説明

接着性積層体及びその製造方法

【課題】機械乳化法によって得られた熱可塑性樹脂水性分散液からなる接着剤層と密着性が良好で、かつ凝集を起さないプライマー層で構成される接着性積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】基材上に接着剤層を積層した接着性積層体において、基材と接着剤層との間に、プライマー層を介在させ、プライマーからなる層が、両性高分子乳化剤を含む水溶液又は水性分散液に由来する層とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、接着性積層体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の樹脂製のシートやフィルムを積層する場合、共押出により製造する共押出法や、接着剤を介して、シートやフィルム同士を接合する接合法等が知られている。
【0003】
しかし、接合法を用いる場合、樹脂製フィルムやシート等の基材と接着剤層との密着性が不十分となる場合がある。
【0004】
そのため、一般に、樹脂製フィルムやシートに物理的処理及び/又は化学的処理を行って、その表面を改質してこれらの密着性を改良する方法が多く用いられている。
【0005】
物理的処理としては、コロナ処理・プラズマ処理・フレーム処理等がある。コロナ処理はフィルム表面に放電処理を行い、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させ、かつ粗面化するものである。プラズマ処理は、フィルム表面でガスを電離させて生じた粒子の電荷を利用して、極性を持つカルボキシル基や水酸基を生成させるものである。
【0006】
また、フレーム処理(火炎処理)は、プロパンガスなどの可燃性ガスに酸素を吹き込みながらフィルム表面近傍で燃焼させ、酸化反応を起こして、上記のような極性基を生成させる方法である。
【0007】
さらに、化学的処理としては、フィルム表面を酸やアルカリなどで改質する方法があげられる。
【0008】
その他、基材と接着剤層との密着性を向上させるために両者の間にプライマー層を塗工することが多い。このようなプライマー層(アンカー層)として、特定の融点を持つポリオレフィン系熱可塑性樹脂を含む組成物を用いることが知られている(特許文献1)。
【0009】
また、ポリオレフィン系樹脂を、高分子入荷剤を用いて水系エマルジョン化することにより、造膜性及びヒートシール性に優れた塗膜が得られることが知られている(特許文献2)。
【0010】
水系エマルジョンを用いてプライマー層を形成すれば、水系エマルジョン接着剤を塗工する際に、生産性を高めるため、インライン(ウェットオンウェット)で塗工する方法を用いることもでき、更に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−213280号公報
【特許文献2】特開2009−172502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、接着剤層として熱可塑性樹脂水性分散液を使用した場合、プライマー層の成分によっては接着剤層が凝集や白化をおこすことがあった。
【0013】
そこで、この発明は、かかる問題点を解決し、熱可塑性樹脂水性分散液からなる接着剤層と密着性が良好で、かつ凝集を起さないプライマー層で構成される接着性積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、基材上に接着剤層を積層した接着性積層体において、上記の基材と接着剤層との間に、プライマー層を介在させ、上記プライマーからなる層が、両性高分子乳化剤を含む水溶液又は水性分散液に由来する層であることを特徴とすることにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、基材と接着剤に由来する層との間に、両性高分子乳化剤を含む水溶液又は水性分散液に由来するプライマーからなる層を介在させているので、接着剤層がどのような荷電状態であっても、接着剤層とプライマー層との間の電荷による結合を保持することができ、密着性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明について詳細に説明する。
この発明は、基材上に接着剤に由来する層(接着剤層)を積層した接着性積層体についての発明である。そして、上記の基材と接着剤層との間に、プライマーからなる層(プライマー層)が介在される。
【0017】
[1.接着剤層]
[(1)熱可塑性樹脂]
上記接着剤層は、皮膜としたときにヒートシール性を発揮する熱可塑性樹脂の水性分散液から形成される。この熱可塑性樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、オレフィン系モノマーの単独重合体又はその共重合体、その他の熱可塑性樹脂があげられる。
【0018】
上記のオレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィン類があげられる。
【0019】
また、上記のオレフィン系モノマーと共重合体を形成する場合に用いることができる共重合モノマーとしては、上記オレフィン系モノマーとして使用する以外のα−オレフィンや、オレフィン系モノマーとラジカル重合性を有するモノマーであればよく、中でもカルボシキル基又はその無水物基を含有するオレフィン系モノマーが好ましい。このようなモノマーとしては、酢酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸及びそのアルキルエステル類、(メタ)アクリル酸2−メトキシメチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル類、マレイン酸、イタコン酸等の重合性二塩基酸及びその無水物、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のアルキルアミノ(メタ)アクリルエステル類等があげられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリルまたはメタクリル」を意味する。
【0020】
上記オレフィン系モノマーの単独重合体又はその共重合体の具体例としては、低密度ポリエチレン等のポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体及びそのエステル、あるいはその塩、エチレン・メタクリル酸共重合体あるいはその塩、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体あるいはその塩、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル・無水マレイン酸共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体や、エチレンを主体とした結晶性エチレン系共重合体、ポリプロピレン、プロピレン・ヘキセン共重合体、プロピレン・ブテン共重合体や、プロピレンを主体とした結晶性プロピレン系共重合体、オレフィン系モノマーの単独重合体やその共重合体の無水マレイン酸変性重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン化ポリオレフィン、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン等があげられる。なお、本明細書において、「主体とする」、「主成分とする」とは、当該成分が、含有される各成分のうち含有割合が最も多い成分であることをいう。
【0021】
上記のその他の熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド類、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はその(部分)ケン化物、ポリカーボネート類等があげられる。
【0022】
これらの中でも、好ましくは、オレフィン系モノマーの単独重合体若しくはオレフィン系モノマー成分の含有率が50重量%以上の共重合体、又はこれらの無水マレイン酸変性重合体が好ましく用いられる。
【0023】
上記熱可塑性樹脂は、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。また、熱可塑性樹脂の性質を損なわない範囲で、添加剤を添加することができる。この添加剤としては、ワックス類、アミド化合物、粘着付与剤、微粉状シリカ等の滑剤(ブロッキング防止剤)等があげられる。上記粘着付与剤としては、ロジン及びその誘導体、テルペン及びその誘導体、脂肪族系炭化水素樹脂及びその誘導体等があげられる。
【0024】
上記のワックス類としては、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、カルナバワックス、フィッシャートロプスワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス及びそれらの酸化物等があげられる。
上記のアミド化合物としては、ビスアマイド、低分子量ポリアミド、脂肪酸アミド等があげられる。
【0025】
上記熱可塑性樹脂水性分散液の調製方法は、上記の熱可塑性樹脂を水中に分散させることができれば特に限定されるものではなく、例えば、有機溶剤を用いた置換法、機械乳化分散法等があげられる。
【0026】
上記の有機溶剤を用いた置換法としては、例えば次に示す方法があげられる。まず、分散対象物質をトルエン等の溶解可能な有機溶剤に溶解し、次いで、これと乳化剤及び水等の水系媒体を混合する。そして、ホモミキサー等の高速撹拌機で攪拌して分散対象物質の含有機溶剤分散液を製造する。次いで、有機溶剤を減圧蒸留等の操作によって脱溶剤することにより、熱可塑性樹脂の水性分散液が得られる。
【0027】
上記の水等の水系媒体とは、水や、水とメタノール、エタノール等の水と相溶可能な有機溶媒との混合溶液をいう。この水と相溶可能な有機溶媒としては、上記メタノール、エタノール以外に、例えば、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、メチルモノグライム、メチルジグライム、メチルトリグライム、メチルテトラグライム、エチルモノグライム、エチルジグライム、ジアセトングリコール等があげられる。この中でも、特に、環境的な側面から水を用いるのが好ましい。
【0028】
また、上記機械乳化分散法とは、押出機やニーダー、インクロール等の混練機を用いて、熱可塑性樹脂を乳化剤及び水等の水系媒体の存在下で混練して乳化・分散する方法や、混練に代えて、ホモジナイザー、ディスパー等を用いて均質化処理を行ったりする方法をいう。
【0029】
上記押出機としては、単軸、二軸以上の多軸の押出機があるが、混練の程度や効率等から、二軸の押出機が好ましい。
【0030】
この押出機により機械乳化をする方法としては、具体的には、まず、上記押出機に、上記熱可塑性樹脂を投入する。押出機に樹脂を投入する位置は、ホッパーやベント口からでよい。そして、別のベント口から、上記乳化剤水溶液を投入して混合し、乳化させる。
【0031】
上記押出機のシリンダー温度は、80〜270℃がよい。また、処理時間は、20秒間〜数分間で十分である。
【0032】
[(2)乳化剤]
上記熱可塑性樹脂を乳化・分散するための乳化剤としては、高分子乳化剤を用いることが好ましい。この高分子乳化剤としては、アニオン性を示す高分子共重合体のアルカリ中和物、カチオン性を示す高分子共重合体の酸中和物、アニオン性とカチオン性を有する両性高分子乳化剤の中和物等があげられる。
【0033】
上記アニオン性を示す高分子乳化剤としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、酸性リン酸基などを有するものが用いられる。例えば、スルホン酸基含有単量体として、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。また、酸性リン酸エステル基含有単量体として、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等が挙げられる。
【0034】
カルボキシル基含有単量体として好ましい単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、シトラコン酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
【0035】
上記アニオン性高分子乳化剤中のアニオン性単量体由来の構造単位の含有量は、共重合成分として5モル%以上が必要で、10モル%以上が好ましい。5モル%より少ないと、高分子乳化剤としての安定化効果が低下する。一方、含有割合の上限は80モル%がよく、70モル%が好ましい。80モル%より多いと熱可塑性樹脂水性分散液の安定化効果が低下する傾向があり、さらには、得られる熱可塑性樹脂水性分散液の耐水性が低下し、また、乾燥皮膜が硬くなるため、低温でのヒートシール性が低下したり、乾燥皮膜が、白濁したりする。
【0036】
また、上記アニオン性を示す官能基を、アルカリ性物質からなる中和剤で中和してもよい。この中和剤としては、アンモニアや水酸化ナトリウム等があげられる。中和剤は、アニオン性を示す官能基に対して60モル%〜150モル%使用することが望ましい。この範囲未満であったり、この範囲を超えて多く使用すると、いずれの場合も熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
【0037】
これらの中でも、アニオン性高分子乳化剤として、特に好ましいものとしては、熱可塑性樹脂水性分散液から得られる皮膜の耐水性の観点から、皮膜に残存しにくい蒸気圧の高い中和剤、例えば、アンモニアを用いて中和した(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体があげられる。なお、これらのアニオン性高分子乳化剤は、2種類以上を併用しても構わない。
【0038】
次に、上記カチオン性を示す高分子乳化剤としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート−アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド−アルキル(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。特に(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルのアルキルアミノ基で置換されるアルキル基の炭素数は1〜6の範囲にあることが好ましい。そして、このような(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルの例としては、(メタ)アクリル酸N,N―ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等が挙げられる。
【0039】
これらの中でも、熱可塑性樹脂水性分散液から得られる皮膜の耐水性の観点から、皮膜に残留しにくい蒸気圧の高い中和剤、例えば、蟻酸、酢酸を用いて中和した(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、カチオン性高分子乳化剤としてより好ましい。中和剤は、カチオン性を示す官能基に対して60モル%〜150モル%使用することが望ましい。この範囲未満であったり、この範囲を超えて多く使用すると、いずれの場合も熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
【0040】
上記カチオン性高分子乳化剤中のカチオン性単量体由来の構造単位の含有量は、共重合性成分として1モル%以上が必要で、2モル%以上が好ましい。1モル%よりも少ないと分散安定性が低下する傾向がある。一方、含有割合の上限は85モル%がよく、80モル%が好ましい。85モル%より多いと、分散安定化効果が低下することがある。
【0041】
次に、上記両性高分子乳化剤は、(メタ)アクリル酸を主成分とするアニオン性単量体と(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルを主成分とするカチオン性単量体とを少なくとも含有する単量体混合物を共重合して得られる両性の高分子乳化剤である。なお、前述の通り、本明細書において「主成分」とは、含有する各成分のうち含有割合が最大の成分をいう。
【0042】
上記のアニオン性単量体とカチオン性単量体の合計モル比率は全単量体の25〜50モル%が好ましい。
【0043】
アニオン性単量体とカチオン性単量体とのモル比率が50/50にならない場合は、得られる高分子乳化剤は、より多い方の単量体に由来するイオン性を示す。
【0044】
両性高分子乳化剤においても、アニオン性を示す官能基をアンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリ性物質からなる中和剤で、またカチオン性を示す官能基を、蟻酸や酢酸等の酸性物質からなる中和剤で、それぞれ中和してもよい。いずれの場合も中和剤の使用量は、アニオン性又はカチオン性を示す官能基に対して60モル%〜150モル%使用することが望ましい。この範囲未満であったり、この範囲を超過したりすると、いずれの場合も熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。
なお、これらの両性高分子乳化剤は、2種類以上を併用しても構わない。
【0045】
上記の高分子乳化剤を構成する共重合体は、各成分をそれぞれ秤量し、次に、重合器に各成分を個別に添加して重合するか、または各単量体をあらかじめ混合した上で重合器に添加して重合する等、常法に従って重合を行うことにより、所望の共重合体を製造することが出来る。この共重合反応は、重合開始剤の存在下に0〜180℃、好ましくは40〜120℃で0.5〜20時間の条件で行われる。この共重合はエタノール、イソプロパノール、セロソルブなどの親水性溶媒や水の存在下で行うのが好ましい。
【0046】
上記高分子乳化剤の使用量は、得られる分散液の安定性、及び得られる皮膜の耐水性の面で、熱可塑性樹脂100重量部に対して2〜40重量部が好ましい。さらに好ましくは2〜20重量部である。2重量部未満であると熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が低下するおそれがある。40重量部を超えると得られる皮膜の耐水性が低下すると同時にヒートシール性も低下するおそれがある。
【0047】
上記高分子乳化剤の重量平均分子量は5,000〜1,000,000の範囲が好ましい。5,000未満であると、熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が低下して分散が出来なくなる傾向がある。一方、1,000,000より大きくなると高分子乳化剤が水中に溶解しにくくなり、熱可塑性樹脂水性分散液の安定性が悪くなる傾向がある。より好ましい高分子乳化剤の重量平均分子量は8,000〜100,000、さらに好ましい重量平均分子量は10,000〜60,000である。
【0048】
なお、上記熱可塑性樹脂の水性分散液の乳化剤としては、高分子乳化剤を用いることが好ましいが、その効果を阻害しない範囲で低分子の乳化剤を併用してもよい。このような低分子乳化剤としては、アニオン系乳化剤として、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等があげられる。なお、ナトリウム塩以外にも、対応するカリウム塩やカルシウム塩等を用いてもよい。また、ノニオン系乳化剤として、通常、重量平均分子量5,000以下のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸等があげられる。さらに、両イオン性乳化剤として、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等があげられる。
【0049】
[2.プライマー層]
上記プライマーは、両性高分子乳化剤を含む水溶液又は水性分散液からなり、このプライマーからなる層は、これらの両性高分子乳化剤を含む水溶液又は水性分散液に由来する層である。
【0050】
このプライマーを構成する両性高分子乳化剤としては、前述したような両性高分子乳化剤を使用することができる。
【0051】
このプライマーは、上記基材に塗工されるが、好ましい塗工量は、0.01g/m以上が好ましく、0.05g/m以上がより好ましい。0.01g/mより少ないと、密着性向上の効果が少ない。一方、塗工量の上限は、10g/mが好ましく、1g/mがより好ましく、0.15g/mが更に好ましい。10g/mより多いと、コストに見合う性能が得られなくなる。なお、上記塗工量は、全て乾燥重量換算のものである。
【0052】
[3.基材]
上記基材としては、紙、樹脂製シート又はフィルム、金属箔等があげられる。また、この樹脂製シート又はフィルムとしては、ポリエステル系樹脂製シート又はフィルム、ポリプロピレン系樹脂製シート又はフィルム、多孔質ポリプロピレン系樹脂製シート又はフィルム等があげられ、上記の金属箔としてはアルミ箔等があげられる。これらの基材は、表面がアニオン性を有するので、接着剤、特にアニオン性の乳化剤を有する接着剤を塗工する場合、上記プライマー層を介在させることにより、上記の基材と接着剤層との密着性をより向上させることができる。
【0053】
この発明にかかる接着性積層体は、上記基材上にプライマーを塗工し、次いで、接着剤を塗工することにより製造することができる。この塗工方法としては、塗布、浸漬、噴霧等の方法があげられる。
【0054】
また、上記基材上に上記プライマー層及び上記接着剤層を順次形成する際、上記プライマー層への上記接着剤層の塗工を、プライマー層の水分が5〜60重量%残存する状態で行うことが好ましい。5重量%より少ないと、インラインで塗工する時に乾燥速度を上げられず実生産に適さない。一方60重量%より多いと、乾燥性が悪いため、接着剤層を塗工すると、プライマー層と接着剤層とが混合して接着性能が不安定になることがある。なお、残存水分量のより好ましい範囲は、10〜50重量%である。
【0055】
この発明にかかる接着性積層体は、外層の一面にヒートシール性を持つ接着剤層を有するので、ヒートシール性シートとして使用することが可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を用いて、この発明をより具体的に説明する。まず、評価方法及び使用した原材料について説明する。
【0057】
<評価方法>
<高分子乳化剤の測定方法>
[中和度]
カチオン性高分子乳化剤は、中和に使用した酸性成分(例えば酢酸)のモル数を、重合体中のアルカリ性単量体成分(例えばN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等)の合計モル数で除して、百分率(%)で示す。
【0058】
[固形分]
水性分散液約1gを精秤し熱風循環乾燥機にて105℃にて3時間乾燥させた後、デシケーターの中で放冷しその重量を測定した。そして、下記の式に従い、固形分を算出した。
固形分(重量%)=(乾燥後の試料の重量/乾燥前の試料の重量)×100
【0059】
[重量平均分子量]
高分子乳化剤の重量平均分子量は、以下の手順に従ってゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定した。
1)サンプル調整
サンプルを室温で24時間乾燥した後、常温にて5時間減圧乾燥した(真空乾燥機LHV−122(タバイエスペック(株)製)使用)。
乾燥後のサンプルを、クロロホルム/メタノール混合液中で、エステル化剤(トリメチルシリルジアゾメタンのヘキサン溶液)を加え、サンプルが溶解するまで室温で撹拌を行った(48〜72時間)。続いて、室温で乾燥した後、得られた重合体サンプルをテトラヒドロフラン(THF)に溶解して0.2重量%溶液として、これを測定試料とした。
2)GPC測定
上記のようにして調製した測定試料を、島津製作所(株)製:GPC−6Aを使用し、下記の条件で測定した。
・流速:1ml/min
・展開溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
・カラム:PLゲル10μmミックスB(ポリマー・ラボラトリー社製)
・標準試料:単分散PS(ポリマー・ラボラトリー社製)
・リファレンス:Sumilizer BHT(住友化学(株)製、分子量:220)
・検出器:RI、UV
【0060】
<熱可塑性樹脂水性分散液の測定方法>
[固形分]
上記の高分子乳化剤の固形分測定方法と同様の方法で測定した。
【0061】
[粘度]
水性分散液約400gを500mlのポリエチレン製瓶に入れて、蓋をした後、25℃の恒温槽に3時間放置して、温度が25℃になったところで、B型粘度計(TOKI SANGYO Co.製、TV−10M型)で粘度を測定した。
【0062】
[体積平均粒子径]
レーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2100)を用いて体積平均粒子径を測定した。
【0063】
<積層体>
[塗布外観]
プライマー層を0.1g/m(乾燥重量換算)塗布後、さらに接着剤層を4g/m(乾燥重量換算)となるように塗布し、80℃、1分間の条件下で乾燥した。
得られた乾燥フィルムを、目視にて外観を下記の基準で判断した。
○…良好であった。
×…凝集による皮膜白化が生じた。
【0064】
[接着強度]
上記塗布外観の評価のための乾燥フィルム製造法と同様の方法で調製した2枚の積層体を用いて試験をした。
まず、一方の積層体をその接着剤層が上方に向くように置き、そして、もう一方の積層体の接着剤層が一方の接着剤層と重なるようにして載せた。
その後、ヒートシールテスター(テスター産業(株)製:TP−701−A、条件:100℃×3秒間、圧力0.2MPa)を用いてヒートシールした。
ヒートシール後の熱圧着フィルムを室温まで放冷した後、カッターナイフを用いて15mm巾に切り出して接着強度用の試料とした。
恒温恒湿室(23℃/50%RH)条件下で1晩養生後、接着力試験機(ミネベア(株)製、PT−200N)を用いて、所定の剥離条件(200mm/min、剥離角180°)で剥離試験を実施した。
【0065】
[剥離状態]
接着強度測定後の剥離試料の剥離部分を目視にて、下記の基準で評価した。
○…接着剤層が凝集剥離した。
×セ…接着剤層とプライマー層との間で界面剥離した。
×キ…基材とプライマー層との間で界面剥離した。
【0066】
〔高分子乳化剤の製造例〕
(製造例1〜3)
冷却器、窒素導入管、攪拌機及びモノマー滴下ロート及び加熱用のジャケットを装備した150L反応器に攪拌下、表1に記した各成分を所定量仕込み、窒素置換後、内温を80℃まで上昇させた。更に、表1に記載の量の重合開始剤(2,2′−アゾビスイソブチロニトリル)を添加して、重合を開始した。温度を80℃に保って4時間重合を継続させた。次いで、得られた共重合体を表1に記載の量の中和剤で中和した後、イソプロパノール(IPA)を留去しながら水を添加して置換し、粘稠なアクリル系共重合体からなる両性系高分子乳化剤(製造例1)の中和物、カチオン性高分子乳化剤(製造例2)、アニオン性高分子乳化剤(製造例3)(以下、「A」(製造例1)、「B」(製造例2)、「C」(製造例3)と称する。)を得た(収率はいずれも97%)。
【0067】
【表1】

【0068】
[成分を構成する各単量体]
((メタ)アクリル酸)
・アクリル酸…三菱化学(株)製、以下「AA」と略する。
・メタクリル酸…三菱レイヨン(株)製、以下「MAA」と略する。
【0069】
((メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル)
・N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート…三洋化成工業(株)製、メタクリレートDMA、以下「DMA」と略する。
【0070】
(他の共重合単量体)
・メチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「MMA」と略する。
・ラウリルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下「SLMA」と略する。
・ブチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下、「BMA」と略する。
【0071】
[その他]
・イソプロパノール…(株)トクヤマ製:トクソーIPA(登録商標)、以下「IPA」と略する。
【0072】
〔熱可塑性樹脂水性分散液の製造例1〜2〕
エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポン・ポリケミカル(株)製;商品名 エバフレックス220、酢酸ビニル含有量28重量%)70重量部、エチレン−メタクリル酸共重合体(三井デュポン・ポリケミカル(株)製;商品名 ニュクレル N1050H、メタクリル酸含有量10重量%)30重量部を混合して、二軸押出機(池貝鉄鋼社製;型式番号PCM45 L/D=30、注入口 2箇所)のホッパーから、100重量部/時間の割合で押出機内に連続的に供給した。次いで、第1の注入口から、表1に示す高分子乳化剤水溶液を固形分換算で10重量部/時間、第2の注入口から水84重量部/時間を連続的に供給し、100℃の温度で押し出して乳白色の熱可塑性樹脂水性分散液を得た。表2に示す固形分濃度になるように、得られた水性分散液に温水を添加して調整した。その結果を表2に示す。
各イオン性高分子乳化剤で製造された熱可塑性樹脂水性分散液(以下、カチオン系「EM1」、アニオン系「EM2」と称する。)
【0073】
【表2】

【0074】
〔実施例1〜6、比較例1〜9〕
表3に示す基材の表面に、表3に示すプライマー層を形成する高分子乳化剤を、塗布量(乾燥重量換算)が0.1g/mとなるように塗布し、100℃の条件下で乾燥を行い、高分子乳化剤に含まれる水分量が10重量%となった段階で、表1に示す接着剤層を構成する熱可塑性樹脂水性分散液を、塗布量(乾燥重量換算)が4.0g/mとなるように塗布した。
次いで、100℃、20秒間乾燥し、接着性積層体を作製した。
得られた接着性積層体を用いて、上記の方法で塗布外観、接着強度、剥離状態の評価を行った。その結果を表3に併せて示す。
【0075】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に接着剤層を積層した接着性積層体において、
上記の基材と接着剤層との間に、プライマー層を介在させ、
上記プライマーからなる層が、両性高分子乳化剤を含む水溶液又は水性分散液に由来する層であることを特徴とする接着性積層体。
【請求項2】
上記両性高分子乳化剤が、(メタ)アクリル酸を主成分とするアニオン性単量体と、(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルを主成分とするカチオン性単量体とを少なくとも含有する単量体混合物を重合して得られる高分子乳化剤であることを特徴とする請求項1に記載の接着性積層体。
【請求項3】
上記両性高分子乳化剤の重量平均分子量が5,000以上1,000,000以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接着性積層体。
【請求項4】
上記基材が、紙、樹脂製シート又はフィルム及び金属箔から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の接着性積層体。
【請求項5】
上記基材が、ポリエステル系樹脂製シート又はフィルム、ポリプロピレン系樹脂製シート又はフィルム、多孔質ポリプロピレン系樹脂製シート又はフィルム、及びアルミ箔から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載の接着性積層体。
【請求項6】
上記接着剤層は、機械乳化分散法によって得られた熱可塑性樹脂水性分散液に由来する層であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の接着性積層体。
【請求項7】
上記熱可塑性樹脂水性分散液が、オレフィン系モノマーの単独重合体若しくはオレフィン系モノマー成分の含有率が50重量%以上の共重合体、又はこれらの無水マレイン酸変性重合体を、高分子乳化剤を用いて乳化分散させたものである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の接着性積層体。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の接着性積層体からなるヒートシール性シート。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の接着性積層体を製造する方法であって、
上記基材上に上記プライマー層及び上記接着剤層を順次形成する際に、上記プライマー層への上記接着剤層の塗工を、プライマー層の水分が5〜60重量%残存する状態で行うことを特徴とする接着性積層体の製造方法。

【公開番号】特開2013−35955(P2013−35955A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173849(P2011−173849)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】