接着方法及び塗装方法
【課題】従来、困難とされていた無極性高分子材や平滑金属材等に対して、簡易な装置・方法により、安定した接着性や塗膜密着性の確保が可能となり、接着・塗装工程の生産性を格段に向上させることができる接着方法を提供すること。
【解決手段】被着体対の被接着面の少なくとも一方を火炎処理により表面改質処理後、接着剤を塗布して前記被着対を接着する方法。表面改質処理を、液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナ29から被着体Sの被接着面に吹き付けておこなう。その際、表面改質剤を、ナノポンプ15を介して、火炎バーナ29への可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、火炎バーナ29に燃料ガスとともに供給する。
【解決手段】被着体対の被接着面の少なくとも一方を火炎処理により表面改質処理後、接着剤を塗布して前記被着対を接着する方法。表面改質処理を、液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナ29から被着体Sの被接着面に吹き付けておこなう。その際、表面改質剤を、ナノポンプ15を介して、火炎バーナ29への可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、火炎バーナ29に燃料ガスとともに供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な接着方法及び塗装方法に関する。さらに詳しくは、従来技術では困難とされていた非極性材や無極性材に対して、簡易な装置・方法により、接着性(密着性)の確保が可能となり、接着・塗装工程の生産性を格段に向上させることができる接着方法及び塗装方法に係る発明である。
【0002】
ここで、接着や塗装の対象物(被着体)である固体製品の形態としては、各種成形品、板材、棒材、筒材、シート、フィルム、線材(繊維を含む。)を含む。
【0003】
また、固体製品の材質としては、高分子(ゴム、プラスチック)、金属、半金属、セラミック、ガラス等を含む。
【0004】
特に、濡れ性を殆ど有しない無極性(非極性)高分子、例えば、ポリオレフィン系ポリマー、シリコーンポリマー、フッ素ポリマーからなる固体製品や、面倒な前処理をしないと接着が困難なガラスやセラミック(陶磁器)、金属等の平滑面に適用することが、本発明の効果が顕著となり好ましい。
【背景技術】
【0005】
上記のような固体製品の表面濡れ性を改善する表面改質法を開示した先行技術文献として、特許文献1〜3等が存在する。特許文献2の<従来技術>の項の一部を、適宜編集を加えて次に引用する。括弧内は編集追記したものである。
【0006】
なお、図1・2は、特許文献1・2の各図1における図符号に変更に加えずに引用しており、各図の図符号相互も無関係である。
【0007】
「固体物質、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン等の非極性高分子の固体表面は、疎水性や撥水性であることが多く(濡れ性が良好でなく)、他部材との接着、印刷、紫外線塗装等が一般的に困難である。
また、ステンレスやマグネシウム等の金属表面は、金属の中では密着力や表面平滑性が不足しており、紫外線硬化型塗料等を直接的に適用した場合には、塗膜が容易に剥離してしまうという問題点が見られた。」
【0008】
そこで、所定の表面改質装置を用いた固体物質の表面改質法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
より具体的には、図1(特許文献1の図1)に示すように、固体物質(固体製品)50に対して、特定沸点を有する改質剤化合物14を含む燃料ガスの燃焼火炎34を吹き付け処理(ケイ酸化炎処理等)することにより、シラン原子等を含有する改質剤化合物を比較的多量に使用した場合であっても、燃焼しやすくして、酸化炎処理工程を省いた場合であっても、固体物質50に対する表面改質を均一かつ十分に実施できる固体物質の表面改質法である(段落0005等)。
【0010】
そして、特許文献2では、上記固体物質の表面改質法の改良発明として、下記構成のものが提案されている(請求項9、図1:本願添付図2)。
【0011】
「シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室21と、前記改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室11と、前記気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部31cと、前記燃料ガスの燃焼火炎を吹き付けるための噴射部41と、を含む表面改質装置10を用いた固体物質50の表面改質法であって、
前記気化室11の温度をT1(℃)とし、前記貯蔵室温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足するように、当該T1およびT2の値を調整することを特徴とする固体物質の表面改質法。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)」
【0012】
なお、固体の表面濡れ性の増大(表面改質)のための、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射(UV処理)、火炎(フレーム)処理等の手段は周知である(特許文献1段落0003、特許文献3段落0020等)。
【0013】
上記従来の各処理では、前処理(表面改質処理)時間がかかり、設備費も高く、作業環境(労働衛生)上の問題点が発生し易いものもあり、生産性に問題があった。
【0014】
表1にそれらの特徴を纏めて、参考に資する。
【0015】
【表1】
【0016】
上記から火炎処理による表面改質処理が、相対的に生産性が良好であることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3557194号公報
【特許文献2】特開2008−50629号公報
【特許文献3】特開2002−29009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、上記従来の火炎処理は、後述の試験例に示す如く、経時的に濡れ性が低下して、安定した接着性や塗膜密着性を確保し難いことが分かった。
【0019】
本発明は、上記にかんがみて、従来、困難とされていた無極性高分子材や、ガラス・セラミック・金属材の平滑面に対して、簡易な装置・方法により、安定した接着性や塗膜密着性の確保が可能となり、接着・塗装工程の生産性を格段に向上させることができる接着方法及び塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の接着方法及び塗装方法に想到した。
【0021】
本発明の接着方法は、被着体対の被接着面の少なくとも一方を火炎処理により表面改質処理後、接着剤を塗布して前記被着体対を接着する方法において、
前記火炎処理が、
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被接着面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する構成であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の塗装方法は、被塗布物における被塗布面の火炎処理による表面改質処理後、塗装をする方法において、
前記火炎処理が、液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被塗布面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する方法であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の接着方法等における表面改質処理は、被処理面に帯電防止効果(静電気防止)を付与できるとともに、常温放置しても処理後の被処理面における濡れ性の経時低下が小さいことを知見した。
【0024】
これは、火炎処理における親水基(極性基)ラジカルの発生比率がナノポンプを使用しないものに比して高く、被処理面に対する親水基の付着態様が共有結合的(水素結合やイオン結合より格段に強固)となるためと推定される。
【0025】
このため、被処理面に、強固に且つ高密度で結合した親水基が形成されることにより良好な濡れ性が付与され、被処理面と接着剤層や塗膜との間に安定した密着性が確保できる。さらに、親水基が導電性の良好な有機金属基である場合は、被処理面に上記帯電防止効果(静電気対策)も付与でき、大気中浮遊塵埃も付着し難くなり、再度、洗浄等の表面改質処理をしなくても、接着性や塗膜密着性を確保できる。
【0026】
上記の如く被処理面の濡れ性の大幅な改善(濡れ指数の増大・経時維持)により、接着剤を一液系としても、従来の二液系に匹敵する接着力を発揮することが期待できる。
【0027】
さらに、塗装の表面改質処理の前工程として脱脂処理だけで済み、従来の前処理の如く、他の化学処理やプライマー処理の併用が不要となることを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】特許文献1の表面改質装置の説明図に係る図1の引用図である。
【図2】特許文献2の表面改質装置の説明図に係る図1の引用図である。
【図3】本発明の接着方法(塗装方法)に使用する表面改質装置の一例を示す全体流れ図である。
【図4】図3の4−4線概略断面図である。
【図5】図4の5−5線概略断面図である。
【図6】<試験群I:90°剥離強さ>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図7】<試験群II:引張せん断強さ(1)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図8】<試験群III:引張せん断強さ(2)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図9】<試験群V:引張せん断強さ(3)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図10】<試験群VI:引張せん断強さ(4)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図11】同じく改質処理後の経時試験結果を示す棒グラフ図である。
【図12】<試験群VII:引張せん断強さ(5)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
本発明の接着方法(又は塗装方法)は、前処理である表面改質処理を、下記構成の火炎処理とすることを第一の特徴とする。
【0031】
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから被接着面(又は被塗布面)に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、火炎バーナへの前記可燃性ガス、酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する。
【0032】
この表面改質処理は、一般の火炎処理において表面改質剤を添加して、燃焼過程で生成する親水基ラジカルを効率よく被処理面に共有結合的な化学結合を反応生成させて、被処理面に強固な結合の親水基層を形成するものである。
【0033】
一般的に親水基密度が高い程、表面濡れ性(濡れ指数:親水性)が増大して、接着性や塗装性の改善ができる。このことは、後述の実施例で示す如く、従来技術では接着や塗装ができなかった素材や強度的に劣る素材も良好な結果を得られた。
【0034】
本発明の表面改質処理が良好な結果を得るための要件は、下記の如くであると推察した。
【0035】
1)表面改質剤の燃料ガスに対する添加量の多少・混合比率は被処理面における親水性に影響を与える。このため、安定した濡れ性を達成するためには、表面改質剤の添加量が微調整できること。
【0036】
2)表面改質剤を、燃料ガス(燃焼剤)中で可及的に分散させる必要がある。このため、表面改質剤を燃料ガスに対して、一定比率で微量混合できること。
【0037】
そして、これらの要件は、表面改質剤を、ナノポンプを介して燃料ガスの供給路途中に添加することにより初めて満たすことができる。
【0038】
そして、上記構成とした場合、表面改質剤が燃料ガス中で、ナノレベル(分子レベルに近い)粒子の状態で火炎バーナへ供給されて、熱分解及び酸化反応が促進されて親水性ラジカルが大量に発生する。該親水性ラジカル(親水基)が火炎で清浄化乃至活性化(ラジカル化)された被処理面とラジカル反応して共有結合的に強固に結合した安定した親水性処理面が形成される。
【0039】
本実施形態の接着方法乃至塗装方法における火炎処理を行うのに好適な表面改質装置の一例を、図3〜5に基づいて詳細に説明する。
【0040】
酸化性ガスとは、「酸素を供給することにより、空気以上に他の物質を発火させたり、燃焼を助けたりするガス」のことをいうが、本発明では、空気(例えば、圧縮空気)のみからなるものも酸化性ガスに含める。また、「ナノポンプ」とは、超微量(1〜1000nL/s)の送液量調整可能な液送ポンプを意味する。例えば、ニッケイインストルメンツ社から「ピエゾポンプ」の商品名で製造販売されているものを好適に使用可能である。
【0041】
本装置は、処理液タンク11から火炎バーナ(ユニット)13への表面改質剤の供給を、ナノポンプ(液送ポンプ)15により酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に処理液供給路21を経て行えるようになっている。
【0042】
さらに、火炎バーナ13に火炎を発生させるための燃料ガス構成成分となる可燃性ガスおよび酸化性ガスをそれぞれ供給する可燃性ガスタンク23および酸化性ガスタンク25を備えている。
【0043】
バーナユニット13は、内側バーナ29と、該内側バーナ29の外周壁を囲繞するように配される外側バーナ31とからなる横断面二重構造を有している。図例では、内側バーナ29および外側バーナ31は、同心長円(平行直線の両側が半円とされたもの)の二重構造であるが、楕円、矩形、円形の同心二重構造であってもよい。
【0044】
内側バーナ29の第一燃料ガス入口29aには第一燃料ガス供給路33が接続されている。そして、外側バーナ31の第二燃料ガス入口31aには第二燃料ガス供給路35が接続されている。外側バーナ31は、内側バーナ29からの表面改質火炎の外側に酸化防止火炎を噴射させるためのものである。これにより、表面改質火炎が横断面全体に亘り均質化されて表面改質処理を良好かつ効率よく行なうことができる。
【0045】
上記第一燃料ガス供給路33の元部には第一混合器37を備え、第一混合器37には酸化性ガスタンク25及び可燃性ガスタンク23が、それぞれ第一酸化性・可燃性ガス供給路41、43を介して接続されている。同様に、第二燃料ガス供給路35の元部には第二混合器39を備え、第二混合器39には酸化性ガスタンク25及び可燃性ガスタンク23が、それぞれ第二酸化性・可燃性ガス供給路45、47を介して接続されている。第一酸化性・可燃性ガス供給路41、43には第一酸化性・可燃性ガス開閉弁V1、V2を、第二酸化性・可燃性ガス供給路45、47には第二酸化性・可燃性ガス開閉弁V3、V4を、それぞれ備えている。
【0046】
第一酸化性ガス供給路41に、側路開閉弁V5および改質剤一次混合器51を備えた酸化性ガス側路(バイパス)53を形成し、酸化性ガス側路53の合流箇所を改質剤二次混合器55で接続する。各混合器37、39はエジェクタ形として、改質剤一次混合器51の吸引側にナノポンプ15から送液路16の出口側を接続し、さらに、酸化性ガス側路53の出口側を改質剤二次混合器55の吸引側に接続する。こうして、改質剤一次混合器51で液体改質剤が少量の酸化性ガス(液体改質剤比率:0.2〜20gm-3、望ましくは、2〜10gm-3)で一次混合され、さらに、改質剤二次混合器55で多量の酸化性ガス(液体改質剤比率:0.01〜1.0gm-3、望ましくは、0.1〜0.5gm-3)と二次混合されて、液体改質剤が酸化性ガス中に良好に均一分散されて気化(霧化を含む。)されるようになっている。
【0047】
なお、本実施形態では、液体改質剤と搬送ガス(担持ガス)である酸化性ガスとの混合を、拡散促進の見地から一次混合器51と二次混合器55を使用する二段方式としたが、二次混合器55のみの一段方式でもよい。
【0048】
上記各混合器37、39、51、55は、図例ではエジェクタ形で、酸化性ガスを第一流体とし、可燃性ガスを第二流体として吸引混合するものである。混合器はこれに限られるものではなく、例えば、単なる合流混合器であってもよい。
【0049】
また、本実施形態ではバーナへの燃料ガスの供給は、酸化性ガス供給路、可燃性ガス供給路を合流させた燃料ガス供給路で行う構成としたが、バーナへ直接的に酸化性ガス供給路、可燃性ガス供給路を接続してバーナ内で燃料ガスを形成したり、予め、燃料ガスを調製しておきバーナへ燃料ガス供給路のみを介して行なったりする構成としてもよい。
【0050】
次に、上記構成の表面改質装置の使用態様について説明する。
【0051】
予め、酸化性ガスタンク25内には、加圧状態の酸化性ガスが充填されている。酸化性ガスとしては、例えば、圧縮空気と酸素との混合ガスを好適に使用できる。酸化性ガスタンクの内圧は例えば、大気圧(101.3kPa)より若干高い、0.2〜1.0MPa(200〜1000kPa)とする。
【0052】
また、可燃性ガスタンク23内は、可燃性ガスが充填されている。可燃性ガスは加圧状態とはしない。第一・第二混合器37、39を通過させる酸化性ガスの流速を第一・第二開閉弁V1、V2で調節することにより、エジェクタ効果で可燃性ガスと酸化性ガスとの混合比を調節可能なためである。
【0053】
ここで、可燃性ガスとしては、通常、天然ガス、液化石油ガス(LPG)等の炭化水素系のものを使用するが、適宜、一酸化炭素、水素、それらの混合ガスも使用可能である。
【0054】
先ず、開閉弁V1〜V4を開く。
【0055】
そして、第一・第二混合器37、39で酸化性ガスと可燃性ガスとが混合されて燃料ガスとして内側バーナ29および外側バーナ31に供給される。この状態で内側・外側バーナ29、31を点火する。
【0056】
次いで、側路開閉弁V5を開くとともにナノポンプ15を稼働させると、液体改質剤は、改質剤一次混合器51に微量噴射される。
【0057】
すると、液体改質剤は、改質剤一次・二次混合器51、55位置で、酸化性ガスにより一次・二次混合されてエーロゾル化(霧化乃至気化)される。こうして酸化性ガスでエーロゾル化された液体改質剤は、さらに、第一混合器37で酸化性ガスに可燃性ガスが混合されて燃料ガスのエーロゾルとして改質剤噴射バーナ(内側バーナ)29まで搬送される。改質剤噴射バーナ29からの火炎により、液体改質剤が被処理物(固体製品)Sの被処理面に噴射される。
【0058】
こうして液状の表面改質剤は内側バーナ29の火口29bから火炎により熱分解ラジカル化して被処理物(固体製品)Sの被処理面に付着して濡れ性を増大させる。さらに、ナノポンプ15による微量供給により、表面改質剤(シリコーン化合物や含酸素有機化合物)のラジカル化が、前述の理由により、さらに促進される。
【0059】
このときの改質剤噴射バーナ29の火口29bと被処理物(被着体)Sの被処理面(被接着面)との距離は、前記と同様、バーナ形状、火炎の強さ、被処理物の種類、要求性能等により異なるが、10〜500mmの範囲から適宜選定する。
【0060】
また、外側バーナ31からの火炎により改質剤噴射バーナ(内側バーナ)29の外側火炎が酸化作用を受け難く、良好な改質効果(濡れ性改善効果)を得ることができる。
【0061】
通常、上記表面改質装置の可燃性ガス、酸化性ガスおよび表面改質剤の供給量や、被処理面に対する噴射ノズルの移動速度・範囲は数値制御(NC)可能としておく。
【0062】
次に、上記表面改質装置を用いての接着方法乃至塗装方法について説明する。
【0063】
接着方法乃至塗装方法ともに、表面改質処理を行う被接着面対乃至被塗布面の材質は特に限定されないが、下記材質の被着体対組合わせ、乃至、被塗布面とすることが本発明の効果が顕著となる。
【0064】
被着体対組合わせ材質:シリコーン樹脂と合成樹脂(シリコーンを除く。)、合成樹脂と加硫ゴム体、合成樹脂と金属、又は、合成樹脂とガラス。
【0065】
被塗布面材質:金属、ガラス、セラミック、加硫ゴム又は非極性高分子。
【0066】
金属としては、Mg、Al(第3周期金属)、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn(第4周期金属)、Cd、In(第5周期金属)、W(第6周期金属)等およびそれらの合金(例えば、炭素鋼、青銅、真鍮等)を挙げることができる。
【0067】
合成樹脂乃至ゴムとしては表2に示すものを、その他無機物としては表3に示すものをそれぞれ挙げることができる。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
本接着方法・塗装方法に使用する接着剤としては表4に示す各種接着剤を、塗料としては表5に示す各種塗料をそれぞれ挙げることができる。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
使用する表面改質剤としては、被処理面に親水性を付与できるものなら、特に限定されない。各種有機金属化合物や含酸素有機化合物を使用可能である。
【0074】
有機金属化合物としては、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、アルコキシアルミニウム化合物(特許文献1請求項2)を使用できるが、その他の金属・半金属(ホウ素、リン、スカンジウム、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ガリウム等)のアルキル乃至アルコキシ化合物でもよい。
【0075】
含酸素有機化合物としては、(A)エーテル構造(−O−)を2個以上有している炭素を有するもの、(B)C=O基(カルボキシル基及びその誘導基を含む。)が2個以上結合している炭素を有するものを挙げることができる。
【0076】
(A) 上記エーテル構造(−O−)を2個以上有している炭素を有する含酸素有機化合物群としては、
(1)オルトエステル類:下記構造式で示されるもの。
RC(OR´)3 [但し、R:水素又は炭素数1〜6のアルキル基、R´:炭素数1〜6のアルキル基]
【0077】
(2)環状ジエーテル類:酸素1,3位置の5・6員環(2位置ケトン基のものを含む。)。
【0078】
(3)アセタール類:下記構造式で示されるもの。
R1R2C(OR3)(OR4) [但し、R1,R2:水素又は炭素数1〜4のアルキル基、R3,R4:炭素数1〜6のアルキル基]
【0079】
(B) C=O基(カルボキシル基及びその誘導基を含む。)が2個以上結合している炭素を有する含酸素有機化合物群として、下記の総炭素数5〜10の(1)ジケトン類、(2)ジケト酸エステル、又は(3)ジカルボン酸ジエステル類を挙げることができる。
【実施例】
【0080】
次に、従来技術では実用的な接着乃至塗装がされていた各種材質(異種組合わせを含む。)について、本発明の効果を確認するために行なった各接着強さ試験乃至塗膜密着性試験(碁盤目試験)について説明する。
【0081】
(1)各試験片(実施例)の火炎処理(表面改質処理)は下記の如く実施した。
【0082】
1)表面改質剤と酸化性ガス、可燃性ガスおよび燃料ガスとの混合方法:
図3の表面改質処理装置を使用して、前述の如く行なった。
【0083】
2)火炎バーナの構造:
図3〜5に示す如く、内側バーナ(改質剤噴射バーナ)29と外側バーナ(酸化防止炎噴射バーナ)31との一体構造である。そして、内側バーナ29(長さ:150mm)の火口29bは多孔板(800孔;横幅70mm×縦幅50mm)で形成されている。
【0084】
3)被処理物Sに対する火炎処理の態様:
被処理物を可動治具上にセットする。このとき、内側バーナ29の火口29bと被処理物Sの被処理面との距離を調節する。なお、可動治具13は、数値制御(NC)により被処理面の形状に対応して設定速度で稼動可能とされている。また、NCにおける設定速度は、表面改質剤および被処理面の材質により異なるため、実際の被処理物に対して試行を行って決定した。
【0085】
(2)各実施例で調製した被験体(n=5)について、適宜、下記条件で1)90°剥離強さ試験、2)引張剪(せん)断強さ試験、および3)碁盤目(塗膜密着性)試験を実施した。
【0086】
1)90°剥離強さ試験:
試験片対(平面形状:50mm×100mm)の、各端10mm幅をイソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理後、各実施例について表面改質処理をし、更に、両面テープ(3M社製「3M-PT8088」)で貼り合わせて5個の被験体を調製する。
【0087】
被験体を90°剥離試験機(イマダ社製「Push Pullゲージ」)にセットして90°方向に引っ張って(引張速度:120mm/min)剥離荷重を測定した。
【0088】
2)引張せん断強さ試験:
試験片対(平面形状25.4×100mm)の各端12.7mm幅をIPAで脱脂処理後、各実施例の火炎処理をし、さらに、接着剤(ヘンケル社製「LOCTITE401」)を塗布後(塗布厚約5μmとなるようにスペーサを置く。)、該部を圧着して被験体を調製して24h放置する。
【0089】
被験体の上下端を引張り試験機(藤井精機社製「FSP−100」)に取付け、引っ張って(引張速度:2mm/min)、破断荷重を測定した。なお、引張せん断強さ(S)は、下記式によって求めることができる。
引張せん断強さ(S)=破断荷重(L)/接着面積(A)
【0090】
3)塗膜密着性試験:
試験片(50×100mm)をIPAで脱脂処理後、片側半分(50mm)をマスキングして、各端10mm幅を脱脂処理後、各実施例の火炎処理をした。その後、マスキングを外し水性塗料(アサヒペン社製「アクリル系水性塗料」)で全面塗布(硬化条件:120℃×20min)して被験体を調製した。
【0091】
該各被験体の火炎処理部と被処理部とについて、100マス碁盤面試験(JIS K5400)に準じて実施した。
【0092】
(3)各接着強さ試験乃至塗膜密着性試験は下記の如く行なった。
<試験群I:90°剥離接着強さ試験>
試験片対としてポリプロピレン(PP)製(50mm×100mm×2mmt)を用意し、下記条件で火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記90°剥離強さの試験を行なった。
【0093】
火炎処理条件・・・改質剤:ヘキサメチルジシロキサン、改質剤吐出量:250nL/s、照射距離:150mm、移動速度:200mm/s
試験結果を図6に示す。
【0094】
処理品(直後)は平均値約10kgf(98N)であったのに対し非処理品は平均値約3kgf(29.4N)と約3倍の90°剥離強さが得られた。処理品(5日後)の平均値も約9.9kgf(97N)と処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図6のグラフに示すとおり、剥離強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0095】
<試験群II:引張せん断強さ(1)>
試験片対としてPP製(25.4mm×100mm×3mmt)を用意し、上記試験群Iと同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図7に示す。
【0096】
本発明の火炎処理品(直後)は平均値約83kgf(813.4N)であったのに対し非処理品は平均値約9.6kgf(94.1N)と約8.6倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日後)の平均値も約82kgf(803.6N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図7のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0097】
<試験群III:引張せん断強さ(2)>
試験片対としてPP製のもの(25.4mm×100mm×3mmt)およびSUS304製のもの(25.4mm×100mm×1.5mmt)をそれぞれ用意し、上記実施例1と同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず、火炎処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図8に示す。
【0098】
本発明の火炎処理品(直後)は平均値約89kgf(N)であったのに対し非処理品は平均値20kgf(196N)と約4.5倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日放置後)の平均値も約88kgf(N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図8のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0099】
<試験群IV:塗膜密着性試験>
試験片としてPP製(50mm×100mm×3mmt)を用意し、実施例1と同一条件で火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品について前記の被験体を調製して、前記碁盤目試験を行なった。試験結果を表6に示す。
【0100】
処理品(直後)は剥がれ1/500であったのに対し、非処理品は全面に剥がれが発生した。処理品(5日放置後)も剥がれ2/500であり、処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、表6に示すとおり、塗膜密着性も良好であることが確認できた。
【0101】
【表6】
【0102】
<試験群V:引張せん断強さ(3)>
火炎処理品とプラズマ処理品について未処理品と共に、試験群IIと同様にして、引張せん断強さ試験を実施した。なお、プラズマ処理は、表7に示す条件で行った。試験結果を図9に示す。
【0103】
本発明の火炎処理品は平均値約84kgf(N)であったのに対し、プラズマ処理品は平均値約65kgf(N)と約30%低かった。また、強さバラツキ(最大値と最小値の差)は、火炎処理品は4kgf(N)であったのに対し、プラズマ処理品は9kgfであり、本発明の表面改質処理は安定性があることが確認できた。
【0104】
さらに、各改質処理後、5h経過までの1h毎に、実施例2と同様にして、引張せん断強さ試験を実施した。試験結果を図10に示す。なお、図10における数値はn=5の平均値であり、図10の各棒グラフの上の数値は3σ(標準偏差)値である。
【0105】
本発明の火炎処理の場合、5h経過後においてもせん断強さに殆ど変化がなかったのに対し、プラズマ処理の場合、1h経過後から漸減し5h経過後には約20kgf(196N)も低下した。
【0106】
【表7】
【0107】
<試験群VI:引張せん断強さ(4)>
試験片対としてシリコーン樹脂(信越化学社製汎用品)(25.4mm×100mm×3mmt)を用意し、上記実施例1と同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図11に示す。
【0108】
本発明の火炎処理品は平均値約92.1kgf(N)であったのに対し被処理品は平均値約12.5kgf(N)と約7.3倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日後)の平均値も約89.3kgf(N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図11のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0109】
<試験群VII:引張せん断強さ(5)>
試験片対としてPP製(25.4mm×100mm×3mmt)を用意し、上記実施例1において改質剤をオルトギ酸トリエチル(含酸素有機化合物)とした以外は同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図12に示す。
【0110】
本発明の火炎処理品(直後)は平均値約86.1kgf(N)であったのに対し非処理品は平均値約10.9kgf(N)と約倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日後)の平均値も約83.6kgf(N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図12のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、従来技術では困難であった素材への接着・塗装への展開が期待できる。
【0112】
また、火炎処理のバーナ構造を二重とすることにより、作業環境が改善されて、従来困難であった場所での接着・塗装作業の展開が期待できる。
【符号の説明】
【0113】
11 処理液タンク
13 バーナユニット
15 ナノポンプ(液送ポンプ)
23 可燃性ガスタンク
25 酸化性ガスタンク
29 改質剤噴射バーナ(内側バーナ)
31 酸化防止炎噴射バーナ(外側バーナ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な接着方法及び塗装方法に関する。さらに詳しくは、従来技術では困難とされていた非極性材や無極性材に対して、簡易な装置・方法により、接着性(密着性)の確保が可能となり、接着・塗装工程の生産性を格段に向上させることができる接着方法及び塗装方法に係る発明である。
【0002】
ここで、接着や塗装の対象物(被着体)である固体製品の形態としては、各種成形品、板材、棒材、筒材、シート、フィルム、線材(繊維を含む。)を含む。
【0003】
また、固体製品の材質としては、高分子(ゴム、プラスチック)、金属、半金属、セラミック、ガラス等を含む。
【0004】
特に、濡れ性を殆ど有しない無極性(非極性)高分子、例えば、ポリオレフィン系ポリマー、シリコーンポリマー、フッ素ポリマーからなる固体製品や、面倒な前処理をしないと接着が困難なガラスやセラミック(陶磁器)、金属等の平滑面に適用することが、本発明の効果が顕著となり好ましい。
【背景技術】
【0005】
上記のような固体製品の表面濡れ性を改善する表面改質法を開示した先行技術文献として、特許文献1〜3等が存在する。特許文献2の<従来技術>の項の一部を、適宜編集を加えて次に引用する。括弧内は編集追記したものである。
【0006】
なお、図1・2は、特許文献1・2の各図1における図符号に変更に加えずに引用しており、各図の図符号相互も無関係である。
【0007】
「固体物質、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン等の非極性高分子の固体表面は、疎水性や撥水性であることが多く(濡れ性が良好でなく)、他部材との接着、印刷、紫外線塗装等が一般的に困難である。
また、ステンレスやマグネシウム等の金属表面は、金属の中では密着力や表面平滑性が不足しており、紫外線硬化型塗料等を直接的に適用した場合には、塗膜が容易に剥離してしまうという問題点が見られた。」
【0008】
そこで、所定の表面改質装置を用いた固体物質の表面改質法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
より具体的には、図1(特許文献1の図1)に示すように、固体物質(固体製品)50に対して、特定沸点を有する改質剤化合物14を含む燃料ガスの燃焼火炎34を吹き付け処理(ケイ酸化炎処理等)することにより、シラン原子等を含有する改質剤化合物を比較的多量に使用した場合であっても、燃焼しやすくして、酸化炎処理工程を省いた場合であっても、固体物質50に対する表面改質を均一かつ十分に実施できる固体物質の表面改質法である(段落0005等)。
【0010】
そして、特許文献2では、上記固体物質の表面改質法の改良発明として、下記構成のものが提案されている(請求項9、図1:本願添付図2)。
【0011】
「シラン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物を貯蔵するための貯蔵室21と、前記改質剤化合物を気液平衡状態下に蒸発させ、気体状態の改質剤化合物を生成するための気化室11と、前記気体状態の改質剤化合物を、燃料ガスの一部として、噴射部に移送するための移送部31cと、前記燃料ガスの燃焼火炎を吹き付けるための噴射部41と、を含む表面改質装置10を用いた固体物質50の表面改質法であって、
前記気化室11の温度をT1(℃)とし、前記貯蔵室温度をT2(℃)としたときに、当該T1およびT2が、以下の温度関係式(1)を満足するように、当該T1およびT2の値を調整することを特徴とする固体物質の表面改質法。
T2−15℃≦T1≦T2+15℃ (1)」
【0012】
なお、固体の表面濡れ性の増大(表面改質)のための、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射(UV処理)、火炎(フレーム)処理等の手段は周知である(特許文献1段落0003、特許文献3段落0020等)。
【0013】
上記従来の各処理では、前処理(表面改質処理)時間がかかり、設備費も高く、作業環境(労働衛生)上の問題点が発生し易いものもあり、生産性に問題があった。
【0014】
表1にそれらの特徴を纏めて、参考に資する。
【0015】
【表1】
【0016】
上記から火炎処理による表面改質処理が、相対的に生産性が良好であることが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第3557194号公報
【特許文献2】特開2008−50629号公報
【特許文献3】特開2002−29009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、上記従来の火炎処理は、後述の試験例に示す如く、経時的に濡れ性が低下して、安定した接着性や塗膜密着性を確保し難いことが分かった。
【0019】
本発明は、上記にかんがみて、従来、困難とされていた無極性高分子材や、ガラス・セラミック・金属材の平滑面に対して、簡易な装置・方法により、安定した接着性や塗膜密着性の確保が可能となり、接着・塗装工程の生産性を格段に向上させることができる接着方法及び塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の接着方法及び塗装方法に想到した。
【0021】
本発明の接着方法は、被着体対の被接着面の少なくとも一方を火炎処理により表面改質処理後、接着剤を塗布して前記被着体対を接着する方法において、
前記火炎処理が、
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被接着面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する構成であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の塗装方法は、被塗布物における被塗布面の火炎処理による表面改質処理後、塗装をする方法において、
前記火炎処理が、液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被塗布面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する方法であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の接着方法等における表面改質処理は、被処理面に帯電防止効果(静電気防止)を付与できるとともに、常温放置しても処理後の被処理面における濡れ性の経時低下が小さいことを知見した。
【0024】
これは、火炎処理における親水基(極性基)ラジカルの発生比率がナノポンプを使用しないものに比して高く、被処理面に対する親水基の付着態様が共有結合的(水素結合やイオン結合より格段に強固)となるためと推定される。
【0025】
このため、被処理面に、強固に且つ高密度で結合した親水基が形成されることにより良好な濡れ性が付与され、被処理面と接着剤層や塗膜との間に安定した密着性が確保できる。さらに、親水基が導電性の良好な有機金属基である場合は、被処理面に上記帯電防止効果(静電気対策)も付与でき、大気中浮遊塵埃も付着し難くなり、再度、洗浄等の表面改質処理をしなくても、接着性や塗膜密着性を確保できる。
【0026】
上記の如く被処理面の濡れ性の大幅な改善(濡れ指数の増大・経時維持)により、接着剤を一液系としても、従来の二液系に匹敵する接着力を発揮することが期待できる。
【0027】
さらに、塗装の表面改質処理の前工程として脱脂処理だけで済み、従来の前処理の如く、他の化学処理やプライマー処理の併用が不要となることを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】特許文献1の表面改質装置の説明図に係る図1の引用図である。
【図2】特許文献2の表面改質装置の説明図に係る図1の引用図である。
【図3】本発明の接着方法(塗装方法)に使用する表面改質装置の一例を示す全体流れ図である。
【図4】図3の4−4線概略断面図である。
【図5】図4の5−5線概略断面図である。
【図6】<試験群I:90°剥離強さ>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図7】<試験群II:引張せん断強さ(1)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図8】<試験群III:引張せん断強さ(2)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図9】<試験群V:引張せん断強さ(3)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図10】<試験群VI:引張せん断強さ(4)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【図11】同じく改質処理後の経時試験結果を示す棒グラフ図である。
【図12】<試験群VII:引張せん断強さ(5)>の試験結果を示す棒グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
本発明の接着方法(又は塗装方法)は、前処理である表面改質処理を、下記構成の火炎処理とすることを第一の特徴とする。
【0031】
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから被接着面(又は被塗布面)に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、火炎バーナへの前記可燃性ガス、酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する。
【0032】
この表面改質処理は、一般の火炎処理において表面改質剤を添加して、燃焼過程で生成する親水基ラジカルを効率よく被処理面に共有結合的な化学結合を反応生成させて、被処理面に強固な結合の親水基層を形成するものである。
【0033】
一般的に親水基密度が高い程、表面濡れ性(濡れ指数:親水性)が増大して、接着性や塗装性の改善ができる。このことは、後述の実施例で示す如く、従来技術では接着や塗装ができなかった素材や強度的に劣る素材も良好な結果を得られた。
【0034】
本発明の表面改質処理が良好な結果を得るための要件は、下記の如くであると推察した。
【0035】
1)表面改質剤の燃料ガスに対する添加量の多少・混合比率は被処理面における親水性に影響を与える。このため、安定した濡れ性を達成するためには、表面改質剤の添加量が微調整できること。
【0036】
2)表面改質剤を、燃料ガス(燃焼剤)中で可及的に分散させる必要がある。このため、表面改質剤を燃料ガスに対して、一定比率で微量混合できること。
【0037】
そして、これらの要件は、表面改質剤を、ナノポンプを介して燃料ガスの供給路途中に添加することにより初めて満たすことができる。
【0038】
そして、上記構成とした場合、表面改質剤が燃料ガス中で、ナノレベル(分子レベルに近い)粒子の状態で火炎バーナへ供給されて、熱分解及び酸化反応が促進されて親水性ラジカルが大量に発生する。該親水性ラジカル(親水基)が火炎で清浄化乃至活性化(ラジカル化)された被処理面とラジカル反応して共有結合的に強固に結合した安定した親水性処理面が形成される。
【0039】
本実施形態の接着方法乃至塗装方法における火炎処理を行うのに好適な表面改質装置の一例を、図3〜5に基づいて詳細に説明する。
【0040】
酸化性ガスとは、「酸素を供給することにより、空気以上に他の物質を発火させたり、燃焼を助けたりするガス」のことをいうが、本発明では、空気(例えば、圧縮空気)のみからなるものも酸化性ガスに含める。また、「ナノポンプ」とは、超微量(1〜1000nL/s)の送液量調整可能な液送ポンプを意味する。例えば、ニッケイインストルメンツ社から「ピエゾポンプ」の商品名で製造販売されているものを好適に使用可能である。
【0041】
本装置は、処理液タンク11から火炎バーナ(ユニット)13への表面改質剤の供給を、ナノポンプ(液送ポンプ)15により酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に処理液供給路21を経て行えるようになっている。
【0042】
さらに、火炎バーナ13に火炎を発生させるための燃料ガス構成成分となる可燃性ガスおよび酸化性ガスをそれぞれ供給する可燃性ガスタンク23および酸化性ガスタンク25を備えている。
【0043】
バーナユニット13は、内側バーナ29と、該内側バーナ29の外周壁を囲繞するように配される外側バーナ31とからなる横断面二重構造を有している。図例では、内側バーナ29および外側バーナ31は、同心長円(平行直線の両側が半円とされたもの)の二重構造であるが、楕円、矩形、円形の同心二重構造であってもよい。
【0044】
内側バーナ29の第一燃料ガス入口29aには第一燃料ガス供給路33が接続されている。そして、外側バーナ31の第二燃料ガス入口31aには第二燃料ガス供給路35が接続されている。外側バーナ31は、内側バーナ29からの表面改質火炎の外側に酸化防止火炎を噴射させるためのものである。これにより、表面改質火炎が横断面全体に亘り均質化されて表面改質処理を良好かつ効率よく行なうことができる。
【0045】
上記第一燃料ガス供給路33の元部には第一混合器37を備え、第一混合器37には酸化性ガスタンク25及び可燃性ガスタンク23が、それぞれ第一酸化性・可燃性ガス供給路41、43を介して接続されている。同様に、第二燃料ガス供給路35の元部には第二混合器39を備え、第二混合器39には酸化性ガスタンク25及び可燃性ガスタンク23が、それぞれ第二酸化性・可燃性ガス供給路45、47を介して接続されている。第一酸化性・可燃性ガス供給路41、43には第一酸化性・可燃性ガス開閉弁V1、V2を、第二酸化性・可燃性ガス供給路45、47には第二酸化性・可燃性ガス開閉弁V3、V4を、それぞれ備えている。
【0046】
第一酸化性ガス供給路41に、側路開閉弁V5および改質剤一次混合器51を備えた酸化性ガス側路(バイパス)53を形成し、酸化性ガス側路53の合流箇所を改質剤二次混合器55で接続する。各混合器37、39はエジェクタ形として、改質剤一次混合器51の吸引側にナノポンプ15から送液路16の出口側を接続し、さらに、酸化性ガス側路53の出口側を改質剤二次混合器55の吸引側に接続する。こうして、改質剤一次混合器51で液体改質剤が少量の酸化性ガス(液体改質剤比率:0.2〜20gm-3、望ましくは、2〜10gm-3)で一次混合され、さらに、改質剤二次混合器55で多量の酸化性ガス(液体改質剤比率:0.01〜1.0gm-3、望ましくは、0.1〜0.5gm-3)と二次混合されて、液体改質剤が酸化性ガス中に良好に均一分散されて気化(霧化を含む。)されるようになっている。
【0047】
なお、本実施形態では、液体改質剤と搬送ガス(担持ガス)である酸化性ガスとの混合を、拡散促進の見地から一次混合器51と二次混合器55を使用する二段方式としたが、二次混合器55のみの一段方式でもよい。
【0048】
上記各混合器37、39、51、55は、図例ではエジェクタ形で、酸化性ガスを第一流体とし、可燃性ガスを第二流体として吸引混合するものである。混合器はこれに限られるものではなく、例えば、単なる合流混合器であってもよい。
【0049】
また、本実施形態ではバーナへの燃料ガスの供給は、酸化性ガス供給路、可燃性ガス供給路を合流させた燃料ガス供給路で行う構成としたが、バーナへ直接的に酸化性ガス供給路、可燃性ガス供給路を接続してバーナ内で燃料ガスを形成したり、予め、燃料ガスを調製しておきバーナへ燃料ガス供給路のみを介して行なったりする構成としてもよい。
【0050】
次に、上記構成の表面改質装置の使用態様について説明する。
【0051】
予め、酸化性ガスタンク25内には、加圧状態の酸化性ガスが充填されている。酸化性ガスとしては、例えば、圧縮空気と酸素との混合ガスを好適に使用できる。酸化性ガスタンクの内圧は例えば、大気圧(101.3kPa)より若干高い、0.2〜1.0MPa(200〜1000kPa)とする。
【0052】
また、可燃性ガスタンク23内は、可燃性ガスが充填されている。可燃性ガスは加圧状態とはしない。第一・第二混合器37、39を通過させる酸化性ガスの流速を第一・第二開閉弁V1、V2で調節することにより、エジェクタ効果で可燃性ガスと酸化性ガスとの混合比を調節可能なためである。
【0053】
ここで、可燃性ガスとしては、通常、天然ガス、液化石油ガス(LPG)等の炭化水素系のものを使用するが、適宜、一酸化炭素、水素、それらの混合ガスも使用可能である。
【0054】
先ず、開閉弁V1〜V4を開く。
【0055】
そして、第一・第二混合器37、39で酸化性ガスと可燃性ガスとが混合されて燃料ガスとして内側バーナ29および外側バーナ31に供給される。この状態で内側・外側バーナ29、31を点火する。
【0056】
次いで、側路開閉弁V5を開くとともにナノポンプ15を稼働させると、液体改質剤は、改質剤一次混合器51に微量噴射される。
【0057】
すると、液体改質剤は、改質剤一次・二次混合器51、55位置で、酸化性ガスにより一次・二次混合されてエーロゾル化(霧化乃至気化)される。こうして酸化性ガスでエーロゾル化された液体改質剤は、さらに、第一混合器37で酸化性ガスに可燃性ガスが混合されて燃料ガスのエーロゾルとして改質剤噴射バーナ(内側バーナ)29まで搬送される。改質剤噴射バーナ29からの火炎により、液体改質剤が被処理物(固体製品)Sの被処理面に噴射される。
【0058】
こうして液状の表面改質剤は内側バーナ29の火口29bから火炎により熱分解ラジカル化して被処理物(固体製品)Sの被処理面に付着して濡れ性を増大させる。さらに、ナノポンプ15による微量供給により、表面改質剤(シリコーン化合物や含酸素有機化合物)のラジカル化が、前述の理由により、さらに促進される。
【0059】
このときの改質剤噴射バーナ29の火口29bと被処理物(被着体)Sの被処理面(被接着面)との距離は、前記と同様、バーナ形状、火炎の強さ、被処理物の種類、要求性能等により異なるが、10〜500mmの範囲から適宜選定する。
【0060】
また、外側バーナ31からの火炎により改質剤噴射バーナ(内側バーナ)29の外側火炎が酸化作用を受け難く、良好な改質効果(濡れ性改善効果)を得ることができる。
【0061】
通常、上記表面改質装置の可燃性ガス、酸化性ガスおよび表面改質剤の供給量や、被処理面に対する噴射ノズルの移動速度・範囲は数値制御(NC)可能としておく。
【0062】
次に、上記表面改質装置を用いての接着方法乃至塗装方法について説明する。
【0063】
接着方法乃至塗装方法ともに、表面改質処理を行う被接着面対乃至被塗布面の材質は特に限定されないが、下記材質の被着体対組合わせ、乃至、被塗布面とすることが本発明の効果が顕著となる。
【0064】
被着体対組合わせ材質:シリコーン樹脂と合成樹脂(シリコーンを除く。)、合成樹脂と加硫ゴム体、合成樹脂と金属、又は、合成樹脂とガラス。
【0065】
被塗布面材質:金属、ガラス、セラミック、加硫ゴム又は非極性高分子。
【0066】
金属としては、Mg、Al(第3周期金属)、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn(第4周期金属)、Cd、In(第5周期金属)、W(第6周期金属)等およびそれらの合金(例えば、炭素鋼、青銅、真鍮等)を挙げることができる。
【0067】
合成樹脂乃至ゴムとしては表2に示すものを、その他無機物としては表3に示すものをそれぞれ挙げることができる。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
本接着方法・塗装方法に使用する接着剤としては表4に示す各種接着剤を、塗料としては表5に示す各種塗料をそれぞれ挙げることができる。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
使用する表面改質剤としては、被処理面に親水性を付与できるものなら、特に限定されない。各種有機金属化合物や含酸素有機化合物を使用可能である。
【0074】
有機金属化合物としては、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、アルコキシアルミニウム化合物(特許文献1請求項2)を使用できるが、その他の金属・半金属(ホウ素、リン、スカンジウム、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ガリウム等)のアルキル乃至アルコキシ化合物でもよい。
【0075】
含酸素有機化合物としては、(A)エーテル構造(−O−)を2個以上有している炭素を有するもの、(B)C=O基(カルボキシル基及びその誘導基を含む。)が2個以上結合している炭素を有するものを挙げることができる。
【0076】
(A) 上記エーテル構造(−O−)を2個以上有している炭素を有する含酸素有機化合物群としては、
(1)オルトエステル類:下記構造式で示されるもの。
RC(OR´)3 [但し、R:水素又は炭素数1〜6のアルキル基、R´:炭素数1〜6のアルキル基]
【0077】
(2)環状ジエーテル類:酸素1,3位置の5・6員環(2位置ケトン基のものを含む。)。
【0078】
(3)アセタール類:下記構造式で示されるもの。
R1R2C(OR3)(OR4) [但し、R1,R2:水素又は炭素数1〜4のアルキル基、R3,R4:炭素数1〜6のアルキル基]
【0079】
(B) C=O基(カルボキシル基及びその誘導基を含む。)が2個以上結合している炭素を有する含酸素有機化合物群として、下記の総炭素数5〜10の(1)ジケトン類、(2)ジケト酸エステル、又は(3)ジカルボン酸ジエステル類を挙げることができる。
【実施例】
【0080】
次に、従来技術では実用的な接着乃至塗装がされていた各種材質(異種組合わせを含む。)について、本発明の効果を確認するために行なった各接着強さ試験乃至塗膜密着性試験(碁盤目試験)について説明する。
【0081】
(1)各試験片(実施例)の火炎処理(表面改質処理)は下記の如く実施した。
【0082】
1)表面改質剤と酸化性ガス、可燃性ガスおよび燃料ガスとの混合方法:
図3の表面改質処理装置を使用して、前述の如く行なった。
【0083】
2)火炎バーナの構造:
図3〜5に示す如く、内側バーナ(改質剤噴射バーナ)29と外側バーナ(酸化防止炎噴射バーナ)31との一体構造である。そして、内側バーナ29(長さ:150mm)の火口29bは多孔板(800孔;横幅70mm×縦幅50mm)で形成されている。
【0084】
3)被処理物Sに対する火炎処理の態様:
被処理物を可動治具上にセットする。このとき、内側バーナ29の火口29bと被処理物Sの被処理面との距離を調節する。なお、可動治具13は、数値制御(NC)により被処理面の形状に対応して設定速度で稼動可能とされている。また、NCにおける設定速度は、表面改質剤および被処理面の材質により異なるため、実際の被処理物に対して試行を行って決定した。
【0085】
(2)各実施例で調製した被験体(n=5)について、適宜、下記条件で1)90°剥離強さ試験、2)引張剪(せん)断強さ試験、および3)碁盤目(塗膜密着性)試験を実施した。
【0086】
1)90°剥離強さ試験:
試験片対(平面形状:50mm×100mm)の、各端10mm幅をイソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理後、各実施例について表面改質処理をし、更に、両面テープ(3M社製「3M-PT8088」)で貼り合わせて5個の被験体を調製する。
【0087】
被験体を90°剥離試験機(イマダ社製「Push Pullゲージ」)にセットして90°方向に引っ張って(引張速度:120mm/min)剥離荷重を測定した。
【0088】
2)引張せん断強さ試験:
試験片対(平面形状25.4×100mm)の各端12.7mm幅をIPAで脱脂処理後、各実施例の火炎処理をし、さらに、接着剤(ヘンケル社製「LOCTITE401」)を塗布後(塗布厚約5μmとなるようにスペーサを置く。)、該部を圧着して被験体を調製して24h放置する。
【0089】
被験体の上下端を引張り試験機(藤井精機社製「FSP−100」)に取付け、引っ張って(引張速度:2mm/min)、破断荷重を測定した。なお、引張せん断強さ(S)は、下記式によって求めることができる。
引張せん断強さ(S)=破断荷重(L)/接着面積(A)
【0090】
3)塗膜密着性試験:
試験片(50×100mm)をIPAで脱脂処理後、片側半分(50mm)をマスキングして、各端10mm幅を脱脂処理後、各実施例の火炎処理をした。その後、マスキングを外し水性塗料(アサヒペン社製「アクリル系水性塗料」)で全面塗布(硬化条件:120℃×20min)して被験体を調製した。
【0091】
該各被験体の火炎処理部と被処理部とについて、100マス碁盤面試験(JIS K5400)に準じて実施した。
【0092】
(3)各接着強さ試験乃至塗膜密着性試験は下記の如く行なった。
<試験群I:90°剥離接着強さ試験>
試験片対としてポリプロピレン(PP)製(50mm×100mm×2mmt)を用意し、下記条件で火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記90°剥離強さの試験を行なった。
【0093】
火炎処理条件・・・改質剤:ヘキサメチルジシロキサン、改質剤吐出量:250nL/s、照射距離:150mm、移動速度:200mm/s
試験結果を図6に示す。
【0094】
処理品(直後)は平均値約10kgf(98N)であったのに対し非処理品は平均値約3kgf(29.4N)と約3倍の90°剥離強さが得られた。処理品(5日後)の平均値も約9.9kgf(97N)と処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図6のグラフに示すとおり、剥離強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0095】
<試験群II:引張せん断強さ(1)>
試験片対としてPP製(25.4mm×100mm×3mmt)を用意し、上記試験群Iと同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図7に示す。
【0096】
本発明の火炎処理品(直後)は平均値約83kgf(813.4N)であったのに対し非処理品は平均値約9.6kgf(94.1N)と約8.6倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日後)の平均値も約82kgf(803.6N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図7のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0097】
<試験群III:引張せん断強さ(2)>
試験片対としてPP製のもの(25.4mm×100mm×3mmt)およびSUS304製のもの(25.4mm×100mm×1.5mmt)をそれぞれ用意し、上記実施例1と同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず、火炎処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図8に示す。
【0098】
本発明の火炎処理品(直後)は平均値約89kgf(N)であったのに対し非処理品は平均値20kgf(196N)と約4.5倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日放置後)の平均値も約88kgf(N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図8のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0099】
<試験群IV:塗膜密着性試験>
試験片としてPP製(50mm×100mm×3mmt)を用意し、実施例1と同一条件で火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品について前記の被験体を調製して、前記碁盤目試験を行なった。試験結果を表6に示す。
【0100】
処理品(直後)は剥がれ1/500であったのに対し、非処理品は全面に剥がれが発生した。処理品(5日放置後)も剥がれ2/500であり、処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、表6に示すとおり、塗膜密着性も良好であることが確認できた。
【0101】
【表6】
【0102】
<試験群V:引張せん断強さ(3)>
火炎処理品とプラズマ処理品について未処理品と共に、試験群IIと同様にして、引張せん断強さ試験を実施した。なお、プラズマ処理は、表7に示す条件で行った。試験結果を図9に示す。
【0103】
本発明の火炎処理品は平均値約84kgf(N)であったのに対し、プラズマ処理品は平均値約65kgf(N)と約30%低かった。また、強さバラツキ(最大値と最小値の差)は、火炎処理品は4kgf(N)であったのに対し、プラズマ処理品は9kgfであり、本発明の表面改質処理は安定性があることが確認できた。
【0104】
さらに、各改質処理後、5h経過までの1h毎に、実施例2と同様にして、引張せん断強さ試験を実施した。試験結果を図10に示す。なお、図10における数値はn=5の平均値であり、図10の各棒グラフの上の数値は3σ(標準偏差)値である。
【0105】
本発明の火炎処理の場合、5h経過後においてもせん断強さに殆ど変化がなかったのに対し、プラズマ処理の場合、1h経過後から漸減し5h経過後には約20kgf(196N)も低下した。
【0106】
【表7】
【0107】
<試験群VI:引張せん断強さ(4)>
試験片対としてシリコーン樹脂(信越化学社製汎用品)(25.4mm×100mm×3mmt)を用意し、上記実施例1と同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図11に示す。
【0108】
本発明の火炎処理品は平均値約92.1kgf(N)であったのに対し被処理品は平均値約12.5kgf(N)と約7.3倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日後)の平均値も約89.3kgf(N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図11のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【0109】
<試験群VII:引張せん断強さ(5)>
試験片対としてPP製(25.4mm×100mm×3mmt)を用意し、上記実施例1において改質剤をオルトギ酸トリエチル(含酸素有機化合物)とした以外は同一条件で双方に火炎処理(直後・5日放置後)又は火炎処理を行わず処理品および非処理品の被験体を調製して、前記引張せん断強さの試験を行なった。試験結果を図12に示す。
【0110】
本発明の火炎処理品(直後)は平均値約86.1kgf(N)であったのに対し非処理品は平均値約10.9kgf(N)と約倍の引張せん断強さが得られた。火炎処理品(5日後)の平均値も約83.6kgf(N)と火炎処理品(直後)と殆ど変わらなかった。また、図12のグラフに示すとおり、引張せん断強さバラツキも小さいことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、従来技術では困難であった素材への接着・塗装への展開が期待できる。
【0112】
また、火炎処理のバーナ構造を二重とすることにより、作業環境が改善されて、従来困難であった場所での接着・塗装作業の展開が期待できる。
【符号の説明】
【0113】
11 処理液タンク
13 バーナユニット
15 ナノポンプ(液送ポンプ)
23 可燃性ガスタンク
25 酸化性ガスタンク
29 改質剤噴射バーナ(内側バーナ)
31 酸化防止炎噴射バーナ(外側バーナ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被着体対の被接着面の少なくとも一方を火炎処理により表面改質処理後、接着剤を塗布して前記被着体対を接着する方法において、
前記火炎処理が、
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被接着面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する構成である、
ことを特徴とする接着方法。
【請求項2】
前記被着体対が、シリコーン樹脂体と合成樹脂体(シリコーンを除く。)、合成樹脂体と加硫ゴム体、合成樹脂体と金属、及び、合成樹脂体とガラス、のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の接着方法。
【請求項3】
前記火炎バーナに加えて、
前記表面改質剤を貯留する処理液タンクと、
前記火炎バーナに接続される可燃性ガス、酸化性ガスおよび燃料ガスのガス供給路を備え、
前記いずれかのガス供給路の途中に、前記処理液タンクとの間にナノポンプを備えた処理液供給路が接続されている、構成の表面改質装置を用いて、前記表面改質処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の接着方法。
【請求項4】
前記表面改質装置における、火炎バーナが、前記燃料ガスの噴射部の外側に囲繞するように、前記表面改質剤を含まない燃料ガスの外噴射部を備えていることを特徴とする請求項3記載の接着方法。
【請求項5】
被塗布物における被塗布面を火炎処理により表面改質処理後、塗装をする方法において、
前記火炎処理が、
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被塗布面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する構成である、
ことを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
前記被塗布物の被塗布面が、金属、ガラス、セラミック、加硫ゴムおよび非極性樹脂のいずれか1種以上で形成されていることを特徴とする請求項5記載の塗装方法。
【請求項7】
前記火炎バーナに加えて、
前記表面改質剤を貯留する処理液タンクと、
前記火炎バーナに接続される可燃性ガス、酸化性ガスおよび燃料ガスのガス供給路を備え、
前記いずれかのガス供給路の途中に、前記処理液タンクとの間にナノポンプを備えた処理液供給路が接続されている、構成の表面改質装置を用いて、
前記表面改質処理を行うことを特徴とする請求項5又は6記載の塗装方法。
【請求項8】
前記表面改質装置における、火炎バーナが、前記燃料ガスの噴射部の外側に囲繞するように、前記表面改質剤を含まない燃料ガスの外噴射部を備えていることを特徴とする請求項7記載の塗装方法。
【請求項1】
被着体対の被接着面の少なくとも一方を火炎処理により表面改質処理後、接着剤を塗布して前記被着体対を接着する方法において、
前記火炎処理が、
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被接着面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する構成である、
ことを特徴とする接着方法。
【請求項2】
前記被着体対が、シリコーン樹脂体と合成樹脂体(シリコーンを除く。)、合成樹脂体と加硫ゴム体、合成樹脂体と金属、及び、合成樹脂体とガラス、のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の接着方法。
【請求項3】
前記火炎バーナに加えて、
前記表面改質剤を貯留する処理液タンクと、
前記火炎バーナに接続される可燃性ガス、酸化性ガスおよび燃料ガスのガス供給路を備え、
前記いずれかのガス供給路の途中に、前記処理液タンクとの間にナノポンプを備えた処理液供給路が接続されている、構成の表面改質装置を用いて、前記表面改質処理を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の接着方法。
【請求項4】
前記表面改質装置における、火炎バーナが、前記燃料ガスの噴射部の外側に囲繞するように、前記表面改質剤を含まない燃料ガスの外噴射部を備えていることを特徴とする請求項3記載の接着方法。
【請求項5】
被塗布物における被塗布面を火炎処理により表面改質処理後、塗装をする方法において、
前記火炎処理が、
液状で熱分解性の表面改質剤を、可燃性ガスと酸化性ガスとを混合させた燃料ガスの燃焼火炎をキャリヤーとして、火炎バーナから前記被塗布面に吹き付けるに際して、
前記表面改質剤を、ナノポンプを介して、前記火炎バーナへの前記可燃性ガス、前記酸化性ガス又は前記燃料ガスのガス供給路の途中に供給することにより気化(霧化を含む。)させて、前記火炎バーナに前記燃料ガスとともに供給する構成である、
ことを特徴とする塗装方法。
【請求項6】
前記被塗布物の被塗布面が、金属、ガラス、セラミック、加硫ゴムおよび非極性樹脂のいずれか1種以上で形成されていることを特徴とする請求項5記載の塗装方法。
【請求項7】
前記火炎バーナに加えて、
前記表面改質剤を貯留する処理液タンクと、
前記火炎バーナに接続される可燃性ガス、酸化性ガスおよび燃料ガスのガス供給路を備え、
前記いずれかのガス供給路の途中に、前記処理液タンクとの間にナノポンプを備えた処理液供給路が接続されている、構成の表面改質装置を用いて、
前記表面改質処理を行うことを特徴とする請求項5又は6記載の塗装方法。
【請求項8】
前記表面改質装置における、火炎バーナが、前記燃料ガスの噴射部の外側に囲繞するように、前記表面改質剤を含まない燃料ガスの外噴射部を備えていることを特徴とする請求項7記載の塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−7229(P2012−7229A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146670(P2010−146670)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(593102921)ミズショー株式会社 (8)
【出願人】(510209166)メイリツコンポーネント株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(593102921)ミズショー株式会社 (8)
【出願人】(510209166)メイリツコンポーネント株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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