説明

接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体

【課題】金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着性樹脂組成物、ならびにそれを用いた接着性樹脂成形体及び接着性樹脂積層体を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物。前記接着性樹脂組成物から形成されるフィルムまたはシートからなる接着性樹脂成形体。前記接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が、基材の少なくとも片面に積層されてなる接着性樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有する接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼板、アルミニウム板、あるいは該金属板にメッキなど各種の表面処理を施した金属板などの、各種金属板の表面を被覆して保護するための保護フィルムとして、例えば、金属とのラミネート用フィルムが知られている(特許文献1)。また、ガラス板に対する接着性樹脂として、合わせガラス用中間膜が知られている(特許文献2)。
【0003】
特許文献1には、不飽和カルボン酸変性ポリプロピレン系樹脂よりなる接着層と、1層以上の延伸されたポリプロピレン系樹脂層よりなる、金属ラミネート用積層フィルムが開示されている。
しかし、特許文献1では、金属材料とのヒートシール条件として、ヒートシーラーにて金属材料側の温度を220℃とし、フィルム側の温度を90℃としている。このように、従来技術では、高温での熱圧着を行っても、優れた接着力が得られていない。このため、接着力を、さらに向上させるための改善が必要であるという問題があった。
【0004】
特許文献2には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酸変性ポリオレフィン、及び、無機微粒子を含有する合わせガラス用中間膜が開示されている。特に、酸変性ポリオレフィンの酸価が、10mgKOH/g以上であり、エチレン−酢酸ビニル共重合体100重量部に対して、酸変性ポリオレフィンを0.01〜5重量部含有すると、優れた接着性を得ることができるとしている。
しかし、特許文献2に開示された樹脂組成物では、酸変性ポリオレフィンの含有量が5重量部を越えると、合わせガラス用中間膜とガラス板との接着力が充分に得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−192672号公報
【特許文献2】特開2009−184887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着剤組成物は、知られていなかった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物を提供する。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基とが、グラフト重合されて得られるグラフト共重合体(G)を含有することが好ましい。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)が1〜15重量部の範囲内で含有することが好ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、酸変性ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とが、溶融グラフト重合されてなることが好ましい。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)が1〜15重量部の範囲内で含有するように、さらに、添加してなることが好ましい。
また、本発明は、前記接着性樹脂組成物から形成される、フィルムまたはシートからなる、接着性樹脂成形体を提供する。
また、本発明は、基材の少なくとも片面に、前記接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、容易に製造可能な接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、及び接着性樹脂積層体を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、好適な実施の形態に基づき、本発明を説明する。
本発明の接着性樹脂組成物は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする。
【0011】
〔酸変性ポリオレフィン樹脂(A)〕
本発明で用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂中にカルボキシル基や無水カルボン酸基を有する。好ましくは、ポリオレフィン系樹脂を、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したものである。酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性方法としては、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物などのラジカル重合開始剤の存在下で酸官能基含有モノマーをポリオレフィン樹脂と溶融混練する等のグラフト変性や、酸官能基含有モノマーとオレフィン類との共重合などが挙げられる。
【0012】
前記ポリオレフィン類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンまたはα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンまたはα−オレフィンとのブロック共重合体などが挙げられる。中でも、ホモポリプロピレン(ホモPP、プロピレン単独重合体)、プロピレン−エチレンのブロック共重合体(ブロックPP)、プロピレン−エチレンのランダム共重合体(ランダムPP)等のポリプロピレン系樹脂が好ましい。特に、ランダムPPが好ましい。
共重合する場合の前記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセン、α−オレフィン等のオレフィン系モノマーが挙げられる。
【0013】
酸官能基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合と、カルボン酸基またはカルボン酸無水物基とを、同一分子内に持つ化合物であり、各種の不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、またはジカルボン酸の酸無水物からなる。
カルボン酸基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸基含有モノマー)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、テトラヒドロフタル酸、エンド−ビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸(エンディック酸)などのα,β−不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。
カルボン酸無水物基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸無水物基含有モノマー)としては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水エンディック酸などの不飽和ジカルボン酸無水物モノマーが挙げられる。
これらの酸官能基含有モノマーは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)において、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
酸官能基含有モノマーのうち、より好ましくは、カルボン酸無水物基含有モノマーであり、より好ましくは、無水マレイン酸である。
酸変性に用いた酸官能基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、未反応の酸官能基含有モノマーを除去したものを、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として用いることが好ましい。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるプロピレン成分に関しては、該樹脂の耐熱性の観点により、プロピレン単位が過半量であることが好ましい。ここでいう過半量とは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に対するプロピレン成分が50重量%以上のことを意味する。したがって、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)としては、プロピレン単位が過半量である、酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0016】
〔エポキシ樹脂系化合物(B)〕
本発明で用いられるエポキシ樹脂系化合物(B)は、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有する化合物である。
前記エポキシ樹脂系化合物(B)としては、ポリヒドロキシポリエーテル、ポリヒドロキシポリエステル、ポリヒドロキシポリカーボネート、ポリヒドロキシポリアミド等の、多数の水酸基を有するポリマーに対する、グリシジル化等のエポキシ化により、1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものとした化合物が挙げられる。その具体例としては、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンとを反応させて合成される、フェノキシ樹脂であって、両末端にエポキシ基を有する、下記一般式(1)で表される、エポキシ樹脂系化合物が挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
一般式(1)において、置換基R,R’としては、各々独立して、水素原子またはメチル基、エチル基等のアルキル基が挙げられる。また、整数pは、1分子中に有する水酸基の個数(水酸基数)に等しい。
前記フェノキシ樹脂としては、一般式(1)におけるビスフェノール類の置換基R,R’が共にCHであるビスフェノールA(BPA)型のフェノキシ樹脂、R,R’が共にHであるビスフェノールF(BPF)型のフェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型とが共重合した、BPA/BPF共重合型のフェノキシ樹脂、R,R’の一方がCHであり、他方がHであるビスフェノールB型のフェノキシ樹脂、などが挙げられる。また、ビスフェノール型のエポキシ樹脂は、フェノキシ樹脂と同じく、上記一般式(1)で表されることから、比較的高分子量で、水酸基数pが大きいものを選定して用いることができる。
【0019】
前記フェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、約3,000(ビスフェノールA型の場合、水酸基数pが約10)以上が好ましく、約15,000(ビスフェノールA型の場合、水酸基数pが約50)、約20,000(ビスフェノールA型の場合、水酸基数pが約70)、また、さらに高分子量のものも使用できる。
フェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂の平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、80,000程度(ビスフェノールA型の場合、水酸基数pが約280)であると好ましい。なお、フェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂の平均分子量をGPCによって求める場合には、例えば、GPCの溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)が用いられ、カラムとしては、TSKgel G4000HとTSKgel G3000H(いずれも東ソー株式会社製、商品名)を連結したものを用いて求めることができる。
【0020】
このようなフェノキシ樹脂としては、新日鐵化学株式会社製の商品名:YP−50(Mwは60,000〜80,000、BPA型、水酸基数pは約210〜280)、YP−50S(Mwは50,000〜70,000、BPA型、水酸基数pは約175〜245)、YP−55U(Mwは40,000〜45,000、BPA型、水酸基数pは約140〜160)、YP−70(Mwは50,000〜60,000、BPA/BPF共重合型)、ZX−1356−2(Mwは60,000〜80,000、BPA/BPF共重合型)、FX−316(Mwは40,000〜60,000、BPF型)等;三菱化学株式会社製のフェノキシタイプのグレード1256(分子量約50000、BPA型)、同4250(分子量約60000、BPA/BPF共重合型)、同4275(分子量約60000、BPA/BPF共重合型)、1255HX30、YX8100BH30、YX6954BH30等;巴工業株式会社製のPKHB、PKHC、PKHH、PKHJ等が挙げられる。
また、エポキシ樹脂としては、新日鐵化学株式会社製の商品名:YD−020G(エポキシ当量3500〜4500、BPA型)等;三菱化学株式会社製のグレード1010(平均分子量5500、BPA型、エポキシ当量3000〜5000)、同1009(平均分子量3800、BPA型、エポキシ当量2400〜3300)等が挙げられる。
【0021】
本発明の接着性樹脂組成物は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)のエポキシ基や水酸基が、被着体に対する接着性官能基として機能することにより、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有する。
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)は、1〜15重量部の範囲内で含有することが好ましい。前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のポリオレフィン部分による、極性の低いプラスチックに対する親和力と、前記接着性官能基による、金属やガラスなどの異種材料に対する親和力とが、好適なバランスを有するものとなり、金属やガラスなどの異種材料と接着するときに加えて、ポリオレフィン等の、極性の低いプラスチックと接着するときにも、優れた接着力を有する。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基とが、加熱によって容易に反応するので、他にこれらの官能基と反応し得る硬化剤等を配合する必要はない。
【0022】
〔グラフト共重合体(G)〕
本発明の接着性樹脂組成物においては、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基とが、グラフト重合されて得られるグラフト共重合体(G)を含有することが好ましい。該グラフト共重合体(G)によれば、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とが、グラフト重合することにより、両者の分離を防ぎ、酸官能基や水酸基の相乗効果により、優れた接着力を有することができる。
【0023】
前記グラフト共重合体(G)は、前記エポキシ樹脂系化合物(B)に由来するエポキシ基を有することが好ましい。この場合、前記グラフト共重合体(G)として、酸官能基や水酸基とともに、エポキシ基による接着力の改善効果を得ることができる。
本発明に用いられるグラフト共重合体(G)は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を85〜99質量%と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)を1〜15質量%との比率で配合し、グラフト重合させて得たものが好ましい。
【0024】
前記グラフト共重合体(G)は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とが、溶融グラフト重合されてなることが好ましい。
この溶融グラフト重合は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とを含有する前記接着性樹脂組成物を、溶融混練により、装置内でグラフト重合するものである。溶融混練の装置としては、一軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、プラストミル、加熱ロールニーダーなどを使用することができる。
溶融グラフト重合の際における、グラフト共重合体(G)中のエポキシ基の分解を抑制するため、水分など、エポキシ基と反応し得る揮発成分は、装置外へ除去、排出することが望ましい。
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、酸官能基として、酸無水物基を有する場合、
前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基との反応性が高く、より穏和な条件下で、グラフト重合が可能になるため、好ましい。
【0025】
溶融混練時の加熱温度は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)及び前記エポキシ樹脂系化合物(B)が充分に溶融し、かつ熱分解しないという点で、130〜300℃の範囲内から選択することが好ましい。前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)がポリプロピレン系のものである場合、180〜300℃が好ましい。
なお、混練温度は、溶融混練の装置から押し出された直後における、溶融状態の接着性樹脂組成物に、熱電対を接触させる等の方法によって、測定することが可能である。
【0026】
〔熱可塑性エラストマー樹脂(C)〕
本発明の接着性樹脂組成物は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)及び前記エポキシ樹脂系化合物(B)、またはそれらのグラフト共重合体(G)とともに、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を、含有することができる。
前記熱可塑性エラストマー樹脂(C)としては、スチレンエラストマー、スチレンブタジエン共重合体、エポキシ変性スチレンブタジエン共重合体、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体などが挙げられる。
前記熱可塑性エラストマー樹脂(C)を添加する場合、接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記熱可塑性エラストマー樹脂(C)が1〜15重量部の範囲内で含有することが好ましい。
【0027】
前記熱可塑性エラストマー樹脂(C)は、前記接着性樹脂組成物の溶融混練の条件下において、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)や、前記エポキシ樹脂系化合物(B)と反応しないものであれば、溶融混練の前に配合することもできる。この場合、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、前記エポキシ樹脂系化合物(B)、前記熱可塑性エラストマー樹脂(C)を含む混合物を溶融混練する際、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とを選択的に反応させ、前記グラフト共重合体(G)を含有する接着性樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
〔接着性樹脂層〕
本発明の接着性樹脂組成物は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とを必須成分とする、本発明の接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形する方法(1工程)により、接着性樹脂層を製造することが可能である。
本発明においては、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基や、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基及びエポキシ基が存在することにより、優れた接着力が得られる。特に、ベース樹脂である、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の融点(Tm)に近い、比較的低温の温度領域においても、優れた接着力が得られ、低温接着性が向上する。
【0029】
また、前記接着性樹脂組成物の溶融混練の際に、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とをグラフト重合することができるので、グラフト共重合体(G)の調製工程を別に設ける必要がなく、生産性に優れ、しかも、樹脂成分へのダメージを抑制することができる。
本発明の接着性樹脂組成物は、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた接着力を有しており、単純な組成からなり、接着性樹脂層を容易に製造可能である。
本発明の接着性樹脂組成物は、その他の添加剤として、充填剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、光吸収剤などを適宜添加することができる。
【0030】
〔被着体〕
本発明の接着性樹脂組成物を用いて接着することが可能な被着体としては、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体が挙げられる。被着体の形状は、特に限定されるものではなく、フィルム、シート、板、パネル、トレイ、ロッド(棒状体)、箱体、筐体等が挙げられる。
金属としては、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、クロムやその合金などが挙げられる。また、表面に金属メッキ層を有する複合材料にも適用でき、その場合のメッキの下地材は、メッキが可能な限り、特に限定されず、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の材質であってもよい。
ガラスとしては、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどが挙げられる。
プラスチックとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6(MXD6)、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリメタクリレート系樹脂(例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチルなどのポリニトリル系樹脂;酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体などのポリビニル系樹脂;などが挙げられる。
【0031】
〔接着性樹脂成形体〕
本発明の接着性樹脂成形体は、本発明の接着性樹脂組成物から形成され、フィルム、シート等の形状を有する成形体であり、接着性樹脂フィルムや、接着性樹脂シート等として用いることができる。
本発明の接着性樹脂成形体は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とを必須成分とする接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形により、フィルム、シート等の形状に成形する方法(1工程)で、製造することが可能である。
【0032】
本発明の接着性樹脂成形体は、例えば、下記の(1)〜(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
(1)被着体の片面に、接着性樹脂成形体を積層して接着する方法。
(2)被着体の両面に、それぞれ別の接着性樹脂成形体を積層して接着する方法。
(3)接着性樹脂成形体の両面に、それぞれ別の被着体を積層して接着する方法。
(4)複数の接着性樹脂成形体と、複数の被着体とを、交互に積層して接着する方法。
【0033】
〔接着性樹脂積層体〕
本発明の接着性樹脂積層体は、基材の少なくとも片面に、本発明の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなるものである。前記接着性樹脂層が、基材の片面または両面に設けられることにより、前記接着性樹脂層を用いて、被着体と接着することができる。基材としては、基材自体に接着性を有する必要はなく、前記接着性樹脂層と接着可能なものが好ましい。上述の被着体として例示したものと同様に、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の基材が挙げられる。
【0034】
本発明の接着性樹脂積層体は、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とを必須成分とする接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形により、前記接着性樹脂層を成形する方法(1工程)で、製造することが可能である。
基材が、熱可塑性樹脂からなる場合は、接着性樹脂組成物の押出成形を、共押出法により行うことが可能である。また、接着性樹脂組成物の押出成形を、押出ラミネート法によって行うことも、可能である。
【0035】
本発明の接着性樹脂積層体が、基材の片面のみに前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)または(2)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
また、本発明の接着性樹脂積層体が、基材の両面に前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)〜(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。
【0037】
(接着性樹脂フィルム)
表1に示す組成により、各実施例及び比較例の接着性樹脂フィルムを製造した。接着性樹脂フィルムの製造は、まず酸変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ基含有樹脂とエラストマー樹脂を溶融混練後、押出成形により所定の厚さのフィルム状に成形する方法により実施した。
【0038】
(接着強度の評価方法)
JIS Z 1526に準じて、各種の被着体に対する、接着性樹脂フィルムのヒートシール部の接着強度を、引張速度300mm/分、幅15mmにて測定した。
ヒートシール条件は、140℃、160℃、180℃のうちのいずれかの温度において、圧力0.2MPaで3秒間または7秒間、加熱及び加圧するものである。
被着体の厚みは、アルミ板、銅/ニッケルメッキ板、ガラス板、SUS板では、200μmである。また、コロナ処理ナイロンフィルムでは、25μmである。
被着体が、アルミ板、銅/ニッケルメッキ板、ガラス板、または、コロナ処理ナイロンフィルムである場合は、ヒートシール時間を3秒間とした。また、被着体が、SUS板(SUS:ステンレス鋼の一種)である場合は、ヒートシール時間を7秒間とした。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に、フィルム樹脂の組成(単位:質量%)を示す。
なお、表1において用いた略語の意味は、次のとおりである。
「MAH−PP」・・・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(ρ=0.896g/cm、Tm=140℃、MFR=7.0)
「エポキシ基含有樹脂(1)」・・・フェノキシ樹脂の「YP−55U」(ビスフェノールA型、重量平均分子量40000〜45000、新日鐡化学株式会社製、商品名)(1分子中の水酸基の数は、推定140〜160個)
「エラストマー樹脂」・・・エポキシ変性スチレンブタジエン共重合体の「エポフレンドAT501」(スチレンブタジエンブロック共重合体のエポキシ化合物、ダイセル化学工業株式会社製、商品名)
「エポキシ基含有樹脂(2)」・・・エポキシ樹脂の「エピコート1010」(ビスフェノールA型、重量平均分子量5500、三菱化学株式会社製、商品名)(1分子中の水酸基の数は、推定17個)
「エポキシ基含有樹脂(3)」・・・エポキシ樹脂の「エピコート1001」(ビスフェノールA型、重量平均分子量900、三菱化学株式会社製、商品名)(1分子中の水酸基の数は、推定2個)
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
表2〜6に示すように、本発明の実施例1〜6によれば、無水マレイン酸変性ポリプロピレンをベース樹脂(主成分)とする接着性樹脂フィルムにおいて、1分子中に多数の水酸基を有するエポキシ基含有樹脂(1)を使用したことにより、無水マレイン酸変性ポリプロピレンのみの場合(比較例1)や、1分子中の水酸基の数が少ないエポキシ基含有樹脂(2)をブレンドした場合(比較例2)よりも高い接着強度が得られた。特に、用いたMAH−PPのTmと同程度であり、比較的低温の、140℃や160℃でヒートシールしたときの接着強度が向上し、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体に対して、優れた低温接着性を有することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ基を1分子中に2つ以上有し、且つ、水酸基を1分子中に10以上有するエポキシ樹脂系化合物(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)の水酸基とが、グラフト重合されて得られるグラフト共重合体(G)を含有することを特徴とする請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、前記エポキシ樹脂系化合物(B)が1〜15重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1または2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、酸変性ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂系化合物(B)とが、溶融グラフト重合されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
接着性樹脂組成物の固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)が1〜15重量部の範囲内で含有するように、さらに、添加してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の接着性樹脂組成物から形成される、フィルムまたはシートからなる、接着性樹脂成形体。
【請求項8】
基材の少なくとも片面に、請求項1〜6のいずれかに記載の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層が積層されてなる、接着性樹脂積層体。

【公開番号】特開2013−91702(P2013−91702A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234000(P2011−234000)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】