説明

接着接合部材及び該部材の製造方法

【課題】第1及び第2の被着部材を連鎖硬化接着剤により互いに接合する場合に、その連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応が途中で止まらないようにして、連鎖硬化接着剤全体を確実に硬化させる。
【解決手段】両被着部材2,3のうちの少なくとも一方の被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部5を形成し、両被着部材2,3の被着接合部6,7間には、第1の連鎖硬化接着剤8を被着接合部延設方向に沿って連続して設け、上記凹状部5には、第2の連鎖硬化接着剤9を、第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向全体に接触しかつ第2の連鎖硬化接着剤9の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1及び第2の被着部材が、該両被着部材にそれぞれ延設された被着接合部にて連鎖硬化接着剤により互いに接合されてなる接着接合部材及び該部材の製造方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1に示されているように、光や熱エネルギーを付与した際に、該エネルギー付与部分が硬化反応して硬化反応熱を発生しかつ該硬化反応熱により該硬化反応部分に隣接する部分が硬化反応して硬化反応熱を発生することで、連鎖硬化反応する連鎖硬化ポリマーが知られている。この連鎖硬化ポリマーは、例えば、エポキシ樹脂と、芳香族スルホニウム塩等の光・熱硬化開始剤と、スルホニウム塩等の熱硬化開始剤とを含有し、エネルギーの付与により樹脂内部にカチオン及び硬化反応熱を連続的に発生させることで、樹脂を連鎖硬化反応させる。そして、特許文献1には、上記連鎖硬化ポリマーを、接着剤として用いることが可能であることが示されている。
【特許文献1】特開平11−193322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記連鎖硬化ポリマーを接着剤として用いて、車両の車体等を構成する第1及び第2の被着部材を互いに接着接合するようにすることが考えられる。すなわち、第1及び第2の被着部材に、フランジ部等の被着接合部をそれぞれ延設しておき、その両被着部材の被着接合部間に、接着剤としての連鎖硬化ポリマーである連鎖硬化接着剤を配設し、この連鎖硬化接着剤の一部に光や熱エネルギーを付与して、該連鎖硬化接着剤を連鎖硬化反応させることで、連鎖硬化接着剤全体を硬化させる。こうすれば、エネルギー付与から連鎖硬化接着剤全体が硬化するまでの時間が数十秒程度と短くて接着工程を短縮することができるとともに、連鎖硬化接着剤全体を硬化させるために車体部材全体を加熱する必要がなくて、接合のための設備等を簡略化することができるようになる。また、両被着部材同士が連続的に接合されることで、両被着部材が互いに接合されてなる接着接合部材の剛性を、スポット的に接合する場合に比べて向上させることができ、結果的に車体部材を薄肉化して軽量化を図ることができるようになる。
【0004】
しかし、上記のように第1及び第2の被着部材を連鎖硬化接着剤により互いに接合する場合、該両被着部材の少なくとも一方の被着接合部に連鎖硬化接着剤を塗布して両被着部材の被着接合部同士を合わせたときに、連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の一部に切れ目が生じていたとすると、その切れ目の部分で連鎖硬化反応が途中で止まって、連鎖硬化接着剤全体を硬化させることができなくなってしまうという問題が生じる。また、たとえ連鎖硬化接着剤に切れ目が生じていなくても、被着部材や被着部材をクランプするクランプ部材に硬化反応熱が奪われて、連鎖硬化反応が途中で止まってしまう可能性がある。特に被着接合部間の隙間量が小さい場合には、被着接合部間の連鎖硬化接着剤が少量になるために、連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の一部に切れ目が生じたり、被着部材やクランプ部材に硬化反応熱の多くが奪われたりし易くなり、この結果、連鎖硬化反応が途中で止まってしまう可能性が高くなる。このように連鎖硬化反応が途中で止まってしまうと、未接着の部分が生じ、所望の接着強度が得られなくなってしまう。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第1及び第2の被着部材を連鎖硬化接着剤により互いに接合する場合に、その連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応が途中で止まらないようにして、連鎖硬化接着剤全体を確実に硬化させるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部を形成し、両被着部材の被着接合部間には、第1の連鎖硬化接着剤を被着接合部延設方向に沿って連続して設け、上記凹状部には、上記第1の連鎖硬化接着剤と同じか又は異なる第2の連鎖硬化接着剤を、上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して設けるようにした。
【0007】
具体的には、請求項1の発明では、第1及び第2の被着部材が、該両被着部材にそれぞれ延設された被着接合部にて接着剤により互いに接合されてなる接着接合部材を対象とする。
【0008】
そして、上記接着剤は、該接着剤の一部にエネルギーを付与した際に、該エネルギー付与部分が硬化反応して硬化反応熱を発生しかつ該硬化反応熱により該硬化反応部分に隣接する部分が硬化反応して硬化反応熱を発生することで、連鎖硬化反応する連鎖硬化接着剤であって、上記エネルギーの付与により硬化したものであり、上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部が形成され、上記両被着部材の被着接合部間には、第1の連鎖硬化接着剤が被着接合部延設方向に沿って連続して設けられ、上記凹状部には、上記第1の連鎖硬化接着剤と同じか又は異なる第2の連鎖硬化接着剤が、上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して設けられているものとする。
【0009】
上記の構成により、凹状部に配設された第2の連鎖硬化接着剤が第1の連鎖硬化接着剤よりも多量にあり、この第2の連鎖硬化接着剤が第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しているので、被着接合部間の隙間量が小さくて第1の連鎖硬化接着剤が少量でも、第2の連鎖硬化接着剤により第1の連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応が途中で止まることなく確実に行われ、第2の連鎖硬化接着剤と共に第1の連鎖硬化接着剤全体を確実に硬化させるようにすることができる。
【0010】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記第1及び第2の連鎖硬化接着剤は、エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有し、上記第2の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量が上記第1の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量よりも小さいものとする。
【0011】
このことにより、第2の連鎖硬化接着剤では、硬化反応(カチオン重合)に必要なエポキシ基が多く存在することになり、第2の連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応が安定的に行われる。したがって、第1の連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応を確実に行わせるようにすることができる。
【0012】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、上記第1の連鎖硬化接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有し、上記第2の連鎖硬化接着剤は、脂環式エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものとする。
【0013】
このことにより、第2の連鎖硬化接着剤では、硬化反応(カチオン重合)が良好に行われて、第2の連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応が安定的に行われる。また、第1の連鎖硬化接着剤の接着強度が第2の連鎖硬化接着剤の接着強度よりも高くなるとともに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が、金属との密着性が良好な水酸基やベンゼン環を有するので、両被着部材が金属製である場合に特に高い接着強度が得られるようになる。
【0014】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、上記両被着部材は、該両被着部材の接合により互いに重ね合わされたフランジ部をそれぞれ有し、上記両被着部材の被着接合部は、該両被着部材におけるフランジ部の合わせ面の幅方向の一部に、該フランジ部の長さ方向に沿って延びるようにそれぞれ設けられたものであり、上記凹状部は、上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材のフランジ部の合わせ面に、該フランジ部の被着接合部に沿って延びるように形成されているものとする。
【0015】
このことで、フランジ部における被着接合部の近傍部に凹状部を容易に形成することができるとともに、第2の連鎖硬化接着剤を第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触させることが容易にできる。
【0016】
請求項5の発明では、請求項4の発明において、上記凹状部は、上記両被着部材のうちの一方の被着部材のみのフランジ部の合わせ面に形成されているものとする。
【0017】
こうすることで、被着部材の製造コストを低減することができる。
【0018】
請求項6の発明では、請求項4又は5の発明において、上記凹状部は、該凹状部が形成されたフランジ部の合わせ面の幅方向中央部に位置しているものとする。
【0019】
このことにより、フランジ部の合わせ面において凹状部の両側側方に被着接合部を設けて、接着強度を向上させることができる。また、両被着部材の被着接合部同士を合わせたときに、通常、凹状部に配設された第2の連鎖硬化接着剤が凹状部の両側に流出するが、凹状部がフランジ部の幅方向中央部に位置していることで、第2の連鎖硬化接着剤がフランジ部の外側へはみ出すのを防止することができる。この結果、両被着部材の少なくとも一方が外観部材である場合に、接着剤のはみ出しによる見映えの悪化を防止することができる。
【0020】
請求項7の発明は、第1及び第2の被着部材が、該両被着部材にそれぞれ延設された被着接合部にて接着剤により互いに接合されてなる接着接合部材の製造方法の発明であり、この発明では、上記接着剤は、該接着剤の一部にエネルギーを付与した際に、該エネルギー付与部分が硬化反応して硬化反応熱を発生しかつ該硬化反応熱により該硬化反応部分に隣接する部分が硬化反応して硬化反応熱を発生することで、連鎖硬化反応する連鎖硬化接着剤であり、上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材は、該被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部が形成されたものであり、上記両被着部材の被着接合部同士を合わせることで、該両被着部材の被着接合部間に第1の連鎖硬化接着剤が被着接合部延設方向に沿って連続して配置されかつ上記凹状部に、上記第1の連鎖硬化接着剤と同じか又は異なる第2の連鎖硬化接着剤が、上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して配置された状態とする被着接合部合わせ工程と、上記被着接合部合わせ工程後に、上記第2の連鎖硬化接着剤の所定箇所に上記エネルギーを付与することで、該第2の連鎖硬化接着剤を連鎖硬化反応させながら、上記第1の連鎖硬化接着剤を連鎖硬化反応させる連鎖硬化反応工程とを含むものとする。
【0021】
この発明により、両被着部材の被着接合部同士を合わせたときに、第1及び第2の連鎖硬化接着剤が請求項1の発明と同様に配置されることとなり、その後、第2の連鎖硬化接着剤の所定箇所に光や熱エネルギーを付与することで、第2の連鎖硬化接着剤が連鎖硬化反応し、これに伴い、第1の連鎖硬化接着剤も連鎖硬化反応する。このとき、凹状部に配置された第2の連鎖硬化接着剤は、第1の連鎖硬化接着剤よりも多量にあるので、第2の連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応は途中で止まることがなく確実に行われ、また、第2の連鎖硬化接着剤が第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しているので、被着接合部間の隙間量が小さくて第1の連鎖硬化接着剤が少量でも、第1の連鎖硬化接着剤の連鎖硬化反応も途中で止まることがなく確実に行われ、第1の連鎖硬化接着剤全体が硬化する。
【0022】
請求項8の発明では、請求項7の発明において、上記第1及び第2の連鎖硬化接着剤は、エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものであり、上記第2の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量が上記第1の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量よりも小さいものとする。このことで、請求項2の発明と同様の作用効果が得られる。
【0023】
請求項9の発明では、請求項7又は8の発明において、上記第1の連鎖硬化接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものであり、上記第2の連鎖硬化接着剤は、脂環式エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものであるとする。こうすることで、請求項3の発明と同様の作用効果が得られる。
【0024】
請求項10の発明では、請求項7〜9のいずれか1つの発明において、上記被着接合部合わせ工程前に、上記凹状部、又は凹状部が形成されていない被着部材における上記凹状部に対応する部分に、上記両連鎖硬化接着剤のうちの少なくとも第2の連鎖硬化接着剤を配置する接着剤配置工程を更に含み、上記被着接合部合わせ工程において、上記接着剤配置工程で配置された連鎖硬化接着剤の一部を上記両被着部材の被着接合部間に流入させるものとする。
【0025】
このことにより、第1及び第2の連鎖硬化接着剤が同じである場合、例えば、接着剤配置工程で、凹状部に両連鎖硬化接着剤(両連鎖硬化接着剤を互いに区別することはできない)を配置しておき、被着接合部合わせ工程で、凹状部に配置された連鎖硬化接着剤の一部を両被着部材の被着接合部間に流入させて、その被着接合部間に流入したものを第1の連鎖硬化接着剤とし、凹状部に残ったものを第2の連鎖硬化接着剤とするようにすれば、被着接合部合わせ工程での両連鎖硬化接着剤の配置を容易に行うことができる。また、接着剤配置工程においては、凹状部に連鎖硬化接着剤を配置するだけで済み、接着剤配置工程を簡略化することができる。一方、第1及び第2の連鎖硬化接着剤が異なる場合、例えば、接着剤配置工程で、両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材に、第1の連鎖硬化接着剤を配置し、凹状部に第2の連鎖硬化接着剤を配置しておき、被着接合部合わせ工程で、凹状部に配置された第2の連鎖硬化接着剤の一部を両被着部材の被着接合部間に流入させることで、第2の連鎖硬化接着剤を第1の連鎖硬化接着剤に確実に接触させるようにすることができる。
【0026】
請求項11の発明では、請求項7〜10のいずれか1つの発明において、上記両被着部材は、上記被着接合部合わせ工程で互いに重ね合わされるフランジ部をそれぞれ有し、上記両被着部材の被着接合部は、該両被着部材におけるフランジ部の合わせ面の幅方向の一部に、該フランジ部の長さ方向に沿って延びるようにそれぞれ設けられたものであり、上記凹状部は、上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材のフランジ部の合わせ面に、該フランジ部の被着接合部に沿って延びるように形成されたものであるとする。こうすることで、請求項4の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0027】
請求項12の発明では、請求項11の発明において、上記凹状部は、上記両被着部材のうちの一方の被着部材のみのフランジ部の合わせ面に形成されたものであるとする。このことで、請求項5の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0028】
請求項13の発明では、請求項11又は12の発明において、上記凹状部は、該凹状部が形成されたフランジ部の合わせ面の幅方向中央部に位置しているものとする。このことにより、請求項6の発明と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の接着接合部材及び該部材の製造方法によると、両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部を形成し、両被着部材の被着接合部間には、第1の連鎖硬化接着剤を被着接合部延設方向に沿って連続して設け、上記凹状部には、上記第1の連鎖硬化接着剤と同じか又は異なる第2の連鎖硬化接着剤を、上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して設けるようにしたことにより、第2の連鎖硬化接着剤と共に第1の連鎖硬化接着剤全体を確実に硬化させることができ、所望の接着強度が確実に得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る接着接合部材1を示し、この接着接合部材1は、第1及び第2の被着部材2,3が接着剤(後述の連鎖硬化接着剤)により互いに接合されてなるものである。本実施形態では、第1の被着部材2は、鋼やアルミニウムからなる金属製の車体アウタパネルであり、第2の被着部材3は、鋼やアルミニウムからなる金属製の車体インナパネルであり、これら両被着部材2,3が互いに接合されてなる接着接合部材1は、車両(自動車等)の車体の一部を構成していて、両被着部材2,3の長さ方向に連続して延びる閉断面部4を有している。尚、両被着部材2,3の少なくとも一方が樹脂製であってもよい。
【0032】
上記第1の被着部材2は、上記閉断面部4に沿って延びかつ該閉断面部4周囲の半分を構成する本体部2aと、この本体部2aの幅方向両側に、該本体部2aに沿って連続して延びるようにそれぞれ設けられた左右2つのフランジ部2b,2bとを有し、第2の被着部材3は、上記閉断面部4に沿って延びかつ該閉断面部4周囲の残りの半分を構成する本体部3aと、この本体部3aの幅方向両側に、該本体部3aに沿って連続して延びるようにそれぞれ設けられた左右2つのフランジ部3b,3bとを有している。そして、第1の被着部材2のフランジ部2bと第2の被着部材3のフランジ部3bとが互いに重ね合わされて(左側のフランジ部2b,3b同士が重ね合わされるとともに、右側のフランジ部2b,3b同士が重ね合わされる)、その両フランジ部2b,3bの合わせ面間に配設された接着剤(後述の第1及び第2連鎖硬化接着剤8,9)により、該両フランジ部2b,3bにて第1及び第2の被着部材2,3が互いに接合されている。尚、左右2つのフランジ部2b,2bの構成は同じであり、左右2つのフランジ部3b,3bの構成も同じであるので、以下、一方のフランジ部2b及び該フランジ部2bと重ね合わされるフランジ部3bについて説明する。
【0033】
図1及び図2に示すように、上記第1の被着部材2におけるフランジ部2bの合わせ面の幅方向(図2の左右方向)中央部には、該フランジ部2bの長さ方向(図2の紙面に垂直な方向)全体に亘って、フランジ部2bに沿って連続して延びる凹状部5が形成されている。本実施形態では、第1の被着部材2の板厚が小さいために、フランジ部2bの合わせ面とは反対側面には、上記凹状部5に対応して突出するビードが形成されていることになる。この凹状部5の断面形状は、フランジ部2bの長さ方向全体に亘って一定であるが、必ずしも一定である必要はない。
【0034】
上記接着剤は、該接着剤の一部に光(紫外線等)又は熱エネルギーを付与した際に、該エネルギー付与部分が硬化反応して硬化反応熱を発生しかつ該硬化反応熱により該硬化反応部分に隣接する部分が硬化反応して硬化反応熱を発生することで、連鎖硬化反応する連鎖硬化接着剤であって、上記エネルギーの付与により硬化したものである。この連鎖硬化接着剤は、エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有する。エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等がある。また、硬化開始剤は、芳香族スルホニウム塩等の光・熱硬化開始剤、及び、スルホニウム塩等の熱硬化開始剤を含む。そして、接着剤の所定箇所に上記エネルギーを付与することにより接着剤内部にカチオン及び硬化反応熱を連鎖的に発生させることで、接着剤を連鎖硬化反応させ、このことによって、接着剤全体を硬化させる。
【0035】
上記第1の被着部材2のフランジ部2bの合わせ面の幅方向の一部、具体的には該合わせ面における上記凹状部5の両側側方に位置する部分(該合わせ面における凹状部5を除く部分)が、第1の被着部材2の被着接合部6,6(図2参照)とされ、第2の被着部材3のフランジ部3bの合わせ面において上記第1の被着部材2の被着接合部6,6とそれぞれ対向する部分が、第2の被着部材3の被着接合部7,7(図2参照)とされている。このことで、被着接合部6は、第1の被着部材2のフランジ部2bに、該フランジ部2bの長さ方向に沿って連続して延設され、被着接合部7は、第2の被着部材3フランジ部3bに、該フランジ部3b長さ方向に沿って連続して延設されていることになる。また、凹状部5は、第1の被着部材2の被着接合部6の近傍部(本実施形態では、被着接合部6に隣接する部分)に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びるように形成されていることになる。
【0036】
図2に示すように、上記両被着部材2,3の被着接合部6,7間には、第1の連鎖硬化接着剤8が被着接合部延設方向に沿って連続して設けられている。また、上記凹状部5には、第2の連鎖硬化接着剤9が、上記第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向全体に接触するように、被着接合部延設方向に沿って連続して設けられている。この第2の連鎖硬化接着剤9の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量は、第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量(第2の連鎖硬化接着剤9の両側にそれぞれ位置する第1の連鎖硬化接着剤8のトータル分)よりも多くなる、言い換えれば、両連鎖硬化接着剤8,9を被着接合部延設方向と垂直な任意の1つの面に沿って同時に切断したとき、第2の連鎖硬化接着剤9の断面積が第1の連鎖硬化接着剤8の断面積よりも大きくなるようになされている。本実施形態では、第2の連鎖硬化接着剤9は第1の連鎖硬化接着剤8と同じものであり、被着接合部6,7間に位置するものを第1の連鎖硬化接着剤8とし、フランジ部2bの合わせ面における凹状部5とフランジ部3bの合わせ面における凹状部5(正確には凹状部5の開口)と対向する部分との間に位置するものを第2の連鎖硬化接着剤9としている。尚、被着接合部6,7及び両連鎖硬化接着剤8,9は、フランジ部2b,3bの長さ方向全体に亘って設けられている。
【0037】
上記両被着部材2,3の被着接合部6,7間の隙間量(第1の連鎖硬化接着剤8の厚み)は、フランジ部2b(3b)の長さ方向全体に亘って一定の所定値(0.01mm以上10mm以下であることが好ましい)に設定されている。上記凹状部5の両側にそれぞれ位置する被着接合部6(又は被着接合部7)のトータル幅は1mm以上30mm以下であることが好ましい。尚、上記隙間量は、フランジ部2b(3b)の長さ方向全体に亘って一定である必要はない。
【0038】
上記凹状部5の底面部(ビードの突出先端部)のフランジ部2b長さ方向の一部(本実施形態では、フランジ部2b長さ方向の中央部)には、開口部11(図1参照)が形成されており、上記第1及び第2の連鎖硬化接着剤8,9は、後述の如く該開口部11を介して上記エネルギーを第2の連鎖硬化接着剤9に付与することで、共に硬化したものである。
【0039】
次に、上記接着接合部材1を製造する方法を、図3及び図4に基づいて説明する。
【0040】
先ず、上記の如くフランジ部2b,3bや凹状部5等を形成した第1及び第2の被着部材2,3を用意し、図3(a)に示すように、第2の被着部材3を支持台15にセットする。このとき、第2の被着部材3のフランジ部3bの合わせ面は上方を向いており、該合わせ面とは反対側面が、支持台15の基部15aから上方に突出した支持部15bの上面に当接している。
【0041】
そして、上記第2の被着部材3のフランジ部3bの合わせ面において第1の被着部材2のフランジ部2bの凹状部5に対応する部分(第1の被着部材2のフランジ部2bの合わせ面と合わせたときに、該フランジ部2bの凹状部5と対向する部分、つまりフランジ部3bの幅方向中央部)に、第1及び第2の連鎖硬化接着剤8,9(本実施形態では、両者は同じであるため互いに区別することはできない)を被着接合部延設方向に沿って連続して塗布する。この塗布は、例えば、ロボットによって一定速度でフランジ部3b長さ方向に沿って移動するように構成されたノズルから接着剤を連続して吐出することで行い、両連鎖硬化接着剤8,9をフランジ部3b長さ方向全体に亘って塗布する。この塗布された連鎖硬化接着剤8,9の最大高さは、上記隙間量に凹状部5の深さを加えた値よりも大きい。
【0042】
続いて、図3(b)に示すように、第1及び第2の被着部材2,3におけるフランジ部2b,3bの合わせ面同士(被着接合部6,7同士)を合わせ、その後、フランジ部2b,3bをクランプ手段16のクランプ部材16aによりクランプする。すなわち、クランプ部材16aによりフランジ部2b,3bを上記支持部15bに押圧する。このとき、両被着部材2,3の被着接合部6,7間の隙間量が上記所定値になるように、例えば、第1及び第2の被着部材2,3に、互いに当接する当接部を設けておくようにする。尚、本実施形態では、上記クランプ部材16aはフランジ部2bにおける上記ビードの突出先端部(開口部11を除く部分)に当接させて押圧する。このように押圧しても、フランジ部2bの剛性がビードにより高くなっているために、フランジ部2bが撓まず、被着接合部延設方向全体に亘って、被着接合部6,7間の隙間量を上記所定値に維持することができる。
【0043】
上記フランジ部2b,3bの合わせ面同士を合わせる際、図4(a)〜(d)に示すように、上記両連鎖硬化接着剤8,9の一部を上記両被着部材2,3の被着接合部6,7間に流入させる。すなわち、第1の被着部材2を、第2の被着部材3の上側から下げていくと、第1の被着部材2のフランジ部2bの凹状部5に両連鎖硬化接着剤8,9が配置され、更に第1の被着部材2を下げていくと、連鎖硬化接着剤8,9の一部が両被着部材2,3の被着接合部6,7間に流入する。このように被着接合部6,7間に流入したものが第1の連鎖硬化接着剤8となり、凹状部5に配置されたものは第2の連鎖硬化接着剤9ということになる。この第2の連鎖硬化接着剤9は、第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向全体に接触していることになる。また、凹状部5の凹みにより、第2の連鎖硬化接着剤9の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が、第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなる。尚、フランジ部2b,3bの合わせ面同士を合わせる際には、閉塞部材で上記開口部11を閉塞しておくことが好ましい。
【0044】
上記フランジ部2b,3bの合わせ面同士を合わせる前において、両連鎖硬化接着剤8,9を第2の被着部材3のフランジ部3bの合わせ面に塗布する(この塗布方法を、第1の塗布方法という)代わりに、両連鎖硬化接着剤8,9を第1の被着部材2のフランジ部2bの凹状部5に塗布するようにしてもよい(この塗布方法を、第2の塗布方法という)。この第2の塗布方法では、第1の被着部材2を、フランジ部2bの合わせ面が上方を向くように支持台15にセットして、凹状部5に両連鎖硬化接着剤8,9を塗布する(尚、開口部11は、凹状部5の底面部に設けずに、第2の被着部材3のフランジ部3bにおいて上記凹状部5に対応する部分に設けておく)。この塗布された連鎖硬化接着剤8,9の最大高さは、上記第1の塗布方法と同じである。その後、フランジ部2b,3bの合わせ面同士を合わせることで、図5(a)〜(d)に示すように、上記凹状部5に配置された連鎖硬化接着剤8,9の一部を上記両被着部材2,3の被着接合部6,7間に流入させる。
【0045】
或いは、第1の被着部材2のフランジ部2bの被着接合部6に第1の連鎖硬化接着剤8を塗布するとともに、第1の被着部材2のフランジ部2bの凹状部5に第2の連鎖硬化接着剤9を塗布ようにしてもよい(この塗布方法を、第3の塗布方法という)。この第3の塗布方法も、フランジ部2b,3bの合わせ面同士を合わせる際に、凹状部5に配置された第2の連鎖硬化接着剤9の一部を両被着部材2,3の被着接合部6,7間に流入させるようにすれば、第2の連鎖硬化接着剤9を第1の連鎖硬化接着剤8に確実に接触させるようにすることができて好ましい(以下の第4乃至第6の塗布方法についても同様)。
【0046】
或いは、第2の被着部材3のフランジ部3bの被着接合部7に第1の連鎖硬化接着剤8を塗布するとともに、第2の被着部材3のフランジ部3bにおいて上記凹状部5に対応する部分に第2の連鎖硬化接着剤9を塗布するようにしてもよい(この塗布方法を、第4の塗布方法という)。
【0047】
或いは、第1の被着部材2のフランジ部2bの被着接合部6に第1の連鎖硬化接着剤8を塗布するとともに、第2の被着部材3のフランジ部3bにおいて上記凹状部5に対応する部分に第2の連鎖硬化接着剤9を塗布するようにしてもよい(この塗布方法を、第5の塗布方法という)。
【0048】
或いは、第2の被着部材3のフランジ部3bの被着接合部7に第1の連鎖硬化接着剤8を塗布するとともに、第1の被着部材2のフランジ部2bの凹状部5に第2の連鎖硬化接着剤9を塗布するようにしてもよい(この塗布方法を、第6の塗布方法という)。
【0049】
本実施形態のように第2の連鎖硬化接着剤9が第1の連鎖硬化接着剤8と同じである場合には、特に上記第1又は第2の塗布方法が好ましい。こうすることで、接着剤配置工程を簡略化することができる。次に好ましいのは、上記第3又は第4の塗布方法である。尚、第2の連鎖硬化接着剤9が連鎖硬化接着剤8と異なる場合も、上記第1乃至第6の塗布方法を採用することは可能であるが、被着接合部6,7間に第1の連鎖硬化接着剤8を確実に配置する観点から、上記第3又は第4の塗布方法が好ましい。
【0050】
このようにフランジ部2b,3bの合わせ面同士を合わせる(両被着部材2,3の被着接合部6,7同士を合わせる)ことで、被着接合部6,7間に第1の連鎖硬化接着剤8が被着接合部延設方向に沿って連続して配置されかつ上記凹状部5に、第2の連鎖硬化接着剤9が、上記第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤9の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して配置された状態とする。
【0051】
次いで、図3(c)に示すように、上記凹状部5の第2の連鎖硬化接着剤9の所定箇所(上記開口部11に対応する箇所)に、開口部11を介して光又は熱エネルギーを付与することで、第2の連鎖硬化接着剤9を連鎖硬化反応させながら、第1の連鎖硬化接着剤8を連鎖硬化反応させる。このとき、凹状部5の第2の連鎖硬化接着剤9は、第1の連鎖硬化接着剤8よりも多量にあるので、十分な硬化反応熱が発生して、クランプ手段16のクランプ部材16aに硬化反応熱の一部が奪われたとしても、第2の連鎖硬化接着剤9の連鎖硬化反応は途中で止まることがなく確実に行われる。また、第2の連鎖硬化接着剤9が第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向全体に接触しているので、たとえ第1の連鎖硬化接着剤8の被着接合部延設方向の一部に切れ目が生じていたとしても、第1の連鎖硬化接着剤8の連鎖硬化反応も途中で止まることがなく確実に行われる。よって、第2の連鎖硬化接着剤9と共に第1の連鎖硬化接着剤8全体が硬化する。
【0052】
尚、第2の連鎖硬化接着剤9にエネルギーを付与するための上記開口部11は、1つの凹状部5について1箇所である必要はなく、被着接合部延設方向において複数箇所(クランプ部材16aの当接箇所を除く)に形成して各開口部11から第2の連鎖硬化接着剤9にエネルギーを付与するようにしてもよい。
【0053】
上記両被着部材2,3のフランジ部2b,3bは、基本的には、被着接合部6,7間の第1の連鎖硬化接着剤8により互いに接着されるが、本実施形態では、フランジ部2bの凹状部5の第2の連鎖硬化接着剤9が、フランジ部3bと接触していて、フランジ部2b,3b同士を接着させる役割を有している。
【0054】
ここで、上記接着接合部材1としての車体の具体例を示す。図6は、車体のサイドボディ21を示し、このサイドボディ21は、図7に示すように、アウタパネル22とインナパネル23とからなっている。このサイドボディ21のドア開口部24の周縁部全周においては、アウタパネル22のフランジ部22a(幅方向中央部に凹状部5が形成されている)とインナパネル23のフランジ部23aとが互いに接着接合されている。上記アウタパネル22が上記第1の被着部材2に相当し、インナパネル23が上記第2の被着部材3に相当し、フランジ部22a,23aの接合部分の構成は、両被着部材2,3の接合部分と同様である(第1及び第2の連鎖硬化接着剤8,9の図示は省略する)。
【0055】
図8は、ルーフパネル26とルーフサイドレール27との接合部分を示す。すなわち、ルーフサイドレール27のインナパネル28のフランジ部28a(幅方向中央部に凹状部5が形成されている)とルーフサイドレール27のアウタパネル29のフランジ部29aとが互いに接着接合されているとともに、ルーフパネル26のフランジ部26a(幅方向中央部に凹状部5が形成されている)とルーフサイドレール27のアウタパネル29のフランジ部29aとが互いに接着接合されている。ルーフサイドレール27のインナパネル28とアウタパネル29との接合では、インナパネル28が上記第1の被着部材2に相当し、アウタパネル29が上記第2の被着部材3に相当し、その接合部分の構成は、両被着部材2,3の接合部分と同様である。また、ルーフパネル26とルーフサイドレール27のアウタパネル29との接合では、ルーフパネル26が上記第1の被着部材2に相当し、ルーフサイドレール27のアウタパネル29が上記第2の被着部材3に相当し、その接合部分の構成は、両被着部材2,3の接合部分と同様である(第1及び第2の連鎖硬化接着剤8,9の図示は省略する)。
【0056】
図9は、サイドシル31とフロアパネル32との接合部分を示す。すなわち、フロアパネル32の車幅方向端部が上側に折れ曲がって上下に延びる上下延設部32aとされ、この上下延設部32aとサイドシル31の下端部(上下延設部32aと対向する部分の上下方向中央部に凹状部5が形成されている)とが接合されている。この例では、サイドシル31が上記第1の被着部材2に相当し、フロアパネル32が上記第2の被着部材3に相当し、その接合部分の構成は、両被着部材2,3の接合部分と同様である(第1及び第2の連鎖硬化接着剤8,9の図示は省略する)。
【0057】
尚、上記実施形態では、第2の連鎖硬化接着剤9を第1の連鎖硬化接着剤8と同じにしたが、異なるものであってもよい。この場合、第2の連鎖硬化接着剤9のエポキシ当量が第1の連鎖硬化接着剤8のエポキシ当量よりも小さいことが好ましい。こうすれば、第2の連鎖硬化接着剤9では、硬化反応(カチオン重合)に必要なエポキシ基が多く存在することになり、第2の連鎖硬化接着剤9の連鎖硬化反応が安定的に行われる。この結果、第1の連鎖硬化接着剤8の連鎖硬化反応を確実に行わせるようにすることができる。また、第1の連鎖硬化接着剤8は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものが好ましく、第2の連鎖硬化接着剤9は、脂環式エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものが好ましい。こうすれば、第2の連鎖硬化接着剤9では、硬化反応(カチオン重合)を良好に行わせることができるとともに、第1の連鎖硬化接着剤8の接着強度を、第2の連鎖硬化接着剤9の接着強度よりも高くすることができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、金属との密着性が良好な水酸基やベンゼン環を有するので、上記実施形態のように両被着部材2,3が金属製の場合に、特に高い接着強度が得られる。
【0058】
また、上記実施形態では、第1の被着部材2のフランジ部2bの合わせ面の幅方向中央部に凹状部5を設けたが、この凹状部5は、第1の被着部材2のフランジ部2bの合わせ面の幅方向一端部又は両端部に設けてもよく(被着接合部6をフランジ部2bの合わせ面の幅方向中央部に設ける)、第1の被着部材2の本体部2aにおけるフランジ部2bの近傍部(隣接する部分)に設けてもよい。また、凹状部5を、第1の被着部材2に設ける代わりに、第2の被着部材3のフランジ部3bの合わせ面や本体部3aにおけるフランジ部3bの近傍部に設けてもよく、第1及び第2の被着部材2,3の両方に設けてもよい。要するに、凹状部5は、両被着部材2,3のうちの少なくとも一方の被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びるように設ければよい。
【0059】
さらに、両被着部材2,3にフランジ部がない場合であっても、被着接合部や凹状部を延設することができれば、本発明を適用することができる。
【0060】
さらにまた、上記実施形態では、本発明を自動車等の車両の車体に適用した場合を示したが、本発明は、接着接合可能なものであれば、どのようなものにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、第1及び第2の被着部材を連鎖硬化接着剤により互いに接合する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係る接着接合部材を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】接着接合部材の製造方法を示す斜視図であり、(a)は第2の被着部材を支持台にセットした状態を示し、(b)は第1及び第2の被着部材のフランジ部をクランプ手段のクランプ部材によりクランプした状態を示し、(c)は第2の連鎖硬化接着剤に開口部を介して光又は熱エネルギーを付与している状態を示す。
【図4】第1及び第2の被着部材のフランジ部の合わせ面同士を合わせる際の連鎖硬化接着剤の流動の様子を示す断面図である。
【図5】第1及び第2の連鎖硬化接着剤を第1の被着部材のフランジ部の凹状部に塗布した場合の図4相当図である。
【図6】車体のサイドボディを示す車体側方から見た図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】ルーフパネルとルーフサイドレールとの接合部分を示す断面図である。
【図9】サイドシルとフロアパネルとの接合部分を示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 接着接合部材
2 第1の被着部材
2b 第1の被着部材のフランジ部
3 第2の被着部材
3b 第2の被着部材のフランジ部
5 凹状部
6 第1の被着部材の被着接合部
7 第2の被着部材の被着接合部
8 第1の連鎖硬化接着剤
9 第2の連鎖硬化接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の被着部材が、該両被着部材にそれぞれ延設された被着接合部にて接着剤により互いに接合されてなる接着接合部材であって、
上記接着剤は、該接着剤の一部にエネルギーを付与した際に、該エネルギー付与部分が硬化反応して硬化反応熱を発生しかつ該硬化反応熱により該硬化反応部分に隣接する部分が硬化反応して硬化反応熱を発生することで、連鎖硬化反応する連鎖硬化接着剤であって、上記エネルギーの付与により硬化したものであり、
上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部が形成され、
上記両被着部材の被着接合部間には、第1の連鎖硬化接着剤が被着接合部延設方向に沿って連続して設けられ、
上記凹状部には、上記第1の連鎖硬化接着剤と同じか又は異なる第2の連鎖硬化接着剤が、上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して設けられていることを特徴とする接着接合部材。
【請求項2】
請求項1記載の接着接合部材において、
上記第1及び第2の連鎖硬化接着剤は、エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有し、
上記第2の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量が上記第1の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量よりも小さいことを特徴とする接着接合部材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の接着接合部材において、
上記第1の連鎖硬化接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有し、
上記第2の連鎖硬化接着剤は、脂環式エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有することを特徴とする接着接合部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の接着接合部材において、
上記両被着部材は、該両被着部材の接合により互いに重ね合わされたフランジ部をそれぞれ有し、
上記両被着部材の被着接合部は、該両被着部材におけるフランジ部の合わせ面の幅方向の一部に、該フランジ部の長さ方向に沿って延びるようにそれぞれ設けられたものであり、
上記凹状部は、上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材のフランジ部の合わせ面に、該フランジ部の被着接合部に沿って延びるように形成されていることを特徴とする接着接合部材。
【請求項5】
請求項4記載の接着接合部材において、
上記凹状部は、上記両被着部材のうちの一方の被着部材のみのフランジ部の合わせ面に形成されていることを特徴とする接着接合部材。
【請求項6】
請求項4又は5記載の接着接合部材において、
上記凹状部は、該凹状部が形成されたフランジ部の合わせ面の幅方向中央部に位置していることを特徴とする接着接合部材。
【請求項7】
第1及び第2の被着部材が、該両被着部材にそれぞれ延設された被着接合部にて接着剤により互いに接合されてなる接着接合部材の製造方法であって、
上記接着剤は、該接着剤の一部にエネルギーを付与した際に、該エネルギー付与部分が硬化反応して硬化反応熱を発生しかつ該硬化反応熱により該硬化反応部分に隣接する部分が硬化反応して硬化反応熱を発生することで、連鎖硬化反応する連鎖硬化接着剤であり、
上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材は、該被着部材における被着接合部の近傍部に、被着接合部延設方向に沿って連続して延びる凹状部が形成されたものであり、
上記両被着部材の被着接合部同士を合わせることで、該両被着部材の被着接合部間に第1の連鎖硬化接着剤が被着接合部延設方向に沿って連続して配置されかつ上記凹状部に、上記第1の連鎖硬化接着剤と同じか又は異なる第2の連鎖硬化接着剤が、上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向全体に接触しかつ該第2の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量が上記第1の連鎖硬化接着剤の被着接合部延設方向の単位長さ当たりの容量よりも多くなるように、被着接合部延設方向に沿って連続して配置された状態とする被着接合部合わせ工程と、
上記被着接合部合わせ工程後に、上記第2の連鎖硬化接着剤の所定箇所に上記エネルギーを付与することで、該第2の連鎖硬化接着剤を連鎖硬化反応させながら、上記第1の連鎖硬化接着剤を連鎖硬化反応させる連鎖硬化反応工程とを含むことを特徴とする接着接合部材の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の接着接合部材の製造方法において、
上記第1及び第2の連鎖硬化接着剤は、エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものであり、
上記第2の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量が上記第1の連鎖硬化接着剤のエポキシ当量よりも小さいことを特徴とする接着接合部材の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の接着接合部材の製造方法において、
上記第1の連鎖硬化接着剤は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものであり、
上記第2の連鎖硬化接着剤は、脂環式エポキシ樹脂と硬化開始剤とを含有するものであることを特徴とする接着接合部材の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1つに記載の接着接合部材の製造方法において、
上記被着接合部合わせ工程前に、上記凹状部、又は凹状部が形成されていない被着部材における上記凹状部に対応する部分に、上記両連鎖硬化接着剤のうちの少なくとも第2の連鎖硬化接着剤を配置する接着剤配置工程を更に含み、
上記被着接合部合わせ工程において、上記接着剤配置工程で配置された連鎖硬化接着剤の一部を上記両被着部材の被着接合部間に流入させることを特徴とする接着接合部材の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1つに記載の接着接合部材の製造方法において、
上記両被着部材は、上記被着接合部合わせ工程で互いに重ね合わされるフランジ部をそれぞれ有し、
上記両被着部材の被着接合部は、該両被着部材におけるフランジ部の合わせ面の幅方向の一部に、該フランジ部の長さ方向に沿って延びるようにそれぞれ設けられたものであり、
上記凹状部は、上記両被着部材のうちの少なくとも一方の被着部材のフランジ部の合わせ面に、該フランジ部の被着接合部に沿って延びるように形成されたものであることを特徴とする接着接合部材の製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の接着接合部材の製造方法において、
上記凹状部は、上記両被着部材のうちの一方の被着部材のみのフランジ部の合わせ面に形成されたものであることを特徴とする接着接合部材の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12記載の接着接合部材の製造方法において、
上記凹状部は、該凹状部が形成されたフランジ部の合わせ面の幅方向中央部に位置していることを特徴とする接着接合部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−296556(P2008−296556A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−148453(P2007−148453)
【出願日】平成19年6月4日(2007.6.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】