説明

接着用無機質コーティングを有する複合材料構造物及びその製造方法

【課題】有機系基板に接着される無機質のコーティングを含む複合材料基板を調製するための複合材料構造物及び関連方法を提供する。
【解決手段】アミン又はイミン構成成分及びアルコキシラン構成成分のうちの少なくとも一つを有する接着促進剤を使用することにより、基板への無機質コーティングの確実な接着が促進される。一つの実施形態では、接着促進剤は次の化学式(I)に示す構造を有していてもよい。


ここでXは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して無機質の熱制御コーティングを有する複合材料構造物に関し、具体的には無機質の熱コーティングを有する複合材料構造物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な構造物で複合材料を使用したいという要望が高まってきている。このような複合材料は概して軽量で、その結果、設計基準に応じて航続距離が長く、燃料効率のよい、又は積載量の大きい輸送手段で有用となりうる、より軽量な構造物を設計する機会を提供するようになっている。
【0003】
複合材料は概して樹脂に封入された強化充填材を含む。充填材は繊維、とりわけ織生地であってもよく、任意の他の適切な形状及び形態で存在していてもよい。充填材は場合によって異なるが、例えば、炭素繊維、グラファイト、ガラス繊維、及び他の適切な材料を含みうる。樹脂は例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及び他の好適なエンジニアリング樹脂などの、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の系列を含みうる。
【0004】
このような複合材料は概して、熱暴露を制御する能力が限られていることがある。例えば、人工衛星及び深宇宙船などの宇宙船は、運用中に広範囲に及ぶ熱条件に暴露される。太陽に面している側は直接的な太陽熱放射の吸収によって加熱され、一方、宇宙空間に面している側は熱放射の放出によって冷却される。構造物又は積載物の温度が高温又は低温になりすぎると、構造的な歪みによってシステムの機能低下が引き起こされる可能性がある。さらに、電子機器、バッテリー及び他の重要なシステムなどの積載物に、機能低下、動作停止、寿命の短縮又は不具合などがみられることがある。したがって、宇宙船の熱制御は重要である。アンテナ及びブームなどの外部構造要素での温度変動を低減し、且つ宇宙船内部を高感度機器、積載物、及び人間の居住に適した温度に維持するため、様々な技術が開発されてきている。
【0005】
一つの熱制御アプローチでは、宇宙船の外部表面は無機質の熱コーティング材によって覆われている。コーティングは、太陽熱放射をほとんど吸収しないが、赤外線スペクトルの熱エネルギーを効率よく放射するように設計されており、その結果、配置された衛星構造物の全体の温度を低温側にバイアスする。コーティングは放射線及び宇宙で遭遇する低圧ガス環境に対してほぼ安定しており、地球の低周回軌道から高周回軌道までの過酷な環境の中での長期間にわたる退色、黒ずみ又はその他の劣化によって熱特性を失うことがない。幾つかの応用では、宇宙船表面の帯電を消散させるため、コーティングには十分な導電性もなければならない。
【0006】
概して、無機質のコーティング材は複合材料に対する接着性が乏しいため、アルミニウム基板への塗布は制限されてきた。したがって、複合材料が熱可塑性又は熱硬化性基板に接着する無機質のコーティングを有するように、改良された複合材料及びその調製方法を開発する必要性がある。
【0007】
本発明は複合材料構造物を対象としており、前述の問題点の一又は複数に対処しうる複合材料基板の調製方法に関連している。本発明の一態様によれば、分子の一端に尿素構成成分と分子の他端にアルコキシシラン構成成分を有する分子を含む接着促進剤によって、エポキシ系基板に接着される無機質のコーティングを含む複合材料構造物が提供される。尿素構成成分及びアルコキシシラン構成成分を有する接着促進剤を使用することにより、基板への無機質コーティングの強力な接着が促進される。
【0008】
有利には、接着促進剤は次の化学式(I )に示す以下の構造を有していてもよい。
【化1】


ここでXは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である。
【0009】
幾つかの実施例では、接着促進剤は次の化学式(II )(1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素)及び化学式(III )(1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]尿素 )から選択された構造を有している。
【化2】


【化3】


さらに接着促進剤は、上述の化学式(II )及び化学式(III )、又はXがメトキシ基又はエトキシ基である任意の組み合わせとして存在することができる。例えば、幾つかの実施例では、接着促進剤はメトキシ基及びエトキシ基構成成分の双方を有する「混合」分子を含みうる。
【0010】
有利には、無機質のコーティング層はケイ酸カリウム系樹脂を含みうる。
【0011】
有利には、基板はエポキシ系樹脂を含浸させたガラス繊維を含みうる。代替的には、基板はエポキシ系樹脂を含浸させた炭素繊維を含みうる。代替的には、基板はエポキシ系マトリクスを含みうる。代替的には、エポキシ系基板は、エポキシ系材料をコーティングされた非エポキシ系材料を含みうる。無機質のコーティング層はpHが7を超える塩基性物質を含みうる。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、エポキシ系基板の表面に対して接着促進剤を含む溶液であって、接着促進剤が以下の化学式を有し、
【化1】


ここで Xは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である溶液を塗布するステップ;接着促進剤を含む層を形成するため溶液を乾燥させるステップ;接着促進剤の上に無機質のコーティングを塗布するステップ;及び無機質のコーティング層が強固に基板に接着されている複合材料基板を提供するために無機質のコーティングを硬化させるステップ、を含む複合材料構造物の調製方法が提供される。
【0013】
有利には、接着促進剤を含む溶液はイソプロピルアルコールを含む。
【0014】
有利には、接着促進剤は以下の化学式を有する分子を含む。
【化2】

【0015】
有利には、エポキシ系基板の表面を加湿するステップが接着促進剤を塗布するステップに先行する。
【0016】
有利には、接着促進剤の層の上に無機質のコーティングを塗布するステップは、無機質コーティングの第一層をミストコーティングとして塗布するステップを含む。好ましくは、無機質コーティングの第二層を塗布するステップは、無機質コーティングの第一層の塗布後少なくとも5分間経過してから塗布される。
【0017】
有利には、無機質コーティングは7を上回るpHを有する。代替的に、無機質コーティングは約11又はこれを上回るpHを有する。
【0018】
有利には、接着促進剤は、基板表面上に接着促進剤を擦り込むことによって基板に塗布される。
【0019】
有利には、無機質コーティングはケイ酸カリウム系樹脂を含む。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、コンクリートマトリクス、コンクリートマトリクス内に配置される構造部材、エポキシ系樹脂でコーティングされた基板を含む構造部材、及びエポキシ系樹脂にコンクリートマトリクスを接着する接着促進剤を有するコンクリート複合材料が提供されるが、該接着促進剤は以下の化学式を有し、
【化1】


ここでXは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である。
【0021】
有利には、構造部材は鉄筋の形態をとる。
【0022】
本発明について概略的な用語で説明してきたため、ここで添付の図面を参照するが、図面は必ずしも一定の縮尺で描かれているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に基づく第一の複合材料の断面図である。
【図2】本発明に基づく第二の複合材料の断面図である。
【図3】接着される無機質コーティング層を有する基板の調製方法のブロック図である。
【0024】
本発明は以下で図面を参照してより詳しく説明される。全体を通して、同様の要素は同一番号で参照される。
【0025】
本発明の実施例は、接着される無機質コーティングを有する複合材料及びその調製方法を対象としている。図1を参照するに、本発明の実施形態に基づく複合材料構造物は、参照番号10によって図解され、広く指定されている。複合材料構造物10は、エポキシ樹脂系基板12に接着される無機質コーティング14を含む。接着促進剤を含む層16は、無機質コーティング14と基板12の間に配置されている。接着促進剤は、分子の一端に尿素構成成分と分子の他端にアルコキシシラン構成成分を有する有機分子を含む。本発明の発明者は、尿素構成成分及びアルコキシシラン構成成分を有する接着促進剤を使用することにより、基板への無機質コーティングの強力な接着が促進されることを発見した。
【0026】
図2は、複合材料構造物の基板が任意の材料を含みうる本発明の実施形態を示している。この実施形態では、複合材料構造物20は基板22に接着される無機質コーティングを含む。接着促進剤を含む層16は、無機質コーティング14と基板22を覆うエポキシ系樹脂層24との間に配置されている。一つの実施形態では、エポキシ系樹脂層は、基板22の表面に塗布されている塗料又は同様のコーティングを含みうる。
【0027】
無機質コーティングは基板に強固に接着されることを特徴とする。接着強度は米国材料試験協会規格ASTM D 3359 Method Aに従って試験されうる。(ASTM D 3359 Method Aに従って試験)した1インチあたり60オンスの最小剥離強度を有するテープを、D 3359 Method Aに従ってクロスカットした部位に配置し、押し付けた後に急激に引き剥がす。テープによって剥離された材料の量を、接着力を評価する基準と比較する。これらの試験で、対象となった無機質コーティングは剥離がきわめて少なく、ASTM D 3359 Method Aのクラス5、すなわち、剥離されたテープ上にある無機質コーティングの量が5%未満であること、またより典型的には1%未満であったことが特定されている。一つの実施形態では、剥離されたテープ上に存在していた無機質コーティングはほとんどなかった。
【0028】
既に簡略的に説明したように、接着促進剤は、分子の一端に尿素構成成分(例えば、H N−(CO)−)と分子の他端にアルコキシシラン構成成分を有する有機分子を含む。一つの実施形態では、接着促進剤は、一端に複数のアルコキシル基を有するシラン構成成分と他端に尿素構成成分を有する分子を含む。本発明の実施形態に基づく好適な接着促進剤は、次の化学式(I )に示す構造を有していてもよい。
【化1】


ここでXは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である。
【0029】
一つの実施例では、接着促進剤は次の化学式(II )(1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素)及び化学式(III )(1−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]尿素)から選択された構造を有している。
【化2】


【化3】

【0030】
幾つかの実施形態では、接着促進剤は、上述の化学式(II )及び化学式(III )、又はXがメトキシ基又はエトキシ基である任意の組み合わせとして存在することができる。例えば、幾つかの実施例では、接着促進剤はメトキシ基及びエトキシ基構成成分の双方を有する「混合」分子を含みうる。さらなる実施形態では、接着促進剤はシラン構成成分及び複数の尿素様構成成分(例えば、H N−(CO))を有する化合物を含みうる。例えば、幾つかの実施形態では、接着促進剤は二個以上の尿素様官能基を有する構成物質を含みうる。加えて、接着促進剤はアルキル基が二個以上の尿素様構成成分に結合している化合物を含みうる。
【0031】
理論に束縛されることを望むものではないが、化学式(I )〜(III )の接着促進剤は、エポキシ系材料及び基板(以降、まとめて単に基板と呼ぶ)へのケイ酸塩を含む無機質コーティングの接着に特に有用であると考えられている。幾つかの実施形態では、アルコキシ構成成分は無機質コーティングのケイ酸塩への直接的な接着を形成し、尿素構成成分はエポキシ系基板での化学吸着水への結合を形成することが理論化されている。特に、接着促進剤とエポキシ系基板との間の結合を促進するため、塩基(例えば、pH 7+〜14)で接着促進剤を触媒するのが望ましい結果になりうることが観察されてきた。例えば、エポキシ系基板の無機質コーティングへの結合は以下の機構に従って起こりうることが理論化されている。
(1)表面上又は近傍に化学吸着水(−OH)を有するエポキシ樹脂マトリクス:
(−)3C−OH;
(2)接着促進剤、例えば、一端にアルコキシ基を又他端に尿酸構成成分(H N−(CO)−)を有するH N−(CO)−NH−(CH −SiX をエポキシ樹脂マトリクスの表面に塗布する。
(3)化学塩基(例えば、OH )の存在下で、尿酸構成成分はエポキシ樹脂マトリクスの化学吸着水と反応し、エポキシ系樹脂の表面に炭素−窒素結合“C−N”を形成する。
(−) C−N−(CO)−NH−(CH −SiX +H
上述の機構では、接着促進剤と無機質コーティングとの間の反応も起こっているが、単純化するため除外したことに注意されたい。
【0032】
加えて、発明者は上述のエポキシ系基板と接着促進剤との間の反応が、幾つかの実施形態では、基板に接着促進剤を塗布する前に、基板/材料を水又は湿潤環境に暴露することによって改善されうることも発見している。
【0033】
既に述べたように、塩基と共に接着促進剤を触媒することが、接着促進剤とエポキシ系基板との間の結合の促進に役立つことが観察されてきた。有利には、無機質コーティング自体が、接着促進剤とエポキシ系基板との間の結合を引き起こす触媒として働きうる。一般的に、無機質コーティングは約11以上のpHを有する塩基性物質である。無機質コーティングを接着促進剤に塗布すると、無機質コーティングは化学結合反応を触媒して、接着促進剤を介してエポキシ系基板に接着される無機質コーティングを含む複合材料構造物を形成する。
【0034】
有利には、フッ化水素酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、その他同種類のものなど、酸又は塩基で処理していない場合に、基板に無機質コーティングを結合するのに接着促進剤を使用しうる。
【0035】
加えて、基板の表面が粗くない場合には、基板への無機質熱コーティングの接着を提供しうることが示されてきた。同様に、接着のための基板のさらなる研磨処理が不要になるように、本発明に基づく複合材料構造物を提供することが可能である。実際に、エポキシ系基板/材料の研磨は接着プロセスに対して実際に有害になりうることが観察されてきている。理論に束縛されることを望むものではないが、研磨(例えば、やすりによる研磨)は表層を取り除き、グラファイト又は炭素繊維などの下層のコンポーネントを露出させ、その結果、例えば、接着に利用されるエポキシ系基板/材料の表面積を減少させると考えられている。加えて、研磨はまた、エポキシ系基板/材料の水和した表層部分を除去し、接着促進剤による接着に利用される化学吸着水の量を減少させる結果となることがある。
【0036】
上述のように、エポキシ系基板/材料に化学吸着水があることは、接着促進剤とエポキシ系基板/材料との接着を改善すると考えられている。したがって、幾つかの実施形態では、接着促進剤を塗布する前に、エポキシ系基板/材料の表面を最初に「加湿する」ことが好ましいことがある。幾つかの実施形態では、エポキシ系基板/材料の表面は水、霧、湿った環境などに暴露することによって加湿されうる。
【0037】
無機質コーティングの選択は複合材料構造物の使用目的に依存することがある。本発明の種々の実施形態では、幅広い範囲の様々な無機質コーティングが使用しうることを理解されたい。例えば、無機質コーティングは一又は複数の金属成分、金属酸化物、シリカ系成分、及びこれらの組み合わせを含みうる。一つの実施形態では、無機質コーティングは、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、及びこれらの混合物である。
【0038】
幾つかの実施形態では、無機質コーティングはpHが7を超えるように選択される。例えば、一つの実施形態では、無機質コーティングは無機質粘結材(例えば、ケイ酸カルシウム)の中に分散されている無機質色素(金属酸化物)を含む。ケイ酸カルシウムは水溶液として、典型的には11以上のpHを有する基本的な材料である。このような実施形態では、無機質コーティングは、接着促進剤とエポキシ系基板/材料との間の反応を触媒することができるpHを有している。
【0039】
幾つかの実施形態では、中性又は酸性のpHを有する無機質コーティングを使用することが可能でありうる。このような実施形態では、基板への接着促進剤の接着を触媒するため、アルカリ性物質などの塩基性材料による接着促進剤の塗布層を最初に処理することが好ましい場合がある。例えば、接着促進剤の塗布層の上でアンモニア蒸気を吹き飛ばすことによって、接着促進剤は触媒されうる。
【0040】
本発明の一又は複数の実施形態で使用されうる好適な無機質コーティングは、参照により本明細書にその内容が取り込まれている米国特許第5,820,669号、第6,099,637号、第6,478,259号、第6,576,290号、及び第7,718,227号により詳細に記されている。
【0041】
エポキシ系基板/材料は、幅広い範囲のエポキシ系基板/材料から選択することができる。例えば、基板は炭素繊維エポキシマトリクス複合材料、ガラス繊維エポキシマトリクス複合材料、基板に塗布されるエポキシ透明コーティング層(例えば、熱可塑性基板、熱硬化性基板、又は他の材料系基板)、エポキシ樹脂マトリクス及び同等物による金属充填塗料などのエポキシ含有塗料を含みうる。
【0042】
一つの実施形態では、本発明は宇宙船で使用される複合材料構造物を対象としている。特に、基板12、22は、例えば、空気注入式コンポーネント(例えば、パネル、トラス又はアレイ)、太陽光遮蔽板(展開可能なアレイ、反射板、再構成可能な反射板など)、又は断熱ブランケットなどの、宇宙船の任意のコンポーネントであってもよい。無機質コーティング14は、複合材料の外表面に配置されている無機質材料を含む。宇宙船で使用するための実施形態では、無機質材料は約0.2未満の放射線吸収率(α)と、少なくとも約0.6でより典型的には少なくとも約0.7の放射率(ε)を有しうる。その結果、無機質コーティング14は太陽熱放射の吸収は比較的劣るが、赤外線スペクトルでは熱エネルギーを効率的に放射するため、基板14全体の温度を低温側にバイアスする。
【0043】
一つの実施形態では、接着促進剤は擦り込むことによって基板に塗布することができる。例えば、接着促進剤は好適な担体溶媒に分散させ、次に好適な布又は雑巾を用いて基板表面に擦り込むことができる。好適な溶媒はメタノール、エタノール、無水イソプロピル・アルコール及び同等物を含みうる。概して、促進剤は、充填した溶媒の全体重量に基づいて、担体溶媒中に1〜10%の重量パーセントで、具体的には2〜8%の重量パーセントで、より具体的には約5%の重量パーセントで存在する。接着促進剤をエポキシ系基板/材料に塗布するために使用しうる他の方法は、必ずしも同等の結果とはならないが、吹きつけ、はけ塗り、ドクターブレードコーティング、及び同等の方法を含みうる。
【0044】
幾つかの実施形態では、無機質コーティングは、接着促進剤の層の表面に複数の層として塗布される。一つの実施形態では、無機質コーティングが最初に極微細コーティングとして塗布される「ミストコーティング」(「フォグコーティング」とも呼ばれる)として、無機質コーティングは接着促進剤の層に最初に塗布される。初期のミストコーティングの塗布は、1)上述のように、接着促進剤と基板との間の接着反応の触媒に役立つことがあり、また、2)塗布される追加の層として無機質コーティングのランニング又はクローリングの低減に役立つことがある。概して、初期のミストコーティングは、接着促進剤の層に塗布され、無機質コーティングの第二のコーティングの塗布の先立って約5〜15分間硬化させることができる。
【0045】
接着促進剤の有効な厚みは約0.5ミクロンとなりうる。一つの実施形態では、接着促進剤の厚みは次のように、0.5ミクロン、0.6ミクロン、0.7ミクロン、0.8ミクロン、0.9ミクロン、1.0ミクロン、1.1ミクロン、1.2ミクロン、1.3ミクロン、1.4ミクロン、1.5ミクロン、1.6ミクロン、1.7ミクロン、1.8ミクロン、1.9ミクロン、2.0ミクロン、2.1ミクロン、2.2ミクロン、2.3ミクロン、2.4ミクロン、2.5ミクロン、2.6ミクロン、2.7ミクロン、2.8ミクロン、2.9ミクロン、及び3.0ミクロンのいずれか超えることがありうる。他の実施形態では、接着促進剤の厚みは次のように、3.5ミクロン、3.4ミクロン、3.3ミクロン、3.2ミクロン、3.1ミクロン、3.0ミクロン、2.9ミクロン、2.8ミクロン、2.7ミクロン、2.6ミクロン、2.5ミクロン、2.4ミクロン、2.3ミクロン、2.2ミクロン、2.1ミクロン、1.9ミクロン、1.8ミクロン、1.7ミクロン、1.6ミクロン、1.5ミクロン、1.4ミクロン、1.3ミクロン、1.2ミクロン、1.1ミクロン、及び1.0ミクロンのいずれかを下回ることがありうる。
【0046】
接着促進剤は基板に塗布された後、乾燥させることができる。乾燥は室温且つ通常の室内湿度条件で行いうる。乾燥したら、無機質コーティングは接着促進剤の層に塗布される。無機質コーティングは、はけ塗り、吹きつけ、押し出しコーティング、引き下ろし、及び同等の方法などを含む種々の方法を利用して塗布することができる。無機質コーティングは次に乾燥と硬化を行い、無機質コーティングが基板に強固に接着されるように複合材料基板を形成する。
【0047】
乾燥及び/又は硬化した後、無機質コーティング層は約0.001インチから約0.010インチまでの厚さになることがあり、又特に、無機質コーティング層は約0.001インチから0.007インチまでの厚さになることがある。
【0048】
無機質コーティングは単一コーティングとして、又は各コーティング間に乾燥を行って多重コーティングとして塗布しうる。単一コーティング又は多重コーティングの合計の厚さは上記にようになる。多重コーティングで塗布した場合でも、全コーティング及びコーティング間を通して、その組成はほぼ均質なため、無機質コーティングはやはり「単層」コーティングとなる。
【0049】
無機質コーティングを有する複合材料構造物は、任意の熱制御応用で使用しうる。一つの特定の実施形態では、通信衛星などの宇宙船の構造部材として使用されている。
【0050】
図3は、有機系基板の上に無機質コーティングを塗布するためのプロセス100の実施形態の例を示している。このプロセスステップ110で、エポキシ系基板が用意されている。ステップ120では、接着促進剤を受け入れるため、基板の表面が前処理されている。このステップは、ゆるく付着している汚れの除去、脱脂するための中性洗剤による洗浄、又は他の洗浄プロセスを含みうる。一般的に、実行される特定の洗浄プロセスは、基板の化学組成に依存しうる。表面の調製後、表面はステップ130で加湿される。加湿された基板の表面は次に、プロセス140で、所望の厚さまで擦り込むことによって接着促進剤の層がコーティングされる。接着促進剤の層は、典型的には、プロセス150で室温及び室内の湿度で乾燥される。乾燥ステップの間に、担体液は蒸発し、接着促進剤の層が残る。得られる接着促進剤の層は、油分の多いフィルム状の概観と雰囲気になっている。プロセスステップ160では、無機質コーティングの薄い層が基板上のミストコーティングとして、所望の厚みで接着促進剤の上に塗布されている。したがって、無機質コーティング層の塗布されたミストコーティングは、プロセスステップ170で所望の時間だけ接着反応を触媒することができる。無機質コーティング層の第二コーティングは、ステップ180でミストの上に塗布される。無機質コーティング層は次に乾燥及び硬化され、プロセスステップ190で基板の表面に強固に接着されたコーティングを形成する。所望の厚さでのコーティングが塗布された後、コーティングされた基板の表面はプロセスステップ200で種々の技法のうちのいずれかによって検査可能である。検査技法はコーティングの厚さ、空隙率、接着強度、表面粗度、硬度などを試験しうる。
【0051】
上述の代表的な使用に加えて、本発明はまた、構造用コンクリートの応用でも使用しうる。例えば、本発明による複合材料コーティングは、鉄筋、ボルト、ネジなどのコーティングされた構造部材をコンクリート構造体に強固に接着するために使用される。このような実施形態では、構造部材ははじめにエポキシ系樹脂でコーティングされる。コンクリート構造体への組込みに先立って、接着促進剤のコーティングがエポキシコーティングされた構造部材に塗布される。その後、コーティングされた構造部材は、湿潤コンクリート構造体に付加される。湿潤コンクリートはアルカリ性であるため、湿潤コンクリートはエポキシコーティングと接着促進剤との間の反応を触媒し、コンクリートと構造部材との間に強固な接着を形成する。
【実施例1】
【0052】
例1:
基板の試験用に、ガラス繊維マトリクス複合材料を含む基板を選択した。適切な洗浄技法を用いて基板を洗浄した。次に基板を水ですすぎ、さらに脱イオン水ですすいだ。試薬用2−プロパノールに重量パーセントで5%の1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素を含む溶液を基板表面に塗布して、基板上に溶液の薄い層を形成した。溶液は室温及び室内湿度で乾燥させることができた。1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素の層を有する基盤の表面を、ケイ酸カルシウムを含む無機質コーティングで覆った。次に、無機質コーティングを乾燥及び硬化させることができた。
【0053】
得られた無機質コーティングは基板の表面に強固に接着されていた。コーティングされた基板は剥離試験に供されたが、剥離されたテープ上では無機質コーティングは検出されなかった。
【0054】
比較例1:
基板には接着促進剤がコーティングされていないことを除き、上の例1で説明したように基板を調製し無機質コーティングで覆った。無機質コーティングを硬化させた後、基板を剥離試験に供した。剥離試験ではコーティングの大きな部分が存在していた。
【0055】
例1で説明したプロセスを、やすり研磨/荒削りなどの表面処理、接着促進剤又は無機質コーティングの塗布前に行う塩基性及び酸性物質による処理などの化学処理を含む様々な表面処理を反復した。試験結果は、無機質コーティングの基板への接着は、機械的処理(例えば、やすり研磨/荒削り)及び化学的処理(例えば、塩基性/酸性物質)のいずれにも依存しなかった。
【0056】
上述の説明および関連する添付図面に示した教示の利点を有するこのような発明に関連する当業者であれば、本明細書に記載した多数の変形例および他の実施形態が想起されよう。したがって、本発明は開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、変形および他の実施形態は添付の特許請求の範囲に含まれることを意図しているものと理解されたい。本明細書では特定の用語を使用しているが、単に一般的かつ説明のために使用したものであり、限定を目的とするものではない。
【符号の説明】
【0057】
10 複合材料構造物
12、22 基板
14 無機質コーティング
16 接着促進剤を含む層
20 複合材料構造物
24 エポキシ系樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系基板と、
前記基板表面に配置された無機質コーティング層と、
前記無機質コーティング層をエポキシ系基板に接着する接着促進剤であって、次の化学式を有し、
【化1】


ここで Xは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である接着促進剤と
を含む複合材料構造物。
【請求項2】
前記接着促進剤が次の化学式を有する分子を含む、請求項1に記載の複合材料構造物。
【化2】

【請求項3】
前記無機質コーティング層がケイ酸カルシウム系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の複合材料構造物。
【請求項4】
前記基板がエポキシ系樹脂を含浸させたガラス繊維又は炭素繊維を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合材料構造物。
【請求項5】
前記基板がエポキシ系マトリクスを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合材料構造物。
【請求項6】
前記エポキシ系基板がエポキシ系材料をコーティングした非エポキシ系材料を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複合材料構造物。
【請求項7】
前記無機質コーティング層がpH 7を超える塩基性材料を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複合材料構造物。
【請求項8】
エポキシ系基板の表面に、以下の化学式を有し、
【化1】


ここで Xは1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基で、nは1〜5の数字である接着促進剤を含む溶液を適用するステップと、
前記溶液を乾燥させて接着促進剤を含む層を形成するステップと、
前記接着促進剤の層の上に無機質コーティングを塗布するステップと
前記無機質コーティングを硬化させて、無機質コーティングが前記基板に強固に接着されている複合材料基板を提供するステップと
を含む、複合材料構造物を調製する方法。
【請求項9】
前記溶液がイソプロピルアルコールを含む前記接着促進剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記接着促進剤が次の化学式を有する分子を含む、請求項8又は9に記載の方法。
【化2】

【請求項11】
前記接着促進剤を塗布するステップに先行する、前記エポキシ系基板の表面を加湿するステップをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記接着促進剤の層の上に無機質コーティングを塗布するステップが、無機質コーティングの第一層をミストコーティングとして塗布するステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記基板表面上に接着促進剤を擦り込むことによって、前記接着促進剤が前記基板に塗布される、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−14316(P2013−14316A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−143671(P2012−143671)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】