説明

接着細胞の培養方法

本発明は、接着細胞の生産方法であって、a.培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に接着細胞を導入すること;b.この同培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって該細胞を増幅すること(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、i.先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部を、マイクロキャリアから細胞を脱離させるために該細胞集団を酵素処理した後に使用し、ii.培養培地および増加量のマイクロキャリアを導入することによって行われる);およびc.最終細胞継代の間に生産された細胞集団を、所望によりマイクロキャリアから細胞を脱離させるために細胞集団を酵素処理した後に、回収することによる、方法に関する。本発明は、また、生物学的製剤の生産のための方法、特にワクチンまたは薬物を調製するための方法の実施に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の課題は、培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に接着細胞を導入し、同容器中にて数回の連続細胞継代を行うことを含む接着細胞の製造方法であって、毎回、先行細胞継代の細胞集団の全てまたは一部を使用して次の細胞継代を行う方法である。本発明はまた、生物学的製剤の製造、特にワクチンまたは薬物の製造のためのこの方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代に、マイクロキャリアによる細胞培養技術の発達によって、接着細胞の大規模生産が促進され、その結果、生物学的製剤の製造が促進された。それにもかかわらず、医薬用の生物学的製剤の製造を目的とする接着細胞の生産は、細胞の形態学的および/または生物学的変換のリスクがあるので、一定数の規制上の要求、特に、一定数の「細胞継代」を超える接着細胞の使用の禁止という規制上の要求に気を付けなければならない。ベロ株の細胞の場合には特にそうである。
【0003】
特許文献1には、工業的スケールで用いられる、ワーキング・セル・バンク由来の種細胞から接着細胞のバッチを製造する方法が記載されている。それは、連続細胞継代の過程で作業容積を大きくしていく異なるバイオリアクター中にて毎回生じる一連の細胞継代に基づく。これにより、毎回マイクロキャリアの量を増加させることができるが、同時に、一般的に1〜5g/lである培養培地中のマイクロキャリアの最適濃度を維持することができる。このようにして、細胞バイオマスは、所望の工業的な細胞バッチが得られるまで連続細胞継代の間に増加する。あるバイオリアクターから別のバイオリアクターへの細胞の移動は、トリプシン処理によって接着細胞をマイクロキャリアから脱離させ、次いで、血清タンパク質または血清を該培地に導入することによって酵素の作用を遮断して細胞の完全性をできる限り保存した後に行われる。次いで、得られた細胞懸濁液を(使用したマイクロキャリアの存在下または不在下で)、より多量の新しいマイクロキャリアを含有するより大きなバイオリアクターに移す。しかしながら、この工業的な接着細胞生産方法は、多量の材料の使用および扱いを必要とし、生物学的製剤の生産コストに影響を及ぼす。
【0004】
生物学的製剤の生産を目的とする接着細胞の生産コストを低減するために、特許文献2は、工業的な細胞バッチを生産しようとするたびにワーキング・バンク由来の種細胞から再度出発することを要しないより速い生産方法を提案している。この方法は、各細胞継代後に、ほとんどの細胞(細胞バイオマスの80〜90%)を1個以上の別のバイオリアクターに移して細胞バイオマスの増幅を継続させ、細胞の工業的生産バッチを継続させることができ、一方、該細胞の残り10〜20%を保持してさらなる細胞バッチを生産する「フィーダー細胞の」ストックを保持することができる。それにもかかわらず、この方法は、以下の欠点を有する:
・ 生産された細胞バッチは、それらがすべて同数の細胞継代を有するとは限らない場合、ある種の不均一性を示す;
・ 各移動操作時に培養液中に「フィーダー」細胞のストックを保持することにより、必ず、細胞継代の回数と直接関係する細胞の「老化」が生じ、その結果、既に記載された規制上の理由のために限られた期間のみ使用することができる。
【0005】
細胞の完全性に害を及ぼすトリプシンのようなタンパク質分解酵素の使用を省略するために、非特許文献1は、いかなる酵素処理も行われなかった場合の接着細胞のマイクロキャリア間移動(ビース間移動)技法を記載している。接着細胞で被覆されたマイクロキャリアと未被覆マイクロキャリアとの密接な接触は、細胞を増幅することができる未被覆マイクロキャリア上への細胞の移動を促進する。したがって、細胞増殖を増大させるために、接着細胞で被覆されたマイクロキャリアを含有する培養培地に未被覆マイクロキャリアを添加し、マイクロキャリア間の接触を促進するために、培養培地の断続的な撹拌が行われる。それにもかかわらず、生産される細胞集団は、該細胞が細胞周期の様々な段階のものであるので、「脱同期化」され、これは、生物学的製剤の生産の主たる欠点となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,664,912号明細書
【特許文献2】欧州特許第1060241号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ohlson et al., in Cytotechnology (1994), vol. 14, pages 67-80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生産コストを低減するために、接着細胞の大規模生産方法およびそれに由来する生物学的製剤の生産を最適化することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この趣旨で、本発明の対象は、以下のものである:
a.培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に接着細胞を導入すること、
b.同培養容器中にて連続細胞継代を行うことによって該細胞を増幅すること(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、
i.先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部を、細胞をマイクロキャリアから脱離させるために該細胞集団を酵素処理した後に使用すること、および
ii.培養培地および漸増量のマイクロキャリアを導入すること
によって行われる)、および
c.最終細胞継代の間に生産された細胞集団を回収すること(細胞をマイクロキャリアから脱離させるために該細胞集団を酵素処理した後であってもよい)
による、接着細胞の生産方法。
【0010】
本発明の対象は、また、以下のものである:
a.培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に接着細胞を導入すること、
b.同培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって該細胞を増殖させること(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、
i.先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部を、細胞をマイクロキャリアから脱離させるために該細胞集団を酵素処理した後に使用すること、および
ii.培養培地および漸増量のマイクロキャリアを導入すること
によって行われる)、
c.最終細胞継代の間に生産された細胞集団を、生物学的製剤を生産するように処理すること(ここで、この処理は、細胞を増殖させるために使用した培養培地と同じ培養培地にて行われる)、および
d.生物学的製剤を回収すること
による、接着細胞によって生産された生物学的製剤の生産方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、連続細胞継代によってマイクロキャリアに接着した細胞を増幅する次の2つの方法を示す:a)慣用の方法に従って、連続細胞継代が、作業容積を大きくしていく異なる培養容器中で行われる方法、およびb)本発明の方法(一体型法)に従って、連続細胞継代が同一の培養容器中で行われる方法。細胞は、ステップ0で凍結形態である。ステップ0→1は、解凍細胞のバイオリアクターへの移動に相当する。ステップ1は、1回目の細胞継代に相当する。ステップ1→2は、1回目の細胞継代の後に得られた細胞集団の、細胞をマイクロキャリアから脱離させるためにタンパク質分解酵素で処理した後の、方法a)の場合にはより大きな作業容積を有する第2のバイオリアクターへの移動、方法b)の場合には同じ培養容器への移動に相当する。ステップ2は、2回目の細胞継代に相当する。方法b)の場合には、2回目の細胞継代は、一般的に、より多量の培養培地中にてより高濃度のマイクロキャリアの存在下にて行われる。ステップ2→3は、この2回目の細胞継代の最後に得られた細胞集団の、細胞をマイクロキャリアから脱離させるためにタンパク質分解酵素で処理した後の、方法a)の場合にはより大きな作業容積を有する第3のバイオリアクターへの移動、方法b)の場合には同じ培養容器への移動に相当する。ステップ3は、3回目の細胞継代に相当する。方法b)の場合には、この3回目の細胞継代は、2回目の細胞継代の時と比べてより多量の培養培地中にてより高濃度のマイクロキャリアの存在下にて行われる。
【図2】図2は、a)一体型法またはb)ビーズ間移動法を実行する8日間のベロ細胞培養(操作条件は実施例2を参照)の後の顕微鏡(倍率X20)下でのマイクロビーズの外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
生物学的製剤の生産方法の一の態様によると、生物学的製剤は、感染病原体であり、細胞集団の処理は、最終細胞継代の間に生産された細胞集団を感染培地中にて該感染病原体に感染させることによって行われる。
【0013】
一の特定の態様によると、感染病原体は、狂犬病ウイルスであり、感染培地は、動物由来の生成物を含まないウイルス感染培地である。
【0014】
一般に、同一培養培地中にて行われる細胞継代の回数は、2回、3回または4回である。
【0015】
1回目の細胞継代の間の培養培地中のマイクロキャリアの濃度は、一般に、1g/l未満、好ましくは、0.5g/l以下である。
【0016】
非常に好ましくは、酵素処理は、トリプシンのようなタンパク質分解酵素を含有する溶液を用いる。
【0017】
本発明の方法の別の態様によると、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、培養培地の量を増やしながら行われる。
【0018】
好ましくは、1回目の細胞継代は、培養容器の作業容積の5分の1〜2分の1の量の培養培地中にて行われる。
【0019】
本発明の方法の別の実施態様では、培養培地は、動物由来の血清を含まない。
【0020】
好ましくは、培養培地は、動物由来の生成物を含まない。
【0021】
別の態様によると、培養培地中のタンパク質濃度は、15mg/l以下である。
【0022】
さらに別の態様によると、培養培地はまた、細胞保護剤も含有する。
【0023】
好ましくは、細胞保護剤は、ポリビニルピロリドンまたはポロキサマーである。
【0024】
本発明の方法のさらに別の実施態様によると、培養容器は、3〜3000リットル、好ましくは20〜1000リットル、特に好ましくは20〜500リットルの作業容積を有するバイオリアクターである。
【0025】
さらに別の実施態様では、培養容器は、使い捨てのバイオリアクターである。
【0026】
本発明の方法の一の特定の態様では、接着細胞は、ベロ細胞である。
【0027】
一般に、回収される細胞集団は、最初に培養容器に導入した細胞の量の少なくとも60倍の細胞を含有する。
【0028】
別の態様では、本発明は、
a.接着細胞のストックを解凍すること、次いで、
b.解凍した接着細胞に本発明の方法の実施態様の1つを施すこと
による、接着細胞の生産方法に関する。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の方法に従って第1の培養容器中で接着細胞を生産した後、
a.細胞をマイクロキャリアから脱離させるために細胞集団を酵素処理した後に回収した細胞集団を第2の培養容器に移すこと(ここで、この第2の培養容器は、より大きな作業容積を有し、第1の培養容器中で行われた最終細胞継代の間に存在したマイクロキャリアの量よりも多いマイクロキャリアを含有する培養培地を含有する)、および
b.この第2の容器中にて、本発明の方法の実施態様の1つが行われること
による、接着細胞の生産方法に関する。
【0030】
一の特定の態様では、本発明の方法の実施態様の1つは、第2の培養容器の作業容積よりも大きい作業容積をもつ第3の培養容器中にて繰り返される。
【0031】
本発明は、また、生物学的製剤の生産のための、本発明の方法に従って生産された細胞の使用に関する。
【0032】
最後に、同一の培養容器中にて連続細胞継代を行うことによって、生産された細胞の量が60倍以上増加する、培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器中にて接着細胞を生産する方法に関する。
【0033】
発明の詳細な説明
本発明は、細胞を増幅して、細胞の工業バッチを形成するために、同一の細胞培養容器中にて連続細胞継代が数回行われる、接着細胞の生産方法に関する。この方法によって、使用されるべき培養容器の数は減少し、生産された細胞のバッチは、それらが同数の細胞継代を有するので均一である。
【0034】
本発明の目的として、「細胞継代」は、接着細胞の懸濁液が培養培地中でマイクロキャリアと接触させられた時に始まり、通常、接着細胞が酵素処理によってマイクロキャリアから遊離され、再度培養培地中懸濁液の形態となった時に終わる。細胞継代は、通常、以下の期を含む:
− 培養培地中にてマイクロキャリアと接触させられた細胞がマイクロキャリアに接着する、マイクロキャリア・コロニー形成期;
− マイクロキャリア上で細胞が増幅して、コロニー形成されたマイクロキャリアの利用可能な表面の70%超、好ましくは80%超が細胞によって覆われるまでの期間に相当する、マイクロキャリアに接着した細胞の増幅期(該細胞がコロニー形成マイクロキャリアの利用可能な表面の70%超が細胞によって覆われた場合、「実質的にコンフルエント」であるかまたは「コンフルエンスの段階」に達したと見なされる);および
− 細胞の最大数(一般的には80%より多く、好ましくは90%より多く)が短時間で(一般的には30分未満で、しばしば20分未満で)それらの支持体から脱離するように酵素処理することによる実質的にコンフルエントな細胞のマイクロキャリアからの脱離期。
【0035】
本発明の場合、生産される接着細胞の使用に応じて、培養容器中で行われる最終細胞継代は、脱離期を含むか、または含まない。
【0036】
本発明に関連して、連続細胞継代は、先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部を次の細胞継代を行うために使用して同一の培養容器中にて行われる。通常、先行細胞継代の間に得られた細胞集団の少なくとも80%が、次の細胞継代を行うために使用される。好ましくは、最大量の細胞を生産するために、連続細胞継代は、毎回、先行細胞継代の間に得られた全細胞集団を使用して次の細胞継代を行うことによって行われる。各細胞継代の最後に、細胞は、酵素処理によってマイクロキャリアから遊離(脱離)するが、従来技術で推奨されている、細胞増幅を継続するための1個以上の他の細胞培養容器への細胞バイオマスの移動はない。細胞バイオマスの増幅は、同一の培養容器中にて行われる。この方法は、いくつかの培養容器を使用したり扱ったりすることを要せずに、等しい量の細胞が同じ期間で生産され、工業的な量の細胞を生産するために要する空間を縮小し、その結果、生産コストを実質的に減縮するので、非常に有利である。驚くことには、細胞バイオマスの増幅は、細胞継代ごとに酵素処理を必要とするが、本発明の方法の実行の最後に生産される細胞の量は、慣用の「マイクロキャリア間移動」法を使用して得られる細胞の量よりも有意に多い(実施例2を参照)。
【0037】
1回目の細胞継代の後の細胞継代に相当する各新細胞継代は、同一の培養容器中にて行われる。1回目の細胞継代の後の継代を開始するために、培養培地と、利用可能な細胞支持表面を増大させるために先行細胞継代の間に導入されたマイクロキャリアの量よりも多い量のマイクロキャリアが導入される。「新細胞継代」または「1回目の細胞継代の後の継代」という用語は、培養容器中にて行われた細胞継代の後の細胞継代を意味すると解される。培養容器へのマイクロキャリアの導入または添加は、未被覆マイクロキャリアの導入に相当すると解される。好ましくは、接着細胞の接着を促進するために、未使用のマイクロキャリアが使用される。通常、培養培地の量は、1回目の細胞継代の後の継代ごとに付随して増加するにもかかわらず、マイクロキャリアの量の増加は、一般的に、培地の量の増加よりも高い比率であり、一般的に、連続細胞継代の間に培養培地中のマイクロキャリア濃度の漸増をもたらす。最終細胞継代の間、例えばcytodexTMの名称の下に販売されているデキストランマイクロビーズ(CytodexTM 1、2または3)をマイクロキャリアとして使用した場合、培養培地中のマイクロキャリア濃度は、一般的に、1〜7g/lであるが、10〜15g/lに達することもある。細胞バイオマスが同一の培養容器中で連続細胞継代によって増加する本発明の方法は、「一体型法」と称される(図1bを参照)。
【0038】
通常、同一の培養容器中にて2細胞継代、3細胞継代または4細胞継代が行われる。行われる次の使用に応じて、本発明の方法の実行の最後に回収された細胞集団は、マイクロキャリアから遊離した細胞の懸濁液の形態(この場合、最終細胞継代は、包含される細胞脱離工程を用いて行われる)またはマイクロキャリアに接着した細胞の懸濁液の形態(この場合、最終細胞継代は、細胞脱離工程を省略して行われる)のいずれかである。接着細胞の生産方法が同一の培養容器中で行われる2連続細胞継代を含む場合、本発明の方法は、以下の工程を行うことに相当する:
a.培養培地、マイクロキャリアおよび接着細胞を培養容器に導入する工程、
b.細胞をマイクロキャリアに接着させて増殖させることを可能にする培養条件下に細胞をおく工程、
c.酵素処理によって細胞をマイクロキャリアから脱離させる(細胞の一部を培養容器から取り出してもよい)工程、
d.導入されるマイクロキャリアの量が前に導入されたマイクロキャリアの量よりも多くなるように培養培地およびマイクロキャリアを再度導入する工程、
e.再度、細胞をマイクロキャリアに接着させて増殖させることを可能にする培養条件下に細胞をおく工程、および
f.得られた細胞集団を回収する工程(酵素処理によって細胞をマイクロキャリアから脱離させた後であってもよい)、
ここで、工程a)〜e)は同一の培養容器中にて行われる。
【0039】
工程a)〜c)は、1回目の細胞継代に相当し、工程d)〜f)は、細胞の回収をもって終わる2回目の細胞継代に相当する。
【0040】
同一の容器中で行われる3以上の連続細胞継代がある場合、これは、細胞を回収する工程f)を行う前に、同一の培養容器中にて工程e)の後に工程c)、d)およびe)を再度繰り返すことに相当する。通常、工程c)、d)およびe)は、工程e)の後に1回繰り返される(3連続細胞継代を行うことに相当する)か、または、工程e)の後に2回繰り返される(4連続細胞継代を行うことに相当する)。好ましくは、工程c(細胞のマイクロキャリアからの脱離に相当する)は、細胞が実質的にコンフルエントである場合に行われる。通常、培養培地の容量は、マイクロキャリアが添加されるたびに増加する(工程d)。
【0041】
本発明の方法の実行の最後に回収される細胞の集団が細胞のストックを形成するために使用される場合、一般的に、最終細胞継代は、同一の培養容器中で一般的に行われる酵素処理によって細胞を脱離させる工程を含む。そこで、細胞集団は、本質的に、マイクロキャリアから遊離された細胞の懸濁液の形態である。
【0042】
細胞の集団が生物学的製剤の生産に使用される場合、最終細胞継代は、しばしば、細胞脱離工程を含まずに行われる。次いで、マイクロキャリアに接着している細胞の懸濁液の形態の生産された細胞の集団は、目的の生物学的製剤を生産するように同一の培養容器中で直接処理される。「生物学的製剤」という用語は、接着細胞によって生産され得る物質または生物を意味することを意図される。これらは、特に、ウイルスまたはタンパク質(抗体、抗原、酵素など)である。接着細胞によって生産される生物学的製剤の生産方法が同一の培養容器中で行われる2連続細胞継代を含む場合、したがって、本発明の方法は、以下の工程を行うことに相当する:
a.培養培地、マイクロキャリアおよび接着細胞を培養容器に導入する工程、
b.細胞をマイクロキャリアに接着させて増殖させることを可能にする培養条件下に細胞をおく工程、
c.酵素処理によって細胞をマイクロキャリアから脱離させる(細胞の一部を培養容器から取り出してもよい)工程、
d.新しく導入されるマイクロキャリアの量が前に導入されたマイクロキャリアの量よりも多くなるように培養培地およびマイクロキャリアを再度導入する工程、
e.再度、細胞をマイクロキャリアに接着させて増殖させることを可能にする培養条件下に細胞をおく工程、
f.得られた細胞集団を生物学的製剤を生産するように処理する工程、および
g.得られた細胞集団を回収する工程、
ここで、工程a)〜f)は同一の培養容器中にて行われる。
【0043】
同一の容器中で3以上の連続細胞継代が行われる場合、これは、生物学的製剤を生産する工程f)の行う前に、同一の培養容器中で工程e)の後に工程c)、d)およびe)を再度繰り返すことに相当する。通常、工程c)、d)およびe)は、工程e)の後に1回繰り返される(3連続細胞継代を行うことに相当する)か、または、工程e)の後に2回繰り返される(4連続細胞継代を行うことに相当する)。好ましくは、工程c(細胞のマイクロキャリアからの脱離に相当する)は、細胞が実質的にコンフルエントである場合に行われる。通常、培養培地の容量は、マイクロキャリアが添加されるたびに増加する(工程d)。
【0044】
例えばサイトカイン、抗体またはワクチンタンパク質のような組換えタンパク質の問題である場合、細胞懸濁液は、適切な生産培地を使用してこのタンパク質の生産を促進する培養条件下におく。例えば、EP0354129に記載のCHOおよびベロ細胞による組換えタンパク質の生産のための培地が挙げられる。生物学的製剤が感染病原体である場合、マイクロキャリアに接着している細胞の懸濁液は、一般に培養培地を感染培地と置き換えた後、培養容器に感染病原体(細菌、ウイルス、寄生虫など)を導入することによって、感染させられる。感染性生物学的製剤は、特に、組換えウイルス(組換えポックスウイルス、組換えアデノウイルス)であり得るか、または狂犬病ウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルスなどのようなウイルスであり得る。生物学的製剤は、通常、1つ以上の工程で培養上清を除去することによって回収される(実施例7を参照)。生物学的製剤が非溶解性ウイルスの場合のように細胞内にある場合、上清および後に溶解剤で処理される細胞を回収することはしばしば有利である。
【0045】
生物学的製剤の生産に使用される培地、特に狂犬病のようなウイルスの生産に使用される感染培地は、有利には、動物由来の血清、動物由来のタンパク質または動物由来の生成物を含まないものであり得る。
【0046】
本発明の対象に適しているマイクロキャリアは、通常、マイクロビーズの形態であり、それらは、好ましくは酵素の作用を促進にするために非多孔性である。それらは、一般に、90〜250μmの直径を有する。それらの密度は、簡単な沈殿によってそれらの回収を促進するために、培養培地の密度よりわずかに高いが、同時に、培地を適度に撹拌し場合に該マイクロビーズの完全な再懸濁が得られるほど高すぎてはならない。標準的な培養条件下で、マイクロキャリアの密度は、通常、1.020〜1.050g/mlである。マイクロビーズの表面は、細胞の接着性を促進するように選択される。マイクロキャリアのマトリックスは、好ましくは、マイクロビーズ間で衝突が生じた場合に細胞がより良く保存されるように軟質である。細胞の接着に利用可能な平均表面積は、マイクロビーズ1gあたり4000〜5000cm2である。これらの特徴は、特に、cytodexTMの名称の下に販売されている架橋デキストランマトリックス(cytodex 1、cytodex 2、cytodex 3)を有するマイクロビーズに見られるが、マトリックスが架橋ポリスチレンに基づいている他のビーズ(Biosilon、Solohill)またはガラスマイクロビーズ(Sigam Aldrich)にも見られる。
【0047】
本発明に関連して、1回目の細胞継代の間のマイクロキャリア濃度は、特にマイクロキャリアとしてcytodexTM 1マイクロビーズのようなcytodexTMマイクロビーズを使用する場合には、一般的に、1g/l未満の濃度に低下するが、一方、従来技術では、マイクロキャリアは、1〜5g/lの濃度で使用される。それは、通常、0.5g/以下であり、より詳しくは、0.1〜0.4g/lであり、特に、0.1〜0.3g/lである。この濃度は、実際、細胞を培養容器に導入した後の培養培地中のマイクロキャリアの初期濃度に相当する。したがって、それは、1g/l未満であり、好ましくは0.5g/l以下である;特に、0.1〜0.4g/lであり、より詳しくは、0.1〜0.3g/lである。
【0048】
培養容器に導入される細胞の初期量は、マイクロキャリアの80%超が細胞によってコロニー形成されるように選択される。このコロニー形成度を得るためには、慣用的には、培養培地中に存在するマイクロキャリアの量の少なくとも5〜10倍多い細胞の初期量が培養容器に導入される。例えば、ベロ細胞生産の場合、培養容器に導入される細胞の初期量は、一般に、cytodexTMマイクロビーズ1cm2あたり5×103〜5×104細胞であり、これは、マイクロビーズ1個あたり約5細胞〜50細胞を表す。実際、1回目の細胞継代の間の培養培地中のマイクロキャリア濃度は、従来技術で慣用的に使用されているものよりも低いので、その結果、初期細胞濃度もまた低くなる。
【0049】
各細胞継代の最後に、タンパク質分解活性を有する酵素溶液(プロテアーゼ)で細胞を処理することによって、短時間(一般に30分未満、好ましくは15分未満)で細胞をマイクロキャリアから脱離させる。本発明に関連して、細胞は、通常、連続細胞継代を行うのに使用される培養容器中にてマイクロキャリアから脱離する。これは、全ての細胞培養期、および連続細胞継代の間に細胞に対して行われる全ての処理が同一の培養容器中で行われることを意味する。所望により、酵素処理が行われる第2の容器にそれらを移した後に細胞をマイクロキャリアから脱離させることができ、次いで、得られた細胞懸濁液を、連続細胞継代が行われる第1の培養容器に再導入することができる。この方法は、移動操作の間に細胞を喪失させるので、有利ではない。
【0050】
タンパク質分解酵素溶液は、通常、トリプシン、pronase(登録商標)またはdispase(登録商標)のようなセリンプロテアーゼを含有する。マイクロキャリアがcytodex 3マイクロビーズである場合には、パパイン、フィシンまたはコラゲナーゼもまた使用され得る。トリプシン溶液は、一般的に、接着細胞をcytodexTMマイクロビーズから脱離させるために使用される。好ましくは、該プロテアーゼは、非動物由来のものであり、これは、動物由来の物質を使用しない方法を用いて生産されることを示している。例えば、植物材料を使用して、化学合成によって、または細菌、酵母、真菌類もしくは植物を使用した遺伝子組換えによって、生産される。例えば、TrpLETM SelectまたはTrpLETM Expressの商品名の下にInvitrogenによって販売されている、物由来の生成物を含まない酵素溶液を使用することができる。WO94/25583にタンパク質配列が記載されているこのプロテアーゼは、Fusarium oxysporum DSM2672株の発酵によって生産されるか、または、遺伝子組換えによって生産される。それは、トリプシンに類似の酵素活性を有する。細胞の脱離を促進するために、EDTA、EGTAまたはシトレートのようなカルシウムイオンを結合するキレート化剤を酵素溶液に添加することができるか、または、酵素処理を行う前に接着細胞をキレート化剤で処理することができる。プロテアーゼの濃度、ならびに所望により、培地中のキレート化剤の濃度および細胞の酵素処理が行われる温度(通常、20〜38℃)は、短時間(30分以下)で細胞の80%超をそれらの支持体から脱離させるように設定される。実際の酵素処理の前に、少なくとも半分の培養培地を除去する。通常、約2/3の培養培地を除去する。次いで、培地に、一般的にペプチドまたはタンパク質由来の阻害剤を添加することによって、タンパク質分解活性を中和する。好ましくは、阻害剤の組成物は、動物由来の汚染物質を含まない。この阻害剤は、例えば、組換えアプロチニン、またはダイズ由来もしくはリラマメ由来のトリプシン阻害剤を含有する抽出物または精製フラクション(Worthington Biochemical)である。該培地は、一般に、培養培地を除去する期間を除いて、細胞のマイクロキャリアからの脱離の期の全体にわたって撹拌する。
【0051】
得られた細胞懸濁液は、一般に、細胞生存率を決定することもできる慣用の計測システムを使用して定量化される。細胞が増殖しすぎた場合、細胞集団の一部を培養容器から除去することができるが、同一容器中で行われる1回目の細胞継代の後の細胞継代を開始するためにしばしば全細胞集団が使用される。連続継代の間に細胞バイオマスを増加させるためには、1回目の細胞継代の後の(酵素処理を使用する細胞脱離工程後に始まる)各継代の開始時に培養容器に、以前に導入したマイクロキャリアの量よりも多くのマイクロキャリアを導入することが必要である。連続細胞継代の間じゅう、同一量の培養培地が維持される場合、これは、1回目の細胞継代の後の細胞継代ごとにマイクロキャリア濃度を増加させることに相当する。他方、培養培地の量が新しい細胞継代ごとに同一の割合で増加する場合、連続細胞継代の間じゅう、同一のマイクロキャリア濃度が維持され得る。1回目の細胞継代の後の各細胞継代の開始時に、培養培地の量およびマイクロキャリア濃度は、ともに、細胞の最大増幅を得るために培養容器中にて増加する。例えば、新しい細胞継代ごとに、先行継代の間じゅう細胞が含有されていた量の1.2〜3倍の培養培地中にて細胞を培養する。同様に、新しい細胞継代ごとに、培養培地中のマイクロキャリア濃度は、先行の細胞継代の間に存在していたものより2〜10倍高い。本発明に関連して、一般に、各細胞継代の最後に(すなわち、細胞の脱離工程の最後に)、使用したマイクロキャリアを除去するのは有用ではない。該マイクロキャリアが細胞によって再コロニー形成されたとしても、一般に、各新細胞継代の開始時に導入されるべきマイクロキャリアの量の算出において、先行の細胞継代由来の使用したマイクロキャリアの量は考慮されない。細胞のマイクロキャリアへの接着の期は、一般に、細胞の種類に応じて、1〜10時間続く。接着期の後、マイクロキャリアを沈殿させた後、培養培地の全部または一部を除去し、マイクロキャリアに接着した細胞の増殖を促進するために新しい培地と交換するのが有利であり得る。
【0052】
本発明の対象に適している培養培地は、動物由来の血清を添加した慣用の細胞培養培地であり得る。有利には、該培養培地は、血清および血清タンパク質のどちらも含有しない。該培養培地は、特に、動物由来のタンパク質または動物由来の生成物を含まないものであり得る。「動物由来のタンパク質または生成物」という用語は、製造方法が動物由来またはヒト由来の物質を使用する少なくとも1つの工程を含むタンパク質または生成物を意味することを意図される。特に有利には、細胞の培養に使用される培地は、タンパク質を全く含まないものであり得るか、または組換えタンパク質または植物(ダイズ、コメなど)もしくは酵母から抽出されたタンパク質の形態のタンパク質を非常に少量含有することができる。それらは、ほとんど一般的に、非常に低濃度の低分子量タンパク質(10kD以下)(ポリペプチドともいう)を含有する。これらの培養培地中の総タンパク質濃度は、一般に、Bradford法によって測定された15mg/l以下である。これは、特に、本発明の方法に、特にベロ細胞の培養に適している、InVitrogenによって販売されているVP SFM培地の場合である。例えば、Opti ProTM血清フリー(InVitrogen)、Episerf(InVitrogen)、Ex−cell(登録商標)MDCK (Sigma−Aldrich)、Ex−CellTM Vero(SAFC biosciences)MP−BHK(登録商標)血清フリー(MP Biomedicals)、SFC−10 BHK発現血清フリー(Promo cell)、SFC−20 BHK発現血清フリー(Promo cell)、HyQ PF Vero (Hyclone ref.SH30352.02)、Hyclone SFM4 Megavir, MDSS2培地(Axcell biotechnology)、Iscove変法DMEM培地(Hyclone)、Ham栄養培地(Ham−F10、Ham−F12)、Leibovitz L−15培地(Hyclone)、Pro Vero培地(Lonza)およびPower MDCK培地(Lonza)が挙げられ、これらは、動物由来の生成物を含んでおらず、また、わずかであるかまたは全くタンパク質を含有しない。
【0053】
培養培地が動物血清もしくは血清タンパク質を含まないかまたは総タンパク質濃度が15mg/l未満である(Bradford)場合、一般に、培地が撹拌される場合に発揮される剪断力から細胞を保護する細胞保護剤が添加される。最も一般的に使用される細胞保護剤は、一般に、界面活性特性を有する。それらは、特に、ポリビニルアルコール(PVA)としても知られているビニルアルコールポリマー、ポリエチレングリコール(PEG)としても知られているエチレングリコールポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)としても知られている1−ビニル−2−ピロリドンポリマー、または、化学式HO(C24O)a(C36O)b(C24O)aH[ここで、aは、エチレンオキシド単位の数を表し、bは、プロピレンオキシド単位の数を表す]を有する、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの「ブロックコポリマー」であるポロキサマーである。これらの細胞保護剤は、一般に、培養培地中0.001%〜2%(w/v)の濃度範囲で使用される。特に好ましい細胞保護剤としては、ポロキサマー188およびPVPが挙げられる。ポロキサマー188は、約8400ダルトンの平均分子量を有しており、通常0.05〜0.2%(w/v)の濃度で培養培地中にて使用される。PVPもまた、WO01/40443に記載されているように、細胞増殖を刺激するので、推奨される。PVPは、一般に、20kDa〜360kDaの平均分子量範囲、好ましくは20kDa〜40kDaの平均分子量範囲で、一般に0.01%〜2%(w/v)の培養培地中濃度、好ましくは0.05%〜0.5%(w/v)の濃度で、使用される。PVPはまた、もはやその分子量によってのみ特徴付けられるのではなく、PVPの平均分子量および平均値の両側の分子量の変動を考慮に入れるそのK値によっても特徴付けられる。K値の算出については、文献Cryobiology, 8, 453-464 (1971)において定義されている方程式を参照する:K値は、下記式に従ってPVPの1%溶液の相対粘度に基づいて算出される:
Logηrel/C=75K02/(1+1.5K0C)+K0
K=1000K0
Cは、PVP濃度を培地100mlあたりのgで表す。
ηrelは、溶媒の粘度と比較した溶液の粘度である。
【0054】
本発明の対象に適しているPVPは、18〜60,好ましくは26〜35のK値を有する。例えば、本発明の方法に従ってベロ細胞のストックを生産するためには、細胞保護剤として約30のK値を有するPVPを0.1%(w/v)濃度で含有するかまたはポロキサマーを0.1%(w/v)の濃度で含有するInvitrogenによって販売されているVPSFMに基づく培養培地を、動物由来の生成物を含まず、かつ、タンパク質含量が非常に低い(Bradford法によって15mg/l未満)培養培地として使用し得る。
【0055】
通常、培養培地の組成物は、連続細胞継代の間じゅう同じものであるが、必要に応じて、グルコースおよび/またはグルタミンのような栄養サプリメントを与えるのが有用であり得る。連続細胞継代の間、細胞増殖期の間じゅう、細胞の必要に応じて、培養培地の全部または一部を取り換えることも有用であり得る。これは、当業者の自由裁量によって、グルコース、グルタミン、ラクテート、アンモニウムイオンレベルの測定のような慣用の試験方法によって評価される。本発明に関連して、培養培地は、一般に、培養培地の全部または一部を除去する場合を除いて、培養培地中にてマイクロキャリアを懸濁液中に維持し続けるのに十分な強度で連続して撹拌される。
【0056】
1回目の細胞継代の間の培養培地の量は、通常、培養容器の作業容積の半分〜1/5である。その特定の形状が少量のマイクロキャリアに接着している細胞の培養を可能にする大容量の培養容器(100リットルを超えるバイオリアクター)(例えば、下部が円錐形の沈殿ゾーンを装備したバイオリアクター)の場合、培養培地の量は、より少ない(バイオリアクターの作業容積の1/6〜1/10)かまたはさらに少なくてもよく、バイオリアクターの作業容積の1/20を表す。上記したように、培養培地の量は、一般に、連続細胞継代の間にわたって増加していき、最終細胞継代は、しばしば、容器の作業容積の少なくとも70%に相当する量の培養培地の存在下で行われる。
【0057】
培養容器は、細胞培養培地中にてマイクロキャリアを懸濁液中に維持するために(機械的なもの、空気流によるものなど)撹拌システムを装備しており、培養の要求に従って培地を取り換える手段、ならびに温度、pH、酸素圧、窒素もしくは空気による任意のガス処理、および代謝物もしくは栄養(ラクテート、グルコース、グルタミン、アンモニウムイオンなど)を試験し調節するための手段を有する。これらの装置は、使用される容器のサイズおよび形状に従ってこれらをどのように使用するかを知っている当業者に十分に知られている。例えば、本発明の培養容器は、スピナーの形態またはバイオリアクターの形態のものであり得る。該容器の作業容積が2リットル以上である場合、通常、再利用可能なガスタンクまたは金属タンクの形態であり得るバイオリアクターを使用するか、または該バイオリアクターが使い捨てバイオリアクターである場合には、特にNucleo PG−ATMITMの名称の下にP.Guerinによって販売されている使い捨てバッグの形態の容器を使用する。また、例えば、General Electricsによって販売されているBiowaveシステム(Wave BioreactorTM)、STR使い捨てBioreactorTMシステム(Sartorius)、SUBTMシステム(Hyclone)、またはセル・レディ・システム(Millipore)を使用することもできる。主な目的が工業スケールの細胞バッチを生成することである本発明の方法に関連して、作業容積が3リットル〜1000リットルのバイオリアクターが使用されるが、より一般的には、作業容積が20リットル〜500リットルのバイオリアクターが使用される。
【0058】
本発明の目的のために、「接着細胞」は、使用される培養条件下で正常に増殖および発達するために固体支持体を必要とする、株として確立された細胞、または動物またはヒトの健康な組織または腫瘍組織の抽出により直接得られる細胞である。それらは、通常、接触阻害現象のためにそれらの支持体上で単一細胞層を形成する。したがって、実際、使用される培養条件下で、増殖するために固体支持体を必要とせず、培養培地中にて懸濁液中で成長することができる細胞は、排除される。接着細胞株は、健康な細胞または腫瘍細胞の一次培養から得ることができるが、PER.C6株の場合のように、不死化剤を使用する細胞の形質転換によって得ることもできる。
【0059】
本発明の対象に適している接着細胞株の例としては、3T3、NTCTまたはWEHI株のようなネズミの細胞株、BHK株(特に、BHK21株)またはCHO株のようなハムスターの細胞株、MDCK株のようなイヌの細胞株、PK15株のようなブタの細胞株、MDBK株のようなウシの細胞株、ベロ、LLC−MK2、FRHL2またはMA104株のようなサルの細胞株、およびMRC5、293、PER.C6、Hela、ECVまたはA431株のようなヒトの細胞株が挙げられる。これらの接着細胞株は、また、それらが組換えタンパク質の生産を意図される場合に、組換えベクター(プラスミド、ウイルスなど)を形質移入された株の形態であり得る。
【0060】
本発明の方法によって、接着細胞の集団は、同一の培養容器中にて連続細胞継代を行うことによって、少なくとも40倍、好ましくは少なくとも60倍、特に好ましくは少なくとも100倍増加する。これは、本発明の方法がこの単一の容器中にて行われる連続細胞継代の間に細胞支持体の表面積を5〜40倍、好ましくは10〜30倍増加させることができるから、行われ得るのである。従来の方法では、この細胞増幅の大きさは、少なくとも2つの容器を使用して見られるが、より一般的には、異なるサイズの3つの培養容器を使用して見られる(実施例5を参照)。本発明の方法は、従来の方法で得られるものと同一の工業的量が同じ期間で生成されるが、同時に、培養容器の使用および維持に関連する費用ならびにこれらの細胞バッチを生成するのに必要な空間を低減するので、非常に有利である。
【0061】
本発明に従って接着細胞を生産する方法は、培養培地中0.5g/l以下の濃度でのcytodexTMマイクロビーズの存在下における培養および/または血清を含有しないかまたは非常に僅かなタンパク質(15mg/l以下)を含有する培地における培養のような、より困難な培養条件に細胞を適応させるために1回以上の「適応」細胞継代が行われる慣用的に推奨されている適応期間に頼らずに、解凍したばかりの細胞を培養容器に直接導入することによって有利に行われ得る。典型的な例としては、当業者に周知の手順に従って接着細胞のストックを解凍し、次いで、この解凍した細胞の懸濁液を、培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に直接導入して、本発明の方法を行う。前記のように、特に、マイクロキャリアとしてcytodexTMマイクロビーズを使用する場合、1回目の細胞継代の間の培養培地中のマイクロキャリアの濃度は、一般的に0.5g/l以下の濃度に減縮される;それは、一般的には0.1〜0.4g/lであり、より具体的には0.1〜0.3g/lである。培養培地は、また、タンパク質を全く含まないか、または非常に低い総タンパク質含量(15mg/l以下)を有することができる。凍結細胞のストックは、バイアルからのもの(この場合、細胞の量は、一般に、比較的低く、107〜5×108細胞である)であり得るか、または有利には、最大で100倍の細胞を含有するバッグからのものであり得る。大規模な細胞生産法は、解凍したバッグの内容物を大容量の培養容器に直接播くことができるので、特に速くできるようになる。
【0062】
本発明の方法を使用して生産された接着細胞のストックが十分ではない場合、細胞集団に以下の処理を施すことによって、同一の細胞培養容器から得られた細胞バイオマスをさらに増加させることができる:
・慣用的に連続細胞継代を行うために使用され得る1つ以上の培養容器に移すこと、すなわち、各細胞継代後に、得られた細胞バイオマスを別のより大きな培養容器に移すこと、または、より有利には、
・より大きな作業容積を有する(第1の容器よりも、一般的には少なくとも10倍大きい、最も一般的には10〜50倍大きい)第2の培養容器に移し、この第2の容器に移された細胞を本発明の方法に適用すること。このように該方法を行うことによって、細胞の工業的バッチを生産するために使用されるべき培養容器の数および必要な空間は、より有意に減少する。
【0063】
接着細胞の工業規模生産に関連して本発明の方法の実施の経済的利点を評価するために、Reviews of Infectious Diseases, vol 6, supplement 2, S341-S344 (1984)に記載されるような、ポリオウイルスの生産を目的とするベロ細胞の工業生産に関する慣用のスキームを参照することができる。該慣用スキームは、5細胞継代を含んでおり、1回目は1リットルのバイオリアクター中にて行われ、2回目は5リットルのバイオリアクター中にて行われ、3回目は20リットルのバイオリアクター中にて行われ、4回目は150リットルのバイオリアクター中にて行われ、5回目は1000リットルのバイオリアクター中にて行われる。本発明の方法によって、最初の3細胞継代を単一の20リットルのバイオリアクター中にて行い、次いで、最後の2継代を、細胞を150リットルのバイオリアクターに移した後に1000リットルのバイオリアクターに移すことによって慣用的に行うことができる。最初の3細胞継代を単一の20リットルのバイオリアクター中にて行い、次いで、得られた細胞を、最後の2細胞継代を行う単一の500リットルまたは1000リットルのバイオリアクターに直接移す本発明の方法を2回繰り返すことができる。どちらの場合も、慣用スキームを適用した場合に得られる細胞の量と同じ桁の量の細胞が同じ期間で生産されるが、1つ目のケースでは、2つのバイオリアクター(1リットルおよび5リットル)が省かれ、2つ目のケースでは、3つのバイオリアクター(1リットル、5リットルおよび150リットル)が省かれる(実施例5を参照)。
【0064】
経済的な観点から特に有利な接着細胞の生産方法は、非常に異なるサイズの2つの培養容器中にて本発明の方法を繰り返すことからなる。したがって、この趣旨で、本発明の対象は、以下のものである:
【0065】
接着細胞の生産方法であって、
a.接着細胞を、培養培地中のマイクロキャリアを含有する第1の培養容器に導入する工程;
b.この第1の培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって細胞を増幅する工程(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、毎回、先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部であって酵素処理によって細胞がマイクロキャリアから脱離したものを使用して行われ、また、毎回、培養培地および増加量のマイクロキャリアを添加して行われる);
c.この第1の培養容器中で行われた最終細胞継代の間に得られた細胞集団を、酵素処理によって細胞をマイクロキャリアから脱離させた後に回収する工程;
d.回収した細胞集団を、より大きな作業容積を有し、かつ、第1の培養容器中で行われた最終細胞継代の間に存在していたマイクロキャリアの量よりも多量のマイクロキャリアを含有する培養培地を含有している第2の培養容器に移す工程;
e.この第2の培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって、細胞を増幅する工程(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、毎回、先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部であって酵素処理によって細胞がマイクロキャリアから脱離したものを使用して行われ、また、毎回、培養培地および増加量のマイクロキャリアを添加して行われる);
f.この第2の培養容器中にて行われる最終細胞継代の間に得られた細胞集団を、所望により酵素処理によって細胞をマイクロキャリアから脱離させた後、回収する工程;
g.さらに大きな作業容積を有する第3の培養容器中にて、工程dからfを再度繰り返す工程
による方法。
【0066】
一般に、第2の培養容器の作業容積は、第1の培養容器のものより20〜50倍大きい。
【0067】
有利には、該方法の工程aにおいて導入される接着細胞は、凍結細胞のストックからのものであり、第1の培養容器への導入の直前に解凍されたものである。
【0068】
本発明の方法の反復は、生物学的製剤の生産のために行われ得る。この趣旨で、本発明の対象は、以下のものである:
【0069】
マイクロキャリアに接着している細胞によって生産される生物学的製剤の生産方法であって、
a.接着細胞を、培養培地中のマイクロキャリアを含有する第1の培養容器に導入する工程;
b.この第1の培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって細胞を増幅する工程(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、毎回、先行細胞継代の間に生産された細胞集団の全部または一部であって酵素処理によって細胞がマイクロキャリアから脱離したものを使用して行われ、また、毎回、培養培地および増加量のマイクロキャリアを添加して行われる);
c.この第1の培養容器中で行われた最終細胞継代の間に得られた細胞集団を、酵素処理によって細胞をマイクロキャリアから脱離させた後に回収する工程;
d.回収した細胞集団を、より大きな作業容積を有し、かつ、第1の培養容器中で行われた最終細胞継代の間に存在していたマイクロキャリアの量よりも多量のマイクロキャリアを含有する培養培地を含有している第2の培養容器に移す工程;
e.この第2の培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって、細胞を増幅する工程(ここで、各新細胞継代は、毎回、先行細胞継代の間に生産された細胞集団の全部または一部であって酵素処理によって細胞がマイクロキャリアから脱離したものを使用して行われ、また、毎回、培養培地および増加量のマイクロキャリアを添加して行われる);
f.この第2の培養容器中にて行われる最終細胞継代の間に得られた細胞集団を、生物学的製剤を生産するように処理する工程(ここで、この工程fは、工程dおよびeを行うために使用して培養容器と同じ培養容器中にて行われる);および
g.生物学的製剤を回収する工程
による方法。
【0070】
所望により、工程dおよびeは、生物学的製剤を生産するように細胞集団を処理する前に第3の培養容器中で繰り返すことができる。
【0071】
前記のように、生産される生物学的製剤は、例えば、組換えタンパク質または狂犬病ウイルスのようなウイルスであり得る。
【0072】
本発明の対象は、また、本発明の方法のうちの1つによって生産された細胞の、生物学的製剤の生産のための使用である。
【0073】
最後に、本発明は、マイクロキャリアを含有する培養培地中にて接着細胞を生産する方法であって、細胞集団を40倍以上、好ましくは60倍以上、特に好ましくは120倍以上増加させるために連続細胞継代が同一の培養容器中で行われることによる方法に関する。使用される培養容器は、好ましくは、少なくとも20リットルの作業容積を有するバイオリアクターである。
【0074】
本発明に関連して挙げられたような培養培地は、血清を添加した慣用の培地であり得るが、好ましくは、該培地は、動物由来の血清を含まない。特に好ましくは、動物由来の生成物を含まず、かつ、タンパク質濃度が15mg/l以下である、培地を使用する。
【0075】
本発明は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない、以下の実施例によってより明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0076】
実施例1:同一の2リットルのバイオリアクター中にて3連続細胞継代を行うことによるベロ細胞の増幅
この実施例では、初期マイクロキャリア濃度、培養培地中の血清の存在または不在、および細胞保護剤の性質のようなさまざまなパラメーターの細胞増殖に対する役割を研究した。
【0077】
1.1)使用する材料
バイオリアクター:
Cellready(Mobius)の名称の下にMilliporeによって販売されている2.4リットルの容量を有する使い捨てバイオリアクター中にて、この実験を行った。それらは、pHプローブ、pO2プローブおよび温度プローブならびにマリーンプロペラ撹拌パドルを装備している。
【0078】
マイクロキャリア:
GE Healthcareによって供給されたCytodex 1マイクロビーズを使用した。各細胞継代を行うのに必要な量を除いた後、リン酸緩衝液(1×C PBS、、約pH7.4)中にて24時間水和化した。次いで、それらを同緩衝液で3回リンスし、次いで、オートクレーブによって滅菌した。バイオリアクターへの導入直前に、マイクロビーズを沈殿させた後、該滅菌緩衝液を等量の培養培地と取り換えた。マイクロビーズ1gは、約4400cm2の接着表面を有する。
【0079】
試験される培養培地:
VPSFM/K30: 血清を含まず、動物由来の生成物を含まず、ISPによって供給された0.1%w/vのポリビニルピロリドン(PVP)K30を添加した、VPSFM培地(Invitrogen)。
VPSFM/F68: 血清を含まず、動物由来の生成物を含まず、BASFによって供給された0.1%w/vのポロキサマー188を添加した、VPSFM培地(Invitrogen)。
VPSFM/K30/SVF: 4%脱補体ウシ胎仔血清を添加したVPSFM/K30。
【0080】
細胞:
細胞を冷凍するための管(Nunc tube ref:430663、5ml)中にて10%ジメチルスルホキシドを含有する血清不含培地中50×106細胞/mlの冷凍形態で貯蔵した細胞のバンクに由来するベロ細胞。
【0081】
1.2)「一体型法」における初期マイクロキャリア濃度および細胞保護剤に関するパラメーターを評価するために使用した操作プロトコール
これら2つのパラメーターを研究するために同じ操作プロトコール用いた。
ベロ細胞増殖に対する1回目の細胞継代の間の非常に低いマイクロキャリア濃度の効果を評価するために、0.1g/lおよび0.3g/lの濃度を試験した。
7.2〜7.5のpH、37℃の温度および約25%のpO2のようなバイオリアクターのレギュレーションパラメーターを調節した後、マイクロキャリア0.6gを含有するVPSFM/K30培地2リットル中66×106細胞をバイオリアクター1(bio1)に導入した(接着表面1cm2あたり25000細胞と等価であり、初期マイクロビーズ濃度0.3g/lを表す)。
マイクロキャリア0.2gを含有するVPSFM/K30培地2リットル中22×106細胞をバイオリアクター2(bio2)に導入した(接着表面1cm2あたり25000細胞と等価であり、初期マイクロビーズ濃度0.1g/lを表す)。
【0082】
培養培地を取り換えるためまたは培養培地の量を減少させるために使用されるマイクロビーズ沈殿期の間を除いて細胞培養の期間じゅう、培養培地を撹拌し続けた。
3日目に、以下のプロトコールに従って、細胞をトリプシンで処理した:
マイクロビーズを沈殿させた後、VPSFM/K30培養培地約300mlをバイオリアクター中に放置し、次いで、カルシウムおよびマグネシウムを含まないリン酸緩衝液中に組換えトリプシン(ref:Roche 04618734)600mgを含有する0.025Mクエン酸ナトリウム約300mlを添加した。該培地を適度な撹拌下に保持した。試験サンプルによって細胞が実際に脱離したことを確認した後(一般に、この脱離は、15〜30分間で生じた)、1mg/mlのトリプシン阻害剤(ref:Sigma T6522)を含有するVPSFM/K30の溶液約300mlを添加することによってトリプシンの作用を停止した。細胞をカウントした後、細胞懸濁液の一部を取り出して、2回目の細胞継代を行うために総量2リットルの培養培地中のマイクロキャリア2.4g(bio1)またはマイクロキャリア0.6g(bio2)を導入した後に接着表面1cm2あたり約25×103細胞となるように細胞の残量を調節した。次いで、レギュレーションパラメーターを1回目の細胞継代の間と同様に再度調節した。4〜6時間後、この培地を新しい培養培地と取り換え、次いで、所望により24〜48時間の培養の後に2回目の取り換えを行った。7日目に、3日目に使用したプロトコールと同じプロトコールに従って細胞を再度トリプシン処理した。細胞をカウントした後、細胞懸濁液の一部を取り出して、3回目の細胞継代を行うために総量2リットルの培養培地中のマイクロキャリア6g(bio1)またはマイクロキャリア2.4g(bio2)を導入した後に接着表面1cm2あたり約25×103細胞となるように細胞の残量を調節した。次いで、バイオリアクターのレギュレーションパラメーターを再度調節した。4〜6時間後、該培地を新しい培養培地と取り換え、次いで、所望により24〜48時間の培養の後に2回目の取り換えを行った。10日目に、培養容器中の初期マイクロキャリア濃度に従って細胞増幅の程度を評価するために細胞を回収した。
【0083】
細胞保護剤の役割を評価するために、ポロキサマー188およびポリビニルピロリドン(PVP)K30を、同じ操作プロトコールを使用して初期マイクロキャリア濃度0.3g/lで試験した。
【0084】
1.3)「一体型」法における血清の役割を評価するために使用される操作プロトコール
以下の特徴をもって、セクション1.2に記載したものと同じ操作プロトコールを使用した:
− VPSFM/K30/SVF培地を使用した。
− 初期マイクロキャリア濃度は0.3g/lであった。
− 5日目および8日目にトリプシン処理を行った。各トリプシン処理前に、血清を除去するために、リンス、沈殿、およびリンス緩衝液の除去を含む一連の工程によって、マイクロビーズの懸濁液をリンス緩衝液(リン酸緩衝液(1×C PBS))600mlで3回「リンス」した。
【0085】
1.4)結果
細胞増殖について研究した様々なパラメーターの役割を評価するために、Nucleocounter(Chemometec(登録商標))カウンティングシステムを使用して一定間隔で細胞濃度を測定し、累積細胞世代数を算出した。毎回、マイクロビーズ懸濁液の2つのサンプルを採取した。示された値は、各分析時に採取した2つのサンプルの平均値を表す。
【0086】
研究したパラメーターの各々に従って、培養の間に観察された細胞の量および累積細胞世代数を以下の3つの表に示す。
【0087】
1.4.1)「初期マイクロキャリア濃度」パラメーター
【表1】


*:トリプシン処理前。
**:トリプシン処理、および接着表面1cm2あたり25×103細胞への細胞濃度調節後。
***:累積世代数の算出のため、連続細胞継代の間に行われた可能な細胞濃度調節を考慮し、下記一般式を使用した:
【数1】

最終[細胞]:検討中の日の細胞濃度に相当する。
初期[細胞]:0日目の初期細胞濃度に相当する。
【0088】
3連続細胞継代の後に生産された細胞の量は、初期マイクロキャリア濃度が0.1g/lであるバイオリアクターにおけるほうが少ないが、細胞集団の倍増期間は、このバイオリアクターにおけるほうが僅かに早い。なぜなら、試験期間の全体にわたって観察された累積細胞世代数がより高いからである。
【0089】
驚くことに、1回目の細胞継代の間の非常に低いマイクロキャリア濃度(約0.1g/l)は、細胞増殖に悪影響を及ぼさない。反対に、該細胞は、それらがより高いマイクロキャリア濃度(0.3g/l)を含有するバイオリアクター中にある場合よりもさらに活発に分裂する傾向がある。
【0090】
1.4.2)「細胞保護剤」パラメーター
【表2】

*:トリプシン処理前。
**:トリプシン処理、および接着表面1cm2あたり25×103細胞への細胞濃度調節後。
【0091】
結果は、ポロキサマー188またはPVP(K30)の血清不含培養培地への添加が、一体型法に従って行われた細胞増幅に対して全体的に等価な効果を及ぼすことを示している。
【0092】
1.4.3)「血清」パラメーター
【表3】

*:トリプシン処理前。
**:トリプシン処理後。
【0093】
これらの結果は、「一体型」法が、血清含有培養培地中にて培養されたマイクロキャリアに接着している細胞に適用できることを示している。
【0094】
実施例2: 本発明の方法(「一体型法」)またはマイクロキャリアの単純添加による方法(「ビーズ間移動」技法)のいずれかを使用することによって得られるベロ細胞生産の比較
「一体型法」に従って行われたかまたは「ビーズ間移動」技法を使用して行われた2連続細胞継代の後の細胞生産を比較した。
【0095】
この研究は、Quattroの名称の下にSartoriusによって販売されている、容量4リットルのガラス製バイオリアクター中にて行われた。
【0096】
2.1)「一体型法」の実施に使用した操作プロトコール
「一体型法」について、セクション1.2に記載したものと同じ原理が以下の特徴とともに適用された:
− 使用した培養培地は、VPSFM/K30培地であった。
− 培養培地の量は、2連続細胞継代の間、一定に保たれており、4リットルであった。
− 1回目の細胞継代を、0.3g/lのマイクロビーズ濃度を使用し、接着表面1cm2あたり50000細胞となる量の細胞を導入することによって行った。
− 3日目に、培養培地を取り換えた。
− 4日目に、セクション1.2に記載の方法と同様に細胞をトリプシンで処理した。該細胞のトリプシン処理およびカウンティングの後、細胞集団の2/3の量を取り出し、2回目の細胞継代を行うために総量4リットルの培養培地中のマイクロビーズ4.8g(すなわち、1.2g/lの濃度)を導入した後、残りの細胞を接着表面1cm2あたり25000細胞に調節した。
− 培養培地を2回取り換えた:1回目は、マイクロビーズ導入の4〜6時間後であり、2回目は、6日目であった。
− 8日目に、細胞を回収し、細胞増幅の程度を評価するためにカウントした。マイクロビーズの細胞による被覆の程度を評価するためにマイクロビーズ懸濁液のアリコートを分析した。
【0097】
2.2)「ビーズ間移動」法を実施するために使用した操作プロトコール
4日目に細胞をトリプシンで処理しなかったことを除いて、セクション2.1に記載の操作プロトコールを適用した。4日目に、同じ割合の細胞およびマイクロビーズを取り出すようにマイクロビーズ懸濁液の量の2/3を取り出して、「一体型」法において使用した培養条件下においた。次いで、総量4リットルの細胞培養培地中のcytodex 14.8g(すなわち、1.2g/lの濃度)を含有するマイクロビーズ懸濁液を導入した。次いで、操作プロトコールは、セクション2.1に記載と同じであった。
【0098】
2.3)結果
試験した2つの方法の細胞増殖を比較するために、セクション1.4に記載の手順に従って、一定間隔で細胞濃度を測定した。
【0099】
培養の間に観察された細胞の量および累積細胞世代数を下記表に示す。
【表4】

*:トリプシン処理前。
**:細胞濃度調節および所望によりトリプシン処理(「一体型」法の場合)後。
【0100】
1回目の細胞継代(0日目〜3日目)の間の細胞増殖は、2つのバイオリアクター中において類似している。他方、2回目の細胞継代(3日目から8日目)の間の細胞増幅は、「ビーズ間移動」技法を行ったバイオリアクター中のほうが非常に弱い。8日目に、回収した細胞の量は、「一体型」法を行ったバイオリアクターにおいて回収したもののほぼ半分である。累積細胞世代数の変化に関する結果も同様である。8日目に、一体型法によって増幅された細胞に関する累積細胞世代数は6を超えている。「ビーズ間移動」技法によって増幅された細胞に関してそれは5である。したがって、「一体型」法によって増幅された細胞は、より活発に増加する。これらの結果は、「一体型」法が、細胞に対して連続細胞継代を行うために、細胞の完全性に有害であることが知られているトリプシンの使用を必要とする限り意外なことである。
【0101】
これらの結果は、同じ操作条件下で行われた2つの独立した実験において確認された。8日目の累積細胞世代数の変動の分析は、有意に異なることを示している(p=0.0137)。
【0102】
8日目のマイクロビーズの顕微鏡による分析は、一体型法を行った場合、マイクロビーズの大半が細胞によって被覆されていることを示している(図2aを参照)。他方、「ビーズ間移動」技法を行った場合、マイクロビーズの一部だけが細胞によって被覆されている。この結果は、4日目にcytodex 1マイクロビーズを添加した後の、培地の連続撹拌または培地の断続的撹拌(例えば、5分間の撹拌後に20分間休息期を含むサイクルを2時間繰り返す)によっては実質的に変わらない(図2bを参照)。
【0103】
実施例3:20リットルの同一バイオリアクター中で2連続細胞継代を行うことによるベロ細胞の増幅
3.1)使用した材料
バイオリアクター:
Nucleo−20の名称の下にATMIよって販売されている使い捨てバッグの形態の20リットルのバイオリアクターを使用した。pHプローブ、pO2プローブおよび温度プローブを、較正し、オートクレーブによって滅菌した後、標準的なATMIプロトコールに従ってプローブホルダーバッグによってバッグに取り付けた:他方、一端をバッグに取り付け、他端をプローブホルダーに取り付けるKleenpak(登録商標)コネクションを接続し、次いで、このようにして得られた連結を介してプローブをバイオリアクターに導入した。
マイクロキャリア: GE Healthcareによって供給されたcytodex 1マイクロビーズ(セクション1.1を参照)。
培養培地:VPSFM/K30培地(セクション1.1を参照)。
【0104】
3.2)操作プロトコール
VPSFM/K30培養培地6リットルをNucleo−20に導入し、次いで、cytodex 1(4g)を含有するマイクロビーズ懸濁液1リットル(細胞の添加後の初期マイクロビーズ濃度0.5g/lを表す)を添加した。
37℃の温度、7.2〜7.4のpHおよび約25%のpO2のようなNucleo−20の内部のレギュレーションパラメーターを調節し、培地を適度に撹拌して培養培地にビーズを再懸濁させた後、解凍した後にVPSFM/K30培養培地1リットルに入れた500×106細胞をNucleoに導入した。培養培地を取り換えるためまたは培養培地の量を減らすために行われるマイクロビーズ沈殿期の間を除いて操作プロトコールの期間の全体にわたって、培養培地を撹拌し続けた。
【0105】
2日目に(培養下で2日後)、培地を新しいVPSFM/K30培地と取り換えた。
【0106】
5日目に、以下のプロトコールに従って細胞をトリプシン処理した。
撹拌、pH調整およびpO2調整を停止した。温度調整だけを維持した。マイクロビーズの沈殿後、VPSFM/K30培養培地約3リットルをバイオリアクター中に残し、次いで、組換えトリプシン(ref:Roche 04618734)600mgを含有する0.025Mクエン酸ナトリウム溶液約3リットルを添加した。次いで、培地を再度適度に撹拌した。試験サンプルによって細胞が実際に脱離したことを確認した後(一般に、この分離は、15〜30分間に生じる)、1mg/mlのトリプシン阻害剤(ref:Sigma T6522)を含有するVPSFM/K30の溶液約3リットルを添加することによって、トリプシンの作用を停止した。次いで、cytodex 1(28g)を含有するマイクロビーズ懸濁液を添加し、これは、培養培地の量をVPSFM/K30培養培地で20リットルに調節した後の培地中約1.4g/lのマイクロビーズ濃度であった。次いで、Nucleo−20の内部のレギュレーションパラメーターを、1回目の細胞継代の間と同様に再度調節した。マイクロビーズの導入の4〜6時間後、培地を新しい培養培地と取り換えた。7日目に、この培養培地の新しい培養培地との2回目の取り換えを行った。9日目に、細胞は、実質的にコンフルーエントであった。次いで、それらを、5日目に使用したプロトコールと同じプロトコールによってトリプシン処理した。2細胞継代が同一バイオリアクター中にて行われた後に得られた細胞増幅のレベルを、得られた細胞懸濁液から決定した。
【0107】
3.3)結果
得られた細胞増幅のレベルを測定するために、セクション1.4に記載の手順と同様の手順で一定間隔で細胞濃度を測定した。
【0108】
培養の間に観察された細胞の量および濃度を下記表Iに示す。
【表5】

*:トリプシン処理前。
**:トリプシン処理および細胞の接着の後。
***:播かれた生存細胞の初期量を表す。
【0109】
20リットルの同バイオリアクター中にて行った2連続細胞継代の後、9日間の培養後、細胞集団は、68倍増加したが、一方、細胞支持体の表面は、7倍増加した。
【0110】
実施例4:20リットルの同一バイオリアクター中にて3連続細胞継代を行うことによるベロ細胞の増幅
4.1)使用した材料
使用した材料は、実施例3に記載に材料と同じである。
【0111】
4.2)操作プロトコール
以下の変更をともなってセクション3.2に記載のプロトコールと同じプロトコールに従って細胞継代を行った。
− 1回目の継代を、cytodex 1マイクロビーズ2gを含有するVPSFM/K30培養培地8リットルに250×106細胞を導入することによって行った(0.25g/lのマイクロビーズ濃度となる);
− 5日目に、1回目のトリプシン処理の後、2回目の細胞継代を行うために、cytodex 1(14g)を含有するマイクロビーズ懸濁液を添加して、培養培地の量をVPSFM/K30培養培地で13リットルに調節した後のマイクロビーズ濃度を約1.07g/lとした;
− 9日目に、2回目のトリプシン処理の後、3回目の細胞継代を行うために、cytodex 1(60g)を含有するマイクロビーズ懸濁液を添加して、培養培地の量をVPSFM/K30培養培地で20リットルに調節した後のマイクロビーズ濃度を約3g/lとした。
【0112】
12日目に、細胞は実質的にコンフルーエントであった。次いで、それらを、5日目に使用したプロトコールと同じプロトコールに従ってトリプシン処理した。
【0113】
3細胞継代を同一のバイオリアクター中にて行った後に得られた細胞増幅のレベルを、得られた最終細胞懸濁液を使用して測定した。
【0114】
4.3)結果
培養の間に観察された細胞の量および濃度を下記表に示す。
【表6】

*:トリプシン処理前。
**:トリプシン処理および細胞の接着の後。
【0115】
20リットルの同一バイオリアクター中にて行われたベロ細胞の3連続細胞継代の後、12日間の培養の後に細胞集団は126倍増加したが、一方、細胞支持体の表面は30倍増加した。
【0116】
実施例5:本発明の方法(同一バイオリアクター中にて連続細胞継代を行う)または慣用の細胞増殖法(毎回、より大きいサイズの異なるバイオリアクター中にて連続細胞継代を行う)のいずれかを使用するベロ細胞の生産の比較
5.1)操作プロトコール
実施例4に記載のプロトコールに従って、かつ、冷凍細胞のバンクから直接得た初期量250×106細胞を使用して、20リットルの単一のバイオリアクター中にて3連続細胞継代を行うか、または、3連続細胞継代を異なるステンレス鋼製バイオリアクター(1回目は2リットルのバイオリアクター、2回目は7リットルのバイオリアクター、3回目は28リットルのバイオリアクター)中にて行う。使用した慣用の方法の実験条件は以下のとおりである:
【0117】
ベロ細胞を、解凍後、最初に、接着表面1cm2あたり40×103細胞をVPSFM/K30培養培地2リットルに導入することによってCell Factories(CF10)中にて初期継代を行うことによって、培養条件に適応させた。約5日間の培養の後、得られた細胞集団を、トリプシン処理後に回収した。回収した細胞集団を使用して、VPSFM/K30培養培地2リットル中のcytodex 1マイクロビーズ2gの懸濁液(濃度1g/l)を含有する2リットルの作業容積を有するバイオリアクターに播く。試験し、レギュレーションパラメーターを37℃の温度、7.2〜7.4のpH、および約25%のpO2に調節し、培地を適度に撹拌した後、2リットルのバイオリアクターに平均220×106細胞を播いた。3日目に、培養培地を新しい培養培地と取り換えた。4日目に、実質的にコンフルーエントな細胞をトリプシン処理し、次いで、使用したマイクロビーズを、cytodex 1マイクロビーズ14gを予め添加しておいたVPSFM/K30培養培地7リットルを含有する7リットルのバイオリアクターに移した(マイクロビーズ濃度は約2g/lとなった)。6日目に、培養培地を新しい培養培地と取り換えた。8日目に、実質的にコンフルーエントな細胞をトリプシン処理し、次いで、同様に、cytodex 1マイクロビーズ70gを予め添加しておいたVPSFM/K30培養培地28リットルを含有する28リットルのバイオリアクターに移した(マイクロビーズ濃度は約2.5g/lとなった)。10日目に、培養培地を新しい培養培地と取り換えた。11日目に、実質的にコンフルーエントな細胞をトリプシン処理し、次いで、回収してカウントした。
【0118】
5.2)結果
試験した2つの方法の間の細胞増殖をモニターするために、セクション1.4に記載の手順と同じ手順で細胞濃度を一定間隔で測定した。
【0119】
培養の間に観察された細胞の量および増幅のレベルを下記表に示す。
【表7】

*:表示した値は、行われた8つの異なる実験で得られた平均値である。
**:表示した値は、行われた3つの異なる実験で得られた平均値である。
【0120】
「一体型」法を使用すると、平均2億5300万個の解凍した細胞を直接20リットルのバイオリアクターに導入した後12日間の培養後、平均290億個を超える細胞が得られる。すなわち、平均細胞増幅レベルは115である。慣用方法を使用すると、最初に2リットルのバイオリアクターに平均2億2000万個を導入した後11日間の培養後、へ菌320億の細胞が得られる。すなわち、平均細胞増幅レベルは145である。利用可能な細胞支持表面は、2つの方法において30倍増加したが、慣用方法の場合、2つのバイオリアクターの使用を要した。慣用方法で得られた細胞の量は、わずかに高い。これは、「一体型」法および慣用方法を行うために使用した細胞が同じ生理学的条件下におかれていなかったことに起因する。「一体型」法の場合に20リットルのバイオリアクターに播くのに使用した細胞は解凍直後のものであったが、一方、2リットルのバイオリアクターに播くのに使用した細胞は、Cell Factoryにおいて予め培養されていたので非常に活発であった。1日目の結果は、このことを非常に明確に示している;一体型法において、1日目の細胞の数が約40%減少しているのは、慣用の「解凍後ラグ」現象の結果である。同じ期間の間に、慣用方法においてCell Factoryにおいて予め培養されていた細胞は増加した(細胞集団は倍増した)。「一体型」法において初期培養条件が明らかに望ましくないにもかかわらず、培養の最後には、2つの方法で回収した細胞の量の差は最終的にあまり見られない。試験した2つの方法において初期培養条件が同じであった場合、同じ量の細胞および同じレベルの増幅が得られたと考えられる。したがって、「一体型」法は、同じ期間の間に同じ量の細胞が生産されるので、慣用方法と比べて経済的に非常に有利である。
【0121】
実施例6:200リットルの同一バイオリアクター中にて3連続細胞継代を行うことによるベロ細胞の増幅
6.1)使用した材料
バイオリアクターが、今回、Nucleo−20の名称の下にATMIによって販売されている200リットルの使い捨てバッグであること以外、使用した材料は、実施例3に記載の材料と同じである。
【0122】
6.2)操作プロトコール
使用したプロトコールは、以下の変更を伴って、実施例3に記載のものと同様であった。
ベロ細胞を、解凍した後、接着表面1cm2あたり40×103細胞の割合で2つのCell Factory(CF10)において予め培養下においた(1つのCF10につき培養培地2リットル)。5日間の培養の後、トリプシン処理工程の後に細胞集団を回収し、次いで、これを使用してNucleo−200に播いた。
【0123】
Nucleo−200における1回目の細胞継代を、cytodex 1マイクロビーズ25gを含有するVPSFM/K30培養培地50リットル(マイクロビーズ濃度は0.5g/lである)に2.2×109細胞を導入することによって行った。3日目に、培養培地を新しい培養培地と取り換えた。4日目に、実施例3のプロトコールに従って、Nucleo中に培地約20リットルを残し、次いで、カルシウムおよびマグネシウムを含有しないリン酸緩衝液中に組換えトリプシン3000mgを含有する0.025Mクエン酸ナトリウム溶液約20リットルを添加して、細胞をトリプシン処理した。細胞の脱離の後、1mg/mlのトリプシン阻害剤を含有するVPSFM/K30の溶液20リットルを添加することによって、トリプシンの作用を停止した。
【0124】
得られた全細胞集団に、cytodex 1(130g)を含有するマイクロビーズ懸濁液を添加することによって、同Nucleo−200中にて2回目の細胞継代を行った(培地の総量をVPSFM/K30培養培地で130リットルに調節した後のマイクロビーズ濃度は約1g/lである)。培養培地を2回取り換えた:1回目は、細胞のマイクロビーズへの接着直後であり、2回目は、6日後であった。7日目に、再度、細胞を、4日目に使用したプロトコールに従ってトリプシン処理した。
【0125】
同Nucleo−200中における3回目の細胞継代を、VPSFM/K30培養培地で180リットルに調節した総量の培地中にてcytodex 1マイクロビーズ450gを導入した後、接着表面1cm2あたり20000細胞の濃度となるように細胞集団を調節することによって行った。同様に、培養培地を2回取り換えた:細胞のマイクロビーズへの接着直後および10日目。次いで、同一バイオリアクター中で行った3連続細胞継代の後に得られた細胞集団を定量化した。細胞増幅のレベルは、このようにして測定することができる。
【0126】
6.3)結果
培養の間に観察された差疣言うの量および濃度を下記表に示す。
【表8】

*:トリプシン処理前。
**:トリプシン処理および細胞の接着後。
***:トリプシン処理、および、細胞集団の、接着表面1cm2あたり20000細胞の濃度への調節後。
【0127】
200リットルの同一バイオリアクター中で行われたベロ細胞の3連続細胞継代の後、11日間の培養の後、細胞集団は140倍増加したが、一方、細胞支持体表面は18倍増加した。
【0128】
「一体型法」によるベロ細胞の増幅の試験を、特にNucleo−500の名称の下にATMIによって販売されている500リットルの単一の使い捨てバイオリアクター中にて2連続細胞継代を行うことによって行った。得られた細胞増幅のレベルは、200リットルのバイオリアクターで得られたもの同様であった。このことは、本発明の方法が非常に大きいスケールに適していることを明確に示している。
【0129】
実施例7:200リットルの同一バイオリアクター中にて3連続細胞継代を行うことによって得られた細胞のバッチからの狂犬病ウイルスの生産
実施例6に記載したプロトコールと同じプロトコールを使用して、細胞のバッチを生産した。
【0130】
11日目に、培養培地をVPSFMベースのウイルス感染培地と取り換え、次いで、細胞に、Wistar instituteから得た狂犬病ウイルスのPitman Moore株を感染させた(感染効率0.01)。温度、pH、pO2、および細胞培養に使用した培地の適度の撹拌に関する同一のレギュレーションパラメーターを保持し、ウイルス生産のために調節した。3日目に、ウイルス感染後にウイルス感染培地を取り換え、次いで、ウイルス感染後7日目、10日目および14日目の感染力価を測定するために培養上清を回収した。各ウイルス回収後、新しいウイルス感染培地を再度添加した。BHK21細胞に対する慣用の免疫蛍光試験によって培養上清中の感染力価を測定した。試験した培養上清の各々について段階希釈を調製し、次いで、各希釈を、96ウェルマイクロプレートの10個のウェルに分配した。2連の試験を並行して行った。次いで、各ウェルにBHK21細胞の懸濁液を添加した。細胞を、5%CO2下、37℃で48時間インキュベートした。48時間後、ウェルは、細胞の層で覆われ、次いで、アセトンで固定した。アセトンを除去し、マイクロプレートを乾燥させた後、狂犬病ウイルスに対するモノクローナル抗体(FDI Fujirebio Diagnostics−Ref 800092)の70分の1希釈液50μlを添加した。1時間のインキュベーションおよび数回のリンスの後、マイクロプレートを蛍光顕微鏡下で分析した。ウェルは、特定の蛍光が少なくとも1個の細胞中で観察されると、陽性であるとみなされる。正の対照として、狂犬病ウイルスの不在下で培養したBHK21細胞を使用した。Spearman−Karber法に従って試験した培養上清中に含有される狂犬病ウイルスの感染力価を決定し、log10細胞培養感染量50%(CCID50)単位で表した。観察された培養上清中にて得られた感染力価は約7.0log10 CCID50であった。
【図1a】

【図1b】

【図2a)】

【図2b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着細胞の生産方法であって、
a.培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に接着細胞を導入すること;
b.この同培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって該細胞を増幅すること(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、
i.先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部を、マイクロキャリアから細胞を脱離させるために該細胞集団を酵素処理した後に使用し、
ii.培養培地および増加量のマイクロキャリアを導入する
ことによって行われる);
c.最終細胞継代の間に生産された細胞集団を、所望によりマイクロキャリアから細胞を脱離させるために細胞集団を酵素処理した後に、回収すること
による、方法。
【請求項2】
接着細胞によって生産された生物学的製剤の生産方法であって、
a.培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器に接着細胞を導入すること;
b.この同培養容器中にて数回の連続細胞継代を行うことによって該細胞を増幅すること(ここで、1回目の細胞継代の後の各細胞継代は、
i.先行細胞継代の間に得られた細胞集団の全部または一部を、マイクロキャリアから細胞を脱離させるために該細胞集団を酵素処理した後に使用し、
ii.培養培地および増加量のマイクロキャリアを導入する
ことによって行われる);
c.最終細胞継代の間に生産された細胞集団を、生物学的製剤を生産するように処理すること(ここで、この処理は、細胞を増幅するために使用したものと同じ培養容器中にて行われる);および
d.生物学的製剤を回収すること
による、方法。
【請求項3】
生物学的製剤が感染病原体であり、工程cにおける細胞集団の処理が、感染培地中にて細胞集団を該感染病原体に感染させることによって行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
感染病原体が狂犬病ウイルスであり、感染培地が動物由来の生成物を含まないウイルス感染培地である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
同じ培養容器中で行われる細胞継代の回数が2回、3回または4回である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
1回目の細胞継代の間の培養培地中のマイクロキャリアの濃度が1g/l未満、好ましくは0.5g/l以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
酵素処理がタンパク質分解酵素を含有する溶液を使用する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
各次細胞継代が培養培地の量を増加させながら行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
1回目の細胞継代が培養容器の作業容積の1/5〜半分である量の培養培地中にて行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
培養培地が動物由来の血清を含まない、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
培養培地が動物由来の生成物を含まない、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
培養培地中のタンパク質濃度が15mg/l以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
培養培地がさらに細胞保護剤を含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
細胞保護剤がポリビニルピロリドンまたはポロキサマーである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
培養容器が、3〜3000リットル、好ましくは20〜1000リットル、特に好ましくは20〜500リットルの作業容積を有するバイオリアクターデアル、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
培養容器が使い捨てバイオリアクターである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
接着細胞がベロ細胞である、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程cにおいて回収される細胞集団が、工程aにおいて最初に導入された細胞の量の少なくとも60倍を含有する、請求項1および5〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
接着細胞の生産方法であって、
a.接着細胞のストックを解凍すること、次いで
b.この解凍した接着細胞に請求項1および5〜18のいずれか1項に記載の方法を施すこと
による、方法。
【請求項20】
接着細胞の生産方法であって、請求項1および5〜19のいずれか1項に記載のように第1の培養容器中にて接着細胞を生産した後、
a.マイクロキャリアから細胞を脱離させるために細胞集団を酵素処理した後に回収した細胞集団を第2の培養容器に移すこと(ここで、この第2の容器は、より大きい作業容積を有し、第1の培養容器中で行われた最終細胞継代の間じゅう存在していたマイクロキャリアの量よりも多量のマイクロキャリアを含有する培養培地を含有する);および
b.この第2の容器中にて、請求項1および5〜19のいずれか1項に記載の方法の工程bおよびcを行うこと
による、方法。
【請求項21】
請求項20の工程aおよびbを第3の培養容器中にて再度繰り返す(ここで、この第3の培養容器は、第2の培養容器の作業容積よりも大きい作業容積を有する)、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
生物学的製剤の生産のための、請求項1および5〜21のいずれか1項に記載の方法に従って生産された細胞の使用。
【請求項23】
培養培地中のマイクロキャリアを含有する培養容器中にて接着細胞を生産する方法であって、単一の培養容器中にて連続細胞継代を行うことにより、生産された細胞の量が60倍以上増加する、方法。

【公表番号】特表2013−515473(P2013−515473A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545386(P2012−545386)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052850
【国際公開番号】WO2011/077035
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(592055820)サノフィ・パスツール (20)
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
【Fターム(参考)】