説明

接着芯地及びその製造方法

【課題】下層樹脂のドットの径を小さくし、表地の風合いの低下を抑制することが可能な接着芯地、及び接着芯地の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である樹脂Aを含有する水系液をノズル6から噴射して、基布3の表面に樹脂Aをドット状に付着させることで、下層樹脂4を形成する。これにより、従前のロータリースクリーン法を用いた方法と比較して、下層樹脂4のドットの径を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用などに用いられる接着芯地に関するものであり、特に薄物の接着芯地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
衣料用資材として使用される接着芯地は、衣服の型崩れ防止のためや、縫製の容易さを向上させるためなどの目的で使用されている。接着芯地は、例えば、基布(布帛)の表面に、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等による下層樹脂がドット状(点状)に固着され、この下層樹脂の表面に、ホットメルトと呼ばれる接着樹脂が固着されている(例えば、特許文献1、2参照)。下層樹脂及び接着樹脂を有する接着芯地は、表地に貼り合わせられて使用される。
【0003】
通常、ドット状の下層樹脂は、回転軸線回りに回転する円筒体(ロータリースクリーン)を用いて、基布の表面に転写される。ロータリースクリーンの周面には、転写される樹脂のドットの径に対応する大きさの穴が形成されていて、下層樹脂は、ロータリースクリーンの穴を通過して、基布の表面に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−273053号公報
【特許文献2】特開2004−300589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、薄物の布地の衣服にも接着芯地が盛んに用いられるようになり、接着芯地を薄くすることが求められている。薄物の接着芯地では、下層樹脂の凹凸形状が表地に反映されやすくなり、表地に鳥肌現象が発生する傾向にある。そのため、鳥肌現象を目立たないようにするために、下層樹脂のドットの径を小さくすることが求められている。
【0006】
しかし、ロータリースクリーンを用いて下層樹脂を基布に転写した場合、下層樹脂のドットを小さくするにはロータリースクリーン周面の穴の径を小さくしなければならないが、樹脂による穴詰りのため穴の径を小さくするには限界があり、下層樹脂のドットの平均粒子径は150μm〜200μm程度が限界である。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、接着芯地と表地の接着力を確保しつつ、下層樹脂のドットの径を小さくし、衣服の風合いの低下を抑制することが可能な接着芯地、及び接着芯地の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による接着芯地の製造方法は、基布と、基布の表面に固着した樹脂Aからなる下層樹脂部と、下層樹脂部の表面に固着した樹脂Bからなる接着樹脂部とを備えた接着芯地の製造方法であって、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である樹脂Aを含有する水系液をノズルから噴射し、基布の表面に樹脂Aをドット状に付着させる第1の付着工程と、樹脂Aが付着した基布の表面に、熱可塑性樹脂である樹脂Bの粉末を散布し、樹脂Aに樹脂Bを付着させる第2の付着工程と、その後加熱処理を行い、樹脂Aを基布の表面に固着させ下層樹脂部を形成すると共に、樹脂Bを樹脂Aに固着させ接着樹脂部を形成する加熱固着工程と、を備え、基布の単位面積当たりの下層樹脂部の面積の割合である占有率を、5%〜20%にすることを特徴としている。
【0009】
このような接着芯地の製造方法によれば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である樹脂Aを含有する水系液をノズルから噴射して、基布の表面に樹脂Aをドット状に付着させる第1の付着工程を備えているため、基布に固着されるドットの径の大きさを、従来と比較して小さくすることができ、しかもドットの径のばらつきを容易に大きくすることができる。これにより、接着力不足を回避することができ、しかも接着芯地が硬くなりすぎて風合いが低下することが防止され、衣服の風合いの低下を抑制することができる。
【0010】
ここで、下層樹脂部は、粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500〜3000個/cmであり、下層樹脂部のドットの個数割合のうち、粒子径ごとの前記ドットの割合は、粒子径が30μm以上100μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が200μm以上のドットは10%以下であることが好ましい。なお、本発明において、「粒子径」とは、ドットの面積と等しい面積を有する円の直径をいう。また、ドットの個数割合とは、基布1cm当たりのドットの個数をいう。
【0011】
粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500〜3000個/cmであると、接着力不足を回避することができ、接着芯地が硬くなりすぎて風合いが低下することを抑制することができる。また、下層樹脂部のドットの個数割合のうち、粒子径ごとのドットの割合は、粒子径が30μm以上100μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であれば、粒子径が適度にばらついているので、接着力を確保しつつ風合いをさらに向上させることができる。また、下層樹脂の凹凸形状が表地に影響することが防止され、風合いのよい薄物の接着芯地を実現することができる。なお、このためには粒子径が200μm以上のドットは、少ない方が好ましく、これにより風合いの低下をより抑制することができる。
【0012】
接着芯地として問題ない接着力を確保するために、水系液は、10重量%〜50重量%の樹脂Aを含有することが好適である。
【0013】
さらに、水系液の粘度は、5mPa・s〜300mPa・sであることが好ましい。
【0014】
ノズルとしては、ノズルから水系液を扇型形状に噴射することが好適で、ノズルは2流体エアーノズルであることが好ましい。
【0015】
このような水系液の粘度、ノズルの種類であれば、下層樹脂部のドットの粒子径を上記のような分布にすることが容易にできる。
【0016】
なお、薄物の衣服用に適した接着芯地を得るためには、基布の単位面積当たりの質量は、5〜30g/mであることが好適である。
【0017】
本発明による接着芯地は、基布と、基布の表面に固着した樹脂Aからなる下層樹脂部と、樹脂Aの表面に固着した樹脂Bからなる接着樹脂部とを備えた接着芯地であって、基布の単位面積当たりの質量は、5〜30g/mであり、樹脂Aは、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であり、樹脂Bは、融点が140℃以下の熱可塑性樹脂であり、下層樹脂部は、粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500〜3000個/cmであり、下層樹脂部のドットの個数割合のうち、粒子径ごとのドットの割合は、粒子径が30μm以上100μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が200μm以上のドットは10%以下であることを特徴としている。
【0018】
このような接着芯地によれば、基布に固着される樹脂Aのドットの径の大きさを、従来と比較して小さくし、且つ適度にばらついているようにすることができる。
【0019】
また、基布の単位面積当たりの下層樹脂部の面積の割合である占有率は、5〜20%であることが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、下層樹脂のドットの粒子径を小さくでき、且つ粒子径が適度にばらついていたものにすることができるので、接着芯地と表地との接着力を確保しつつ、衣服の風合いの低下を抑制することが可能な接着芯地、及び接着芯地の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】表地と本発明の実施形態に係る接着芯地を拡大して示す概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る接着芯地を製造する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の接着芯地の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、同一または相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る接着芯地を拡大して示す概略断面図である。図1では、接着芯地1に、表地2が貼り合わされた状態を示している。接着芯地1は、基布3と、基布3の表面に固着した樹脂Aからなる下層樹脂部4と、この下層樹脂部4の表面に固着した樹脂Bからなる接着樹脂部5とを備えている。
【0024】
基布3は、芯地に必要な強度を備えたものであれば、どのような素材、布組織でも良く、例えば、素材としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、キュプラ等の再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルなどの合成繊維を挙げることができ、好ましくは、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維が用いられる。布組織として上記素材から作られた織物、編物、不職布などを挙げることができる。
【0025】
基布3の単位面積当たりの質量は、5g/m〜30g/mであることが好ましい。基布3の単位面積当たりの質量が5g/m未満である場合には、基布の隙間が大きすぎ、基布表面に樹脂Aを付着させることが困難になることがある。基布3の単位面積当たりの質量が30g/mを超える場合には、本実施形態に係る製造方法を適用してもよいが、接着芯地が厚くなってしまう。
【0026】
基布3表面に固着している樹脂Aからなる下層樹脂部4は、基布3に対して樹脂Bを良好に固着させ接着樹脂部5を形成するためのものである。樹脂Aは熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であり、樹脂Aの材料としては、例えば、アクリル系、ウレタン系などの熱可塑性樹脂が好適に用いることができる。
【0027】
下層樹脂部4の表面に固着した接着樹脂部5を形成している樹脂Bには、通常ホットメルトと呼ばれる熱により可塑化されて冷却後に接着能力を発揮する熱可塑性樹脂が用いられている。樹脂Bとしては、融点が140℃以下の熱可塑性樹脂が好ましく、樹脂Bの融点は加熱前の樹脂Aの融点より10〜30℃低いことが好ましい。樹脂Bとしては、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、変性エチレン酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0028】
接着樹脂層5を形成している樹脂Bは2g/m〜20g/m、下層樹脂部4に固着することが好ましい。
【0029】
なお、樹脂A及び樹脂Bには、必要に応じて、重合開始剤、架橋剤、顔料、染料、乾燥抑制剤、その他改質剤が含まれていてもよい。
【0030】
ここで、下層樹脂部4は樹脂Aを含有する水系液をノズルから噴射する方法により散布し、基布3の表面に樹脂Aを含有する水系液を微細粒子状に付着させ、その後加熱することで、樹脂Aが基布3の表面に微細粒子状(ドット状)に固着することにより形成させている。(このことについては後述する。)
【0031】
なお、本発明においては、樹脂Aが基布3の表面に微細粒子状(ドット状)に固着している下層樹脂部4をドットと記す。また、ドットの面積に相当する面積を有する円の直径である粒子径は、マイクロスコープで撮影したドッドの画像から計測した面積から求めることができる。
【0032】
本発明に係る接着芯地は、粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500個/cm以上、3000個/cm以下である。なお、平均粒子径は70μm〜200μmであることあることが好ましい。
【0033】
下層樹脂4のドットの個数が500個/cmより少ない場合には、接着芯地1の接着力が不足する。下層樹脂4のドットの個数が3000個/cmより多い場合には、接着芯地1が硬くなり、接着芯地1を表地2と貼り合わせて衣服にした場合、衣服の風合いを損ねることになる。
【0034】
そして、上記の個数割合のうち、粒子径が30μm以上100μm未満のドットは、30%〜70%であり、粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が200μm以上のドットは10%以下であることが好適である。
【0035】
粒子径が比較的大きいドットの下層樹脂部4は、主に表地と基布3の接着に寄与する。また粒子径が比較的小さいドットの下層樹脂部4は、表地2の鳥肌現象の発生の抑制に寄与する。
【0036】
したがって、ドットの粒子径の分布が、上記の範囲であれば、粒子径が適度にばらついていて、接着芯地1と表地2との接着力と表地2の鳥肌現象の抑制を両立することができる。
【0037】
そのためには、粒子径が30μm以上80μm未満のドットは、10%〜60%であり、粒子径が80μm以上130μm未満のドットは、10%〜60%であり、粒子径が130μm以上200μm未満のドットは、10%〜60%であり、粒子径が200μm以上のドットは5%以下であることがより好ましい。
【0038】
なお、粒子径が30μm未満のドットは、表地との接着性、及び衣服の風合いにほとんど影響することがなく、下層樹脂部としての機能をほとんど有していない。
【0039】
さらに、ドットの個数割合、粒子径の分布が上記の範囲であれば、下層樹脂部4の占有率を5%〜20%にすることができる。下層樹脂部の占有率がこの範囲であれば、適度の柔軟性と接着力を備えた接着芯地を得ることができる。なお、下層樹脂部の占有率とは、基布3の単位面積当たりの下層樹脂部4の面積割合である(占有率=下層樹脂部4が占める面積/基布3の面積)。
【0040】
次に本発明の実施形態に係る接着芯地の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る接着芯地を製造する方法を示す概略図である。本実施形態に係る接着芯地1を製造する方法は、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である樹脂Aを含有する水系液をノズル6から噴射し、基布3の表面に樹脂Aをドット状に付着させる第1の付着工程と、樹脂Aが付着した基布3の表面に、熱可塑性樹脂である樹脂Bの粉末を散布し、樹脂Aに前記樹脂Bを付着させる第2の付着工程と、その後オーブン9により加熱処理を行い、樹脂Aを基布3の表面に固着させると共に、樹脂Bを樹脂Aに固着させる加熱固着工程と、を有する。
【0041】
第1の付着工程では、ノズル6を用いて樹脂Aを含有する水系液を噴射する。第1の付着工程で散布される水系液としては、10wt%〜50wt%の樹脂Aを含有することが好ましい。水系液の粘度は、5mPa・s〜300mPa・sであることが好適である。樹脂Aの含有量が10wt%より低い場合には、接着力不足となるおそれがある。樹脂Aの含有量が50wt%を超える場合には、ノズル詰りが発生しやすい傾向にある。なお、水系液は樹脂Aの分散液でもよく、樹脂Aの水溶液でもよい。樹脂Aの水系液には、乾燥抑制剤としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、N−メチルピロリドンなどを10wt%〜40wt%含有していることが好ましい。これによりノズル6の穴詰まりを抑制し、効率よく連続生産することができる。また、水系液は有機溶剤を含んでいてもよい。
【0042】
また、水系液の粘度が、5mPa・s未満の場合は、基布3の表面に樹脂Aが付着しにくく接着力不足になることがある。水系液の粘度が300mPa・sを超える場合には、微細粒子状に散布することが困難になり、基布3に付着する樹脂Aの粒子が大きくなり、それに伴いドットが大きくなってしまうことがある。
【0043】
なお、従来のように、基布3にロータリースクリーンを用いて樹脂Aを転写すると、樹脂Aを基布3に転写する際に樹脂Aが加圧されて、基布3の裏側へ浸透してしまい、基布3表面の樹脂分が少なくなり、十分な接着力を得られなくなることがある。また、ドットの粒子径を小さくするためロータリースクリーン周面の穴を小さくした場合、穴つまりが発生しやすくなり、生産性が低下してしまうことがある。
【0044】
ノズル6は、水系液を噴射するものである。水系液を微細粒子化するためには、ノズル6は、円錐型または扇型に水系液を噴射するノズルであることが好ましいが、扇型に水系液を噴射するノズルであることがより好ましい。さらに、ノズル6として、2流体エアーノズルを用いることが好ましい。2流体エアーノズルは、内部混合型、外部混合型の何れでもよいが、外部混合型がより好ましい。
【0045】
ノズル6からの水系液の噴射角度は、30°〜90°であることが好ましい。
【0046】
また、一つのノズル6による水系液の噴出流量は、10ml/分〜300ml/分であることが好ましい。ノズル6が2流体エアーノズルの場合、ノズル6のエアー圧及び水系液の液圧は、0.05MPa〜0.2MPaであることが好適である。液圧/エアー圧は、0.5〜1.5であることが好ましい。
【0047】
さらに、樹脂Aを含有する水系液を基布3に微細粒状に付着させるために、ノズル6の噴出口と基布3との距離は、ノズルの種類、噴射条件、水系液の粘度などに応じて選定すればよいが、30cm〜150cmであることが好ましく、50cm〜120cmであることがより好ましい。この距離は通常のスプレー作業における距離よりはるかに大きい。
【0048】
第2の付着工程では、樹脂Bの粉末(粉砕物)を散布するためのホッパー7を用いて、樹脂Bを樹脂Aが付着している基布3の表面に散布し、樹脂Bを樹脂Aに付着させる。
本実施形態の樹脂Bの粉末は、粒子径の平均値は、50μm〜100μmであり、粒子径が30μm〜150μmの粉末が90wt%以上である。
【0049】
その後、第2の付着工程後で、加熱処理する前に、基布3の表面上に散布された余分な樹脂Bの粉末を振い落としたり、吹き飛ばすことが好ましい。
【0050】
加熱固着工程では、オーブン9により加熱処理を行い、樹脂Aを基布3の表面に固着させ下層樹脂部4を形成すると共に、樹脂Bを樹脂Aに固着させ接着樹脂部5を形成する。加熱固着工程では、温度が100℃〜200℃、の環境の中に、樹脂A及び樹脂Bが付着した基布3を20秒〜3分程度入れることが好ましい。加熱固着工程における加熱温度は、樹脂Bの融点超過の温度で加熱することが好ましい。
【0051】
加熱固着工程では、樹脂Aが熱硬化性樹脂であれば熱硬化し、樹脂Aが熱可塑性樹脂であれば、溶融し、場合によっては一部架橋して、下層樹脂部4を形成し基布3に固着する。なお、加熱固着工程前の基布3に付着した樹脂Aを含有する水系液のそれぞれの微細粒と、加熱固着工程後の下層樹脂部6のドットとでは、形状は若干変化するものの、面積はほぼ等しい。
【0052】
また、加熱固着工程前の樹脂Aに付着した樹脂Bの粉末は、一部または全部が複粒化して樹脂Aからなる下層樹脂部4に固着し、接着樹脂部5を形成する。
【0053】
第1の付着工程、第2の付着工程及び加熱固着工程では、例えば、基布3を、回転ローラー8を有する搬送装置を用いて、基布3を搬送しながら連続して、樹脂A含有水系液の噴射、樹脂B粉末の散布、及び加熱処理を行うことが好ましい。基布3の搬送速度は、下層樹脂部の占有率や加熱による樹脂Aと樹脂Bの溶融状態などを考慮して選定すればよく、10〜50m/分程度が好ましい。
【0054】
このような本実施形態に係る接着芯地1の製造方法によれば、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である樹脂Aを含有する水系液をノズル6から噴射して、基布3の表面に樹脂Aをドット状に付着させる第1の付着工程を備えているため、基布3に固着される樹脂Aのドットの径の大きさを、従来と比較して小さくすることができ、しかも粒子径の分布がばらついたものにすることができる。これにより、下層樹脂4の樹脂Aのドットの径を小さく、しかも、粒子径のばらつきを大きくすることで、表地2との接着力を確保しつつ、柔軟な接着芯地1を得ることができ、衣服の風合いを損ねることを防止することができる。
【0055】
また、接着芯地1において、下層樹脂部4のドットは、粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500〜3000個/cmであり、下層樹脂部4のドットの個数割合のうち、粒子径ごとの前記ドットの割合は、粒子径が30μm以上100μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であり、粒子径が200μm以上のドットは10%以下であると、適度にばらついた粒子径であるため、接着力不足を回避することができ、接着芯地1が硬くなりすぎて風合いが低下することをより抑制することができる。さらに、下層樹脂部4の微細な凹凸形状が表地2に影響すること(鳥肌の発生)を抑制した接着芯地1を実現することができる。そのためには粒子径が200μm以上のドットは、実質的にないことが好ましい。樹脂Aのドットの大きさのばらつきが大きすぎると、接着力、風合いともに低下する。また、樹脂Aのドットの大きさのばらつきが小さすぎると、接着力が低下し、鳥肌が発生する。
【0056】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態では、ノズル6として、2流体エアーノズルを例示しているが、その他のノズルでもよい。
【0057】
[実施例1]
(基布)
質量20g/mの平織りポリエステル製織物を基布とした。
(樹脂A水系液(1))
融点150℃のアクリル樹脂30wt%、エチレングリコール30wt%を含有する樹脂A水系液(1)を得た。得られた樹脂A水系液の粘度は、20mPa・sであった。
(樹脂Bの粉末)
平均粒子径50μm、粒子径30μm〜150μm100%の融点130℃のポリアミド樹脂の粉末を樹脂Bの粉末とした。
【0058】
(接着芯地の作製)
基布を30m/分で搬送しながら、ノズルから樹脂A水系液(1)を下記条件で噴射し、樹脂A水系液(1)を基布に付着させた。次いで樹脂Bの粉末を散布し、その後不用な樹脂B粉末を吹き飛ばして除去し、加熱処理(140℃で30秒)し、接着芯地を得た。
ノズルタイプ:2流体エアーノズル
噴射状態:扇型噴射、噴射角度60°
液圧 0.1MPa
エアー圧 0.1MPa
流量 200ml/分
ノズル高さ 80cm (ノズルの噴射口から基布までの距離)
【0059】
(接着芯地の評価)
得られた接着芯地1cmの布地片5枚について平均値を評価した。
下層樹脂部について
下層樹脂部の占有率:12%
粒子径30μm以上の下層樹脂部のドットの個数割合:1470個/cm
個数割合のうちの粒子径30μm以上100μm未満のドットの割合:47%(690個)
個数割合のうちの粒子径100μm以上200μm未満のドットの割合:53%(780個)
個数割合のうちの粒子径200μm以上ドットの割合:0%(0個)
個数割合のうちの平均粒子径:100μm
下層樹脂部の占有率:12%
なお、粒子径の分布をさらに詳しく調べると、
個数割合のうちの粒子径30μm以上80μm未満のドットの割合:20%(294個)
個数割合のうちの粒子径80μm以上130μm未満のドットの割合:57%(840個)
個数割合のうちの粒子径130μm以上200μm未満のドットの割合:23%(336個)であった。
接着樹脂部について
樹脂Bの質量(基布の単位面積当たりの質量):7.5g/m
【0060】
接着芯地について
さらに、この接着芯地を布地(質量40g/mポリエステル製平織り)に温度135℃、圧力3kgf/cm、10秒貼り合わせた。布地表面からは凸凹が視認できず、目視では布地表面の鳥肌現象は確認できなかった。さらに、JIS L1086 7.19.1「はく離強さ」に準じて剥離強度を測定した。剥離強度は、160gf/cmであり、接着芯地として問題ない接着力を有していた。
【0061】
[比較例1]
(樹脂A水系液(2))
実施例1と同じ融点150℃のアクリル樹脂の水系液にアクリル系増粘剤を加え、アクリル樹脂30wt%を含有する粘度10000mPa・sの樹脂A水系液(2)を得た。
【0062】
(接着芯地の作製)
周面に直径150μmの穴を234個/cm2有するロータリースクリーンを用いて、樹脂A水系液(2)を実施例1と同じ基布に転写し、樹脂A水系液(2)を付着させた。次いで実施例と同様に樹脂Bの粉末の付着、加熱処理、布地の接着、剥離強度の評価を行なった。下層樹脂部の平均粒子径は270μmで、ほぼ全数同じ粒子径であった。なお、下層樹脂部の占有率は13%であり、樹脂Bに質量は6.4g/mであった。また、剥離強度は170gf/cmであり、問題がない接着力を有していた。しかし、布地表面に鳥肌現象が発生していることを目視で確認できた。
【0063】
なお、実施例1、比較例1とも加熱処理後、水系液中のアクリル樹脂は架橋反応して基布に固着していたことを確認できた。
【符号の説明】
【0064】
1…接着芯地、2…表地、3…基布、4…下層樹脂部(樹脂A)、5…接着樹脂部(樹脂B)、6…ノズル、7…ホッパー、8…回転ローラー、9…オ−ブン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、前記基布の表面に固着した樹脂Aからなる下層樹脂部と、前記下層樹脂部の表面に固着した樹脂Bからなる接着樹脂部とを備えた接着芯地の製造方法であって、
熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である前記樹脂Aを含有する水系液をノズルから噴射し、前記基布の表面に前記樹脂Aをドット状に付着させる第1の付着工程と、
前記樹脂Aが付着した前記基布の表面に、熱可塑性樹脂である前記樹脂Bの粉末を散布し、前記樹脂Aに前記樹脂Bを付着させる第2の付着工程と、
次いで、加熱処理を行い、前記樹脂Aを前記基布の表面に固着させ下層樹脂部を形成すると共に、前記樹脂Bを前記樹脂Aに固着させ接着樹脂部を形成する加熱固着工程と、を備え、
前記基布の単位面積当たりの下層樹脂部の面積の割合である占有率を、5%〜20%にすることを特徴とする接着芯地の製造方法。
【請求項2】
前記下層樹脂部は、粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500〜3000個/cmであり、
前記下層樹脂部のドットの前記個数割合のうち、粒子径ごとの前記ドットの割合は、
粒子径が30μm以上100μm未満のドットは30%〜70%であり、
粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であり、
粒子径が200μm以上のドットは10%以下である請求項1に記載の接着芯地の製造方法。
【請求項3】
前記水系液は、10重量%〜50重量%の前記樹脂Aを含有する請求項1または2に記載の接着芯地の製造方法。
【請求項4】
前記水系液の粘度は、5mPa・s〜300mPa・sである請求項1〜3の何れか一項に記載の接着芯地の製造方法。
【請求項5】
前記ノズルから前記水系液を扇型に噴射する請求項1〜4の何れか一項に記載の接着芯地の製造方法。
【請求項6】
前記ノズルが2流体エアーノズルである請求項1〜5の何れか一項に記載の接着芯地の製造方法。
【請求項7】
前記基布の単位面積当たりの質量は、5〜30g/mである請求項1〜6の何れか一項に記載の接着芯地の製造方法。
【請求項8】
基布と、前記基布の表面に固着した樹脂Aからなる下層樹脂部と、前記樹脂Aの表面に固着した樹脂Bからなる接着樹脂部とを備えた接着芯地であって、
前記基布の単位面積当たりの質量は、5〜30g/mであり、
前記樹脂Aは、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂であり、
前記樹脂Bは、融点が140℃以下の熱可塑性樹脂であり、
前記下層樹脂部は、粒子径が30μm以上のドットの個数割合が500〜3000個/cmであり、
前記下層樹脂部のドットの前記個数割合のうち、粒子径ごとの前記ドットの割合は、
粒子径が30μm以上100μm未満のドットは30%〜70%であり、
粒子径が100μm以上200μm未満のドットは30%〜70%であり、
粒子径が200μm以上のドットは10%以下であること、
を特徴とする接着芯地。
【請求項9】
前記基布の単位面積当たりの下層樹脂部の面積の割合である占有率は、5〜20%である請求項8に記載の接着芯地。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−14852(P2013−14852A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147212(P2011−147212)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【Fターム(参考)】