骨髄中の接着性を有する多能性幹細胞または前駆細胞である、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の薬剤。
(8) 前駆細胞が、血管前駆細胞、単球・顆粒球共通前駆細胞および平滑筋前駆細胞からなる群から選ばれる細胞である、上記(7)記載の薬剤。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする血管形成阻害剤。
(10) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする顆粒球・単球新生阻害剤。
(11) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする抗腫瘍剤。
(12) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする抗炎症剤。
(13) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする動脈硬化治療剤。
(14) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする血管形成の異常により病態が進行する疾患の治療剤。
(15) 血管形成の異常により病態が進行する疾患が、固形腫瘍の増殖または転移形成、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症および乾せんからなる群から選ばれる疾患である、上配(14)記載の治療剤。
(16) 造血幹細胞増殖因子(SCGF)を投与することを特徴とする、接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する方法。
(17) 接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤を製造するための造血幹細胞増殖因子(SCGF)の使用。
本発明は造血幹細胞増殖因子(以下、SCGFと称す)を有効成分として含有する接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤に関する。
SCGFとしては、
(1)配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド
(2)配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ造血幹細胞増殖活性を有するポリペプチド
(3)配列番号1記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ造血幹細胞増殖活性を有するポリペプチド
(4)配列番号1記載で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドの自然に生ずるアレル変異体
などがあげられる。
本発明のポリペプチドは、造血幹細胞増殖活性を有するポリペプチドである。上記(2)〜(4)に記載のポリペプチドは、上記(1)記載のポリペプチドと実質的に同一の活性を有していればよく、性質的に同一であれば、活性の強度の程度、分子量などの量的要素は(1)記載のポリペプチドと異なっていてもよい。
配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ造血幹細胞増殖活性を有するポリペプチドは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)(以下、モレキュラー・クローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,488(1985)等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、例えば配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAに部位特異的変異を導入することにより、取得することができる。
欠失、置換または付加されるアミノ酸の数は特に限定されないが、上記の部位特異的変異法等の周知の方法により欠失、置換または付加できる程度の数であり、1個から数十個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個である。
また、本発明のポリペプチドが造血幹細胞増殖活性を有するためには、配列番号1記載のアミノ酸配列と、60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する。
アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Pro.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873(1993)]やFASTA[Methods Enzymol.,183,63(1990)]を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている[J.Mol.Biol.,215,403(1990)]。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばScore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
また、SCGFが、配列番号1記載のアミノ酸配列と相同性を有するアミノ酸配列からなるとは、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)によって、SCGFとのアミノ酸配列の相同性を検索した際に、60%、好ましくは80%、より好ましくは90%、特に好ましくは95%以上の相同性を有するタンパク質があげられる。ここで該タンパク質はSCGFのアミノ酸配列と比較して、その配列中のアミノ酸が置換、欠失、付加または挿入のいずれによって変化していてもよい。
また本発明に用いられるSCGFは、化学修飾されていてもよい。化学修飾の方法としては、例えばWO00/51626に記載の方法等があげられ、SCGFをポリエチレングリコール(PEG)等で修飾したものも本発明に用いられるSCGFに包含される。
本発明における接着性を有する細胞とは、骨髄、血管などの組織または細胞に対して接着する性質を有する細胞のことをいい、具体的には成体多能性幹細胞があげられる。成体多能性幹細胞とは、生体内の各組織に存在し、種々の成熟細胞になることが可能な幹細胞をいう。
また、骨髄中に存在する接着性の多能性幹細胞、前駆細胞なども本発明の接着性を有する細胞として包含される。前駆細胞としては、血管前駆細胞(以下、EPCとも称す)、単球・顆粒球共通前駆細胞、平滑筋前駆細胞などがあげられる。
接着性を有する細胞の末梢血への動員は、末梢血由来細胞を遠心分離により回収後、接着性細胞を培養するための培養皿を用いて接着細胞のみを選択的に培養することで同定することができる。
上述した接着性を有する細胞は組織の再生・修復に重要な役割を果たすとともに、悪性腫瘍での血管形成促進、血管の閉塞などの病理に関係している。したがって、本発明の薬剤は接着性を有する細胞を末梢血中への動員を阻害することにより、血管形成阻害剤、単球・顆粒球新生阻害剤、組織の炎症または腫瘍形成などを抑制する抗炎症剤または抗腫瘍剤、血管形成の異常により病態が進行する疾患、動脈硬化などの疾患の治療剤として用いることができる。血管形成の異常により病態が進行する疾患としては、固形腫瘍の増殖または転移形成、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、乾せんなどがあげられる。
本発明の薬剤は、治療剤として単独で投与することも可能であるが、通常は薬理学的に許容される一つまたはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られる任意の方法により製造した医薬製剤として提供するのが望ましい。
投与経路は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましく、例えば経口投与、または口腔内、気道内、直腸内、筋肉内、皮下、皮内もしくは静脈内等の非経口投与等があげられ、好ましくは筋肉内、皮下、皮内、静脈内または気道内投与等があげられる。
投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、注射剤、軟膏、テープ剤、ドライパウダー、エアロゾル等の吸入剤等があげられる。
錠剤等の固形製剤の製造には、例えば乳糖等の賦形剤、澱粉等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いることができる。
筋肉内、皮下、皮内、静脈内または気道内投与に適当な製剤としては、注射剤、噴霧剤等があげられる。
注射剤の製造にあたっては、例えば水、生理食塩水、大豆油等の植物油、溶剤、可溶化剤、等張化剤、保存剤、抗酸化剤等を用いることができる。
また、吸入剤はSCGFそのもの、または受容者の口腔及び気道粘膜を刺激せず、かつSCGFを微細な粒子として分散させ、吸収を容易にさせる担体等を用いて調製される。担体として具体的には乳糖、グリセリン等があげられる。SCGFおよび用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
投与量または投与回数は、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、通常成人1日当たり0.01μg/kg〜10mg/kgを投与するのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
実施例1 マトリゲルの移植により誘発される血管形成に対するSCGFの効果
8〜10週齢のC57BL/6Jマウス(日本クレア社製)の皮下に500μlのマトリゲルを移植し、毎日5μgのヒトSCGFを7日間投与した。7日後、移植したマトリゲルを摘出し4%のパラホルムアルデヒドで固定した後に、血管内皮のマーカーである抗マウスCD31抗体で染色を行った。
その結果、対照群と比較してヒトSCGFを投与したマウスでは顕著に血管形成が抑制されることが観察された。この結果はSCGFに血管形成を阻害する活性があることを示している。
実施例2 SCGFによるガンの生着阻害
8〜10週齢のC57BL/6Jマウスの皮下に1.5×10のB16メラノーマ細胞を移植し、毎日5μgのヒトSCGFを21日間投与し続けた。
その結果、SCGFを投与しない対照群と比較してヒトSCGFを投与したマウスでは顕著に腫瘍の形成が阻害された。この結果はSCGFが血管形成阻害を介して、ガン細胞の生着を阻害する活性があることを示している。
実施例3 SCGFによる骨髄単核細胞の遊走
C57BL/6Jマウスをペントバルビタールで麻酔後、大腿骨から骨髄細胞を抽出した。次に、Histopaque 1038s(シグマ社製)を用いた密度勾配遠心分離により、骨髄単核細胞を取得した。骨髄単核細胞のSCGFに対する走化性を、BoydenチャンバーおよびTranswellチャンバー(ともにCorning Coster社製)を用いて解析した。
上部のチャンバーには、100μlの培養液にけん濁した1×10の骨髄単核細胞を注入し、下部チャンバーには、SCGFを含む培養液600μlを注入した。境界部位には直径3μmの穴を持つ膜(Corning Costa社製)で仕切った。骨髄単核細胞の走化性は37℃で5%COインキュベーターで1時間インキュベートした後に、下部に遊走した骨髄単核細胞の数を血球測定板により測定した。結果を表1に示す。

その結果、SCGFは濃度依存的に顕著に骨髄単核細胞を遊走させることが示された。
実施例4 EPCの末梢血中への動員に及ぼすSCGFの影響(1)
8〜10週齢のC57BL/6Jマウスに毎日5μgのヒトSCGFをそれぞれ1日間、4日間、7日間投与した。投与終了後、対象のマウスをペントバルビタールで麻酔し、1000U/mlのヘパリンでコートした注射針で心臓より全血を採取した。同時に、ヒトSCGFを投与しないマウスの血液も採取した。取得した血液の一部は溶血後、実施例5に示すFACS解析に使用し、残りの血液は以下のEPCの培養による解析に用いた。
培養による解析は、以下のように行った。
血液にHistopaque 1083(シグマ社製)を用いて単核細胞を取得した。マウス1匹中の全末梢血由来単核細胞を500μlの体積になるように濃縮した後、ラット由来のビトロネクチン(シグマ社製)でコートしたLab Tek 4ウエルのスライド・ガラス(Nalge Nunc社)上に投入して7日間37℃5%COインキュベーターで培養を行った。得られた細胞をアセチルLDL−DiI標識(Biomedical Technology社製)およびisolectinB4レクチン(Vector Lab社製)で染色し、EPCを蛍光顕微鏡下で同定した。結果を表2に示す。

その結果、SCGFの投与日数に比例して末梢血中のEPCの数が減少していることが明らかとなった。
実施例5 EPCの末梢血中への動員に及ぼすSCGFの影響(2)
マウス・ラットflk1およびマウスCD34はともにEPCの代表的な表面マーカーである。抗マウス・ラットflk1モノクローナル抗体および抗マウスCD34抗体を用いてEPCのFACSによる解析を行なった。
実施例7で取得した血液を溶血後、1% BSA(牛血清アルブミン)、0.01% NaNを含むHank’s Balanced Salt Solution(HBSS)で洗浄し、マウス血清中で30分間氷冷した。該細胞をphycoerythrin(PE)で標識した抗マウス・ラットflk1モノクローナル抗体(Pharmingen社製)またはビオチン標識した抗マウスCD34抗体(Pharmingen社製)を用いて染色した。
該抗体で染色した細胞はFacstar(Becton Dickinson製)を用いて解析を行った。結果を表3に示す。

その結果、EPCを含むCD34陽性細胞およびFlk1陽性細胞がSCGFの投与により顕著に減少することが明らかとなった。
実施例6 血管内皮系細胞の増殖に及ぼすSCGFの効果
ヒト微小血管内皮細胞(Human microvacular endothelial cells;以下、HMVECsと称す)は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human umbilical vein endothelial cells;以下、HUVECsと称す)に比べて未熟な血管前駆細胞を多く含んでいると考えられている。
HUVECs(Clonetics社製)およびHMVECs(Clonetics社製)を、それぞれフィブロネクチンでコートした培養皿上でEGMMV2増殖因子カクテル(Clonetics社製)、ヒトSCGFおよび5% FBS(Clonetics社製)を含むEBM−2培地(Clonetics社製)を用い、37℃7日間5%COインキュベーター内で培養した後、MTSアッセイにより細胞密度を測定した。結果を表4に示す。

その結果、HMVECsではSCGF濃度に依存して細胞の増殖が促進されたが、HUVECsではSCGFは細胞の増殖に影響を及ぼさなかった。
この結果は、SCGFによる血管形成阻害が血管内皮細胞の増殖を阻害することによらないことを示している。
実施例7 SCGFの末梢血単核細胞の増殖に及ぼす影響
単核細胞は以下の方法で取得した。なお、単核細胞には、骨髄幹細胞、EPCなどが含まれている。
採取したヒト末梢血から、シグマ社のHistopaque1077を用いた密度勾配遠心法により単核細胞を1×10個取得した。得られた単核細胞を、フィブロネクチンでコートした培養皿上でEGMMV2増殖因子カクテル(Clonetics社製)およびヒトSCGFおよび5% FBS(Clonetics社製)を含むEBM−2培地(Clonetics社製)で37℃4日間培養した後、MTSアッセイにより細胞密度を測定した。結果を表5に示す。

その結果、SCGFは単核細胞に対しては顕著な細胞増殖促進または抑制活性を持たないことが示された。
このことから、SCGFの血管形成阻害作用は、幹細胞や血管前駆細胞の増殖を阻害することに起因するのではなく、実施例4および5に示すように幹細胞や血管前駆細胞の末梢血への動員を阻害することに起因することが示唆された。
実施例8 血管内皮系細胞の遊走に及ぼすSCGFの効果
HMVECs、HUVECsおよび7日間培養したヒトEPCを、BoydenチャンバーおよびTranswellチャンバーを用いて解析を行なった。二つのチャンバーとの間を仕切る膜としては、ポリカーボネート製の膜に、0.1%のゼラチンおよび5μg/mlのヒトフィブロネクチンを一晩コートした後に乾燥を行なったものを用いた。
各細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、細胞密度が1×10/100μlになるように0.1%のBSAを含むEBM−2培地にけん濁し、チャンバーの上部に注入した。下部のチャンバーには0,1,10,100ng/mlの濃度のヒトSCGFをそれぞれ投入して6時間37℃の5%COインキュベータで静置した。遊走能は、ポリカーボネート膜を100%メタノールで固定した後、水で洗浄し、DAPIを含むVector Lab.社製のVectashieldマウント・メデイアで処理してスライド・ガラス上に乗せ、蛍光顕微鏡(オリンパス社製)で画像を取得し、フォトショップで細胞数を解析することにより測定した。結果を表6に示す。

その結果、SCGFはHMVECに対しては遊走を促進したが、HUVECに対しては影響を与えず、逆に7日間培養したEPCに対しては遊走を阻害した。
実施例9 HMVECsおよびHUVECsの管腔形成に対するSCGFの影響
1×10個のHUVECsまたはHMVECsを、SCGFを含む50μlのEBM−2培地にけん濁後、50μlのマトリゲルと混合して96ウェルの培養皿にそれぞれまいた。13時間37℃5%COインキュベーターで培養後、顕微鏡下で1ウェルあたりに形成された血管様チューブ数を数えた。血管様チューブの存在は管腔形成を示している。結果を表7に示す。

その結果、SCGFはHMVECsおよびHUVECsの管腔形成に影響を及ぼさなかった。
したがって、実施例3〜9の結果から、SCGFによる血管形成阻害は、血管内皮細胞等が関与するAngiogenesis(血管新生)ではなく、幹細胞や血管前駆細胞等が関与するVasculogenesis(脈管新生)の特異的阻害に起因することが明らかになった。
実施例10 SCGF長期投与による末梢血への影響
オスのC57BL/6Jマウスに、5μgのヒトSCGFを1日1回、21日間投与した。投与終了翌日、心臓より全血を採取し、血球算定および血液像解析を行った。血球算定の結果を表8に示す。

その結果、SCGF投与による白血球数の減少が確認された。
血液像解析の結果を表9に示す。

その結果、白血球のうち顆粒球の一種である好中球および単球数の減少が確認された。
以上の結果は、SCGF長期間投与により、単球・顆粒球前駆細胞(GMP)の末梢血への動員が阻害されることを示している。
【産業上の利用可能性】
本発明のSCGFを有効成分として含有する骨髄幹細胞または前駆細胞などの接着性を有する細胞の末梢血中への動員を阻害する薬剤を用いることにより、癌をはじめとする血管形成の異常により病態が進行する疾患、動脈硬化などの疾患を治療することが可能となる。
【配列表】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞増殖因子(SCGF)を有効成分として含有する接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤。
【請求項2】
造血幹細胞増殖因子(SCGF)が、配列番号1記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
造血幹細胞増殖因子(SCGF)が、配列番号1記載のアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ造血幹細胞増殖活性を有する請求項1記載の薬剤。
【請求項4】
造血幹細胞増殖因子(SCGF)が、化学修飾された造血幹細胞増殖因子(SCGF)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
化学修飾がポリアルキレングリコール修飾である、請求項1記載の薬剤。
【請求項6】
接着性を有する細胞が成体多能性幹細胞である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項7】
接着性を有する細胞が骨髄中の接着性を有する多能性幹細胞または前駆細胞である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前駆細胞が、血管前駆細胞、単球・顆粒球共通前駆細胞および平滑筋前駆細胞からなる群から選ばれる細胞である、請求項7記載の薬剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする血管形成阻害剤。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする顆粒球・単球新生阻害剤。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする抗腫瘍剤。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする抗炎症剤。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする動脈硬化治療剤。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の薬剤を有効成分とする血管形成の異常により病態が進行する疾患の治療剤。
【請求項15】
血管形成の異常により病態が進行する疾患が、固形腫瘍の増殖または転移形成、慢性関節リウマチ、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症および乾せんからなる群から選ばれる疾患である、請求項14記載の治療剤。
【請求項16】
造血幹細胞増殖因子(SCGF)を投与することを特徴とする、接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する方法。
【請求項17】
接着性を有する細胞の末梢血への動員を阻害する薬剤を製造するための造血幹細胞増殖因子(SCGF)の使用。

【国際公開番号】WO2005/025600
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513975(P2005−513975)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013593
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】