説明

接着組成物および熱硬化性接着シートの製造方法

【課題】被着体に仮止め後、加熱により完全硬化して初期接着力を低下することなく耐サーマルサイクル性が優れた接着性を発揮する接着層を剥離性のフィルム状基材上に有する熱硬化性接着シートが得られる接着組成物および熱硬化性接着シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】分子内にエポキシ基を有する粘着性のアクリル系共重合体(a成分)と、下記エポキシ化物(b成分)と、エポキシ当量が170〜2,500g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜5,500であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)と、潜在性エポキシ硬化剤(d成分)とを含有することを特徴とする接着組成物。(b)成分;リュプケ式反発弾性率が20〜90%であるゴム弾性エポキシ化物(b1)、または、上記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、エポキシ化合物とゴム化合物とからなる反応生成物(z)との混合物(b2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱によって硬化する接着層が剥離性を有するフィルム状基材上に形成されてなる熱硬化性接着シートを得るための接着組成物(以下、単に「接着組成物」という場合がある)に関する。さらに詳しくは、被着体に仮止め後、加熱することによって完全に硬化させた場合に、初期接着力が低下することなく、耐サーマルサイクル性に優れた接着性を発揮する接着層の形成ができる熱硬化性接着シートが得られる接着組成物および熱硬化性接着シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量、高剛性の性能を有する材料として開発されたCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)などの強化プラスチック材料は、飛行機、自動車、浴槽、厨房部材、建築材料、家具、風力発電装置などの部材として使用されている。そして、上記部材などの接合には、液状、あるいはシート状の接着剤形態のエポキシ系接着剤が一般に使用されている。
【0003】
しかしながら、上記液状のエポキシ系樹脂接着剤は、接着加工の際に液ダレなどが生じ易く貼り付け作業に手間がかかる。また、接着後、完全硬化するまでに時間がかかる。さらに、塗布における粘度を下げるために低分子量エポキシ樹脂や反応性希釈剤が添加されるが、これらの添加は、耐熱性および耐寒性などのサーマルサイクル耐久性(耐サーマルサイクル性)を低下させる。なお、耐サーマルサイクル性の詳細については後述する。
【0004】
また、上記シート状エポキシ樹脂系接着剤は、液状接着材料に比べて扱い易いが、保管中の経時変化により接着力が低下したり、あるいは、接着時の初期接着力は発揮するものの、高温から低温にかけての耐サーマルサイクル性に優れた接着性を充分に発揮することができないといった課題がある。このことは、耐久性を要求される構造物用の接着材料としては好ましくない。とくに、初期接着力のサーマルショックによる初期接着力の低下は、構造物の接着において安定した接着力が得られず好ましくない。
【0005】
上記シート状の接着剤形態のものとして、ある種のフィルム状接着剤(特許文献1、2)が開示されている。しかし、特許文献1に開示のフィルム状接着剤は、大量のシリカを含有しているため、被着体に仮止め接着させる際に初期接着力に劣り、接着する際にある程度の大きさの圧着力が必要であり、また、構成成分に熱可塑性樹脂を配合しているために接着物の耐熱性が劣るという問題がある。また、特許文献2に開示のフィルム状接着組成物は、仮止め接着させる際に接着層を60〜80℃程度の高温加熱して接着させる必要があるために仮止めが容易ではなく、さらに、上記接着剤はいずれも、耐サーマルサイクル性に優れた充分な接着性が得られない。
【0006】
上述のことから、従来の液状あるいはペースト状接着剤や、シート状あるいはフィルム状の接着剤形態に代わる、構造物の接着等に適用した場合に、耐サーマルサイクル性に優れた接着性を発揮できる接着層の形成を可能とする熱硬化性接着シートが得られる接着組成物の提供が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−261833号公報
【特許文献2】特開2005−307037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、被着体に仮止め後、加熱によって完全硬化して、初期接着力を低下することなく、耐サーマルサイクル性に優れた接着性を発揮する接着層となる未硬化状態の接着層を剥離性のフィルム状基材上に有してなる熱硬化性接着シートが得られる接着組成物、および熱硬化性接着シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の各々の成分を必須成分とする接着組成物は、該組成物を、剥離性を有するフィルム状基材上に塗布することにより、使用時に熱によって完全硬化する未硬化の接着層を形成して熱硬化性接着シートを製造すれば、該硬化性接着シートの接着層を用いて、該接着層を熱によって完全硬化して接着されたCFRPなどの強化プラスチック類やアルミニウムなどの金属類の接着物は、初期接着力を低下することなく、しかも優れた耐サーマルサイクル性の接着力を維持、あるいは初期接着力以上の接着力を発揮することを見出して本発明に至った。
【0010】
上記の目的は、以下の本発明により達成される。すなわち、本発明は、分子内にエポキシ基を有するアクリル系共重合体(a成分)と、下記エポキシ化物(b成分)と、エポキシ当量が170〜2,500g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜5,500であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)と、潜在性エポキシ硬化剤(d成分)とを含有することを特徴とする接着組成物を提供する。
(b)成分;リュプケ式反発弾性率が20〜90%であるゴム弾性エポキシ化物(b1)、または、該ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、エポキシ化合物とゴム化合物とからなる反応生成物(z)との混合物(b2)
【0011】
また、本発明の好ましい実施形態としては、下記のことが挙げられる。さらに、下記構成成分(e)〜(g)から選ばれる少なくとも1種を含有すること、・構成成分(e):アクリルゴム微粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂からなるアクリルゴム含有量が10〜30質量%で、エポキシ当量が200〜250g/eqのコアシェルゴム構成体、・構成成分(f):アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂、・構成成分(g):エポキシ当量が150〜250g/eq、軟化点が60〜80℃であるフェノールノボラックエポキシ樹脂、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)のリュプケ式反発弾性率が40〜90%であること、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)のエポキシ当量が400〜700g/eq、凝固点温度が1.1℃〜10.1℃であり、かつ、その硬化物のガラス転移温度が−60℃〜−20℃であること、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)の硬化物のガラス転移温度が、−50℃〜−30℃であること、前記反応生成物(z)が、NBR変性エポキシ樹脂であること、前記(b成分)の混合物(b2)は、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、前記反応生成物(z)とが、(z)/(b1)=50/100〜1/100(質量比)の混合物であること、前記アクリル系共重合体(a成分)の重量平均分子量が30×104〜100×104、エポキシ価が0.03〜0.5eq/kg、およびガラス転移温度が5〜20℃であること、前記アクリル系共重合体(a成分)のガラス転移温度が、10〜15℃であること、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)が、エポキシ当量が170〜1000g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜1700であること、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)が、エポキシ当量が184〜194g/eq、かつ数平均分子量が370であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c1)と、エポキシ当量が450〜500g/eq、かつ数平均分子量が900であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c2)と、およびエポキシ当量が875〜975g/eq、かつ数平均分子量が1650であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c3)から選ばれる少なくとも1種であること、前記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)が、ジシアンジアミド、または、該ジシアンジアミドと、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、フェノールアラキル樹脂、およびBF3モノエチルアミンから選ばれる少なくとも1種との混合物であること、サーマルサイクル引張剪断力が、14MPa以上であること、である。
【0012】
また、本発明は、熱によって硬化する未硬化の接着層が剥離性を有するフィルム基材上に形成されてなる熱硬化性接着シートの製造方法であって、前記に挙げたいずれかの接着組成物を、剥離性を有するフィルム状基材に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度よりも低い温度で乾燥させて未硬化の状態で接着層を形成する工程を少なくとも有することを特徴とする熱硬化性接着シートの製造方法を提供する。
【0013】
また、好ましい実施形態としては、さらに、前記未硬化の状態の接着層が、合成繊維、カーボン繊維、およびガラス繊維の不織布または布の芯材から選ばれる少なくとも1種の芯材を有してなる熱硬化性接着シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下記の従来にない有用な接着組成物を提供することができ、その結果、優れた特性を有する熱硬化性接着シートが提供される。すなわち、本発明の接着組成物を用いてフィルム状の基材上に形成した未硬化の接着層を設けることで、強化プラスチック類や金属類などの構造材料の接着に際して、簡単に仮止めができ、その後に未硬化の接着層を加熱硬化することで、初期接着力が低下することなく、優れた耐サーマルサイクル性の接着性を発揮する接着層とできる、構造物等の接着において安定した接着力が得られる有用な熱硬化性接着シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。本発明の接着組成物は、必須成分として、エポキシ基を有するアクリル系共重合体(a成分)と、エポキシ化物(b成分)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c)成分と、潜在性エポキシ硬化剤(d成分)とを含有してなる。そして、これらの成分を含有してなる接着組成物を、剥離性を有するフィルム状の基材上に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度より低い温度にて乾燥させて未硬化の接着層を形成することにより、使用時に、熱により完全硬化し、その結果、初期接着力を低下することなく、しかも優れた耐サーマルサイクル性の接着性が付与された接着層を設けてなる熱硬化性接着シートが得られる。
【0016】
本発明における耐サーマルサイクル性の接着性があるとは、下記の耐久試験後に接着力を評価した場合に、下記のように評価されることを意味する。すなわち、試験対象の熱硬化性接着シートを用いて接着された接着物を、サーマルサイクル試験機を用いて、−40℃で30分間放置と、150℃で30分間放置とを1サイクルとして、280〜1000サイクルの、低温、高温の繰り返し環境条件下に置いた場合に、初期接着力(サーマルサイクル試験を行わない接着直後の接着力)が低下することなく、安定的に維持、あるいは初期接着力以上の接着力を発揮することである。
【0017】
本発明の接着組成物を構成する前記アクリル系共重合体(a成分)は、分子内にエポキシ基を含有するアクリル系共重合体であり、例えば、エチレン系不飽和基を有するエポキシ基化合物とアクリルモノマーおよび/又は、該モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体である。該アクリル系共重合体(a成分)は、得られる熱硬化性接着シートに仮止め性を付与する機能を有するが、共重合体単独でも2種以上の混合物であっても構わない。
【0018】
上記(a成分)を調整する場合に必要となるエチレン系不飽和基を有するエポキシ基化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、3,4−エポキシシクロヘキサニルメチルメタクリレート、アリルグリシジルエーテルなどが挙げられる。特に、グリシジルアクリレートやグリシジルメタアクリレートを用いることが好ましい。
【0019】
また、上記(a成分)を調整する場合に必要となるアクリルモノマーおよび該モノマーと共重合可能なモノマーしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート(「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの双方を意味する)、メチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどが挙げられる。特に好ましくは、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0020】
本発明で使用する前記アクリル系共重合体(a成分)としては、好ましくは、上記アクリルモノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーと、アクリロニトリルと、エチレン系不飽和基を有するエポキシ基化合物とのアクリル系共重合体が挙げられる。上記共重合体としては、例えば、エチルアクリレート/ブチルアクリレート/アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体、エチルアクリレート/アクリロニトリル/グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体などが挙げられる。
上記アクリル系共重合体(a)は、ナガセケムテックス(株)から[テイサンレジンSG−P3]、[テイサンレジンSG−80H]などの商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0021】
上記アクリル系共重合体(a成分)としては、好ましくは重量平均分子量が30×104〜100×104、エポキシ価が0.03〜0.5eq/kg、ガラス転移温度が5〜20℃のものが挙げられる。とくに好ましくは、ガラス転移温度が10〜15℃のものが挙げられる。本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算により求めた値である。また、本発明における、エポキシ価は、1kg当りのエポキシ当量を示した値であり、また、ガラス転移温度は、DSC法に準じた示差走査熱量計による測定値である。上記範囲内のものが、接着の際の仮止め性、および耐サーマルサイクル性が優れた熱硬化性接着シートを得るのによい。
【0022】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記エポキシ化物(b成分)について説明する。該エポキシ化物(b成分)は、リュプケ式反発弾性率が20〜90%、好ましくは40〜90%であるゴム弾性エポキシ化物(b1)、または、該ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、エポキシ化合物とゴム化合物とからなる反応生成物(z)との混合物(b2)である。本発明において好ましくは、上記エポキシ化物(b1)単体、または、上記エポキシ化物(b1)を主成分とする上記反応生成物(z)との混合物(b2)を使用する。
【0023】
上記ゴム弾性エポキシ化物(b1)は、熱硬化により上記リュプケ式反発弾性率を有するゴム弾性を発揮するエポキシ硬化体を生成するものであり、上記リュプケ式反発弾性率は、JIS−K−6255に準じて測定した値である。上記リュプケ式反発弾性率が20%未満の場合には、得られる接着組成物による熱硬化性接着シートを用いた接着物の耐サーマルサイクル性の接着性向上が充分に得られない。
【0024】
上記エポキシ化物(b成分)は、これを含んでなる本発明の接着組成物を用いて得られる熱硬化性接着シートで、CFRPなどの強化プラスチックやアルミニウムなどの金属類などの被着体同士を接着した接着物において、前記耐サーマルサイクル性の接着性を向上させる。一般に、エポキシ系接着組成物を用いて接着した接着物は、初期接着力はあるが、その接着層が硬く、高温から低温にかけての繰り返し使用による耐サーマルサイクル性の接着性が劣るために、初期接着力が低下し、とくに、接着強度が要求される構造材料の接着においては、充分な安定した接着力が維持できないという課題があった。
【0025】
前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)としては、例えば、ポリエーテルグリコール、共重合ポリエーテルグリコールなどのポリエーテルグリコール類とエピクロロヒドリンとを公知の方法で反応させた反応生成物などのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂類、およびそれらのオリゴマーなどが挙げられる。上記ポリエーテルグリコール類としては、例えば、ネオペンチレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドなどのエチレンオキサイドの構成単位を単独で、あるいは両方を有するものが挙げられる。上記反応生成物は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。上記ゴム弾性エポキシ化物(b1)は、例えば、三菱化学(株)から、ゴム弾性エポキシ樹脂jER YL7410の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0026】
本発明で使用する上記ゴム弾性エポキシ化物(b1)は、好ましくはそのエポキシ当量が400〜700g/eq、凝固点温度が1.1℃〜10.1℃であり、かつ、その硬化物のガラス転移温度が−60℃〜−20℃、より好ましくは該ガラス転移温度が−50℃〜−30℃であるものがよい。上記数値内のものが、得られる熱硬化性接着シートを用いて、熱硬化接着した場合に充分な耐サーマルサイクル性の接着性が得られる。なお、本発明におけるエポキシ当量は、JISK 7236に準じた値であり、また凝固点温度は、DSC法による示差走査熱量計による測定値であり、またガラス転移温度は、JIS K7121のガラス転移温度の求め方によるものである。
【0027】
また、本発明において、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と併用する反応生成物(z)は、ゴム化合物と、公知のエポキシ化合物またはエポキシ樹脂などのエポキシ化合物とを公知の合成方法により適宜の配合比により反応させた反応生成物(プレリアクトした生成物も含む)である。上記反応生成物(z)を含有してなる本発明の接着組成物を用いることで、初期接着力の向上がよく、また、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と併用することで、両成分の相乗効果によって、耐サーマルサイクル性および接着力がより向上する。上記反応生成物(z)は、単独でも、2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
上記ゴム化合物としては、例えば、ブタジエンアクリロニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム(AU)などのゴム系重合体が挙げられ、重合体の末端がカルボキシル変性、アミノ変性、あるいはヒドロキシ変性されたゴム系重合体であってもよい。好ましくはNBR系の化合物が用いられる。
【0029】
上記ゴム化合物との反応に使用されるエポキシ化合物またはエポキシ樹脂としては、公知のものが使用することができる。例えば、多官能グリシジルエーテル型エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが挙げられる。
【0030】
上記反応生成物(z)としては、NBR系の化合物と、公知のエポキシ化合物またはエポキシ樹脂とを公知の合成方法により反応させて得られた反応生成物であるNBR変性エポキシ樹脂(ブタジエンアクリロニトリルゴム変性エポキシ樹脂)が好ましく挙げられる。
【0031】
前記反応生成物(z)は、好ましくはそのエポキシ当量が200〜500g/eqであるものがよい。上記反応生成物(z)としては、例えば、(株)ADEKAよりアデカレジンEPR−4030の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0032】
前記エポキシ化物(b成分)を構成し得る混合物(b2)の好ましいものとしては、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と前記反応生成物(z)とが、(z)/(b1)=50/100〜1/100(質量比)の混合物である。本発明の接着組成物中における上記(z)の配合割合が上記上限を超えると、得られる熱硬化性接着シートを用いて接着した場合に、耐サーマルサイクル性の接着力が低下する傾向にある。一方、(z)の配合割合が上記下限未満であると、相乗効果による充分な耐サーマルサイクル性の接着力向上が得られない。
【0033】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)について説明する。該エポキシ樹脂は、エポキシ当量が170〜2,500g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜5,500、好ましくはエポキシ当量が170〜1,000g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜1,700であるビスフェノールA型エポキシ樹脂である。上記エポキシ当量および数平均分子量が多くなると、耐サーマルサイクル性の接着性は向上し、多くなり過ぎると低下する。一方、エポキシ当量および数平均分子量が少な過ぎると、初期接着力および耐サーマルサイクル性の接着性が得られない。なお、本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算により求めた値である。
【0034】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)は、公知の方法により製造されたものを使用することができ、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応生成物、あるいは、低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールAの付加重合によるオリゴマーなどが挙げられる。
【0035】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)は、より好ましくはエポキシ当量が184〜194g/eq、かつ数平均分子量が約370であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c1)、エポキシ当量が450〜500g/eq、かつ数平均分子量が約900であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c2)、エポキシ当量が875〜975g/eq、かつ数平均分子量が約1650であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c3)から選ばれる少なくとも1種がよい。すなわち、上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c1)、(c2)、および(c3)は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)について説明する。該潜在性エポキシ硬化剤(d成分)は、本発明の接着組成物を用いて得られる熱硬化性接着シートの未硬化の接着層を構成する各成分の分子内のエポキシ基などの官能基と重付加反応して熱硬化させる硬化剤として機能する。より具体的には、接着加工時に、上記接着層を上記エポキシ硬化剤(d成分)の熱硬化を開始する温度以上に加熱、とくに、粉体の上記硬化剤(d成分)の場合にはその熱溶融温度以上に加熱することにより、上記各々の成分と反応して短時間で熱硬化性を発揮する。すなわち、得られる接着組成物、および該組成物を塗布および乾燥して得られる未硬化の接着層の段階では硬化させず、接着の際の熱硬化温度をかけることにより熱硬化性を発揮するので、室温で安定して長期保存性ができる熱硬化性接着シートが得られる。上記熱硬化温度としては、好ましくは160℃以上がよい。
【0037】
上記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)としては、例えば、ジシアンジアミド類、イミダゾール類、フェノール系化合物、ヒドラジド類、三フッ化ホウ素−アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン塩およびこれらの変性物、マイクロカプセル型などが挙げられる。特に、ジシアンジアミド類、イミダゾール類、およびフェノール系化合物を用いることが好ましい。該潜在性エポキシ硬化剤(d成分)は、単独でも2種以上を混合して使用することができる。
【0038】
上記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)の内で、好ましくはジシアンジアミド、または、該ジシアンジアミドと、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、フェノールアラキル樹脂、およびBF3モノエチルアミンから選ばれる少なくとも1種との混合物が挙げられる。特に、ジシアンジアミドと、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールと、およびフェノールアラキル樹脂を適宜に組み合わせたものを用いるのが好ましい。
【0039】
本発明の接着組成物は、該接着組成物を構成する前記成分に、さらに、下記構成成分(e)、(f)、および(g)から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。上記構成成分(e)は、アクリルゴム粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂からなるアクリルゴム含有量が10〜30質量%で、エポキシ当量が200〜250g/eqのコアシェルゴム構成体である。また、上記構成成分(f)は、アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂である。また、上記構成成分(g)は、エポキシ当量が150〜250g/eq、軟化点が60〜80℃であるフェノールノボラックエポキシ樹脂である。上記構成成分(e)〜(g)は、単独でも、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記構成成分(e)について説明する。該構成成分(e)は、アクリルゴムをコアとし、エポキシ樹脂をシェルとしたコアシェルゴム構成体であり、得られる接着組成物の熱硬化に伴う靭性効果、耐熱性の低下がなく安定した強靭性を有する接着力を得るのに有効である。該構成成分(e)としては、例えば、末端アルキル基を有する高分子乳化剤中で生成したアクリルゴムエマルジョンにビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂を加え、加温しながら減圧脱水し、さらに、沸点以上に加熱して水を完全除去しながら乳化剤中のカルボキシル基とエポキシ樹脂を予備反応させて得られる、アクリルゴム含有量が10〜30質量%、エポキシ当量が200〜250g/eq、好ましくはアクリルゴム含有量が20±1%、エポキシ当量が230±10g/eqであるコアシェルゴム構成体が挙げられる。なお、該アクリルゴムを調製する場合に必要となる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸と、脂肪族アルキルアルコール、脂環アルキルアルコール、多価アルコールなどのエステルである(メタ)アクリル酸エステル系の単量体や、これらと共重合可能なヒドロキシル基含有不飽和単量体、エポキシ基含有不飽和単量体などか挙げられる。上記構成成分(e)としては、例えば、(株)日本触媒から「アクリセットBPA328」の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0041】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記構成成分(f)について説明する。該構成成分(f)は、公知の方法により、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアルコキシシラン部分縮合物との脱アルコール縮合反応により得られるアルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂であり、得られる接着組成物を各種繊維や不織布に含浸漬して使用する場合に、これらとの接着性が改良され、機械的特性、耐熱性が向上される。
【0042】
上記構成成分(f)を調製する場合に必要となるビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などが挙げられ、特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、上記構成成分(f)を調製する場合に必要となるアルコキシシラン部分縮合物としては、例えば、下記の3官能、4官能などのアルコキシシラン化合物を加水分解、縮合したもの、好ましくは3官能のものが挙げられる。上記アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが挙げられ、特に、メチルトリメトキシシランなどの3官能アルコキシシラン化合物を用いることが好ましい。上記構成成分(f)としては、例えば、荒川化学工業(株)から「コンポセランEシリーズ、E103D」の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0043】
次に、本発明の接着組成物を構成する前記構成成分(g)について説明する。該構成成分(g)は、フェノールノボラック樹脂とエピハロヒドリン類とを公知の方法で反応させた下記の一般式(1)で示される数平均分子量基準でその重合度(平均くり返し単位数:n)が1〜20、好ましくはnが3〜7であるフェノールノボラックエポキシ樹脂である。上記構成成分(g)は、特に、エポキシ当量が150〜250g/eq、軟化点が60〜80℃であるフェノールノボラックエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。上記構成成分(g)は、得られる接着組成物を各種繊維や不織布に含浸漬して使用する場合に低粘度で良好な浸漬性を有し、耐熱性、密着性、機械特性を向上させる。上記構成成分(g)としては、例えば、日本化薬(株)から「EPPN−201−L」の商品名で入手して本発明で使用することができる。

(上記式中のnは、平均1〜20の数である)
【0044】
本発明の接着組成物は、前記アクリル系共重合体(a成分)と、前記エポキシ化物(b成分)と、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)と、前記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)と、必要に応じてさらには、前記構成成分(e)〜(g)から選ばれる少なくとも1種を適宜に配合し公知の方法で均一に撹拌混合して無溶剤の接着組成物に、あるいは、必要に応じて有機溶媒にて適宜の濃度に希釈した接着組成物として、それぞれ調製することができる。
【0045】
また、上記接着組成物は、必要に応じて本発明の目的を妨げない範囲において、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどの多官能の反応性エポキシ希釈剤やシランカップリング剤などの接着性補強剤、その他、フッ素系などの界面活性剤、軟化剤、体質顔料、光安定剤、酸化防止剤などの添加剤を配合することができる。上記反応性エポキシ希釈剤の配合量が多すぎると、得られる熱硬化性接着シートの接着性が低下する傾向があるので好ましくない。これらの添加剤の配合量は、好ましくは1〜4質量%である。
【0046】
上記で使用する有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、3−ヘプタノンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチルなどのエステル類;エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、3−メトキシブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類など、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0047】
本発明の接着組成物は、好ましくは、該組成物によって形成される接着層のサーマルサイクル引張剪断力が14MPa以上であるのがよく、70MPa以下が好ましい。上記サーマルサイクル引張剪断力が上記範囲未満であると、得られる熱硬化性接着シートを用いて、CFRPなどの強化プラスチックやアルミニウム、ステンレスなどの金属類などからなる航空機、自動車、建築物などの構造物の部品を接着した場合に、初期接着力を有していても前記サーマルサイクル性の引張剪断力が低下し、耐久性が要求される構造物の接着において安定した強固な接着物が得られない。とくに、初期接着力が高くても、耐サーマルサイクル性の引張剪断力が低下するものは構造物の接着において、経時変化に伴う不安定な接着性を有するので実用上好ましくない。また、上記引張剪断力が上記範囲を超えると、その接着強度は得られにくい。
【0048】
なお、本発明におけるサーマルサイクル引張剪断力は、下記の手順で測定したサーマルサイクル後の引張剪断力の測定値である。すなわち、得られる熱硬化性接着シートを用いて接着した接着物の測定試料を、冷熱衝撃試験機を用いて、−40℃で30分間放置と150℃で30分間放置とを1サイクルとして、これを300サイクル繰り返して行うサーマルサイクル試験をJIS COO25に準じて行った後、JIS K6850に準拠して引張試験機にて測定した値である。
【0049】
(熱硬化性接着シートの製造方法)
次に、本発明により調製された接着組成物を用いて得る本発明の熱硬化性接着シートを製造する製造方法について説明する。本発明の熱硬化性接着シートは、熱によって硬化する未硬化の接着層が剥離性を有するフィルム状基材上に形成されてなるものである。その製造方法では、本発明の接着組成物を剥離性を有するフィルム状基材に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度よりも低い温度で乾燥させて未硬化の状態で接着層を形成する工程を少なくとも有することを特徴とする熱硬化性接着シートの製造方法である。このようにして形成した未硬化の接着層は、使用時に、熱により接着層が完全硬化し、これによって、例えば、被着体であるCFRPなどの強化プラスチックとアルミニウムなどの金属類との良好な接着物が得られる。上記接着組成物が熱硬化する温度よりも低い温度とは、具体的には、前記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)が、熱硬化性を発揮する温度以下を意味するが、好ましくは160℃未満の温度である。
【0050】
上記の製造方法としては、例えば、上記剥離性を有するフィルム状基材に本発明の接着組成物を用い、必要に応じて前記の有機溶媒を用いて適宜の濃度に希釈して、公知の塗布方法により20μm〜40μm(塗膜厚み)に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度よりも低い温度である80℃〜120℃のオーブンにて3分〜5分間加熱乾燥させて、該乾燥温度よりも高い温度の熱によって完全に硬化する未硬化の状態の接着層を形成する工程を経て熱硬化性接着シートを製造する。該熱硬化性接着シートは乾燥後にこれらを巻き取った形態としてもよいし、あるいは、乾燥後の接着層面に剥離性の基材フィルムをさらにラミネートした形態としてもよい。該巻き取った形態とする場合の基材フィルムは、両面に剥離性を有するものであることが好ましい。
【0051】
本発明で使用する上記公知の塗布方法としては、例えば、グラビアコート、フレキソコート、ロールコート、リバースロールコート、スクリーンコート、エアーナイフコート、キスコート、ダイコート、ナイフコート、ブレードコート、カーテンコート、スロットオリフィス、ロールナイフコート、バーコートなどが挙げられる。
【0052】
上記で使用する剥離性を有するフィルム状基材としては、前記接着層と接する面が剥離性を有するものであればよく、下記のようなものが挙げられる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアレートフィルム、フッ素樹脂フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルムなどの単体で剥離性を有するプラスチックフィルム、あるいは、これらのプラスチックフィルムに剥離処理を施したものなど、その他、ポリエチレンラミネート紙、ポリプロピレンラミネート紙、グラシン紙、樹脂コート紙、クレーコート紙などの接着層と接する面が剥離処理されたものなどが挙げられる。上記の剥離処理は、上記のフィルム基材にフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、アルキッド系樹脂、アクリル系樹脂など、あるいは、これらの樹脂に離型性を有するシリコーン、脂肪酸、ワックス、界面活性剤などの離型剤を適宜に配合したものなどの剥離性を有する剥離層を形成するものである。上記の剥離処理はフィルム基材の片面に行っても、あるいは両面に行ってもよい。
【0053】
また、本発明の熱硬化性接着シートの製造方法では、好ましくはさらに、前記未硬化の状態の接着層が、合成繊維、カーボン繊維、およびガラス繊維の不織布または布の芯材から選ばれる少なくとも1種の芯材を有している構成とするとよい。上記芯材を接着層中に有することにより、得られる熱硬化性接着シートの接着耐久性をより向上させることができる。
【0054】
上記接着層中に芯材を有する熱硬化性接着シートの製造方法としては、例えば、前記剥離性を有するフィルム状基材に本発明の接着組成物を塗布する工程で、塗布層が液状の段階で芯材をラミネートし、該芯材に接着組成物を含浸させ、加熱乾燥させて接着層を形成する方法が挙げられる。上記の方法によって得られる接着層は、芯材と一体となった状態の未硬化の接着層が形成されるために、使用時に、より強度がアップした接着層を与えることができる熱硬化性接着シートが得られる。上記製造方法の具体例としては、例えば、ラミネーターの第1給紙に離型処理PETフィルムをセットし、また、第2給紙に芯材をセットし、適宜の塗布厚みになるように調整されたロールナイフコーターを用いて、上記PETフィルム上に本発明の接着組成物を塗布し、ウェットの塗布面に芯材をラミネートして加熱乾燥後、次に剥離処理された別のPETフィルムを上記芯材面にラミネートして、接着層中に芯材を有する熱硬化性接着シートを得る。
【0055】
上記芯材としては、公知の不織布、または繊維織物(布)が挙げられ、不織布としては、例えば、レーヨン不織布、ポリエステル不織布、ポリプロピレン不織布、ナイロン不織布、ポリウレタン不織布、カーボン不織布、ガラス不織布、および、これらの混紡不織布などが挙げられる。また、繊維織物としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン、セルロース、ガラス、およびカーボン繊維などの単体繊維織物、または混紡の繊維織物が挙げられる。
【0056】
次に、本発明の熱硬化性接着シートを用いて行う被着体の接着方法について説明する。まず、接着される一方の被着体に合わせ適宜の寸法にカットされた本発明の熱硬化性接着シートの未硬化の状態の接着層を常温、または加温して被着体に圧着仮止めする。次に、剥離性を有するフィルム基材を剥離除去し、該接着層に他方の被着体を貼り付け、プレス機を用いて160℃以上、好ましくは180℃〜200℃にて60分間〜180分間圧着加熱し、上記接着層を完全熱硬化させ接着する。
【0057】
上記被着体としては、例えば、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、ステナイト系ステンレス、オーステナイト−フェライト系ステンレスなどのステンレス鋼;Mg−Al−Zn−Mn系合金、Mg−Zn−Zr系合金、Mg−希土類元素系合金などのマグネシウム合金、鉄、鉄合金、アルミニウム、ジュラルミンなどのアルミニウム合金などの金属類、カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、繊維強化プラスチック(FRP)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)などの繊維強化プラスチック類などが挙げられる。中でも、少なくとも一方の被着体がCFRPである場合に、本発明のより高い効果が得られるので好ましい。上記強化プラスチックとしては、公知の不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。なお、上記被着体は、得られる熱硬化性接着シートを用いて接着する場合には、上記強化プラスチック同士、強化プラスチックと金属類、金属類同士いずれにも適用することができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の接着組成物E1〜E9と、比較例の接着組成物F1〜F4を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「部」または「%」とあるのは質量基準である。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1〜9](接着組成物E1〜E9)
アクリル系共重合体(a成分)と、エポキシ化物(b成分)と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)と、潜在性エポキシ硬化剤(d成分)と、構成成分(e)、(f)、および(g)と、必要に応じて有機溶媒、および添加剤とを使用し、各々の成分を表1のように配合し、ホモジナイザーにて充分に均一に混合撹拌を行い接着組成物E1〜E9を調製した。
【0060】
上記のアクリル系共重合体(a成分)、エポキシ化物(b成分)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)、潜在性エポキシ硬化剤(d成分)、構成成分(e)、構成成分(f)、および構成成分(g)は下記の通りである。
・アクリル系共重合体(a成分);
エポキシ基含有アクリル系共重合体(重量平均分子量85×104、エポキシ価0.21eq/kg、ガラス転移温度12℃、ナガセケムテックス(株)製、テイサンレジンSG−P3)
・エポキシ化物(b成分);
b1:リュプケ式反発弾性率が40〜90%であるゴム弾性エポキシ化合物(三菱化学(株)製、ゴム弾性エポキシ樹脂jER YL7410)(エポキシ当量が400〜700g/eq、凝固点温度が1.1℃〜10.1℃、および、その硬化物のガラス転移温度が−50℃〜−30℃)
b2:上記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、前記反応生成物(z)[NBR変性エポキシ樹脂((株)ADEKA製、アデカレジンEPR−4030)]とが2:1(質量比)の混合物
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分);
c1:エポキシ当量が184〜194g/eq、かつ数平均分子量が370であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER828)
c2:ポキシ当量が450〜500g/eq、かつ数平均分子量が900であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER1001)
c3:エポキシ当量が875〜975g/eq、かつ数平均分子量が1650であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、jER1004)
・潜在性エポキシ硬化剤(d);
d1:ジシアンジアミド
d2:フェノールアラキル樹脂
d3:2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール
・構成成分(e)〜(g)
構成成分(e):アクリルゴム微粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂とからなるアクリルゴム含有量が20±1質量%、エポキシ当量が230±10g/eqのコアシェルゴム構成体((株)日本触媒製、BPA328)
・構成成分(f):アルコシ基含有シラン変性エポキシ樹脂(荒川化学工業製、コンポセランE103D)
・構成成分(g):エポキシ当量が180〜200g/eq、軟化点が65〜78℃であるフェノールノボラックエポキシ樹脂(日本化薬(株)製、EPPN−201−L)
【0061】
[比較例1](接着組成物F1)
実施例で使用したエポキシ化物(b成分)を使用せず、代わりに前記NBR変性エポキシ樹脂を使用し、表2のようにその他各々の成分を配合し、ホモジナイザーにて充分に均一に混合撹拌を行い接着組成物F1を調製した。
【0062】
[比較例2](接着組成物F2)
表2のように、エポキシ化物(b成分)を使用せず、代わりに前記NBR変性エポキシ樹脂を使用し、さらに構成成分fを添加し、その他各々の成分を配合し、ホモジナイザーにて充分に均一に混合撹拌を行い接着組成物F2を調製した。
【0063】
[比較例3](接着組成物F3)
表2のように、エポキシ化物(b成分)を使用せず、代わりに前記NBR変性エポキシ樹脂を使用し、さらにポリビニルホルマール(チッソ(株)製、ビニレックK)を添加し、その他各の成分を配合し、ホモジナイザーにて充分に均一に混合撹拌を行い接着組成物F3を調製した。
【0064】
[比較例4](接着組成物F4)
表2のように、エポキシ化物(b成分)を使用せず、代わりに前記NBR変性エポキシ樹脂を使用し、さらにソルビトールポリグリシジルエーテル(4官能エポキシ希釈剤)を添加し、その他各の成分を配合し、ホモジナイザーにて充分に均一に混合撹拌を行い接着組成物F4を調製した。
【0065】

上記表中の数値は、配合部数を表す。
【0066】

上記表中の数値は、配合部数を表す。
【0067】
[実施例10〜18](熱硬化性接着シートJ1〜J9)、および[比較例5〜8](熱硬化性接着シートK1〜K4)
前記実施例および比較例で得られた各々の接着組成物を使用して、前記熱硬化性接着シートの製造方法により、剥離処理された25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにアプリケーターにて30μmの厚み(乾燥厚み)に塗布し、120℃のオーブンにて3分間乾燥させ熱硬化性接着シートJ1〜J9、および熱硬化性接着シートK1〜K4を得た。
【0068】
[実施例19](熱硬化性接着シートJ10)
前記接着組成物E5を用いて、ラミネーターの第1給紙に剥離処理された100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを、また、第2給紙に芯材であるポリアクリレート不織布((株)クラレ製、ベクルス)を取り付け、予め塗膜乾燥厚みが100μmになるように調整されたロールナイフコーターで上記PETフィルム上に塗布し、該接着塗布面に上記不織布をラミネートして100℃にて10分間乾燥後、次に剥離処理された25μmのPETフィルムを上記不織布側にラミネートして不織布に接着組成物を含浸させ、接着層中に不織布の芯材を有する熱硬化性接着シートJ10を得た。
【0069】
[比較例9](熱硬化性接着シートK5)
接着組成物F2にメチルエチルケトン100部を配合し接着組成物F5とし、実施例19と同様にして硬化性接着シートK5を得た。
【0070】
前記で得られた各々の熱硬化性接着シートを用いて、アルミニウムとCFRPとを加熱硬化接着させ、加熱硬化後の接着物の初期引張剪断力およびサーマルサイクル後の引張剪断力を下記の方法で測定した。測定結果を表3、および表4に示す。
【0071】
[初期およびサーマルサイクル後の引張剪断力の測定]
アルコール洗浄されたアルミニウムおよびCFRPの試験片の一方の10mm角部分に前記硬化性接着シートの接着層を圧着し、接着層から剥離性のPETフィルムを剥離除去後、上記接着層に試験片の他方を指圧または加温して圧着し、圧着後、プレス機で3Kg/cm2の荷重を加え、荷重を加えたまま180℃の送風式オーブンにて1時間加熱硬化させ、加熱後放冷して測定用試料を作成した。
(初期引張剪断力)
上記測定用試料を、JIS K6850に準拠して、引張試験機にて接着面に対して水平方向へ引張り、室温での引張り剪断力を測定した。
(サーマルサイクル後の引張剪断力)
上記測定用試料を、冷熱衝撃試験機を用いて、−40℃で30分間放置と150℃で30分間放置とを1サイクルとして、これを300サイクル繰り返して行うサーマルサイクル試験をJIS COO25に準じて行った後、上記測定用試料をJIS K6850に準拠して引張試験機にて引張剪断力を測定した。
【0072】

【0073】

【0074】
上記評価結果より、本発明の接着組成物は、金属類およびCFRPなどの強化プラスチック類などの被着体同士を容易に仮止め接着でき、仮止め後、熱硬化温度以上に加熱することにより完全硬化して、接着物の初期接着力が低下することなく、耐サーマルサイクル性の優れた接着力を発揮できる熱硬化性接着シートが得られる接着組成物であることが実証された。
【0075】
本発明の接着組成物は、耐サーマルサイクル性の優れた接着性を発揮する熱硬化性接着シートが得られることから、これらを用いて、従来は困難であった、アルミニウム、ステンレス、スチールなどの金属類、およびCFRPなどの強化プラスチックなどの構造材料を使用した航空機、自動車、船舶、車両、厨房製品、電気機器、家具、風力発電装置および建築物などの接着材料として有効に使用することができるようになるので、将来の広範な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にエポキシ基を有するアクリル系共重合体(a成分)と、下記エポキシ化物(b成分)と、エポキシ当量が170〜2,500g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜5,500であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)と、潜在性エポキシ硬化剤(d成分)とを含有することを特徴とする接着組成物。
(b)成分;リュプケ式反発弾性率が20〜90%であるゴム弾性エポキシ化物(b1)、または、該ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、エポキシ化合物とゴム化合物とからなる反応生成物(z)との混合物(b2)
【請求項2】
さらに、下記構成成分(e)〜(g)から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の接着組成物。
・構成成分(e):アクリルゴム微粒子とビスフェノールA型エポキシ樹脂またはビスフェノールF型エポキシ樹脂からなるアクリルゴム含有量が10〜30質量%で、エポキシ当量が200〜250g/eqのコアシェルゴム構成体
・構成成分(f):アルコキシ基含有シラン変性エポキシ樹脂
・構成成分(g):エポキシ当量が150〜250g/eq、軟化点が60〜80℃であるフェノールノボラックエポキシ樹脂
【請求項3】
前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)のリュプケ式反発弾性率が40〜90%である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項4】
前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)のエポキシ当量が400〜700g/eq、凝固点温度が1.1℃〜10.1℃であり、かつ、その硬化物のガラス転移温度が−60℃〜−20℃である請求項1または3に記載の接着組成物。
【請求項5】
前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)の硬化物のガラス転移温度が、−50℃〜−30℃である請求項4に記載の接着組成物。
【請求項6】
前記反応生成物(z)が、NBR変性エポキシ樹脂である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項7】
前記(b成分)の混合物(b2)は、前記ゴム弾性エポキシ化物(b1)と、前記反応生成物(z)とが、(z)/(b1)=50/100〜1/100(質量比)の混合物である請求項1、3、4、5および6のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項8】
前記アクリル系共重合体(a成分)の重量平均分子量が30×104〜100×104、エポキシ価が0.03〜0.5eq/kg、およびガラス転移温度が5〜20℃である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項9】
前記アクリル系共重合体(a成分)のガラス転移温度が、10〜15℃である請求項8に記載の接着組成物。
【請求項10】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)が、エポキシ当量が170〜1000g/eqであり、かつ数平均分子量が340〜1700である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項11】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂(c成分)が、エポキシ当量が184〜194g/eq、かつ数平均分子量が370であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c1)と、エポキシ当量が450〜500g/eq、かつ数平均分子量が900であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c2)と、およびエポキシ当量が875〜975g/eq、かつ数平均分子量が1650であるビスフェノールA型エポキシ樹脂(c3)から選ばれる少なくとも1種である請求項1または10に記載の接着組成物。
【請求項12】
前記潜在性エポキシ硬化剤(d成分)が、ジシアンジアミド、または、該ジシアンジアミドと、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、フェノールアラキル樹脂、およびBF3モノエチルアミンから選ばれる少なくとも1種との混合物である請求項1に記載の接着組成物。
【請求項13】
サーマルサイクル引張剪断力が、14MPa以上である請求項1〜12のいずれか1項に記載の接着組成物。
【請求項14】
熱によって硬化する未硬化の接着層が剥離性を有するフィルム基材上に形成されてなる熱硬化性接着シートの製造方法であって、前記請求項1〜13のいずれか1項に記載の接着組成物を、剥離性を有するフィルム状基材に塗布し、接着組成物が熱硬化する温度よりも低い温度で乾燥させて未硬化の状態で接着層を形成する工程を少なくとも有することを特徴とする熱硬化性接着シートの製造方法。
【請求項15】
さらに、前記未硬化の状態の接着層が、合成繊維、カーボン繊維、およびガラス繊維の不織布または布の芯材から選ばれる少なくとも1種の芯材を有してなる請求項14に記載の熱硬化性接着シートの製造方法。

【公開番号】特開2012−46738(P2012−46738A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159742(P2011−159742)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】